タイトル:山に巣食う地獄の狼王マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/24 01:32

●オープニング本文


 北米の山沿いにある村。その日、この村では一つの噂が話題になっていた。
「おい聞いたか? 最近、狼の被害が酷いらしいぞ」
「ああ、なんでも隣村がそれで壊滅したらしいじゃないか」
 これまで、この村は比較的バグアやキメラの被害も無く平和であった。しかし、ここ最近は不穏な噂が流れ、村人達は口々に不安を口にする。その噂というのが、山に巨大な狼が棲み付き、近くの村々を襲っているというものだった。
「もしかしてキメラじゃないのか?」
「かもしれないな‥‥。いつこの街も襲われるとも限らない。もっと安全な所に逃げたほうがいいんじゃないか?」
 今のところ、その巨大な狼を見たというものは居ない。というのも、それを見て生きている者が居ないからだ。数少ない証拠として、山へと行った者の身体の一部が何者かに食われたような無残な状態で見つかっているのだが、それがなににやられたのかはわからない。ただ、熊に襲われ様とも、人間の胴から半分に真っ二つに食いちぎられるなんてことは、あるはずがないのは確かである。
「ともかく、夜の戸締りはしっかりしておかないとな」
「そうだな‥‥」
 それでも、彼らはまだ自分の身に迫っている本当の危機に気づくことは無かった。

 その夜。
「で、でたーーーー!!」
 満月の美しい晩、村に大きな悲鳴が上がった。そして、何事かと家の窓から外を覗き込む村人達は、その目を疑う。
「ば、ばけもの‥‥」
 月明かりに映し出された影、それは三つの頭を持った巨大な狼。その大きさは、全長5メートルを超えるほどで、周囲の家々ほどもある。その巨大な狼は、1メートルほどの小型の狼を従え、村へと襲い掛かってきた。
「ひ、ひぃぃ!!」
 村はすぐにパニックに陥る。慌てて逃げ出す者、家に篭る者、銃を構え迎え撃とうとする者。しかし、逃げ出そうとしても素早い小型の狼が襲い掛かり、家に篭ろうとも巨大な狼によって破壊され、銃を受けようともダメージは無い。すでに村人達に成す術は何も無かった。できることは、ただ祈るだけであった。
 夜が明け、狼達が立ち去った後には、廃墟と無残な姿となった村人だけが残される。生き残った者は、崩れた家に下敷きになりたまたま狼達に襲われなかった数人だけであった。

「巨大な狼のキメラが山に現れ、付近の村々を襲っているようです。すでにいくつもの村が壊滅的打撃を受けており、早急にこのキメラを退治するよう依頼がありました。キメラは頭が三つもある巨大な狼で、多数の小型狼キメラを従えています。山腹にある深い森を根城としていると思われますが、正確な場所は把握していません。山へ入る際には、くれぐれも気をつけてください」
 ULTで依頼を受けた能力者達は、オペレーターの説明を受け、巨大狼の退治に向かうことになる。三つ頭の狼、ギリシャ神話の地獄の番犬ケルベロスを彷彿とさせるキメラは、山の深い森を根城としているようだ。多くの狼キメラを従えるこの巨大狼を、能力者達は見つけ出し、そして退治することができるのだろうか。

・依頼内容
 巨大狼キメラの退治
・概要
 北米の山に巣食う巨大狼型キメラの退治を行なう。巨大狼は多数の狼キメラを従えているが、今回の目的はあくまで巨大狼の討伐となる。ただし、狼キメラも発見した場合は極力退治を行なうこと。
 巨大狼は山腹の森に潜んでいると予想されるが、正確な所在は不明。探索を行い、これを発見する必要がある。
 今回の依頼は近隣住民からのものであり、UPCは関与していない。そのためUPCからの支援は無いと考え、物資の準備は全て各自で行なうこと。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

