●リプレイ本文
「見つけました、あれのようですね」
双眼鏡を覗きこんでいたスケアクロウ(
ga1218)が、仲間達に知らせるように荒野の先を指差す。彼らは、班を三つに分け、それぞれ状況確認のための偵察と、避難誘導を行っていた。
「そこそこ居るようね‥‥良いご身分だこと」
スケアクロウから受け取った双眼鏡を覗きこみ、ロッテ・ヴァステル(
ga0066)が小さく呟く。レンズの先には、野生動物と似ながらも異なるキメラが数匹。何かを求めるように周囲を警戒しながら、徘徊している様子が見て取れた。
「どうする、やるか?」
「そうね、街のこんなに近くにいるのを放置しておくわけはいかないわ。とりあえず追い払いましょう。あの中で一番大きなキメラを倒せば、奴らも一旦退くでしょう」
ライフルのスコープでキメラを確認していたファファル(
ga0729)が、確認のために問いかける。それにロッテは頷き、群れの中心に居る大きなトカゲを指し示した。その言葉に頷き、ファファルとスケアクロウの二人はライフルを構え、照準をキメラに合わせる。
「私は頭部を狙う。貴様は胴体を狙え」
「ふふ、そうですね、私はファファル君ほど射撃の腕を持ち合わせていませんので‥‥」
ファファルの指示に、スケアクロウがニヤリと笑い、嫌味っぽく言葉を口にする。ファファルは、その言葉を気にした様子もなく、冷静に狙いを定める。そして、その瞳が鷹の目のように金色へと変化した。
「捉えた‥‥」
ファファルのスナイパーライフルから弾丸が吐き出された。そして、鋭覚狙撃による精密な狙いは、確実にキメラの頭部を捉え、致命的な一撃を加える。同じく、スケアクロウのアサルトライフルから吐き出された弾丸も、その胴体に命中しダメージを与え、キメラは倒れこんだ。そして、突然仲間がやられ、慌てふためいたキメラ達は、その場を逃げていった。
「ご苦労様。でもこの程度ではすぐに戻ってくるでしょうね」
双眼鏡でそれを確認したロッテは、二人に労いの言葉を掛けながらも、冷静に状況を判断し顔を顰めた。
「ともかく、どれほどのキメラがいるのか確認しなくてはなりませんね。次へ行きましょう」
スケアクロウの言葉に頷き、三人は再び車で周囲の偵察へと向かうのだった。
「キメラが町の近くに‥‥もう世界のどこにも人々が安全に暮らせる場所はないのですかね‥‥」
偵察のために荒野を探索していた天上院・ロンド(
ga0185)が静かに呟く。彼らは、B班として、A班のロッテ達と同じように偵察を行っていた。
「うに、今回が初依頼にゃ。頑張るのにゃ♪」
張り切ったように声を出すのは西村・千佳(
ga4714)。彼女は、猫耳と猫の尻尾というアクセサリを身につけており、その口調にも語尾に「にゃ」をつけるなど猫を模倣した行動が目立つ女の子であった。今回の依頼がエミタ能力者としての初めての依頼のようで、随分と張り切っている様子が見て取れる。
「ねぇ、ロンド君。これってどう思う?」
ロンドの少し前を歩いていたハルカ(
ga0640)が、何かを発見したようにしゃがみこみ、顔を顰めて少し硬い口調で問いかけた。ロンドは慌ててそちらへと向かい同じように顔を顰める。
「これは‥‥キメラの死骸?」
「うん‥‥」
そこにあったのは、2メートル近いトカゲ型キメラの死骸。最初は岩かと勘違いしたが、間違いなくキメラであった。
「ファファルちゃん達がやったとか?」
「いえ、A班の皆さんとは方角が違います。それに、この傷、刀のような鋭利な刃物で一刀の元に切られています。こういった武器はどなたも持っていなかったと」
「じゃあ、街の自警団とか‥‥」
「ありえませんね」
