●リプレイ本文
「ここか」
人間の勢力地域から、バグアとの競合地域へと車でしばらく移動して、九条・命(
ga0148)達はキメラの巣くうという街へと辿りつく。途中、キメラなどに襲われることもなく、ここまでの道のりはこれといったことも起きなかった。
「静かですね。見たところさほど被害を受けた様子もないですが、やはりここは廃墟なのでしょう」
一見すれば、普通のビル街。バグアが来るまでは、多くの人間がここで働いていたのだろう。しかしいまは人一人居らず、埃舞うその光景は、寂しさを醸し出していた。そして、もう少し良く見れば、ガラスの割れたビル、所々崩れて瓦礫となった建物など、寂れた廃墟の様子が見て取れる。鳴神 伊織(
ga0421)は、街の様子を見回すと、物悲しそうに呟く。その面持ちは、和風な姿と相俟って、一層寂しい雰囲気が出ていた。
「最近では、多くの場所がこんな所ばかりだ。中世の城やピラミッドのような廃墟なら趣きもありそうなものなのだがな」
「ともかく、キメラの居場所をまず確認しましょう。ハンティングは、相手の生息を知ることが重要ですからね」
旅行好きの藤田あやこ(
ga0204)がビル街の様子を見てため息をついた。キーラン・ジェラルディ(
ga0477)は、依頼主から預かった地図で、ボムパインと遭遇した場所を確認し、ビルの廃墟を先導していくのだった。
「いました、キメラです」
双眼鏡を覗くアルヴァイム(
ga5051)は、ビルの窓の隙間から黒く蠢く物体を確認すると、仲間達に報告した。
「ゴムパインか?」
「いえ、キメララットのようですね。ゴムパインの姿は、まだ確認できていません」
自分も双眼鏡で建物内部を覗き込んだ命だが、たしかに異常に大きなネズミの姿を確認できるが、目標である手榴弾の形をしたキメラは発見できない。
「どうしましょうか、報告にあったビルはここで間違いないはずですが」
「そうだな、ここでもたついても仕方が無い。アルヴァイムは引き続き監視、俺達はバリケードを作る準備を始めようと思うが、どうか?」
「‥‥かまわない」
「はい、力仕事は自信がありますです」
命が仲間に意見を求めると、真田 一(
ga0039)と稲葉 徹二(
ga0163)がそれに答え、他の仲間も同意するように頷く。
「では、バリケードに必要な資財を集めるぞ」
「まったく、物資の調達は自己負担の現地調達とは聞いて呆れる。実に非論理的だ。キメラ掃討の経済効果はビールに換算して‥‥」
命の指示に、あやこが不満そうにブツブツと呟く。それと同時に、なにやら公式のようなものを近くのビルの壁に書き始める。どうやら、バリケードに必要な資材の量を計算しているようだ。もちろん、計算通りのものが用意できるはずもないので、他の仲間はあまり気にせずに資材集めに出てしまうのだが。
「よし、バリケードを作るぞ。緩衝材となるやつは、バリケードの前へ、そのほかは後ろに置くようにする」
しばらくして、ある程度資材が集まると、一行はバリケード作りを開始する。命が中心となって、力のあるものが廃墟から運び出した家具などを並べ置き、前にはベッドのマットなどを緩衝材として用意する。
「事前にその他のキメラの掃討はしなくてもよいのでありますか?」
「下手に手を出して、準備が終わる前に襲われても困りますし、しなくてもいいのでないでしょうか」
「そうでありますか、ではバリケード作りに専念するであります。力自慢は取り得の一つでありますから」
徹二の意見に、伊織が首を振る。部隊長からの報告でも、キメララットを掃討しようとしていた際にボムパインが現れたとあったからだ。徹二は気にした様子もなく、大きな家具を一人で持ち上げるとバリケード作りに貢献した。
「‥‥‥」
「あ、ごくろうさまです。それはこちらに置いて下さい」
「‥‥‥」
一は持っていた大きなタンスを、伊織に言われたとおりに置く。中性的な見た目のわりに、覚醒した彼は力も強く、次々と重い資材を運んでくる。無言で無表情のまま、黙々と働いた。
「キメラの様子はどうですか?」
「特に大きな動きはありませんね」
「ボムパインは?」
「二階にそれらしい小さな物体がありましたが、正確な確認はまだ」
「そうですか、ハンティングは根気が勝負ですし。まぁいざとなれば、こちらから乗り込んで確認する手もありますからね」
近くのビルでキメラを監視するアルヴァイム。その報告を聞きながら、キーランは小さく頷いて笑みを浮かべた。
「準備は出来た、あとはゴムパインをおびき出して殲滅するだけだな」
しばらくしてバリケードが完成する。街から逃げる際に置いていかれた家具などを使い、ベッドのマットなどを緩衝材として衝撃に強い形とした。また、射撃ができるように、所々に小さい隙間を作ってある。そして、準備が終わると、キメラをバリケードまで誘導する組と、バリケード内で射撃を行う組に分かれて作戦を開始した。
「敵はどこから来るかわからん、慎重にいくぞ」
「ああ‥‥」
キメラを誘き出すことになった命と一は、ビルの内部を慎重に進んだ。ビルは薄暗く、コンクリートの柱には所々何者かにかじられた様な跡が残っている。おそらく以前UPCが来たときのものであろう銃撃の跡もあった。
