タイトル:街警備ストラテジーマスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/03 04:23

●オープニング本文


「隊長〜、発見しました」
 双眼鏡を覗きながら、UPCの兵士が部隊の隊長に報告をする。彼の視線の先には、一匹の猛獣の姿。しかもただの猛獣ではない、キメラと呼ばれる異星人の作り出した生物兵器だ。
「よし、周囲に他のキメラはいないか?」
「はい、ヤツだけのようです。どうしますか?」
「‥‥駆除を行なう。全員準備を開始しろ。引き続き警戒を怠るなよ、別のキメラに気づかれるとまずいぞ」
「イエッサー」
 隊長は、周囲に別のキメラが居ないことを確認させてから、作戦の開始を他の隊員に伝える。彼らはすぐに兵装の準備を開始した。
「全員準備完了いたしました。いつでも攻撃を行なえます」
 しばらくして、攻撃準備が完了し、兵士が隊長に報告する。その彼らの兵装は、対物ライフルと呼ばれるもので、一般的な装甲車や軍用ヘリさえ撃ち抜くことが可能な代物である。過去には対戦車ライフルとも呼ばれていた。本来なら、生物にそこまで強力な火器を用意する必要はない。しかしエミタ能力を持たない一般兵士では、キメラに対してこのような兵器を用いなくてはダメージを与えることも難しいのだ。
「一撃で仕留めろとは言わん。だが、けして逃がすなよ。下手に逃がせば、仲間を呼びかねん」
「わかってますよ、隊長殿」
 一匹のキメラに、4丁のライフルで狙いを定める。2脚を用いて接地し、射手は身体を地面に伏せ、スコープを覗き込む。一瞬の緊張、隊長は双眼鏡を覗きながらキメラの動向を確認しタイミングを計る。
「‥‥撃て」
 隊長の合図と共に、4丁のライフルから弾丸が吐き出される。しかもセミオートのそれからは、連続で何発もの弾丸が放たれている。弾丸は、キメラに当たる直前、フォースフィールドの障壁に阻まれ威力を殺されるも、突き抜けてキメラに突き刺さる。さしものキメラも、複数の弾丸に撃ちぬかれるとその身を震わせて、やがて力尽き地に伏せる。
「目標沈黙!」
「やった!」
「よし、引き続き周囲を警戒しつつ、撤退を開始する」
 隊長の指示に、全員は素早く兵装を片付けると、そのまま撤収を行なった。

「みんな、おつかれさん」
 北米南部の街にある駐屯所へと帰ってきた兵士達に、労いの言葉をかける隊長。彼らは、競合地域に近いこの街を守る兵士達であった。戦略的に対した価値のない街のために、派遣されている兵士の数は少ないが。日夜、街に近づくキメラを追い払っている。
「‥‥以上! それでは、飯にしてくれ」
「今日も無事で帰ってきたね〜」
 隊長が普段通りに今後の指示を出し、兵士達は食堂へと向かう。食堂では、恰幅のいいおばちゃんが、兵士達のために夕飯を用意していた。
「今日は珍しく良い食材が入ったからね、みんな味わって食べとくれよ〜」
 そう言って笑うおばちゃんに、兵士達も一様に笑みを浮かべて夕食を開始する。みんな、美味しそうに、そして豪快に大量の食事を腹に収めていった。それは、いつもと変わらない風景である。
 しかし、その晩‥‥。
「っ! い‥‥痛ぇ‥‥は、腹が‥‥!!」
 突然腹痛を訴える兵士達。なんと、駐屯所の兵士達が全員、食中毒になってしまったのだ。夕飯の何かが当たったらしい‥‥。

「というわけで、警護を担当していた兵士が、集団食中毒で治療を受けているため、その一時的な処置として街を守るように依頼がありました」
 ULTで依頼を受けた能力者達は、オペレーターに依頼の詳しい内容を聞いていた。集団食中毒で身動きが取れなくなった兵士達の代わりに、街の警護を行なうというものである。

