タイトル:白い動物と雪遊びマスター:御鏡 涼

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/26 00:00

●オープニング本文


 白い動物たちが飛び跳ねる。
 ウサギ、キツネ、オオカミ、フクロウ‥・・。
 捕食する側される側など関係なく白く積もった雪の上で、楽しそうに遊んでいる。

 ここはスイス、グリンデルワルト。かつて国際的なスノーフェスティバルが行われていた地。
 昔この場所で日本人が大きな雪像をつくった事で始まったこのイベントはそれ以降毎年開催されるほどの人気だったが、バグアの進攻により規模を縮小せざるを得なく、今では周辺部の人が集まるだけの小さなイベントとなってしまった。
 しかし祭りである事に変わりはなく、子供を始めとして村のみんなは毎年楽しみにしているのだった。

「事態は切迫しています」

 オペレーターはそう切り出した。
 キメラの出現地域は集落近くの広場。現状では集落へ向かう意思はないようで近づいてはいないが、いつ向かうかはわからないため早急に排除する必要がある。
 その広場は村で近々行われるお祭りで雪像を作るために用意された場所で、ある程度の広さがあり戦うには問題はない。
 しかし、雪像を作るための3メートル四方の雪のブロックが数基積まれており、障害物となりうる場合がある。
 更に問題は出現したキメラなのだ。
「このキメラ、炎を吐く姿が目撃されています」
 確認されているのは、ウサギ型とキツネ型が2体ずつ、オオカミ型とフクロウ型が1体ずつの計6体。
 いずれも雪でできたような真っ白な姿をしており、時折炎の息を吐いたり、炎の羽根を飛ばす姿が目撃されているが、それ以外には変った様子は見られない。

「キメラに会場を占拠されたままでは雪祭りを行う事ができません。
 炎で雪が溶かされても厄介です。村の活気が失われてしまう危機と言っても過言ではありませんし、いつ村を襲ってくるかも知れませんので、どうか宜しくお願いします。
 あ、そうそう‥‥」
 キメラ退治が成功したあとは、雪像作りも含めて祭りを楽しんで行って欲しい。
 オペレーターは最後に村長からの伝言を言い、もう一度頭を下げた。

●参加者一覧

リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
樹野 秋也(gb0196
22歳・♂・EP
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
鳳(gb3210
19歳・♂・HD
エル・デイビッド(gb4145
17歳・♂・DG
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
吾妻・コウ(gb4331
19歳・♂・FC

●リプレイ本文


 グリンデルワルトは曇り。雪の照り返しも少なく、降る雪で視界が遮られることもない。気温は低いがコートを着れば問題はない程度で、キメラ退治には好条件だった。 
「邪魔するキメラはさっさと倒しちゃいましょう!」
 雪の好きなリリィ・スノー(gb2996)は、雪祭りの邪魔をする存在にいつもより気合いが入った様子でヘッドセットのマイクの位置を調整する。
「雪像見て‥‥かまくら作って‥‥雪合戦もしたいし‥‥そのためにも、がんばら、なきゃ」
 リオン=ヴァルツァー(ga8388)も左腕の包帯をゆっくりとほどいて覚醒すると、それを綺麗にたたんでしまいながら退治後の計画をあれこれ考えていた。
(「寒いのは苦手だけど、仕事は確実にしなきゃ」)
 ゴーグルをかけなおし正面に現れた光り輝く魔法陣を通り抜けたエル・デイビッド(gb4145)が構えた銀色の銃が、雪の光をはね返す。
「スタートぉ、アッープ!」
 ハイテンションな様子で勢い良く回した腕をぴたりと止めると、レベッカ・マーエン(gb4204)の右目が赤から金色に変わり、細めた目が鋭さを増した。
「足手まといにはならない様にしないとな、うん」
 初任務で緊張気味の樹野 秋也(gb0196)が故郷の雪祭りを思い出しつつ、銃の動作と作戦の手順を確かめている横で吾妻・コウ(gb4331)が銃にペイント弾を込め、鷲羽・栗花落(gb4249)がブーツに荒縄を縛り滑り止めの処置をしている。
「やっぱ‥‥‥寒っ!」
 直前の仕事で赤道付近にいた鳳(gb3210)はコートの襟を立てたあと、雪上の感覚を掴むために宙返りやスピンをしながら体を慣らし、普段どおりに身体を動かすことが出来れば問題ないことを確認した。

