●リプレイ本文
「これはシャレにならねえぞ!」
「それもこれも全部このバグアのせいですね」
吹雪舞う雪山で、九条・運(
ga4694)と森里・氷雨(
ga8490)の二人は、背中合わせで武器を構えながら現状に対しての悪態をつく。彼らの視線の先には、複数の小さな子供、3メートルを超える真っ白な毛皮に覆われた大男、そして‥‥。
「どんだけ美人でも、人形のように表情を変えなきゃ、嬉しくもなんとも無いな!」
白い着物を纏った、見目麗しい女に運は叫ぶ。女は氷のような冷たい微笑を絶やさずに、二人の様子を伺っていた。
「参りましたね、この極寒の中では、防寒手袋も役に立ちませんか。手が、かじかんできました」
「くそー、ドラゴンは爬虫類だから寒さに弱いんだよ!」
子供のキメラ、雪童子が飛び掛ってくるのを、銃で牽制する二人。しかし、吹雪の中では視界は悪く、加えてその寒さに身体の自由が奪われていく。最低限の防寒は備えてきた彼らだが、長時間の雪山ではさすがに効果がなくなってきた。
「くっ、剣が!」
雪男の豪腕を剣で受け止める氷雨だが、感覚が麻痺して握力が弱まっていた両手から、持っていた剣が弾き飛ばされてしまう。すぐさま銃で牽制しつつ、剣を取りにいく氷雨。しかし、雪女の吐き出す冷気がそれを阻み、剣を回収することができない。
「これって絶体絶命のピンチってやつじゃないか?」
「あなた、炎とか吐けないんですか?」
「できたらやってるっての! モリサトこそその冷気なんとかならないか? 余計寒いだろ!」
「残念ながら。バグアがいるせいで覚醒を解くわけにもいきませんしね」
黄金の竜人の姿をしている運に、氷雨は無表情で淡々と問う。それに首を横に振る運は、逆にその身から冷気を発している氷雨へ問い返したが、やはりそれに首を横に振る氷雨。このままでは、雪山の吹雪か、雪女の冷気か、どっちにしても凍死してしまうことは間違いない。まさに絶体絶命のピンチである。
「くそ、何だってこんなことに‥‥」
そして二人は、このような状況に陥ってしまった理由を思い起こしてみるのだった。
「ここが依頼のあった街か」
一日前、運達は依頼があった街へと到着した。飛行場から車でしばらく移動し、ようやくついた街は真っ白な雪景色で覆われており、ここへ来る途中から雪が吹雪きだしていた。
「すごい雪ですねぇ、氷雨さん大丈夫です?」
「ええ、視界は酷いですがなんとか。今、町役場に向かっていますので」
車から外を眺めながら問う佐伽羅 黎紀(
ga8601)に、車を運転している氷雨が答える。吹雪が酷く、視界も数百メートル先は見通すことができないが、道はとりあえず舗装されており車を走らせることはできるようだ。一行は、依頼主である町役場へと向かって車を走らせる。それからしばらくして、役場の建物にたどり着く。
「ホント寒いわね。毎年こうなのかしら?」
「寒いですね‥‥これも雪女の仕業なんでしょうか?」
「でも、雲が太陽を遮ってくれるのは、僕としては助かりますわね。せっかくの日傘が、雪で真っ白になってしまうけれど‥‥」
車を降りた一行。外の寒気に御神・夕姫(
gb3754)とJ.D(
gb1533)が白い息を吐き出しながらつぶやく。ミルファリア・クラウソナス(
gb4229)もさすがにこのような天気では日傘は差せないようだ。冷たい雪と風が頬を打ち、寒さは痛みを伴って一行を襲う。ラストホープとは比べ物にならない寒さに、一行は足早に建物の中へと入った。
「ようこそいらっしゃいました、皆さん」
