タイトル:にゃんここにゃんこマスター:御鏡 涼

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/05 05:02

●オープニング本文


ごろごろ、にゃぁん‥‥。
冬の陽だまりの中に、ねこだんご。
5・6匹はいるだろうか。
子猫たちはぬくぬくと幸せそうに身を寄せ合って昼寝をしている。
ころころとした体はもふもふの毛並みに覆われ、見ているこちらまで暖かくなりそうだ。

‥‥普通なら。

一目見れば感じる違和感。
子猫のはずなのに、四肢をついて立っているだけで地面から背中までの体高が大人の身長くらいはある。
じゃれ合う時にちらりと見える爪も、開けた口元からのぞく牙も、子猫と言うには少々物騒な雰囲気だ。
更に尻尾が猫又のように分かれており、ゆらゆらとリズムを取っては時々伸びて遠くのものにちょっかいをかけている。
それは間違いなくキメラだった。

「と言う訳で、でっかい子猫型キメラの駆除をお願いします」
集落は現場から少し離れたところにあり今のところ大きな被害はないが、当然放っておいて良いわけはないし、集落に近づけばますます面倒な事になる。
今のうちに速やかな対処が必要だ。
「愛らしい姿を見せて戦意を喪失させようとするなんて、卑怯ですっ。
と言うより、子猫に失礼なのです!」
拳を振り上げるオペレーターの胸元で、ペンについた猫のマスコットが揺れた。
一瞬の沈黙のあと咳払いで冷静さを取り戻し「よろしくお願いしますね」と事務的に告げ、複雑な表情で再び資料に目を落とした。

ぬくぬくごろごろふくふくにゃーん

通信から聞こえた鳴き声だけは、間違いなく子猫だった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
天・明星(ga2984
13歳・♂・PN
不二宮 トヲル(ga8050
15歳・♀・GP
煉条セイラ(gb4287
17歳・♀・FC
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

●陽だまり
 肌寒い空気の中、少し暖かい日差しが地面に木の葉の影を落としている。
木の根元には大型子猫キメラが、丸くなり、大あくびをし、じゃれあっていて、遠目にはとても無邪気に見える。
(「落ち着け、良く見るんだやすかず。あんな大きさの子猫がいるわけがない。
だから、あれは虎の一種で猫じゃない、子猫じゃないんだ!」)
 新居・やすかず(ga1891)が子猫キメラを凝視しながら、可愛い見た目でも猫とは違うものだと必死に自分へ言い聞かせている。
「キメラである以上、可哀相だとは言っていられません!」
 一匹残らず退治すると、同じく言い聞かせるように口に出したのは天・明星(ga2984)。生物学者を目指す彼も、やはり猫が好きだった。
「猫とじゃれるのは大歓迎!」
 でもキメラは御免蒙りたいと不二宮 トヲル(ga8050)は言い、もう一度組分けと作戦を確認する。
 今回は前衛後衛を二人で一組にして、三組がそれぞれ二匹を目標に戦う作戦になっていた。
 そして打ち合わせの中、にこやかに笑顔を浮かべるアーク・ウイング(gb4432)は武器の動作をチェックしながら言う。
「まあ、外見が愛らしかろうがどうだろうが、さっさと息の根をとめるだけだね」
「宜しくお願いします。ベテランの方の動き、是非勉強させて頂きたいです」
 パートナーのドクター・ウェスト(ga0241)に、初任務で緊張気味の煉条セイラ(gb4287)が話しかける。
 ドクターは薄く笑いを浮かべて答え、首元に揺れている十字架のネックレスを外すともう一度子猫キメラの方を見やった。
「ふん、なんとも醜悪なカリカチュアだね〜」
 口調は変わらないが、淡く光りだす瞳には先ほど以上にバグアに対する強い憎悪がこめられていた。

●戯れ
 口火を切ったのは天。
 金色に色を変えた瞳は子猫キメラを見据え、高速で接近していく後を、腕を覆う青白い光の軌跡が追う。
 足元に狙いを定めた一撃でようやく能力者たちの存在に気づく子猫キメラ。
 目を覚まし、立ち上がり、振り向くが、油断しきっていたために隙だらけだ。
 更に後方から弾の雨が降り注ぐ。
 強引な論法で冷静さを取り戻した新居の撃った弾は周囲にたくさんの猫の足跡のような痕を残し、直撃した子猫キメラは大きいダメージはないものの肉球よりもはるかに硬く激しい感触に不機嫌そうな声を上げた。
「うにゃ〜ん‥‥ってぇ、なごんでる場合じゃないぞボク!」
 髪の一部が角のように立ち真剣な瞳に淡い光を湛えた不二宮に、ドクターに強化され光を纏った剣を構えた煉条が続き、後方からアークの超機械が子猫キメラの死角に狙いを定めている。
 一気に畳み掛けた結果能力者たちの攻撃は奇襲となり、子猫キメラの反撃を許さない。
 しかし抱きつけば気持ち良く埋もれることのできそうなほどにもふもふの毛皮には、大きなダメージが入った様子は感じられずまだまだ油断はならない。

