タイトル:百鬼夜行 ろくろ首マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/28 13:33

●オープニング本文


 日本のある日の朝のこと。人口少ない田舎町のガソリンスタンドで勤めている男が、いつものように出勤し店を開けると、一台の車がお客として入ってきた。
「いらっしゃいませ! 朝早くからようこそいらっしゃいました! 本日はどういたしましょう?」
「レギュラー満タンで」
「承知いたしました、レギュラー満タン入ります!」
 男はいつもどおりの慣れた接客でお客の注文を受けると、給油機脇にある給油ノズルを車の給油口へと差込み、ガソリンを入れようとする。
「‥‥‥?」
 しかし不思議と給油ノズルからガソリンが出ている音がしない。男は首をかしげて何度か試して確かめてみるが、どうしてもノズルからガソリンが出てこない。
「おーい、窓拭きとかのサービスどうした〜?」
「あ、すいませーん! なんか、給油機の調子が悪いみたいで! もう少々お待ちください!」
 お客の催促に、男は困ったように頭を下げて、給油機の様子を見たり、別の給油機を使ってみたりもするが、ガソリンが出てくることはなかった。しばらくして男は困り果てながらも、ひとつの可能性を思い浮かべて、ガソリンの貯蔵タンクを確かめる。
「もしかして‥‥。っ!? やっぱりか‥‥。タンクにガソリンが残ってない‥‥。いやいやしかし、そんなわけないだろ。昨日閉店するまでには、ちゃんと十分な残量が残ってたはずなのに‥‥」
 男の不安は的中し、貯蔵タンクのメーターは0の値を示していた。しかも、レギュラーガソリンだけでなく、ハイオクと軽油さえも無くなっていると示されている。男は前代未聞の出来事に混乱しながらも、その原因を確かめようと店の点検を行うことにした。
「嘘‥‥だろ‥‥。ここから全部‥‥!?」
 その後わかったことは、たしかに貯蔵タンクからは、各種ガソリンが綺麗さっぱり無くなっていることと。店のすぐ近くにぽっかりと穴が掘られており、そこからタンクの中身が全て奪われた形跡が残されていたことであった‥‥。

