●リプレイ本文
「あまり大きな町ではないようだし、手分けすれば何とかなりそうね」
日中、依頼があった町に着いた一行は、さっそく町の様子を見て回ることにした。ひとまず二手に分かれることにした赤崎羽矢子(
gb2140)達は、古河 甚五郎(
ga6412)達に関係者の話を任せ、町の探索に出る。
「雪女の次はガシャドクロか‥‥いきなりギターをかき鳴らすメタルロッカーじゃ無いだろうな?」
「それは随分と斬新な妖怪だね、きっと音楽で他の骸骨を操って襲いかかってくるんだね。それじゃ僕らも対抗してバンドでも組もうか」
「あ、じゃあ、俺はボーカルで!」
「いやいや、ボーカルはやっぱり女性にやってもらわないと、華が必要だからね」
一緒に町に探索に出た九条・運(
ga4694)の呟きに、翠の肥満(
ga2348)がその様子を思い浮かべて面白そうに笑みを浮かべた。
「馬鹿なこと言ってないで、しっかりと町の構造を頭に刻んどきなよ。それと、怪しい物がないか探さないと」
そんな二人を斑鳩・眩(
ga1433)が軽く注意する。彼らの目的は、キメラとの戦場になるであろうこの町の地形を覚えることと、突然現れるというガシャドクロの痕跡を探すこと。
「住民の話も聞いておかないといけないね。実際に出会った人達の話は、警察にいった古河達に任せて、あたし達は周辺地域で何か異変が無かったかなんかの聞き込みをしないと。ついでに、夜は家から出ないよう釘も刺しておかないとね。とりあえず、皆で分かれてこの辺りを探索しよう」
羽矢子の指示に全員が頷き、一行は手分けして周辺の探索と聞き込みを開始するのだった。
一方その頃、関係者の話を聞きに言った甚五郎達は、警察から資料を受け取り、いくつかのお願いをして、被害者が入院しているという病院へと向かった。
「頭だけで2m以上、全体の高さ5mというと‥‥腹ぐらいまでしか無いんだろうかな」
「目撃証言を見ると、地面に寝そべって胸から上が起き上がった様子らしいけど」
移動の途中、資料を確認していた黒川丈一朗(
ga0776)と依神 隼瀬(
gb2747)は、ガシャドクロの目撃証言に首をかしげる。目撃証言には、大きな巨体の上半身だけが起き上がり、腕を伸ばして人間を捕まえると書かれているが、写真などは無いので実際にどのような姿なのかは想像するしかなかった。
「がしゃどくろって、死んでも安らかに眠る事が出来ないのね」
「まぁ、今回はキメラですから、本物の妖怪というわけではないでしょうけどねぇ。でも、それに殺された人達は安らかに眠れないかもしれませんね」
「そうね、私達がその無念を晴らして、供養してあげないとね」
妖怪としてのガシャドクロの資料を読んでいたナレイン・フェルド(
ga0506)が少し悲しげに呟く。それに、甚五郎が困ったような苦笑で答えると、ナレインは気持ちを新たにした様子で頷いた。
その後、病院に着いた一行が用件を言うと、一つの病室に案内された。そこには、げっそりとやせ細った青年が、戸惑った表情で一行を迎える。
「あなたが出会ったキメラについて、思い出せる限りでいいの、教えてくれませんか?」
「は‥‥はい‥‥」
少しおびえた様子の青年に、ナレインが柔らかい笑みを浮かべながら声をかける。青年は戸惑いながらも、美人に声をかけられて少し嬉しそうに表情を綻ばせて頷いた。
「ナレインって実際は男だよね。俺、女の自信無くしちゃうなぁ‥‥」
「いえいえ、自分のほうこそ、依神さんを見ると男として自信無くしますよ、痛い!?」
邪魔にならないように病室の隅でその様子を見ていた隼瀬と甚五郎。隼瀬は甚五郎の軽口に、ポカリとその頭を叩くのだった。
