●リプレイ本文
「今回の現場指揮はどうする、中尉。支障なければ、こちらの判断で対応するが」
「う‥‥む‥‥」
「ま、人間一つや二つ苦手なものがあったほうが可愛げあるってもんですし。無理するこたーないですよ。ボスは後ろでどっしり待ってて下さい♪」
「‥‥わかった、では私は後方指揮に回ることにする。戦闘は諸君らの判断に任せることにしよう」
「了解。では基本指針を元に臨機応変に対処、だな」
現地に到着後、白鐘剣一郎(
ga0184)と新条 拓那(
ga1294)の意見により、ミミズの苦手なアンナは現場に出ないことになり、一行は少し胸を撫で下ろしながらキメラが出現するという地域へと向かうのだった。
「この辺りで間違いないようだな」
地図と情報を照らし合わせ、キメラが現れたという地域へとたどり着く一行。そして剣一郎とエリアノーラ・カーゾン(
ga9802)、アリステア・ラムゼイ(
gb6304)の三人が囮となってキメラをおびき出すことにした。
「『GooDLuck』『探査の眼』発動‥‥これでよしと」
エリアノーラはスキルを使い、周囲を把握する力を上げる。これで、何か異変があってもすぐに気づくことができるだろう。だが、キメラと遭遇することが幸運なのかどうかは疑問である。
「はっ!」
アリステアは何故か自分の斬馬刀を岩に叩きつけていた。その様子に、刀剣を扱うことを好む剣一郎が見かねて声を掛ける。
「何をしているんだ? それでは刀が切れなくなるぞ」
「いえ、これでいいんです。これで刃が鋭くて滑ることは少なくなる‥‥。あとは腕力と質量で叩き切ればいけるはず‥‥」
「なるほど‥‥な」
だが、アリステアは今回の相手に斬撃は効果が薄いと聞き、わざと刃を潰して鈍器として扱うことにしたようだ。といっても、能力者用に作られた武器はそう簡単には刃こぼれすることは無いが、それでも多少鋭利さは失っているだろう。
「よし、援護は頼んだぞ」
準備のできた三人は、それぞれ間隔を置いて辺りを動き回ることにした。なにかあっても、すぐに対応できるよう、オリガと九蔵が岩陰に隠れて待機している。また、拓那、リン、運の三人は別のキメラが邪魔をしないよう周囲を警戒していた。
「本当に暑いですわ〜‥‥ジッとしていると余計に暑い‥‥」
「荒野は暑いもんですぜ。これウェスタンの常識」
岩陰に隠れながらも、強い日差しにぐったり気味のオリガ(
ga4562)。それに対し、秋月 九蔵(
gb1711)は依然見たウェスタン映画などを思い出しては、その雰囲気を楽しんでいる。
「早く出てきてくれませんと、茹で上がってしまいそうです」
「‥‥もう少し出てこなくてもいいかも」
暑さに耐えられず、服の胸元をバタバタと動かして涼を取るオリガ。ちらちらと見える白い肌に九蔵はゴクリと生唾を飲み込んで見入ってしまうのであった。
「流石に話し声で見つかることはないと思うけど‥‥静かにしておいたほうが良いか。‥‥だんまり黙々ってのはイマイチ性に合わないんだよなぁ」
「静かね‥‥」
「あれ? やっぱりなにか話したほうがいいか?」
他のキメラに邪魔されないように、周囲警戒を行っている拓那とリン=アスターナ(
ga4615)、九条・運(
ga4694)の三人。そんな中で、リンがポツリとつぶやいた言葉に拓那が首をかしげた。
「静か過ぎる。キメラどころか、普通の生き物も見当たらない」
「こんな草木の無い場所だし、生き物も棲んでないんじゃないか?」
「荒野といえど、少なからず生き物は生息しているはずよ。けれど、この辺りには気配がほとんど無い。まるで、野性の本能で何かから逃げ出してしまったかのよう‥‥」