 それから数日、町内の複数のガソリンスタンドで同様の事件が発生し、町全体からガソリンが消え、車などの利用が困難になるという事態にまで発展するのであった。これをうけ、地元の警察が遅れながらも事件究明と、被害防止のために本格的に動き出すことになったが。
「いったいなんなんだ。ガソリンだけを狙った窃盗犯? 目的は金か? 回りくどいことを‥‥。ともあれ、あんまり我々警察を舐めるなよ。すぐにでも犯人を逮捕し、盗んだガソリンを取り戻してやる」
「警部、いまのところ異常はありません!」
 その夜、いまだ被害にあっていないガソリンスタンドの周囲を、何人かの警官が隠れ潜みながら警戒している。いままでの調査でわかったことは、犯行は夜に行われているらしいこと、貯蔵タンクの近くに穴を開けて、ポンプのようなものでガソリンを吸いだしていること、ガソリン以外の被害はないことなどだ。ただ実際の犯行の様子については目撃証言はなく。吸い上げたガソリンをどうやって運んでいるか、大型タンクローリーなどの形跡が見当たらないことなど多くの疑問が残されていた。
「来るならこい。大量のガソリンを盗むには相応の作業が必要なはずだ。夜闇に紛れようとも、その様子を隠しとおせるはずがない!」
 警部と呼ばれた年配の男が、当然とばかりに頷いてガソリンスタンドを見やる。貯蔵タンクの全てのガソリンを盗むなどという大作業、余所見をしていても見落とすはずがない。男は、いずれ現れるであろう犯人グループの姿を待ち受けながら、夜の闇に身を隠した。
 それから数時間、時刻は深夜三時ごろ。街灯に薄暗く浮かび上がったガソリンスタンドにいまだ異常はなく、警官達にも気の緩みが生じてきたころ‥‥。
「どうした、今日はこないのか? それともすでに別の町に逃げたか? となると面倒なことになるが‥‥」
 警部の男もいい加減焦れ始め、別のスタンドに配置された部下達からの連絡や、すでに逃げた可能性を模索し始める。と、その時、警官の一人が男に声をかけた。
「警部どの‥‥」
「なんだ、来たか!?」
 そう言いつつも、何も異常がないことはわかっている。これだけスタンドに近ければ見落とすはずなどないはずなのだから。
「いえ‥‥ですが、変な音が聞こえませんか?」
「変な音‥‥? なんのこと‥‥だ?」
 しかし、警官に言われるままに耳を済ませてみると、確かに何か水音のようなものが聞こえる。ピチャピチャ‥‥ピチャピチャ‥‥と、水溜りで何かが跳ねるような音、猫が舌先でミルクを舐めるような音。夜の闇の中で、その音は不気味に響き渡り、聞くものを不安にさせる。
「どういう‥‥ことだ? これは事件に関係するのか?」
「さぁ‥‥それはわかりませんが‥‥」
 それは、どうやら彼らが見張っているガソリンスタンドのほうから聞こえてくるようで、警部も警官達も首をかしげつつ、スタンドを凝視するが一見異常があるようには見えない。
「確かめる、何人かついて来い」
 ともあれ、音の正体を放置しておくわけにもいかない。警部は警官数人を連れ、なるべく気配を消しながらスタンドへと近づく。やがて水音は、ズズーズズーと何かを吸い込むような音へと変わり、そこでようやく警部達も明確な異常を感じることができた。
「おい! 何かがガソリンを吸いだしてるのかもしれん! 急いで音の正体を突き止めろ!」
 すぐに指示を出し、スタンドの周囲に目を配る警官達。そして、それを発見した。
「見つけました! ポンプのようなものが地下に伸びています!」
「ライト! 点けろ!」
 警官の指差した先には、たしかにポンプの管のようなものが伸びており、何かを吸い出しているような音もそこから聞こえる。警官達はその正体を暴くためにライトで照らし出す。と、そのとき、ポンプの管がすばやく穴から引き抜かれた。
「うわ、なんだこれは!?」
「へ、蛇!?」
 引き抜かれたそれが、ライトに照らし出されると、ポンプの管はウネウネと蛇のように動き出す。ライトに白く浮き上がったそれは、生き物の皮膚のような生々しい姿を見せ、暴れ出したように左右にうねると、強い勢いで警官達を弾き飛ばした!
「くそ! これはポンプじゃないのか!? この!」
 その様子に混乱した警部は、拳銃を取り出すとその管目掛けて銃弾を撃ち放つ。しかし、銃弾は管に当たる直前に、何か硬いものに阻まれるように弾かれてしまった。
「なっ、こいつキメラか!? ぐはっ!!」
 その様子に、その管のようなものがキメラの一部であると気づいた警部であったが、襲い掛かる管に弾き飛ばされてしまう。そして、意識が遠のく一瞬、警部は微かに闇に浮かぶ管の先端を見た。
「お‥‥んな‥‥の‥‥顔‥‥?」
 それは、口から液体を滴らせた、顔面に白粉を塗ったような真っ白い女の顔。そしてそれは、闇の中へと消えていくのであった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
ファリス・フレイシア(gc0517
18歳・♀・FC
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
牧野・和輝(gc4042
26歳・♂・JG

