●リプレイ本文
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
依頼を受け村にたどり着いた一行。車を降りたドクター・ウェスト(
ga0241)の笑い声が、村に響き渡った。
「どうも! 俺達、ULTでこちらの依頼を受けたエミタ能力者です!」
「お、おお? おお! あんたらが、依頼を受けてくれた能力者だったんか!」
そんなウェスト達を胡散臭そうに見ていた村人達であったが、レジーノ・クリオテラス(
ga9186)が爽やかな声でこちらの身分を説明すると、一気に歓迎ムードになってくれる。
「とりあえず、車に詰めるだけの水を持ってきた。少ないが我々が川を開放するまでのつなぎに使ってくれたまえ〜」
「おお、助かる! だが、これだけでは村全体をまかなうことは無理がある。早く、川の水を取り戻してくれ」
「おーい、ドクター。あんたも降ろすの手伝わないか?」
ウェストの指差した先は今乗ってきた車で、山崎・恵太郎(
gb1902)が水がいっぱいに詰まった箱をいくつも降ろしていた。
「あら、これくらい私達だけで十分でしょう?」
ロボロフスキー・公星(
ga8944)もそれを手伝うが、身長2メートルで筋肉質なその身体つきに反して、その言葉遣いは女性のそれである。といっても、彼はオカマではなく、覚えた外国語が女性言葉であっただけなのだが。
「それにしても、スライムかぁ‥‥戦うの初めてだな、楽しみ!」
「スライム退治、ねぇ。どこぞの国民的RPGみたいに、さくさくと倒せりゃいいんだが」
なにやらうきうき気分のレジーノに対し、鹿島 綾(
gb4549)は自分の想像とは別物であろうそれに眉を顰める。
「はい、これより先マル暴‥‥じゃなかった‥‥スライムと交戦になるので入らないように。入ったら公務執行妨害・不法侵入で捕まりますよ〜‥‥じゃなかった、危険なので近づかないで下さい〜」
「悪いが、スライムを排除すると、川が氾濫する恐れがあるから〜。危険だから、終わるまで川には近づかないでくれたまえ〜」
紅月・焔(
gb1386)とウェストは、鉄砲水などの危険を考え、村人が川に近づかないように注意を行った。
「守れないならぶった斬るぞ」
「ひぇ」
「あ、すいません、本気ではないんですよ。でも、本当に危険ですからこないでくださいね」
脅すように言う月城 紗夜(
gb6417)におびえる村人。天城・アリス(
gb6830)がそれをフォローするが、しっかりと念を押す。そして、一行はスライムが堤防を作っているという川の上流を目指して山を登り始めた。
「あった、あれだ!」
先頭を歩いていたレジーノが指差した先には、泥土のようなものが堤防のように川の水を堰き止めていた。
「あれがスライムなのか? ただの泥土にしか見えないんだけど」
「待った、あまり近づかないようにしよう。まず周囲を調べて、様子を観察できるのに適した場所を見つけるんだ」
「あ、あそこなどいいのではないでしょうか」
それに近づこうとしたレジーノを引きとめ、恵太郎が慎重に行動するよう指示を出す。それに、事前に周囲を確認していたアリスが、いち早く観察に都合の良い場所を見つけ出した。そして一行は、川から少し離れた見通しの良い場所に陣取ると、双眼鏡で堤防の様子を観察する。
「たしかに、一見してただの泥にしか見えないな。だが、ただの泥にあれだけの水を堰き止めることは無理だろうし」
「だいぶ水かさが増してるようだ。放っておいても時機に水があふれ出るんじゃないか?」
「ですが、もしあれだけの水が、もし堤防が決壊して全て流れたとしたら、下流の村は‥‥」
