タイトル:驚愕! 霧の中の巨人!マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/28 01:29

●オープニング本文


 山の森の中を二人組みの男が歩いている。その手には、ライフルを持っており、どうやら狩人のようだ。
「あ〜あ、今日はろくなのが取れなかったな」
「まったくだ。それにしても、何で俺達が猟師なんてやらなけりゃならないんだろうな」
「またその話か。しょうがないだろう、こっちまで食糧が回ってこないんだから。いい加減慣れろ」
「そうは言ってもだな。都会の方じゃ、メガコーポのおかげで十分な食糧があるそうじゃないか。こんなご時世でも、金があれば楽な暮らしができる。まったく、理不尽な話だぜ」
 片方の男は、ぶつぶつと文句を言いながら、近くの石ころを蹴飛ばす。その様子に、もう一人の男は苦笑して肩を竦めた。
「しかし、今日は霧が酷いな。そのせいで、獲物も見つからないし、下手をすれば道に迷いかねない」
 男の言う通り、周囲には霧が出ており、森の中で遠くが見通せない状態であった。いくら、彼らが慣れているからといって、こうも視界が悪いと道に迷うこともある。男達は、慎重に周囲を確認しながら進んでいった。
「へっ、こんな状況でキメラとやらに襲われたら、ひとたまりもないな」
「縁起でもない事を言うな。まだこの辺りでキメラが出たっていう話は無いが、いつ現れるかもわからないんだからな」
「こんな生活が続くなら、いっそバグアに降伏しちまうのもいいかもな。親バグア派だっけか?」
「おいおい、冗談もほどほどにしろよ。数年前の空襲を忘れたわけでもないだろう」
「へいへい、もちろん覚えてますよ。あんたんとこは、父親がやられたんだっけな」
「っ!」
「悪かった、そんな怖い顔するなよ」
 そんな会話をしながら、山を降りていく二人。しかしその途中、それは現れた‥‥。
「しかし、本当に濃い霧だな。道が間違ってないか不安になってくるぜ」
「大丈夫だろう。もうしばらくすれば、この森も抜けられるはずだ」
「ああ、そうだな。その途中でウサギでも見つかれば御の‥‥っ!?」
「ん、どうした?」
 片方の男が、言葉を止めたことに、不思議に思いもう一人の男は相手を見る。そこで見た男の表情は、驚きと恐怖が入り混じった顔で、目を見開いて見上げるように霧の彼方を見ていた。
「なんだ?」
「ば、化物‥‥」
「化物? いったい何を見‥‥っ!!」
 男の指差す先、そこには霧の中に浮かぶ巨大な人影。その大きさは、周囲の森の木々よりも高く、ゆうに5メートルは越えていると思われる。あまりのことに、身がすくんだ男達。やがて影は、ズシリズシリと地響きを立てながら近づいてきた。そして、影から現れたのは、一つ目の巨人。明らかに人間とは違う緑色の皮膚に、がっしりと筋肉質な身体。口は頬まで裂け、どんなものでも一飲みにしそうである。まさに化物といった感じだ。
「う、うわぁ‥‥!」
「お、おい!?」
 男の一人が、悲鳴をあげてがむしゃらに逃げ出す。しかし、巨人は一つ目でギロリと睨みつけると、逃げ出した男に腕を伸ばした。巨木よりも太い腕は、逃げる男さえも難なく捕まえ、持ち上げる。
「ひっ、助けて‥‥!」
「くそっ!!」
 もう一人の男が、すぐに銃を構え、巨人の腕に弾丸を放つ。しかし、弾丸は障壁のようなものに阻まれ、巨人に届くことは無い。そのうちに、捕まった男は、巨人の頭まで持ち上げられ‥‥。
「や、やめっ‥‥」
「っ!!」
 もう一人の男は逃げ出した。何も出来ない不甲斐なさよりも、命の危険に恐怖していた。必死に、何も考えずに逃げる。霧の中で、もうどこをどう逃げたのかわからない。やがて、森の終わりが見えた。男はせめてそこまではと、跳ね上がる心臓を抑えつけながら走り続ける。
「っ!? うわあぁぁぁぁ‥‥!!」
 ふいに、足元の感覚が無くなった。森の先は、崖になっていたのだ。男は何の抵抗もできぬまま、崖下へと落ちていく。だが途中、なんども地面にぶつかりながら、転がるように落ちていったために、奇跡的に死なずにすんだ。
「うっ‥‥」
 結果的に、男は重傷を負うことになったが、巨人から逃げおおせることとなった。その後、ボロボロの身体を引き摺りながら街へと戻った男は、山に現れた巨人について報告する。そして、街の者は、すぐにULTへと連絡、巨人退治の依頼を出すのだった。

