タイトル:【DR】ヴォルガ防衛戦マスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/23 19:14

●オープニング本文


●ヴォルゴグラード攻防戦
 キメラの咆哮が響き渡った。
 ライオンにも似たキメラが群れを成し、榴弾砲の爆炎を潜り抜け、駆ける。
『栄えある人類兵士諸君! 同志諸君は人類の生存を掛けたこの最前線の地に――』
 拡声器から響き渡る声。一人一丁の使い捨てロケットランチャーを渡された兵士達が、瓦礫の裏に並ばせられた。
 拳銃を手にした将校が、声の限り叫ぶ。
「使い方は先程説明した通りだ。近距離から叩き込めば、命中精度にも問題無い。良いか! 遠距離から撃っては当たらない。接近して狙え!」
 明らかに未成年と解る少年兵から、老人同然の者、果ては制服の種類すら揃っていない。将校の言葉が正しいとすれば、武器の使い方を訓練してすらいない事は明らかだ。
「臆病者は容赦なく撃つ! 母なる大地に決して背を向けるな!」
 並ぶ兵士たちの顔面は、皆蒼白だった。
 寒さのせいだろう。多分。
「勝利か死か! 突撃!」
「ウラアァァァァァ!」
 その言葉と共に、一斉に瓦礫から飛び出す兵士達。
 同時に、瓦礫の上へ機関銃が並べられた。
 その突撃に気付いたキメラから、次々と火炎弾が放たれる。爆炎に視界がふさがる。キメラから放たれた火炎弾が兵士を空へ巻き上げ、辛うじて爆炎の中を突っ切った老兵士がロケットランチャーを持ち上げたが、振り下ろされたキメラの爪に、一撃で頭を叩き落された。
「くたばれえ!」
 だがその瞬間、その影から飛び出した少年兵が、ロケットランチャーの引き金を引いた。爆発に煽られるキメラ。その爆炎に巻き込まれ、腕をもがれる少年兵。
 さしもの一撃に、キメラが唸り声を上げ、一歩引き下がる。
 彼等ロシア軍兵士は死に物狂いであった。進めばキメラの犠牲となり、逃げ出せば機関銃が待ち構えている。
 行けども引けども、死神が鎌を手に佇んでいるのだ。
 だが少なくとも、前進すれば、そこに活路があるかもしれない。キメラを撃破すれば、死なずに済む。
「ハ、ハハ‥‥ざまぁーみろ!」
 自分の腕が無くなった事にも気付かず、少年兵はゲラゲラを笑い声をあげた。
 キメラはしょせん動物。獰猛極まりない。
 いや、動物よりも遥かに攻撃的、かつ獰猛だろう。
 しかしそのキメラさえもが、一瞬であれ恐怖を感じた。先の一歩は、本能的な恐怖が、キメラを引き下がらせたのだ。そしてその一瞬が兵士達の突破口となり、放たれるロケットランチャーが次々とキメラの肉を抉る。
 やがて、一匹、また一匹と、キメラは沈黙していく。
「今だ。続け! ウランデルマンションを奪回しろ!」
 旗を掲げた男が駆け出し、突撃故の混乱から態勢を立て直しつつあるロシア軍は、一路前進する。広場を抜けて前面の大型マンションを確保できれば、そこを拠点として敵を迎撃できる筈だった。
 しかし――
「‥‥何の音だ?」
 ふと、誰かが足を止めた。
 直後の事、何かが広場で炸裂して、周囲の兵士達を吹き飛ばした。パラパラと人の体が舞い上がる。連続して炸裂する榴弾。
「くそ! これ以上無理だ」
「退け退け!」
 一人、二人と戦場に背を向ける。
 それが引き金となって、退却する兵士達がドッと波となり、榴弾砲の炸裂に晒されながら引き退がっていく。
『退がるなぁ! 退却は裏切り者と見做すぞ!』
 拡声器を手にした将校の言葉が、広場に虚しく響く。
 そんな彼等の付近にまで、榴弾砲の爆発は広がっている。破片が頭上から降り注ぐ中、将校は枯れんばかりに声を張り上げる。
『戻れ! 同志諸君は人類に背を向けるのか!?』
『祖国への裏切りは断じて許さんぞ! 一歩でも退がる者は銃殺する!』
『人類の生存圏を守れ! いますぐ戦場へ戻――』
 榴弾の破片に、顔を裂かれる将校。
 微動だにせず、数名の将校が口々に拡声器で怒鳴る中、機関銃手が悲痛な叫び声を上げた。
「中尉、もうこれ以上は!」
「クッ‥‥撃て!」
「裏切り者を射殺しろ!」
 並べられた機関銃が、一斉に火を吹いた。



