●リプレイ本文
依頼を受けた一行は、車に乗って山の中腹にある山小屋へと到着する。
「ここが、ドラゴンの棲む山か」
「自分が竜退治する事になるなんて想像してなかったッスよ」
車を降りたベーオウルフ(
ga3640)が、山頂を見上げて呟く。その言葉に、紫藤 文(
ga9763)も困ったような笑みを浮かべながら、同じように山頂を見上げた。
「悪いドラゴンを倒してお姫様を助ける、で、ハッピーエンド。お姫様どこですか?」
「いやぁ、ドラゴンから取れる皮‥‥肉‥‥有効活用したいですねぇ♪」
「ドラゴン退治とか‥‥ずいぶん『わかってる』キメラだぜ」
オリガ(
ga4562)と古河 甚五郎(
ga6412)は、物語やゲームのドラゴンを想像して楽しそうな笑みを浮かべ、草壁 賢之(
ga7033)が苦笑する。しかし、賢之の苦笑は、やはり同じようにわくわくしてしまっている自分と、お約束とも言えるようなキメラを作ったバグアに対してのもののようだ。
「コイツでドラゴンを狩れるのかどうか‥‥試してみるか?」
「‥‥何故、みんな楽しそう?」
ブレイズ・S・イーグル(
ga7498)も、大剣を担ぎ上げては、ニヤリと笑みを浮かべる。そんな一行の様子に、リュス・リクス・リニク(
ga6209)が不思議そうに首を傾げた。
「おっしゃ、またせたな、今回の物資だぜ!」
そんな声と共に、雷(
ga7298)が車に詰んでおいた、大量の弾頭矢を取り出した。ドラゴン退治ということで、威力の高い飛び道具を持ってきたわけだが、車で運んでいるうちに間違って爆発していたら、大惨事だったかもしれない。ともかく、そんなことも無く、弾頭矢はひとまず山小屋に保管されることになる。
「この山小屋は結構しっかりしていますね。キッチンは一通り揃っていますし、食堂も広いです。寝る場所も、各個室に分かれています、ベッドもありますね」
山小屋の中に入ったオリガ。山小屋の管理人はいなくなっているが、さほど荒れてはおらず。十分、数日の滞在に利用できるようである。すでに夕方になっていたので、一行は山小屋に持ってきた物資を運びこみ、ひとまず明日に備えて休むことにするのだった。
「んしょ‥‥んしょ‥‥」
「何を作っているんですかぁ?」
「弾頭矢を付けた‥‥投槍」
「ほぅ、よければ私も手伝いますよぅ。もちろんガムテで!」
「いい‥‥リニク一人でできる」
「そうですかぁ」
その晩、リニクが槍と弾頭矢をロープで縛っていた。甚五郎はガムテープで補強しようとするが、断られて残念そうに肩を落すのだった。
●森1
次の日、朝早く山小屋を出た一行は、二人一組で山の探索へと向かう。そしてベーオウルフと文は、山頂を目指し山道を進んでいた。
「これは‥‥足跡か」
「さすがに、でっかいッスねぇ」
途中、森の中を探索した二人は、木々が開けたやや広い場所で、巨大な足跡を発見する。古代の恐竜を思わせる独特な足の形が、重い重量により大地に深く刻まれており、おそらく今回の標的であるドラゴンのものによるものだろう。
「これで少なくても、存在の確認とこの場所に降り立ったことはわかったな」
「こんなのを見ると、ビビッちまいますね。も、もちろん、冗談ですけど」
しゃがみこみ、足跡をよく確かめるベーオウルフ。足の大きさだけでも、数メートルはある様子に、文が苦笑を浮かべるのだった。
その後、山道に戻り、谷を抜け、山頂へと向かう二人。
「ここで襲われたら、ひとたまりも無いな」
「そんな、縁起でもないこと言わないで」
途中の谷、吊り橋を渡る際にベーオウルフがポツリと呟く。それを聞いて、文は笑みを引きつらせるのだった。しかし実際、吊り橋を渡っている最中に、吊り橋を攻撃されれば、ろくな攻撃もできずに谷底に落ちかねないのも確かである。
