タイトル:アンナ中尉の受難1マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/30 00:10

●オープニング本文


「アンナ・ディアキン、ご命令により出頭いたしました!」
 ラスト・ホープ内にあるUPC本部の一室。UPCの士官でありエミタ能力者でもあるアンナ・ディアキンは、上官に呼ばれ部屋に訪れる。アンナは、ショートボブに切り揃えられたシルバーの髪、気の強そうな吊り目がちの瞳、均整の取れた体躯をしており。一見して、真面目で強気な軍人といった感じの女性だ。
「やぁいらっしゃい、よく来たね、楽にしてくれたまえ。そうそう、良い紅茶の葉を手に入れたんだが、一緒にどうだね?」
 部屋で待っていたのは、アンナの上官。長く伸ばした金の髪を後ろで一纏めにした容姿端麗の男で、階級は少佐。正確な歳は分からないが、見た目はかなり若く、20代前半、アンナとそう変わらないだろう。丸眼鏡を掛け、温和そうな笑みを浮かべながら、アンナを迎える。
「いえ、結構です! それで、ご用件はいったいなんでしょう?」
 少佐の誘いをあっさり断ったアンナ。正直言うと、アンナはこの少佐が苦手であった。一見、その温和な笑みで人畜無害風な男に見えるのだが、実際はかなり腹黒く意地悪な性格だとアンナは見ている。事実、アンナにとって嫌がらせとしか思えない任務を何度も受けているのだ。
「君は相変わらずつれないねぇ。まぁいいさ、実は君にやってもらいたい任務があってね。現地の軍から要請があったんだが、あるキメラを退治してもらいたいんだ」
 アンナの返事に、大げさに肩を竦めて見せると、少佐は任務の書類をアンナに手渡した。
「キメラ退治ですか‥‥?」
「うん、優秀な君なら難なくこなせる任務だと思うけれどね」
「お褒めいただきありがとうございます! ですが、それでしたらULTからの依頼として、傭兵に任せればよいのではないでしょうか?」
「まぁ、そうなんだけれどね。やっぱり軍にも面子っていうものがあるしねぇ」
「了解いたしました。では、兵を率いてキメラ討伐の任務に就きます」
 少佐の言い様が癇に障りつつも、表情には出さずにアンナは命令を受ける。できれば、さっさと退室したいようだ。アンナが所属している部隊は、エミタ能力者で構成されており、一般兵士達ももちろんエミタ能力者だ。キメラの討伐などさほど難しいことではないはずだ。
「ああ、でもうちも忙しいからねぇ。この間の大規模作戦の後処理とかもあるし。この件に回せる兵はほとんどいないんだよね」
「はぁ!? それでは、私一人で行ってこいと?」
「いやいや、そんなことは言わないよ」
「‥‥ではどうしろと」
 少佐の回りくどい言い方に、イライラが募っていくアンナは、ついつい口調が厳しくなってしまう。その様子を、少佐は何食わぬ顔で見つめながら答える。
「ちゃんとULTに依頼を出して、傭兵に協力してもらうよ」
「ですが、さっき軍の面子がと‥‥」
「ああ、それは建前に決まってるじゃないか」
「!!」
「とりあえず、傭兵に軍服を着てもらって、UPCの兵士ということにして働いてもらうことにする。せっかく、上の方で許可が出たんだからね」
「‥‥了解いたしました。では、そのようにして、傭兵を指揮してキメラを退治すればよろしいのですね」
「うん、お願い」
 いい加減疲れた様子のアンナ。逆に少佐は楽しそうにニコニコしている。本当に性格が悪そうだ。
「それと、その書類、何を退治するかちゃんと確認してね」
「は? は、はい‥‥、っ!!」
 少佐が気楽に指差す書類に、アンナは改めて目を通す。そこで、キメラの写真を一瞥すると、アンナは一瞬固まって、ギギギと顔を上げた。
「あ、あの、これは‥‥」
「どうかしたのかい?」
 そこにあった少佐の顔は、いつのまにかニコニコからニヤニヤといった笑いに変わっていた。
「い、いえ‥‥。では、私はこれで‥‥。準備がありますので‥‥」
「ああ、ごくろうさま。期待しているよ」
 そんな少佐の顔を横目に、アンナはなんとか冷静を装い部屋を退室する。
「あ、あの、性悪少佐めぇぇ!」
 その後、部屋を出て、廊下をしばらく歩いたあと、アンナは我慢していた怒りを思いっきり壁にぶつけるのであった。

