タイトル:特撮ドラマを作ろう!マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/09 05:08

●オープニング本文


「わかったわ!!」
 あいつの、その日の第一声がそれだった。俺はとりあえずそれを無視して、自分の仕事を続ける。あいつが突発的に何かを言い出すことはいつものことだし、だいたいはろくでもない思いつきで、相手をすれば俺に多大な迷惑をかけてくることは間違い無い。
「わかったのよ!」
 あいつはもう一度同じ事を言った。おそらく、できればそうであって欲しくないが、たぶんその言葉は俺に対して言っているのだろう。なぜなら、その部屋には俺とあいつしかいなかったからだ。俺が反応しなかったので、聞こえていないとでも思ったのか。そんなわけがない、狭い部屋であれほど大きな声で叫べば、嫌でも聞こえてくるってもんだ。それでも、俺はあえて無視をして仕事を続ける。
「ちょっと、聞いてるの!?」

 ドン!

 俺の目の前の机が思い切り叩かれる。そしてそのまま、俺の顔を覗き込むようにあいつが顔を近づけてきた。これでは、書類の整理やらなんやらはできそうにない。結局、俺のささやかな抵抗は無駄となり、俺はあいつに顔を向けて話を聞いてやるしかなくなったわけだ。
「‥‥なにがわかったんだ?」
「だから、わかったのよ! 私がいま人類に対して何をするべきか!」
「書類の整理だろう? あと、この間の始末書とか」
「そんなこと、どーでもいいのよ! 私はもっと世界の人達に希望を与えなければいけないの!」
 どーでもよくはない。ちなみに、俺達は日本のテレビ局に勤めている。こんな時世なため、テレビの電波を発信するのも難しいが、それでも市民の日々の平穏を守ろうと、番組を作り続けている。
「希望って‥‥。またUPCにアポ無し潜入取材して、最新兵器の映像を取ろうとかするつもりか? あれは、すぐに見つかってスパイと間違われ。局長に大目玉食らっただろう」
 そのための始末書だ。しかも、俺まで同罪として、この資料室の整理をやらされることになった。俺はただ、あいつのわがままに付き合わされただけだというのに。
「あれは何度思い返しても腹が立つわね! いいじゃない、ちょっとぐらい開発中の新兵器を見せてくれたって! 私達には知る権利があるのよ!」
「その情報をテレビで流すつもりだったんだろう?」
「当然よ」
「そんなことして、もし敵にその新兵器の情報がバレたら問題だろう」
 というより、間違いなくバレる。そもそも、UPCにアポ無しなのが問題だ。
「もうそんなことはどーでもいいのよ!」
「そうか、俺一人置いて逃げて、俺がスパイ容疑で拘留されそうになったのは、どうでもいいのか」
「それよりも、今は人々に希望を与える番組を作らなければならないの! そして、その希望はULTのエミタ能力者達なのよ!」
「今度はULTに潜入取材か? それともエミタ能力者に密着取材でも行なってドキュメンタリーでも作るか?」
 正直、またアポ無しなんてことをしたら、さすがにもう局長の大目玉ではすまない。下手をすれば解雇の可能性もある。それは流石にまずいので、なんとしても止めなくてはならないし、最悪でも俺は付き合わない。
「馬鹿ね、そんなんじゃ希望は与えられないわ」
「そうか、それはよかった‥‥。で、何するつもりだ?」
「特撮よ!」
「は!?」
 特撮ってのはあれか? 火薬やワイヤーアクションを使って、正義のヒーローが戦ったりするやつか? いやもちろん、それは偏った認識であることはわかっている。特殊撮影なんてものは、大抵のテレビや映画で利用されている当たり前の技法だ。だが、こいつがわざわざ特撮などと言うからには、おそらく先に俺が思ったことを言っているのだろう。
「エミタ能力者が、バグアをやっつけるヒーロー物のお話を作るのよ! これを見た子供も大人も、きっと希望に打ち震えるに違いないわ!」
「‥‥子供はともかく大人は無いだろう。そもそも、予算はどうする。派手なアクションの演出をするには、結構な金がかかるぞ。そんなの、今の状況で出るわけがない」
「ふふふ、それはすでに解決しているわ! 無理に戦いを派手に見せるから、お金が掛かるのよ。最初から派手な戦いなら、わざわざお金を掛けて演出する必要は無いわ」
「おい、それはどういう‥‥」
「そう、最初から超人的な動きで戦えばいいんだわ。そして、それができる者達を私は知っている」
「まさか‥‥もしかして‥‥」
「キャストにエミタ能力者を使うわ」
 やっぱりか‥‥。たしかに、エミタ能力者は超人的な能力を持っている。彼らの戦いをそのまま撮影すれば、特撮のヒーロー物として使えるかもしれない。だが、それはいくらなんでも、能力の無駄遣いというものじゃないか?
「エミタ能力者を主人公にした特撮ヒーローアクションに、実際のエミタ能力者を使う。話題性もばっちりだわ! AD! さっそくULTに連絡よ!」
「‥‥まず局長に話を通せ」
 だが、こうなってしまっては、俺にこいつを止める手段はない。願わくば局長が‥‥も、無理そうだから、エミタ能力者がこんな依頼を誰も受けないで欲しいと願うしかない。

