タイトル:ただの授業風景マスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/15 19:57

●オープニング本文


●無人の街
 笛の音が響いた。その反射は緩やかだった。屋内ではない。外だ。
 周囲には小さなビル群が乱立しており、まるで本物の市街地さながらだった。そう、ここは本当の市街地ではない。グリーンランドに建設された、模擬戦用の擬似市街だ。
 とはいえ、この擬似市街地は現実の市街地を元に設計されている。
 でなければ模擬戦の舞台としては不適格だ。
 市街は200メートル、300メートルの長方形で、6キロ平方メートル程度。サッカーコート3枚より少し広いぐらいだろうか。
 中央に大通りが一本、300メートル。目抜き通りに当たるここから左右に枝道が走る。
 建造物は平凡なオフィスビルが中心で、高さは3階程度のものが多く、最も高いビルで地上5階建て。一方、ビルの裏へ一歩廻れば、個人商店や集合住宅が並んでおり、全体を眺めれば、地方都市の一区画を切り取ったといった風だった。
 ただ、建造物の内部は、一応建物としての体裁を保ってはいるが、これはあくまで人が暮らす為のものではない。設置されている家具等は机椅子、棚程度なもので、いちいち掃除されている訳でもないから、弾痕足跡も放ったらかし。はっきり言えば荒れたいままに任せてあり、模擬戦の激しさを窺わせる。
 また、敷地の周囲は全て塀で囲まれており、車道以外は外部から隔離されている。これらは模擬戦中のエリア離脱という『ズル』を防止する為のものだ。


「おはよう諸君」
 満点に晴れ渡った空の下、ウォルターが軍服をなびかせて現れた。
 皆、口元の吐息が白い。
 幾ら太陽が昇るつつあるとはいえ、まだ二月。極北にほど近いグリーンランドは、まだまだ寒い時期だった。
「さて。諸君の中に市街戦の経験がある者は?」
 挙手の人数を確認し、ウォルターは頷く。
「宜しい。そもそも市街戦というものは――」
 つらつらと喋りだしたウォルターは、総力戦以前の市街戦から第二次世界大戦以降の近現代におけるテロリズム、都市ゲリラ、果てはバグア襲来後の市街戦における変節に至るまで、こうした概論を、回りくどい言い回しや引用を多用しつつ、15分に渡ってだらだら喋り倒す。
「ではさっそく模擬戦といこう。エミタに専用のプログラムを登録するから、一列に並びたまえ」
 このプログラムは、エミタによって自動的に『手加減』する為のものだ。
 全力で攻撃したところで、一定以上の出力が自動的に制限される。打撲や痣はともかく、重傷を負う事はまず無くなり、格闘戦や光学兵器を用いても全力で戦えるというもの。更には各種ダメージを集計し、現実と同様の痛みや身体機能の低下までもをある程度再現する。もちろん、練成治療等による回復まで。
「そしてルールだが‥‥まずは戦闘慣れをという事で、簡単に行こう。チーム戦形式で、先に全滅した方の負けとする」
 全滅は文字通りの意味で構わない、と付け加え、言葉を続ける。
「さて。では2チームに別れたまえ。さっそく開始と行こうではないか」

●参加者一覧

マリオン・コーダンテ(ga8411
17歳・♀・GD
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
御門 砕斗(gb1876
18歳・♂・DG
榎木津 礼二(gb1953
16歳・♂・SN
芝樋ノ爪 水夏(gb2060
21歳・♀・HD
鯨井レム(gb2666
19歳・♀・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
Y・サブナック(gb4625
18歳・♂・DG
夜坂柳(gb5130
13歳・♂・FC
長門修也(gb5202
15歳・♂・FC

●リプレイ本文

 びゅう、と風が吹いた。
「寒っ!」
(こんなの辞めてすぐ部屋に直行したい‥‥だなんて皆には言えないよなぁ)
 吹きつける風を呪い、榎木津 礼二(gb1953)は心の中で毒づく。
「流石に、冷えますね」
 リンドヴルムを着込みながらも、芝樋ノ爪 水夏(gb2060)はぷるぷると肩を震わせた。
「全力全開の模擬戦‥‥この機に色々試させてもらうよ」
「ん、どちらが勝っても恨みっこ無しでいこうじゃないか」
 鉢巻をきゅっと締めるアセット・アナスタシア(gb0694)。
 その言葉に頷いて、鯨井レム(gb2666)はミカエルのバイザーを降ろした。


