●リプレイ本文
●一日目・朝
依頼があったUPC軍の駐屯所に着いた一行は、次の日の朝から警備を開始することにした。
「え〜この服着なきゃダメ? う〜ん‥‥お化粧に合わないわ」
「似合っていますよ」
「そうっすよ! すごくかっこいい!」
「でも、かっこいいより、可愛いとか綺麗とかのほうが私は好きだわ‥‥」
今回の依頼で着用が義務付けられているというUPCの軍服を着込んだナレイン・フェルド(
ga0506)は、少し残念そうに呟く。木場・純平(
ga3277)と群咲(
ga9968)は美しいナレインの容姿とスラッとした身長に、軍服が似合っていると褒めるが、ナレインは憂鬱そうにため息をついた。ちなみに、ナレインの着ている軍服は女性物である、付け加えて言うならナレインは女性のように美しいが男である。ミニスカートから延びる、脛毛まで綺麗に処理された生足がとても眩しい。
「しかし食中毒か‥‥これから夏だし気をつけないとなあ」
今回、兵士達が食中毒で倒れたと聞いて、緑川安則(
ga4773)は自分達も気をつけねばと考える。
「兵士ともあろう者たちが食中毒とはな‥‥日頃から腹も鍛えていないからこうなるんだ!」
「いや、鍛えてどうにかなるものでもないだろう。ヨーグルトでも食べて、乳酸菌増やすか?」
「やはり筋肉だな! 腹の筋肉を鍛え、毒をきっちりガードする!」
「‥‥‥」
それに対し、白・羅辰(
ga8878)は鍛え方が足りないから食中毒で倒れるんだと答えた。安則はそんな羅辰の考えに苦笑する。
「それでは、私達はキメラの巣食うという廃墟へ行って来ますね」
「お土産は期待しないでくださいね」
平坂 桃香(
ga1831)とオリガ(
ga4562)、安則の三人はこの近くにある廃墟へと向かうことになった。近くといっても車で往復一日かかる程度の距離がある。
「あ、あの‥‥。気をつけて‥‥行って来てください。無理はしないで‥‥」
三人を心配した菱美 雫(
ga7479)が声を掛けた。廃墟の辺りはバグアとの競合地域になっており、キメラも多く生息しているようなので、確かに気をつけたほうがいいだろう。三人は雫に頷いて、車に乗り込んだ。
「それじゃ、とりあえず俺は森辺りの調査にでも行ってくっか」
「森‥‥虫が出そうで嫌だわぁ」
羅辰とナレインは街付近でキメラが現れそうな場所を調べることにする。車は二台しかないので、残った者は街の警備と駐屯所での留守番だ。
「そ、それでは‥‥私は兵士さん達の様子を見てきますね」
「あたしも行くよ! 街の見回りはしっかりしたいしね」
「では、俺は駐屯所に残って連絡を受け持つことにします。菱美さんが戻ってきたら、午後からは見回りに出ますので」
「は、はい‥‥わかりました」
雫と群咲が街に向かい見回りと兵士達の様子を見てくることになり、純平は駐屯所に残って、無線の連絡を受け持つことになった。
街へと出かけた雫と群咲は、病院に収容されているというUPCの兵士達のお見舞いを行なうことにした。
「あ、あの‥‥お体の方はいかがですか?」
「ああ、性質の悪いのに当たってしまったらしく、すぐには起き上がれそうにない、本当に面目無い」
「大丈夫! 任せて置いてくださいよ!」
気遣う雫に、ベッドの上で苦笑する兵士。それに群咲は、ドンと自分の胸を叩いて元気に笑みを浮かべる。
「それでこの街の警備をするにあたって、キメラの出やすい場所や、兵士さんたちは普段どのようなルートで警備を行なっているとか教えて欲しいんですけど?」
「いや、大丈夫だ。君達の警備計画を教えてくれ、こちらがわかる範囲でアドバイスしよう」
