●リプレイ本文
「いい天気ですね。それに雪は故郷を思い出させます」
雪山を登りながら、オリガ(
ga4562)が呟いた。その日の天気は良好、少しだけ春の陽気が感じられる気がする。暖かな日は雪を溶かす、だがそれは雪が崩れやすくなるということでもあった。
「本当に崩れないか心配ですよ」
遭難しないようにオリガと縄を結んだ不知火真琴(
ga7201)が、周囲を警戒しながら付いてくる。全体的に白い真琴は、遭難すると見つけづらいのではないかと思ってしまう。
「今日は日中はずっといい天気だってさ。でも夕方から崩れそうだから、さっさと済ませたいところだね、急ごうか。イエティは倒すことが出来るけど、一度起きた雪崩を止める事は誰にも出来ないからね」
マートル・ヴァンテージ(
ga3812)が、街で聞いた山の天気を口にする。そして、彼女は自然の脅威の恐ろしさに気を引き締める。
「大物ですわね‥‥力を尽くしますわ」
「さて、イエティとの再戦といきますか‥‥」
マートルとバディを組んだロジー・ビィ(
ga1031)、以前にもイエティの調査に訪れた緋室 神音(
ga3576)が、イエティへの意気込みを口にする。
「また猿か‥‥どうも猿には因縁があってね」
「まぁ、猿というか、猿人みたいな感じなんですけどね」
ユーニー・カニンガム(
ga6243)の呟きには、叢雲(
ga2494)が以前に見たイエティの姿を思い出して答えた。
「ともかく、お前らの背中は俺が守ってやるぜ。それに、お前には期待してるぜ」
「ありがとうございます。ご期待に沿えるようがんばりますよ」
アンドレアス・ラーセン(
ga6523)がイェイと自信満々に言い放ち。バディである叢雲の肩を叩く。それに叢雲は穏やかな笑みで頷いた。
「だいたいこの辺りね」
神音達は山の中腹辺りで足を止めた。そこは、以前にもイエティと遭遇した場所の近くだった。いまは、イエティの姿もなく、雪原が広がっており、起伏も少ないため比較的戦い易そうだ。
「では、準備を始めますわね」
「あいよ、ここを踏み固めればいいんだろ? 力仕事なら任せときな」
「慎重に頼むぜぇ、踏み固める振動で雪崩が起きたら元も子もないからよ」
「あんた、あたしを象かなんかと勘違いしてるのかい?」
ロジーの言葉にマートルが頷き、一行は周囲の雪を踏み固めて足を取られないように準備をしておく。アンドレアスの忠告に、軽く睨みつけて肩を竦めるマートル。
「ん、これは‥‥」
ふと、足元にみょうなくぼみを見つけたオリガ。全長数メートルもあるくぼみ、よく見ればそれは足の形をしていた。どうやら、これが話に聞くイエティの足跡のようである。
「ねぇ、叢雲。これがそうなの?」
「はい、イエティの足跡ですね。足跡の向きからすると、あちらの方角にいるということでしょうか」
真琴が確認のために叢雲に問うと、彼は頷きイエティがいるであろう方角を指差す。付近にその姿は見えないが、足跡がずっと続いていた。
「わかりました、では行きましょう」
「ええ、行きましょうオリガさん。それじゃ行ってくるね叢雲」
「気をつけてください。見た目よりも動きは速いですから」
ほとんど足場は踏み固められて準備が終わると、オリガと真琴はイエティをこの場所へと誘導するために、足跡を追いかけることになった。残った叢雲達は、森に隠れて待ち伏せる。
しばらくして、オリガは視線の先に、白い体毛に覆われた巨人イエティを発見した。腕も胴体も筋肉質で太いが、特に足の大きさが目立っている。オリガは慎重に身を隠しながら、真琴と連絡を取った。
「いました‥‥誘導を開始してください」
「了解しました」