・依頼内容
 特撮ヒーロー物のドラマの俳優
・概要
 特撮ヒーロー物のテレビ番組『未知生物対策(ULT)戦隊エミタレンジャー』に俳優として出演し、番組を完成させる。
 内容は「悪の宇宙人バグアの侵略から地球を守るエミタ能力者『エミタレンジャー』が、バグアの怪人をやっつける」というもの。いわゆる戦隊ヒーロー物で、能力者達はエミタレンジャーまたはバグア怪人の役を演じ、ドラマを制作する。
 撮影期間は一週間。今回は特番の一時間番組として作成。詳しい配役指定は、下記参照。

・主な配役と指定要綱
エミタレンジャー(5人) いわゆる主人公。悪の宇宙人バグアを倒すために立ち上がった、正義のエミタ能力者。指定要綱は、とにかく派手な能力覚醒(全身にオーラが出るなど)をする者。加えて、容姿や演技力があると望ましい。
バグア怪人(2人) 悪の宇宙人バグアによって生み出された怪人。強力な力で罪の無い人々を苦しめるが、最終的にはエミタレンジャーに倒される。指定要綱は、非人間じみた能力覚醒(ビーストマンなど)をする者。演技力があると望ましい。
バグア幹部(1人) 悪の宇宙人バグアの幹部。人類の侵略計画を立て、怪人達を操り、自らも強力な力でエミタレンジャーを苦しめるボス敵。指定要綱は、なんとなく悪そうな能力覚醒(闇のオーラに包まれるなど)をする者。加えて、容姿や演技力があると望ましい。

・主なスタッフ
春日鈴美(カスガスズミ) テレビ局の(自称)女性敏腕ディレクター。頭は良いのだが、性格は自分勝手でわがまま。今回の番組を考えた。
安藤大悟(アンドウダイゴ) テレビ局の男性AD。名前のイニシャルからあだ名も『AD』と呼ばれている。ごくごく平凡な能力だが、性格は斜に構えつつも面倒見が良い。いつも鈴美のわがままに付き合わされている苦労症。

●参加者一覧

小川 有栖(ga0512
14歳・♀・ST
水鏡・シメイ(ga0523
21歳・♂・SN
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
シェリー・ローズ(ga3501
21歳・♀・HA
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF

