●リプレイ本文
「私も新兵のようなものだし、オリエンテーリングにも興味がある‥‥ここはひとつやってみるか」
「いつもの口癖が出ない、こんな日も珍しいな。やっぱり、良い年こいてるくせにオリエンテーリングにワクワクしてるのかもしれない。偶には物騒な物振り回さないで競い合うのもまた一興‥‥」
スタート地点に集まった一行。弓削 鷹人(
ga9709)と草壁 賢之(
ga7033)がやる気を見せるように呟く。二人ともオリエンテーリングというゲーム感覚の訓練を、少し楽しみにしているようである。
「皆さんは傭兵の方々ですね! 俺達は兵士組の一斑です! 今日はよろしくお願いします、お互い正々堂々がんばりましょう!」
そんな彼らに最初に挨拶してきたのは、いかにも真面目な兵士風の男達。通称『熱血チーム』の面々である。爽やかな笑みを浮かべて握手を求め、元気な挨拶を交わして颯爽と去っていった。
「ふっ、なかなか見所がありそうなヤツラじゃないか。期待できそうだな」
そんな熱血チームの様子に、UNKNOWN(
ga4276)がニヤリと笑みを浮かべる。
「歴戦の傭兵を集めたと聞いて見に来て見れば‥‥。勘違いした演劇俳優に、女子供。所詮は一般人に毛が生えた程度か」
そこへ現れたのは、嫌味な笑みを浮かべ、他人を見下したような視線を向ける男達。通称『インテリチーム』のやつらだ。UNKNOWNの衣装や、ほかのメンバーの様子を見ては馬鹿にするように笑って肩を竦める。
「何故我々が君達のような一般人や、下級兵士と同じ場で訓練をしなければならないのかわからないが、所詮エリートである我々の敵ではないということだな」
「なるほど‥‥この程度の新兵が相手か、いい小遣い稼ぎだな」
「なに?」
そんなインテリチームに、クロスフィールド(
ga7029)が嫌味を言い返す。その言葉が気に障ったのか、男達はクロスフィールドに不審気な視線を向ける。
「待て、安い挑発には乗るな。ふっ、お前達が口だけでないと証明できるように、せいぜいがんばるんだな」
クロスフィールドの言い様に、激昂しそうになる仲間を制し、最初に声をかけてきた男は再び嫌味な笑みを浮かべてその場を去っていった。
「へっ、エリート気取りのボンボンどもに、いいタンカ切るじゃねえか」
その様子を見ていたのだろう、厳つい男達が声をかけてくる。通称『ならず者チーム』、一見してあまりお近づきになりたくない者達の集まりである。
「最初に言っておく、勝つのは俺達だ。てめぇらは、邪魔にならねえようにせいぜい俺達の後ろにいやがれ。いいか、俺達の邪魔をしやがったらただじゃおかねえぞ!」
先ほどまで浮かべていたニヤニヤ笑いから一転、厳つい表情を浮かべると恫喝するような大きな声を出して睨みつける男達。兵士というよりは、チンピラである。
「お前達の相手などする気もない。邪魔だ、失せろ」
「はいはい、わかったから、さっさとどっかいってくれ」
そんなならず者達に、粟原乾(
ga9783)と唐沢哲也(
ga9664)が相手をするのも面倒だとばかりに言葉を返す。その態度に激昂し、一瞬即発状態になる男達。
「貴様ら! なにやっとるか!! 訓練を始めるぞ、さっさとスタート位置に付かんか!」
「ちっ! てめぇら覚えてやがれ。こういった訓練にはハプニングが付きものなんだぜ。せいぜい用心するんだな」
そこへ、教官であるデイビット軍曹の怒声が響き、男達は捨てゼリフを残して去っていった。
「大丈夫だったかい? 僕達もあいつらには困ってるんだ。はぁ‥‥なんで軍なんて入っちゃったんだろう‥‥」