拓那の言葉はスルーし、リンは遠くを見通しながら眉をひそめる。運の意見にも首を横に振り、しゃがみこんで生き物の痕跡の無い地面を確かめては自分の考えを口にした。
「そんなにやばい相手ってことかよ。こりゃ、気を引き締めたほうがよさそうだな」
そう言いつつも拓那は落ち着いた様子で、何も無い荒野を見渡すのだった。
「ん? 何か感じないか?」
「‥‥いや? 俺は何も感じないけどな?」
そんな中、ふと拓那は地面の揺れのようなものを感じた気がして、眉をひそめる。それを聞いて運も警戒を強めるが揺れを感じ取ることはできない。
「‥‥気のせいなのか?」
「そうとも言いきれないわ。囮役に警戒を強めるよう連絡を‥‥」
拓那も確信がもてず首を傾げるが、リンはそれを重要視して囮役に無線で連絡を取ろうとする。しかし‥‥。
「おいおいマジかよ‥‥」
「で、でけぇ‥‥」
「くっ、遅かったようね。各自、すぐに援護に向かうわよ!」
突然の爆音と共に、囮役がいる方角で盛大な土煙が上がった。そして、その場に現れる巨大な影。見える部分だけでも5メートルを越える姿は、少し離れたリン達にも十分目視できるほどの大きさである。一瞬驚きの声をあげる三人だが、すぐに襲われたであろう囮役の援護に向かうのだった。
「あれは!」
バイク形態のAU−KVに乗り囮役として周囲を走り回っていたアリステアは、突然起きた爆音に、急ブレーキと共に急反転を行う。そして少し離れた場所に立ち上がる土煙の様子に、アクセルを全開にして突っ込んでいった。
「この揺れは‥‥。間違いない、来る」
キメラが姿を現す少し前、エリアノーラは微かな地面の揺れを感じる。それは徐々に大きくなり、何かが近づいてくる気配を感じさせた。エリアノーラはすぐさま警戒態勢に入るが、彼女の強化された眼と感覚は、何者かの気配が自分の位置とは微妙にずれていることも察知していた。
「この方角は‥‥。剣一郎!?」
気配がどこへと向かっているかを感じ取ったその時、爆音と共に盛大に土煙があがる。それは、剣一郎のいる方角であった。
「‥‥来ます! 攻撃準備!」
「え、なにが!?」
岩陰に待機しながら、いち早く何かを感じ取ったオリガは、すぐさま表情を引き締めて銃を構えた。さきほどまで暑さでグダグダだった様子とは大違いの姿に、九蔵は戸惑いながらもあわてて銃を構える。それから数秒後、爆音と共に立ち上がる土煙。そして現れたキメラの影。
「援護射撃を開始します!」
「了解! ハッハー、トリガーハッピーに逝こうぜ!」
そのキメラの巨大さに物怖じせず、二人は剣一郎を援護すべく、攻撃を開始するのだった。
「‥‥来たか」
微かに感じる地面の揺れに、神経を研ぎ澄ませる剣一郎。やがて揺れは大きくなり、自分の足元に何かが向かってきていることを感じさせた。剣一郎は目をつぶり、全神経を集中してタイミングを図る。そして‥‥。
「いまだ!」
地面の揺れが頂点に達した瞬間、剣一郎は今立っている場所から全力で後方に跳躍する。その一瞬後、地面がすごい衝撃を受けたかのように弾け飛んだ。
「くっ!」
その衝撃はすさまじく、回避した剣一郎でさえ吹き飛ばれそうに感じるほど。もし回避できていなければ、上空へと投げ出されていたことだろう。加えて、多くの岩土が剣一郎へと降り注いでくる。手に持ったレーザーブレードでそれらを防ぎつつ、土煙の中を眼を凝らして目標を探す剣一郎。
「‥‥そこか!」
剣一郎は土煙に浮かび上がる影を見つけ、逆手に持ったレーザーブレードで斬りつけた。旋風のごとき鋭い斬撃が土煙ごと影を切り裂く。そして振り払われた土煙の中から、それが姿を現した。