役場では、依頼主の代表である町長が挨拶し、詳しくは担当の者にと役員の一人を紹介された。担当の者は、事件のあらましと依頼内容を再度説明し、必要なことはできる限り協力すると言う。
「それじゃ早速ですけれど、山小屋を一軒貸していただけないかしら?」
「雪山近くの、雪女が現れそうな場所がいいですねぇ」
夕姫と黎紀が、雪女を待ち伏せするために適当な山小屋か空家を貸してほしいと頼むと、担当者は以前に被害にあって空家になっている家を紹介してくれた。
「ありがとう‥‥ございます‥‥。皆さんは危険なので‥‥近づかないでくださいね」
無事に小屋を借りられると、五十嵐 薙(
ga0322)が丁寧な礼と共に、注意をしておく。
「それじゃ、予定通り二班に分かれて、情報収集と捜索を行うとしようかね。B班のあたし達は雪山や山小屋周辺の見回りか。探し当てるのがあたしの本業さね、この当て屋の牡丹、きっちりと探し当ててやろうじゃないか」
その後、一行は二班に分かれて雪女捜索を行うことになり、牡丹(
gb4805)がやる気を見せるように笑みを浮かべる。そして、一行はそれぞれの役割に沿って行動を開始した。
その日の夕方、その日は雪女やその他のキメラを発見することはできず、一行は借り受けた空家に集まった。
「結局、今日は見つけられずじまいか。あたしの当て屋の名が泣くねぇ」
「あーあ、色々と期待してたんだが」
「そうですね、本格派雪女はぜん‥‥げふんげふん!」
「あらあら、お二人とも、随分と楽しそうですねぇ」
雪女を発見できなかったことに悔しそうにつぶやく牡丹。運と氷雨も少し残念そうだが、それでいてなんとなく何かを想像して嬉しそうだ。その様子を、楽しそうな笑みを浮かべて黎紀が見つめる。
「警察の方の話‥‥では‥‥襲われたのは‥‥ほとんどが男性‥‥」
「ほら、そこの二人、ちゃんと話を聞いてますの?」
「被害者は皆、玄関前で凍死していたそうですよ。今晩にも二つほど男性の氷漬けが‥‥クス‥‥」
そんな中で、街で仕入れた情報を報告する薙達。ミルファリアが日傘で運と氷雨を指して注意し、J.Dが一瞬冷たい瞳を二人に向け口元に手を当てて笑みを浮かべる。彼女達が仕入れた情報で目新しいことは、被害者のほとんどが男性であること、玄関前で凍死していたこと、今年は特に吹雪が多く寒いこと、雪山で巨人を見たという噂などである。
「ともかく、今晩はここで雪女が現れるのを待つわけですわね。暖房器具が残っていてくれて助かりましたわ。はい皆さん、暖かいココアでもお飲みください」
その後、一行は空家で雪女を待ち伏せすることにした。夕姫は部屋を暖める灯油ストーブに感謝しつつ、ヤカンのお湯で溶かしたココアを仲間達に振舞う。
「交代で‥‥睡眠をとりつつ‥‥待ちましょう‥‥。でも‥‥熟睡はしないで‥‥おきます‥‥。寝てる、うちに‥‥凍ってしまう‥‥なんて、情けない‥‥ですもんね」
そして、薙の言葉に一行は頷き、見張りの順番を決めると、一晩の間、雪女が現れるのを待ち構えるのであった。
その夜、運と氷雨の二人が見張りの時間。
「なぁモリサト、雪女ってどんなんだと思う?」
「それはもちろん‥‥全裸の恩返し‥‥手袋を買う雪ん娘‥‥ハァハァ‥‥。あ、いえ、やはり定番としては着物姿で、人の命をなんとも思わない冷酷な化け物かと」
「お約束は外せねえよな。でも、物語だと男二人のうちどちらかが凍らされて、もう一人が結婚か‥‥」
「あなたとはここでお別れか、俺は幸せになりますので見守っててください」
「いやいや、俺のほうが若いし‥‥」
「ほとんど変わりませんしそれは関係な‥‥」
欲望あふれる二人の男達が、雪女について妄想を膨らませていると‥‥。
「ジリリリリリ!」
