●リプレイ本文
「情報によれば、やつらは間違いなくここを通るはずだ」
見通しの良い荒野に陣取った一行は、ゴムパインの群れが向かってくるのを待ち構えていた。九条・命(
ga0148)が、双眼鏡を覗きながら見落としの無いように慎重に索敵を行なう。
「でもさ、ゴムパインってなんだかおいしそうだよねぇ‥‥あれかな、パイナップルが襲撃してくるのかな?」
白鴉(
ga1240)が冗談交じりで言った言葉に、赤霧・連(
ga0668)が少し驚いたように反応を示す。
「そうなのですか〜。手榴弾型と聞きましたけど、果物の方だったのですネ」
「そうそう、甘くてジューシーなんだよね。ふっふ〜ん、パイナップル早くやって来ぉ〜い♪」
「ほむ‥‥」
白鴉の言葉に、納得したように頷く連。人の話を疑わない連は、どうやら本気で信じているようだ。
「ゴムパインとは以前にも戦いましたが、果物ではなく手榴弾の姿をしていましたよ。まぁ、たしかにパイナップルに似た形をした手榴弾の姿なので、あながち間違いとも言えませんが」
二人の会話に、鳴神 伊織(
ga0421)が苦笑交じりに答える。一応フォローを入れている辺り、礼儀正しさを思わせた。
「しかし、街を破壊とは妙な話ですね、あれにそれ程の力は無かった筈なのですが‥‥改良を加えたのでしょうか?」
「わたくしとしては、本来そんな力の無いはずのキメラが街を破壊するなんて、一体どんな芸当を見せてくれるのか、楽しみですわ♪」
依頼での不審な点に顔を顰めて考える伊織の言葉に、鷹司 小雛(
ga1008)がクスリと笑みを溢して、ゴムパインが来るのを待ち遠しそうに彼方を見つめる。『人生を濃く生きる』ことを身上としている小雛にとっては、予想外のことが起きるほうが興味が湧くようだ。
「チッ、女ばかりで肩身が狭いぜ」
そんな様子を少し離れた場所で見ていたブレイズ・S・イーグル(
ga7498)は、なんとも居心地の悪そうな表情を浮かべていた。というのも、彼は女性が苦手であり、メンバー8人中、5人が女性の状況に、自分の居場所が無い様で戸惑っているのだ。そのため、道中の間は仲間と距離を取っていた。
「ま〜た、こんなところで一人で居るの? いい加減慣れなさいって♪」
「げっ、こっちくるんじゃねえ! 一体何のようだ!」
「げっ、とはなによ、げっ、とは?」
そんなブレイズに、陽気な声で声を掛ける雪村・さつき(
ga5400)。接近してくるさつきに過敏に反応するブレイズに、眉根を吊り上げて呆れたように睨み付けるさつき。
「いや、今回の相手が、資料と少し食い違ってるようだからさ。ブレイズはどうするつもりなのかなと」
「別に‥‥、いつものようにこいつで叩っ斬るだけだ。わからんことを予想しても、しかたがない。下手に考えるより、臨機応変に対応したほうが良い時もある」
「だよねぇ♪ 無理に予想すると、予想外のことが起きた時に身体が動かないことがあるもんね」
「チッ‥‥」
ブレイズの答えに、満足そうにウンウンと頷き、さつきは満面の笑顔を浮かべた。その笑顔に一瞬目を奪われたブレイズは、そのことが気に入らないように舌打ちしてそっぽを向くのだった。
「ピュー!」
「!!」
そんな中で、突然笛の音が響く。見晴らしの良い岩場の上で索敵を行っていた瓜生 巴(
ga5119)が、何かを発見した合図だった。巴が指差す彼方に土煙が巻き起こっており、黒い塊のようなものがいくつも大地を飛び跳ねている。
「来たぞ、ゴムパインだ」
命がそれを確認し、一行は戦いの準備を整える。結局、事前にゴムパインの能力が分からなかった一行が取った作戦は、真正面からの迎撃であった。
「お、きたきた‥‥こ、これ本当に爆発しないの?」
「本当に手榴弾が動いています! シュールですネ」
実際にその姿を見るまで余裕の表情だった白鴉の笑みが引きつり、連が驚きの声をあげる。まさにテレビなどで見る手榴弾にそっくりな姿は、突然現れれば驚くことは間違いなく、またそれが独りでに動き回るのはシュールでしかなかった。
「へっ! どうせ見せかけだろ!!」
「強がちゃって、可愛いですね」