「俺達は‥‥用事で帰りが遅くなって‥‥夜の道を歩いてたんだ‥‥。そうしたら、どこからかガラガラと何かが転がってくる音が聞こえてきて‥‥。その音が、どんどん増えてきたと思ったら‥‥突然、巨大な白い骸骨が‥‥! そして、鈴木のやつが‥‥う、うう‥‥」
「ごめんなさい‥‥辛い事思い出させて‥‥でも必ず友達の仇とるから。それで、キメラは鈴木さんをどうしたの‥‥?」
ポツリポツリと事件のことを語る青年。ナレインは悲しげな表情で、青年を慰めるようにそっとその手を握ろうとする‥‥。
「ひっ‥‥!? うわぁぁ!!」
「!?」
「や、やめろ! 潰れる!! ああ‥‥音が‥‥骨がひしゃげる音が‥‥!!」
しかし突然、青年はナレインの手を振り解き、悲鳴をあげながら部屋の隅でガタガタと震えだした。慌てて、様子を見ていた医者が青年に鎮静剤を打って眠らせる。
「なるほど‥‥。友人がキメラに握りつぶされたことの恐怖が、物を握ることや、握られることのトラウマになっているんだな‥‥」
「ひどい‥‥、命が助かった人の心にまでこんな傷跡を残すなんて‥‥」
その様子を見ていた丈一郎が呟き、ナレイン達は青年の姿に、キメラへの怒りを募らせたのだった。
その後、ナレイン達と羽矢子達は合流し、お互いの情報を交換しあうと、夜の捜索の準備を行い。深夜のキメラ捜索へと出るのだった。
「ふぁ〜あ、さすがに三日連続は辛いな」
大きなあくびをして、軽く目元を拭う運。夜の捜索に出てからすでに三日目、日中に仮眠を取っていても、さすがに毎晩夜明けまで捜索を行うのは、精神的な疲労が溜まってくるようだ。
「あまり気を抜くなよ。こういうときに限って、敵が現れるもんだ」
「むしろ、現れてもらった方が助かるんですけどねぇ」
「それにしても、俺の家は代々江戸、東京育ちだったからな‥‥。初日にも感じたが、こういう町って、この時間になると随分寂しいんだな‥‥本当に真っ暗だ」
運の様子に注意する丈一郎に、甚五郎が苦笑する。彼らは深夜の町中を、異変が無いかと探索して回っていた。人気の無い町はすっかりと暗くなっており、長い間隔の街灯が微かに照らしている程度で、道のすぐ先は真っ暗といった状態である。暗い道は、自然と人に緊張感を与え、色々なものに敏感になっていく。
「まぁまぁ、ほらほら見て見て、わぁ!」
そんな場を和ませようとしたのか、羽矢子は自分の顔に下からライトを当ててお化けを装って見せる、が‥‥。
「‥‥わひゃああ!!」
「そんなに驚かないでくださいよ、失礼ですね」
「いや、実際、その色白の肌が暗闇に映し出されると、まじビビるって!」
「なにやってるんだか。あ、ごめん、こっちに顔向けないで」
「結構傷つきます‥‥」
同じようにライトに顔が浮かび上がった甚五郎の姿に、逆に驚いて悲鳴を上げた。その様子に呆れたように呟く眩だが、やっぱり甚五郎を直視はできないようだ。
「あっちは、随分と楽しそうねぇ」
そんな様子を、少し離れた場所から眺めているナレイン。暗視スコープ付きのヘルメットをかぶり、この暗闇の中でも一行の姿を視認できる。ナレイン、翠の肥満、隼瀬の三人は丈一郎達から少し離れた位置で潜伏し、キメラが彼らの前に現れるのを待っていた。
「私も皆とおしゃべりしたいけど、役割はしっかりと務めないといけないしね」
ナレインはフッと笑みをこぼしながらも、極力気配を消しながら、彼らの周囲に異変が無いか観察する。一見、女装趣味のふざけた男性にも見られかねないナレインだが、依頼に対してはとても真面目なようだ。
『こちら翠の肥満、今の所異常なし、C地点へ移動する』
『こちら依神、俺の方も異常なし、次の場所へ移動する』
