タイトル:リーズ博士の不機嫌な事マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/01 03:36

●オープニング本文


 ドローム社対キメラ用兵器開発室。ここでは日夜、優秀な研究員達が対キメラに有効な兵器の開発を行なっている。遺伝子工学に精通している梶原一三が課長を務める第三課では、特にキメラに有効な薬物や毒、遺伝子関連の兵器などを研究していた。
「‥‥‥」
 そんな第三課に先日配属された研究員、リーズテイル・エランドは苛立っていた。20歳前後の女性で、美しいブロンドの髪に、少し幼さを残した端整な顔立ち、目元はやや吊り上っており気が強そうである。親しい者にはリーズの愛称で呼ばれ、自分にも他人にも厳しい生真面目な性格である。博士号を取り、若いながらも遺伝子工学で優秀な実績を残しており、別の研究所から本社のこの開発室へと移ったのだが。なにやら苛立ったように、仏頂面で自分の机を白い指で叩いていた。
「どうかされたんですか?」
 リーズの様子が気になったのか、同じ課の同僚、メリル・ウッドが声を掛ける。栗色の髪の気弱そうな女性で、牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡を掛けているのが印象的だ。
「‥‥貴女はなんとも思わないんですか?」
「え!? あ、はい、ごめんなさい‥‥」
 声を掛けてきたメリルに、キッと厳しい目で睨みつけるリーズ。メリルはわけもわからないまま、つい謝ってしまう。
「ここの課長のことです」
「一三博士ですか? えと、博士がなにか‥‥?」
「はぁ‥‥、なんなんですかあの人は。我々は人類のために、ああもちろん会社のためでもありますが、バグアに対抗するための研究を行なっています。なのに、あの人は自分の研究のために、この開発室をまるで私物のように扱っています。それに、女性に対してなにやら前時代的な偏見を持っているようですし」
 リーズは大きなため息をつくと、課長の梶原に対しての不満を口にした。少し前に研究の申請を忙しいからと却下され、配属初日に「女に何ができる」とばかりに鼻で笑われたようだ。おかげで、生真面目な彼女としては、自己中心的で自分勝手な梶原を快く思っていないようであった。ちなみに、一応本人には聞こえないように声を潜めている。
「た、たしかに、ちょっと自分勝手なところもありますが。そ、それでも、博士は優秀な方ですから‥‥」
「ちょっとですか? それに、貴女も貴女です。まるでただ助手のように扱われて何も言わないなんて。ウッド博士だってちゃんとした研究員なのでしょう?」
「ひっ、ごめんなさい。ですけど、一三博士の研究を手伝うのも勉強になるんですよぉ」
「お茶汲みとかの雑用ばっかりのくせに」
「あぅ‥‥」
 リーズに厳しい口調で責められて、メリルは意気消沈してしょんぼり肩を落とす。ちなみに、メリルのほうが年上である。それと、胸はメリルのほうが大きい。
「うっさいわ!」
「は、はい!?」