「強がってねぇ!」
気を取り直して槍を構える白鴉に、巴が嫌みったらしく呟く。それについつい大きな声でつっこむ白鴉。そういった態度を取ると、逆に肯定しているように思われることに気づいているのかどうか。
「やれやれ、流石に多いな‥‥」
「あら、数が多いほうが楽しいじゃありませんか。さぁ、望美、あなたの切れ味を見せ付けてあげましょう」
ゴムパインの群れに、うんざりするように肩を竦めるブレイズ。それに対し、小雛は本当に楽しそうにクスクスと笑みを溢し、自分の刀に語りかける。ちなみに、『望美』とは小雛の刀の名前だそうな。
「そろそろ来るぞ、陣形を取れ。間合いに入ったらすぐに攻撃開始だ。射撃での援護、頼んだぞ」
「はい、お任せください。回避は考えず、確実に相手を撃ち抜くことに専念します。だって絶対に守って下さるのですよネ。ならば、私はその期待にただこたえるだけなのです♪」
「お、おぅ、任せておいてよ委員長!」
命の指示に、全員が所定の場所につく。連は銀色の弓を構えて、白鴉に微笑みかける。白鴉は慌ててそれに応えるように、グッと親指を立てた。
そうする間にも、土煙はどんどん近づいて、一行の眼前へと迫り来る。そして、戦いが開始される。
「一匹も後ろには行かさないわよ!」
「食らいやがれ!」
まず最初に、さつきと命が銃を構え、共にリボルバー式の拳銃で牽制の弾丸をゴムパイン達に放つ。だが、小さい上に不規則に飛び跳ねるゴムパインは狙い辛く、あまり命中は望めそうに無い。
「弓はボクの一部‥‥矢はボクの心‥‥不可能なことはなにもない‥‥」
そんな中、覚醒により髪を漆黒に染めた連が、正確に狙いを定めて矢を放つ。その矢は、前衛を飛び越えて確実にゴムパインに突き刺さった。幾本もの矢が、ゴムパインの群れに放たれ、そのたびに命中した相手の動きを鈍らせていく。
「私も容赦はしません。これを受けなさい!」
同じく、覚醒し青白いオーラのような光を放つ伊織が、携帯していた弓を持って矢を放つ。矢は弧を描き、ゴムパインの群れの中央に突き刺さった。と、同時に大きな爆発音があがり、ゴムパイン達を吹き飛ばす。伊織が放った矢は、火薬を詰め込んだ弾頭矢であった。
「ちょっ! 本気でゴムパインが爆発したかと思ったよ!」
「あらあら、わたくしにも残しておいてくださいね。さぁ、楽しませてくださいまし!」
射撃での先手を取った後、白鴉と小雛がキメラ達に突っ込む。一気に前に出てキメラの進攻を食い止め、後衛への被害を無くす魂胆であった。白鴉は槍を振り回し、突き、切り裂き、打ちと相手の動きにあわせ攻撃方法を変えながら、キメラを押し止める。小雛も、刀と盾を構え、盾で相手の体当たりを受け流しながら、鋭い刀の一閃で切り払う。
「チッ、手ごたえがねえ。やっかいな相手だぜ」
だが、ゴムパインの特殊なボディは、武器の衝撃を吸収し致命的なダメージを回避していた。その手ごたえの無さに、ブレイズがいらつく様に舌打ちする。
「あんまり調子に乗るなよゴム野郎!」
そこでブレイズは大剣の腹でゴムパインを打ち上げると、落ちてきたところを上段から叩き切った。そんな渾身を込めた一撃は、さすがに衝撃を逃がしきることもできずに、ゴムパインは真っ二つに割れるのだった。
「みんな元気ですね」
跳ね回るゴムパインと乱戦を繰り広げる仲間達の様子に苦笑しつつ、巴も槍を振り回しキメラに攻撃を繰り出す。
「体当たりの衝撃を後ろに逃がすように受けて‥‥ドッチボールの要領で‥‥」
巴は素早く跳ね回るゴムパインを捉えやすくするために、わざと身体で受け止めて動きを止めさせようとした。
「食らえ! コレが俺のドライブシュートだ!!!」
巴と時を同じくして、命が気合が篭った声と共に、ゴムパインを蹴り飛ばそうとしていた。だが‥‥。
「っ!? 二人とも気をつけてください!」
伊織が声を発する。彼女は、直感的に二人の行動に嫌なものを感じていた。しかし、その声が届くよりも先に。
「なっ!?」
巴が受け止めようとし、そして命が蹴り飛ばそうとしたその瞬間。ゴムパインが激しい光と共に爆発する。衝撃を受けて吹き飛ぶ二人。
「自爆!?」