●模擬戦開始
 サイレンの音が鳴り響き、模擬戦が始まる。
『始めてくれたまえ』
 ウォルターの声で市街へと足を踏み入れた双方は、共にゆっくりとした動きを見せた。それは、例えば榎木津は遮蔽物に身を屈め、壁や障害物を背にじりじりと進んでいたからだ。
(先生の話も長かったけど、要するに‥‥全滅させれば良いって話だろ?)
 無線機を手にしつつ、味方との位置関係を確認する。
 彼が位置するのは、前を進むA班前衛から後方70m程度といったところ。先程も述べたように、彼自身は可能な限り自身の姿を周囲に秘匿させようと努力していたのだが、他にその事を気遣っているのは少数派だった。
 特に、前衛を勤める者達は、隠れ潜む事に特別の注意を払わなかった。
「‥‥あぁ、ああいう方法もあんだな」
 ただ、榎木津の動きを見やって、夜坂柳(gb5130)は途中から自分の動きを改めた。彼は、自分自身がまだまだ新米だと考えていたからこそ、他参加者の行動を参考とする事にしていたのだ。
 いずれにせよ、チームとしてのユニットが行動する上で、一人でもその事を疎かにすれば、被発見率は急上昇する。
 そしてそれは、対するB班においてもほぼ同様だった。
(人数で言えば、敵の戦力配分次第か‥‥)
 B班最後尾に付き従いつつ、建造物へ身を隠す鯨井。今この場に居ない長門修也(gb5202)を別とすれば、彼らB班の前衛もまた、同じように時折その姿をさらけ出してしまっていた。
「見っつけた」
 双眼鏡を下ろし、呟く榎木津。
「俺だ。前方約120m、右手のビルの影に一人」
『了解した』
 短く応答を返し、御門 砕斗(gb1876)は素早くその方角へ眼を向ける。
「さてと、たまにはしっかりやるか」
 A班の前衛達が、素早く行動へ移った。


●奇襲
 だが、先陣を切ったのはB班の側だった。
「見つけましたぞ」
 仲間へと無線連絡を入れ、長門修也(gb5202)が身を屈めた。彼は、一人単独行動をとって、市街の狭間に身を潜めていたのだ。
 視界に、マリオン・コーダンテ(ga8411)の金髪がたなびく。
 格闘戦戦に特化したフェンサーにとって、彼女が握るハンドガンは厄介な代物だ。可能な限り接近し、奇襲によって格闘戦に持ち込むのが彼の作戦だった。
(侍らしくないのは承知の上)
 蛍火にそっと手を添え、つま先をアスファルトへこすりつける。
 彼は、奇襲の成功を確信した。
(いける!)
 ぐっと、腰を落として足を踏み込んだ。
 もしくはそれが、気付かぬうちに『殺気』を振りまいたのかもしれない。今まさに蛍火を抜き放たんとしたその瞬間、コーダンテが振り向いた。
「くっ!」
 飛び退くコーダンテ。
「しまっ‥‥ええい!」
 何事にも、勢いというものがある。
 長門は、コーダンテの素早い反応に、まるでつり出されたかの様に地を蹴ってしまった。長門の油断かコーダンテの直感か。長門にとっては、はても最悪のタイミングだった。
 間延びした蛍火の一撃。
 大きく足を踏み込み、蛍火を振るうも、明らかに踏み込みが不足している。ぶうんと振るわれた蛍火を掻い潜り、コーダンテが背を屈めて接近する。
 すれ違い様、ナイフの一撃が長門の胴を薙ぐ。
「ぐぅ!?」
「残念だったわね♪」
 ダンサーを思わせるしなやかなその一撃は、見た目以上に重かった。何より、主導権を握られると脆いフェンサーの弱点がもろに出てしまったのかもしれない。
 駆け抜けたコーダンテがハンドガンを翻し、続けざまに引き金へ力を込める。
 次々と銃撃を受ける長門。
「なかなかの腕‥‥!」
 ぐらりと揺れ、倒れ伏す長門。作戦の読みは当たっていたのだが、しかし、運か実力か、最後の最後に奇襲を察知されたのが最大の敗因だった。