●リプレイ本文

 依頼を受けた能力者達は、現地に到着後に三班に分かれまず町の捜索を行うのだった。
「確かにジャパンの魔物は油をなめるものが多かったね〜」
 車をガソリンスタンドの近くに止め、今回のキメラについての考えを巡らすドクター・ウェスト(ga0241)は、覚えのある日本の妖怪を頭に思い浮かべてみる。
「そうなのですか。ろくろ首‥‥キメラは本当に多様ですね‥‥」
「いくら油を好むといっても、ガソリン一気飲みはやりすぎですけれど」
 同じ班のラナ・ヴェクサー(gc1748)とミリハナク(gc4008)は、その話に適当に相槌を打つ。そして、近くにマンホールを発見すると、そこを開けて下水道へと向かう。
「う、臭いですわね」
「うう、我慢ですよ我慢」
「キメラ探しって、大変なのね」
 マンホールの奥は、都会の綺麗な下水道では無いようで、独特の臭いが立ち込めていた。二人は顔を顰めるながらマンホールの奥へと入っていく。それを、ウェストは何かの機械を設置しながら見送るのだった。
「我輩は計測器を設置して観測してるので、がんばりたまえ〜」
 その後、ウェストは地殻変化計測器という機械を設置するのだが‥‥。
「おやぁ? これはどうやったらデータを観測できるのかな?」
 計測器のマニュアル見つつ首をかしげるウェスト。そして、しばらくして理解したことは。
「しまった! KVが無いとデータを見ることができないではないか! カハッ‥‥」
 実はこの機械、もともとKVで利用するための機械であり、設置は生身の人間でも可能だが、観測したデータはKVに送られる。そのため今回はKVを使用する依頼ではないため、計測器でデータを確認することはできないようだ。あまりに初歩的なミスをしてしまい、ウェストは口から魂が抜けたように崩れ落ちるのであった。

「たいした情報は得られませんでしたね」
「そう‥‥ですね。ですが‥‥この町の地理には詳しくなりましたよ」
 警察署などに聞き込みに向かったロジー・ビィ(ga1031)達だが、キメラについての真新しい情報は得られなかった。しかし、ハミル・ジャウザール(gb4773)は町や下水道などの細かい地図を得て、町の詳しい地理を知ることが出来たようだ。
「それにしても‥‥何の因果か、聞き込み対象が警官だと? 冗談にしても笑えんな」
 そんな中、元警官の牧野・和輝(gc4042)は、タバコに火をつけながら苦笑する。本来聞き込みをする側である警官に、元警官の自分が聞き込みを行うことに奇妙なものを感じているのだろうか。
「あの‥‥現場ではタバコの火に‥‥気をつけてくださいね」
「わかってるさ。だから、今のうちに吸い貯めとくの」
 ハミルの忠告に、和輝は再び苦笑を浮かべた。彼はヘビースモーカーであり、ガソリンに引火しかねない今回の依頼では、タバコを控えることにしていたのだった。

「なるほど、こんな感覚なのですね‥‥」
 初めてのバイクの感覚に戸惑いと好奇を感じながらファリス・フレイシア(gc0517)は、運転手の腰に腕を回ししがみついている。
「ろくろ首ねぇ、何を思ってこんなキメラを作ったんだろうね?」
「なにか言いました?」
「いや、なんでもー。スカートで来ちゃったけど、下はスパッツだし、大丈夫だよねって」
「!!?」
 バイクを運転している如月 芹佳(gc0928)が呟くと、ファリスは聞きかえす。芹佳は、たいしたことではなかったので別のことを返す。それに反応したのか、ファリスは自分の服装が大丈夫かちょっと気になりだしたようだ。彼女もスパッツは着用しているが、やはり気になるのだろう。
「バイクは気をつけないといけないのですね‥‥」
 その後二人は、町付近の廃屋を捜索したが特にこれといって成果は無かった。

