タイトル:百鬼夜行 河童マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/18 00:59

●オープニング本文


 河童‥‥全身が毛に覆われた人の形をしており、その肌は緑色。口には嘴が、その背には亀の甲羅のようなものを背負い、頭頂部に皿のような窪みがあるとされる妖怪。川や湖など水辺の近くに棲み、時に人を襲っては、水の中へと引き込み溺れさせる。その力は人間の大人よりも強く、水中での長時間の潜水ができ、泳ぐのが達者である。また、両の腕が繋がっており、片方の腕を短くして、もう片方を長く伸ばすことができる。キュウリが好物とされるが、人間の肝も好物であり、人を溺れさせてはそれを食す。弱点はその頭頂部の皿であり、皿の水が無くなったり、割れたりすると、河童は衰弱して死する。ただし、水の中の河童に敵う術無し、水辺に赴く際には注意されたし。

「最近、日本のある川がある地域で、水難事故が多発しています」
 ULTで依頼を受けた能力者達は、オペレーターから依頼の詳しい説明を受けていた。
「数人の目撃者の証言から、水辺で何者かが被害者達を水の中に引き摺り込んでいたということがわかりました。その後の調査により、どうやらその犯人は‥‥」
 そこでオペレーターは言葉を止め、少し困惑した表情を浮かべる。
「え〜と‥‥どうやらその犯人は『河童』であると判明しました。河童というのは、日本で言い伝えられる化物の総称『妖怪』の一つで、空想上の生き物とされています。ですが、過去に日本ではいくつもの河童の目撃例があり、どちらかというとUMA(未確認動物)とされることがあるようです。その河童ですが、人を襲い、水の中に引き込んで食べてしまうと言われており、今回の事件と一致するところがあります。といっても、実際に妖怪などというものがこの世に存在することは無いと思いますので、一般的な見解からして、河童を模したバグアのキメラであると思われます。過去にも、同じようなキメラが発見されているので間違いないでしょう」
 最初は、妖怪という空想の産物に困惑したオペレーターであったが、結局はバグアのキメラだという結論に納得したように説明を続けた。
「水難事故の多くは、川の上流の狭い地域で起きており、恐らくこの付近に河童キメラが棲息していると予想されます。皆さんは、この河童キメラを退治し、付近の安全を確保してください」

・依頼内容
 河童キメラの退治
・概要
 日本のある地域で、水辺での水難事故が多発している。その原因である河童キメラを退治し、付近の安全を確保すること。
 河童キメラの棲息地域と予想される場所は、川の上流で山の中とされる。川は、幅10メートル以上、水深が深い所で3メートル以上で、より上流には滝がある。この辺りは、以前に観光地となっており、滝を見物しに来た客や、キャンプに来た者が被害を受けているようである。
 河童キメラの数は不明、想定される数は3〜4匹ほど。全滅が望ましいが、正確な数が不明のため、想定された数を退治した時点で依頼は達成とする。ただし、発見したキメラは基本的に退治を行なうこと。
 今回の依頼での、UPCなどからの支援は基本的に無い。必要物資は、各自が自分で用意を行なうこと。

●参加者一覧

相麻 了(ga0224
17歳・♂・DG
小川 有栖(ga0512
14歳・♀・ST
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG

