●リプレイ本文
「酷いなこれは。軍はいったい何をしてるんだ」
キメラ出現の連絡を受け討伐に出たUPC傭兵部隊『S.T.O.R.M. Hawks』のメンバー達。A地区へと向かったマサキは、パニックになって逃げ惑う人々達の様子に、顔をしかめた。
「軍の人達も、市民の避難誘導をがんばってるよ。それに僕達も軍の人間だってことを忘れちゃだめだよ!」
そんなマサキに同行した瑞姫・イェーガー(
ga9347)が軽く諌めるように声を掛ける。
「‥‥ああ、わかってるさ。それで、俺達はどうする。あいつらの手助けをするわけではないだろう?」
その言葉にしぶしぶと頷くマサキ。そして、同行した仲間に今後の方針を聞いてみせるが、聞く者には彼があくまで自分の判断で動こうとしているのが口調から読み取れる。
「中尉や佐伽羅さんから言われてるでしょ、勝手な行動はダメだからね!」
「はいはい、わかってる。お前らこそ、俺の足手まといにはなら‥‥」
「いやー! 助けてぇ!!」
人差し指を立ててマサキを注意する瑞姫。それに、軽く受け答えするマサキだが、突然離れた場所から悲鳴が聞こえた!
「ひめいだ! たすけなきゃ!!」
「って、あんたが勝手に突っ込むのかよ!」
その悲鳴を聞いた瑞姫が一目散に駆け出す。その様子に、呆れつつもすぐさま追いかけるマサキであった。
「な、なんだこれは‥‥?」
B地区へと向かったシクル・ハーツ(
gc1986)達は、その光景に目を疑った。キメラが現れたと報告のあった町にたどりついたシクル達であったが、町に被害がある様子は無く平穏そのもの。ただし、一部で大勢の人だかりができていた。
「あ、あの! ULTの傭兵で‥‥じゃなくてUPC軍の者ですが! 避難は既に完了していますか?」
「ムーグ、あなた背が高いし、彼らが何を見ているのかわからないか?」
「これハ‥‥アル意味‥‥異常‥‥デス、ネ‥‥」
人だかりに声をかけるクラリア・レスタント(
gb4258)だが、人だかりは何かに夢中なようで声に気づかない様子。人々はワイワイと楽しそうに何かを見ているようだが、女性のシクルとクラリアではそれを見ることができない。そこで一番背の高いムーグ・リード(
gc0402)が人だかりの奥を覗き込んだが、その光景に首をかしげるのだった。
「何が見えたのですか?」
「花ガ‥‥踊ッテマス‥‥」
クラリアの問いに答えるムーグ。ムーグの話を要約すると、小さく愛らしい花達が、音楽に合わせて踊っており、住民達はそれを見て楽しんでいるようだ。
「住民に被害は無いんだな、それは良かったが‥‥この状況どうする?」
「どうしましょうね‥‥」
「‥‥まズ、ハ、殲滅、ヲ」
「まってまって、まずはこの住民をなんとかしないと!」
「あくまでキメラですからね。住民の皆さんには退避してもらいませんと」
さっそく銃を取り出すムーグに、シクルが慌ててそれを止める。被害が無いどころか、住民が楽しんでいるところで、強制的にキメラを排除すれば住民の心象が悪くなる。3人はまず、付近の住民にキメラの危険性を説いて避難してもらうことから始めるのであった。
「いや〜、こんな荒野にいったい何があると言うんでしょうね?」
「油断は禁物ですよ」
C地区へと向かった、御闇(
gc0840)、佐伽羅 黎紀(
ga8601)は眼前に広がる荒野の様子を眺めていた。そこは草木がほとんど生えない岩だらけの荒野で、こんなところに植物キメラがいるようには見えない。
「もし何かがいたとしても、すぐにわかりそうなものですよねぇ?」
「何かに擬態しているのかもしれませんよ? 注意は怠らずに」
黎紀が車を運転し、御闇が双眼鏡で周囲を見回しているのだが、まだこれといって怪しいものは見つからない。それから数時間‥‥。
「‥‥‥?」
ふと御闇は何かが気になったように眉を潜めた。それは、何の変哲もないサボテン。この荒野では数少ない植物で、一応注意深く見ていたのだが。
「佐伽羅さん、ちょっと止まってください」
車を止めてサボテンに近づき見つめる御闇、とくに怪しいところは無いようではあるが。
「ふむ‥‥気のせいだったのでしょうか。一瞬動いたような気がしたんですけどね?」
「御闇さん、後ろ後ろ!」
石を投げつけたりとしばらく観察していた御闇だが、諦めてサボテンから目を離す。だがその瞬間、突然サボテンが動き出した!