「あ、いえなんでも‥‥。ともかく、彼が上司でちゃんと研究を続けられるのか不安なんです」
「そ、そうなんですか。私はリーズ博士のこと好きですし、自分以外の女性の方が来てくれて嬉しかったので、できればやめて欲しくは無いのですけどぉ」
「す、好き!? って、いつのまに愛称!? い、いえ、自分から勝手にやめたりはしないですけれど‥‥」
「ご、ごめんなさい。愛称で呼んではダメですか?」
「ダメ‥‥ではないですけど」
「よかったですぅ〜」
 メリルの言葉に、しぶしぶ了承するリーズ。どうやら、ストレートな好意を向けられるのは弱いようである。
「あの、一三博士になにを断られたんですか?」
「え、ああ、キメラのサンプルを見せてもらおうとしたんですけど」
「それでしたら、傭兵の皆さんに頼んでみたらどうでしょう? 申請とか私が出しておきますよ?」
「え? う‥‥う〜ん、できれば彼らを頼るようなことはしたくないけれど‥‥。でも結局、開発された兵器を一番利用するのは彼らだし、仕事振りを見ておくのも悪くないかも‥‥。でも気に入らないなぁ‥‥だからといって‥‥ぶつぶつ‥‥」
「あ、あの‥‥」
「あ、ごめんなさい。そうですね、大変不本意ですけどULTに依頼を出しましょう。申し訳ないのですが、勝手がまだわからないのでウッド博士にお願いしてもよろしいですか?」
 メリルの提案に、リーズは顔を顰めてなにやらぶつぶつと考え事をする。その後少ししてから、リーズは不承不承といった様子でメリルに依頼の申請をお願いする。
「メリルです♪」
「はい?」
「ですから、私のことはメリルと呼んでください。ね、リーズ?」
「うっ! そ、そんな、いきなり‥‥」
 突然のメリルの言葉に戸惑うリーズ。メリル本人は意識していないようだが、仕事を手伝う交換条件のようである。
「これからも、一緒にお仕事するわけですし、仲良くしていきましょう?」
「‥‥わかったわ、メリルさん」
「メリルです♪」
「メ、メリル‥‥」
「はい♪」
 珍しく押しの強いメリルに、リーズは観念したように彼女の名を呼ぶ。メリルは、満面の笑みを浮かべて頷いた。
「では、依頼のほう出しておきますね。キメラの捕獲でいいですか?」
「あ、いえ、捕獲ではなく退治で」
「え? でも‥‥」
「ただし、私が同行します。キメラが実際にどのように行動しているのか。そして、エミタ能力者はそれにどう対応しているのか確認します」
「そんな! キメラがいるところに同行するなんて、危険ですよぅ!」
「承知してるわ。でも、実際の戦いをこの目でちゃんと見て、私達が開発する兵器がどのように扱われているのか知るべきだと思うの」
「で、でも‥‥」
「心配しないでメリル。別に、戦場の最前線に行くってわけじゃないんだから。それに、危険なことは全部、エミタ能力者に任せるわ」
「無茶はしないでくださいよぅ」
 リーズの言葉に驚くメリル。そして心配するメリルに、リーズは安心させるように微笑みかける。リーズの、一度言ったらなかなか撤回しない頑固さを、ここ数日ですでに知っているメリルは、しかたなく依頼を申請することにしたのだった。

