タイトル:美しき御使いの誘惑マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/15 23:35

●オープニング本文


「主よ、どうか我らをお救いたまえ」
 村にある教会で、神父は毎日祈りを捧げていた。バグアという宇宙人がこの地球に現れ、人間は壊滅的被害を受け、キメラという神以外に作られた生命が人々を襲う。このような時代で、神父にはただ祈りを捧げ、神に救いを求めるしかなかった。そんなある日。
「なんだ、鳥か?」
「違う! 人だ、人が飛んでいるぞ!」
「あの人、羽根が生えてるわ!」
 村が急に騒がしくなった。村人達は、空を指差し口々に驚きの声をあげている。教会で祈りを捧げていた神父も、さすがに気になったのか外へ出て村人達に話を聞こうと思った。
「みなさん、どうされたのです?」
「おお、神父さま。あれを、あれをご覧ください!」
「いったい、何を騒いで‥‥あ、あれは!?」
 村人の指差す方角に顔を上げて見上げる神父。その視線の先には、空を舞う人の影のようなもの。人影は、鳥の羽根のようなもので羽ばたき、ゆっくりと村の方へと向かってくる。やがて、その姿がはっきりと見えてきた。白く美しい羽根、金の髪は太陽の光りを反射し眩く光り、均整の取れた体躯には一糸も纏わず、その身体は中世的で裸体を見てさえ男なのか女なのか分からない。
「て、天使だ‥‥天使さまだ! 主が我々をお救いするために、天使さまをお遣いになられたのだ!」
 神父は叫んだ。それは、数々の宗教画に描かれた美しき天の使いの姿。神父は、神が自分達を助けるために使わしたのだと信じて疑わなかった。
「天使さま、どうぞ我々をお救いください!」
「‥‥‥」
 やがて、天使が地上に降り立ち、神父達の前に立つ。神父は跪き、祈りを捧げるように天使に頭を垂れた。村人達は、信じられない様子でお互いに顔を合わせるが、信頼している神父が跪くのを見ると、同じように祈りを捧げる。天使は、何も言わずにその様子を眺めると、小さく頷き自分が向かってきた方角を指差した。
「おお! 天使さまが、我々の行くべき道を指し示された!」
「し、しかし、あちらは宇宙人が占領した地域の方角では‥‥。それに、キメラもうようよいるはず」
「何を言っているのですか! 我々には天使さまがついているのですよ! 私は天使さまについていきます!」
「神父さま!! ‥‥わ、わたしも行きます!」
「俺も行くぞ! 天使さまについていく!」
「待ってくれ俺も!」
 天使の指示に、神父が従い。懐疑的だった村人達も、口々に付き従うことを誓う。そして、村人のほとんどが天使と共に、村を後にするのだった。

「最近、北米の一部の地域で人間の失踪が相次いでいます。皆さんにはその調査を行なってもらいます」
 ULTで依頼を受けた一同は、オペレーターから詳しい内容の説明を受けていた。
「この地域には、まだ人が残っているいくつかの街や村があるのですが、そこの人達が突然失踪するという事件が起きています。最近では、村一つで村人全員が居なくなるという事件も起きました。この地域はバグアとの競合地域も近く、キメラの可能性が予想されますが、村に襲われた形跡も無く、原因がいまだ不明のままです。危険を感じ、村から別の場所へと逃げ出したとも考えられますが、家財などは残っており、また大量の人間が他の街へ移ったという話もありません」
 話によれば、街や村で外へ出た者が帰ってこなかったり、夜知らないうちに居なくなっていたりする事件が起きており。また、村人全員が失踪する事件も起きているらしい。
「これは未確認の情報なのですが、失踪者が居なくなる前に、天使を見たという話があるそうです。もしかすると、この『天使』なるものが、失踪に関係しているのかもしれません。ともかく、これ以上の被害が出ないように、この地域への調査を行い、その原因を突き止めてください。そして、もし可能であれば、原因の排除もお願いします」