「なるほど、これは予想以上の化け物だな」
剣一郎の眼前に現れたそれは、巨大な木の幹にも似た太く長い胴体を持つ化け物。その皮膚は赤黒く、節状になった胴体はヌルヌルとした粘液に覆われており、脈打つその姿は人に嫌悪感を与えるような醜悪さを表している。一言で言えば巨大なミミズと言えるが、聞くのと実際に見るのとでは大違いである。そして土から出た5メートル近い身体を蛇のようにウネウネとくねらせ、頭部と思しき先端を剣一郎の方へと向けていた。
「あの程度の攻撃は、意にも介さないか」
先ほどの剣一郎の攻撃は、胴体の粘液を飛ばし、皮膚を焼き切った。しかし、すぐさま胴体はまた粘液に包まれ、切られた皮膚も再生を開始している。
「大丈夫ですか!」
そこへ、周囲の土煙の中から現れたのはアリステア。バイク形態の勢いで土煙を吹き飛ばし、すぐさまその身にAU−KVを纏うと、巨大な斬馬刀を構えた。
「気をつけろ。予想以上に耐性が強い」
「体表が粘液で覆われていて物理的な斬撃は効果が薄い‥‥。でも、俺にはそれしかない‥‥なら、やることはひとつ‥‥」
剣一郎の声に耳を傾けながらも、アリステアは意を決したように前に出た。そして、その太い胴体へと斬馬刀を叩きつける。
「ぐっ、このぉ!」
ヌルリと刃が滑る感触を感じながらも、アリステアは渾身の力で刀を叩きつける。だが、その皮膚はゴムのような弾力で、アリステアの攻撃をはじき返した。負けず嫌いのアリステアは、それでも巨大な刃を何度も叩きつけるように振り下ろす。
「まずい‥‥下がれ、ラムゼイ!」
「!!」
そんななかで、巨大ミミズは突然身体を横に振ったかと思うと、勢いをつけてアリステア達を薙ぎ払うように、その巨体を振るった。とっさに飛ぶ剣一郎の指示、しかし大刀を振るった直後のアリステアは一瞬反応が遅れてしまう。激しい衝撃と共に、吹き飛ばされてしまうアリステア。そして地面に叩きつけられたアリステアに、キメラの追撃が行われる。
「っ! やらせはしない‥‥」
「エリアノーラさん!?」
そこへ飛び出したのはエリアノーラ。彼女は盾を構え、アリステアの前に立つと、叩きつけられたキメラの身体を押し止める。強い衝撃に膝をつくエリアノーラ。そこへ再び、キメラの追撃が行われる。体勢を崩したエリアノーラには、それを押し止める力は無い。
「これならば防げまい。天都神影流・斬鋼閃っ」
剣一郎がキメラの弱い部分へと鋭い一撃を放つが、それでもキメラが怯むことはない。そして再度の攻撃に、吹き飛ばされるエリアノーラ達。大きな質量はそれだけで脅威である。
「単発の攻撃ではすぐに再生されるか、やっかいだな」
物理攻撃には強い耐性を持ち、非物理でも少しのダメージなら短時間で回復されてしまう。顔をしかめながらキメラの動きを見切ろうとする剣一郎。そこへ、周囲警戒を行っていたリン達が合流した。
「待たせたわね。大丈夫?」
「間近でみると余計でかいな! 話に聞いた以上だねこりゃ! 普通のサイズなら平気だけど、流石にこれは‥‥。うん、とっとと片して土に埋めよう!」
「こいつは、まさにボス戦って感じの相手だな! 滅! 殺!! する!!!」
リン達は、それぞれ非物理の武器を用いて攻撃を開始する。リンはレーザーブレードで胴体を切り裂き、拓那は超機械で電磁波を飛ばし、何故か運はエレキギターをかき鳴らしている。
「迫るキメラ! バグアの軍団!」
どこかで聞いた特撮ヒーローの主題歌風な歌をメタルな演奏と共に歌う運。もちろん、それもエレキギター型の超機械であり、キメラに超音波をぶつけて攻撃しているのだ。ちなみに、わざわざ音を鳴らし歌を歌う必要はまったくない。