(銃声‥‥?)
 近隣で鳴り響いた銃声、微かな戦闘音に耳を傾けながらも、アナスタシアは大きく踏み込んでユンユクシオを振るう。
 ごうと風が巻き起こり、斬撃が真空波となって飛んだ。
「させるかっ!」
 ランス「エクスプロード」を地に突き刺し、その攻撃を防がんとするアレックス(gb3735)。だが、アナスタシアの放ったソニックブームはランスの脇を掠めつつも、彼の胸部にストレートに叩き付けられた。
 消散しつつも、鎧の中へ衝撃を送り込むソニックブーム。
「アレックスさんっ」
 後ろから、芝樋ノ爪が声と共に飛び出した。
 手にした閃光手榴弾が空に舞う。
 敵の出方を見る為にソニックブームと同時に飛びずさっていたアナスタシアは、来るべき閃光を意識して物陰へと身を潜めた。サングラスの裏で眼を走らせ、身構える。
 だが――
「‥‥?」
 その閃光が無い。
「残念。ブラフです」
 呟きつつ、機械剣を手に走る芝樋ノ爪。その背後を火の玉と白装束の女性が、幻影となってゆらゆら追いかけていく。
「しまった!」
 ブラフに気付き、慌てて身構える御門。
 来ると解っている攻撃には、人間は自然と身構えてしまうもの。そうして生まれた一瞬の隙目掛けて、彼女は機械剣αを振り上げる。出力の弱められたレーザーブレードがリンドヴルムの装甲を走った。
 もちろん、実際のダメージは極めて軽微だが、本来受けるであろうダメージをAIが判定し、反映させる。
 奥歯をかみ締める御門。
 今の一撃で、軽く姿勢が崩れた。
「もう一撃!」
 左手にした夕凪がきらめく。
 この一撃も御門は直撃をもらってしまったが、夕凪は装甲に弾かれ、周囲に甲高い音を響かせるだけだった。そんな金属音に重なるようにして、銃声が響いた。同時に、彼女の脚部を捉えた銃弾が装甲を殴り、飛弾してアスファルトを抉る。
(狙撃?)
 彼女の反応は素早かった。
 追撃とばかり、竜の咆哮で御門を突き飛ばすと、竜の翼で一気に狙撃手へ――榎木津へと接近する。サブナックの動きが遅れた事もあり、A班の数名を相手に一騎当千と呼んでも過言ではない程の動きだ。
「早い‥‥!」
 むろん、対する榎木津とて抜かりはない。
 一撃と共に移動を始めていた彼は、彼女の接近を察知するや否や、同じく竜の翼を用いて距離をとる。
 一方、散々にやられたのは御門だった。
 ダメージそのものは軽微であったが、先手を取られ、ビルへ叩き付けられ、怒涛のラッシュを前に手も足も出なかった。
 衝撃に揺れる頭を支え、ふらつく御門。
 その隙を逃すまいと接近するY・サブナック(gb4625)の眼前に、夜坂が立ちはだかった。
「ソロモン72柱の一角、サブナック推参ってな」
「応! 相手してやらあ!」
 壱式を構え、足元のコンクリ片を蹴り上げる。
 サブナックの棍棒が紙一重でそれを打ち払うが、その牽制に続けて、夜坂は大きく身体を振るっていた。軸足で身体を支えながら、円閃による強力な一撃がサブナックを襲う。
「かはっ‥‥」
 受けようとして体勢を崩したサブナックのわき腹に、みしりと壱式が食い込む。
「もう一発!」
「やってくれんじゃねえか!」
 反転しての再びの円閃を、サブナックは棍棒で受けた。
 骨が折れたかのような脇腹の痛みを頭の隅に追いやって、反撃とばかり、弾いた勢いそのままに横へ薙ぐ。
 夜坂の頭が揺れる。
 額を直撃したその打撃に足元がふら付き、視界がぐわんと揺れた。
 間髪いれずレーザーブレードが走る。連続しての攻撃に大きなダメージを受け、仰向けに転倒する夜坂。追撃に移れるサブナックの勝利は決した。そう、一対一であったなら。
「――!」
 倒れこんだ夜坂の後ろから、御門の一閃がきらめく。
 鈍く、金属のひしゃげる音が響き渡る。
「んな‥‥ろ‥‥っ!」
 どうと、サブナックが地に伏した。
 夜刀神による抜刀は、流の翼によって身体ごとの瞬間的な加速を得、竜の爪を重ねる事によりますます重みを増した一撃となってサブナックの胴を抜いた。威力を制限されながら尚リンドヴルムの装甲を破損させるほどの、強烈な一撃だった。