「これが、もう一つの山小屋ッスか。下のと比べて小さいなぁ」
「寝るだけなら十分だ」
無事に谷を越え、またしばらく登ると、もう一つの山小屋が見えてきた。その大きさは、中腹の山小屋の半分以下。文は困ったように呟くが、ベーオウルフはたいして気にしていないようだ。
「‥‥ここから、山頂が見えるな」
「それで、どうッスか。目的のヤツはいる?」
「いや‥‥どうやら、今はいないようだ」
山小屋近くから、双眼鏡で山頂を眺めるベーオウルフ。文は一応問いかけるが、大型の生物なら肉眼でも十分見えるはずで、やはりドラゴンの姿を見ることはできなかった。
「どうする? もうしばらくここで見張る?」
「いや‥‥、今日の所は一度戻ろう。あまり遅くなるのもまず‥‥!?」
「どうしたッスか? あ、あれは!!」
とりあえず、一度山を降りようとした二人。だが山頂付近から下を見下ろすと、そこには大きな翼を広げた影が、山道からやや離れた森の上空を飛んでいる様子が見受けられるのだった。
●洞窟
「邪魔だ! このネズミ野郎!」
「ニッポンのネズミ妖怪ですか」
山頂へ向かう道から外れた山道を抜け、洞窟へと向かった雷とオリガだが、洞窟の中には2メートル近いネズミが巣食っていた。ちなみに、オリガの言うようなネズミと人間が合わさったような生き物ではない。
「ちっ! こいつら、電気をまとって攻撃してくるな!」
「ああ、アメリカでも有名な電気ネズミですか」
そのキメラネズミは、その身を放電させ、体当たりを仕掛けてくる。雷は、自分の名と同じ意味を持つ攻撃に顔を顰めながら大剣を振るい。オリガは、雷を援護するように弓矢を放つ。もちろんオリガの言う、愛らしい鳴き声のネズミとは全然関係ない。
「これで‥‥最後だ!」
雷の大剣がネズミを一刀両断する。しばらくして、洞窟の中にいたキメラネズミを駆逐することに成功する二人。しかし、雷が多少のダメージを受けてしまった。
「ほら、怪我してますよ。ちょっと見せてください」
「っと、すまねえ。少しドジっちまった」
戦いが終わり、一息つける二人。オリガは救急セットで、雷の傷の治療をした。
「それにしても、この様子だと、ここにはドラゴンはいないようですね」
「そうだなぁ。無駄足だと思ったら、腹が減っちまったぜ。今日の飯は何があんだ?」
手当ても終わり、洞窟をざっと見てみたが、ネズミキメラ以外に目ぼしいものはない。雷は少し肩を竦め、自分の腹をさする。それに、オリガが荷物から弁当を取り出した。
「今日のお昼は、ニンジンサンドです」
「ひゃっほう! 人参最高! って、俺は馬じゃねえ! ってか、ニンジンサンドってなんだよ!」
「もちろん、人参を食パンでサンドした、サンドイッチです」
「人参だけって‥‥せめてサラダサンドにしてくれよ‥‥」
至極当然とばかりに人参がぎっしりつまったサンドイッチを差し出すオリガに、雷は苦笑するのだった。
●森2
「どうだ、なんかいたか?」
「‥‥獣の気配しか感じられないな」
山小屋近くの、鬱蒼と茂った森へと入ったブレイズと賢之。賢之は、覚醒し周囲の気配を探るが、これといった怪しい気配を感じることはできない。しばらく、そうやって森を探索するが、やはり目新しい発見は無かった。
「しゃあねえな。なんか、食糧になるもんでも探して、一度帰るか?」
「そうだな‥‥」
ブレイズはしかたなく、夕飯の材料にでもなりそうなものを探そうとし、賢之もそれに同意して覚醒を解こうとした。しかし、賢之は突然上空を見上げる。
「っ!? 上空!!」
「なんだ!?」