「よし今がチャンスだ。畳み掛けるぞ!」
「邪魔な粘液さえ抜ければ‥‥俺の武器はお前みたいなデカブツとは相性がいいんだよっ!」
「ミミズならば、環節より前が弱点よ」
援軍の到着に、態勢を立て直し再度攻撃を行う剣一郎達。さすがの巨大ミミズも、一行の波状攻撃には耐え切れず、苦しむように闇雲に身体を振り回した。しかし、キメラは突然鎌首を持ち上げるように一行に身体の先端を向けると、口のようなものを開く。そして、透明な粘液を吐き出した。
「うお、汚!」
「ぐっ、これは酸か!」
とっさにそれを回避する一行だが、避けきれずに触れてしまった粘液が皮膚を焼く。また周囲の地面も同様に溶けてしまった様子に、それが酸の液だということがわかった。警戒し、間合いを広げる一行だが、キメラはその隙に再び地面へと潜ってしまった。
「みすみす逃がしはしない‥‥天都神影流、虚空閃・徹!」
「図体はでかいくせに逃げ足は速いこと‥‥悪いけど、逃がすつもりは毛頭ないわよ!」
すぐさま衝撃波を飛ばす剣一郎と、エネルギーガンを放つリン。しかし、すでにキメラは地面の中に潜ってしまい、追撃を与えることはできなかった。
「いったいどこへ‥‥」
エリアノーラが再び探知力を向上させて、キメラの行方を探る。微かに感じる土の動き、それが示す方向は‥‥。
「オリガ! そっちに行ったわ! 避けて!」
離れた場所で援護射撃を行っていたオリガと九蔵。エリアノーラはキメラがそちらへ向かったと警告を出す。その声が届くか届かないかという時に、オリガ達の居た場所で土煙があがるのだった。
「さすがオリガさん。間一髪ってところだな! 痛っ!」
「危ないところでしたわね。ほら、岩が落ちてきますから気をつけて」
キメラの動きをいち早く察知したオリガの指示で、間一髪で回避した二人。すぐさま武器を近距離用に持ち替えて現れたキメラを攻撃する。
「準備しておいて良かったですわ」
「いい夢見ろよ! Sweet Dream」
オリガはショットガン、九蔵は拳銃を全力射撃して、頭部をめがけて攻撃を行う。しかし、弱っていても物理攻撃には耐性があり、すぐに仕留めることはできなかった。
「ハン、イキが良いな、レストランに持ってったら、幾ら位で売れるか楽しみだ、高いんだろう? お仲間は」
「ミミズ料理‥‥聞いたことはありますけれど、私はちょっと‥‥」
吐き出された酸をかろうじて避けながら、射撃を続ける二人。軽口を叩いてはいるものの、決定打が与えられず内心焦りを覚えていた。しかし、そこへようやく仲間達が追いつく。
「もう逃がしはしないぞ! 天都神影流、虚空閃・徹!」
「おとなしく土に還りやがれ!」
剣一郎の放った衝撃波が巨大ミミズを切り裂き、拓那の電磁波が痺れさせる。続けて、リン、エリアノーラのレーザーブレードによる斬撃、運の超音波。
「竜の爪よ、敵を切り裂け!」
最後の一撃はアリステアの渾身の叩きつけ。さすがにこれだけのダメージを一度に食らえば、巨大ミミズも力尽きてぐったりと地面に倒れ伏した。
「思った以上にタフだったな。だが、これで任務完了、か。皆、お疲れ様だ」
「よし早速、中尉に報告に行こうぜ!」
「ふっ、これでアンナも安心するでしょう。戻りましょうか」
巨大ミミズが完全に動きを止めたことを確認し、全員にねぎらいの声をかける剣一郎。拓那はすぐに帰る支度を始め。リンの言葉で全員が帰路につくことにした。こうして、苦戦を強いられたが、一行は無事に巨大ミミズを退治し、任務を達成する。そして、運と九蔵がこれまでの活躍により正式に部隊への入隊が決まったのだった。