「ここが、キメラが巣食うという森か」
 煉条トヲイ(ga0236)が視線の先にある深い森を見つめながらつぶやいた。依頼を受けた能力者一行は、街での情報を頼りに山へと入り、目的の森へと辿りついた。
「街での情報だと、この付近に怪しい洞窟とかは無いみたいね。地図にもそれらしいのは載ってないし」
「とにかく探索してみるしかないな」
 地図を確認しながら森についての情報を答える葵 宙華(ga4067)。それに、南雲 莞爾(ga4272)が淡々とした口調で頷く。
「それにしても、まさかお前らと組む事になろうとはな‥‥。ま、宜しく頼むぜ」
「こちらこそ。でも、狼とか鷹とか、動物に例えると狂暴なのばっかり集まった感じね」
 宙華と莞爾に声を掛けるブレイズ・S・イーグル(ga7498)。宙華はブレイズに挨拶を返してから、周囲の仲間達の顔ぶれに軽く苦笑を浮かべた。
「相手も危険な巨大狼だからな、草食獣じゃ荷が重いだろ。そういうおまえはなんなんだ?」
「あたし? あたしは‥‥狂獣を従える勝利の女神って所かな?」
「けっ、言ってろ」
 問い返すブレイズに、おどけたように言う宙華。ブレイズは呆れた表情で肩を竦めるのだった。
「ケルベロス‥‥懐かしいな」
 以前に手負いのケルベロスの討伐を受けたことのある神無 戒路(ga6003)が、その時のことを思い出して呟く。
「今度のは手負いではなく、万全の状態のケルベロスだ。しかも、狼キメラを従える狼王だ。油断できる相手ではないな」
「わかっている」
 戒路の呟きに、御影・朔夜(ga0240)が銜えていた煙草をもみ消しながら注意を促すように言う。戒路はもちろんとばかりに頷き返した。
「狼王‥‥か‥‥」
 朔夜の口にした言葉に、終夜・無月(ga3084)がぽつりと呟いた。『月狼』と称される彼は、狼を従えるというケルベロスに対し何か思うところがあるのかもしれない。
「よし、探索を開始するか。予定通り二人一組に分かれて、目的は巨大狼の巣だ。何か発見したら、逐一連絡し合おう。もし、ケルベロスを見つけても、無茶はせずに仲間を待つように。時間になったらまたこの場所に集合だ」
「俺は煉条さんとか。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼む」
 トヲイの作戦確認に、一行が頷く。トヲイとコンビを組むことになった愛輝(ga3159)は改めて挨拶を交わし、準備を整えるのだった。そして、一行は森へと入っていく。

「それで、南雲はなんなの?」
 一行は4組に分かれ、森の探索を開始した。草木が生い茂る森の中を歩きながら、宙華はコンビとなった莞爾にそう声を掛けた。
「何がだ?」
「ほら、さっき言ってた。動物に例えるならってやつ。南雲は何? 狼? 鷹?」
「‥‥俺は猟犬だ、獄門の猟犬」
「えー、犬なの? なんだか狼より弱そうね」
 その問いに、猟犬と答える莞爾。宙華はその答えに意外そうに問い返す。その言葉に、莞爾は気を悪くした様子も無く小さく首を横に振った。
「良く鍛えられた猟犬は、野生の狼さえも追い立てる」
「ふむふむ、なるほどねー。それじゃ猟犬の力、期待してるわ」
 淡々としながらも、いつもよりも口数の多くなる莞爾。宙華は腕を組みながら、納得したように何度も頷いた。
「まぁ、今回は向こうから餌に食いついてくるのを待つんだけれどね」
 莞爾の手には、肉の塊が握られている。その匂いでキメラ達を誘き寄せようという作戦だった。そして二人は、森の中を歩き回ることになるのだった。

「動かざる事山の如し‥‥時には『待つ』事も必要だ」
 トヲイと愛輝は、肉の塊を森に仕掛け、身を隠しながらキメラが現れるのを待っていた。
「現れた!?」
 数時間交代で観察を行なっていた愛輝は、餌に近づく動物の気配を感じる。そして、ジッと息を潜めてそれが現れるのを待っていた愛輝の前に現れたのは。
「普通の野犬か‥‥」
 見てわかるほど普通の野犬であった。愛輝はとりあえずそれを追い払って、別の場所に肉を仕掛けることにした。その後、結局二人の前にキメラは現れることは無かった。

