●リプレイ本文
「まるでアメリカのホラー映画を見ているようだよ」
一行が町へたどり着くと、そこはまさしくゾンビの徘徊する死霊の町であった。身体の一部が損壊しているにもかかわらず、歩きまわるリビングデッド達。一行は二人一組4チームに分かれ、ゾンビの徘徊する町を探索するのであった。
「ここが病院か? 汚ぇとこだな」
病院までたどり着いたOZ(
ga4015)とジングルス・メル(
gb1062)。病院は、古い病院らしく元々さほど綺麗ではないところに、あちこちガラスが割れて荒れている様子が見て取れた。
「おずちゃ、ほらそこにお目当ての」
「おお、白衣の天使はっけーん、ってゾンビかよ!」
ロビーに入ってすぐ、人影を発見した二人だが、それはやはりゾンビでOZは躊躇無くライフルを撃ちこんだ。頭部が赤い花のように飛び散り、その衝撃に吹き飛ぶゾンビ。その様子に、OZは何の感傷も無いように先へと進もうとする。
「っ! 頭ぶっ壊されても動くかよ!」
しかし、OZが横を通り過ぎようとしたとき、頭を破壊されたゾンビが再び動き出して、その足首を掴もうとする。OZは一瞬顔を顰めながらも、再びゾンビに弾を撃ちこんだ。
「しつこいやつは嫌われるぜ」
心臓と脊髄に銃弾を撃ちこみ、それでも伸ばされるゾンビの手を靴の踵で踏み潰す。その後数発の銃弾を再び撃ちこみ、ゾンビはようやく動かなくなった。
「ほとんどミンチだなこれ」
「弱いが、しぶとさだけなら一級品だぜ。弱点とかないのかよ」
ゾンビの成れの果てに呆れるように言うジングルス。OZはどこを撃てば動かなくなるのかすでにわからない状態に、小さくため息を漏らした。その後も時折現れるゾンビをミンチにしながら、病院を探索する二人。しかし‥‥。
「ここは死体安置所か‥‥って、うぉ!」
「いわゆる一つのゾンビの巣ってやつだな」
「さすがに一度にこんなに相手にできねえだろ、逃げっぞ!」
死体安置所のドアを開けたOZの目の前に現れたのは十体以上のゾンビ。2、3匹程度ならなんてことは無いゾンビでも、さすがにこれだけの数を一度に相手にするのは難しい。OZ達は慌ててその場を逃げ出した。
「やべ、こっちからも来た!」
しかし、廊下を逃げる二人に、別のゾンビが道を塞ぐように現れた。そして、後ろからもゾンビが迫ってきている。
「‥‥おずちゃ、こっちだ」
「おい、そっちは中庭‥‥」
ジングルスはOZを掴んで窓をぶち破り、病院の外へと飛び出す。そこは病院の柵に囲まれた中庭。
「デカイのいくぞ、下がってろッ」
そして、ぞくぞくと中庭に出てくるゾンビ達に、ジングルスは持っていた瓶をゾンビ達の上空に投げつけ拳銃で撃ち割る。そして、火をつけたタバコをそれに向かって投げつけた。
「うぉ、よく燃えるな」
ジングルスの投げつけたのは、アルコール度数99度の『スブロフ』。それが、タバコの火によって大きく炎を上げた。そして燃え上がるゾンビ達は、一時的に動きを止める。
「それ逃げろー!」
「ちょ、どこ触って!」
それを確認したジングルスは、OZを抱きかかえると、柵を飛び越えて敷地から逃げ出すのであった。
「ひでぇめに遭ったぜ」
「あー、でもあいつら、なんか火に怯えてなかったか?」
「そうか? 確かにちょっと動き止まったけどな。それより、銀行行こうぜ銀行!」
「はいはい、別にいいけどよ」
病院を脱出した二人は、次に予定には無いはずであった銀行を目指す。その理由とは。
「死人に金は必要ねーだろ? 俺達が有意義に使ってやるよ」
「火事場泥棒、既に居たりしてナー?」
二人は、町が壊滅していることを良い事に、銀行に金品を探しに来たのだ。いわゆる、火事場泥棒である。