●リプレイ本文

「一度、遠野で河童釣りをしてみたいと思っていたんですよね。キメラではありますが、夢に一歩近づきました」
 依頼を受けた一行は、河童が現れたと報告のあった川沿いを、上流へと向かって進んでいた。そんな中、小川 有栖(ga0512)が川の様子を眺めながらのんびりとした口調で話す。
「なるほど、それは素敵な夢だな。河童と言えば、胡瓜、相撲、そして好奇心旺盛というのが定説‥‥さてキメラにそれが通用するかだ」
「目的が違うならより楽しめますのにね〜。ね、ヒューイ」
「たしかにな、依頼じゃなければ皆でこう‥‥パーッとやりたい所なんだけどなぁ」
 そんな有栖に、相麻 了(ga0224)が笑いかけ。ロジー・ビィ(ga1031)とヒューイ・焔(ga8434)も、周囲の光景を楽しむように話している。
「別にいいですけど、あんまりはしゃぎすぎて、本来の目的を忘れないでくださいよ」
「わかっていますよ。ちゃんと、警戒はしていますから。でも、観光客のように見せかけた方が、河童も油断して現れるでしょ♪」
「それはそうなんですけど」
 周防 誠(ga7131)が一応注意するように声を掛けるが、ロジーは楽しそうな笑みを浮かべながら答えた。一行の計画は、自分達が観光客の一般人を装って川で遊び、河童が油断して陸上に出てきた所を倒すというものだが、なんとなく本気でピクニックを楽しんでいるようにも見える。
「さて、この辺りで休憩しましょう」
「腹が減っては戦はできぬ〜。本日のお弁当は、カッパ巻きと胡瓜とハムのサンドウィッチと胡瓜の中華風炒めと〜胡瓜の‥‥」
 やがて、しばらく川沿いを進んだ一行。まだ河童らしきものに遭遇していないが、お昼になったので昼食をとることにした。川原に腰を下ろした一行は、有栖の作ってきたお弁当を広げ、和気藹々とした様子で食事を取り始める。どうやら、お弁当は河童の好物ということで、胡瓜尽くしのようだ。
「まぁ有栖! それ、美味しそうなのですわ」
「おっと、お先頂き〜」
「ヒューイ! それはあたしが目をつけていましたのに」
「早い者勝ちだろ」
「流石は未来の花嫁、美味しいお弁当だよ」
「またまた〜、お世辞が上手いんですから〜。あ、お茶もありますのでどうぞ〜」
「いや、俺はいたって本気さ。っと、お茶頂くよ」
「なんというか、色んな意味でお腹一杯って感じですね。ん、これもなかなか‥‥」
 おかずを取り合うロジーとヒューイ。口説くような口調で有栖を褒める了。それに照れながらも、一番多く食べている有栖。そんな一行の様子に呆れながらも、しっかりと狙った獲物は逃さない誠。しばしの間、そんな楽しいお昼のひと時が繰り広げられる。もちろん、そんな時でも一行は警戒を怠っていなかったが‥‥。