「!?」
サボテンは一目散に、二人から逃げるように二足歩行で走り出す。その様子は、まさに爆走。砂煙を立ち上げながら、荒野を猛ダッシュして二人の視界から一気に離れていく。
「は、早いですねぇ‥‥」
「御闇さん、早く乗って! ‥‥しっかり掴まってなさい!」
あまりの速さに、呆然となる御闇。そして黎紀は急いで車のアクセルを踏み込み、逃げるサボテンを追いかける。そして、二人とサボテンキメラの追いかけっこが始まるのだった。
「うぉ、ついたらいきなり大惨事!?」
D地区へと向かった新条 拓那(
ga1294)達がまず目にしたのは、一面に炎が広がっている小麦畑であった。燃え盛る畑の奥に3メートルを超える巨大なチューリップの花のような植物キメラの姿が。キメラはその花弁から火球を吐き出し、周囲の畑を焼き払っている。
「炎を吐く花‥‥なんて醜悪な」
水無月 神楽(
gb4304)はそのキメラの姿に美しい顔立ちを曇らせる。一時支給された軍服を身にまとった神楽は凛々しい男性軍人にも見えるが、彼女はれっきとした女性である。
「食い物を荒らすキメラたぁ向こうも良い度胸してやがるぜ」
「そっちだって花なのに火が吐けるとかさ! キメラってのはわかってるけど、それにしたってずるっこいよなぁ!」
怒りと気合を入れるためにバシッと手のひらに拳を叩きつける魔神・瑛(
ga8407)。拓那も、あまりの現状とキメラの異様さについつい悪態をついてしまう。
「とにかく、早くアレをなんとかしましょう」
「よし、俺達で敵の気を引く。嬢ちゃんはその隙に背後から斬りかかれ」
「気を引くのは得意だぜ! 女の子の気を引くのは‥‥」
「打たれ弱さは否定できませんからね。その方針に従います」
「食い物の恨みは怖いってこと思い知らせてやる」
そして簡単な打ち合わせの後、一行は炎を吐き出す植物キメラへと向かって駆け出すのであった。
「いやー! 助けてぇ!! 子供が‥‥子供が!!」
立ち上がる甲高い女性の声、植物の蔓のようなものに捕まり抱きかかえていた赤子を奪われてしまった女性の悲鳴だ。しかし周囲は同じように恐怖でパニックになった人々の怒号が響き渡り、彼女の助けを聞き届けるものはいない。そうする間にも、赤子は2メートルを超える巨大なウツボカズラのようなキメラの口に運ばれ、ついには強力な消化液の満ちた壷口へと放り落とされる。
「い、いやぁぁ!!」
「っ!」
悲痛な女性の悲鳴。しかしそこへ、一陣の風のように黒い影が通り過ぎた。するとウツボカズラは何かに切り刻まれたかのように、バラバラに引き裂かれ地面に落ちる。そして、地上へと降り立った人影の腕には、泣きじゃくる赤子が抱きかかえられていた。
「お、おい、泣くな。もう大丈夫だから、ほら‥‥」
その人影、マサキ・ジョーンズは泣きじゃくる赤子をどうあやしたらいいのかわからず、困ったように腕を揺り動かす。
「マサキ、はやすぎるよ〜。でも赤ちゃんが助かってよかった」
「それよりあんた、母親になるんだろう? この子供なんとかしてくれ」
「母!? そんなのまだ早すぎるから! あ、うう‥‥ほら、お母さんに返してあげなきゃ!」
マサキに追い抜かれた瑞姫に、赤子を押し付けようとするマサキ。瑞姫はその言葉に戸惑いながら、放心している子供の母親に赤子を返そうとする。
「ああ! ジェニー!! あ、ありがとうございます! 軍の方ですよね?」