最後に声をかけてきたのは、通称『怠け者チーム』。なんともやる気の無い様子で、ため息などついている。
「大丈夫、俺達は気にしてないから。それに、あんな奴らに俺達は負けないよ」
「凄い自信だね、どうかお手柔らかに頼むよ。僕達は本当はこんな訓練に参加したくなかったんだけど、これに勝てたら除隊してもいいって言われてね」
「本当に‥‥それでいいんですか‥‥?」
「ああ‥‥。こんな時世だし、何もしないよりはと軍に入ったし、エミタの手術も受けたけど‥‥。こんな窮屈な所でしごかれるのはもうこりごりだよ」
「‥‥‥」
諫早 清見(
ga4915)が気にした様子も無く笑みを浮かべて答えるのに、やはりやる気が無い様子で苦笑いする男達。朧 幸乃(
ga3078)の問いにも小さく首を横に振り、肩を竦めてその場を離れていった。
「よしお前ら! 訓練を開始するぞ!」
再びデイビット軍曹の怒声が響き渡り、全員がスタート位置に付く。そして、準備が整い開始の合図が鳴り響いた。
「よーい! スタート!!」
「よし、いくぞみんな!」
「おーー!!」
スタートの合図と共に飛び出したのは熱血チーム。全員覚醒状態となり、猛ダッシュで駆け出す。それを追って、ならず者チーム、怠け者チームも走り出していった。
「ペース配分も考えずに、闇雲に走るのは愚の骨頂だね」
それに対し、インテリチームは体力と錬力の温存のためか、ゆっくりとしたペースで進んでいく。
「さて、我々もいくぞ。第二コースまでのルートは頭に入っている。最短を突っ切るぞ」
「うしッ、根性据わってないひよっこ新兵なんて、泣いたり笑ったり出来なくしてやるさ‥‥ッ!」
「あんまり体力には自信はないんだが‥‥そうは言ってられないか」
UNKNOWNの先導の元、一行も覚醒し走り始める。賢之は左掌に拳を打ち合わせて気合を入れ、クロスフィールドは苦笑して肩を竦めた。
それからしばらくして、ルートもほぼ一本道になり、長距離持久走の様相を呈してきたころ。
「あれは?」
一行は先を走っていたはずの怠け者チームがゆっくりと歩いているのを見かける。
「どうした? さあ、走れ走れ。足を止めて後ろを見てばかりでは何も解決せん」
「あ‥‥、皆さんどうも」
UNKNOWNがハッパを掛けるように声をかけるが、彼らは苦笑を返すだけだった。もうやる気を無くしたのかと呆れそうになったが、よく見ればメンバーの顔に殴られた痕が。
「その顔、どうした?」
「あ、これは‥‥いや、ちょっとあいつらにやられちゃって」
聞けば、どうやらならず者チームに殴られ、自分達より先に出るなと脅されたようだ。
「やっぱり俺達には無理なんでしょうかね‥‥はは‥‥」
「お前達はそれでいいのか? 諦めて、逃げて、何も出来ないで終わるのか?」
「そ、それは‥‥」
「戦うと覚悟したなら、それを突き通せ。それは、兵士でも兵士でなくても一緒だ」
「‥‥‥」
そう言葉を残し、UNKNOWN達は彼らを置いて走り続ける。手助けはしない、自分達の力で乗り越えて欲しいからだ。そして、チラリと後ろを振り返ると、少し逡巡したあと彼らもまた走り始めていた。
「だが、自分のために他人を蔑ろにするなど‥‥到底許せるものではないぞ」
しかしならず者チームの様子に、鷹人は怒りを覚える。それは仲間達も少なからず同じ気持ちだった。
「ここが次のコースだな」
それからしばらく走ると、地図にあった第二コースの森に辿りついた。ここからは木々が生い茂った森を進まないとならない。
「弓削さん‥‥大丈夫?」
「少し疲れましたが、まだ大丈夫かな」