「了解です。それじゃ、私も次の潜伏地点へ移動しましょう」
通信機での翠の肥満と隼瀬からの連絡に返事を返し、ナレインは決められたルートを先回りするように移動を開始するのだった。
その夜も、すでに午前三時を回ろうというころ、ふと遠くから何かが転がってくる音が聞こえてくる。
「みんな待って、何か聞こえない?」
最初に気づいたのは羽矢子だった。他の者より少し高い直感が、それに気づかせたのだろう。一行は、羽矢子の言葉に周囲を警戒しつつ耳を立てる。少しの間の静寂、しかしすぐに他の者にも、ガラガラと何かが転がってくる音が聞こえ始めた。
「聞こえるな‥‥」
「ようやくのお出ましってわけか」
「音が反響しているのか、方角がつかめませんね」
「どっからでもかかってきなさいっての」
現在の場所は住宅地近くの路地で、道は直線だがあちらこちらに細い脇道があり、街灯の先は真っ暗闇。それぞれが神経を研ぎ澄ませながら闇の向こうを見通そうとするが、音はすれども、その姿は無く、それがどこから来るのかもわからない状態だった。一行はそれぞれが背中合わせになり、四方を見渡しながらそれを待つ。やがて、音は複数に増え、どんどんと大きくなってきた‥‥。
「!!」
突然、音がピタリと止んだ。それと同時に、暗闇の中に白い影が現れる。そして白い影は、巨大な骸骨の形を形取り、3メートルほど上空へと浮かび上がった。
「現れたぞ、ガシャドクロだ!」
すでに覚醒し準備をしていた一行は、その姿を確認すると同時に動き出した。まず、羽矢子と甚五郎が、エネルギーガンによる牽制射撃を行う。
「効いてるのかどうかわかりませんね」
「でも、当たったんだから幻覚ってわけじゃ無いってことね」
光線がガシャドクロに命中するが、相手は怯んだ様子は無い。しかし、それが確かに物体としてそこにあるということは確認できた。
「照明弾、撃つよ! 全員、目に気をつけな!」
そして眩が上空へと照明弾を放つ。発光した照明弾は、あたり一面を照らし、ガシャドクロの全景を浮かび上がらせた。それは無数の骨で構成された巨大な骸骨で、胸から上が路地いっぱいに広がり、一行の前に立ちふさがっている。
「腰から先は‥‥無い!?」
道を塞ぐ様にして立ちはだかるガシャドクロを、運は塀を飛び越えて側面へと回る。すると、横たわっているように見えた骸骨は、実際には腰より先の足の部分が無く、ずいぶんと不安定な体勢で起き上がっていることがわかった。ためしに、各部に銃撃を仕掛けて見ると、弾が命中した骨は砕けるが、別の骨がその部分を補強し、動きが鈍ることは無かった。
「こいつ、まさか不死身なんじゃ!?」
「ちぃ、こいつはヘビー級にストロー級で殴りかかるようなものだな!」
それから、何度か攻撃を仕掛けて見る一行。しかし、依然として効いた様子は無く、またガシャドクロを操る別の存在というのも見つけられない。そうするうちに、ガシャドクロは長い腕を伸ばし、その手を振り回しては一行に襲い掛かる。丈一郎も狙いを定めて拳を打ち付けるが、質量の差は大きいようだ。
「な、なんだこりゃ!」
そんな時、一軒の家から住民が出てくる。どうやら、照明弾の明かりに何事かと見に来てしまったようだ。そして、ガシャドクロの姿に驚き声をあげる。ガシャドクロも住民に気づき、腕を伸ばして住民を捕まえようとした。
「出てきたら駄目だって言っておいたのに! 危ない!!」
「ひ、ひぇ!」
そこへ一瞬早く、羽矢子が瞬速縮地で住民の前に飛ぶ。羽矢子は住民を押し飛ばし、ガシャドクロから離れさせた。だが、代わりに羽矢子がガシャドクロの手に捕まってしまった。
