●リプレイ本文
「以上が今任務の内容である。質問があるものはいるか?」
任務を受けUPC作戦室へ集められたUPC傭兵部隊『S.T.O.R.M. Hawks』の面々は、指揮官であるアンナ中尉に任務内容の説明を受けていた。
「アンナ‥‥じゃなくて中尉、ちょっといい? 最大で二日間とは言え、ベースキャンプ、というか野営地は設置したいところだけど」
「それはすでに想定してある。この地点にベースキャンプを置き、捜索の中心とする」
エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)の質問に、アンナは頷いて地図の一地点を指して答える。
「あと、カウフマン博士。発見後『強制的に保護』って事は、基本的にバグア側の人間って理解でいい? 資料見た感じだと状況証拠的にそんな感じだし」
「その点については、まだ調査が必要な段階だ。だが、その可能性もあるためくれぐれも注意してほしい」
「それにしてもマサキって人。放っておいていいの? 植物キメラに捕まって、野垂れ死にとかされたら寝覚めが悪いんだけど」
「‥‥彼の単独行動については、私も部隊のチームワークを乱すと危惧しているのだが‥‥」
質問に明確に答えるアンナだが、一人勝手な行動を取るマサキについての質問に及ぶと、苦々しげな表情を浮かべ困ったように首を横に振った。
「嵐の鷹とマサキさんは何か繋がりが?」
それに対し、セレスタ・レネンティア(
gb1731)が当然の疑問を口にした。これまでの活動を見ても、嵐の鷹とマサキは直接に関わりはなかったように思える。
「彼は、我が部隊を管理するミハエル少佐の協力者‥‥という位置づけになると思う。そして、今回少佐の要請により、彼が正式に我が部隊へ入隊することが決まったのだが‥‥私が答えられることはこれだけだ、ともかく今回彼については保留としておくことにする。作戦中接触があれば、そのときに対処しよう」
実際のところ、マサキについてはアンナもわからないことが多く、明確な答えを出すことができない。結局のところ、イレギュラー的な扱いとするしかないようだ。
「‥‥彼は以前から全く進歩してませんね」
それらの話を聞き、以前にマサキと関わりを持ったことのある佐伽羅 黎紀(
ga8601)が小さく呟きため息をついた。
「では、準備が整い次第、作戦地域へと向かうことにする!」
そして一通りの作戦説明が終了し、一行は南米ジャングルへと向かって出発するのであった。
「これより、部隊を四つに分け捜索に入る。情報では植物キメラが配置されているとのことなので、キメラへの対策も怠らないこと。私はA班と共に捜索を行う。くれぐれも無線の範囲から離れないように注意しろ」
南米に到着した一行は、ジャングルの奥地へと入り、目撃情報にあった地域へと向かう。その後、予定地点にベースキャンプを設置した一行は、アンナの指揮の下、部隊を四つに分けカウフマンの捜索を行うのだった。
「あ、あの、挨拶が遅れたけれど、アンナ中尉、ボクは姓が変わったけどよろしくお願いします」
「ああ、話は聞いている。結婚、本当におめでとう。今回も頼りにしている、早く任務を終わらせて、その相手の男性も紹介してもらいたいものだ」
「うん!」
各班に分かれ捜索を開始する一行。A班となった瑞姫・イェーガー(
ga9347)が、共に行動しているアンナに自身の結婚の報告を行うと、アンナは柔らかく笑みを浮かべてそれを祝福した。
「レネンティアも期待している、よろしく頼むぞ」
「はい、蒸暑い所です‥‥早々に終わらせましょう」
同じくA班のセレスタにも声をかけるアンナに、セレスタは冷静な口調で頷き返すのであった。
「こんなジャングルの中から人一人、か。砂漠でダイヤモンド拾い上げるのとどっちが簡単かって話だね。これは」
「しかたありませんよ。それに、一応範囲は限定されています。俺達は、俺達ができることをしましょう」
B班となった新条 拓那(
ga1294)とアリステア・ラムゼイ(
gb6304)は、鬱蒼と生い茂る熱帯雨林の中、慎重な足取りで捜索を行っていた。拓那が先行して足跡など何者かの痕跡を調査し、アリステアがAU−KVを身に纏い邪魔な木々を排除しながら道を作る。
「にしても‥‥それ、こんな場所でも楽でいいよな」
「え‥‥そ、そんなことありませんよ。空調は換気程度ですし。あー、暑いなぁ、むしむししてサウナみたいだなー」
ふと、拓那がアリステアのAU−KVを羨ましそうに見つめる。その視線にいささか居心地の悪さを感じたアリステアは、そう言って意味も無くAU−KVの手で顔を扇ぐのであった。
「それでは、皆さん。幸運を」
C班となったトリストラム(
gb0815)とレイヴァー(