・依頼内容
 街の護衛
・概要
 北米南部の競合地域付近にある街の警備を行なうこと。
 付近にはキメラが出没することもあるため、警備中に発見した場合はこれらの駆除も行なう。
 依頼は数日間行われ、依頼中は軍の駐屯所に滞在することになる。
 駐屯所には軍用ジープが二台あるので、これを使用して周囲の警備を行なう。ジープには無線がついており、駐屯所を中継点として連絡を取り合うことができる。ただし、中継点である駐屯所に最低一人は連絡要員として残ることが必要。
 当依頼はUPCからによるもので。依頼遂行中は軍服の着用が義務となる。また、UPCの兵士としてモラルが無い行動は慎むこと。軍服については、UPCから一時的に貸与されることとなる。
 ちなみに、今回の集団食中毒には一切の事件性はない。
・地域説明
 街とその付近の地域の説明。これらは特にキメラが出没しやすい場所になる。各所は、それぞれ車で二時間程度の距離。

a.駐屯所 能力者達が滞在することになるUPCの駐屯所。ここを拠点にして、付近の警備を行なう。
b.街 駐屯所近くにある街。警備を行なう対象であり、また物資の調達など雑用を行なう場所。現在ここの病院で兵士達は治療を受けている。
c.森1 街の南東にある森。比較的大きく、端から端までまっすぐ歩いても一時間ほどかかる。野生動物だけでなく、ときおりキメラの姿も。
d.森2 街の北東にある森。森1ほど大きくなく、林か大きな公園程度。キメラを見ることはほとんどない。
e.民家1 街から南へ道沿いに進むとある、打ち捨てられた民家。キメラの被害にあったのか、所々壊れており、住民はいない。近くには農場もある。
f.民家2 街から北へ道沿いに進むとある、打ち捨てられた民家。一般家庭の住居で、付近にいくつも同じような民家が点在している。どれも、すでに住民は避難済み。
g.荒野 街から道沿いにずっと東へと進む先にある荒野。岩が点在している程度で、大変見通しが良い。そのまま進むと、競合地域となる。
h.廃墟 荒野を少し進んだ先にある街の廃墟。以前にバグアの襲撃で建物は壊され、住民などはすでにいない。この辺りは競合地域となっており、多くのキメラがこの付近に生息している模様。

・警備の仕方
 朝昼晩をそれぞれ1ターンとし、1ターンごとに各地に移動、キメラの発見を行なってもらいます。キメラを発見したらこれを駆除します。キメラの種類は、猛獣型、爬虫類型、虫型と様々ですが、さほど強力なキメラはいません。だいたい目安としては依頼期間(4〜5日)のうちに、4〜5匹ほど駆除してください。
 駐屯所と街以外の各地の警備を行なうと、1ターンごとに5〜10程度の錬力を使用します。特に晩は、駐屯所以外の場所に居た場合、より多くの錬力を消費します。錬力がなくなると一日休みになりますので注意してください。錬力は一日が終わると少し(最大値の20%程度)回復します。
 駐屯所と街以外に移動するには車が必要です。用意されている車は二台なので、二手に分かれるのがいいでしょう。ただし、駐屯所に誰か残っていないと連絡を取り合うことができません。
 「h.廃墟」へ行くには、一日(3ターン)かかります。錬力も多く消費するので、向かう場合には注意してください。

●参加者一覧

ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
菱美 雫(ga7479
20歳・♀・ER
白・羅辰(ga8878
17歳・♂・DF
群咲(ga9968
21歳・♀・AA