泥土は川幅いっぱいに広がり水を堰き止めており、堰き止められている水はかなりの量に達しているように見えた。双眼鏡を覗く綾と恵太郎の話に、アリスが心配そうに不安を口にする。
「我輩にも見せてもらえるかね?」
「あ、はい、これをどうぞ」
「ふむ‥‥。これはまずい、我輩の計算では放っておけばあと一日もしないうちに、限界量に達して堤防は決壊。氾濫した川の水は、村を押し流すだけでなく、もっと下流の街にまで影響がでてしまうね〜」
「それってまずいじゃん! 川に水が流れてばんざーいと思ったら、その川の水に全部流されるとか、最悪だって!」
「いったいどういう計算によるものなのか気になるところだけれど。そんなことも言ってられないわね。少なくてもその可能性があるっていうだけで大問題だわ。とっとと、片付けてしまいましょう」
アリスから双眼鏡を借りて観察するウェストは、状況から予測される未来に苦笑を浮かべた。その話を聞いて最悪の状況を想像するレジーノとロブロフスキー。
「たしかに、行動は早いほうがよさそうだな。作戦通り俺と月城さんが囮となって、少しずつスライムを堤防から引き剥がしてくるから、みんなはここで待ち伏せての攻撃を頼む」
「我に任せておけ。貴公らは、万が一にも邪魔が入らぬよう見張っていてくれ」
そして、一行は迅速な行動を行うことに決定すると、AU−KVを纏った恵太郎と紗夜が囮となって、スライムを一行のもとにおびき寄せることにした。二人は逃走経路を確認しながら、川へと近づいていく。
「間近で見ると、微妙に動いているのがわかるな‥‥」
「任務を開始する」
堤防の間近まで近づいても相手に目立った動きは無く、その泥土がどちらかというとゼリーのようなものだと確認しながら、二人はレーザーブレードを堤防へと向けた。
「間違って堤防が決壊しないよう。少しずつだよ」
「わかっている」
シュッという短い音と共に、堤防の一部を切り裂く紗夜。するとどうだろう、さきほどまで何の反応も示さなかった泥土が、まるで生き物のように蠢きだし、その一部が二人に向かって飛び掛ってきた。
「っ!」
飛び掛ってきたスライムを避けながら再び剣を振るう紗夜。剣に切り裂かれ、塊から切り離された一部が、べちょりと地面に落ちた。だが、その一部はすぐさま動き出し、別の個体になったかのようにヌルヌルと動きながら二人へと襲い掛かってくる。
「なるほど、これは面倒だな。塊から切り離されれば、別のキメラか。っと、次から次へと‥‥」
塊からは触手のように幾重にも伸びたスライムが襲い掛かり、それは防ぐたびに別の個体として切り離されて動き出す。動きはドロドロとした見た目のわりに俊敏で、一般人では眼で追うのも大変だろう。恵太郎は状況を確認しては苦笑し、紗夜へと声を掛けた。
「そろそろ下がるぞ。これ以上ここに留まるのは危険だ」
「承知‥‥、っ!!」
「あぶない!」
撤退を指示した恵太郎に、紗夜が頷く。だがその一瞬に、紗夜の死角からスライムが襲い掛かった。圧縮された水が吹き出るかのように素早く飛び掛ってくるスライム。反応が遅れた紗夜は避けられない。
「くっ‥‥」
しかしそこへ、恵太郎が盾を構えながら割り込んだ。黒いスライムが、恵太郎のAU−KVに掛かり、ジュウと何かを溶かすような音が聞こえた。
「この、離れろ!」
恵太郎はすぐさま竜の咆哮でスライムを振り払うが、その眉は苦痛で顰められる。さすがに盾やAU−KVが溶かされることはないが、どうやら小さな隙間から潜り込み肉体を直接溶かされたようだ。
「‥‥大丈夫か」
「ああ、この程度たいしたことは無い」
心配するように声をかける紗夜に、笑みを浮かべて返す恵太郎。幸いにも、すぐに振り払ったおかげで、そのダメージは軽い火傷程度で済んだようだ。