・依頼内容
 巨人キメラの退治
・概要
 北米の山岳部の街付近に現れた、巨人は山の上を根城にしており、山に入った者に襲ってくるようである。いつ近くの街に降りてくるかもわからないので、早急にこれの退治を行なう。
 現在、山は霧が多い時期で、大変見通しが悪い。慣れている者でも、道に迷う危険があるので、山に入る際はくれぐれも注意しなくてはならない。
 今回の依頼は、付近の街からの依頼となっており。UPCからの支援は基本的に受けることはできない。山へと入る道具や地図などは、街で用意しているが、キメラ退治に必要な道具などは各自で用意を行なうこと。
 依頼は巨人を一匹退治することであるが、巨人の総数は確認できていないので、場合により複数現れることもあるかもしれないので、注意すること。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
ルフト・サンドマン(ga7712
38歳・♂・FT
リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
ラピス・ヴェーラ(ga8928
17歳・♀・ST
フィオナ・フレーバー(gb0176
21歳・♀・ER

●リプレイ本文

「ここが、山の入口か。ここからは、徒歩で行く必要がありそうだな」
 依頼を受けた一行は、巨人の現れたという山の入口に着いた。時任 絃也(ga0983)は山道の入口を眺め呟く。これ以上は、車での移動は無理そうで、一行は車を降り、徒歩で山へと入る必要がありそうだ。
「本当に霧が濃いわね‥‥」
「この霧もキメラの仕業か‥‥?」
「いえ、これは自然によるもので、この時期特有らしいですよ」
「そうか、さすがラピス。博識じゃのう!」
「そんな‥‥街で少し話を聞いただけなのですけれど‥‥」
 山道の先には霧が掛かっており、先まで見通すことができない。今のところまだたいした影響は無いが、奥へと進めばもっと霧は深くなるだろう。ルフト・サンドマン(ga7712)が口にした疑問に、ラピス・ヴェーラ(ga8928)が答える。大げさに感嘆するルフトにラピスは苦笑しつつも少し嬉しそうだ。
「この霧の中に、一つ目の巨人のキメラがいるのですね」
「一つ目の巨人‥‥サイクロプス、だっけ‥‥。バグアって、そんなものまで‥‥キメラにするんだね‥‥。霧の中、探すのは、大変だけど‥‥がんばらなきゃ」
「巨人さん‥‥世の中、背が伸びないで悩んでるコもいるっていうのに‥‥。人に悪さをするコは、ボクが許さないよっ」
 霞澄 セラフィエル(ga0495)が、ぼやけた輪郭しか見えない山頂を見上げて呟き、リオン=ヴァルツァー(ga8388)もギリシア神話に登場する一つ目の巨人をイメージして頷いた。月森 花(ga0053)も誰にも聞こえない程度の声でなにやらブツブツと言っていたが、グッと拳を握り締めてガッツポーズを取る。
「準備も整ったようだし、そろそろいきましょうか」
「被害が広がる前に叩く、俺達の仕事だ」
 地図を確認していたフィオナ・フレーバー(gb0176)が出発を促すと、伊河 凛(ga3175)を先頭に一行は山道へと入っていくのだった。

「こちらヴェーラですわ。ちゃんと聞こえますか?」
『こち‥‥らフレーバー‥‥なんとか‥‥聞こ‥‥ます』
「やはり、この霧で電波の状態が悪いようですわね。このまま進みますので、あまり離れすぎないようになさってくださいね」
『オーケー‥‥です』
 山を登っていく一行は、チームを二つに分けることにした。ラピスとフィオナが無線機で連絡を取り合うが、霧の影響か、通信の状態は悪いようだ。二つのチームは、なるべく離れすぎないようにしながら、山の森の中を探索していく。
「自然現象として見る分にはいいが‥‥戦いの場となると厄介だな、この霧は」
「そう‥‥だね」
 先頭を進む凛とリオン。すでに周囲は霧に囲まれ、日の光も遮断されて薄暗い。懐中電灯で先を照らしながら歩くが、どうにも心もとないと感じてしまう。
「巨人が現れたと報告があった場所は、あまり上の方ではないようじゃな」
 周囲を警戒しながら、ルフトが言う。事前に街で聞いてあった巨人の出現場所は、山から街へと帰る途中、森から出る直前らしい。
「だが、行きではなく帰り道で襲われたのなら。最初は山の上にいたが、獲物を追いかけて降りてきたのかもしれない」
「どのみち‥‥この山を歩き回らなければ‥‥見つからないかもしれない‥‥」
 だが、凛の言うことにも一理ある。結局、リオンが言うように、山全体を歩き回らなければならないようだ。
「ともかく、このまま森を進んでいきましょう。こちら、ヴェーラですわ。引き続き山頂に向かって進みます、どうぞ?」
『‥‥‥』
「‥‥あら?」
 ラピスが現在位置を確認しながら、後続へと連絡を入れる。しかし、それに返事が返ってくることは無かった。