●リプレイ本文

●一日目・朝
 依頼があったUPC軍の駐屯所に着いた一行は、次の日の朝から警備を開始することにした。
「え〜この服着なきゃダメ? う〜ん‥‥お化粧に合わないわ」
「似合っていますよ」
「そうっすよ! すごくかっこいい!」
「でも、かっこいいより、可愛いとか綺麗とかのほうが私は好きだわ‥‥」
 今回の依頼で着用が義務付けられているというUPCの軍服を着込んだナレイン・フェルド(ga0506)は、少し残念そうに呟く。木場・純平(ga3277)と群咲(ga9968)は美しいナレインの容姿とスラッとした身長に、軍服が似合っていると褒めるが、ナレインは憂鬱そうにため息をついた。ちなみに、ナレインの着ている軍服は女性物である、付け加えて言うならナレインは女性のように美しいが男である。ミニスカートから延びる、脛毛まで綺麗に処理された生足がとても眩しい。
「しかし食中毒か‥‥これから夏だし気をつけないとなあ」
 今回、兵士達が食中毒で倒れたと聞いて、緑川安則(ga4773)は自分達も気をつけねばと考える。
「兵士ともあろう者たちが食中毒とはな‥‥日頃から腹も鍛えていないからこうなるんだ!」
「いや、鍛えてどうにかなるものでもないだろう。ヨーグルトでも食べて、乳酸菌増やすか?」
「やはり筋肉だな! 腹の筋肉を鍛え、毒をきっちりガードする!」
「‥‥‥」
 それに対し、白・羅辰(ga8878)は鍛え方が足りないから食中毒で倒れるんだと答えた。安則はそんな羅辰の考えに苦笑する。
「それでは、私達はキメラの巣食うという廃墟へ行って来ますね」
「お土産は期待しないでくださいね」
 平坂 桃香(ga1831)とオリガ(ga4562)、安則の三人はこの近くにある廃墟へと向かうことになった。近くといっても車で往復一日かかる程度の距離がある。
「あ、あの‥‥。気をつけて‥‥行って来てください。無理はしないで‥‥」
 三人を心配した菱美 雫(ga7479)が声を掛けた。廃墟の辺りはバグアとの競合地域になっており、キメラも多く生息しているようなので、確かに気をつけたほうがいいだろう。三人は雫に頷いて、車に乗り込んだ。
「それじゃ、とりあえず俺は森辺りの調査にでも行ってくっか」
「森‥‥虫が出そうで嫌だわぁ」
 羅辰とナレインは街付近でキメラが現れそうな場所を調べることにする。車は二台しかないので、残った者は街の警備と駐屯所での留守番だ。
「そ、それでは‥‥私は兵士さん達の様子を見てきますね」
「あたしも行くよ! 街の見回りはしっかりしたいしね」
「では、俺は駐屯所に残って連絡を受け持つことにします。菱美さんが戻ってきたら、午後からは見回りに出ますので」
「は、はい‥‥わかりました」
 雫と群咲が街に向かい見回りと兵士達の様子を見てくることになり、純平は駐屯所に残って、無線の連絡を受け持つことになった。

 街へと出かけた雫と群咲は、病院に収容されているというUPCの兵士達のお見舞いを行なうことにした。
「あ、あの‥‥お体の方はいかがですか?」
「ああ、性質の悪いのに当たってしまったらしく、すぐには起き上がれそうにない、本当に面目無い」
「大丈夫! 任せて置いてくださいよ!」
 気遣う雫に、ベッドの上で苦笑する兵士。それに群咲は、ドンと自分の胸を叩いて元気に笑みを浮かべる。
「それでこの街の警備をするにあたって、キメラの出やすい場所や、兵士さんたちは普段どのようなルートで警備を行なっているとか教えて欲しいんですけど?」
「いや、大丈夫だ。君達の警備計画を教えてくれ、こちらがわかる範囲でアドバイスしよう」
 その後、群咲は前任者である兵士達に警備についての情報を聞くことにした。そして部隊長のアドバイスを聞きながら警備のルートやそのほかのこと色々と調整する。
「それと、南東の森にはよくキメラがやってくる。我々が倒れてしばらく探索を行なっていないので、もしかするとまたやってきているかもしれない」
「わ、わかりました‥‥注意してみることにします。それでは‥‥この辺で失礼‥‥します。‥‥少し回復したら‥‥水分補給を、忘れずに‥‥。お大事に、です‥‥」
 情報の提供が終わり、雫達は病室をあとにする。南東の森、そこにはちょうど羅辰達が向かっているところであった。

