●リプレイ本文
突然の出撃要請に、傭兵達は顔を見合わせた。
コーヒーを机に放り、ファルロス(
ga3559)が立ち上がった。
「クソ‥‥まだ機体の整備もロクに終わってないといのに、あちらから来てくれるとはな‥‥」
「‥‥頼まれてしまっては‥‥嫌とは言えません‥‥頑張りましょう‥‥」
ピラフで山盛りになったトレイが、目の前で湯気をたてている。
憐(
gb0172)は悲鳴をあげる自分のお腹を抱えながら、ふらふらと部屋を後にした。せめて幸いだったのは、自前の鰹節はまだ封を切っていなかった事だ。猫飯は、戻ってきてからの楽しみにするしかない。
「修羅場に巡り合わせた不運を呪うべきやら、はたまた立て続けに仕事にありつけた幸運を喜ぶべきやら、だな」
ニヤリと笑う黒江 開裡(
ga8341)。
「私は、シャワーぐらいは浴びたかったなぁ」
自分のべたつくシャツをはためかせ、ハルカ(
ga0640)はヘルメットを手に立ち上がった。
滑走路では、出撃の為にコンプレッサーや電源車が慌しく走りまわる。整備兵達は足りない時間で慌しく整備を済ませており、次々とエンジンが始動する。
「バグアも無粋だな。さっさと倒して藍紗の酌で一杯やりたいぜ」
「ふふ、良い吟醸が手に入っている肴も仕込んでおいた‥‥帰ったら存分に呑み交わすのじゃ♪」
格納庫の片隅で、緋沼 京夜(
ga6138)と藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)が身を寄せ合っていた。そっと唇を離したところへ、整備兵が飛び込んで来る。
「エンジンが掛かりました! 急いで下さ‥‥」
二人に気付き、整備兵は顔を赤らめ、ひょいと視線を逸らす。京夜とディートリヒも、ニャンニャンとイチャついてた所を見られて、気まずそうに苦笑した。
滑走路の数は少ないながらも、KVは次々と緊急離陸して行く。
「まったくもって笑えないですよね‥‥非戦闘要員の人たちは特に」
離陸のGによってシートへ沈む平坂 桃香(
ga1831)。
こういった状況では、基地にいるよりKVに乗って戦ってる方が安全だ。そういう意味から『笑えない』と彼女は評したのだが、とはいえ、戦う以上は手を抜くつもりも無い。
●接敵
彼等は出撃後、横二列に並んで編隊を組んだ。
そして、敵ワームとの接触はすぐだった。上空を飛ぶのは12機のヘルメットワーム。傭兵とは違い、上下左右に円形を保って接近してくる。
「敵の目的が解らないところが不気味ですね」
バイパーを加速させる櫻小路・あやめ(
ga8899)。
「緊急出撃とは少々厳しいですが、とはいえ、このまま接近を捨て置く訳にはいきませんね」
「やはり、狙いは基地でしょうか?」
彼我距離の数値にじっと眼をこらしながら、ソード(
ga6675)は鋭い眼を敵に向けた。二人のKVに搭載されているのは、K−01小型ホーミングミサイル。カプロイア製の非常識ミサイルだ。
「‥‥来るぞ!」
京夜が奥歯を噛み締めた。
「ラージフレアを撒きます!」
言い切るよりも早く、ハルカはラージフレアを散布した。直後、HWの先頭が光り輝く。
周囲の酸素を焼き尽くし、プロトン砲が空を裂いた。四筋のプロトン砲が編隊の只中を突っ切る。前回の戦闘で受けた損傷は、完全に修理しきっていない。こうした攻撃を受ければタダでは済まなかった。だが、彼等はこれを避けた。
「危ない危ない‥‥」
ホッと溜息をつく小鳥遊神楽(
ga3319)。彼女の機体は、傭兵たちの中でも元の損傷が酷い方だった。
「おおーぞろぞろときましたねえ‥‥倒しがいがありそうです」
ソードは編隊全体の位置関係を再確認する。
心配していた乱れは特に見えない。K01での先制を目指したいところであったが、射程距離の問題から、先手をとられるのは止むを得なかった。だが逆に言えば、相手の先制を避けきったのだ。
「こちらも発射準備完了です!」
「毎度お馴染みのカプロイアミサイル〜、盛大にいきますよ!」
通信機から響くあやめの声に、ソードは頷いた。