気づいた時には、それはすでに真上にまで来ていた。長い胴体に大きな羽根を広げた巨大な生物。創作生物で王者とも言われる、巨大な爬虫類の化物、ドラゴンであった。
「こちらに‥‥気づいているのか!?」
「どうやら、その様子だぜ。勘弁してくれ‥‥」
ドラゴンは、上空を旋回しながら、間違いなく二人を睨みつけていた。二人はすぐに迎撃態勢を取る。
「いまはまだ、戦うつもりは無いぞ」
「あちらさんはどうだろうな」
迎撃態勢を取りながらも、逃げる二人。しかし、ドラゴンは二人を追いかけるように空を飛び‥‥。そのまま、巨大な炎の塊を吐き出した。
「‥‥ったく、地に足がついてないヤツだなぁ‥‥ッ!」
「馬鹿言ってないで、走れ!」
轟音と凄まじい熱気。二人はドラゴンに追いかけられながら、炎の塊を避け、森の中を逃げ回る。何度も、炎が近くで爆発して、さすがの二人も汗が流れ落ちる。どうやら、熱さだけが理由では無いようだ。
「行ったか?」
「‥‥ああ、気配が遠ざかるのがわかる」
その後しばらく逃げ回った二人だが、ようやくドラゴンも諦めたようで、またどこかへ飛んで行ってしまうのだった。
●滝
「いや〜、この出来栄え。完璧ですねぇ♪」
滝へ到着後、甚五郎は観察所として、適当な場所にテントを張った。その後、その周りに木の枝などをガムテープで貼り付けて、迷彩処理を施す。そして、そんな自分の仕事振りに、満足そうに笑みを浮かべた。
「‥‥ドラゴンの足跡‥‥見つけた」
「やはりありましたか。キメラとはいえ、生き物ですからね。水の補給は行なうということでしょう」
周囲を探索していたリニクが、巨大な足跡を見つける。甚五郎は、納得したように頷いた。
「こちらの作業はとりあえず終了です。魚でも捕まえて帰りますか?」
「うん‥‥。っ!? 何の音?」
「爆発音のように聞こえましたが‥‥」
一通りの作業が終了した二人は、食糧を取って帰ろうとする。しかし、突然の爆音に慌てて周囲を見回した。
「!! ‥‥テントに隠れて」
「リュスさん、どうしましたか?」
しばらくして、爆音が止む。それに何か気づいたのか、リニクは甚五郎を促してテントに隠れる。そして、そこで少しの間待っていると。
「‥‥ドラゴン」
「きましたねぇ‥‥」
上空から滝の前にドラゴンが飛来し、大きな地響きと共に着陸。そして、ドラゴンは水を飲み始めた。その様子を、ジッとしながら観察する二人。どうやら、ドラゴンは二人に気づいていないようだ。またしばらくして、ドラゴンは再び大きな羽根を広げると空へと飛び立っていく。
「これで、ここがドラゴンの休憩所ということはわかりましたね」
「うん‥‥」
ドラゴンが見えなくなると、二人はテントを出て、すぐに山小屋へと報告に帰るのだった。
●ドラゴン討伐
それから数日、一行はドラゴンのことを調査し続けた。そして、ドラゴンは一定のルートを巡回していることが判明する。その中で、滝と頂上で迎え撃つことに決めた一行は、それぞれの場所に分かれ待ち伏せをする。
「来たぜ‥‥」
滝で待ち伏せをしていた一行。賢之の合図に、全員が攻撃の準備をする。こちら滝組は、主力となっており、仕留めそこなった場合は頂上組が止めを刺すことになっていた。
「これ‥‥使って‥‥」
「おぅ‥‥潰す」
リニクが作っておいた弾頭矢付き槍を預かり、ブレイズが大きく頷く。そして、滝で休憩しているドラゴンに向かって、その槍を大きく振りかぶった。
「喰らいなァ!」
「あ‥‥」
ブレイズの手から槍が放たれる‥‥。しかし、槍はドラゴンのやや上を飛び越えていってしまう。槍には弾頭矢が大量に付けられバランスが悪く、しかもよほど槍投げに慣れていなければ、そうそう目標通りに飛ぶはずも無かった。そして、外れた槍は近くの岩場に突き刺さり、弾頭矢が大爆発を起こす。もう槍は使い物にならないだろう‥‥。