「赤崎!」
「ぐ、ぐぅ‥‥この程度じゃ、効かないよ‥‥」
ガシャドクロに握り締められ、強い圧力に骨が軋む。それでも、必死に身体に力を込めて、潰されないように耐える羽矢子。仲間達が急いで救出しようとするが、腕や手を砕いても、その力が緩まることは無い。まさに絶体絶命のピンチだった‥‥。
「始まったみたいだね、しっかりと映像に取って、攻略のヒントを得ないとね」
丈一郎達がガシャドクロと遭遇した頃、少し離れた場所では翠の肥満が、自前の小型ビデオカメラでその様子を撮影していた。
「これはマズイね。でも、まだやつの秘密はわかっていない‥‥」
しばらくして羽矢子がピンチに陥る。翠の肥満は自分も助けに向かおうか迷った。だがいま、彼が飛び出して戦闘に加わっても、ガシャドクロへの有効打が見出せなければ、目的を達成することはできない。
「ん‥‥これは‥‥。巻き戻して見て見よう!」
そんなとき、ふと翠の肥満の目に何かが映った。慌てて、撮っていたビデオを巻き戻して、さきほど見たものを再確認する。
「もしかしてこれは‥‥。フェルド! 依神! 僕の指示で動いてください! 彼らを助けます」
何かに気づいた翠の肥満は、すぐさまナレインと隼瀬に連絡を取り、指示を送るのだった。
「待ってろ、今助け出す!」
「もう少しだから、我慢してて!」
丈一郎と眩の拳がガシャドクロの指の骨を砕く。しかしすぐにそれは補強されてしまう。
「だったら、ここはどうだ!」
「胴体と切り離されてるのに動くなんて、むちゃくちゃ過ぎますよ」
運と甚五郎が、胴体と手を繋ぐ腕の骨を叩き折るが、それでも手は握り続けている。まさに万事休す、このままでは羽矢子は握りつぶされてしまう。そこへ‥‥。
「ここだぁ!!」
ようやくAU―KVを纏った隼瀬が現れた。隼瀬は銃を構えると、ガシャドクロのある場所へとペイント弾を打ち込む。ペイント弾は背骨のある箇所に命中し、はっきりと目印となった。
「お願い! 止まって!!」
そこへ、共に現れたナレインが全力の蹴りを繰り出す。靴に取り付けれた爪が、ペイントされた一点を貫き、打ち砕く!
「がしゃどくろが‥‥!!」
すると、いままでどれほど攻撃を受けても動き続けたガシャドクロの骨が、ガラガラと音を立てて崩れだした。羽矢子を握り締めていた手も崩れ、羽矢子が開放される。
「は、がは‥‥、た、助かっ‥‥た?」
苦痛から開放された羽矢子は、まだ苦しげに息をしながらも、なんとか無事であった。
「どういうことですかこれは?」
「それは僕から。どうやらこのキメラは骨一つ一つが別々に動けるようなんだけど、ガシャドクロの姿になるには、司令塔となる骨があるようなんだ。で、その司令塔の骨を見つけ出して、この二人に破壊してもらったわけさ」
甚五郎の問いに、翠の肥満が答える。翠の肥満はカメラの静止画像によって、ガシャドクロのある一箇所が、ダメージを受けヒビが入ったまま補強されないことに気づき、ナレインと隼瀬にそこを叩くよう指示したようだ。ヒビはあまりに小さく、カメラの画像を静止させてようやく見つけ出せて、戦闘中の甚五郎達では気づけなかったようだ。
「あ! 骨達が逃げるぞ!」
司令塔を失い、ガシャドクロの姿を取れなくなった骨達が、慌てたようにガラガラと転がって逃げ出そうとする。すぐに一行は骨達を一掃するが、一部は逃げられてしまった。
「はぁ‥‥。ともかく、これで一応ガシャドクロは退治したことになるかな」
その後しばらくして、痛む身体をさすりながら羽矢子達は依頼を終了させる。一部は逃したが、ともあれ司令塔を破壊したことにより、一応ガシャドクロ退治は成功ということになるのだった。