ディアブロとバイパーから、大量のミサイルが吐き出された。その数それぞれ250発。合計500発だ。ブーストにより最善のポジションを取り、可能な限り多くの敵機を射程に収めての一斉射。
大雑把なミサイル攻撃に比べ、二人の狙いは確かなものだった。何より、あまりに大量なミサイルを敵は避けきれない。
一気に撃墜とまではいかないが、相当数が直撃をくらって揺れ動く。
そして、そのミサイルに紛れ、広範囲に煙が広がった。
「上手くいきましたねぇ」
煙幕をばら撒いたのは、桃香の阿修羅だ。先のミサイルに紛れて突貫した彼女は、HWと自機を巻き込んで煙幕を張ったのだ。
敵機の眼を奪うと共に、自機の安全を確保する為である。
数で劣る以上、敵の攻撃能力を少しでも殺がねばならない。
「ここを抜かせる訳にはいかないから‥‥ここであたし達と踊って貰うわ」
突出した桃香は、どうしても敵の攻撃を招きやすい。
桃香に接近するHW目掛け、彼女はホーミングミサイルD−01を放つ。アンジェリカでは大きなダメージは期待できない。あくまで、牽制の為の攻撃だ。
ところが、眼前には多きな爆発が広がった。
先のカプロイアミサイルでの損傷が響いたのだろう、牽制で撃ったミサイルの当たり所でも悪かったのか、直撃を受けたHWは大爆発を起こし、エーゲ海へと墜落して行く。
「負けてられない‥‥か!」
開裡はディアブロに加速を掛け、敵編隊へ突っ込んでいく。
そして十分に敵を引き付け、迎撃体制をとらせておいてから、急制動を掛けて側面へと回り込んだ。周囲にカプロイアミサイルの第二派が舞う中、その攻撃に紛れ、短距離高速型AAMを発射する。
ディアブロの特殊能力を重ねたミサイルは超高速で敵機に突き刺さり、損傷していた敵を吹き飛ばした。
「残り10機!」
京夜のディアブロ改めスルトは、凄まじい機動性をもってしてHWに肉薄した。
すれ違いざまにレーザーを叩き込み、戦闘機動をとる。
だが――
「チィッ!」
スルトが振動に揺れる。
各種の戦闘機動は、元々、相手が同様の原理で空を飛ぶものであると想定して造り上げられたものだ。しかし、相手はヘルメットワーム。重力制御等という未知の力によって機動する。事前に想定していた戦闘機動の幾つかは、むしろ敵に有利にすら働いた。
彼の機体は、元々チーム内でも屈指の機動性を誇っている。無理に拘泥しない方が良い、彼はそう判断して機体を反転させる。
「さあ! 新兵器ヘビーガトリングの威力を見せてやるにゃ!!」
京夜に追いすがるHWに弾幕を張ってみせ、憐は吠えた。
この美しいエーゲ海にHWを墜落させるのは気が引けるが、そんな事を言っている場合ではない。彼女は容赦なく攻撃を加え、HWを撃墜した。
「サンキュ!」
「どうって事ないのにゃー」
「大丈夫か?」
ディートリヒの心配する声にも、京夜はガッツポーズをとってみせた。
「――っと、そんな暇は無いみたいだな」
ペアを組んでいるファルロスが、レーダー類を眼に舌打ちした。
カプロイアミサイルによる攻撃を受けていない一部のHWが、彼等の編隊の横合いへ回り込む。彼等が行った攻撃と同じように、一箇所に攻撃を集中しようと言うのだろう。
「そうは、行くか‥‥!」
岩龍から射出された試作型G放電装置が、HWの行く手を阻む。
「上手い‥‥! 取って置きじゃ、白光に消えよ!」
行く手を阻害され、G放電を避けようと無理な姿勢をとるHW。ディートリヒはその隙を見逃さなかった。SESエンハンサーを起動すると共に素早く距離を詰め、ディートリヒはM−12帯電粒子加速砲のトリガーを押す。
銃口が光ると同時に、HWが加速した粒子に貫かれ、爆散した。
凄まじい破壊力だ。
目立ったダメージも無かったHWが、一撃で破壊されたのだ。
●突破、包囲
「遅いですよ!」
笑顔の中に獰猛な意思を見せて、桃香は自機を跳ねさせた。煙幕の只中で阿修羅が回転し、プロトン砲に装甲を焦がしながらも、UK−10AAMによる攻撃を仕掛けた。
狙うのは煙幕の外で戦う敵機。
煙幕の中から煙幕の中へ攻撃を仕掛けるより、まだ命中力を維持できる。
(‥‥?)