●リプレイ本文

●配役決定
 鈴美の突拍子も無い思いつきから数日後。俺と鈴美は、依頼を受けたというエミタ能力者達との顔合わせを行っていた。まさか、本当に集まるとは‥‥、エミタ能力者ってのは意外に暇なのか?
「それじゃ配役を発表するわよ! エミタレッド、クリア・クリムゾン役。クリア・サーレク(ga4864)!」
「はい!」
「クリア・サーレクです! アメリカでも戦隊物は大好きだったんだよー! 戦隊物のレッドが出来るなんて、夢のようなんだよー!! 一生懸命がんばりますので、よろしくおねがいします!」
 凄く嬉しそうだなぁ。それに、元気な様子は好感が持てるな。け、けして、可愛いからってわけじゃないぞ。
「エミタブルー、ロジー・アクア役。ロジー・ビィ(ga1031)!」
「はい」
「重要な役に選んでいただいて光栄です。がんばりますね」
「ブルーは、変身するまではちょっと天然入ってるから、上手く演じてね」
「あら、それでしたら、素のあたしと似てますね」
 そう言ってコロコロと笑うビィさん。‥‥どうやら、見た目からの第一印象とは少し違う性格のようだ。
「エミタイエロー、犬飼翼役。伊藤 毅(ga2610)!」
「はい」
 伊藤さんは、元軍人というだけだって、ピシッとした立ち方をするな。真面目そうな人で、一番リーダーっぽいと思うんだが。イエローは勝つために手段を選ばないという真逆な性格だし、本当に大丈夫なのか?
「伊藤毅です、よろしくお願いします」
 簡単に挨拶をし、席に着く伊藤さん。ま、俺は配役には口を出せないし、鈴美にも何かしら考えがあるんだろう。単なる思い付きかもしれないが。
「エミタホワイト、白鳥恭平役。水鏡・シメイ(ga0523)!」
「はい」
「水鏡シメイです。皆さんの足手まといにならないよう、しっかりとやっていきたいと思います」
 その柔らかい物腰は好感が持てるな。今は和服姿だが、きっとスーツも似合うだろう。ようやく安心材料が出来たって所だな。
「エミタブラック、夜烏源治役。六堂源治(ga8154)!」
「俺ッスか!」
「戦隊ヒーローか‥‥ガキの頃、スゲー憧れてたんスよね! バッチリ撮影を成功させるッス!」
 気合十分な様子でガッツポーズを取るその意気込みは素晴らしいと思うが、役柄とのギャップに、また不安要素が増えちまったぜ。次は、敵役か。
「バグア幹部、薔薇将軍イザベル役。シェリー・ローズ(ga3501)!」
「ようやく、あたしね」
「バグアの幹部‥‥ね。やってやろうじゃないか。芝居だからって容赦しないよ、せいぜいあたしの足手まといにはならないようにしな!」
 うわ、女王様か!? それとも、すでに役柄に入ってるのかもしれない。それにしても、いきなりこの言いよう、鈴美とぶつからなければいいんだが‥‥。
「いいわね! あんた、役柄にピッタリよ! その調子で頼むわね!」
「ふふん、ディレクターは見る目があるじゃない。任せておきな!」
 意外にお互いの相性は悪くないようだ‥‥。
「バグアの怪人、機械人形使いアリス役。小川 有栖(ga0512)! 同じく、怪人大剣使いサルファ役。サルファ(ga9419)!」
「は〜い」
「はい」
 立ち上がったのは、可愛らしい少女と美形の青年。バグアの怪人というから、もっと怖そうなイメージをしていたが、鈴美はどうやら敵役にも花を持たせたいようだ。これなら確かに敵役にも人気がでそうだが‥‥まてまて、敵ってバグアだぞ、バグアが人気出たらまずいんじゃないのか?
「小川有栖です、好きなことは食べることです。一生懸命がんばりますね〜」
「サルファだ。面白そうな依頼だと思ってやってみることにした。よろしく頼む」
 それぞれの配役発表と挨拶が終わり、俺は台本を配る。エミタ能力者ってのは、もっと好戦的な人ばかりだと思ってたが、結構そうでもないらしい。皆、普通の人ばかりだ。いや、ローズさんはちょっと怖いが。ともかく、これで配役は決定し、撮影に入ることになる。正直、不安だらけだが、どうなることやら‥‥。