「結構大きな森ねぇ。探索するのはちょっと大変そうだわ」
「へっ、どんなやつが棲んでいるか楽しみだぜ」
 南東の森へと向かったナレインと羅辰。ここは結構深い森で、遊歩道なども無く、探索には少し手間がかかりそうであった。ナレインは憂鬱そうに頬に手を添えてため息をつき、羅辰は楽しそうに笑って軽くジャブを繰り出す。
「よし、行くか」
「どうか、虫だけは出ませんように」
 意気揚々と森へと入っていく羅辰の後ろを、ナレインは不安そうな面持ちで付いていく。ナレインは虫が大の苦手で、森に虫型のキメラが現れやしないかと心配なようだ。
「なんか現れてもいい頃だと思うんだが‥‥」
「ねぇ、そろそろ次の場所へ向かわない?」
「う〜ん、そうだなぁ。‥‥お!?」
 それからしばらくの探索を行なった二人。そろそろ次の場所へと向かおうかと思った矢先に、前方に巨大な猛獣が現れる。
「いたいた、空気の読める敵だな。さーてお楽しみの始まりだ」
「虫じゃなくて良かった〜」
 猛獣型キメラも二人に気づくと、威嚇するように牙を剥き出しにして唸り声をあげた。羅辰とナレインは、すぐに戦闘態勢に入ると武器を構え、キメラへと向かっていった。
「くらえ、魂のラッシュ!」
 羅辰はボクシングのような軽快なステップを踏むと、キメラへと近づき拳に装着した爪によるラッシュを繰り出す。ラッシュはキメラに命中し大きなダメージを与え、逆に反撃してくるキメラの攻撃を素早いバックステップで回避した。
「虫じゃなければ、怖くなんてないのよ!」
 ナレインも自分の身長よりも長い炎を纏った槍を構え、木々の生い茂る森という狭い空間でも器用に槍を振るい、キメラを刺し貫いていく。そしてほどなくして、キメラを退治することに成功した。
「おし、この調子でキメラを退治していくぞ」
「とりあえず倒せてよかったわ。このまま放置しておいたら、いつ街までくるかわからなかったもの」
 そして二人はもう一度森を見回った後、車へ戻って報告を行い、次の場所の見回りへと向かうのだった。

●一日目・昼
 廃墟へと向かった桃香、オリガ、安則の三人は昼頃に目的の場所へと辿りついた。
「こういった廃墟によくキメラとかいるんだよなあ」
「そうですね、奇襲を受けないよう警戒を怠らず、慎重に行きましょう」
 廃墟は人が住んでいた頃の様子を残しながらも、あちらこちらが壊されており人気が無い。その様子に呟く安則に、桃香は頷いて周囲の警戒に集中する。
「あら‥‥? あれは何でしょうね」
 しばらく探索をしていると、オリガが髪に隠された水銀の様な瞳をキラリと光らせた。その視線の先には、2メートル近い大型の猛獣の姿。
「ターゲット発見ですね、どうします?」
「速やかに排除してしまおう。下手に長引かせると、仲間を呼びかねない」
「わかりました。ですが、無駄な錬力の消費は抑えます」
「そうだな、今回の依頼は持久戦だからな。ド派手なスキル使用はさけないとな」
 キメラの姿を確認した桃香の問いに安則が答え、オリガの意見に頷く。そして、三人は慎重にキメラへと近づいていく。
「攻撃を開始します」
 ある程度近づき、オリガが白銀の弓を構え矢を放つ。矢は確実に命中し、キメラを怯ませた。その隙を突き、桃香と安則が刀を構えて一気に接近、そのまま素早く切り裂く。
「たぁ! ふぅ、やりました」
「よし、これで二匹か。順調だな」
 キメラに反撃の隙を与えず、一気にキメラを切り倒した桃香達。廃墟に来る途中に、純平からの連絡でナレイン達の成果を聞いていた安則は、満足そうに頷いた。
「さて、そろそろ戻らないとならないな。結局倒せたのは一匹だけか‥‥。街へと来るキメラを減らせたんだろうか」
 それからしばらく探索を続けた三人は、それ以上の標的を見つけられずに街へと帰還することになる。安則達としては、もう少しキメラを減らしておきたかった所だが、しかたなかった。