 アークと天のペアは息の合った連携を見せ、アークの超機械から発射された電磁波のビームが、天へじゃれ付こうと前脚を上げた子猫キメラの足止めする。
 この隙に天は足元に潜り込むと両手に構えた爪を立て、加えて流れるような動作で腹部へ連続の蹴りを入れる。
「これが、明星式猫キックです!」
 父親仕込みの中国拳法に能力者としての力を加えた重い一撃は、仲間との連携攻撃により子猫キメラの一体の生命活動を止めた。
 残りは五体。
 ドクターへ伸びようとする尻尾を盾で防ぎながら間合いを詰めた煉条は、子猫キメラに接近したところで身体を回転させた渾身の一撃を放つ。
「‥‥この瞬間を狙ってたのよ!!」
 遠心力の乗った剣は蒼銀の光を放ち、フォースフィールドの影響を上回る強さで子猫キメラの毛皮に深く食い込んだ。
 悲鳴のような声を出しながら転げ回り、能力者たちに威嚇の目を向ける。
 ころころと良く動き回る子猫キメラに包囲されないように、また集落の方向へ逃亡しないように気をはらう前衛と、射線を通すためこまめに場所を変えフリーの個体へ牽制と攻撃を行う後衛。
「無邪気を装うほどに、我が輩には裏の策がありありと見えて、嫌悪と憎悪が湧き上がるのだよ!」
 ドクターはエネルギーガンのスコープを通して子猫キメラの観察を続ける。
 子猫キメラたちは、お互いがお互いのフォローをするように戦う能力者たちの包囲から抜けられるほどの力も知能も持ち合わせていなかった。

 先ほどの大打撃に怒った子猫キメラが、前脚を振り上げる。
 子猫比率の短い前脚の先には、子猫の姿にそぐわない金属質の鋭い鍵爪が日の光を跳ね返している。
「こんなキメラなんかには、絶対に負けない‥‥!!」
 それが強い力で煉条に振り下ろされるが、衝撃と金属音と盾への傷を与えるのみ。
「うわっ、全力ですね、当たったら大変‥‥」
 別の爪は更に不二宮にも振り下ろされるが、速さの割りに大振りの攻撃を見切って避ける。
 続けざまにもう一匹が同じように爪を振り下ろしたのを避けたが、その影から飛び出してきた三匹目の体当たりは避けきれずに尻餅をついたままじゃれ付かれる。
 開けた口にはやはり金属光を放つ牙。
 いきなり噛み付かずに獲物で遊ぶような様子を見せるのは猫の特性そのままで、大きな傷をつくろうとはしない。
 その時最後の一匹の尻尾が伸びる。
 ふさふさのモールのような尻尾は目前でいくつかに分かれ、天をつかまえようとする。
 普通なら逃げ切れる程度の動きなのだが、それ以上にしなやかですばやい動きに捕縛されてしまう。
 それはそのまま天を締め上げるものの、動きを封じるだけで肉体的なダメージは少ない。
「うぐぐぐぐ‥‥、キメラなんぞさっさとこの地球から滅ぼしてしまえ!」
 スコープを覗くドクターの瞳が、怒りに光を増す。
 エミタの力でより研ぎ澄まされた感覚で、尻尾を伸ばした子猫キメラの体をエネルギーガンで正確に撃ち抜きその鼓動を止めさせる。
 残る子猫キメラは四体。
 組み付かれた子猫キメラに、得意の足技で反撃をする不二宮。
 子猫キメラは見た目ほどの素早さはなく、能力者たちの攻撃を避けきる事ができていない。
 ダメージは蓄積され、また一体の子猫キメラの動きを止める。
 それと時を同じくして新居の放ったたくさんの猫の足跡が別の子猫キメラを踏みつけて、地に伏せさせる。
 不二宮と新居のペアが一気に二体を片付け、残りは二体。
 子猫キメラの攻撃は前衛を任された三人に当たるはことなく、反撃はここまでだった。
 ドクターのエネルギーガンの攻撃に合わせた煉条の一太刀は、盾の重さを感じさせない優雅な動きで舞うようにとどめを刺した。
 攻撃を繰り出そうとする天の背中に向かってアークが機械を構える。
 明星式猫パンチが子猫キメラにダメージを与えた感触を受けて天はすかさず身を翻す。
 狙いすました死角からの一撃は、天の立っていた場所を通って子猫キメラに直撃し、ゆっくりと倒れていく。
 はじめから終わりまで冷静に見続けたアークの狙撃で、辺りは静けさを取り戻した。

●雪
 いつからか、雪がちらちらと降り始めている。
 既に動かなくなっている子猫キメラの上にも、うっすらと白く積もっていく。
「やっぱり子猫は小さい方が好きかな〜」
「バグアたちの考えていることなんて分らないけど、なんでまたあんなキメラを作ったんだろ?」
 不二宮とアークがキメラだったものに目をやりながらつぶやく。
「それにしても、危ないところでした」
 今回のキメラがこんな大きさではなく普通の子猫サイズだったなら、なすすべもなくやられていたと新居は言う。
「キメラでなかったら、飼ってあげたかったです‥‥」
 手を合わせる天の傍らでは、細胞のサンプルを採取するドクターの胸元で再び十字架が揺れていた。
 今回は戦闘から得たデータと合わせても今まで集めたデータ以上の発見はなさそうだが、猫好きの二人を眺めていると仮説として恐怖以外の方法で戦意を喪失させるやり方を試したのではないかと言う案が浮かぶ。
「まあもう少し戦術が効かせられるように、あと二人くらいほしかったね〜」
 報告書に書いておこうと最後にひとつ溜息をついた。
「今回は有り難う御座いました。皆さんの動き、とても勉強になりました」
 煉条は皆に礼を言い、キメラとは言え初めて生き物を手に掛けた意味と重さを忘れてはいけないと、決意を新たにした。

 戦いなどなければ静寂で満たされるこの場所では、雪の降り積もる音まで聞こえそうだったから。
 たとえ相手がキメラでも、今しばらくはこの木の下での静かな眠りを願いたい。
 帰還する六人の足跡を、雪が白く消していった。