 そして夜になり、各班はそれぞれ三ヶ所あるガソリンスタンドでキメラを待ち伏せすることにした。
「ドクターはまだ復活しないの? まったく‥‥私達は目視での警戒を行いましょう」
「そうね、早く現れてくれないかしら」
 茂みに隠れたラナとミリハナクは、計測器の観測に失敗しいまだに魂抜けた状態のウェストを放っておき、目視での周囲の警戒を行った。
「それにしても‥‥くんくん‥‥まだ臭うような気がして嫌だわ」
 そう言って、ミリハナクは自分の服の匂いを嗅いでは顔をしかめる。下水道から戻ったあと、一応シャワーと洗濯は行ったのでほとんど臭いは残ってないはずだが、どうしても気になるようだ。
 それからしばらく、すでに時間は日も変わり深夜といった頃。
「現れないわね」
「そうですね。でも、まだ夜は長いですし」
 ミリハリクとラナはガソリンスタンドの様子を伺いつつ、周囲の警戒も怠らないが何かが現れる気配は感じ取れない。そんな中、月が隠れふと闇夜が深くなったような気がした。
「んん‥‥んぅ? なんだねぇ?」
 と、ようやく復活しかけてきたウェストの肩を誰かがトントンと叩く。ウェストは寝起きのような様子で、その相手に問いかけるも返事は無い。そして再びウェストの肩が叩かれる。
「二人ともぉ、いったいなんだというのだね?」
「‥‥? ドクター、わたくし達はなにも」
「ん‥‥!?」
 仲間に肩を叩かれたものと思ったウェストだが、ラナの返事に嫌な予感を感じ、慌てて振り返る。と、そこには‥‥。
「‥‥‥」
 闇夜に白く映る女の顔。女はお歯黒をつけたような真っ黒い口をニターと開いて、ウェストに笑いかけるのだった。

「いまのところ反応はありませんわね」
 ロジー達の班は、他の班と同じようにガソリンスタンドの近くに身を潜め、キメラが現れるのを待っていた。
「ちっ、早く現れてくれないもんかな。さっさと終わらせたいんだけどな」
「そう‥‥ですね。でも焦りは‥‥禁物です」
「ああ、わかってるよ」
 和輝はタバコが吸えない状況に、少し手持ち無沙汰のように利き手を動かしている。そして、ハミルが声をかけると苦笑を浮かべて拳を握り締めた。だがそんな和輝の期待とは裏腹に、数時間の間、彼らのいる場所で異変が起きることは無かった。ジリジリと時間が過ぎ、他班の様子が気になりだした頃。無線機から通信が届いた。
『こちら如月! ただいまキメラを発見し、交戦中! 至急応援を求む!』
「きましたね‥‥。まず僕が‥‥向かいますので、お二人はここを‥‥お願いします!」
 届いたのは芹佳の救援要請。どうやら、彼女達の見張っていたガソリンスタンドにキメラが現れたようだ。早速、事前の打ち合わせ通りにハミルが先行して向かうことにする。ロジーと和輝は、時間差でこちらが襲われないか用心したあとに向かう手はずだ。ハミルは覚醒し、その背に漆黒の翼を現すと急いで芹佳達のもとへ向かった。と、そのすぐ後。
『こちらヴェクサー、現在キメラと交戦中!』
「あら、あちらにも現れたようですね」
「そうだな。さて、どうするか‥‥」
 ラナからのキメラ発見の通信に、ロジーと和輝は少し困ったように眉をひそめるのであった。