「うお、なんだこのゾンビの数!?」
「こりゃいくらなんでも無理だろ。みんな、おずちゃみたいに金を取りに来てゾンビになったってとこだろな」
「ちっ、しゃーない、どっかそこらへんの店のレジでも漁るか」
「スーパーだったら、甘いもんもありそうだな」
しかし、銀行にはゾンビがひしめきあっており、侵入は不可能だった。そこで彼らは、てきとうな店舗に入り、金銭を漁るのであった。
「ここもすでに無人か‥‥」
OZ達と同じころ、ヴィンセント・ライザス(
gb2625)と日野 竜彦(
gb6596)は民家を見て周り情報を集めていた。
「でも他とは違って荒れてはいないね。外出して戻れなくなったか、もしくはすでに‥‥」
「この町の状況から見れば、おそらくこの家の住人も。生存者なぞ、残っていないのかもしれないな」
二人はここまでに、いくつかの民家を見てきたが、どれもすでに住人は無く、何者かに襲われて荒れた様子であった。恐らく、襲われた者もゾンビとなり、新しい犠牲者を求めて町へと出て行ったのだろう。それと比べると、この家はまだ荒らされた形跡も無く、人が暮らしていた様子を色濃く残していた。
「住民は親子三人。子供はまだ小さな娘のようだ」
「こんな子まで被害にあったと思うと、すごく悲しいね」
壁に貼られた家族の楽しそうな写真を見て、感傷を浮かべる二人。そしてしばらく家を捜索していると、寝室の机に日記のようなものを発見した。
「これは‥‥」
「なにか大事なことでも書いてあった?」
「‥‥町はゾンビだらけだ。助けを呼ぼうにも、電話もなにも通じない。周囲の家もゾンビ達に襲われ、恐らくこの家も危ないだろう。幸い、この家には地下に貯蔵庫がある。そこならば、もしかするとゾンビに見つからなくてすむかもしれない。だが、助けがくるまでそこに隠れているには、保存食は足りない‥‥。せめて、妻と娘だけは助けたい。‥‥ならば、私は二人のためになんとか外と連絡を取ろう‥‥」
「それは‥‥」
「日記の最後の内容だ。そして‥‥この日記を見た貴方、どうか妻と娘を助けてやってほしい‥‥と記されている。どうやら、生存者がいるようだな」
「急いでその貯蔵庫へ行かなくちゃ!」
日記を見た二人は、急いで地下の貯蔵庫と思われる場所を探した。しばらくして、キッチンの床に地下への階段を発見し、貯蔵庫へと足を踏み入れた。
「誰かいる?」
「‥‥!?」
貯蔵庫は狭く、大人二人がやっとといった広さだった。ヴィンセントが声をかけると、暗い室内で微かに物音がする。
「安心して、助けに来たんだ!」
「‥‥っ!!」
「そこだね?」
物音へと近づく竜彦。するとそこには、小さな子供が一人で震えていた。
「きみだけ? お母さんは?」
「待て、まだ人間と限ったわけではない。一応確認するぞ」
「ひっ!?」
不用意に近づく竜彦を制し、ヴィンセントが子供に対し手ごろな何かを投げつけた。それは、子供の頭にこつんと当たると地面に落ちる。
「どうやら、一応人間のようだな」
「ヴィンセント、子供に対しそれはないんじゃないか? ごめんね驚いたと思うけど、助けに来たんだ」
「助け‥‥? お姉ちゃん、怖い人じゃない‥‥?」
「全然怖くないよー。それと‥‥俺はお姉さんじゃなくて‥‥オ・ニ・イ・サ・ン☆」
「‥‥ぇ?」
フォースフィールドが出ないことを確認した二人は、まだ幼いその子供に優しく声をかけた。最初は怯えていた子供も、女性のような竜彦の様子に、少しずつ気を許す。竜彦が男だと言うと、キョトンとしていたが。
「それで、お母さんは一緒じゃないの?」
「お母さん‥‥助けを呼んでくるって出て行っちゃった‥‥」