「――くそ! 失敗か!?」
「第八遊撃小隊、連絡途絶!」
「どんな犠牲を払っても構わん。何としても拠点を確保しろ!」
 慌しい作戦指揮所。
 将官や伝令に入り混じり、看護婦や政治将校、民兵や宣伝委員まで、ありとあらゆる人間でごったがえしていた。血と硝煙の臭いが入り混じり、鼻をつんと突く。そんな指揮所へと通された傭兵達は、激しい重砲音に耳を刺激されながら、戦場を見渡した。
「ご苦労!」
 傭兵達の前に、頭部に包帯を巻いた士官が姿を現した。包帯は右目を覆っており、じっとりと血が滲んでいる。
「まずは、集まっていただき感謝する」
 ピッと背筋を伸ばし、敬礼を飛ばす士官。
 歩み寄り、傭兵の一人に双眼鏡を渡す。
「向こうの丘だ。見てくれ」
「‥‥?」
 そっと双眼鏡を覗き込み、支持された方角へ向ける。
 灰色の煙に包まれた丘の向こうに、断続的な光が見えた。おそらくは、長距離砲の発射光によるものだろう。丘を越えて、曲射による間接砲撃を仕掛けてきているらしい。
「偵察隊の報告によれば、あの丘を越えた先に、タートルワームを改良した自走砲のようなワームが4機、配置されているとの事だ」
 士官は双眼鏡を受け取り、丘を指差す。
「かなりの砲撃だよ。奴等、我々の十八番を奪い取りやがったのさ」
 苦々しげに言い捨て、士官は帽子を持ち上げる。
「それでもだ。主力の到着まで、我々は何としてもこのヴォルゴグラードを維持せねばならん。しかしその為には、何としても前線に陣地を構築する必要がある」
 もはや言うまでもない。
 その陣地を構築する為には、敵の長距離榴弾砲がこの上なく邪魔なのだ。ロシア軍は市民兵やパルチザンまでも総動員し、付近の都市から次々と動員兵を送り込んでいる。
 だが、火力に劣る一般兵が戦う為には、どうしても堅牢な防御陣地が必要なのだ。
「動員可能なKVは8機だ。長距離砲の周囲には、多数の対空砲が配置されているとの話もある。そもそも、我々は制空権の確保すらままならん」
 状況は、圧倒的に不利。
 強攻すれば対空砲の餌食に、まごまごしていると敵迎撃機の餌食になるのだ。有利な条件といえば、敵タートルワームの動きが鈍いぐらいなものだろう。
 士官が振り向く。
 そして、静かに問いかけた。
「やってくれるか?」

●参加者一覧

ツィレル・トネリカリフ(ga0217
28歳・♂・ST
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
リーゼロッテ・御剣(ga5669
20歳・♀・SN
葬儀屋(gb1766
25歳・♂・ST