「もしもし‥‥もしもーし! 駄目だ、通じないよ」
 フィオナは何度もトランシーバーに向かって声を出す。しかし、トランシーバーから返事が返ってくることは無い。
「どうやら、完全にはぐれたようだな」
 絃也が小さくため息をつく。用心のためにフィオナに何度も現在位置を確認させていたのだが、心配は的中してしまった。
「道に迷わないよう、木にペイントして置いたんだけれどねぇ」
「そのおかげで、道に迷ったことがわかったではないですか」
「そ、そっかぁ! そういう意味では役に立ったよね!」
「あ、あはは、そうだ‥‥ねぇ」
 花も通った場所にペイント弾で印をつけてきたのだが、それは悪い意味で役に立ってしまった。森の中を進んでいたはずの彼らは、進んだ先でペイントされた木を発見し、いつのまにか同じ場所へ戻ってきていたことに気づいたのだ。セラフィエルの言葉に、花はわざとらしく元気に喜んでみるが、地図を確認していたフィオナは笑うか落ち込むしかない。
「幸い、この印のおかげで現在地は確認できたけど、もう一斑とははぐれちゃったね」
「もしはぐれた場合の合流地点を決めておかなかったのは失敗だったな。この霧で、しかも無線も使えないとなると、お互いに探しようが無いぞ」
 花と絃也が困ったように口にする。周囲には霧が立ち込め、すでに10メートル先も見通せない状態。いつどこではぐれたのかわからない状態では、お互いの場所を確認することも難しい。
「一度、森の外へでようか?」
「その方が懸め‥‥」
「どうしたの?」
「いやぁ‥‥こういう時って、大抵悪いことが重なるよねぇ?」
「へ‥‥?」
 花の提案に、地図を確認していたフィオナが頷こうとして、何かに気づいたように慌てて周囲を見回した。その様子に、首を傾げようとした花だが、すぐに異変に気づく。
「近くにいます‥‥」
 セラフィエルがいち早く弓を構え、力を覚醒し、背中に3対の羽根を出現させる。他の者達も、すぐに臨戦態勢へと入り、気配を感じ取ろうと息を潜む。やがて、そんな彼らにズシンズシンという地響きが近づいてくる。そして‥‥。
「っ!!」
 まるで山頂のシルエットかと思えるほど高い位置に、一つ目の巨大な頭が現れるのだった。