幸乃が少しくたびれた様子の鷹人を心配するが、鷹人は苦笑しつつ頷いた。20キロ近い道のりを走ってきたので多少息が上がっているが、エミタ能力者のためまだまだ走る元気は残っているようだ。
「うわーー!」
そこへ悲鳴が聞こえてきた、先に森に入ったチームが、トラップに引っかかっているようだ。どうやら一筋縄ではいかないようであったが、通常の道を通って行ってはタイムロスなのは間違いない。
「さて、俺の出番かな。草壁センサー始動‥‥っと。サイフとか落ちてないかな‥‥」
「真面目にやってくれ。探査の目発動」
一行は、賢之と乾が先頭に立ち、トラップに注意しながら森へと入っていく。賢之は覚醒すると特に感覚が鋭くなる特性を持ち、乾も探索に有効な技能を持ち合わせていた。それらを駆使して、トラップを避けていく一行。
「やぁ君達!」
そんな一行に声をかけてきたのは、熱血チーム。しかしその格好は、足を吊るされて逆さま状態であった。
「あ〜、なにやってるんですか?」
「いやー、ちょっと罠に引っかかってしまってね!」
一応返事を返す賢之に、逆さまのまま爽やかな笑みを浮かべる熱血チーム。トラップにかかっているというのに、随分と元気な様子だ。
「君達も気をつけたまえ。教官のトラップは、当たり所が悪いと死ぬからね」
「マジかよ、勘弁してくれ‥‥。あ、それじゃ、俺らは先に進みますので」
「ああ! 我々もすぐに抜け出して、追いかけるよ!」
とりあえず、この様子なら手伝わなくても大丈夫と判断した一行は、彼らを置いてその先へと進んでいくのだった。
一行が森を進んでいくと、落とし穴や逆さづり、丸太ころがしに木杭、果ては火薬を使った本格的なものなど多種多様なトラップが仕掛けられており、回避する側も一苦労でかなりのタイムロスをすることになる。
「ん、あいつら何かあったのか? ‥‥こいつは使えるな」
だが、それはほかの者も同じようで、一行は同じく森を突っ切っていたならず者チームのメンバーに追いついた。クロスフィールドがならず者達の様子に、ニヤリと笑みを浮かべる。
「てめぇのせいで罠に引っかかっただろうが!」
「うるせぇ! てめぇがちんたらと進んでるのが悪いんだろ!」
「はいはい、新兵同士仲良くやれよ。じゃあな」
どうやら、トラップに引っかかったのをお互いのせいにして仲間割れしているようだ。クロスフィールドはそんな二人の腕に手錠をかけると、さっさとその場をあとにしてしまう。
「な、なんだ!? なにしやがる!!」
「待て! 引っ張るな! 痛ぇ!!」
怒って追いかけようとしたならず者二人だったが、突然の手錠に対応できずお互いの足を引っ張り合う形になってしまっている。あの様子では、当分身動きが取れそうに無いだろう。
その後も、いくつものトラップを抜け、一行はようやく森を抜けるのだった。
「どうやら橋は無事のようだな。これは必要なかったか」
第三コースまで辿りついた一行は、渓谷に沿って進み、吊り橋へと向かった。吊り橋は縄と木の板で作られた古いもので、いつ落ちてもおかしくない様に見える。吊り橋が落とされていることを警戒していた一行だが、どうやらまだ無事のようだ。というのも、実は彼らが現在一番先頭となっていた。鷹人はいざという時のためにと集めておいた木の枝が必要なくなったので、ひとまずそれを捨てる。
「さっさと渡って‥‥ん?」
橋を渡ろうとした一行が、ふと後ろを見てみると別チームの姿が。どうやら、インテリチームのようだ。道沿いを走り、トラップを避けてきたようだが、結果的に他のチームより早く森を抜けたようである。とりあえず一行は追いつかれる前に、吊り橋を渡ることにした。
「疲れた! ぜってぇここで休む!」
「たしかに、次がどんなコースかもわからない。休憩は必要だな」