●攻防
 オフィスビル一階の窓ガラスが砕け散る。
 榎木津は、そこを通り抜けられると確信して、強引に突破したのだ。
(どこだ? どこかに居るはずだ‥‥)
 そうして芝樋ノ爪からの追撃をかわしつつも、周囲へと気を散らし、鯨井の姿を探り続ける。
 狙撃手である鯨井の動きが読めないが為に、無防備なバイク形態へと変形するのも危険と思われた。一方で、芝樋ノ爪と榎木津はドラグーン同士だ。竜の翼により接近、離脱しようとする者同士の追いかけっこは、千日手かとさえ思われた。
(‥‥これは、困った事になったな)
 一方の鯨井もまた、ここから如何に対処するか悩んでいた。
 彼我の位置関係を知ろうと、序盤、彼女は積極的な攻撃を控え、戦闘の観察に廻った。
 だが、その結果敵狙撃手である榎木津の位置を把握する事はできたものの、芝樋ノ爪は榎木津への攻撃に動き、サブナックは二対一の格闘戦で撃破され、長門からは応答が無い。そして、アセットとアレックスは互いに一騎打ちを望んで対峙している。
 唯一、芝樋ノ爪は勤めて鯨井の射程圏内に留まっているが、結果として、B班は既に二名を失って各個撃破され掛かっている。
 先程の銃声や応答の有無から、今この場にいないコーダンテと長門が接触し、長門が敗北した事は想像がつく。ちらりと時計を見やる。残り時間はまだ長い。
「‥‥止むを得ない、か」
 そうである以上、当初の予定通りに行動するしかない。サブナックとの戦いを終え、身体を起こそうとする夜坂と御門。その方角へ、彼女は素早く銃口を振り向けた。
 スコープの先では、一度転倒した夜坂が、頭を抱えつつ起き上がろうとしていた。
「あいたた‥‥」
 額から手を離すと、ほんのり赤い。少し、擦りむいたらしかった。油断と言えば、油断だったろう。頭を振るい、眼をしばたかせる夜坂。
(捉えた‥‥!)
 乾いた銃声。
 夜坂は額をがつんと射抜かれた。起き上がったばかりに一撃を貰い、半ば眼を廻しながら、再度仰向けに倒れる。
 ハッとして、御門は振り返った。狙撃手たる鯨井の姿を探すも、彼女の姿は既に無い。
「遅かったか」
『どうしたの?』
 無線機から伝わるコーダンテの声。
「柳がやられた。多分、レムの狙撃だな」
『む〜、やられちゃったかぁ』
 長門の奇襲によって偶発戦闘に持ち込まれてしまい、前衛同士の衝突にこそ間に合わなかったものの、戦闘はまだ続く。コーダンテは改めて速度を上げ、ビルの合間を駆け抜けた。
 髪が、風にたなびいた。