「うわ!? って、電話かよ」
「黒電話とか、いつの時代の‥‥とりあえず取ってみましょう」
突然鳴り響いたベルの音。どうやら、家に備え付けられた電話が鳴っているようで。氷雨が電話の受話器を手に取り耳に当てる。電話を受けると、氷雨はすぐに厳しい表情を浮かべ話を聞く。その様子を、ベルの音ですでに起きてきていた一行が見守った。
「はいもしもし‥‥。っ!! はい、わかりました、我々が至急向かいます。あなた方は決して近づかないように」
「なんだ!? どうしたんだ!?」
「巡回中の警察官が雪女に襲われたそうです。どうやら、魚は餌にかからなかったようですね」
「くそっ、すぐに現場に向かうぞ!」
電話を切った氷雨の話に、一行は同じように厳しい表情を浮かべる。すぐに一行は警察官が襲われたという現場へと向かうが、時すでに遅し、現場には凍死した三人の警察官の遺体以外は残されていなかった。そして、待ち伏せの失敗と、新しい被害者を出してしまったことを、一行は悔やむのだった。
次の日、山に入りキメラを捜索することにした一行。町役場で装備を整えると山へ向かった一行だが、途中で車は通れなくなり歩いて登ることになった。
「寒いねぇ‥‥とっとと探し当てて決着付けたいよ‥‥」
山は街以上の吹雪と寒気で、一行を襲う。加えて、やわらかい雪のせいで一歩が大変重くなってしまい、体力の消耗は避けられない。「探査の眼」と「GooDLuck」を用いた牡丹が先頭になって探索を行っているが、吹雪で視界は狭められ数メートル先を見通すのも困難な状況だった。当初二班に分かれて探索する予定だった一行だが、この状況では少しでも離れればお互いがどこにいるかもわからなくなる可能性がある。
「動物‥‥いないかな‥‥。雪ウサギとか‥‥狐とか‥‥」
「ここはやはり、罠に嵌った鶴を助けて‥‥」
「薙さんは動物の声が聞けますものねぇ。あら、でも雪ウサギは生き物だったでしょうか?」
「この辺りに鶴はいないですわよ」
重苦しい行軍の中、場を和ませるためだろうか薙のつぶやきに、氷雨も自分の妄想を口にする。それに黎紀とミルファリアがツッコミを入れた。
「早く会いたいです、雪女。―――白かったら真っ赤に染めたい‥‥」
「何か今、雪女より凍える台詞が聞こえたんだが?」
そんな中で、ポツリとつぶやくJ.Dに、運は頬を引きつらせるのだった。
「っ! 今、女の人影みたいなものが見えたよ!」
それからしばらくして、先頭の牡丹が突然声をあげる。吹雪の先で、うっすらと女性の人影のようなものが見えたのだ。
「女の人影!! 雪女か!」
「見失う前に早く行きましょう」
それに素早く反応した運と氷雨が、牡丹が指し示した場所へと急ぐ。それをあわてて追いかける仲間達。
「お待ちなさい! あまり離れすぎると‥‥あっ!?」
夕姫が注意しようとしたそのとき、突然猛烈な吹雪が一行を襲った。それは彼女達の視界を一瞬ホワイトアウトさせ‥‥。
「‥‥二人を見失ってしまったわ」
すぐ先を走っていたはずの運と氷雨の姿を見失ってしまうのだった。
「まだそれほど‥‥離れていないはず、すぐに探して‥‥」
「しかし、今のホワイトアウトで私達もどちらの方角から来ていたのかわからなくなってしまいましたわね」
「本当に困った殿方達ですこと」
急いで探そうとする薙だが、黎紀の指摘通り、方角も来た道も先ほどの吹雪がかき消し、方位磁石も狂ってしまっている。苦笑するミルファリアだが、打開策を打ち出すことができない。
「‥‥あたしに任せときな。当て屋として、かならずあの二人を探し出してやるよ」
「それしかないですわね。牡丹さんよろしくお願いします」