●リプレイ本文

「正直言って、あんまし目にしたくない光景なんですが」
 そのコックピットに立って、鈴葉・シロウ(ga4772)が呟いた。
「というかぶっちゃけ、旧い時代の悪い習いというかね」
「‥‥‥‥うん」
 夕凪 春花(ga3152)に至っては、軽口どころか、重い口を開く事すらままならぬ。者によっては、もちろん現状より更に酷い地獄を見てきた者も居よう。が、多くの場合、そこに広がっているのは『嫌な』光景だった。
「文字通り死守って事か。キッツいねぇ、どこも」
 ツィレル・トネリカリフ(ga0217)がヘルメットを被り、腕を組む。
 戦場を眺めるのもそこそこに、斑鳩・眩(ga1433)がインカムを手に、シートへ腰掛ける。整備兵が慌しく動いており、出撃まではあと十分も掛からないだろう。
「それで、作戦の事ですけど。指揮を執る気のある人は?」
『‥‥』
「んー‥‥居ませんか」
 ならば仕方ない。とりあえず臨時であるし自分がと告げる。適任者を探したいとは思うのだが、彼女とて、自分なりの基準が無ければ、流石に誰がとも決め兼ねた。


●前線支援
「それじゃ、宜しく頼むわ」
「こちらこそ。初陣ですが、確実に行かせて頂きますよ」
 鷹代 由稀(ga1601)の言葉に、葬儀屋(gb1766)が笑みを返す。
 鷹代のシュテルンが先を行き、葬儀屋のリッジウェイが続く。二人は、現地の軍に話を通し、橋を利用して河を渡った。八機もぞろぞろと動けば流石に混み合うし、それに何より――
「来ましたね」
 リッジウェイのモニタを見やり、呟く葬儀屋。
「他の皆が亀を潰すまで支えきらないとね‥‥」
 対岸の味方陣地。
 そこへは時折榴弾砲が撃ち込まれており、それに伴い、砲撃と砲撃の合間にはキメラ群が攻撃を仕掛けていた。つまり、ここへ無理に降下すれば敵からの攻撃に晒される。
 二人の目的は、味方の到着まで、可能な限り戦線を押し上げておく事だ。
「狙い撃ってちゃ追っつかないわね‥‥」
「前へ出ますか?」
「えぇ、そうさせて貰うわ」
 スラスターライフルを構えるシュテルン。
「解りました。では、こちらは援護に回りましょう。背後は任せて下さい」
 リッジウェイがその重厚なボディにスナイパーライフルを抱える。
 その動きに、シュテルンが加速した。味方の薄い場所へ、敵よりも早く到達する――加速する彼らのKVを見やって、周囲の兵士達は歓声をあげた。
「さって‥‥弾幕で圧倒させてもらうわよっ!」
 シュテルンの鋭利な機影が、曲線的なスラスターライフルを振り回した。
 数秒で、百発近くに及ぶ弾丸が次々と吐き出され、敵を撃ち砕いていく。俄然元気付く味方が、ここぞとばかり砲を持ち出し、敵陸上キメラ群へと砲火を浴びせる。が、無論、キメラとてやられっぱなしではない。何匹かの翼竜型キメラは、急降下で弾幕を突っ切って、味方の陣目掛けて飛び掛かる。
 そのキメラの脳天が、銃弾に穿たれた。
「‥‥味方をやらせる訳には行きませんね」
 葬儀屋だ。
 コックピットの中で照準機を覗き込み、一匹一匹を確実に撃ち貫く。安定性に優れるリッジウェイだ、その様子は傍目にも、不動のスナイパーが如く見える。こうなると、葬儀屋という一見不条理なその名さえ、どこか意味深だ。
 空からの強襲を掛けるキメラへは対空砲を、近寄る敵にはスラスターライフルをばら撒く。多少は反撃を受けようとも、リッジウェイの重装甲は難なくこれを弾き返す。
「やるじゃない」
 スコープシステムからひょいと眼を離す葬儀屋。
「いえ、それほどでも‥‥目の良さが取り柄、と言いまして」
「‥‥そう?」
 コックピットで笑顔を浮かべ、鷹代はペダルを踏み込む。
 軽やかなステップを踏むシュテルンが両の脚でアスファルトを踏みしめて、スナイパーライフルを掲げ持つ。モニターに浮かぶ照準。やや暗いコックピットの中、彼女の眼前に浮かび上がる十字。
「‥‥狙うは一点‥‥アルヒア、目標を狙い撃つっ!」
 一筋に伸びる光条が、ゴーレムの腕を撃ち砕いた。
 腕を撃ちぬかれようとも、今更勢いを殺せぬゴーレムが接近する。その甘い動きを、彼女は見逃さなかった。
「この距離なら――当たれぇっ!」
 シュテルンが腕を掲げる。
 機体各部の翼が稼動し、機がブーストを吹かす。三点バースト。3.2cm高分子レーザー砲による速射がゴーレムの胴体に突き刺さる。がくりと一拍を置いて、ゴーレムは地に倒れ込んだ。