「だよねぇ」
キメラの死骸を調べてみれば、それは鋭利な刃物のようなもので一撃で倒されており、また倒されてからそれほど時間が経っていない様子であった。自分達以外の何者かが、つい最近このキメラを倒していることに、疑問の表情を浮かべるロンドとハルカ。
「僕たち以外に、正義の味方がいるのかにゃ? 心強いにゃー」
「正義の味方‥‥だったらいいんだけどねぇ」
千佳の言葉に、ロンドとハルカは困ったように苦笑を浮かべるのだった。
「次が最後ですね。孤児院だそうですよ」
「それじゃ、さっさと終わらせてしまおうか」
街で渡された地図を確認しながら、藤川 翔(
ga0937)が車を運転する角田 彩弥子(
ga1774)に話しかけた。彩弥子は少し面倒そうな口調で、禁煙パイポを銜えながら翔の指す方角へと車を走らせる。二人は、街の郊外に住んでいる人達を安全な所へ避難誘導する係りとして、郊外の民家を回っていた。
「なんですか、貴方達は?」
「はい、わたくし達は街でキメラ退治を依頼された者で。すでに連絡は来ていると思いますが、危険ですので街の避難所へ避難していただこうと郊外の皆さんの所を回っています」
孤児院で応対に出たのは、気の強そうな、それでもまだ15、6歳ぐらいの少女であった。少女は、不審な者を見るような視線で翔達を見つめる。しかし、翔達も今日一日似たような応対を何度もされてきたので、特に気にした様子もなく用件を口にした。
「貴方達が?」
しかし、用件を聞いても、少女はまだ不審な様子で二人をみつめている。たしかに、女性二人がキメラを退治すると言われても、信じられないのかもしれない。
「いいから、さっさと準備して避難所へ向かうぞ」
「むっ、まだ行くだなんて言って無いわよ!」
「あの、街からの話は聞いていますよね?」
「わかっています、でもここを離れるわけには行きません」
「どんな事情か知らないが、自分の命が掛かってるんだぞ。だいたい、これを機に完全にこの街から離れたほうがいいんだぞ、わかってんの?」
「勝手なこと言わないで! 私達は貴方達みたいに特別な力を持っているわけじゃない! それに、行くあてもないのに、ここを離れて生きて行けるわけがないわ!」
少女物言いに、なんとか説得できないものかと声をかけようとする二人。そこへ、家の中から初老の女性が現れた。
「あらあら、大きな声を出して‥‥。ごほごほ‥‥ごめんなさいね、なんもおもてなしもできなくて」
「院長先生!?」
院長先生と呼ばれた女性は、柔らかい笑みを浮かべて二人を見る。少女は慌てて院長の隣へと駆け寄り、その身体を支えるように腕に手を添えた。
「動いたらダメじゃないですか! お身体に障ります!」
「大丈夫よ‥‥それより、お客様にお話があるの」
そう言うと、院長はゆっくりと二人の前に立つ。その様子から、随分と身体が弱っているようであった。
「うちの子が失礼なことを言ってごめんなさいね。話は聞いています。キメラを追い払ってくれるとか。そのために、危険なここから避難しなければならないと」
「はい‥‥もしも万が一のことがないように避難していただければと」
「わかりました、避難しましょう。ですが、見ての通り私は身体が弱ってしまって、ここを動くことができません。ですから、子供達だけでも避難させてください」
「ですが‥‥」
「院長先生!? 私達も残ります!」
「私はいいの、老い先短いおばあちゃんだもの。でも、貴方達が危険な目に遭うのは耐えられないのよ、わかってシェリー」
イヤイヤと首を振る少女に、院長は優しく髪を撫でる。
「おねがいしますね」
「わかったよ‥‥けれど、ここは全力で守るから安心してくれ」