●二日目・夜
 次の日、各自周辺地域への見回りを行なったが、これといってキメラを発見することはできなかった。そして夜になり、まだ余裕のあった桃香と羅辰は周辺地域の見回りへ、ナレインと安則は街の警備へと向かい、残りのメンバーは駐屯所で休憩を行なうことになった。
「あの、せっかくの機会なんで、木場さんに傭兵の心得とか色々聞きたいんですけど!」
「‥‥人に教えられることがあるのかわからないが、俺にわかることならお答えしますよ」
 夕食後、休憩所で純平を見つけた群咲は、エミタ能力者の新人として戦いや鍛錬について色々と教えを請うことにした。それに純平は快く応え、自分の経験などを語って聞かせる。
「あ、菱美さん、食堂のおばちゃんの様子はどうでした?」
「は、はい‥‥その‥‥」
 休憩所を通りかかった雫に声をかける群咲。雫は食中毒事件を起こしてしまった食堂のおばちゃんが気を落としていないか話を聞きにいったのだが、なんとなく言い難そうに困ったような表情を浮かべながら答えた。
「食中毒を出してしまって申し訳なくしてたのですけど‥‥。『でもあたしも食べたのになんとも無かったんだよ。最近の若い子は身体が弱いんだねぇ』って‥‥」
「あ、あはは‥‥」
 どうやらあまり気にしていなかったおばちゃんの様子に、群咲も苦笑するしかない。体質のせいなのかもしれないが、結構なに食べても大丈夫な人はいるものだ。
「あら、皆さんお揃いですね」
「お、オリガさん‥‥その匂いは‥‥」
 そこへオリガもやってくる。手にはコップと何かのビン。雫は彼女から漂ってくるアルコールの匂いに少し驚きの表情を浮かべた。
「の、飲んでるんですか?」
「はい、もちろん。毎晩の習慣ですので」
「は、はぁ‥‥」
「ああ、大丈夫ですよ。明日には残しませんから」
 雫の問いに、当然とばかりに頷くオリガ。たしかに、アルコールの匂いはしているが、酔っている様子はない。
「皆さんもよろしければどうですか、一杯?」
「あたしはちょっと‥‥勘弁」
「俺も仕事中は控えることにしてるので」
「え‥‥あ、あの、私もちょっと‥‥」
「そうですか? 残念ですね」
 自分だけでなく仲間達にも酒を勧めるオリガだが全員断る。それに残念そうな表情を浮かべつつ、オリガはコップに注いだ酒を一気に飲み干した。ちなみに、オリガが飲んでいる酒は『スブロフ』、アルコール濃度99%のアルコール飲料と言うが、ほとんど純アルコールである。噂に聞く酒豪美人、恐るべしである。