・依頼内容
 失踪事件の調査
・概要
 北米南東部の地域で、原因不明の失踪事件が起きている。これを調査し、原因を突き止め、可能であれば排除せよ。
 同地域は、バグアとの競合地域も近く、バグアの仕業の可能性も高い。付近にはすでに人の避難した無人の街や、キメラの生息している森などもある。ただし今のところ、失踪者が何者かに襲われた形跡や、それに抵抗した様子もない。
 今回、調査への特別な支援は行なわれない。必要な物資があれば、各自で用意すること。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
白鴉(ga1240
16歳・♂・FT
シェリー・ローズ(ga3501
21歳・♀・HA
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
八百 禮(ga8188
29歳・♂・DF
命喰(ga8264
26歳・♀・DF

●リプレイ本文

 森の中を一人歩くセーラー服の女生徒。どこか不安げな様子で周囲を見渡しながら、森の奥へと進んでいく。時間は日中、空には太陽が昇っており、森の中を淡く照らしている。
「‥‥‥」
 その森がある場所は、人間とバグアとの競合地域になっていた。ここにもキメラの生息が確認されており、何故女生徒がこのような場所へと来たのかはわからないが、いつキメラに襲われるともわからない状況で、大変危険なのは間違いなかった。
「‥‥!!」
 静かな森の中、突如女生徒は空を見上げた。大きな鳥の羽ばたきのような音に気づいた彼女は、見上げた空にそれを見た。太陽の光を背に、純白の羽根を輝かせた、人の形をした何か。均整が取れた美しい肢体、それでいて女性なのか男性なのかわからない、いわゆる『完成された肉体』を持った存在。人はそれを、『天使』と呼び、恐れ敬う。
「おぉ天使様‥‥」
 地に降り立ち微笑みかけるその姿に、女生徒はゆっくりと近づきながら、期待と畏怖の入り混じった声でその存在の名を呼び‥‥。
「って、言うと思ったかい!」
「!?」
 突如、女生徒‥‥いや、セーラー服を纏ったシェリー・ローズ(ga3501)は、隠し持っていた刀で、天使型キメラに斬りかかるのだった。

 数日前、依頼を受けた一行は、事件の起きた地域の街へと情報収集に来ていた。
「最近ここいらで出てるキメラを知ってるか?」
「な、なんだいあんた!?」
 ブレイズ・S・イーグル(ga7498)の問いかけに、町人の男が怯えたようにあとずさる。いきなり厳つい男にぶっきらぼうな口調で話しかけられれば、怯えるのも無理は無い。
「ああ〜、申し訳ありませんね。実は私達、ULTからこの辺りで起きている失踪事件についての調査を依頼された者でして」
「あ、ああ‥‥そういうことか」
 割ってはいるように、八百 禮(ga8188)が柔らかい物腰で説明する。それにはさすがに男も納得したようで、話を聞く態度になった。
「何か知っていることがあれば、教えていただきたいのですが」
「そうだな、たしかに最近おかしな失踪が相次いでるよ。でも、あれってバグアの仕業なのかい?」
「と、いいますと?」
「いや、よくわからねえけど、失踪したやつらも誰かに襲われたとかそういう形跡はないらしいし。夜逃げでもしたんじゃないかとか‥‥」
 男の話では、失踪者は襲われた形跡などはなく、またキメラが近くに現れたということも無いようであった。
「なるほど、痕跡を残さず自主的にどこかへと連れ去る‥‥。何かしらの扇動工作、素敵科学による精神操作‥‥心が弱っている人間は脆いですから、其処につけこめばそれ程労せずに目的を達成できる事でしょうしね」
「さっさと出てきてくれれば手間もかからねぇんだがな‥‥」
 禮は興味深い様子で笑みを浮かべながら、自分の考えを口にする。一方ブレイズは顔を顰め、面倒そうな様子で肩を竦めた。