●撮影スタジオ
 それからしばらくして、撮影が開始された。今日は、スタジオでの収録。メインは悪役側の会話シーンだ。
「最初に言っとくけど、子供番組だからってヘラヘラしてる奴は現場から放り出すよ!」
 ローズさん、気合入ってるなぁ。イザベル役の衣装に着替えて、メイク済みのその姿は、まさに悪の女幹部といったところだな。本人の意向でピンク色がメインの衣装になってるが、何故か彼女が着ると可愛いというより妖しげな雰囲気になる。それにかなり露出が多いが、子供向け番組でいいのか。まぁ、最近は大きいお友達も見ることが多いみたいだしな。
「なぁADの人、俺はこの格好でいいのか? この武器、本物なんだが」
「ええ、お願いします。ディレクターが、どうせなら本物のほうが面白い、と言うもので」
 大剣使いという設定の役のサルファさんは、大剣を背負っている。また鈴美の思いつきだが、サルファさんが自前で大剣を持ってたので利用することになった。
「おまたせしました〜」
「遅いわよ有栖ちゃん。あら、似合ってるじゃない。可愛いわね、ふふふ」
「そうですか? ありがとうございます」
 少し遅れて有栖ちゃんがやってくる。敵役だというのに、この可愛らしさはどうだ! あと、ローズさんの有栖ちゃんを見る視線が妙に気になるが、役なのかマジなのか気になる‥‥。
「それじゃ、そろそろ撮影を開始するわよ! 皆位置について」
 鈴美の指示に、役者達がセットの所定の位置につく。そして、撮影は開始された。
「よくやったわね仔猫ちゃん」
「はい、イザベル様〜」
「ふふ、交通機関を全てシルバーシートにして、若者達を座らせないようにする『若者クタクタ作戦』によって、人間達は混乱しているわ! これで地球征服も容易になると言うものね」
「素晴らしいですわ、イザベル様」
 そう言ってイザベルがアリスを可愛がる。若者クタクタ作戦って、この脚本はどうなんだ?
「随分と回りくどいことをするな」
「サルファ! イザベル様の計略に不満があるというの!?」
「計略? フン、俺にはこの力がある。策なんて必要ない。非力な人形使いは、幹部の機嫌取りでもやっていろ」
「貴様!」
「いいわ、アリス。サルファ、そこまで言うのなら、その力とやらで人間達を征服してみせなさい」
「いいだろう。イザベル様に、本当の力というものを御見せする」
「イザベル様にたてつくとは、おろかなやつ」
 サルファ登場か。やっぱり、あの大剣はインパクトがあるなぁ。それにエミタ能力の覚醒とやらで、実際に見えている黒いオーラが悪役っぽさを引き立てているな。いちいち映像にエフェクトをかけなくてすむから助かるな。
「はいカット! いいわよ三人とも! その調子で続きもお願いね!」
 演技もみんな上手だし、ローズさんの猛特訓が効いてるようだな。鈴美の言うとおり、これからの撮影も楽しみだ。

●ロケ
 さて、撮影もようやく終盤。今日は外に出て、戦闘シーンの撮影だ。今回の売りは、この戦闘シーンだからな、皆には張り切ってやってもらわないと。
「ADさん、ちょっといいですか?」
「クリアちゃん、どうかした?」
 撮影が始まる前に、クリアちゃんが声を掛けてきた。人見知りしない天真爛漫な性格のおかげで、俺ともすっかり仲良しだ。いや、可愛いからとか、そういうわけじゃないぞ!
「ちょっと気になったんだけど、スタッフの皆って、実際のボク達の戦いがどんなのか知らないよね?」
「ん? まぁ、実際に見たことは無いかな。それがどうかした?」
「いや、常人が目で追うのって大変かなって思って。一応手加減とかするけど、戦いは派手なほうがいいんでしょ? 周囲に砕かれた石とかが飛んで危ないかもしれないよ」
「そうか、わかった。じゃあ、カメラマンとか他のスタッフには、俺の方から気をつけるように言っておくよ」
 クリアちゃんの言うことももっともだ。実際どれほど凄い戦いになるか想像がつかないが、用心に越したことは無いだろう。鈴美のことだから、そんなこと気に掛けず、全力でやれとか言うだろうしな。