「え?」
 まさに一瞬の出来事であった。食事を終え、有栖がお弁当を片付けようとしたその時。一行が反応するよりも速く、水の中から突然人影が現れると、素早い動きで有栖の身体を捕まえ、抵抗する間も無く川へと引き摺りこもうとした。力を覚醒していない有栖は、相手を振りほどくこともできず、そのまま‥‥。
「有栖クン!」
 咄嗟に動いたのは了であった。力を覚醒させ、有栖を助けようとする。しかし、一歩出遅れてこのままでは追いつくことはできない。
「瞬天速!!」
 だが、了は一瞬のうちに有栖との距離を縮めた。能力により目にも留まらぬ速さで移動した了は、有栖の手を掴むと同時に、人影の腕を切り裂く。人影が悲鳴をあげて有栖を掴んでいた手を離した隙に、了は有栖を自分へと引き寄せるようにして人影から離した。
「大丈夫だったか、有栖クン」
「了さん‥‥ありがとうございます〜」
 有栖を抱きしめながら優しく声を掛ける了。有栖はほっとしながら、了の胸の中でその名を呼んだ。
「あらあら、ヒロインの危機を颯爽と助け出すヒーロー、羨ましいですわね」
「お二人さん、今はまだ、二人の世界に入るような状況じゃないよ」
 その様子に、クスクスと笑みを溢すロジーと、少し呆れながら武器を構える誠。
「こいつが河童ってやつか」
 槍を構えて前に出るヒューイの視線の先には、腕から血を流しながら、威嚇するような奇声を発する人影が。人間の子供くらいの大きさで、その姿は顔にクチバシのようなものが付いており、ぬめりけのある肌は緑色、手足には水掻きがある。話に聞いた河童の姿に大変酷似しており、どうやらこれが今回の依頼の目的のキメラで間違いなさそうだ。
「俺の未来の花嫁に手を出したんだ。許すわけにはいかないな。さ、有栖クンは少し下がっているんだ」
「ま、また、そういう恥ずかしいことを言わないでくださいよ〜。はい、わかりました、後ろからサポートしますね」
 了と有栖も、ようやく抱き合うのをやめて、河童と向き合う。了は、顔の上半分覆うファントムマスクを装着し、河童に対し構えを取る。有栖は少し後ろに下がると、覚醒して超機械を手にした。
「あ、逃げる!」
「逃がすか!」
 そんな一行の様子に、河童は危険を察したのか、身を翻して川へと逃走を図った。了は再び瞬天速で移動すると、河童の前に回りこんで押さえ込むようにその身体を捕まえた。
「む、結構力が強いな‥‥」
 相撲のような体勢で取っ組み合う了、思いのほか河童の力は強く、お互いに簡単には動きが取れない。
「了さん、危ない!」
「ぐっ!?」
 そこへ、突然川から、別の河童が顔を出した。有栖は了に危険を知らせるが、河童は口から水鉄砲のように高圧縮された水を吐き出す。身動きの取れない了は、その水を背中でモロに受けてしまい、一瞬怯む。そこへ、その隙をついて河童は了を投げ飛ばした。
「了さん、大丈夫ですか?」
「この程度‥‥なんと言うことは無いさ」
 有栖が了に駆け寄り練成治療を行なうと、了は有栖を安心させるように笑みを浮かべながら立ち上がる。
「敵の援軍ですか、まいったね」
 いつのまにか、河童は最初のを含め4匹となり、誠が苦笑を浮かべながら新たに現れた河童に対しショットガンを撃ちこむが、河童はそれを川に潜って回避した。河童は川から出て来るつもりはないらしく、ときおり顔だけを出して一行の様子を窺っている。
「なんとか陸上へと誘い出したいが‥‥っと!」
 河童達を陸上へと誘き寄せようと策を考える了だが、一行がただの人間ではないと感じ取った河童達は、警戒して川から出てこない。しかも、その場所から高圧縮の水を吐き出して攻撃してくる。水の飛距離自体はさほど無いので、離れていれば脅威ではないのだが、誠以外は遠距離での攻撃手段が少なく、決め手に掛ける状態になってしまう。
「ここで手をこまねいていてもしかたないさ。川に入ってでも、やつらを退治しないとな」
「そうですわね」
 このままこう着状態になって、キメラに逃げられるわけにもいかないため、しかたなくヒューイとロジーは川へ入って河童に接近戦を挑むことにした。二人はそれぞれ、槍と両手剣を構え、川へと近づいていく。共に雷の属性を持った武器であるため、おそらく河童に当たれば効果が大きいはずだ。
「そう簡単に当たるわけないだろ!」
 河童の水による射撃を回避しつつ、ヒューイ達は河童のいる場所へと一気に近づく。そして川の中に入り、膝まで水に浸かりながら、槍を河童に向けて突きたてた。
「ちっ」
 しかし、水の中の河童は動きが素早く、攻撃をした一瞬先には水の中に潜って移動してしまう。それを追いかけようとするも、水の中は動き辛く、思うように追いつくことができない。
「うわっ!」
 そのうちに、いつのまにか水の深さは腰の辺りまでになっており、ヒューイが突然足を取られて転んでしまい、そのまま頭まで水の中へと。どうやら、河童が彼の足を掴み、水の中へ引き摺りこんだのだ。
「ヒューイ!」
 ヒューイを名を呼び、助けにいこうとするロジー。しかし、河童の射撃に遮られ、思うように助けにいけない。そうする間も、水の中でもがくヒューイ。
「させませんよ!」
 そこへ、誠がもう片手に持っていた拳銃で射撃を行なった。ショットガンではヒューイも巻き込みかねないからだ。鋭覚狙撃による正確な射撃が、ヒューイを掴んだ河童へと撃ち込まれ、彼への束縛を緩める。
「!!」
 ヒューイはその一瞬を逃さず、持っていた槍を河童に突きたてると渾身の力を込めて水上へと投げ飛ばした。そして、すぐに自分も水から這い出る。投げ飛ばされた河童は、空中を舞って地面へと叩きつけられた。そこへ、了が爪を突き立てて止めを刺した。
「げほ、がほ‥‥。ひでぇめにあった‥‥」
「まだ、あと三匹いますわよ」
「はぁ、人使いの荒いことで」
 咳き込みながら水から出るヒューイに、ロジーがカバーに入りながら声をかける。河童達は、仲間がやられたことに怒りの奇声を上げながら、再び射撃を行なってくる。それを、ロジーが剣でガード。ヒューイが立ち上がると、再び反撃を開始した。
「自分が敵を追い立てます」
「まさに一本釣りって感じだな」
 そう言って、誠が牽制射撃を行う。河童はまたも水の中に潜ってそれを回避しようとするが、知らず知らずのうちにヒューイとロジーの元へ追い立てられていく。そして、追い立てられた河童に、二人は武器を突き立てて、先ほどと同じように水上へと投げ上げた。
「さあて、そろそろ真打登場だぜ。俺の拳よ光って唸れ‥‥天獣神流奥義閃光拳!」
 投げ上げられ、川原に打ち上げられた河童を、了が渾身の一撃で殴り倒す。河童の頭頂部を狙ったその攻撃は、皿どころか頭蓋骨まで陥没させて打ち倒した。そうして、次第に優勢になってきた一行だが。
「あ、逃げ出しましたよ!」
「逃がしません!」
 残り一匹になったところで、さすがに不利と感じたのか、河童が逃げ出し始める。それに気づいた有栖と誠が攻撃を行なうが、河童はダメージを負いながらもそのまま上流へと泳いで逃げてしまった。すぐに追いかける一行だが、やがてその姿を見失ってしまう。