 不安そうな村の子供たちが見送る中、能力者たちはキメラの居座る広場へと向かった。


 グリンデルワルト駅前広場。
 かつて開かれていたスノーフェスティバルの規模に及ばないものの、積み固められた雪のブロックが数基、円を書くように置かれている。
 その真ん中で動く影は白兎2羽と2匹の白狐。雪を蹴散らしじゃれあう少し後ろには白狼が悠然と身体を横たえており、近くのブロックの上では白梟が羽を広げていた。
「ほんま楽しそうに遊んどるなぁ。俺らの方がイジメっ子になりそうやね」
 村側の防護役にまわっている鳳が、キメラの数を数えながら言う。
 村に到着後レベッカが集めた情報どおりの地形と状況の中、練成強化されたリリィのライフルが白梟に狙いを定める。白梟はブロックの上、遮るものは何もない。
 何も気付かないまま羽を広げた背後から放たれた銃弾が当たり、体勢を立て直す間もなくブロックから転落する白梟。
 それに驚いた白兎がきょろきょろと辺りを見回す隙に、リオンの放ったペイント弾が狙い通りの弾道で吸い込まれるように当たったのを合図に、異変に気付いた白いキメラたちに次々と色をつけるための弾丸が撃ち込まれる。
 奇襲は成功した。
「さぁこっちについておいで!」
 篭手のような銀光に両腕を包まれた鷲羽が、白梟に剣で追撃しながら広場からキメラを引き離す先陣を切る。
 それに続いて村側からキメラたちを追い立て少しずつ攻撃を加えながら注意を引き、キメラの前後を挟むようにして広場から離れるように誘導する。
 白兎が振り返り反撃の息を吐く。延長線上にはブロックがあり、ブロックの破損を防ぐためと鳳が間に身を滑らせる。
「そんなの効かへんもん!」
 炎の息はAU−KVの装甲と鳳の気迫に阻まれてブロックまでは届かない。
 会場からやや離れた場所までキメラたちが更に追い立てられる間にも、樹野は目の前の小型キメラへの攻撃に集中し着実に体力を削っていくが、勢い良く突進してくる白狐の体当たりをギリギリで避けきれずに雪にまみれる。体勢を立て直す前にもう一匹の白狐が炎の息を吐いたが、こちらは身体についた雪を溶かすだけで終わり、傷をつけるほどではなかった。
 一番前でどこか人事のように誘導されていた白狼が突然前足を振り上げながらリリィに飛び掛かかるが、一瞬早く動いた吾妻が割り込みかばう。
 雪の跳ね上がったコートの裾が、サーコートの如く白く翻った。
「おまえたち、手間をかけさせるなー!」
 すかさず樹野と吾妻の回復をするレベッカは、口調の割りにきちんとフォローできる位置を取りながら戦い、自らも武器を構える。
「さーて、バリバリ行くのダー! 超機械α、発動!」
 レベッカの超機械から発射された電磁波が白兎の一匹が動きを止めた。
 それと同時に予定位置に入る。誘き出すために手加減していた能力者たちが、一気に反撃を開始する。
 リオンが狙いを定め、引き金を引く。発射された弾丸がスパークしながら着弾すると、白兎は感電するように身体を痙攣させたあと動かなくなった。
 鷲羽は大きく身体を捻り、両手に構えた剣を下からすくい上げるように斬りつける。まだ踏み固められていない雪が細かい羽根のように舞い上がり、白狐は避ける間もなく新雪に沈んだ。
「この時期に雪を溶かすなんて許しません!」
 空へと逃げようとする白梟の羽をリリィの銃弾が捉え、地上へ引き止める。反撃に燃えさかる羽根を飛ばすが、間合いに入る吾妻を止めることはできない。鞘を脇に構え、一気に刃を抜き放つ。
 風になびくマフラーの影で、白梟は動きを止めた。
「いつまでも寒いところにいるつもりはないし、これで終わりにしないとね」
 エルは白狼の背後にまわり、ともに白狼担当の鳳と挟み撃つ。
 装甲を感じさせない軽快な足技でフェイントをかけながら拳で攻撃をする鳳と、盾で攻撃を防ぎながら剣で斬りつけるエルの連携で、白狼は間もなくとどめを刺される。
 最後に体勢を立て直した樹野が、流れるように素早い動作で照準を合わせ弾を撃つ。
 その弾は牽制の時とは比べ物にならない速さと重さで白狐に当たり、全てのキメラが倒れた雪原には静けさが帰って来た。