●接近
 KVが六機、空を駆ける。
「さぁてと、上も下も弾幕だらけ。あとは亀さんと来た‥‥花火の中に突っ込むよ!」
 斑鳩は口端を持ち上げ、くつくつと喉を鳴らす。
 近接信管式と思しき対空砲の弾丸が飛来しては、炸裂する。対岸の敵陣地から撃ってきているようだが、正直この距離だ。狙って当たるような事は無い。怖いのはまぐれ辺りぐらいなものだろう。
「ヘルメットワーム1、キメラ4。来る‥‥!」
「着陸前に、少し始末しますか?」
 リーゼロッテ・御剣(ga5669)の言葉に、鈴葉は敵機を睨み据える。
「やってしまいましょう。降下時を狙われるのはおいしくない」
 斑鳩がそう告げてラージフレアをばら撒くや、彼らは散開し、直進する敵機の勢いを受け流してやり過ごす。反転。敵機の尻へと、喰らい付く。
「可愛いお尻が見えてますよ‥‥っと!」
 斑鳩のR−01が、キメラの背後へと回り込む。
 至近距離へ接近してのレーザー砲に、慌てて羽を震わせる翼竜。その動きが乱れたと見るや放たれるホーミングミサイル。複雑な機動を描くそれは、翼竜を確実に捉え、粉砕する。
 幾ら高空優勢が敵の手にあるとは言え、眼下には友軍が並んでいるのだ。敵とて、自由に動きまわるという訳にはいかなかった。
 であれば、この程度の相手、彼らの敵ではない。
 次々と攻撃を受け、落下していくキメラ。
「ここは、オマエ達の空じゃない‥‥」
 リーゼロッテのディアブロ――そのエンジンが唸る。
 敵はおそらく、彼女の素早い反応に対応し切れなかったのだろう。残ったヘルメットワームもまた、すれ違い様のソードウィングに切り裂かれて火を吹き上げた。
「今よ! 敵が失せた!」
 斑鳩が吼える。
「了解です」
 鈴葉の雷電が、煙幕を辺りへと射出する。吹き上がる煙に、視界が覆われる。
「先、降ります!」
 夕凪のシュテルンが真っ先に陸上へ向かった。
 VTOL機能を活用し、空間に囚われる事無く降下する夕凪。陸上では鷹代と葬儀屋が前線付近に展開しており、彼女達後続が狙うのはそのやや後方。味方勢力圏のギリギリといったところ。
 弾幕の飛び交う中、煙幕に紛れて、夕凪はシュテルンを着地させた。
 すかさず武器を手にさせ、降下地点へと迫る航空キメラへと攻撃を加える。
 先発二機を含めた友軍も攻勢を強めており、幸いにも対空砲の類が前進していないのか、攻撃はあくまで散発的だった。余裕は十分。彼女達はキメラによる散発的な攻撃を無視しつつ、比較的広まった場所へと次々に降下着陸して行く。
「‥‥初めてだね‥‥陸で戦うの‥‥頑張ろうね、イシュタル」
 いずこかより湧き上がる恐怖が、リーゼロッテの肩を小さく震わす。
 戦いが嫌いな、それでも飛ぶ事が好きで、そんな彼女が始めての陸戦を前にする。
「ひとりでも多くの命を救う為に‥‥!」
 ドンと腹の底へ響く振動、着陸。
 直後には、先程の震えは既に霧散していた。
「よし、それじゃ行きますか!」
 鈴葉の雷電が、ここぞとばかり最前列に立つ。
「こちらは任せて下さい」
「頑張ってきてね」
 鷹代や葬儀屋が、銃を放ちつつ背中で声を掛ける。
 降下した機が一箇所に集まり、タートルワームの配置されているであろう方角を目指し、一斉にビルの合間を抜いて行く。