「この足跡‥‥間違いない」
 無月とコンビを組んで探索を行なっていた戒路は、地面に残された巨大な足跡を発見する。それはどうみても、通常の動物のものではなく、大型のキメラによるものであった。二人は風下に注意しながら、その足跡を追っていく。
「ここまでか‥‥」
 しかし、足跡は途中で途切れていた。最後の足跡は、地面を強く蹴った跡が残っており。おそらくは跳躍をしたと思われるが、その周辺に着地をした跡は見受けられなかった。そうとうの跳躍力があると予想されるようだ。

 さて、夕方近くになり、その日の探索を終了する時刻になった。一行は、再び最初の場所へと戻り合流をしたのだが。
「‥‥遅いな」
 新しいタバコに火をつけながら、朔夜が呟いた。すでに、かなりの本数を吸うほど待っているのだが、戻ってきていない組があった。
「あいつらのことだ、奥まで進みすぎて、戻るのに時間がかかってるんだろう。心配しなくても、時期に戻ってくるだろうさ」
 ブレイズが気楽な調子で答える。戻ってきていない組は、莞爾と宙華の二人だったが、特に心配はしていないようであった。
「一応‥‥無線を入れてみるか」
 無月が二人と連絡を取ろうとトランシーバーを取り出そうとしたとき、ちょうど二人から無線が入ってくる。
「ガッ‥‥こちら南雲‥‥キメラ発見‥‥至急‥‥応援‥‥ガッ‥‥」
「こちら終夜‥‥詳しい場所を報告しろ‥‥こちら‥‥だめか、もう切れている」
「どうやら、あまり良い状況ではないようだな」
「急ごう」
 莞爾からの通信、だが通話状況が悪いのか、詳しい報告を聞く前に切れてしまう。ともかくその内容に、トヲイは眉間にしわを寄せ、愛輝はすぐに森へと駆け出すのだった。

「すっかり囲まれちゃったわね」
 宙華が苦笑しながら周囲を眺める。ちょうど日が落ちたあたりから、周囲に野生動物の気配が消え、代わりに強い殺気のようなものを感じるようになり。月が輝きだす頃には、周囲は赤く輝くいくつもの眼に囲まれていた。
「ようやく餌に掛かったということか。だが、本命の姿はないな。まぁいい、こいつらを蹴散らして案内させればいいだけのこと」
 ちょうどその日は満月、暗い森の中を月明かりが照らす。その明かりの中で、闇に微かに見える獣達の数は、数え切れないほどであり、一斉に襲われてはさすがの二人でも危険であろう。だが、二人は不敵な笑みを浮かべながら、力を覚醒し臨戦態勢に入った。
「敵性存在確認、ROCK On‥‥」
「どちらが狩りが上手か決めてみる?」
 覚醒し二人の気配が変わる。その気配に、周囲の獣達は様子を見るように遠巻きにして近づいてはこない。その様子は、何かを待っているようにも思える。
「こちらから仕掛けるか?」
「それも悪くないけれど、もう少し待ってみましょう。仲間もこちらに向かって来ているだろうし、向こうも何かを待っているような感じがする。もしかすると、ケルベロスを呼んでいるのかも」
「そうだな‥‥」
 そうして、しばらくの間二人と獣達のにらみ合いが続き‥‥。
「‥‥来る!」
 一気に周囲の気配が変わったことを感じ、二人はハッと月を見上げた。その視線の先には、高く跳躍した獣の影が月明かりに映し出されている。そして、その獣は大きな音を立てながら地に降り立った。
「大きい!?」
「ようやく現れたようだな」
 現れた獣は、5メートルを越える体躯に、三つの頭を持った巨大な狼。月明かりに映し出されたその狂暴な姿は、まさに伝承に語られる地獄の番犬の姿であった。
「グガアアァァァァァ!!」
 その咆哮は森中に響き渡り、鳥達が驚いたように空へと舞い上がっていく。と同時に、周囲で様子を見ていた獣達も二人に襲いかかろうと、闇から姿を見せ始めた。
「‥‥先に取り巻き達を叩くぞ。撹乱するように動き回れ」
「わかってる、サポートは任せて」
 そして一気に緊張が高まり、戦いが始まるのだった。