「というわけで、今回の依頼で、諸君を指揮することになったアンナ・ディアキン中尉である」
 ULTの依頼を受け集まった傭兵達に、アンナが依頼内容を説明する。内容は、軍の部隊として、あるキメラを退治することである。
「今回の依頼は、軍の任務であり。諸君らには、我が部隊として一時的に軍属扱いとして行動してもらう。もちろん、軍服の着用も許可されている」
 いままで、一般の傭兵達はあくまで軍の協力者であり、軍の依頼であっても軍属としての軍服の着用は認められていなかった。だが、先日のシカゴの大規模作戦での傭兵達の功績により、一時的とはいえ軍服の着用が認められることとなった。今回はそれを利用して、軍の面子を保つために、傭兵に軍の兵士として行動してもらうことになったようだ。
「そ、それでだな‥‥。今回、退治しなければならないキメラなのだが‥‥」
 キメラについての説明に入るところで、いままでキビキビとした態度を取っていたアンナが、言葉を濁すように声のトーンを下げた。
「こ、これだ‥‥」
 アンナが嫌そうに言って、部屋のモニターに映し出されたそれは、キメラの写真。長い胴体には目も無く手足も無く紐のような形で、その肌は薄い桃色でたくさんの節が並んでいる。なんとなく、見る物に生理的嫌悪感を与える姿である。
「全長3メートルを超える長虫型キメラ‥‥いわゆる巨大ミミズだ。諸君らにはこれを退治してもらう‥‥」
 アンナは写真を見ないようにしながら、引き攣った表情を浮かべている。その様子を見ただけで、このキメラを嫌悪していることがよくわかった。
「正直に言おう‥‥。私は‥‥こういった、長くて手足が無くてぬるっとしたような感じの生き物が苦手だ‥‥。いや、嫌悪している! 気持ちが悪くて見るのさえ嫌だ! 考えただけで鳥肌が立ってくる! できることなら相手をしたくない‥‥」
 アンナはすっかり気落ちしている様子で肩を落とす。真面目な性格のため、任務への使命感と、ミミズへの嫌悪感に板ばさみ状態のようだ。
「このままでは、こいつを目の前にして、私はまともな指揮ができないだろう。軍人として情け無いのだが、諸君らに全てを任せようと思う。頼む! 私を助けてくれ!」
 アンナはそう言って頭を下げる。本気で嫌なのだろう。まさに、彼女にとって受難であった。

・依頼内容
 巨大ミミズキメラを退治
・概要
 北米競合地域に生息するミミズ型キメラの退治。5匹ほどの群れになっているので、これの全滅。
 依頼中はUPCに所属している兵士として活動し、軍服の着用が義務付けられている。ただし、一時的に貸与であり、支給されるわけではない。
 キメラ退治に必要な、最低限の支援はUPCから行なわれる。ただし、高価な物品、兵器の貸与などは認められていない。