・依頼内容
 キメラの退治
・概要
 北米競合地域へと赴き、キメラを退治する。また、同行者の護衛を行なう。
 同行者として、リーズテイル・エランド博士が同行する。彼女の目的は、キメラの観察、またキメラとエミタ能力者の戦闘の観察である。
 移動に際する車両などの費用は依頼者持ち。その他の、キメラ退治に必要な準備は、各自で用意すること。

●参加者一覧

相沢 仁奈(ga0099
18歳・♀・PN
建宮 潤信(ga0981
28歳・♂・GP
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
佐竹 つばき(ga7830
20歳・♀・ER

●リプレイ本文

「お待たせしました博士、今回依頼をお受けしましたレールズです。また会いましたね。前回は失礼な事を言ってすみませんでした」
「建宮です、どうも」
「あ、あなた達は‥‥」
 待ち合わせ場所へリーズを迎えにいった一行。そこで待っていたリーズに、一度面識のあるレールズ(ga5293)と建宮 潤信(ga0981)が挨拶を行った。リーズは少し驚いたように相手を見て、ばつの悪そうな表情を浮かべる。
「その節はどうも‥‥。私の方こそ大人気ないことを言ってしまいました」
「いえ、配慮の足らなかった俺の責任です。もう一度会ってお詫びを申し上げたいと思っていました」
「だ、だったら、もういいですね! その話はやめましょう! とにかく今回もしっかりと護衛してもらいますよ!」
「はい」
 頭を下げるレールズに、リーズは恥ずかしくて怒ったような態度を取ってそっぽを向く。その様子に、レールズは顔を上げると微笑みを浮かべた。
「護衛のお相手は博士さんや言うからどないな人なんやろなて思とったけど‥‥めっちゃ可愛いやん! こない可愛くて頭もええなんて、凄いなぁ‥‥。あ! 今回お仕事受けさせて貰た相沢仁奈言いますー、宜しゅうな♪」
「は、はぁ、よろしくお願いします」
 レールズ達の挨拶が終わったと見るや、相沢 仁奈(ga0099)が目を輝かせながらリーズに詰め寄った。仁奈のハイテンションぶりに、戸惑った様子でリーズは挨拶を返すが、仁奈は気にした様子もなく彼女の手を取って飛び跳ねる。
「くっ‥‥負けない」
「ん?」
 仁奈が飛び跳ねるたびに豊満な胸が揺れ。それになんとなく対抗心を抱くリーズだが、そもそも勝負になっていない。
「エランド博士、今回は宜しくお願いしま〜す。きちんと博士の身は守って見せますから」
「足手まといにならないよう‥‥精一杯頑張ります‥‥」
「‥‥‥」
 香倶夜(ga5126)と鳳 つばき(ga7830)も挨拶を行う。だが、リーズは何か難しそうな表情を浮かべ返事を返さない。
「あ、あのぅ、エランド博士?」
「‥‥‥」
 どうしたのかと問う香倶夜だが、リーズは答えないまま、一瞬どうするべきか困ったように潤信達を見た。どうやら、以前に名前だけでなく苗字で呼ばれるのも拒否したことを気にしているようであった。
「俺らのことはお気にせず」
「はぁ‥‥よろしくお願いします。もちろんそれが依頼なのですから、しっかり頼みますよ」
「は、はい!」
 視線の意味に気づいた潤信が呟くように答え、リーズはため息をつくと香倶夜達に返事を返した。潤信は気づかれないようにしながら、律儀なことだとばかりに、笑みを溢すのだった。
「三島玲奈です、よろしくお願いします〜。これ、お近づきの獅子舞です。悪い子はいねが〜! って、それはナマハゲやねん!」
「はぁ」
 三島玲奈(ga3848)は挨拶と一緒に、獅子舞踊りを見せつつギャグを飛ばすが、どうにもリーズのウケは悪かったようだ。
「須佐武流だ。ふむ、俺はぐるぐる眼鏡娘のメリルって娘に会いたかったんだが、まぁいいか」
「む、メリルのお知り合いなの?」
「いや、実際会ったことはないけどな」
 須佐 武流(ga1461)の言葉に、顔を顰めるリーズは胡散臭そうな目で武流を睨みつける。
「あ、あの! 九条院つばめです! 前の依頼の時はどうも‥‥」
「え、ええ、今回もよろしくお願いします」
 突然、九条院つばめ(ga6530)が大きな声で挨拶をした。それに驚きながらリーズも挨拶を返すが。
「以前私に向かって仰ったこと‥‥覚えてます? 『努力もせずに得た力で粋がる前に、学業を努力しなさい』。その一言が、凄く悔しくて。その言葉を否定できなかった自分が‥‥何より、悔しくて。傭兵稼業にかまけて、最近学業が少し疎かになっていたのは、事実でしたから」
「‥‥‥」
 つばめは以前の依頼でリーズに言われたことへの想いを伝えようと、しっかりとした口調で言葉を紡ぐ。リーズはその真剣な様子に、表情を引き締めながら無言でその言葉を受け止める。
「あれから、私なりに頑張りました。途中、大規模作戦とかもありましたけど‥‥何とか、進級できそうです。――私、傭兵業も学業も大好きです。これからも、もっともっと頑張って‥‥しっかり両立していきたいと思います。自分を見直すきっかけを下さった博士には、本当に感謝です。ありがとうございましたっ」
「そう‥‥努力をして結果を出しているのなら何も言うことはありません」
 つばめが頭を下げるのを、一言述べて背を向けるリーズ。つばめの想いに対し、あまりにあっさりした態度と、周囲の者は思ったが。
「あ、あの‥‥」
「‥‥人に言われ物事を改善するのは難しいことだわ。自分の言葉を真摯に受け止めて、それを行なったのならそれは嬉しいことね‥‥。さぁ、行きますよ。さっさとこんな仕事、終わらせてしまいます」
「は、はい!」
 背を向け少し歩いたあと、呟くように言葉を口にするリーズ。それはつばさの想いに対する答え。たぶん、面と向かって言うのは恥ずかしかったのだろう。その言葉を聞き、つばさは嬉しそうに顔を上げて返事をするのだった。