「ああ、隣村の事件な。俺も聞いたときにはびっくりしたぜ」
「その話、詳しく聞かせてくれないか」
 神無 戒路(ga6003)は、情報収集のために色々な人から話を聞いていた。そこで、一つの村の住人が全員失踪した事件についての話を聞く。
「ああ、なんでも住民が丸ごと失踪したそうじゃねえか。ついにキメラにやられたのかと、こっちでもかなり話題になったぜ。次にやられるのはこの街じゃないかとな」
 男の話では、時々失踪のあった村へと物資を運ぶ者が、突然村に誰もいなくなったという情報をもたらして話題になったらしい。
「その情報は間違いないのですか?」
「ああ、そいつは嘘をつくようなやつじゃないし。それに、あとで兵隊さんが確認に行ったから間違いないだろう」
 同じく聞き込みを行なっていた神無月 紫翠(ga0243)の問いに、男は頷く。事前にULTで受け取った資料にも、特別不審な形跡が残された様子は無いようであった。
「しかし、キメラに襲われた形跡が無いって言うじゃないか。一体何が起きたんだろうな」
「そうか、他に何か知っていることは?」
「いや‥‥そうそう、隣村には信心深い神父さんがいてな。村でもかなり人望は高かったんだ。もしその人が村から離れることを主張すれば、たぶんみんなついてったんじゃないかな?」
「神父‥‥」
「ああそれより、そっちの姉ちゃん! 一緒に飲みに行かないか?」
「自分は男ですが?」
「げっ‥‥」
 男の言葉に、考え込むように呟く戒路。男に、女と間違われて酒に誘われた紫翠は、それにニッコリと笑みを浮かべたまま答え。男はバツが悪そうにそそくさと逃げていってしまった。

「これといった痕跡は無しか」
 住民が全員失踪した村を訪れた九条・命(ga0148)は、一通り調べ終わってから呟いた。話に聞く通り、村がキメラに襲われた形跡は無く。また、家屋に残った備品の様子から、ある程度出かける準備をしてから居なくなった様子に、住民達は自主的に村を出て行ったように思える。だが、付近の街で逃げ出した住民が現れた様子も無く、となると彼らはどこへ向かったのか。
「まるでミステリー小説の様な事件だが、バグアが絡んでいる可能性を考慮すると‥‥」
 呟いて、ギリっと奥歯を鳴らす命。あまり面白い想像にはならないようだ。
「ここにはもう、手がかりになるようなものは何も無いようだね」
 同じく村を見て回っていたシェリーが、小さく肩を竦めて首を横に振った。ピンク色の派手な衣装を身に纏った彼女だが、意外に地道な調査もこなすようだ。
「まぁ、住民は自主的に出て行った様子だから、敵には何某かの魅了効果があるのかもしれないねぇ」
「もしそうだとすると、俺達も危険なわけか」
「はっ、魅了なんて、精神の弱いやつがかかるもんさ。あたしなら、大丈夫だよ」
 命の言葉に、シェリーは鼻で笑い飛ばす。一度全てを失った彼女にとって、信じるものは自分だけなのかもしれない。

「まちがいねぇ、あれは天使様だぁ。俺は天使様を見たんだぁ」
 街で聞き込みを行なっていた白鴉(ga1240)と命喰(ga8264)は、天使を見たという男の情報を聞いていた。
「天使‥‥なんてメルヘンなんだろう。俺昔からメルヘンに憧れてたんだ! ねぇねぇ、その天使はどこで見たの!」
「天使‥‥何故でしょう、その言葉を聞くと、酷く不愉快に感じます」
 天使と聞き、嬉しそうに男の話を聞く白鴉。それに対し、命喰は天使という言葉に、普段キメラに対し感じる以上の殺意を覚える。本人にもその理由は分からないようで、気分が悪いように表情を硬くした。
「森の方へと飛んでったんだ。でも、森にはキメラがいるから、怖くて追いかけられなかったんだ。ああ、きっと天使様なら、俺達を助けてくれるはずだったのに」
 男の話では、天使はキメラが生息する森の方へと姿を消したらしい。しかもその森は、住民が失踪した村の近くでもあった。
「話が間違いなかったら、この森がやっぱり怪しいよね」
「そうですね‥‥。今回の事件、この天使が関わっている可能性が高い‥‥」
 話を聞き終えた二人は、この『天使』が今回の事件に関係すると考え、仲間達に連絡をするのだった。