「今の咆哮!」
「こっちだ!」
 莞爾達を探していた一行は、森に響く咆哮に急いで駆け出す。全員すでに覚醒している、咆哮の聞こえた位置ならば数分でたどり着くだろう。
「あれか!」
 やがて、月明かりに映る巨大狼の影を見つけ、狼キメラと戦いを繰り広げる莞爾達の姿を確認する。すぐに駆けつけようとする一行だが、その前を狼キメラ達が立ちふさがった。
「ハッ、小物に用はねぇんだよ‥‥!」
「援護する‥‥あなた達は足を止めずに彼らの下へ」
 ブレイズが狼キメラを蹴散らすように大剣を振るい。戒路は仲間を先に行かせるように、ライフルで牽制を行なう。そして、それに怯んだキメラ達を一気に走りぬけ、一行は二人の下へと辿りつく。
「やらせない!」
 二人へと襲い掛かる狼キメラに、愛輝が武器をハンドガンに持ち変え貫通弾を放つ。弾丸は飛び掛ってきた狼キメラに命中し、フォースフィールドごと身体を撃ち抜いた。そして、その衝撃に狼キメラは吹き飛ばされる。
「大丈夫か!?」
「ええ、なんとか。でも、南雲が」
「問題ない」
 二人に声を掛けるトヲイに、答える宙華。周囲には、数匹のキメラが彼らによって倒されていたが、ケルベロスは健在。多勢に無勢の戦いに、二人は少なからずダメージを受けており、特に接近戦を行っていた莞爾の腕からは血が流れ落ちていた。だが、莞爾はその傷を気にした様子も無い様に返事を返す。
「悠長に気遣っている場合ではないぞ。避けろ!」
「!!」
 そこへ、朔夜の警告。その声に、すぐに反応した三人は急いでその場を飛び退る。と、同時にケルベロスの三つの頭から吐き出された炎の塊が地面を焼き焦がした。熱波が頬を焼き、直撃していればただではすまないことを悟らせる。それに対し、朔夜が間髪をいれずに両手に構えた銃を乱射。瞬時に40発の弾丸がケルベロスに撃ち込まれるが、ケルベロスは怯む様子も無く次の行動へと移る。
「真の狼が如何なるものか‥‥訓えてあげましょう‥‥。鏡月‥‥其処に映るは双つの狼と屍の山‥‥」
 朔夜の射撃に呼応し、無月が一気に間合いを詰め、刀を振るう。そして月光に反射した銀の閃光が、ケルベロスの足を切り裂いた。それでも、ケルベロスは無月に反撃を行なおうとするが、無月は足を止めず後方へと下がりながら銃で射撃を行なう。そして、そこで朔夜と立ち位置を入れ替え、朔夜が前衛へと出て攻撃を繰り返した。それが、双月の狼と名乗る彼らの戦法の一つ、『鏡月』である。
「月夜の晩は奴等のテリトリー‥‥何とか日輪の加護がある内に倒したかったがな!」
 トヲイはそう言いながら、ケルベロスへ向かって爪を振り下ろす。その間合いは、まだ爪が届く範囲ではない。しかし両爪で十字に払った先から衝撃波が発し、ケルベロスの身体を切り裂いた。
「いまだ!」
「グオォォォ!」
 そこへ、愛輝が強化した脚力で一気に間合いを詰め、瞬速の一撃を繰り出す。ケルベロスは、その目にも留まらぬ一撃に反応できず、無防備に受けて悲鳴をあげた。
「マズイ! 離れろ!!」
 だが、すぐに反撃へと転じるケルベロス。一瞬息を吸い込んだ様子を見せると、再び三つの頭から炎を吐き出した。咄嗟に回避行動に移る、愛輝、トヲイ、無月の三人だが、一歩遅く爆炎に吹き飛ばされてしまう。