オリガから連絡を受けた真琴は、自分もイエティへと近づくと、兵士から預かっていたカラーボールを取り出した。そして、それを力いっぱいイエティへと投げつける。
「?」
カラーボールは見事命中、イエティの背中の白い体毛に、蛍光オレンジ色がくっきりと残る。しかし、イエティは鈍いのか、ボールに当たったことも気づかない様子だった。
「お〜い! こっちよこっち! 鬼さんこちら、手のなるほうへ!」
真琴はワザと声を出して、イエティの注意を惹く。その声に、さすがにイエティも気づいたのか、真琴の方を向くと追いかけ始めた。真琴とオリガはすぐに逃げ始めると、森の木々の間を抜けていく。イエティは、うっとうしそうに木々をなぎ倒しながら、二人を追いかけてきた。
「ハッ」
オリガが持っていた弓で牽制射撃を行なう。白銀の弓身が、太陽の光を反射させて輝く。
「ガァ!」
素早い二人の動きに、イエティは苛立った声をあげると、ズシンズシンと音を立てながら、全力で追いかける。その動きは、思ったよりも速く、真琴達も逃げる速度を上げた。
「きたぞ!」
やがて、二人は目標地点へと、イエティを誘き寄せることに成功する。待ち構えていたマートル達が、武器を持つ手に力を込めた。
「いまです、攻撃を開始します」
「こんなこともあろうかと、ってな! 援護する、一気に畳んじまえ!」
まず遠距離から叢雲が弓で攻撃を開始する。それと同時に、アンドレアスが仲間の武器に練成強化を行なった。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥――剣技・桜花幻影――穿て、追附・螺子り錐」
続けて、神音達近接組が一気に接近し、攻撃を繰り出す。覚醒した神音の背中から翼のような光が現れ、構えた刀から雷がほとばしる。それを、先の叢雲の攻撃によって出来た脚部への隙に斬り付ける。
「グガァ!」
イエティの悲鳴、雷により身体がしびれたように痙攣し、一瞬動きが止まる。だが‥‥。
「再生した!!」
叢雲の矢の傷、神音の刀の傷が、見る見る間に治っていく。血が止まり、肉が盛り上がって傷を塞いでいった。
「波状攻撃をかけます‥‥」
そこへ蒼いオーラに包まれたロジーが、雷のバスタードソードで脚部へと攻撃を繰り出す。そこは、神音が斬り付けまだ治りかけの場所、再び肉が断たれ血が噴出す。しかし、イエティはそれでもまだ倒れない。そして、反撃をしようと腕を振りかぶった。
「タフな野郎だな! だが、再生が追いつかないほど切り刻んだらどうなる?」
だが、続けてユーニーも脚部へと剣を叩き付けた。傷が治りきるまえに、何度も攻撃をうけて、さすがのイエティも体勢を崩す。
「ハ、逃げ場があると思いなさんな!」
そこへ止めとばかりにマートルが槍の一撃を加える。限界を超えたイエティの足が、ついに崩れ膝をつく。
「まだまだこれからだ! 撃ち貫くぜっ!!」
「気をつけて! 何かやってきます!」
「なっ!?」
追撃とばかりに剣を振り上げるユーニー。しかし、直感的に気づいたオリガの忠告と同時に、イエティの口から強力な吹雪のブレスが吐き出された。慌てて剣を盾にして受けるユーニー。ブレスは広い範囲を包み、数人が被害を受ける。
「止まりなさい!」
「おい、デカいの! ヘッドバンギングのお時間だぜ‥‥痺れたろ?」
「これ以上させませんよ」
オリガ、アンドレアス、叢雲が射撃でイエティの頭部を狙う。オリガの矢がイエティの喉に突き刺さり、ブレスを止め。アンドレアス、叢雲の攻撃もしっかりと命中する。ただ、アンドレアスの超機械の攻撃は火だったため、効果は薄かったようだ。ともかく、畳み掛けられる攻撃に、イエティもグロッキー状態。一気に押し切って勝てる勢いであった。しかし‥‥。