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
木嗚塚 果守(ga6017
17歳・♂・EL

●リプレイ本文

「一度着てみたかったんだよなー」
「そうかね、俺はあんまり着たいもんじゃないな」
 軍服に着替えた蓮沼千影(ga4090)とザン・エフティング(ga5141)が、自分の服装を見下ろしながら感慨深そうに呟く。今回、彼らはUPCの軍服の着用を義務付けられ、それぞれに貸し出されていた。普段着る機会の無い制服姿に、各々が感想を漏らす。
「俺もこういった窮屈なのはどうにも慣れないな。まぁ、まだ見栄えがいいのがマシだが」
 木嗚塚 果守(ga6017)も、自分の軍服姿に少し居心地の悪そうな表情を浮かべる。まだ幼さを残す果守には、どうにも軍服を着ているというよりは、軍服に着られているといった様子である。スーツを着慣れていない新卒のサラリーマンといった感じだろうか。
「まぁ、いいじゃないですか。兵士に扮するのも私達のお仕事ですよ。それより‥‥」
 鈴葉・シロウ(ga4772)は、特に気にした様子もなく、普通に軍服を着こなす。ただし、彼の興味は別のほうにあるようだ。さきほどから視線をある位置から動かさない。
「和服とは違った意味で、気が引き締まりますね」
「兵士に見えれば良しとはアバウトな」
「スカートが短い、です」
「軍服にあまりいい思い出はないのだけれど‥‥それでも、袖を通すと身が引き締まる思いがするわ」
 軍服を着て更衣室から戻ってきた女性陣。大曽根櫻(ga0005)は、きっちりと制服を着こなし、引き締まった表情を浮かべている。御山・アキラ(ga0532)は、窮屈そうな胸元を開け着崩しており、それが逆に荒っぽい兵士さを醸しているようであった。アグレアーブル(ga0095)は、真面目に着こなしているが、独特の短いスカートが多少気になっている様子だ。一人だけ男物の軍服を着ていたリン=アスターナ(ga4615)は、なにか軍服に思い出でもあるのか、複雑な表情で苦笑を浮かべた。
「なぁ私達。男に生まれてよかったなぁ」
「いや、まったくだぜ‥‥」
「お前らも好きだねぇ」
「‥‥別に」
 そんな女性陣を眺めながら、シロウと千影は心底嬉しそうに呟く。その様子に、ザンは呆れたような表情をし、果守は同類扱いされるのが嫌そうに顔を背けた。
「さっきから、何を見ているの」
「センバーファイッ! ガンホー!」
 リンが、ギロリとシロウ達を睨みつける。そんなことも気に留めず、シロウは男達と肩を組んで歓声をあげていた。
「何を騒いでいる。着替えは終わったか? うん、全員なかなかいいじゃないか」
「はっ! 永遠の忠誠と友情と劣情を貴女方に誓います」
「‥‥何を言っている?」
 ほどなくして、アンナが一同の様子を見に来た。シロウの言葉に、訝しげに顔を顰めるが、全員の軍服姿には満足そうであった。
「改めてよろしくお願いします中尉。勝手な言い分かもしれないけれど‥‥中尉、貴女とは仲良くなれそうな気がするわ‥‥」
「私も正直、足のない物って言うのは私も好きではありませんから、中尉の気持ちがわかります。お互いにがんばりましょうね」
「中尉とは二度目だな、前回より少しはましになった所を見てもらいたい」
「ああ、こちらこそ頼む。そうか、そう言ってもらえると私も助かる。木嗚塚にも期待しているぞ」
 リンと櫻が、果守がアンナに挨拶をする。アンナはそれぞれに頷き返事を返し、他の者達もそれぞれアンナと挨拶をして、出発の準備を行なった。
「では、そろそろ向かおうか諸君」