「大丈夫か!」
「少し下がっていろ‥‥援護する」
 狼キメラを蹴散らしていたブレイズと戒路が、吹き飛ばされた三人を気遣いながらも、代わりに前へと出た。そして、戒路のライフルの援護でブレイズが近づき、その身に赤いオーラを纏わせ自慢の大剣をケルベロスに叩き込むが、ケルベロスは怯まずに太い腕でブレイズをなぎ払う。
「やれやれ、面の皮は厚いらしいな‥‥!」
 それを大剣で受け止めながら、ブレイズは不敵な笑みを浮かべた。戒路が頭部を狙って射撃を行なうが、ケルベロスはそれを受けながらも素早く距離を取る。
「さすがに地獄の番犬と言った所だな」
「だが、ヤツの動きも鈍くなってきている‥‥やるなら今か‥‥。無月、いけるか?」
 爆炎を振り払い立ち上がったトヲイは、以前として戦い続けるケルベロスの様子に苦笑を浮かべる。だが、朔夜の言うように、ダメージの蓄積によりその動きは随分と鈍くなってきていた。
「支障は無い‥‥」
 朔夜の合図に、立ち直った無月が頷き返す。そして繰り出されるのは、双月の狼の奥の手『双極』。対象に対して平行に並んだ二人が、それぞれの奥義を一箇所に集中させる技だ。
「双極‥‥その身に刻め第弐夜天駆‥‥」
「喰らえ――これが双月の狼たる悪評高き狼の爪牙だ‥‥!」
 赤いオーラを纏った無月が、急所へと向かって刀による衝撃波を飛ばす。そして、それに間髪いれず銃に装填された貫通弾を放った。一方朔夜は、両手に持った銃器のSESを一時的に活性化し、それを同時に放つ。活性化され威力を増した40発の弾丸が、ケルベロスの虚を突き一斉に襲い掛かる。二つの奥義を同時に受けたケルベロスは、瀕死の状況まで追い込まれた。それでも、まだ反撃をしようと息を吸い込みブレスの体勢に入るケルベロス。
「南雲! 使って!」
「!」
 宙華は莞爾に一刀の刀を投げ渡す。莞爾はそれを受け取ると、ケルベロスへと一気に間合いを詰める。
「狼王狩りに輝き爆ぜなさい! 鬼蛍!!」
「喰らうなら、地獄の番犬の命を存分に喰らい尽くせ‥‥! 天剱――――絶刀」
 瞬天速により一瞬のうちに間合いを詰めた莞爾は、居合いの構えを取る。瞬間的に、刀に力を吸い取られる感覚を覚える莞爾であったが、それに耐えて目にも留まらぬ居合い切りを放った。まさにそれは神速の攻撃、攻撃態勢に入ったケルベロスが攻撃を行なうよりも前に、莞爾はその頭を切り落とす。
「逃がすかよ‥‥!」
「これで終わりだ!」
 三つの頭が二つになり、さすがのケルベロスも怯んだ。そこへ、ブレイズとトヲイの放った衝撃波が、残りの二つの頭も切り落としてしまう。全ての頭を失い、ケルベロスの身体は音を立てて地に倒れるのだった。そして、一行を取り囲んでいた狼キメラ達は、リーダーを失ったことによって、戦意を失い逃げ出してしまうのだった。
「どうやら終わったようだな‥‥やれやれだぜ‥‥」
「喩え狼の王と言えど双月の狼の敵ではない――」
 動かなくなったケルベロスを見ながら、ブレイズが小さく肩を竦める。朔夜はそう呟くと、興味がなくなったように背を向けた。
「眠れ‥‥」
「大人しく地獄へと帰るんだな」
 無月も背を向け静かに呟き、戒路は軽く黙祷を捧げる。こうして、一行はケルベロスの退治を成功させるのだった。