「ええ、私達も天使について似たような話を聞きました」
「その天使の情報を、被害のあった範囲、日時と当てはめるとぴったりくるな」
 その後の調査で、禮達も天使についての情報を得ていた。それらの目撃談と、失踪事件の情報を照らし合わせた命は、情報が符合することに納得し天使と事件の関連を認める。
「天使さまねぇ‥‥どうだい、ほかに案が無ければ、いっそ誰かを囮にしてみるってのは?」
「囮ですか、しかし危険なのでは? 該当の森には他にもキメラが生息しているといいますし」
「大勢でいれば、姿を見せないかもしれないよ? 何ならアタシがやってやってもいいけどね」
 シェリーの提案に、紫翠は危険性を口にするが、シェリーは自ら囮になると言う。結局、他に良い案も無かったことから、シェリーの囮役が決まり、一行は森へと向かうことになるのだった。

 こうして囮となったシェリーは天使と遭遇し、戦いは始まった。シェリーの攻撃を辛うじて避けた天使は、すぐに羽根を広げ空へと飛び上がる。シェリーは間髪入れず斬りかかるも、空中へと舞う天使を捉えることができない。
「ちっ、踏み込みが甘かったか」
「キー!」
「はっ! 人語も話せないような下等な生物が、天使とは笑わせてくれるよ!」
 舌打ちし天使を見上げるシェリー。端整な顔を歪め、怒りを表すような奇声を発する天使に、シェリーは嘲笑うように言い放つ。それに対し、天使は空中に浮いたままなにやら両手をシェリーに向けて突き出す。
「っ!?」
 不審に思ったシェリーは、とっさに後ろに飛び退る。その直後、シェリーの前を何か淡い光のような物が通り過ぎていった。太陽の光のせいで、ほとんど見分けはつかなかったが、間違いなくそれは天使の放った攻撃だった。
「明かりのせいで、ほとんど見えないっ! やっかいな攻撃だねぇ」
 淡い光の弾は、太陽の光で隠れてしまう。攻撃を避けるには、天使の再び攻撃を行なってくる気配に、直感で避けるしかない。流石の夜叉姫も、見えない攻撃には苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。と、そこへ‥‥。
「いい加減慣れて来たな。何回同じような敵を相手にしていればな。いい加減降りてもらうぜ」
「空中に居れば安全とは限らないな。堕ちろ」
「!?」
 天使へと放たれた矢と弾丸。隠れて待機していた紫翠と戒路が、それぞれ弓とライフルで天使へと攻撃を開始したのだ。そして精密な射撃は、天使を地に落とすために、羽根へと命中し‥‥。
「フォースフィールド!?」
「壁に阻まれ、かすり傷か‥‥」
 しかし、天使に攻撃が当たる直前、赤い壁のようなものが現れ、二人の攻撃を受け止める。攻撃はその壁を突き抜けるが、威力は殺されたようで、天使はかすり傷程度しかダメージを負わなかった。どうやら、通常のキメラよりも強力なフォースフィールドを持っているようだ。
「うぉー! メルヘンゲットだぜ!! くぁー、俺にも翼があればなぁー、敵ながらかっこいいぜ‥‥」
「バカなこと言ってるんじゃないよ! 気に食わないねぇ、そういうキラキラしたのってさぁ」
 戦闘が始まり、隠れていた仲間達も姿を現す。白鴉は天使の姿に興奮するようにはしゃぎ声をあげた。そんな白鴉に怒鳴りつけながら、シェリーは天使を睨みつける。
「天使‥‥! 右手の刻印が疼く‥‥?」
「困りましたね、あちらさんも仲間を呼んだようですよ」
 命喰は、覚醒し右手に浮かび上がった刻印の疼きに顔を顰めた。そして禮が新しい天使の出現に気づき、苦笑しながら空を指差す。いつのまにか最初の一匹を合わせ、三匹の天使が上空を飛んでいた。
「ふん‥‥おいでなすったか」
「長引かせれば不利だ、短期で決着をつけるぞ」
 その様子に、ブレイズは不敵に笑い。命は冷静に周囲の地形を確認する。