「いたぞ」
 双眼鏡を覗きこんでいた果守が、キメラを確認し仲間達に知らせた。砂埃が舞う荒野で、ミミズが土の上を這うように進んできており。一見してその大きさは分からないが、周囲の岩と比べてみれば、それが人よりも大きいことが分かる。
「ミミズ、可愛い」
「ひっ‥‥」
 同じく双眼鏡を覗いていたアグレアーブルが呟く。その呟きに、アンナが名前を聞くのも嫌とばかりに小さく悲鳴をあげた。
「可愛い‥‥ですか?」
「うん、可愛いし見ているのは楽しい。でも、大きいのはあまり可愛くないかもしれない」
「そ、そうですよね‥‥」
 ミミズを可愛いという感性がよくわからない櫻が、アグレアーブルの返事を聞いて困ったように苦笑する。
「可愛いとか気持ち悪いとか、そんなことはどうでもいい。敵であれば倒す、それだけだ」
「そうね‥‥」
 アキラはそう言いながら武器の準備を行なった。それにリンも頷く。女性陣のミミズに対する反応は様々なようだ。
「そろそろ肉眼でも目視できるわね。では、我々は対象キメラの殲滅を行ないます。誘導班はやつらをバラバラに引き付けるように散開。その隙を付いて、攻撃班が各個撃破を行ないます。蓮沼君は、中尉の護衛を」
「了解っ! 俺に任せておきな」
 リンが淡々とした口調で作戦の確認を行なう。それに千影が元気に親指を立てて笑い、他の者達も頷き返す。
「それじゃ、始めるわ」
「ああ、そのまえに。中尉殿、こういう時に良く効くおまじないをご存知ですか?」
「?」
 作戦の開始を宣言するリン。そこへ、シロウが待ったを掛け、アンナに向かって優しく声を掛けて、ゆっくりと近づく。アンナは訝しげな表情でシロウ見て。
「大丈夫、私は優しいですよ?」
「!?」
 突然覚醒し頭部が白熊の姿になったシロウ。そのまま、アンナの腰に手を回し、顎に手を添えて顔を近づけていく。驚くアンナへと、唇を‥‥。
「ごふっ!?」
 あと一歩のところで、アンナがシロウの顎へと掌底を叩きつける。その衝撃に、後ろへと倒れこむシロウ。その威力は確かなもので、もし覚醒していなければ脳震盪で倒れていたかもしれなかった。
「馬鹿者! いきなり何をする!」
「恐怖と緊張を解いて差し上げようと思いまして〜」
 怒るアンナに、悪びれた様子もなく笑うシロウ。だがそこへ‥‥。
「それが、作戦直前に時間をかけてまで行なうことか」
「最低‥‥ですね」
「馬鹿だな」
「‥‥何をしたかったの?」
「だ、駄目ですよリンさん割れる割れるですよ頭蓋が!? 櫻さん、そんな鞘で腹を突付かれたら中身がで‥‥ウボァ! でも、年下に攻められるのも新鮮でぎゃーす!?」
 リンが革靴の底でシロウの頭を踏みつける。櫻も軽蔑するような表情で、刀の鞘を腹に突きつけた。アキラは呆れたように一言呟き、アグレアーブルは興味が無さそうであった。ともかく、女性陣に大いに不評を買ったシロウだが、本人としては微妙に嬉しそうである。
 なにはともあれ、巨大ミミズを殲滅する作戦が開始されるのであった。