 真正面から戦えば、経験も力も上の相手には勝てない。
(なら、少しは頭使わないとな)
 槍の穂先で牽制を加えつつ、アレックスはじわりじわりへと、路地の方へと移動する。強力なアナスタシアの攻撃に対処し、自分の有利な地形へと彼女を誘い込む為だった。
 だが、上手くいかない。
「ユンユクシオ、遠慮なくやろう‥‥」
「くっ!」
 己の得物に語りかけ、じりと歩み寄るアナスタシア。
 戦いに臨んで全力を出し、一切手を抜かぬ事こそ、彼女にとっての戦いの礼儀だった。
 もちろん、全力を出すというのはむやみやたらと攻撃的に出る事を意味しない。
 アレックスが路地裏をリングとして望んだのと同様に、彼女は開けた場所を望んでいた。そして、アナスタシアの素早い動きにアレックスは追随しきれなかった。
 ただそれでも、ドラグーンには対人戦では十分過ぎる装甲がある。
 互いに本命打を叩き込まぬ牽制が続き、望んだ環境に無いにしては、アレックスは善戦していた。
 だが――
「足元が‥‥甘い」
「しまった!?」
 滑り込むようなアナスタシアの足払い。二度続けての牽制に対応しきれず、槍を支える上体が揺れた。
「私の一撃必殺見せてあげる」
 轟音が辺りへと響き渡った。
 スマッシュと両断剣を重ね合わせた、渾身の一撃。上段から放たれたそれは、アレックスの肩口へと落ち、したたかに打ち据えていた。
「ぐッ!」
 ぐらりと揺れる上体を気合で押し留め、両足を踏ん張る。
 辛うじて踏み止まったかに見えたが、やはりこの一撃は尾を引いた。ダメージももちろん、懐への接近を相手に許してしまった。
 そうして先手を取られ、二撃、三撃と続けざまに浴びせられる斬撃。
「勝負あった、か」
 その一撃一撃が重たく、やがてアレックスは、ずしりと膝をついた。
「あの一撃に耐えるなんて、驚いた‥‥」
 とつとつと口にするアナスタシア。
「‥‥」
 アレックスに戦闘不能判定が下ったと知って、思わず足元をふらつかせた。あまり顔には出さなかったものの、アレックスの『牽制』は、彼が考えていた以上にアナスタシアにダメージを与えていたのだった。


●反省会
 溜息混じりにココアをすする芝樋ノ爪。
「大変良い勉強になりました」
「お疲れ様〜♪」
 そんな彼女の背を、コーダンテはぽんぽんと優しく撫でる。
 模擬戦は、A班の勝利に終わった。
 芝樋ノ爪と鯨井は、互いを援護可能な距離を努めて保ったものの、何分、先の時点で2対4となっていた。幾ら、二人がほぼ無傷であったとは言え、じりじりと追い詰められる事になってしまったのだ。
 全員が相応のダメージを受けていたとはいえ、A班の戦闘不能者は鯨井に狙撃された夜坂のみで、一方のB班は全滅。偶然にも助けられたとは言え、圧倒的だった。
 口元に手を当て、戦闘の記録を眺める鯨井。
「やはり、数少ない戦力を集中できなかったのが痛かったな」
「私も、お二人のどちらかに集中したほうが良かったかもしれません」
 続ける芝樋ノ爪。事実、あの時御門を集中攻撃していれば、体勢を崩していた御門は手痛い打撃を受けていた事だろう。
「流石にあの一瞬はひやりとしましたけどね」
 肩を竦め、モニターへ眼をやる榎木津。
「‥‥くぅ、無念!」
「負けは負けだからな」
 がくりとうな垂れる長門に、次に生かそう、とアレックスが応じる。
「上手くいかねえもんだなぁ」
 門松ブラスターを手に、サブナックは天井を仰いだ。
 双方共に、多少の不満が残ったのは確かだった。皆それぞれに戦術を練って模擬戦に挑んだのだが、それらを実際に用いる以前に、有利な戦いへ持ち込む事に苦戦した。
 サブナック自身も、距離毎に武器を切り替えるより早く、御門、夜坂の連携の前に撃破されている。
「戦闘は何があるか分からない‥‥」
 物静かに呟くアナスタシア。
 今回の模擬戦を一言で表すなら、彼女の言葉が最も的確だった。