●貫く
 味方機後方に位置し、アンチジャミングを展開するウーフー。
「ES−008、お前の速さはどんなもんだ?」
 トネリカフは、己のウーフーに語りかけるようにして、操縦桿を握り直す。
 先発隊二機の保持する戦線を抜ければ、そこから先は激戦へと、敵の戦線へと浸透していかねばならない。
 味方の射程から外れるに従い、敵の数は増す。
 鈴葉の雷電が、大型のブースターを展開し、跳ねる。
「なんのぉ!」
 運動性とすら呼べぬような、無理矢理の機動が敵の攻撃を逸らせ、避けられぬと見るや、機盾「レグルス」が敵の攻撃を弾き返す。そのまま、攻撃を仕掛けてきたライオンのようなキメラ目掛け、体当たりをかました。
 フォースフィールドを前にダメージを与える事こそかなわぬが、その推進力が生む衝撃力は凄まじかった。
 ぬいぐるみのようにキメラは弾かれ、慌てて体勢を立て直す。
「悪いけど構ってる暇は無いのだよー!」
 すれ違い様、獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)のシュテルンが顔面を蹴り飛ばした。
 そしてそのまま、彼に限らず、全員、一直線に走り抜ける。雑魚に構っている暇は無いのだ。
『ゴーレム、来るぞ!』
 トネリカフの言葉が通信機より響く。
「集中砲火で一気に叩き潰しますよ?」
「速攻で行きます!」
 斑鳩の言葉に、夕凪が元気に応ずる。
 こちらの意図に気付いているのか否か、とにかく、そのゴーレムは彼らの眼前に立ちはだかった。突破せねばならない。
 幅広の刃とシールドを掲げるゴーレム。
 彼らは少し隊を散らせると、射撃武器を生かした弾幕を展開し、ゴーレムの装甲を削る。その中を、ツインブレイドを手に突っ込む、夕凪のシュテルン。
「‥‥来る!」
 大上段より迫るゴーレムの刃を、ツインブレイドが切り払う。
 反対側の刃が、そのままの勢いで、ゴーレムの胴体を薙いだ。胸部装甲を破裂させ、ビルの中へ沈み込むゴーレム。
「どいてて‥‥!」
「あと少し、気合で突っ切ろうか!」
 斑鳩の大声が、通信に走った。