「うん、ここは危険ですから、係りの者に従って避難してください」
「は、はい! ありがとうございます!」
赤子を受け取った母親は、お礼を言って瑞姫の指差す方角へと避難していった。
「よし、さっさとこいつらを片付けるぞ!」
「おー! でもチームプレイを忘れないように!」
そして女性を見送ったマサキ達は、近辺で暴れている植物キメラへの攻撃を開始するのだった。
「ようやく落ち着きましたね」
B地区のクラリア達は、地元警察の協力を得てなんとか住民達を避難させることができた。しかし、まだ人々は遠巻きに事の成り行きを見ているようで、一部住民には植物キメラを駆除することを残念がる声も聞こえる。
「ちょ、ちょっとやり難いな‥‥」
「シカシ‥‥キメラハ駆除シナケレバ、ナラナイ」
そんな住民の視線が気になるシクルだが、ムーグは意に介した様子もなく銃を構えた。いまだ、小さく愛らしい花々が踊り続けているが、見た目は可愛らしくてもこれはあくまでキメラなのだ。
「あら? 踊りが止まりましたよ?」
一行が武器を構え駆除を開始しようとしたその矢先、突然花々の動きが止まる。自分達が刈り取られることに気づいたのかといぶかしんだ一行だが。
「っ!?」
「地面が!」
突然、彼らの足元が揺れたかと思うと、花の真下から地面が盛り上がり土を吹き上げながら巨大な球根の姿が現れる!
「なるほど、あの花は擬態でしたか」
「そんなこと言ってる場合じゃない! くるぞ!」
突然のことに、成り行きを見ていた住民達はパニックになって逃げ出し始め。感心したように頷くクラリアだが、球根の根が襲い掛かってくる様子にシクルは慌てて反撃に出る。
「だがむしろ、抵抗してくれたほうが私にはやりやすい‥‥か? まずはその蔓から斬らせてもらう!」
「自然の、命の象徴をキメラにした罪は大きい! 絶対に、絶対に赦さない!」
「‥‥狙い、ハ、ココ、デ‥‥イイ、デス、カ‥‥」
襲い掛かる巨大球根に、一行は全力で攻撃を仕掛けた。そして、激闘の末に無事にキメラを退治することに成功するのであった。
「見つかるや否や逃げ出すとは‥‥おっと!」
「舌を噛まないよう注意してください」
爆走サボテンとのカーチェイスを続ける御闇達。猛スピードで走る車の中は、さながら嵐の中の小船で、揺れる衝撃に舌を噛みかねない。サボテンは、彼らの前方を依然爆走しており、それを追い続けるのはなかなか至難であった。
「こう揺れていては弓を使うのも難しいですか‥‥」
トラックから身体を乗り出し弓を構える御闇ではあるが、狙いを定めるのも難しい。仕方ないので、おとなしく銃での攻撃を行うことにする。と、そこへ。
「っ!? これは、針?」
「毒があったら、危険でしたね」
「サラッと恐ろしいことを言いますね」
サボテンから何かが射出されたかと思うと、意表をつかれた御闇の手に刺さった。それを慌てて抜くと、どうやらそれは針のようなサボテンのトゲであった。黎紀の一言に一筋の冷たい汗を流す御闇。
「ペイント弾も効き目はありませんか」
黎紀が視界を遮るために放ったペイント弾が数発命中していたが、とくに効果があるようには見えない。そもそも、人のように走ってはいるが、目も鼻もないのでどうやって周りを感知しているのかもわからない。そして、このカーチェイスはお互いに撃ったり撃たれたりしながら、それから数時間続くのであった。
「‥‥よ、ようやく止まりましたか。お、おえ‥‥」