「飛ぶぞ、いけるか?」
「よしいくぞ」
そして、二人は竜の翼により、事前に確認しておいた遮蔽物の無い逃走経路を一気に飛ぶ。スライムから距離をとると、スライムがこちらへと追いかけてくるのを確認して、スライムから付かず離れずに一行の待ち伏せる地点へと撤退した。
「超機械って初めてつか‥‥うわーお!」
「ちょ! 危な!」
恵太郎達が囮をしている間、戦闘の準備のためにレジーノのレーザーブレードの試し振りするが、焔を掠めてあわてて回避する。
「二人が来たぞ、準備はいいか?」
そんなことをしている間に、恵太郎達が撤退してくる様子を確認した綾が一行に合図を送る。そして、囮を追いかけて、スライム達が目標地点に入った。
「けひゃひゃ、スライムに物理攻撃は効果が薄いが、この超機械による攻撃ならば効果バツグン! しかーも、電波増幅で当社比1.2倍!」
「結構多いわね、でもちゃちゃっと片付けちゃいましょう」
「えっと、このボタンを押して‥‥人の迷惑になるスライムは退治させてもらいます!」
スライムが射程に入ると同時に、ウェスト、ロボロフスキー、アリスが攻撃を開始する。それぞれが、超機械を持って非物理攻撃によってダメージを与えていく。ちなみに、ウェストの言った倍率はかなりいい加減である。そして、焔がなにやらスライムを指差して激昂した。
「貴様等‥‥何の為にこんな事をしてやがる! 川はせき止める‥‥人は困らせる‥‥‥何より! 服以外にも溶かすその根性が許せない!! お色気を生み出す事の出来ない貴様等など‥‥存在価値は無い!! スライムの無駄遣いだ!!」
「焔‥‥だまってろ」
「あ、はい、すいません‥‥」
「ネトネトとうざったい奴だな、ほんとに!」
「ひぃ、すいませんすいません‥‥」
「いや、いまのは焔に言ったんじゃないぞ?」
だが、色々と間違った方向に怒っている焔に、綾が一喝、すぐにおとなしくなる。その後、スライムへと攻撃する綾の台詞に反応して、また謝る焔。
「服以外を溶かすと何故根性が許せないんでしょう?」
「いい子だから、気にしちゃだめよ?」
そんな焔の台詞に首をかしげるアリスに、ロボロフスキーがにっこり微笑み諭すのだった。
「スライムって結構素早いんだな! おっと、あぶな!」
「気をつけろ、触れると身体を溶かされるぞ」
「ここからは本気でいかせて貰うぞ。我からは逃げられん。足掻くな、見苦しい」
囮の二人に加え、レジーノが前にでてレーザーブレードを振るう。不定形であるスライムの不規則な動きに戸惑いながらも、ショットガンを併用しながら着実にダメージを与えていくレジーノ。そして、恵太郎と紗夜も後方に危害が加わらないように注意しながら、全力で殲滅を開始する。そして、しばらくして追いかけてきたスライム達のほとんどが動きを止めのだった。
「よし、この調子で少しずつ堤防を削っていこう」
「まて、その前に怪我の治療だ。山崎、腕を出せ」
「ん? ああ‥‥」
「それならば、我輩の練成治療で」
「それには及ばん、これで十分だ」
スライムの死骸を処分し、再び囮に出ようとする恵太郎。それを紗夜が引きとめ、怪我の治療を行うと言い出した。ウェストが超機械での治療を行おうとするが、紗夜はエマージェンジーキットを取り出して、恵太郎の軽く焼け爛れた腕に手馴れた様子で消毒と包帯を巻いて治療する。
「簡単な手当てだが、これでいいだろう」
「お、おお、ありがとう」
「礼には及ばん。この怪我がもとで、足手まといになられても困るからな」
「言うねぇ。もちろん、足手まといにならないよう注意するよ」
「‥‥ならば行くぞ」