「相手は、微かに光る衝撃弾のようなものを飛ばしている。日中じゃほとんど見分けがつかないから、気をつけるんだよ!」
 銃に武器を持ち替え応戦しつつ、天使の攻撃に注意を促すシェリー。しかし、戦闘中に微かな光を見分けるなど至難の業、どうしても少なからずダメージを受けてしまう。
「ぐっ、これは結構効きますね‥‥」
 衝撃弾を受けた禮が苦痛に顔を歪める。天使の攻撃は、外からの衝撃ではなく、中から生命活動を乱す攻撃。外傷は無いが、身体に直接響くような苦痛に、抵抗の弱い者は多くのダメージを受けてしまう。通称『神弾』と呼ばれるものだった。
「ちぃ、この攻撃、剣で受けることもできねぇ」
 剣で攻撃を受けようとしたブレイズだったが、神弾は無生物をすり抜け、肉体にだけ影響するため防ぐことはできない。
「とにかく攻撃を翼に集中させて、空中から落とす」
 紫翠の言葉に全員が頷き、それぞれが空中の天使へと攻撃を繰り出す。
「この一撃も止められるか?」
「そこだ」
 紫翠は目にも留まらぬ影撃ちで、死角から確実に天使の翼を撃つ。そして、それに合わせるように、戒路も鋭角狙撃で狙い定めた一撃を加えた。
「いつまでも、あたしを見下ろしてるんじゃないよ!」
「落ちろォ!!」
 シェリーとブレイズは、手に持った剣から衝撃波を飛ばし、天使の翼を切り裂く。
「あなたが天使だというのなら、私は悪魔で結構です。‥‥悪魔らしく殺してあげましょう」
 命喰は、円形の持ち手に外向きの刃が突き出た特殊な形状のブーメランを構え、フリスビーのように投げつける。回転した刃が風を切り勢いよく天使へと向かうと、鋭い刃が翼を切り裂き、そして再び命喰の手元へと戻ってきた。
 そうして、さすがの天使達も連続して翼を狙われれば、悲鳴をあげて羽ばたく力を失い、地へと落下するしかなかった。
「天使も翼をやられれば、俺達と条件は変わらないよね!」
「神は己の外には居ない、己の内にこそ神は存在する。俺の恩師の教えだ、故に天使を狩るのに一切の躊躇いも惑いも無い。それで救いを断たれたと思われようともな。迷わず天に還れ」
 地に落ちた天使達に、白鴉と命が追い討ちをかけた。長い槍と力強い足技で翼を叩き折り、再び飛べなくして動きを断つ。
「オイ、化け物。もう手の内は終いか‥‥?」
 反撃をしようと腕をあげる天使に、ブレイズが両手剣を勢いよく振り下ろし、その腕を叩き斬った。そして、血飛沫をあげながら断末魔の悲鳴あげる天使を、蔑むように睨み付ける。すでに、勝負は付いていた。飛べなくなった天使に、もう反撃の余力は残されていない。
「ちっ‥‥気が変わった‥‥」
 天使達の情けない姿に、ブレイズは興味がなくなったように呟くと、シェリーに相手を譲るように後ろに下がった。それに、シェリーは満足そうな表情で天使へと近づくと、苦痛に歪む天使の顔をブーツで踏みつける。
「いい様だね、ようやくキメラらしくなったじゃないか。アタシは『夜叉姫』、さよなら天使さん、ウフフ」
 しばらく靴底で何度も踏みにじったあと、シェリーは持っていた刀を天使の首に突き刺した。そして天使が絶命したのを確認すると、刀を鞘に収める。他の天使達もすでに力尽き、動きを止めていた。
「天使と信じて死んでいった者たちは‥‥救われるんですかね」
 天使の死に様と共に、刻印の疼きが治まりホッとする命喰は、消えていった人々を想い言葉を漏らす。
「さぁ? わかりませんね。死後の世界に行ったことはありませんので」
「ともかく‥‥疲れました。同じような敵を見ていますが、量産ですかね?」
 命喰の言葉に、わざとらしく肩を竦めて首を横に振る禮。紫翠は以前にも戦った天使型キメラとの関連を考えては、笑みを浮かべたままため息をついた。
 その後、失踪した人達の痕跡を探した一行であったが、結局何も見つからなかった。ただ、殺された痕跡も無いことだけが救いだろうか。