「っ!」
命達がビルの奥へと進むと、柱の影から光る目を見つける。それはキメララットのもので、通常ならありえない小型犬ほどの大きさのネズミが、狂暴そうな牙をむき出しにして命達を威嚇する。
「やるか‥‥?」
「放っておく訳にはいかんだろう」
命と一は武器を構えると、キメララットへとじりじりと近づいていく。一瞬の緊張が走り、そしてキメララットが二人へと飛び掛ってくる。
「はぁっ!」
先に間合いに入った一の刀が、キメララットを一刀する。そして、キメララットは断末魔の声をあげて絶命した。そこへ‥‥。
「一っ! 放れろ!」
「っ!!」
突然足元へ転がり込んできたのは、パイナップル型の手榴弾。命と一は、サッとそれから距離を取る。しかし、しばらく様子を見ても、それが爆発する気配はない。
「‥‥どうやら本当に爆発はしないようだな」
「ああ‥‥だが、気をつけろ」
本当に手榴弾の姿をしているゴムパインに、用心しながらも近づく命。一は、爆発するタイプもいる可能性を示唆しつつも、それを見守る。そして、命がゴムパインに手が届く距離まで近づいた時。
「っ! はっ!」
突然飛び上がってくるゴムパイン。しかし、それを予想していた命は、渾身の蹴りをゴムパインに叩きつける。だが、ゴムパインは大したダメージを受けた様子もなく、壁にぶつかったあとそのまま反射して命へと襲い掛かってきた。
「ちっ、やはり打撃では効果が薄いか。ならば!」
弾丸のように勢い良く突っ込んでくるゴムパインに、上体を逸らして攻撃をかわしつつ両手に嵌めたファングで切り裂く。今度は確かな手ごたえがあり、傷ついたゴムパインは地面に落ちる。そしてそこへ、一が刀を突き刺して止めを刺す。
「かなり動きが早いな、それに小さいから当てずらい」
「ああ、だが俺達の役割は‥‥」
「そうだな、どうやらきやがったようだ。引くぞ!」
命と一が一息つく前に、奥に見える階段から、いくつもの黒い物体が転がってくるのが見えた。二人は、小さく頷き合うと、その物体、ゴムパインを誘導するように来た道を戻っていった。
「二人が戻ってきたようです」
バリケードで待機していたキーランが、いち早く命と一が戻ってきたことに気づき、全員に注意を促す。
「その後ろには、複数の手榴弾が飛び跳ねながら追いかけてきています。実際に見ると、ファンシーというよりシュールですね。どうやら本当に爆発はしないようだ」
「爆発しない手榴弾? ‥‥実に愉快な現象だ! この謎を解かねば私の学者肌が‥‥かゆい〜」
「出て行ったらダメでありますよ!」
キーランの報告に、ついつい好奇心のためにバリケードから身体を乗り出すあやこを、徹二が慌てて引き止める。
「射撃準備はできています。二人がバリケード内に入り次第、発砲します」
アルヴァイムがライフルを構え、ゴムパインに照準を合わせる。キーラン、あやこ、徹二も同じように武器を構えた。そして、命と一が開けておいたバリケードの中に入ると、伊織がバリケードを締める。そこへ、数匹のゴムパインがぶつかってくる。
「よし、撃て!」
「自然秩序を乱す不安要因どもよ! 因数分解してくれよう!」
「因数分解って、数式なのではありませんか?」
ゴムパインがバリケードにぶつかり弾き返されると同時に、キーラン達が一斉に射撃を開始する。幾筋の弾丸や、あやこの電磁波がゴムパインへと放たれ、その衝撃にゴムパインが跳ね上がる。ちなみに、あやこの言葉に突っ込んだのは、待機している伊織。
「やったでありますか!」
「いや、まだです!」
銃撃に倒されるゴムパイン、しかし小さいためか、少ないダメージで済んだものもいたらしく、数匹が地面から急激に飛び跳ねると、バリケードを越えて中へと入ってくる。
「ぐっ」
「あぅっ」
ゴムパインは、壁や天井に反射し、素早い動きで暴れまわる。硬いゴムの弾丸のようなゴムパインが身体にぶつかり、ダメージを受ける一行。
「どうやら、本当に爆発はしないようですね‥‥でしたら! うっ!」
小さく呟く伊織、そこへ勢いのついたゴムパインがぶつかり伊織は苦悶の表情を浮かべるが。
「‥‥捕まえました」
伊織は、自分にぶつかったゴムパインをそのまま手で捕まえ、身動きのとれなくなったそれにアーミーナイフを突き立てた。
「なるほど! このちょこまかしたのも、そうやって捕まえてしまえば良かったのでありますな! うぐっ!」
その様子を見ていた徹二も、同じようにゴムパインを身体で受け止めると、持ち替えていた刀で真っ二つに切り裂いた。そうして、しばらくするとバリケード内で暴れていたゴムパインも一通り片付けることができた。
「鬩ぎあう宇宙。それが摂理だ。我々の安定は近似値に過ぎない」
「いや、そんなわけのわからないことより、傷を治してほしいのであります」
「あ、ああ、そうだったな‥‥」
「‥‥やれやれ。暫く手榴弾は見たくもありません、ね」
勝利宣言(?)するあやこに、徹二が苦笑しつつお願いする。あやこは、思い出したようにダメージを受けた一同に練成治療を行った。傷を癒しながら、キーランは苦笑しながらため息をつくのだった。
それから、一応ビルの内部を探索し、残っていたキメラを駆逐した一行は、依頼を完了してラストホープへと戻るのだった。