治療を終えた紗夜。恵太郎の礼に、そっけなく答えて立ち上がると、再びAU−KVを纏う。その様子に苦笑しながら、恵太郎もAU−KVを纏い囮へと出るのだった。
「なに今の?」
「自分を庇ってできた怪我だから、そのお詫びでしょ。素直じゃないねまったく」
「お、俺も、俺も怪我したから優しく介護して!」
「なんなら、俺がその怪我を広げてやろうか?」
「‥‥本当にすいません」
その様子を羨ましげに見てた焔に、綾が苦笑しながら答える。それに何を思ったか、焔が自分もと服を脱ぎ始めるのを、綾が拳を握り締めて睨みつけた。
「すっかり夜になっちゃったな」
それからしばらくして、何度か誘き寄せ作戦を行っていた一行だったが、日が暮れてしまいその日の作戦は終了、野営を行うことにした。
「テントの準備はできたわよ」
「女性用テントもできたぞ」
「こっちも、飯の準備はOK! 野営といえば、カレーでしょ! うん!」
ロボロフスキーと綾がテントを用意し、他の者は食事の準備を行った。といっても、ご飯とレジーノ達が持ってきたインスタントのカレーではあるが。
「ああ、俺はカレーはいらないぞ。紗夜、そのビーフシチューを分けてくれ」
「‥‥かまわないが」
食事が始まると、辛いのが苦手な綾は、紗夜からビーフシチューを分けてもらおうとする。それを見て、焔がニヤリと笑みを浮かべた。
「‥‥にやり。おーい、それだったらこっちの食べるといいぞ!」
「‥‥なんか赤いけれど、カレーじゃないんだろうな?」
「トマトだって、トマト」
「じゃあ、とりあえず一口だけ‥‥」
ロボロフスキーが用意したそれを綾に薦める焔。綾はなにか怪しみながらも、一口それを口にする。
「ちょっと、それは‥‥」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
ロブロフスキーが止めようとするが一歩遅く。綾は口を押さえながら目を白黒とさせた。綾の口にしたのは、スパイスの良く効いた『レッドカレー』、彼女にとっては口から火を吹くような感じであろう。
「いやー、まさにお約束って感じだな!」
「‥‥死ね」
「ぎゃーーー!」
「いや、本当にお約束だね」
「なるほど、あれが『お約束』というものなのですね」
いたずら成功にガッツポーズをとる焔だが、次の瞬間、綾に吹き飛ばされる。その様子を見て、恵太郎がクールに締め、アリスが納得したように頷くのだった。
「あ、堤防より水の流れを出てきています、これよりそちらに合流します」
次の日、何度か堤防からスライムを誘き出して退治していると、質量が減って堰き止められていた水が少しずつ流れ出し始めた。それを確認したアリスが、一行に報告、全員で堤防を切り崩す作戦に移る。
「鉄砲水に注意して、慎重に切り崩していこうかね〜。大丈夫、我輩の計算通りにやれば、被害は最小限で抑えられるよ〜」
と、信憑性は薄いがウェストの計算のもとに、少しずつスライムの塊に攻撃を加えていく一行。スライムも反撃の触手を伸ばしてくるが、質量が減ってきたせいか、始めのころほど連続した攻撃は行ってこない。やがて、堤防を形成するだけの力がなくなってきたのか、スライムの一部が崩れて川に水が流れていく。そして、その流れは徐々に勢いを増し、ついには堤防は完全に決壊、ドーっと音を立てて川は元の流れを取り戻した。心配していた鉄砲水も、思いのほか小さく、下流の被害もほとんど無いであろう。
「終わった終わったー! それじゃ、とっとと帰りますか! 村のみんなもきっと喜んでるよ!」
それを確認した一行は、レジーノの意向もありすぐに撤収を行うことにした。ただ、ウェストだけは、少しだけ残って、スライムの調査を行ったようだ。こうして、今回の任務は無事に終了するのだった。