「これ以上の悪事は、このエミタレッドがゆるさない!」
「出たね! 五色饅頭!」
 戦闘シーンの撮影が開始されたわけだが‥‥。なんだこりゃ‥‥。クリアちゃんとローズさんの戦闘なわけだが。クリアちゃんの銃の攻撃を、凄い跳躍で回避するローズさん。そして、目にも留まらぬ速さで間合いを詰めるローズさんの、剣での激しい突きを紙一重で回避するクリアちゃん。
「すげぇ‥‥、能力者ってこんな動きできるのか‥‥。本当に特撮みたいだな‥‥」
「いいわよ〜、これよ、これを望んでたのよ! カメラ! 撮り損ねたら殺すわよ!」
 鈴美も興奮しているようだ。最初は無謀と思ってたが、たしかにこの戦闘シーンがあるだけで、十分数字を取れそうだな。

「AD!」
 撮影も一段落して昼休み。なにやらローズさんが呼んでいるな。
「どうしました?」
「ちょっと何、お弁当が足りないってどういう事よ!」
「は?」
 弁当が足りないってどういうことだ。間違いなく人数分用意したはずだが‥‥。
「いえ、そんなはずは‥‥」
「現に足りないのよ。ねぇ、アンタが責任取って街まで買いに行きなさいよ」
 たしかに調べてみると、足りなくなっているらしい。しかし、街まではここから一時間、途中にコンビニも無い。困って周囲を眺めると、有栖ちゃんが弁当を食べているのが見えた。凄い勢いで食べているが‥‥。
「‥‥ってちょっと待て。そこ! 有栖ちゃん!」
「はい〜?」
 彼女の横には空になったもう一つの弁当の箱。間違いない、彼女が弁当が足りなくなった犯人だ。
「お弁当は、一人一個だよ」
「え? 二種類あったら、二つで一食だと思うんですけど〜」
「いや‥‥」
「アンタ! ADが俳優に文句つけるんじゃないわよ。いいから、さっさと用意しなさい!」
 うう、ローズさん怖ぇ‥‥。俺より年下ですよねたしか‥‥。ともかく、俺は手元にあった弁当を差し出すことにした。
「あの、すいません、これでいいですか?」
「あら、ちゃんとあるじゃない。まったく、あるならさっさと出しなさいよ」
 俺の分ですけどね‥‥。ああ、今日は昼飯抜きか‥‥。

「フ‥‥俺の攻撃が避けられるかな?」
「OK、支援射撃は任せろ、敵を一歩たりとて、動かさせん!」
 六堂さんと伊藤さんの殺陣シーン。戦闘員をばっさばっさと倒していくが、戦闘員の皆さんは普通の人なので、くれぐれも本気は出さないでください。
「‥‥っく! なかなかやりますわね」
「フン、この程度か、エミタブルー?」
 二刀のビィさんと、大剣を振るうサルファさん。あの大剣を、よくもまぁあんなふうに振るえるなぁ。それを受け止めるビィさんも、女性なのに負けてないし。
「しかしこれも計画の内‥‥」
「っ! あの爆発の方向は、まさか!」
「隙あり!」
「ぐはっ!」
「計略も重要でしてよ?」
「‥‥計略を軽んじていた時点で、俺の敗北は決定していた、か‥‥」
 爆発に動揺した隙にサルファを倒すブルー。それにしてもこの脚本、ブルーといい、イエローといい、なんで卑怯なんだ? 卑怯戦隊なのか?
「イザベル様‥‥今まで、すみませんでした‥‥どうか‥‥生きて‥‥」
「よし、そこで爆発よ!」
 鈴美‥‥サルファの敗北シーンだが、いくら能力者でも自爆はできんだろ。