「こちら如月! ただいまキメラを発見し、交戦中! 至急応援を求む!」
 芹佳は無線で仲間にそう伝えると、扇を構え敵を睨みつける。その赤い瞳の先には、真っ白い女の顔と長く伸びた首、まさしく妖怪ろくろ首といった様子の化物であった。
「てい! やぁぁああ!!」
 そして、前に出てろくろ首と対峙しているのはファリス。芹佳とは対照的な青い瞳を輝かせ、自らの身長よりも遥かに長い大剣を両手で持ち、気合いと共に縦に一閃。しかし、宙に浮いた頭は、スルリと素早い動きでその攻撃を避ける。
「思いのほか、素早い!」
「援護するよ!」
 続けざまに横にも一閃、だがそれも避けられ眉を顰めるファリス。そこへ、芹佳が後方から扇を振るう。すると、ろくろ首の周囲に竜巻のような風が巻き起こり、ろくろ首の動きを阻害した。
「いまだ! はぁ!」
「っ! 待って!」
 竜巻を受けて表情を歪めるろくろ首。それを攻撃のチャンスと見たファリスが剣を上段に構え、気合いと共にそれを打ち下ろそうとした。しかし、一瞬ろくろ首が息を吸い込んだように見えると、その口から勢い良く炎を吐き出す。
「くっ! 抜かりました」
 さすがにそれは避けられず、ファリスは炎を正面から受けてしまう。だが、咄嗟に大剣を前に立てて直撃を免れたため、致命傷を受けることは無かった。
「やっぱり、火を吐いてきたね。盗んだガソリンを使ってるのかな」
「やはり、狙いはあの長い首ですね!」
 相手が火を吐いてくるであろうことは、ある程度予想はしていた。二人は慎重に相手の動きを見極めながら、ろくろ首の長い首を狙って攻撃を仕掛けることにした。だが、相手も二人を正面に捕らえて、なかなか側面へと回らせない。と、そこへ、一つの影が。
「せぁ‥‥っ!」
 影は目にも留まらぬ速さでろくろ首へと飛び掛るとそのまま素早く剣を横に振るう。加速のついたその一撃は、ろくろ首の顔を切り裂いて鮮血を飛び散らした。その影は、漆黒の羽をもったハミルであった。
「ヒィィィィィ!」
「今度こそ!」
 苦痛に悲鳴をあげるろくろ首。その隙をついて、ファリスが迅雷で側面へとつき、そのまま長い首に向かって大剣を叩き付けた。そして、一気にろくろ首の首を切断した。‥‥かにみえたが。
「頭と首が離れた!?」
 ファリスの攻撃が当たる寸前、ろくろ首の頭と首が離れ別々の意思を持つかのように動き出した。頭は高速で宙を飛びまわり、首は蛇のように地を這い鞭を振るうように周りを薙ぎ払う。
「これも予測済みです!」
「飛んでる方は任せて」
「ドクターの為にも‥‥できるだけ綺麗な形で‥‥倒したいですねッ!」
 だが、頭部と首が分離するかもしれないと予想していたファリス達は、さほど動揺することなく二体となったキメラに対応した。ファリスが首の方を相手しているうちに、芹佳の竜巻が頭部を捕らえ、ハミルの足爪が頭部を叩き落す。そのまま渾身の剣撃で頭部を破壊すると、首だけとなったキメラは一目散に逃げ出したのだった。
「追いかけましょう!」
 そしてファリス達は、夜の闇に消えそうになるキメラの姿を見失わないよう、急いでその後を追うのであった。