 平穏を取り戻した村では早速雪祭りの準備が始まった。
 村は雪像やかまくらに使う雪を運んだり、温かいスープを振舞う手伝いで一気に大忙しだ。
「わ‥‥、すごいですねっ!」
 祭りを見物するリリィが思わず声を上げる。
 駅前の商店街もこの時だけはささやかに飾り付けをして、村全体が賑やかな雰囲気になる。
 グリンデルワルト駅前の会場は能力者たちが気を使って戦ったために雪の汚れやブロックの破損などの影響はほとんどなく、すぐに雪像制作が始まった。
「居合いの業を見せましょう」
 吾妻が居合いの刃を納めると、雪のブロックが大雑把なナイトフォーゲルの輪郭を取る。
 敵を攻撃するためではなく皆を楽しませるための剣技に、大人たちは感嘆し子供たちは羨望のまなざしを送った。
「一緒によかったら作ろう?」
 鷲羽の誘いに皆が協力してスコップなどの道具で削りだし、水と雪を混ぜたものを貼り付けて表面をならしていく。
 本物よりも丸みを帯びてデフォルメされたフォルムで出来上がった像を囲んで、子供達の歓声が上がる。
 下から像を見上げると、アルプスの山並みを背景に空を飛んでいるようにも見えた。
 エルは初めて楽しむ雪に目を輝かせながら色々見回っていたが、あまり歩き回ってもとの場所を忘れてしまいそうになる。
「‥‥あれ? どこだったかなここ? ‥‥寒‥‥あったかいとこないかな‥‥」
 リオンたちが子供たちと造ったかまくらはちょっとした休憩小屋になっていて、鳳や吾妻たちが村人と一緒に用意したコーンポタージュが冷えた体を暖めてくれる。
「‥‥やっぱり寒いのは苦手、だな‥‥」
 そう呟くエルの口元がわずかにほころんだ。
 かまくらから眺めた先では大人たちが雪像を作る横で手伝いの終わった子供たちが雪合戦を始めていて、リオンやレベッカもその中に混ざって遊んでいる。
 軽く遊ぶつもりが段々と本気になっていき、気づけば雪まみれだ。けれど動いただけではない暖かさで、不思議と寒くはなかった。
 その様子を村人が作った雪の聖母が優しく微笑みながら見守っていた。

「‥‥また来てくれる?」
 ひとしきり祭りを楽しんだ別れ際、見送る子供たちが皆を見上げる。
「その時は‥‥また、いっしょに、遊ぼう‥‥」
 笑顔で返すリオンたち能力者を、村人たちの明るい声が見送った。
 いつかこの祭りがバグアの脅威にさらされることなく盛大に開かれるような世界をと、能力者たちは決意を新たに村をあとにした。