谷を抜け、第四コースにある村へと辿りついた一行。哲也と乾が村での休憩を提案する。たしかにここまで覚醒しどうしで、体力的にも精神的にも疲労のピークに来ていた一行は、ここで一度休憩をとることにした。
「おや、ここで休憩か? ペースも考えずに突っ走るからそうなるんじゃないか? それじゃお先に」
そんな一行を嘲笑うかのように見て、村を素通りするインテリチーム。だが、一行とほとんど同じタイミングで橋を渡ったにしては村に来るのが遅いように感じられた。
「他のチーム遅いな」
それからしばらく休憩した一行だが、その間別のチームが村を抜けることはなかった。そんなことに不審に思っていると。
「後ろの様子を見てきた。どうやら橋が落とされているようだ。やったのは恐らくインテリチームだろう」
「!?」
他チームの様子を探っていたクロスフィールドの報告で、吊り橋が落とされていることがわかった。
「どう‥‥します?」
「怪我人は無いようだし。放っておいてもかまわないだろう。彼らもこの程度のこと自力でなんとかするべきだ」
助けに行くべきかと問う幸乃に、クロスフィールド達は一様に自分達で何とかするべきだと考え、何もしないことにした。
「おーい、この先のことを村の人に聞いてきたけど‥‥なんと」
「地雷原だと〜!」
第五コースへと向かった一行に、先を進んでいたインテリチームの叫び声が聞こえた。清見が村で聞いてきた話だと、一時期キメラを食い止めるために荒野に地雷を設置して、いまもそのままらしい。現在では一般人立ち入り禁止区域となっている。万が一の危険に怯え、インテリチームは地雷原へと入れないようだ。
「最後の最後で度胸試しか」
「ったく勘弁してくれ‥‥まぁ、やるっきゃないか」
「お、お前達!?」
そんなインテリチームを尻目に、乾と賢之が先頭に立ち、地雷に気をつけながら地雷原へと入っていく。
「頼んだぞ二人とも」
一行の中でUNKNOWNがもっとも直感に優れていたが、二人を信じて先を任せる。そして、彼らの後ろを臆することなく進む一行。
「な、何故、そんな風に何事も無く進める! 一歩間違えば、大怪我ではすまないんだぞ!」
「俺達は仲間を信じてるから。協力しあって、そして信じあう。信じてるから、怖くないし、もし何かあっても今度は俺が助けるしね」
「‥‥‥」
一行の様子を信じられないように見るインテリチームに、清見はニッコリと笑って答えた。そして、一行は地雷原を抜けデイビット軍曹のもとまで辿りつく。
「やはり一位は諸君らか。おめでとう、そしてご苦労様。諸君らの姿を見て、あいつらも少しは何かを感じ取ってくれればいいんだが」
デイビット軍曹の労いの言葉。そして、いまだ地雷原の前で立ち尽くしているインテリチームを眺めて、デイビット軍曹は苦笑した。
「ともかく、諸君らには一位の報酬としてこれを渡そう」
そう言って、デイビット軍曹から手渡されたのはペンダント状にされたコイン、通称『幸運のメダル』だった。戦場から無事に帰還できるようにという、デイビット軍曹からの気持ちなのだろう。
その後、しばらくして各チームがゴールをする。意外なことに、二位はあの怠け者チームと呼ばれた者達だった。自力で渓谷を越え、勇気を持って地雷原を越えたようだ。きっとそれも、一行の姿に何かを感じ取ったのだろう。
「お前らにはまだまだこのメダルは渡せんな! これからまたきっちり鍛えなおしてやる! まず最初に、この地雷原の地雷駆除からだ!!」
これからも、新兵達は軍曹に鍛えられ多くのことを学び。そしてきっと、共に戦う立派な兵士になっていくのだろう。