「叢雲! 危ない!」
「っ!!」
突然、瞬天速で飛んだ真琴が、叢雲を押し倒した。そこへ、ブォンと音を立てて、何かが通りすぎていく。
「もう一匹いた!?」
それは、イエティの腕による攻撃だった。いつのまにか、後衛の後ろに来ていたもう一匹のイエティが、叢雲達に襲いかかったのだ。真琴と叢雲は抱き合ったまま横に転がり、イエティから距離を取ろうとする。
「シッ!」
神音が新しく現れたイエティに牽制でアーミーナイフを投げつける。ほとんどダメージにはならなかったが、一瞬だけ気を散らさせ、叢雲が立ち上がるチャンスを与えた。
「まずい、こっちも立ち上がったぞ」
もう一匹に気を取られているうちに、回復したイエティが立ち上がり始めた。
「こっちは任せる。私はあっちを」
「わかったよ、まかせときな!」
神音が、新しく現れたイエティへと疾走する。そしてマートルは了解すると、渾身を込めてイエティの喉笛を切り裂く。ヒューという風が吹き抜けるような音を立てながらも、イエティはまだ攻撃を繰り出してくる。
「ハッ」
再びロジーが、雷の剣でイエティの足を叩き切る。さすがにダメージは蓄積しているのか、それでまた足を止めるイエティ。
「本気で止めだ! 撃ち貫くぜっ!!」
そこへ、ユーニーが身体を引き絞って繰り出す一撃。喉に突き刺さった剣が、そのまま突き抜けていき、捻りを加えて引き抜けばついにイエティが絶命する。
「やらせないわよ!」
一方、もう片方のイエティは、真琴が素早い動きで注意を引きつけていた。風を切る豪腕をすれすれで避けながら、反撃のチャンスを待つ。
「アイテール、出力を上げなさい」
駆けつけた神音が、自らが名付けたAIに命令し、刀のSESを活性化させる。豪破斬撃の乗った雷の刀の一撃が、イエティの動きを止める。そこへ、幾本の矢が突き刺さり、真琴の黒い爪が喉を切り裂く。イエティは苦痛の悲鳴と共に、豪腕を地面に叩きつけた。
「っ! 視界が!」
その衝撃で雪が舞い上がり、一瞬視界が奪われる。そこへ、吹雪のブレス。真琴の腕が凍りつく。動きが止まった真琴へとイエティの豪腕が振るわれる、だが神音がそれを刀で受け止めた。
「待たせたね」
そして、イエティの反撃もそこまでだった。先に一匹倒したマートル達が、駆けつけてきたのだ。そして、一気に攻撃を畳み掛ける一行。二匹目のイエティも、ほどなくして退治されるのだった。
「結局雪崩は起きなかったようですわね」
激しい戦いが終わり、一息ついた一行。ロジーが山の様子を見ても、雪崩は起きない様子であった。怪我を負った者は、アドレアスの治療を受け、大事にはいたらず、依頼は無事に成功したと言える。
「いやー、声挙げずに戦うっての意外に疲れるね」
「おっと、降りるまでは大声は勘弁してくれよ。ここまできて雪崩が起きても困るしな」
「わかってるよ、無粋な子だねぇ」
「いてて、子って‥‥」
マートルが戦いが終わった開放感から笑みを浮かべると、ユーニーが一応釘を刺しておく。その言葉に、マートルはバンバンとユーニーの背中を叩き、ユーニーは顔を顰めた。
「街に帰ったら、温かい紅茶をご馳走しますよ」
「はー、疲れたぜ。俺は酒を一杯やりたいね」
「あら、いいですね。一緒にウォッカでもいかがです?」
「そいつは効きそうだ! 早く街に戻るとしようぜ!」
叢雲が微笑みを浮かべ、アドレアスはため息をつきながらニヤリと笑った。アドレアスの言葉に、オリガが持参しているウォッカを取り出して誘い、アドレアスは手放しで喜ぶ。
危険なキメラもいなくなり、街は雪崩の対策をとることができるだろう。雪が解け、春が芽吹くのはもう少しである。