「しかし、何故このような危険な事を自分から」
「別に‥‥」
 移動のための車を運転しながら、潤信がミラー越しにリーズに問いかける。それに対し、リーズは何かを思い出したようにイラついた表情で答えない。
「‥‥どうした? なんとなくだが、イラつきが見えるぞ」
「なんでもありません」
 その様子に、潤信はまた声を掛けるが、あなたには関係ないとばかりに冷たくあしらう。
「まぁまぁ、これでも食べて仲良くしようや!」
「わ、美味しそう」
「みんなの分もあるから、食べてな」
 そんなリーズに、仁奈が自分が作ってきたお弁当を差し出す。それに香倶夜が反応を示し、他の者もお弁当に手を伸ばす。リーズもそれを口に運んだ。
「どや? 結構自信あるんやけど」
「ま、まぁまぁじゃないかしら?」
「そうか、リーズちゃんに喜んでもらえてうれしいわぁ」
「ちょっと、リーズちゃんってなんですか!?」
「まぁまぁ、ええやん、うちのこともニイナって呼んでな〜」
「‥‥最近、こういった強引な人が多いわ‥‥」
 馴れ馴れしくくっついてくる仁奈に、リーズは表情を曇らせるが、無理に振り払ったりしないのは押しの弱さによるためか。
「それにしても、私は博士のこと尊敬してるんですよ。博士みたいな武器を作ってくれる人達のおかげで、戦いを通じて常に死んだ両親を思い起こす事が出来ますから」
「っ!」
 色々と話をしつつ、玲奈がリーズをおだてるように言葉を掛ける。しかし、リーズは表情を強張らせて玲奈を一瞬にらみつけた。
「そうですか‥‥。では、バグアを倒しているあなたを見て、草葉の陰でご両親もさぞかし喜んでいらっしゃるでしょうね」
「い、いや、あの‥‥?」
 リーズの棘のある言い様に、戸惑う玲奈。困ったように武流を見るが、武流は肩を竦めて首を振るだけだった。

「いたぞ、ビーストタイプのキメラが5匹。群れになっている」
 潤信と玲奈が偵察を行い、キメラの発見を報告する。そして、一行はリーズを伴い、その地点へと向かった。
「あれがキメラ‥‥。普通の動物とあまり変わりが無いのね」
「ええ、あれはビーストタイプ。見た目は普通の獣とあまり変わりません。ただ、凶暴性が高く、能力も普通の獣と比べ物になりませんから、危険です」
 猫科の肉食獣の姿をしたキメラに、リーズが感想を漏らす。レールズは補足するように説明し、リーズに注意を促した。
「キメラを見るのは初めてなんですか?」
「資料でならいくつも調べてはあるけれど、実際に見たのは二‥‥初めてよ」
「もっと異形の姿をしたやつもいるけどな。そういうのがお好みか?」
「好みとかはありません。あれが標準的なキメラなら、そちらのほうが参考になるわ」
 香倶夜の問いに一瞬言いよどみながら答え、武流へは首を横に振る。リーズはキメラを真剣な表情で凝視し、ジッと観察を行なう。だがそれは、どこか興味以外のなにかも含まれているように感じられた。
「それで、このあとどないするん? うちらは、あれを倒せばええの?」
「ええ、キメラとエミタ能力者の戦闘が実際どのようなものなのか、観察させてもらうわ。でもそのまえに、キメラのフォースフィールドを確かめるために、エミタを持たない私自ら、キメラを攻撃してみます」
 仁奈の質問に答え、リーズは懐から銃を取り出した。SESの搭載していない一般の物だ。
「あの‥‥提案なのですが‥‥。その銃に、あたしの練成強化をかけてみてはどうでしょうか?」
「その能力は知っています。それはSESを搭載した武器を強化するものでしょう? 私には意味がありません」
「‥‥お役に立てることがあったかと‥‥思ったりしたんですが‥‥残念無念」
 つばきが提案を申し出るが、ばっさり切り捨てるリーズ。その返事に、つばきはしょんぼりした様子で肩を落とした。それでも未練があるように、何度もリーズを顔を伺う様子には妙に哀愁が漂っており、捨てられそうになっている子犬のようで。
「ま、まぁ、何事も実験し確かめることは大切ですし‥‥やってみてもいいかもしれないわね」
「‥‥そうですか、よかったです」
 結局断るのも辛くなったのか、リーズはしかたない風を装って、強化を行なうことを許可するのだった。
「それで、実験の件なのですが、少し待っていただけますか?」
「どういうことです? この実験のことは事前に説明したはずですが?」
「いえ、中止しろというわけではないのです。ただ、私達がキメラの数を減らしてから行なっていただこうと思いまして」
 つばさのお願いに、訝しげに顔を顰めるリーズ。
「戦場に立ったら、キメラにとって能力者かどうかなんて関係ない。エランド博士を護るためにあたし達にも協力してほしいの」
「すみませんが、あなたを守るのが俺達の役目です。いくらあなたの要望でも危険に晒すわけにはいきません。ご理解ください」
「それでも守るのがあなた達の仕事でしょうに! ‥‥ですが、私もあえて危険を冒そうとは思いません。でも、くれぐれも忘れないようにお願いしますよ」
 諭すように言う香倶夜とレールズに、リーズは渋々といった様子で頷いた。
「話はまとまったな。それじゃ始めるか」
 潤信の言葉に一同は頷き、キメラとの戦いが始まった。