「こちらヴェクサー、現在キメラと交戦中!」
 無線機で仲間へと通信を行ったラナは、すぐに洋弓を構えて狙いを定める。視線の先には、ろくろ首が気色の悪い笑みを浮かべたままユラユラと動いていた。そして、そのすぐそばには、ろくろ首に吹き飛ばされたウェストの姿。
「ドクター! 大丈夫ですか!?」
「お、おお‥‥ふぅ、壊れなかったよ〜」
「あ、いえ、貴方の身体のほうなんですが‥‥」
 声をかけるラナに、ウェストは大事そうに抱きかかえた計測器を確かめて安堵のため息を返す。彼はキメラの攻撃から計測器をその身で庇って吹き飛ばされたのだ。ラナはその様子に少々呆れつつも、ろくろ首に向かって矢を放つ。正確無比な射撃はろくろ首の眉間に命中、刺さった矢の痛みに顔を歪めキメラは悲鳴を上げた。
「やっと戦えるのね。ふふふ、バラバラにしてあげる」
 そこへ、愉悦の笑みを浮かべながらミリハナクが斬りかかる。両手に持った二本一対の斧で、素早い連続攻撃を長い首に叩き込んだ。
「さぁて、我輩の研究材料になってもらうよ〜」
 そして計測器を安全な場所に移したウェストが、仲間に練成強化を行った後に、自ら剣を持って斬りかかる。
「けひゃひゃ、機械剣とはまた違った手ごたえだね〜!」
 剣から伝わる肉を斬る感触に、ウェストは新しい発見をした科学者のように嬉しそうに笑みを浮かべた。そんな、一行の猛攻に、炎を吐き出して抵抗するろくろ首。
「っ! この程度の炎、効かないわよ!」
「けひゃひゃ! なるほどなるほど、やはり火を吐いたね〜!」
 接近していたミリハナクとウェストがその炎に包まれるが、ミリハナクは肉体を活性化させ振り払い、ウェストにいたっては嬉しそうに笑い声をあげる。
「援護するわ! 一気に仕留めて!」
 そこへ、ラナが援護射撃を行う。ラナの放った矢に翻弄され、ろくろ首に大きな隙が出来た。そして、ミリハナクとウェストがキメラの頭部を破壊する。
「おっと、やりすぎてしまったかな〜? まだ力加減がよくわからないね〜」
「あ、首だけ逃げるわよ!」
 研究対象としてキメラを持ち帰りたいウェストは、破壊された頭部の様子に困ったように眉を顰めた。しかしその一瞬、頭部が首から切り離され、首だけが闇の中へと逃げてしまう。
「なるほど、頭部と胴体は別のキメラなのかな? 興味深いね〜」
「とにかく追いかけましょう!」
 そして一同は、逃げる首を追いかけ街を疾走するのだった。

「こいつは‥‥大当たりってところか」
「ええ‥‥」
 仲間の救援へと向かっていた和輝とロジーはその途中、触覚のように二本の首を生やしたブヨブヨの肉の固まりを発見した。どうやら、これがろくろ首の胴体のようで、二人はすぐさま武器を構える。
「どうする、やるか?」
「‥‥‥」
 和輝の問いにロジーは無言で頷く。そして二人はキメラへと攻撃を開始した。まず先手で和輝の放った矢が肉の固まりに突き刺さる。すぐさまロジーが相手に接近し、二刀の小太刀で舞うが如くに連続攻撃を仕掛けた。しかし、それらの攻撃を受けても胴体は反撃をしてくる様子はない。
「これってもしかして‥‥」
「そのもしかしてでしょうか」
 その様子に、二人は気づく。どうやら、胴体の方は首を伸ばしているときは攻撃をできないようだ。ここぞとばかりに攻撃を畳み掛ける二人。肉の固まりはそれをまともに受けて鮮血を飛び散らせる。と、そこで二人はもう一つのことに気づく。
「‥‥この臭い」
「間違いないな‥‥ガソリンだ」
 そう、鮮血と思われたものは、実はガソリンだった。ガソリンはすぐに気化し、その独特の臭いが鼻を突く。そこへ、頭部を破壊された二本の首が逃げ帰ってきた。首は何故か、切断された先端を和輝達の方へと向けている。
「なんか嫌な予感がしないか」
「そう‥‥ですわね」
 そのことに、嫌な予感を感じる二人。そして咄嗟にその場から一斉に飛び退く。と、同時に首の先端から炎が噴出した!
「っ!!」
 その瞬間、気化したガソリンに引火。大きな音と共に、辺り一帯が爆発に巻き込まれる。和輝とロジーも爆風に吹き飛ばされ、近くの建物に叩きつけられた。
「っぅう、結局自爆かよ」
「二人とも大丈夫ですか!?」
「はい‥‥それよりキメラは‥‥」
 首を追いかけてきていたファリス達が和輝とロジーを助け起こす。そして‥‥。
「ああ! 我輩の研究対象が〜!」
「見事に燃えてますね」
 体内に蓄えたガソリンにも引火しているのであろう、勢い良く燃えるキメラの様子に、ウェストは落胆の声をあげる。そして、運良く周囲は空き地のような場所であり、周りに火が映ることは無かったようで、一行は無事に依頼を完了できたのだった。