「おやつが無くなってます!」
 三時ごろ、有栖ちゃんが突然声をあげた。
「どうしたの?」
「ここにあったおやつが無くなってるんです! もしかしてADさん食べました!?」
 ‥‥もし食べてたら、この腹減り具合が少しはマシになってるだろうよ。それに、弁当二つ食って、まだ食うつもりだったんだ。その後、おやつをこっそり食べた犯人が見つかったが。
「おや、バレてしまいましたね、ははは」
 水鏡さん、アンタだったのか。意外におちゃめだな。
「おやつ‥‥楽しみにしてたのに‥‥おやつ‥‥」
「ははは‥‥小川さん、少し怖いですよ」
 有栖ちゃんの恨みがましい様子に、笑みが引きつってますよ水鏡さん。
「ホワイト! 貴様だけは倒す!!」
「ちょ、ちょっと、もう少しお手柔らかに‥‥」
「気合入ってるわねぇ、有栖ちゃん」
 小さい身体で、自分の身長と同じぐらいの槍を振るってホワイトに襲い掛かるアリス。目がかなり怖い。まぁ、食い物の恨みは怖いよな‥‥。ああ、腹減った。

●アフレコ
「この黒き刃から逃れられるかな? ブラックブレード‥‥! ぬおー! 自分で演技した口に、声を合わせるのがこんなに難しいとは! 口と声がズレる!」
「卑怯者? それはほめ言葉ってやつだ」
 撮影された映像に、声をあてる作業。六堂さんは苦戦しているようだな。伊藤さんは、結構ノリノリか。この後は、主題歌の収録もあるしな、皆大丈夫か?
「え!? 今回の主題歌、オレ等が歌うんスか!? ‥‥演技は何とかなったッスけど歌は‥‥あんま得意じゃないッス」
「まぁ、歌がメインじゃないですし、あまり気張らなくても大丈夫ですよ」
「しかし、依頼ッスからね! 頑張って歌うッス!」
 気合を入れる六堂さん。まぁ、複数人で歌うから、そうそう変なふうにはならないだろう。
「それじゃ、主題歌の収録開始しまーす」

●主題歌
「「「「「ULT戦隊! エミタレンジャー!!」」」」」

キミの叫ぶ声がする キミの悲しい声がする
見ない振りなんて出来ない 約束しただろう

その涙拭ってみせるさ そう俺達エミタレンジャー

「闇を切り裂く赤き閃光、エミタレッド!」
「必ず護るわ、エミタブルー!」
「天空の猟犬、エミタイエロー!」
「レクイエムを奏でます、エミタホワイト!」
「孤高のナイスガイ、エミタブラック!」

お前らの好きにはさせない 勝利へのwake up!
俺達が護ってみせる 勝利へのwake up!
この熱いパワー 誰にも止められない

Yes! エミタレンジャー GO! エミタレンジャー

ULT戦隊エミタレンジャー!

●打ち上げ
「撮影終了、おつかれさま〜!」
「かんぱ〜い!」
 全ての撮影が終了し、主要の俳優とスタッフで打ち上げとなった。
「ようやく終わったのね」
「ええ、皆を引っ張ってくれたローズさんのおかげですよ。さぁどうぞ」
「あら、気が利くわね」
 ホッとした表情のローズさん。撮影中はかなり気を張っていたらしい。撮影が終了した直後など、笑顔のままぶっ倒れた。本当におつかれさまですよ。
「さて、それでは盛り上がってきた所で、今回のNG集の上映と参ります!」
「ええ〜〜!!」
 俺の言葉に、非難の声をあげる俳優陣。実は、クリアちゃんの提案で、こっそりとNGシーンを編集してきたのだ。正直、過重労働だが、もう慣れたさ‥‥。今日は、このNG集を皆で楽しんで、疲れを忘れるとしよう。
「よし、今回のが数字取れたら、続編を作るわよ!」
「おおーー!!」
 ‥‥鈴美、お前は俺を殺す気か。