「う‥‥なんておぞましい姿なのだ‥‥」
 生々しいほどの肌色、部位によって黒や白みがかっている様子が逆に生理的嫌悪感を誘い、よく見れば身体から短い剛毛が生え、うねるようなぜん動運動で地を這う巨大ミミズの姿は、アンナでなくても慣れないものには辛いものがある。アンナは思わず目を背けて嗚咽を漏らした。
「目標5、みんな役割分担に沿って行動しなさい。散開」
 リンの指示に、一同が行動を開始する。ミミズの姿を見てもリンは表情を変えない。リンは覚醒し銀色のオーラを纏い、その黒い瞳も銀色へと変化し。陽動役として群れとなったミミズを分散させるために、ショットガンでの銃撃で一匹の注意を自分に向けようとする。また、なるべくアンナからミミズ達を引き離そうとした。
「陽動を開始する」
 同じく陽動のアキラも、距離を取りながら片手に銃を持ちミミズへと撃ちつける。彼女も、ミミズの姿に感情を表さず、作業のように戦闘をこなす。牽制で地面に命中した弾丸に、ミミズが反応しアキラへと向きを変えた。
「―行きます」
 アグレアーブルも無表情で攻撃を開始する。その赤い髪は長く伸び、素早い移動に激しくたなびく。アグレアーブルは牽制で銃を放ちながら、陽動するように横に移動していった。
 散開して動き出す一同に、ミミズ達は戸惑いを見せつつそれぞれが目標に定めた相手を追いかけてくる。頭部らしき場所には特に目立った器官は見当たらないが、何らかの方法で敵の位置を確認しているのだろう。
「いやぁ、戦う女性って素敵ですよねぇ」
 そんな中、一人ミミズよりも仲間、特に女性の姿を視線で追いかけるシロウ。その頭部は白熊となり、見ようによっては狂暴そうにも見えなくはないが、どちらかというと愛らしい、コミカルといった感じである。もちろん、シロウも槍を持って陽動を開始しているが、どうしても視線は、動き回る女性陣のスカートに釘付けだ。
「惜しい! もう少しだったのに‥‥。おっとと、危ないじゃないですか」
 余所見をするシロウに、ミミズが体当たりをしてくる。シロウはそれをひょいっと避けて、槍で牽制しながら間合いを取った。しかし、なにが惜しかったのだろう。
「たしかにこれは‥‥あまり気持ちのいいものではありませんね‥‥」
 仲間達が陽動を行う中、ミミズ達の動きを観察し攻め込むチャンスを伺う櫻であったが、その動きの様子に表情を曇らせる。
「まあ嫌いな奴は嫌いだろうなあの姿形だと。しかも、これだけでかけりゃ尚更だ。農場とかだと重宝されるんだが、こいつらはキメラだしな、実際のミミズのように役に立つかはわかりゃしねえ」
 櫻の言葉に頷くザン。本人はミミズに対して、特に嫌悪感は抱いていないようであるが、嫌う気持ちもわかるようである。
「ともかく、仲間が陽動してる間に、俺達は一匹ずつ集中的に狩るぜ。目標は俺が決める、櫻と果守は一緒に攻撃を開始してくれ」
「わかりました‥‥お願いします」
「わかった。‥‥あの様子だと、本当に中尉には無理そうだからな」
 ザンの指示に、櫻と果守が頷く。果守は、アンナの様子をチラリと見て、青ざめた表情で何かを堪えている姿に表情を曇らせる。
「よし、前に出るぞ!」
 ザンがショットガンを構えてミミズ達の前に出る。一匹に狙いを定めると、ショットガンを放ち攻撃を開始した。櫻と果守も、それぞれ銃を構えザンと共に攻撃を行なう。弾丸が命中し、体液を飛び散らせるミミズ。それを掻い潜りながら、三人は一気に近づいた。
「はぁ!」
 覚醒し金髪碧眼となった櫻が、刀を抜き放つと同時に切り払う。淡く光る刀身がミミズの胴体を切り裂き、ミミズはのた打ち回るように暴れる。
「ほらよ! こいつはおまけだ、とっときな!」
「これでどうだ」
 そこへ、ザンと果守が追撃する。共にレイ・バックルによって拳は白く光り、雷を帯びた刀を振るう。その集中攻撃に、さすがの巨大ミミズも動きを止める。
「よし、この調子でいこうぜ」
「待ってください‥‥敵の様子に変化が」
 目標を次のミミズへと定めるザン。しかし、櫻は周囲のミミズ達の様子に異変を感じた。リン達を追いかけていたミミズ達が、仲間がやられたと見るや一斉にザン達の方を向いたのだ。
「まずい、何かしてくるわ、気をつけて! 間に合え‥‥」
 ミミズの動きに、ザン達に忠告するリン。鎌首を上げたミミズの頭部から、口らしき穴が開いた。リンは、ミミズの動きを遮ろうと瞬天速で一気に間合いを詰める。そして他の陽動役達も、慌ててミミズの動きを止めようとする。
「!!」
 一斉に、ミミズの口から土の塊が吐き出されそうになる。しかし、リンの蹴りが炸裂。ミミズは身体の向きを強制的に変えられ、あさっての方に攻撃を放ってしまう。同じく、アグレアーブル、アキラ、シロウもそれぞれ素早い動きでミミズの攻撃を妨害した。
「助かったぜ! よし、このまま一気に倒すぞ!」
「おぅ!」
 ミミズの一斉射撃が仲間の活躍で逸れると、ザン達は勢いよく次の相手へと攻撃を開始する。その相手の陽動をしていた者も攻撃に参加し、ミミズ達は一気に殲滅されていく。