写りの悪いレーダーに、桃香は眉をひそめた。
ミサイルはHWに命中した筈だが、それとは違う何かが――
「きゃっ!」
HWと接触しそうになって、彼女は慌てて操縦桿を引き上げた。視界の隅に、煙幕の中を突っ切る数機のKVが認められる。
「どうした?」
試作型G放電装置を射出しながら、神楽は通信機に呼びかける。
敵機が煙幕の中に飛び込んだと応じる桃香の声に、ハッと気付いて顔をあげる。飛び込んだ、と告げた桃香の通信に前後して、そのHWは煙幕を飛び出した。
「――ッ!!」
出会い頭、拡散フェザー砲に曝され、アンジェリカの機体が揺れる。
ダメージは軽微であったが、突然の事に機先を制され、機体正面に敵機を捉えられない。
「リヒターより各機、どさくさに紛れて逃げる火事場泥棒発見。追撃されたし」
正面からのすれ違いざま、開裡の3.2cm高分子レーザー砲が輝き、HWを焼く。逆に彼の機体にも、敵機からのガトリング弾が叩き込まれる。
「黒江くん!」
前衛のハルカが上空で一回転し、そのまま急降下し、ガドリング砲の弾丸をばら撒いた。エンジンから火を噴き、くるくると制御を失うHWを追い越し、彼女は機首を持ち上げる。
「まだ‥‥2機っ」
そんな彼女の機を追い越し、京夜が躍り出た。
「どこへ向かう気なのじゃ?」
「ディートリヒ、俺は良い、行け。岩龍でも数分ぐらい持つ‥‥」
元はといえばディートリヒはファルロスの直衛だ。
「解った‥‥逃がさぬ。重い機動でもやり様は幾らでもある!」
しかし、基地をやらせる訳にはいかない。彼女は小さく頷いて機を反転させると、HWの横合いからレーザー砲を浴びせ、反転。二回連続での射撃に、HWが爆発した。
彼女の機を追い越し、躍り出る京夜。
「逃がすか!」
「支援するのにゃー!」
アグレッシブ・フォースを発動した憐が追い縋り、ホーミングミサイルを放つ。
ミサイルの爆発に揺れながらも加速を緩めないHW。その下部に、コンテナにも見える何かが抱えられていて、彼女は首を傾げた。
「‥‥今の装備、対施設兵器では?」
正面HWとドッグファイトを繰り広げるソードとあやめ。空中戦に忙殺されながらも、あやめが懸念を口にする。キャノン砲による散弾に巻き込まれ、彼女のバイパーが傾いた。
「大丈夫ですか? あやめさん!」
ソードのソードウィングが、HWを真一文字に切り裂いた。
「つまり、あれを基地に向かわせたら困るんだろ!?」
京夜のディアブロが引き離されまいとブーストを掛ける。
ロケット弾による攻撃を叩き込みながら、更に加速した。
「SES機関、フルドライブ――喰らえっ、フォースブレード『レヴァンティン』!!」
全速力でHWの後方に喰らい付き、ディアブロ特有のアグレッシブ・フォースによる強力な一撃を叩き込む。斜め上方から切り裂かれたHWは、コンテナを破壊され、閃光と共に消える。
斬撃の体勢から機を起こし、整える京夜。
「残り四機‥‥!」
ハルカが機を起こし、スナイパーライフルでHWを叩く。
残る敵機は少ない。このまま一気に‥‥と誰もが意気込む中、ふいに、HWが視界から遠ざかっていく。短距離、傭兵達はこれを追撃して一機を更に撃墜したものの、基地から余り離れる訳にも行かず、追撃を中止した。
「最初のK01で結構なダメージを与えましたしね。数が減って強攻は無理と見たんでしょう」
基地への帰投途上、桃香はざっと残弾を確認する。
阿修羅に積まれていた127mm2連装ロケット弾ランチャーは一発も使用していない。というより、目立った損害も無く、煙幕が晴れる前にほぼケリがついてしまった。
「‥‥任務達成。基地司令殿へ、財布の紐を緩めて待っててくれると嬉しいね」
『流石だ。協力に感謝する』
基地への通信を終え、開裡はふうとシートに沈んだ。
とにかく、数こそ劣っていたものの、傭兵達は想像以上の戦闘力を発揮し、呆気ない程簡単にバグアのHW編隊は撃退された。
「今度こそシャワーをあびようっと」
「にゃー、憐も今度こそ食事にありつくのにゃー」
作戦も達成し、何気ない雑談を通信機で交わす傭兵たち。
「さて、もう一度補給を受けて、今度こそは帰りましょう」
あやめが微笑んで告げた。
敵を早々と撃退し、彼等は基地へ向かう。傭兵達は手当付きの報酬を得て、今度こそ基地で十分な休息をとった。会戦初期とは違い、HWと傭兵達の戦力差は、大きく狭まりつつあった。