ふかぶかと頭を下げる院長に、彩弥子が少し困ったように頭を掻きながらも頷いた。そして、最後まで首を横に振る少女を何とか説得し、子供達を避難所へと非難させるのだった。
「やはり、少し追い払った程度では意味が無いわね。予定通り、明日は二手に分かれて掃討作戦を行います」
初日を終えて、全員が集まり次の日の行動を相談する。ロッテの言葉に、全員が頷き、地図で自分の持ち場を確認する。
「‥‥できれば街から退去してもらいたいが無理だろうな‥‥」
「そうですね、故郷を離れるのは哀しいものですよね。其れが外的圧力で迫られた理不尽な選択なら、尚更です。いや、しかし、彼等に同情はしませんよ。そんなモノで変わる現実でもないでしょう?」
ファファルとスケアクロウがそう呟くと、彩弥子がゲンコツで二人の頭を叩いた。
「っ」
「なんですか?」
「いや、てめぇらの言葉を聞いて、自分に腹が立ってな」
「‥‥? よくわかりませんが、だったら自分を叩けばいいのでは?」
「気にすんな」
彩弥子の様子に、理不尽な疑問を感じて首を傾げる二人であった。
「まずいわね‥‥」
夜の見張りを始めて数時間後。暗視スコープに映るその様子に、ロッテは小さく呟いた。キメラの群れが、街へと向かって動いていたのだ。その数は、日中に偵察したときよりも多く、おそらくは辺り一帯のキメラが集まっているようであった。
「闇に紛れて街を襲う気ですか。やつら、夜行性なんでしょうかね」
「招かれざる客の登場か‥‥皆起きろ、敵襲だ!」
スケアクロウは肩を竦めて見せ、ファファルはB班のメンバーを起こしにかかった。
「ふぁ〜あ‥‥なに〜? 敵〜?」
「もう交代かにゃ〜? まだ眠いにゃ〜‥‥」
「ほら、さっさと起きな! 寝ぼけてやられても知らないよ」
大きなあくびと共に目を擦りながら起きだすハルカと、その大きな胸に顔を埋めながらいまだに寝ぼけている様子の千佳。そんな千佳を、彩弥子がハルカから引き剥がして叩き起こす。
「夜襲ですか、キメラも馬鹿ではないようですね」
「野生の本能なのかもしれないな。兵器として作られたやつらに野生があるのかは知らないけれど‥‥」
いち早く起きたロンドが、スナイパーライフルをセットする。暗視スコープでキメラの動向を確認していたロッテが、冷静に状況を判断、指示を出す。
「敵はリザードタイプ2、ラットタイプ‥‥8? いえ、10‥‥。ロンド、ファファル、スケアクロウは後方より射撃での援護、翔は回復。そのほかは、前線にてヤツラの侵攻を食い止めるわよ」
「待ってください。この暗闇での戦闘は危険ですよ。場合によっては同士討ちということも‥‥」
ロッテの指示にスケアクロウが待ったをかける。周囲に明かりはなく、夜の闇の中で戦うのはたしかに危険であった。そんな意見に、ロッテはすでに用意をしていた銃を見せた。
「そんなときのためにも、これがあるのよ」
ロッテは暗視スコープを外すと、銃を空に向けて引き金を引く。そして、パシュという軽い音と共に、それは遙か上空へとうちあがり眩い光を放った。
「なるほど、照明弾ですか」
「行くわよ、援護よろしくね」
「にゃー‥‥行くにゃよ! ここから先は一匹も行かせないのにゃーー!」
上空の光に照らされて、キメラ達の姿がくっきりと浮かび上がる。そして、突然の明かりに、キメラ達は混乱するように侵攻を止める。そこへ、千佳達が勢いよく飛び込んでいくのだった。
「私の視界に入って無事でいれると思っていたか?」
「一匹たりとも逃がしはしません」
「私は、本来接近戦が得意なんですけどね‥‥っと」