「みんな頑張ってるな。こりゃ、俺の出番はないかな?」
 仲間達の戦闘の様子を見ながら、千影が呟く。彼はアンナを守りながら、もしミミズがこちらへ向かってくれば相手をするつもりであった。しかし、戦闘は仲間が優勢、ミミズもこちらを攻撃してくる様子はなかった。
「大丈夫ッスか? アンナ中尉」
「う‥‥む‥‥、大丈夫だ、気にするな」
 アンナの様子を気遣うように声をかける千影。アンナは気丈に振舞おうとするが、その顔は青ざめ、表情は何かに耐えるように強張らせている。特に、攻撃を受け体液を飛び散らせるミミズの様子に、酷い嫌悪感を感じているようだ。たぶん、この場から逃げ出したいのかもしれないが、軍人としてのプライドと責任感で堪えている。これも戦いなのだろう。
「中尉にも克服してもらうために、ミミズを倒してもらおうと思ったけど。その様子じゃ、無理そうッスね‥‥」
「わ、私があれをか!? か、勘弁してくれ‥‥」
 千影はアンナの様子にそう言って苦笑する。さすがのアンナも実際に自分で手を下すことを考えると、青ざめたまま首を横に振った。そこへ‥‥。

「何!?」
 果守の刀がミミズの胴体を切り裂く。と、その時、ミミズの胴体が二つに分かれた。なんと、ミミズは身体を自ら切り離したのだ。その様子に一瞬動きを止める一同。その隙に、ミミズは次の行動に移っていた。
「アンナ中尉、危ない!」

 胴体を切り離したミミズの頭部が再び開き、アンナ達に向かって土が吐き出される。土と言っても、十分に硬い石のようなもので、命中すればダメージを免れない。だが、アンナはとっさには動けない、しかも覚醒できず本来の力も引き出せていなかった。
「アンナ中尉、俺の後ろにっ」
 迫り来る弾丸のような土、そこへ千影がアンナを庇うように前に出る。千影は盾を構え、土の弾丸を受け止めた。強い衝撃に耐えながら、千影はその場から動かずにアンナを守った。
「大丈夫か?」
「あ、ああ‥‥。それより、君こそ大丈夫か!?」
「へっ、これくらいどうってことないッスよ」
 心配するアンナに、千影はニヤリと笑って答えた。メトロニウム合金製の盾が、十分な防御能力を発揮し、土の弾丸を受けてもさほどダメージを受けなかったようだ。
 その後、ほどなくしてミミズキメラの殲滅が終了する。一同の連携が功を奏して、被害も少なくて済んだ様である。

「今回は本当に助かった。諸君らには感謝する」
「是非またご一緒させていただきたいですね。いえいえ、もちろんプライベートの方でも、いつでもお相手いたしますよ」
「ああ、その時は頼む。だが、なにがもちろんなのかわからんが、プライベートではないな」
「あらぁ、第一印象が最悪でも恋愛は燃え上がるんですよ?」
「ナメクジキメラ退治まで中尉に回されないと良いのだが」
「な、なめくじ!? 縁起でもないことを言わないでくれ!」
 アンナの礼にシロウがにこやかに言うが、アンナはつれない様子で首を横に振り。アキラの言葉に、また表情を引き攣らせた。その様子では、まだ彼女受難は続きそうである。