その後、群咲は前任者である兵士達に警備についての情報を聞くことにした。そして部隊長のアドバイスを聞きながら警備のルートやそのほかのこと色々と調整する。
「それと、南東の森にはよくキメラがやってくる。我々が倒れてしばらく探索を行なっていないので、もしかするとまたやってきているかもしれない」
「わ、わかりました‥‥注意してみることにします。それでは‥‥この辺で失礼‥‥します。‥‥少し回復したら‥‥水分補給を、忘れずに‥‥。お大事に、です‥‥」
情報の提供が終わり、雫達は病室をあとにする。南東の森、そこにはちょうど羅辰達が向かっているところであった。
「結構大きな森ねぇ。探索するのはちょっと大変そうだわ」
「へっ、どんなやつが棲んでいるか楽しみだぜ」
南東の森へと向かったナレインと羅辰。ここは結構深い森で、遊歩道なども無く、探索には少し手間がかかりそうであった。ナレインは憂鬱そうに頬に手を添えてため息をつき、羅辰は楽しそうに笑って軽くジャブを繰り出す。
「よし、行くか」
「どうか、虫だけは出ませんように」
意気揚々と森へと入っていく羅辰の後ろを、ナレインは不安そうな面持ちで付いていく。ナレインは虫が大の苦手で、森に虫型のキメラが現れやしないかと心配なようだ。
「なんか現れてもいい頃だと思うんだが‥‥」
「ねぇ、そろそろ次の場所へ向かわない?」
「う〜ん、そうだなぁ。‥‥お!?」
それからしばらくの探索を行なった二人。そろそろ次の場所へと向かおうかと思った矢先に、前方に巨大な猛獣が現れる。
「いたいた、空気の読める敵だな。さーてお楽しみの始まりだ」
「虫じゃなくて良かった〜」
猛獣型キメラも二人に気づくと、威嚇するように牙を剥き出しにして唸り声をあげた。羅辰とナレインは、すぐに戦闘態勢に入ると武器を構え、キメラへと向かっていった。
「くらえ、魂のラッシュ!」
羅辰はボクシングのような軽快なステップを踏むと、キメラへと近づき拳に装着した爪によるラッシュを繰り出す。ラッシュはキメラに命中し大きなダメージを与え、逆に反撃してくるキメラの攻撃を素早いバックステップで回避した。
「虫じゃなければ、怖くなんてないのよ!」
ナレインも自分の身長よりも長い炎を纏った槍を構え、木々の生い茂る森という狭い空間でも器用に槍を振るい、キメラを刺し貫いていく。そしてほどなくして、キメラを退治することに成功した。
「おし、この調子でキメラを退治していくぞ」
「とりあえず倒せてよかったわ。このまま放置しておいたら、いつ街までくるかわからなかったもの」
そして二人はもう一度森を見回った後、車へ戻って報告を行い、次の場所の見回りへと向かうのだった。
●一日目・昼
廃墟へと向かった桃香、オリガ、安則の三人は昼頃に目的の場所へと辿りついた。
「こういった廃墟によくキメラとかいるんだよなあ」
「そうですね、奇襲を受けないよう警戒を怠らず、慎重に行きましょう」
廃墟は人が住んでいた頃の様子を残しながらも、あちらこちらが壊されており人気が無い。その様子に呟く安則に、桃香は頷いて周囲の警戒に集中する。
「あら‥‥? あれは何でしょうね」
しばらく探索をしていると、オリガが髪に隠された水銀の様な瞳をキラリと光らせた。その視線の先には、2メートル近い大型の猛獣の姿。
「ターゲット発見ですね、どうします?」
「速やかに排除してしまおう。下手に長引かせると、仲間を呼びかねない」
「わかりました。ですが、無駄な錬力の消費は抑えます」
「そうだな、今回の依頼は持久戦だからな。ド派手なスキル使用はさけないとな」
キメラの姿を確認した桃香の問いに安則が答え、オリガの意見に頷く。そして、三人は慎重にキメラへと近づいていく。