そんな中、牡丹が真剣な表情で口に出した言葉に、夕姫が頷く。そして一行は、牡丹の勘を信じて、はぐれた運と氷雨の救出を開始するのだった。
「あー‥‥結局、男のサガってやつのせいかな」
「同感です」
雪女を追いかけた二人は、仲間とはぐれたことに気づきすぐに戻ろうとするが、待ち伏せていたとキメラ達に襲われてしまう。敵に囲まれ、これまでのことを思い返した運と氷雨は、とりあえずこうなった原因をそう結論付けた。
「まずはここを切り抜けて、彼女達を見つけ出します」
「それしかない、なっ!」
二人は同時に頷くと、包囲を狭めてくる敵を牽制しつつ何とか脱出を試みようと飛び出す。
「っ!?」
そこへ、突然包囲の一角が崩れる。銃声とキメラの悲鳴、吹雪の中から現れたのは‥‥。
「ビンゴ! どうだい、あたしの実力は!」
「さすがですわ。しかも上手い具合に敵の隙を突けました。滅しなさい、この『抜刀牙』の一閃で!」
満足げに笑みを浮かべる牡丹。怯んだ雪男を切り倒す夕姫。そして、それぞれ覚醒し敵を攻撃する仲間達の面々であった。
「みんなを悲しませた罪は重いよ! 消えてもらうから!」
「クス‥‥白くて綺麗‥‥。もっと綺麗に染めてあげる‥‥」
薙が雪女にソニックブームで牽制、それに合わせ、まるで本物の雪女のような氷の微笑を浮かべたJ.Dが瞬天速で間合いを詰め、刀を突き込む。雪女は冷気を吐き出すが、J.D達はものともせずに連続攻撃を繰り出した。切り裂かれた雪女から、鮮血が飛び散る。その様子に、J.Dは愉悦の笑みを浮かべた。
「痛い? あは‥‥良かったわね。綺麗よ、あなた‥‥」
「こ、こええ‥‥」
そんなJ.Dの様子に、運は少し恐怖を感じるのだった。
「はぁ!」
黒い線が弧を描き、雪童子達が吹き飛ばされる。ミルファリアが持っていた日傘を振り抜いて、雪童子達を打ち倒した。
「唯の日傘だったら僕の前に倒れる事はなかったかしら?」
彼女の日傘は、太陽の光を遮るためだけでなく、武器としても扱えるのだ。小さな身体を回転させ、遠心力を加えた強力な一撃で、襲い掛かる雪童子達を次々と吹き飛ばしていく。
「危ない」
しかしそこへ、雪男の巨大な雪球が投げ放たれる。だが黎紀がバックラーでそれを防御すると、目潰し狙いでペイント弾を放つ。雪男は、一瞬視界を奪われ、追撃の手を緩めた。
「このままだと俺達良いとこ無しで終わるぞ」
「それはまずいですね。せめて雪おん‥‥はあきらめて、あの雪男を。こんな目にあったのも、すべて貴様達のせいだ! はぁっ!」
仲間が来たことにより形勢逆転した運と氷雨。氷雨はすぐに刀を拾いあげると、雪男へと渾身の一撃を放つ。
「これで終わりだ! 戴天神剣流剣技!」
そこへ、運が雪男の急所へと刀を突き刺した。断末魔と共に倒れる雪男。そして、キメラ達の退治が終了するのだった。
「危ないところだったぜ。今回はキメラよりも自然の脅威が真の敵だったな」
戦いが終わり、運が今回の依頼の締めの台詞を口にする。しかし‥‥。
「綺麗に締めたつもりでしょうが、そういうわけにはいきませんよぅ」
「クスクス‥‥やっぱり今回の被害は男性の氷漬け二つで‥‥」
「す、すべて、敵の陰謀であり俺達は悪く‥‥あ、ちょっと、待って‥‥」
危険な笑みを浮かべた黎紀とJ.Dに、恐怖に頬を引き攣らせる運と氷雨。果たして、彼らはこの後どうなってしまうのだろうか。
「ゆっくりお風呂に入って温まりたいわ〜温泉もいいわね」
「いいねぇ、仕事帰りに温泉で熱燗を一杯ってね」
「だ、誰か助けてくれー!」
見てみぬ振りで帰り支度を始める夕姫と牡丹。雪山に男達の悲鳴が響き渡るのだった。