「悪い、外した‥‥」
「気にしないでください、しかたないことです」
ばつが悪そうに言うブレイズに、リニクは首を横に振り。すぐに、弓に弾頭矢を番えた。そして、槍の爆音でこちらに気づき、怒り狂うドラゴンに向かって、それを放つ。矢は確実に羽根の根元に命中し、爆発した。それを皮切りに、残りのメンバーもドラゴンへと攻撃を開始する。
「狩りの基本はペイント弾から、かな?」
「そんな、悠長なこと言っていられますか?」
文は、ペイント弾でマーキングを行い。オリガはやはり弓に弾頭矢を番え、ドラゴンの死角へと攻撃を加える。その攻撃に、ドラゴンは長い首を苦悶に曲げる。
「バタバタはばたくんじゃねぇ、デカトカゲが!!」
「まて、様子が!」
「っ!!」
そこへ、雷とブレイズが大剣を振りかぶって突っ込む。しかし、何かを察した賢之がそれを止めようとした。だが一歩遅く、ドラゴンから強力な火炎弾が吐き出される。そして、それをまともに受けてしまう雷とブレイズ。
「くそっ、これくらいどうってことねぇ! やるぞブレイズ! 紫電一閃!」
「しゃあねぇな‥‥付き合ってやるか」
それでも二人は、火炎をものともせずに突っ込み、お互いの息を合わせる。
「大剣なめんなっ! これぞ漢の武器としれっ! 電光石火! その身に刻め光と炎を! 炎雷双牙ぁぁぁ!!」
「悪いが‥‥仕舞いだ!」
二人は赤いオーラを纏い、交差するように大剣を振るう。そして、バツの字にドラゴンの胴体が切り裂かれた。苦痛に悲鳴をあげるドラゴン。だが、ドラゴンは傷を負いながらも尻尾を振るい、二人を吹き飛ばすとそのまま羽根を広げ飛び立ってしまう。
「逃がすか!」
「いい加減倒れろデカブツ」
賢之と文が、すぐに飛び立つドラゴンへと攻撃する。賢之の関数弾がドラゴンの身体を貫くが、それでもドラゴンはフラフラとしながらも空へと逃げ出してしまった。
「倒し損ねましたか。しかたありません、あとは山頂組に任せましょう」
オリガ達はそんなドラゴンを見送りながら、山頂で待ち伏せしている仲間達に後を任せるのだった。
「きましたよぉ」
山頂の山小屋では、甚五郎とベーオウルフが逃げ出したドラゴンを待ち構えていた。やがて、弱ったドラゴンが山頂に停まるのを確認すると、二人は、それぞれ瞬速縮地と瞬天速で間合いを詰める。ドラゴンは、そんな彼らに対応することも出来ないほど弱っており、あっさりと二人は間近まで近寄った。
「止めはお任せしますよ」
「わかった」
甚五郎はこれ以上飛び立てないように羽根を攻撃し、ベーオウルフは大剣で首を狙う。ドラゴンも必死に抵抗し、炎を吐き出すが、彼らは素早い動きでそれをものともせず、繰り返し攻撃を行なった。やがて、ドラゴンはついに力尽き、その巨体を地に伏すのだった。
「本の中の『俺』は竜と相討ちになったが俺は違う。俺は竜をも屠る」
ようやく、ドラゴンを倒すことが出来た一行。ベーオウルフはドラゴンを倒したことを満足そうに呟いた。そして、これまでも数多くの実績を残してきたベーオウルフは『屠竜士』と呼ばれるようになる。
「さて、お楽しみの採取を‥‥」
「こんなものどうやって持ち帰るつもりだ?」
「‥‥そ、そうですねぇ」
その後、甚五郎はドラゴンの身体の一部を持ち帰ろうとしたが、道具も何も無い山頂ではどうやっても持ち帰ることはできなかった。ともあれ、こうしてドラゴン退治は終了する。そして一行は、付近の街の住民から感謝を込めてドラゴンスレイヤーズと呼ばれることになった。