gb0805)の二人は、他班と同じくジャングルの中を探索していた。彼らの担当地域は、特に草木の密集が激しいようで、見通しも悪く歩行も困難だった。トリストラムはスキル『GooDLuck』を使い、捜索の成功を祈願する。
「トリス、そこ足元気をつけろ。少しぬかるんでいる」
「ええ、アル。わかっています」
邪魔な草木を短剣で切り払いながら、レイヴァーがトリストラムに注意を促す。それに対し、トリストラムはニコリと笑みを浮かべて頷いた。二人は、義兄弟という関係であり、お互いを愛称で呼んでいるようだ。
「ふむ、あの植物‥‥怪しいですね?」
「これで調べてみる」
途中、何度か怪しげな場所を見つけた二人。そのつど、レイヴァーが苦無を投げつけ、安全を確かめながら先へと進む。その過程で、何本かの苦無が失われてしまったようだ。
「‥‥ネルと一緒の方が良かったんじゃないか?」
「なぜ、そのようなことを?」
「いや」
ふと呟いたレイヴァーの言葉に、トリストラムはとぼけるようにそう返す。どうやら、ネルとはエリアノーラのことらしい。
「任務に私情は持ち込みませんよ」
「そうか」
そう答えるトリストラムに、レイヴァーは親しいものに対してだけ見せるぶっきらぼうな様子で頷き返すのだった。
「黎紀は、マサキって人のこと知っているの?」
「以前、彼がバグアから逃亡していた際に関わったことがあります」
D班となった、エリアノーラと黎紀。エリアノーラは少し気になったことを黎紀に聞いてみた。
「それで、どんな人なの?」
「言うならばわがまま子供‥‥ですね。周囲の言うことを聞かず、自分一人でなんでもできると思い込んでいる子供。放っておくと何をしでかすかわからない危うさがありますね」
「なるほど‥‥」
丁寧でおっとりな口調のわりに辛らつな黎紀の物言いに、エリアノーラは苦笑しつつも納得したように頷く。
「じゃ、早く追いついたほうがいいわね」
「そうですね、場合によっては力づくでも」
そしてマサキのものであろう痕跡を追う二人は、ジャングルの奥へと進んでいくのだった。
それから数時間の探索を行ったD班に、なにやら話し声のようなものが聞こえてきた。
「見つけたぞ! カウフマン!」
「それは、こちらのセリフですよ。待っていましたよマサキ」
「なに‥‥!?」
急いで声のする方へと向かった黎紀達は、森が開けた場所にいる二つの人影を見つける。一人はマサキ、そしてもう一人は長身の黒人男性、事前の資料で見たカウフマン博士だった。
「どうします?」
「すぐに仲間に連絡を」
物陰に隠れ二人の様子を伺いながら、エリアノーラが無線で他の班へと連絡をする。そして、その間に彼らの話を盗み聞くことにした。
「カウフマン、あの男とデューイはどこにいる?」
「まずは家族の心配ですか? 相変わらず君は優しいね」
「違う! 俺はヤツラをこの手で倒すために‥‥」
「マサキ、僕は君に戻ってきて欲しいと思っているんですよ。そうすれば家族とも会えますし、僕も君と昔のように仲良くしたい」
「戻る? いったいどこに?」
「バグアに」
「っ!! やはりお前もバグアの手先に成り果てたかカウフマン!」
「手先とは心外です。バグアの活動は、僕の理想とする世界への近道だとわかったのです。バグアこそが地球を緑溢れる星に再生するために必要なのですよ」
「カウフマン‥‥あんたは植物と人間の共存を望んでいたんじゃないのか」
「人間にはすでに愛想が尽きました。彼らは地球を食いつぶす癌でしかない」
「そうか‥‥あの時俺を助けてくれたカウフマンはもう居ないんだな。ならば、お前も俺が倒す!」
「残念だけれど、君は無理だよマサキ」
マサキは語る言葉も尽きたと、カウフマンに向かって拳を握り締めた。それに対し、カウフマンは意に介した様子も無く、マサキに笑みを向ける。
「まずいですね‥‥」
「トリス、アル、二人とも早く来なさい‥‥」
そして、様子を伺っていた黎紀とエリアノーラは、一瞬即発の状況に焦りの呟きを漏らすのであった。
一方その頃、通信を受けカウフマンのもとへ向かっていたA班、B班の面々は。
「俺たちは虫じゃないからね。栄養分にしようったって、そう簡単にやらせるもんかぁ!」
「足止めというわけですか! だけど、この程度で俺は止められない!」
向かう途中で植物キメラに襲われた拓那とアリステア。突然、植物の蔓のようなものが伸びてきたと思うと、まるで触手のように二人を絡め取ろうと襲い掛かってきた。そして、その蔓の先には巨大なウツボカズラのような巨大植物が待ち構えており、捕らえた二人を強力な酸で溶かそうとする。
「こいつぁ、きりが無いね!」
襲い掛かる蔓を幾度と無く大剣で切り払うも、すぐに再生してしまう。本体へと直接攻撃しようにも、蔓が網のように張り巡らされ容易には近づけない。たまたま射撃武器を携帯してこなかった二人は、窮地に陥っていた。
「二人とも大丈夫か!」
「こんのぉ! ぶったぎれろぉ!」
「カバーします‥‥」