「今の音、聞こえた?」
「ええ‥‥」
「間違いないじゃろう。B班が戦闘を行なっている音じゃ」
 霧の中で微かに聞こえた爆発音、凛の言葉に、ラピスとルフトが頷く。どうやら、どこかでB班が戦っているようだ。おそらく、セラフィエルの弾頭矢の音だろう。
「‥‥でも、音が反響して‥‥どこにいるか‥‥わからない」
 だがリオンの言う通り、音は周囲に反響し、B班がどこで戦っているのか正確な場所をつかめない。無線もいまだ通じる様子は無く、もちろん霧で周囲は見通せない。一行はとりあえず、元来た道を引き返すことにした。その途中‥‥。
「っ! お待ちください!」
「どうしたんじゃ?」
 突然、ラピスが一行を引き止める。彼女の高い知覚と直感が何かを感じ取ったようで、霧の中を必死に周囲を見つめる。
「来ましたわ。皆さん、注意してくださいませ」
「!!」
 ラピスの警告に、全員がすぐに臨戦態勢に入る。そして、しばらく警戒をしていると、霧の中にシルエットが浮かび上がった。
「でかい‥‥な」
 見上げるほどの大きさ、全長10メートル近いだろうか。まるでビルのようなそれのてっぺんには、巨大な一つ目の頭が乗っかっている。一行は、その姿に一瞬圧倒されそうになった。
「どうする?」
「やるしかないじゃろう。ラピス! 援護を! リオン! 護りは任せた!」
「わかりましたわ。くれぐれもお気をつけて!」
「うん、任された」
 凛の確認の問いに、ルフトが笑みを浮かべて答える。ルフトの指示に、ラピスは仲間達に練成強化を掛け援護し、リオンは後ろに下がりラピスを庇うように盾を構える。
「足を狙うぞ!」
「おぅ!」
 刀を構え、巨人へと近づくルフトと凛。
「くっ! 危ない!」
 しかし、霧と相手の巨大さに距離感が掴みづらい。武器の間合いへと入る前に、巨人は豪腕を繰り出してくる。凛の鋭敏になった感覚が大気の動きを感じて咄嗟に避けるが、横を通り過ぎただけで、激しい衝撃を感じる。
「食らえ! デカブツ!」
 ルフトが武器の威力を強化して巨人の足元を切りつける。赤く光った刃が、巨木のような足を切り裂く。
「浅かったか!? ぐぉっ!!」
「ルフト!!」
 しかし、巨人は足を切り裂かれてもものともせず、逆に足元のルフトを蹴り飛ばした。咄嗟に刀で受けるルフトだが、あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまう。
「大丈夫!? いま治療いたしますわ!」
「ぐっ、すまんなラピス」
 吹き飛ばされ、木に叩きつけられたルフト。すぐにラピスが駆け寄り、練成治療を行なう。そのおかげか、ルフトはすぐに立ち上がり、再び刀を構えた。
「もう大丈夫じゃ。おぬしは下がっておれ。あんなものをおぬしが食らえばひとたまりもないぞ」
「でも‥‥」
「大丈夫じゃ。あやつはおぬしの方へと行かせん。わしが、食い止める」
「ラピス、大丈夫だよ。ルフトがあれを倒してくれる。だから下がって」
「ルフト‥‥リオンちゃん‥‥わかりましたわ、無理はなされないでくださいね」
 心配するラピスを下がらせ、再び巨人と対峙するルフト。リオンは小銃で援護射撃を行ないながら、ラピスと一緒に後ろに下がる。
「またせたのぅ」
「大丈夫か?」
「もうなんとも無いわ」
 巨人の前に立ち、囮となって攻撃を回避し続ける凛に、ルフトが並ぶ。お互い、軽く声を掛け合うと、再び攻撃を開始した。執拗に足を攻撃し、巨人に膝を着かせようとする。
「しかし、おかしいと思わないか?」
「なんじゃ?」
「先に戦っていたはずの仲間がいない‥‥」
「むっ、たしかに‥‥。いったいあやつらはどこに?」
 攻撃を繰り返しながら、凛は先ほどから疑問に思っていたことを口にする。彼らは、B班の戦いの音を聞きつけて向かっていたはずだった。しかし、目の前にいる巨人と出会ったとき、B班は近くにいないようであった。その話にルフトが顔を顰める。
「もしや‥‥敵は他にもいる?」
「巨人は一匹ではなかったということか!」
 凛の言葉に、ルフトが叫ぶ。どうやら、この山にいる巨人は一匹ではなかったようだ。