「父親に続いて、母親もか‥‥。あと少し待っていてくれれば‥‥」
「‥‥しかたないよ。この子を助けるために、必死だったんだよ、きっと‥‥」
「‥‥ヒック‥‥うわ〜ん!」
すでに母親も助けを呼びに出たと聞いて、悲しげな表情を浮かべる二人。そのことに、子供も何かを察したのだろう、声を上げて泣き出してしまった。
「ともかく、せめてこの子供だけでも助け出さないとな」
「うん。絶対無事に、安全なところへ連れて行くよ」
泣く子供を優しく抱きしめ、二人は彼女を連れて民家を出るのだった。
「たぶん、ここで間違いないな」
ゾンビ達を避けながら探索を行い、ある住所が書かれたメモと地図を現在地と照らし合わせた砕牙 九郎(
ga7366)は、一見の民家を訪れる。
「ここが新聞社の地元調査員の家なんだな」
九朗と十六夜 心(
gb8187)はここに来る途中、隣町にあった新聞社を訪れ、この町にいるという調査員についての情報を得ていた。
「それじゃ、家に入るぞ。中に入ったとたんいきなりゾンビに襲われるなんてこともあるかもしれないから、注意しろよ」
「ウッス」
一通り、家の周りを確認し終わった二人は、民家の侵入を試みる。九朗の注意に心が頷き、玄関のドアノブに手をかけた。
「さすがに閉まってるか。壊してもいいがさすがに大きな物音を立てるわけにもいかないしな。窓から入ろう‥‥よし、これで入れるぞ」
「あんた、手馴れてんな」
「一人暮らしが長いと防犯にも気をつけるようになるからな。逆に家に侵入するにはどうするのかってことも考えるんだよ」
「なるほど‥‥」
当然のごとくドアには鍵がかけてあるが、それは想定内と家の横へと回った二人。九朗がレーザーブレードを取り出して、適当な窓ガラスを焼き切るとそこから手を伸ばして窓の鍵を開け、二人は中へと入ることに成功する。そんな九朗の手際に関心する心に、九朗は苦笑を浮かべるのだった。
「パソコンか、メモか、何か情報になるものがあればいいんだが」
「小さい家だ。二人で手分けすれば、そんなに時間はかからないだろ」
リビングを調べ終わった二人は、手分けして各部屋を調べる。ほどなくして、調査員の仕事場と思われる場所を見つけた。そこには本棚と机があり、机の上にはデスクトップパソコンと書きかけのメモ。本棚にはいくつかの資料などが置かれていた。
「パソコンは‥‥やはり点かないか。ノートパソコンだったら良かったんだけどな」
「こっちも、気になる資料は無いな。あとはこのメモか‥‥」
パソコンの起動を試みる心だが、やはり電気が届いていないようで、起動することはできない。本棚を漁っていた九朗も、これといって今回の事件についての資料は無かったようだ。そして、机に置かれていたメモだが。
「男性二人が行方不明。深夜に墓地を調べに行くと言って出かけ、それ以降帰ってきていない。警察も調査に入ったが進展は無し。私もこれから墓地へと向かう‥‥か」
「明らかにその墓地っていうのが怪しいけど。どうするんだ?」
「墓地へ向かったのはミルファリア達か。ここで調べられることはもう無さそうだし、俺達も向かおう。あっちで合流できるかもしれないしな」
「わかった」
これ以上これといって有力な情報を得られないことがわかった二人は、早々に家を出ると、調査員が向かったという墓地へと向かうのだった。
「ええ、はい、そうですか。いえ、まだこれといったものはなにも。わかりましたわ、ではここで‥‥」
「砕牙はなんと?」
「調べに入った地元調査員の家では、その調査員が墓地へと調査に向かって消息を絶ったことがわかったようですわ。そして、それ以前にも墓地で行方不明者が出ており、ここが怪しいと思われるようよ」