そこへ、アンナの声と共に、A班が現れた。瑞姫の振るった大鎌から衝撃波が発せられ、周辺の蔓ごと本体を切り裂く。そして、セレスタのスナイパーライフルの弾丸がウツボカズラに穴を開け、消化液が漏れ出した。
「サンキュー、たすかったぜ!」
「これで終わりです!」
二人の援護により、本体への道が開かれた。拓那とアリステアは、俊足をもって一気に間合いを詰めると、両手で持った大剣でウツボカズラを切り裂く。さすがにこれには植物キメラといえど耐えられるはずも無く、バラバラとなって地に落ちるのであった。
「思ったより植物が頑強ですね‥‥」
植物キメラの再生能力に、セレスタが冷静に分析を行う。どうやら、瞬間的に致命的ダメージを与える必要があるらしい。
「ともかく、カウフマン博士の確保に向かうぞ」
その後すぐ戦いの興奮冷めやらぬうちに、アンナの指示に従い、一行は急いでカウフマンのもとへと急ぐのであった。
「大丈夫ですかネル」
「ようやく来たわね」
連絡を受け駆けつけたトリストラムがエリアノーラに声をかける。そしてC班と合流したD班は、カウフマン確保のために動き出す。そこへ‥‥。
「そろそろ出てきてもいいのではないですか?」
「!!」
マサキと向かい合っていたと思われたカウフマンが、エリアノーラ達の潜んでいた茂みに視線を向けた。どうやら、すでに彼女達のことはバレていたようだ。
「しかたないわね‥‥ダン・カウフマン博士、我々はUPCの者です。貴方を保護しに来ました」
「これは、俺の獲物だ! お前達は手を出すな!」
「保護? いったい、僕を何から保護してくれるというのかな」
エリアノーラは、仲間に目配せをすると、カウフマンの前に姿を現した。友好的な態度で保護を申し出るエリアノーラ、それに対しカウフマンは笑みを絶やさずに問い返す。
「もちろんバグアからです」
「その必要は無いと言ったら?」
「力づくにでも保護させていただきます」
「なるほど、それは恐ろしい」
だが、これまでの言動でエリアノーラにもカウフマンがすでにバグア側であることはわかっている。これはあくまで陽動。隙を見て、仲間と共に捕獲を試みるつもりだ。しかし‥‥。
「おっと、その辺りは注意したほうがいいと思うよ?」
「!?」
突然カウフマンがトリストラムの潜む茂みを指差した。と同時に、草木に紛れていた植物キメラが姿を現す。それは巨大ハエトリ草のようなキメラで、ワニの口のように開いた葉が獲物を捕らえようと勢い良く閉じる。とっさに回避するトリストラムだが、一歩遅く足を挟まれてしまった。
「く、自分には構わず彼を」
「カウフマン博士!」
すでに包囲がバレていることを察したエリアノーラは、すでにピンの抜かれた閃光手榴弾を、合図と共に投げつける。まばゆい光が周囲を包み込み、全員の視界を阻害する。
「呼んだかい?」
「なっ!」
だが、カウフマンはそれを予期していたのか、瞬時にエリアノーラの正面、つまり投げられた手榴弾を背にする形で移動していた。すぐさま、本気で拳を繰り出すエリアノーラだが、それをいとも簡単に受け流し、逆にエリアノーラの腹部を強打し悶絶させる。
「ネル!」
レイヴァーが牽制に苦無を投げつけるが、カウフマンはそれをあっさりと受け止め、逆に投げ返した。
「やめろカウフマン!」
「今日のところはこれで失礼するよ。マサキ、僕は君が戻ってきてくれることを本当に願っている」
「待て!!」
そこへ、マサキが間合いをつめて剣で切りかかる。だがそれも、カウフマンは隠し持っていた短剣のようなもので受け止め、マサキに笑顔で声をかけると人間のものとは思えない跳躍でその場を脱出する。
「逃がすか!」
「落ち着きなさい。貴方の望みは? 以前した事で学んだ事は? 足りないものは? 残すものは? 何ですか? 貴方の行動、シェリルさんに話して叱られない自信あります?」
「っ!!!」
すぐさま追いかけようとするマサキ。しかしそれを、黎紀が引き止める。それに身近な者の名前を出され、一瞬動きを止めるマサキ。
「まずはこの状況を打開することが先決です」
黎紀がそう言うと、すでに周囲は植物キメラに囲まれていることに気付く。
「植物キメラというのは強くは無いものの、実に厄介ですね」
「もうすこしジッとしてて」
なんとか自力で脱出したトリストラムだが、どうやら足をやられたらしい。それをエリアノーラが治療する。
「粘着液、消化液の類には注意ですね。根元から完全に断ちます!」
そしてレイヴァー達は襲い来る蔓を切り裂きながら、周囲の植物キメラとの戦闘を開始した。その後、アンナ達が援軍に到着し無事にその場を切り抜けることに成功する。しかし、結局カウフマンには逃げられしまった一行は一度報告のために帰還した。そして今回の件で、カウフマン博士は完全にバグア側になったことがわかり、今後は相応の対応を取ることになるのだった。