●三日目・昼
 その日、ナレインと純平は南東の森を見回っていた。この森は、毎日誰かしらが見回りに来ていたが、そうそう毎日キメラがいるというわけでもないようだ。とにかく、二人は見落としが無いようにしながら、森の中を探索していた。
「一昨日はこの辺りにキメラがいたんだけど‥‥今日もいないみたいね」
「昨日は私が見回りましたが、これといったものは見つかりませんでしたね」
 しばらく森を探索していた二人だが、今日もキメラは見当たらない。しかし、そろそろ戻ろうかと思った矢先、またもや近くに何者かの気配が。
「む、何か居るようです」
「ええ、キメラかし‥‥ら‥‥ひっ!?」
 すぐに息を殺して様子を見る二人。だが、気配の主を見たナレインは短い悲鳴と共に息を呑む。気配の主の正体は、1メートルの大きさの蜘蛛。ナレインの苦手な虫のキメラだった。
「どうして出会っちゃうの〜、うっ‥‥気持ち悪い」
「大丈夫ですか? ともかく素早く退治を行いましょう。無理そうなら、後方からの援護をお願いします」
「だ、大丈夫‥‥たぶん‥‥」
 ナレインを気遣いながらも、爪を構えて蜘蛛キメラに突っ込む純平。蜘蛛は粘着糸を吐き出してくるが、純平は素早くそれを避けて、攻撃を叩き込む。
「ああ、もう、なんでこんなに気持ち悪いの〜」
 ナレインも槍で蜘蛛を突付くが、嫌悪感が先に立ちいつもの軽快さは無く、力も入っていない。そして、ようやく蜘蛛を倒すが、ほとんど純平一人で倒したようなものだった。体液を溢しながら地に伏す蜘蛛の様子に、ナレインの顔は真っ青だ。
「こちら木場だ、ナレインさんが体調を崩した。今から戻るので寝かせる準備をして欲しい」
『え!? は、はい‥‥わかりました‥‥』
「そんな、心配しなくても大丈夫よ‥‥」
「無理はしない方がいい。あなたは休んでいてください」
 その後、キメラを駆除したことを報告して街に戻る二人だったが、ナレインは体調を崩してしまって次の日は一日休むことになってしまった。そして駐屯所に残っていた雫が看病することになる。

●四日目・朝
 この日は、群咲とオリガが組んで北の民家へと来ていた。付近には似たような民家が立ち並んでいるが、どれもすでに人はいなくなっている。
「やっぱり、朝の空気が美味しいね!」
「そうですね」
 朝の空気を気持ち良さそうに吸う群咲、それにオリガも頷く。オリガは前日もスブロフを呑んでいるのだが、まったく普段通りのようだ。
「いったいどんな肝臓を‥‥」
「何か言いました?」
「いえ、なんにも!」
 呟きを聞かれて、慌てて首を横に振る群咲。オリガの水銀の瞳に、なんとなく心を読まれているようでちょっと居心地が悪かった。
「あ、いまなにか動きましたよ!」
 つい視線を逸らした群咲の眼に、なにやら動く物が映る。それは、巨大なトカゲだった。慌てて戦闘態勢に入る群咲とオリガ。そして、オリガの弓による後方支援を受けながら、群咲は両腕に装着した太い爪を構えて突っ込む。
「トカゲの尻尾きり‥‥なんてさせないよ!」
 群咲は、キメラに逃げられないように胴体を狙いながら、爪を突き刺す。そして、尻尾による攻撃などを受けたが、なんとかキメラを退治することができた。
「大丈夫? はい、腕を出して」
「いやー、たいした怪我じゃないっすよ。でも、まだまだ鍛錬が足りないですね」
 その後は群咲達は、軽い怪我だったので救急セットで怪我を治療し、見回りを続けた。

●五日目
 依頼最終日。この日は、桃香、オリガ、羅辰がもう一度廃墟まで行ってきたが、とくにキメラを発見することはできなかった。もう一つのチームも、朝と昼に街の周囲を見回ったがこれといった異変は無かった。
「これからは身体に気をつけてくれよ。お前さんたちだけの身体じゃないんだから」
「ああ、わかっている。君達には世話になった、感謝する」
 その後、無事に復帰した兵士達に、安則が声をかける。兵士達は一行に感謝の意を示すと、任務へと戻っていった。そして、一行はとりあえず最低限のノルマを達成し、依頼を完了させるのだった。