墓地へと向かったミルファリア・クラウソナス(
gb4229)とハルトマン(
ga6603)。少しして、九朗からの無線を受けた二人は、やはり墓地に何かがあるのだろうと確信を深めて、調査を再開する。墓地の様子は、一見して明らかにおかしいのがわかった。というのも、多くの墓で土が掘り起こされ、収められていた棺が開いているのだ。
「どういう理由かはわかりませんが、眠っていた死体が起きだしてきた跡に見えますね」
「ゾンビと言えば‥‥墓場、ですわよね‥‥」
「一応、ここの土も持ち帰ってみましょう。なにか怪しげな成分が含まれているのかも」
「正直、こんな墓荒らしのようなこと、エレガントさに欠けますが仕方ありませんわね」
墓場の土を掘り出して袋に詰めるハルトマンに、『女性はエレガントに』をモットーとしているミルファリアは少し顔を顰めるが、すぐに苦笑して肩を竦める。その後、しばらく墓地の調査を進める二人だが、それ以外にこれといって怪しげなものを発見することはできない。
「なにもありませんわね。ここの死体がゾンビになったことは間違いないのでしょうが、その理由の手がかりが見つからない」
「とりあえず、ここには何も無いということだけはわかりました。それに、この土の成分調査などはここではできませ、‥‥‥!?」
「なにかありましたの?」
「いえ、いま物音が‥‥確かこっちのほうから、‥‥‥!!」
微かな物音に反応したハルトマンが、音のしたほうへと向かおうとする。しかし、少し進んだところで、突然彼女の足首を何者かに掴まれた!
「土の中から!? まだ、ゾンビが残っていたようです、くっ!」
「ハルトマン!」
「大丈夫です‥‥こんなときのこれですから」
ハルトマンを掴んだ手は土の中から出てきていた。どうやら、まだ起きていなかった死体があったようだ。常人とは比べ物にならないほどの握力で足を握られ、表情を曇らせるハルトマン。ミルファリアが急いで駆け寄ろうとするが、ハルトマンはそれを制し、持っていたショットガンに備え付けられたチェーンソーによって、掴んでいる手を切り裂く。
「きみって、恐ろしいことを平然としますわね。間違って自分の足首を切ったらどうするの」
「ミルファリアのその大剣で切られるよりマシだと思いますよ?」
「あら‥‥」
一歩間違えれば自分の足首を切りかねない行為に、少し呆れながら言うミルファリアに、ハルトマンはミルファリアの持つ2メートルを超える大剣を見て答えた。ミルファリアは一本取られたといった表情で、大剣をゾンビがいるであろう地面に突き刺すのだった。
「ここにも生存者は無しか‥‥」
その後、生存者の子供を保護したヴィンセント達を残して、残りの6人で警察署へと向かった。しかし、そこにも生存者は無く、ゾンビの巣となった警察署からいくつかの資料を手に入れた一行は、生存者の子供を連れて町を脱出した。そして、それらの資料、採取してきた土や、ゾンビの身体の一部などを提出し、一応の依頼達成となるのだった。しかし‥‥。
「今回、OZさんとジングルス・メルさんの行動で、能力者としてあるまじき行為があったことが先日の調査で発覚しました。それにともない、お二人の今回の報酬、および不当に手に入れた金銭を没収とさせていただきます」
「なっ! ふざけんなよ!」
「本来ならば、エミタ能力の剥奪も視野にいれた厳罰が下される所ですが、これまでの功績を鑑みて、この程度の軽い処罰となったのです。くれぐれも今後このようなことが無いよう、肝に銘じてください」
「‥‥‥」
二人の火事場泥棒の件が発覚し、二人の報酬が無しということになった。世の中、そうそう悪いことはできないのである。