「仲間と離れているときに襲われるとは、面倒だな」
「本当に、空気読みすぎですね」
 フィオナを庇うように、巨人から距離を取りつつ射撃を行なう絃也。霧のせいで、なかなか巨人に致命打を与えらない。
「鬼さんこちら‥‥、手の鳴る方へ‥‥!」
 花が小銃を撃ちながら、巨人を翻弄するように動き回る。巨人はそんな花を捕まえようと、何度も腕を振り回すが、花は木の影に隠れたり巨人の背後に回り、それを上手に避ける。
「はっ!」
 花に翻弄された巨人の隙をつき、セラフィエルが弾頭矢を放つ。霧で正確な狙いが付け辛いはずだが、それでも矢は巨人の頭部に命中し、盛大に爆発を起こした。流石の巨人も、それには怯んだようで体勢を崩す。しかし、無差別に暴れるように腕を振り回され、追撃を加えることはできない。
「あれ‥‥私が当たったらアウトだなぁ‥‥」
 自分の身体よりも大きい拳が振り回される様子に、フィオナは笑みを引きつらせる。
「油断するな、この位置でも、あれだけでかいと届‥‥っ!!」
「きゃっ!?」
 絃也がフィオナに忠告しようとする。しかしそこへ、一瞬巨人の瞳が彼らを捉えたかと思うと、長く太い腕を伸ばした。絃也は咄嗟にフィオナを抱えて横に飛ぶ。スレスレのタイミングで、腕は絃也達の横を通り過ぎた。
「大丈夫か?」
「は、はい」
「フィオナはもっと距離を取っ‥‥くっ!!」
「時任さんっ!」
 地面に転がりながらも、すぐに立ち上がった二人。だが、巨人は腕を横になぎ払い追撃を行なってきた。絃也はフィオナを庇うが、代わりに腕に吹き飛ばされてしまう。激しく木に叩きつけられ苦悶の表情を浮かべる絃也。
「大丈夫ですか!? すぐに回復します! すみません‥‥私のために」
「くっ、大丈夫だ。回復は後回し、武器の強化を頼む」
 慌てて駆け寄り、傷を癒そうとするフィオナを制し、絃也は再び攻撃を開始する。自分の怪我よりも、任務の達成を重視しているようであった。
「いいかげん倒れて‥‥よ!」
 花が巨人の膝の裏側、関節の部分を狙って銃撃を行なう。人間も巨人も同じなのか、ここに強い衝撃を受け、カクンと膝を曲げて体勢を崩す巨人。
「最後の一発です!」
 そこへ、セラフィエルが最後の弾頭矢に全力のスキルを乗せて放つ。矢は巨人の急所、一つ目に命中し爆発を起こす。激痛に膝をつき仰け反る巨人。
「いまだ!」
 絃也が武器を剣に変え、瞬天速で一気に間合いを詰める。そして、フィオナによって強化された剣を目にも留まらぬ速さで振るい、仰け反った巨人の喉を切り裂いた。
「チェックメイトだね!」
 最後に、花が頭部へと射撃を行なう。そして流石の巨人もついに力を失い、血を撒き散らしながら地面に伏せるのだった。
「終わったか‥‥」
「時任さん! 無茶しないでください。今度こそ、回復しますよ」
 倒れる巨人を確認し、絃也も膝をつく。そこへ、すぐにフィオナが駆け寄り、練成治療を行なった。
「ところでA班のみんなはどうしたのかな?」
「‥‥近くに、別の気配がします。行って見ましょう!」
 ふと思い出したように呟く花。セラフィエルは、周囲の気配を感じようと少しの間目を瞑り、何かが戦う気配を感じると、仲間を先導してそちらへと向かうのだった。

「ちぃ、面倒な!」
 その頃、ルフト達は近くの木々を引っこ抜き投げつけてくる巨人になかなか近づけず苦戦していた。
「危ない!」
「リオンちゃん!」
「大丈夫、痛くない。ラピスを守るって約束したから」
 離れて援護をしていたラピス達にも木々が投げつけられ、リオンが盾でそれを防ぐ。リオンは怪我をものともせず、小さい体で巨人の投擲を受け止めた。そして、心配するラピスに、リオンは微笑を返す。
「デカイだけで勝てると思うな、化け物!」
 近づけないならと、凛が刀から衝撃波を放つ。それは霧を切り裂き、巨人の一つ目に命中、その動きを止めさせる。
「ルフト! いまだ!」
「おぅ!! おぬしの負けじゃ!」
 その隙をつき、ルフトが間合いを詰める。そして、全身に赤いオーラを纏い、渾身の力で巨人へと斬りかかる。高い跳躍を行い、巨人の顔面に上段からの一刀。巨人は縦に顔面を切り裂かれ、断末魔をあげると地に伏すのだった。
「ふぅ‥‥。こいつは何とか倒すことができたな」
「だが、B班が心配だ、すぐに探さないと‥‥」
 一息をつくルフト。凛は仲間を心配し、近くに気配はないかと辺りを見回す。
「お〜い! だいじょ〜ぶ〜!?」
 と、そこへ、花達が大きな声をあげながら、駆けつけてきた。
「よかった、あちらも無事だったようですわね。さぁ、怪我の治療を致しますわよ」
 B班の面々の様子に、ほっと息をつくラピス。そして、救急セットを取り出すと仲間達の怪我の治療を開始するのだった。ともかく、これで一行は巨人退治の依頼は達成した。そして、最後にリオンが呟く。
「‥‥この霧の中‥‥ちゃんと‥‥山を下りられるの‥‥かな?」