「やつらもこっちに気づいたようだぜ」
 武流は、キメラの様子にニヤリと笑みを浮かべた。すでに一同は、扇状にフォーメーションを組んでいる。いつでもキメラを迎撃する準備は出来ていた。
「さぁ、来なさい。こちらの準備は整いました」
「申し訳ありませんが、お相手願いますよ」
 前面に出たレールズとつばめ。覚醒し、それぞれ姿を変化させ、槍を構える。キメラ達はそんな彼らに向きを向けると、威嚇するような唸り声をあげながら近づいてくる。5匹のキメラは、それぞれが別の動きをしながら、徐々に距離を詰めてくる。そして、二人に一斉に飛び掛った。
「こいつら、狩りになれているな」
「悪いけどウチもおんねんでー!」
 レールズとつばめに襲い掛かるキメラの隙をついて、潤信と仁奈が横合いから鋭い爪で殴りつける。黒いオーラの翼を纏った仁奈が、飛ぶような素早い動きでキメラ達を翻弄し、潤信は拳を青白く燃やしながら、漆黒の爪をキメラ達に突き刺した。
「みんなに、マジカルパワーを注入です、え〜い」
 待機していたつばきが、戦っている者達の武器を強化する。赤い髪が金になり、なにやら台詞が怪しげになっているのは覚醒の影響のようだ。
「抜けさせるわけには行かない。行くよ玲奈ファイアウォール!」
 つばめ達の強さに、キメラ達は目標を変えて、リーズ達へと向かおうとする。だが、ライフルを構えた玲奈が、それを阻止するように弾丸を撃ち込んだ。キメラ達の足を狙い、その動きを止める。
「これが‥‥能力者の戦い」
 キメラ相手に、人間の限界を超えた力で戦う者達の姿に、リーズは驚きの声を漏らす。そこには、想像以上の苛烈さがあった。
「どうした怖気づいたか?」
「なっ!」
「だが、これが俺達の戦い。エミタを受け入れた時点で、運命付けられた使命だ」
「怖気づいてなどいません!」
 リーズの守りについた武流の言葉に、キッと睨みつけるリーズ。
「生きのいい奴、一匹いっとく?」
 玲奈がわざとキメラを後方へと回す。リーズの実験のためだが、その銃口は狙いをつけたまま、いつでも倒せるように準備をしていた。
「悪いけど、ここで止まってもらうわよ!」
「おらよっと!」
 香倶夜と武流がキメラの足を狙いその動きを止める。キメラはいまだ狂暴そうに唸りながらも、身動きが取れなくなってしまった。
「‥‥それじゃ、キメラのフォースフィールドを確認させてもらうわ」
 安全を確保されると、リーズが銃を構えて、キメラに狙いを定める。そして、外すことなく弾丸を撃ち込んだ。
「っ! やはり効かない? 能力者達はいとも簡単にやぶっていたのに。これがキメラのフォースフィールド‥‥」
「それじゃ‥‥今度は強化します‥‥マジカルパワー注入〜♪」
 つばきの練成強化も行なってみるが、特に効果は無く、やはりキメラにダメージを与えることはできなかった。それが、常人と能力者の差でもあった。
 その後は、キメラ達を退治し、実験の終了となった。リーズは何かを考え込むように難しい表情をしながら、安全地域へと帰還する。
「どうでした? 覚醒した時はやはり人間離れしてるんですかね?」
「当たり前です。一瞬のうちに髪の色が変わる者などいませんし、常人にはあのような動きもできません」
「はっきりと言いますね」
 レールズの問いに、きっぱりと言うリーズ。苦笑するレールズだが、以前よりは口調に棘が無くなったように感じられる。
「そのデータ‥‥役に立つと嬉しいです」
「ええ、今回は貴重なデータを取らせてもらいました。資料だけではわからないことも、色々知りましたし‥‥」
 つばきの言葉に、リーズは小さく頷く。データだけでなく、彼女にとっても何かを変える経験となったのかもしれない。
「ほな、リーズちゃん、またな! 良かったら、今度はゆっくりお話しようや♪」
「リーズちゃんはやめろと‥‥。はぁ、もしまた機会がありましたらね」
 仁奈は笑いながら、リーズの腕に抱きつく。リーズは嫌そうな顔をしつつも、小さくため息をついて頷いた。こうして、今回の依頼は終了することになる。