車を降りた御闇の足元には足部分を破壊され走れなくなったサボテン。さすがに、長時間激しく揺らされ続けて、乗り物に耐性があっても酔いそうになっている様子。
「ともあれ、これは興味深い素材なので、調査を‥‥」
「待ちなさい。それ以上近づいてはダメ‥‥」
サボテンに触れようとする御闇を、黎紀が引き止める。その直後、サボテンは自爆しその身体を爆散させるのであった。
「‥‥また自爆ですか。バグアも能がない」
その様子に御闇は残念そうに呟くのだった。
「こんな炎、心頭滅却‥‥したってあっついモノはあっついよ!」
「ちっ、こりゃあんまり悠長に戦ってられないな」
植物キメラの気をひくために正面から突っ込んだ拓那と瑛。しかし、周囲は燃え盛る炎に囲まれ、チリチリと肌を焼く感覚に表情が曇る。
「悪いけどまだ火葬されるような気分ではないんでね!」
「弱点はどこだ、あの花弁か?」
拓那は両手剣で襲い掛かる蔓を切り払うが、それらはすぐに再生してしまう。瑛は、銃で高い位置にある花弁を狙うが、これもまた大きな効果は得られないようだ。そうするうちに、二人の方へと花弁が向いたと思うと、そこから火炎弾が吐き出された。
「あちっ! まだか? あんまり長くは持たないんだけど!」
「耐えるしかないだろう。大丈夫、嬢ちゃんを信じろ」
慌てて剣を盾にして火炎を防ぐ拓那。しかし、周囲の炎とキメラの攻撃に、あまり長くは余裕が持たないように感じられた。それでも二人は、時に避け時に反撃し、チャンスを待つ。そして、キメラが再び炎を吐き出す直前。
「今だ、嬢ちゃん!」
「はぁ!」
瑛が掛け声と共に、剣による衝撃波を花弁に向かって放つ。と同時に、キメラの裏側へと回っていた神楽が飛び出し、持ち手から双方に刃を持つ特殊な剣ツインブレイドを回転させ強力な斬撃を花弁と茎の付け根に繰り出した!
「まだか!?」
「これで‥‥どうだ!」
その攻撃に花弁が切り離され地面に落ちるが、まだ動き続ける茎部分。そこへ、今度は拓那が根と茎を切り離すように、大剣を薙ぎ払う。渾身の一撃が、茎を切り落とし。ついに植物キメラはその動きを止めるのであった。
「ナントカと天才は紙一重っていうけどさ。あのハカセも何を考えてこんなケッタイなキメラばっかり作るかなぁ」
「悪人の考えなんて理解するのが難しいぜ。それより、俺達も消火活動を手伝おう」
「しかしこう燃え上がっては‥‥周囲の作物を切って延焼を止めるしかないですね。しょうがない措置とはいえ、残念です」
「そうだな、農家のおっちゃんおばちゃん達、スマン!」
キメラ討伐後、三人は延焼を止めるために周囲の作物を切って消火活動を行った。そのおかげで、最低限の被害で避けることができたのであった。
「これで終わりか。ちっ、結局ヤツは現れなかったな」
キメラ全てを駆逐したマサキ達であったが、カウフマンを見つけられなかったことにマサキは不満を漏らした。
「むぅ、結局十字撃を使うチャンスがなかったよ。ずるいよ、マサキ!」
「いや、そんなことを言われてもな‥‥」
瑞姫は瑞姫で、囮作戦を使うことができず、子供のように頬を膨らませてマサキに不満を言う。マサキは、困ったように言うも少し険が取れた様子だ。どうやら、子供(?)相手だと態度が軟化するようだ。
『こちらアンナだ。全地区作戦が完了した、すぐに帰還するように』
その後、アンナの連絡を受けたマサキ達は基地へと無事帰還するのであった。