突然のことに驚きの声をあげる一同。ほとんどの者が、ゴムパインが爆発することは予想外であった。
「待ってよ! 爆発しないはずじゃなかったの!?」
「今回の件を聞いて、自爆の可能性も予想していたのに‥‥」
密かに爆発しないことを祈っていた白鴉が顔を顰め、一応予想していながらも対策を怠った伊織は後悔の言葉を漏らす。
「二人とも大丈夫!?」
「っ‥‥大丈夫だ! 衝撃で足が痺れてるが、たいした外傷はない。チッ、前の戦いの経験のせいで油断した!」
「はい‥‥、アーマーのおかげでダメージのほうはほとんどありません。どうやらあれが建物を壊した力の正体のようですね。しかし自爆とは、なんて効率の悪い‥‥」
心配して声をかけるさつきに、命と巴が答える。どうやら、メトロニウム合金製のアーマーのおかげで思ったほどダメージも無かったようだ。
「よくも仲間をやってくれたね!」
「おい! 熱くなりすぎるなよ、また爆発するぞ!」
「わかってる!」
二人の無事を確認すると、さつきは瞳を金色に変化させ猛然とキメラ達に切りかかる。そんなさつきにブレイズが忠告するが、彼女は意外に冷静で、上手に間合いを取りながら戦っていた。
「まずいですね、みんな自爆を意識しすぎてます」
だがしかし、自爆を意識するとさきほどのような積極的な戦いができなくなってしまう。もちろん、それほどの威力は無いようなので、恐れる必要は無いのだが、そう簡単には吹っ切れない。精細さに掛ける仲間達の動きに、弓で援護しながら連が不安を口にした。
「皆様! 爆発の威力は大した事ありません! 恐れることはありませんわ!」
そんな中で、いち早く自爆の恐怖を吹っ切ったのは小雛であった。彼女は、戦う前から自爆されることも念頭に置いて戦っており、爆発の衝撃も盾で防げばいいと考えていた。そのため、実際に自爆されてもすぐにそのショックから立ち直ることができたのだ。彼女は、率先して前に出て、ゴムパインに刀で斬り付け。自爆されても、盾で受け止め、ダメージを最小に抑えた。
「そうです。相手も自爆で数を減らしています、このまま一気に押し切りましょう」
伊織もすぐに立ち直ると、剣先から衝撃波を放ち、キメラを確実に仕留めていく。その様子に、他の者達も吹っ切れたように、積極的な動きでゴムパイン達へと攻撃していった。
「ふぅ、なんとか片付いたようだな」
「やれやれだぜ‥‥」
ほどなくして、ゴムパインの退治に成功する一行。途中ハプニングもあったが、全員無事のようであった。命とブレイズがホッと一息つくように呟く。
「今回の戦いは、なかなか楽しめましたわね♪ できれば、もっと意外性があったほうが良かったですけれど」
「今回の件、ちゃんと報告書を書かないといけないわね‥‥。ゴムパイン‥‥いえ、ボムパインかしら」
小雛は刀の手入れをしながら楽しそうに微笑み。巴は今回のキメラについて正確に報告しようと、戦いのデータを分析し始める。
「ともかく、全員無事でよかったですネ」
「まぁ、当然の結果だよね! 途中ちょっとヒヤリとしたけど‥‥」
全員大きな怪我がなかったことに連が嬉しそうに笑い、白鴉が当然とばかりに胸を張る。だが、白鴉は途中少し弱気になったことを隠したいようであった。
「何はともあれ、依頼完了だね!」
「さ、触るんじゃねえよ!」
さつきが元気に声をあげて、ブレイズの肩を叩こうとするが。ブレイズは慌てて、それを避ける。まだまだ、女性が苦手なのは治らないようだ。
「足は大丈夫ですか?」
「ああ、衝撃で痺れただけだからな。痛みももう無い」
「そうですか。ともあれ、ゴムパインは当分見たくありませんね‥‥」
「そうだな‥‥」
命の足を気遣う伊織に、小さく頷いて答える命。下手をすれば骨が損傷してもおかしくなかったが、その心配は無いようだ。防具と鍛えぬいた肉体のおかげだろう。
ともかく、戦いに勝利したとはいえ爆発するゴムパインが出てきた以上、手榴弾の姿はただの脅しではなくなることになる。今後は、対策も今までとは変えていく必要が出てくるだろう。とはいえ、ゴムパインの姿はしばらく見たくないと思う一行であった。