先制としてファファル、ロンド、スケアクロウの三人のライフルが、大型のリザードキメラに命中、大きなダメージを与える。その隙に、ロッテ達がラットキメラを蹴散らしていく。
「うにゃー! ちょこまかしてると、追いかけたくなるにゃー!!」
千佳がラットキメラに飛び掛り、金属の爪で切り裂いていく。その頭には本物の猫耳が、そして尻尾が生えており、まるで本物の猫がネズミを狩っているかのようだ。
「はぁ、さすがは猫、ネズミ狩りは得意だねっと!」
ハルカも千佳の様子に感心しながら、巧みな脚捌きと金属の爪で、敵を切り裂いていく。そして、そのたびに大きな胸が揺れ動いている。
「おらよ! これでも喰らいな!」
彩弥子がスピアをリザードキメラに突き出す、しかしキメラは牙でそのスピアを食い止めた。お互いのものすごい力で、力比べをするが。
「ちっ、だったらこれならどうよ!」
彩弥子がスピアのスイッチを押すと、突然スピアの先端が回転し始める。さすがのキメラも、回転するドリルを食い止めることはできず、弾かれるように先端を放す。その隙を狙い、彩弥子はスピアをキメラの身体に突き立てた。
「たぁぁ、りゃっ!!」
ロッテは、軽いステップを踏みつつ、フッと上体を下げて左の爪でキメラを掬い上げると、浮き上がったそれを右の爪で突き刺す、といった一瞬のうちに華麗な連携を決めて、次々と敵を打ち倒していく。
そして、激しい乱戦の末、一同はキメラを追い払うことに成功した。しかし、彼らも少なからずダメージを負ってしまう。
「みなさん、大丈夫でおじゃるか? いま回復するでおじゃるよ」
「ふふ、お公家さんですか」
大きなダメージを受けた仲間に、翔が超機械を使って怪我を治療する。そんな翔の言葉遣いに、スケアクロウがクスリと笑みをこぼした。
「ともかく、予定とは違ったけれど、これでしばらくはキメラもこちらに近づくことはないでしょう。作戦終了‥‥お疲れ様」
「終わったにゃー! にゅ、ロッテお姉ちゃんはなかなか抱かれごこちがいいにゃー♪」
「ちょ、ちょっと‥‥」
ロッテの言葉に、千佳が嬉しそうにロッテに抱きつく。むしろ抱きついた後のほうが嬉しそうであったが。
「はいはい、まだ気を抜かないように」
「それじゃあ‥‥にゃー♪ うにゅ、お兄ちゃんは‥‥55点?」
「千佳君は、もう少し大人になったほうがいいですね。精神的にも肉体的にも」
今度はスケアクロウに抱きつく千佳だが、ポンポンと軽く頭を撫でられてすぐに降ろされてしまった。そんな中、突然人影が一同のもとへとやってくる。
「た、たいへんだー! 巨大な化物が!!」
現れたのは、自警団の一人。彼の話では、ここから少し離れたところに、巨大なキメラが現れたと。
「あちらの方角には孤児院が!」
「急いでいくでおじゃるよ!」
自警団の指し示した方角は、院長が一人残っている孤児院の方角であった。一同は、残り少ない錬力を気にしつつ、急いでその場へと向かう。しかし‥‥。
「これ‥‥は?」
そこには、すでに動かなくなった多頭の巨獣と、一人の男が立っていた。その手には刀のような長い刃が、月明かりを反射している。その様子から、男が一人でその巨獣ケルベロスを倒したことが見て取れる。だが、そんなことを普通の人間ができるはずもなく。またエミタ能力者でさえ至難の業である。
「貴方は何者なの!? ま、待ちなさい!」
ロッテの問いかけ、そして静止も聞かず、男は素早い動きで闇夜へと消えていってしまった。一瞬、追うかと迷ったが、断念することにした。
その後、用心のために数日間、街の周囲を警戒した一同だったが、キメラが近づく気配もなく、依頼は成功ということになる。しかし、巨獣を倒した謎の男のことは、結局わからずに終わることとなった。