「攻撃を開始します」
ある程度近づき、オリガが白銀の弓を構え矢を放つ。矢は確実に命中し、キメラを怯ませた。その隙を突き、桃香と安則が刀を構えて一気に接近、そのまま素早く切り裂く。
「たぁ! ふぅ、やりました」
「よし、これで二匹か。順調だな」
キメラに反撃の隙を与えず、一気にキメラを切り倒した桃香達。廃墟に来る途中に、純平からの連絡でナレイン達の成果を聞いていた安則は、満足そうに頷いた。
「さて、そろそろ戻らないとならないな。結局倒せたのは一匹だけか‥‥。街へと来るキメラを減らせたんだろうか」
それからしばらく探索を続けた三人は、それ以上の標的を見つけられずに街へと帰還することになる。安則達としては、もう少しキメラを減らしておきたかった所だが、しかたなかった。
●二日目・夜
次の日、各自周辺地域への見回りを行なったが、これといってキメラを発見することはできなかった。そして夜になり、まだ余裕のあった桃香と羅辰は周辺地域の見回りへ、ナレインと安則は街の警備へと向かい、残りのメンバーは駐屯所で休憩を行なうことになった。
「あの、せっかくの機会なんで、木場さんに傭兵の心得とか色々聞きたいんですけど!」
「‥‥人に教えられることがあるのかわからないが、俺にわかることならお答えしますよ」
夕食後、休憩所で純平を見つけた群咲は、エミタ能力者の新人として戦いや鍛錬について色々と教えを請うことにした。それに純平は快く応え、自分の経験などを語って聞かせる。
「あ、菱美さん、食堂のおばちゃんの様子はどうでした?」
「は、はい‥‥その‥‥」
休憩所を通りかかった雫に声をかける群咲。雫は食中毒事件を起こしてしまった食堂のおばちゃんが気を落としていないか話を聞きにいったのだが、なんとなく言い難そうに困ったような表情を浮かべながら答えた。
「食中毒を出してしまって申し訳なくしてたのですけど‥‥。『でもあたしも食べたのになんとも無かったんだよ。最近の若い子は身体が弱いんだねぇ』って‥‥」
「あ、あはは‥‥」
どうやらあまり気にしていなかったおばちゃんの様子に、群咲も苦笑するしかない。体質のせいなのかもしれないが、結構なに食べても大丈夫な人はいるものだ。
「あら、皆さんお揃いですね」
「お、オリガさん‥‥その匂いは‥‥」
そこへオリガもやってくる。手にはコップと何かのビン。雫は彼女から漂ってくるアルコールの匂いに少し驚きの表情を浮かべた。
「の、飲んでるんですか?」
「はい、もちろん。毎晩の習慣ですので」
「は、はぁ‥‥」
「ああ、大丈夫ですよ。明日には残しませんから」
雫の問いに、当然とばかりに頷くオリガ。たしかに、アルコールの匂いはしているが、酔っている様子はない。
「皆さんもよろしければどうですか、一杯?」
「あたしはちょっと‥‥勘弁」
「俺も仕事中は控えることにしてるので」
「え‥‥あ、あの、私もちょっと‥‥」
「そうですか? 残念ですね」
自分だけでなく仲間達にも酒を勧めるオリガだが全員断る。それに残念そうな表情を浮かべつつ、オリガはコップに注いだ酒を一気に飲み干した。ちなみに、オリガが飲んでいる酒は『スブロフ』、アルコール濃度99%のアルコール飲料と言うが、ほとんど純アルコールである。噂に聞く酒豪美人、恐るべしである。
●三日目・昼
その日、ナレインと純平は南東の森を見回っていた。この森は、毎日誰かしらが見回りに来ていたが、そうそう毎日キメラがいるというわけでもないようだ。とにかく、二人は見落としが無いようにしながら、森の中を探索していた。
「一昨日はこの辺りにキメラがいたんだけど‥‥今日もいないみたいね」