「逃げられましたか、まいったね」
「大丈夫、こんな時こそ、探偵の俺に任せてくれ。ジッちゃんの名は一つ!」
「そりゃ確かに、祖父の名は一つでしょうけど‥‥」
「いえいえ、両親に一人ずつお祖父さんが居ますので、二つではないですか?」
 討ち損じたことに顔を顰める誠に、了が自信ありげに笑みを浮かべ決め台詞を口にする。そんな了に誠は呆れたような苦笑を浮かべ、有栖は不思議そうに首を傾げた。
「‥‥まぁ、それはともかく。俺の推理が正しければ、奴はあそこに居る!」
「滝‥‥ですわね?」
「推理というか、いわゆる定番ってやつじゃないか?」
 了の指差した先には、水しぶきをあげる滝があった。やや複雑な表情で呟くロジーとヒューイだが、特に異論もないので一行は滝へと向かった。
「素敵な滝ですね〜」
「有栖クン、滝の周囲はマイナスイオンが豊富で、ストレス解消などに効果があるんだ」
「そうなんですか〜」
「いや、いまはそんな豆知識は関係ないですから」
 滝の高さは5メートルほどで、水量は結構多く、音を立てながら水が落ちてきている。周囲は崖のようになっており、一見してこれ以上進むことはできないように思えた。その様子を見ながら、滝に感嘆する有栖に、豆知識を披露する了。そんな二人の様子に、誠が呆れながらツッコミを入れる。
「やはり、ここは定番として滝裏を調べないとなりませんわね」
「たしかに、周囲は崖で逃げ場はありませんし。いるとしたらそこでしょうか」
 ロジーの言葉に、誠が頷き、一行は滝の裏側に何か無いかと探索を行なった。一見して何も無いように思える滝の裏であったが、良く確かめてみれば、人工的に掘られた穴があった。その穴の大きさは小さく、人間の子供でようやく入れる程度の大きさで、一行は中腰で身体を低くして中へと入る。
「いたぞ」
「‥‥どうやら、すでに力尽きているようですね」
 ロジーのライターをライト代わりに、穴の中を進んでいくと、やがて巣のようなものを発見。そこには、さきほど逃げてきたであろう河童が倒れていた。どうやら河童は、先ほどの誠達の攻撃でダメージを受けており、ここまで逃げてきたが力尽きてしまったようだ。それを確認した一行は、今回の依頼を達成したと判断し、その場をあとにするのだった。
「これで依頼は完了ですね。でも、いつか本当の河童を探しに行きたいです」
「それじゃ、早速これからデート‥‥じゃなくて、河童探しに行こうじゃないか」
「勝手にしてください、自分はもう帰りますので」
 その後、有栖が一行の怪我を治療し、依頼は終了となる。そして、了が有栖をデートに誘う様子に、誠は呆れたように肩を竦めるのだった。