「昨日は私が見回りましたが、これといったものは見つかりませんでしたね」
しばらく森を探索していた二人だが、今日もキメラは見当たらない。しかし、そろそろ戻ろうかと思った矢先、またもや近くに何者かの気配が。
「む、何か居るようです」
「ええ、キメラかし‥‥ら‥‥ひっ!?」
すぐに息を殺して様子を見る二人。だが、気配の主を見たナレインは短い悲鳴と共に息を呑む。気配の主の正体は、1メートルの大きさの蜘蛛。ナレインの苦手な虫のキメラだった。
「どうして出会っちゃうの〜、うっ‥‥気持ち悪い」
「大丈夫ですか? ともかく素早く退治を行いましょう。無理そうなら、後方からの援護をお願いします」
「だ、大丈夫‥‥たぶん‥‥」
ナレインを気遣いながらも、爪を構えて蜘蛛キメラに突っ込む純平。蜘蛛は粘着糸を吐き出してくるが、純平は素早くそれを避けて、攻撃を叩き込む。
「ああ、もう、なんでこんなに気持ち悪いの〜」
ナレインも槍で蜘蛛を突付くが、嫌悪感が先に立ちいつもの軽快さは無く、力も入っていない。そして、ようやく蜘蛛を倒すが、ほとんど純平一人で倒したようなものだった。体液を溢しながら地に伏す蜘蛛の様子に、ナレインの顔は真っ青だ。
「こちら木場だ、ナレインさんが体調を崩した。今から戻るので寝かせる準備をして欲しい」
『え!? は、はい‥‥わかりました‥‥』
「そんな、心配しなくても大丈夫よ‥‥」
「無理はしない方がいい。あなたは休んでいてください」
その後、キメラを駆除したことを報告して街に戻る二人だったが、ナレインは体調を崩してしまって次の日は一日休むことになってしまった。そして駐屯所に残っていた雫が看病することになる。
●四日目・朝
この日は、群咲とオリガが組んで北の民家へと来ていた。付近には似たような民家が立ち並んでいるが、どれもすでに人はいなくなっている。
「やっぱり、朝の空気が美味しいね!」
「そうですね」
朝の空気を気持ち良さそうに吸う群咲、それにオリガも頷く。オリガは前日もスブロフを呑んでいるのだが、まったく普段通りのようだ。
「いったいどんな肝臓を‥‥」
「何か言いました?」
「いえ、なんにも!」
呟きを聞かれて、慌てて首を横に振る群咲。オリガの水銀の瞳に、なんとなく心を読まれているようでちょっと居心地が悪かった。
「あ、いまなにか動きましたよ!」
つい視線を逸らした群咲の眼に、なにやら動く物が映る。それは、巨大なトカゲだった。慌てて戦闘態勢に入る群咲とオリガ。そして、オリガの弓による後方支援を受けながら、群咲は両腕に装着した太い爪を構えて突っ込む。
「トカゲの尻尾きり‥‥なんてさせないよ!」
群咲は、キメラに逃げられないように胴体を狙いながら、爪を突き刺す。そして、尻尾による攻撃などを受けたが、なんとかキメラを退治することができた。
「大丈夫? はい、腕を出して」
「いやー、たいした怪我じゃないっすよ。でも、まだまだ鍛錬が足りないですね」
その後は群咲達は、軽い怪我だったので救急セットで怪我を治療し、見回りを続けた。
●五日目
依頼最終日。この日は、桃香、オリガ、羅辰がもう一度廃墟まで行ってきたが、とくにキメラを発見することはできなかった。もう一つのチームも、朝と昼に街の周囲を見回ったがこれといった異変は無かった。
「これからは身体に気をつけてくれよ。お前さんたちだけの身体じゃないんだから」
「ああ、わかっている。君達には世話になった、感謝する」
その後、無事に復帰した兵士達に、安則が声をかける。兵士達は一行に感謝の意を示すと、任務へと戻っていった。そして、一行はとりあえず最低限のノルマを達成し、依頼を完了させるのだった。