●丘を抜ける
 ぺろりと唇を舐める斑鳩。
「さぁてと‥‥あとは気合かな」
 丘の裏に展開する四機のタートルワームの甲羅には、大型の砲が備え付けられており、周囲には多数の対空砲やキメラが点在している。傭兵達はそれでも、タートルワーム目掛けて一斉に襲い掛かった。
 水平射撃の対空砲。それによる被弾に揺れるウーフー。
「くっ、てめえの弱点は割れてんだぜ、鈍亀!」
 トネリカリフは、3.2cm高分子レーザー砲を掲げ、射程距離一杯からそれを放った。事実、タートルワームは鈍重だ。およそ70m前後の距離から次々と弾丸をばらまくが、一発とて外れる事は無い。
 ただ、幾らタートルワームが知覚兵器に弱いとは言え、数発の直撃弾で撃破される程でも柔では無かった。
「チッ、まだ動けるのか!」
「一匹一匹確実に行きますよっ」
 鈴葉機が突貫する。
 スラスターライフルのチェーンが回る。次々と吐き出される鋼鉄の弾丸が、タートルワームの甲羅に弾かれ、或いは柔らかい肉を引き裂く。一機が、大きな音を立てて地に伏した。
「怖い‥‥だけどアレを止めなきゃもっと多くの犠牲が出る‥‥」
 リーゼロッテが呟く。
 ディアブロが小さな金属筒を掲げて、地を蹴った。
 迎撃の為、彼女を正面へと捉えるタートルワーム。一瞬、彼女はプロトン砲を警戒して盾を掲げさせたが、しかし、タートルワームは撃ってこない。
 敵が放つのは、胴体各所に装備された小口径砲だ。
「‥‥違う! 榴弾砲だ、プロトン砲じゃない!」
 敵機をヘビーガトリングで押し返しつつ、獄門が声を張り上げた。
「なら‥‥!」
 畏れるべき大火力は、敵には無い。
 タートルワーム搭載されていた砲が、長距離を狙う曲射砲であったのは誤算であった。が、誤算は誤算でも嬉しい誤算だ。
 彼女は一気果敢にタートルワームへ接近し、雪村を振るう。
「イシュタル、力を貸して! マニューバ! いっけえぇぇぇっ!」
 直撃だ。
 タートルワームの前脚が一刀の元に寸断される。
 地を震わせて崩れるタートルワーム。二撃めの練剣が、その頭部へ深々と突き立てられた。
「次‥‥!」
 練剣雪村の練力消耗は激しい。二回も用いれば、練力は底を突く。残りは、離脱用に温存しておかねばならない。反撃とばかりに、迎撃弾を浴びせるタートルワーム。シールドを掲げる彼女の背後から、斑鳩のR−01が躍り出る。
 軽いステップに引き寄せられ、タートルワームが機関砲から弾丸を吐き出す。
「こちらに集中しすぎですっ」
 その隙を狙って、集中砲火を駆ける傭兵達。
 甲羅で銃弾を弾きつつも、榴弾砲の基部に攻撃を受け、タートルワームが大爆発を起こした。
「残り一機‥‥っとお!?」
 辛うじて銃弾をかわし、斑鳩が奥歯をかみ締める。
「援軍か。このままじゃ包囲されるぞ!」
 トネリカリフのウーフーが、レドーム部に銃弾を受ける。
 幾ら敵の狙いがいい加減と言えど、これだけ数が揃えば流石に全て避けきるのは無理だ。塵山だ。少しずつだが、無視できない損傷が積みあがる。
「まだですっ」
 それでもなお、夕凪はペダルを踏み込む。
 シュテルンの鋭角な機影が、戦場の中央を突っ切った。
 PRMに、練剣「白雪」が重なる。
 Vの字を描くように、振り下ろした刃が再び空へ向かって走った。炎を吹き上げ、崩れ落ちるタートルワーム。ただの二閃で、その巨体を轟沈せしめたその破壊力は本物だ。
 リーゼロッテのディアブロと比べ、シュテルンは知覚攻撃にも向く。
 何より、白雪の消費が少ない為に、機体の特殊機能を生かす余地があった。
「やった‥‥!」
「急いで! 離脱するわよ!」
 斑鳩の声。
「長居は無用、ですね」
 応じて、夕凪はブーストを掛ける。
 虎の子のタートルワームを叩き潰され、追撃を掛ける敵軍。彼ら傭兵の最後尾に、雷電が立ちはだかる。
「背を狙うなんて趣味悪いよ?」
 攻撃を避けつつ、スラスターライフルで牽制する鈴葉。
 敵からの少なくないダメージを受けつつも、辛うじて彼等は、敵地を離脱した。


●それでも
 後方に下がった傭兵達は傷ついてボロボロになったKVからゆっくりと下り、野戦テントの下でヘルメットを脱いだ。ロシアの冷たい風が、頬を撫でる。
 榴弾砲の雨は、止んだ。
 それでも戦闘は、続いている。
 正規軍には正規軍なりの、堅実な戦い方というものがある。おそらく、陣地は確保されるし、前線も押し上げられるだろう。とはいえ――
「‥‥」
 黙って、辺りを見回すリーゼロッテ。
 うずたかく詰まれた死体袋が、トラックへと積み込まれていく。彼女は、ふと花をと思って辺りを見回したが、冬のロシアでは、送る為の花すら見当たらない。
 小さく、獄門が溜息を吐いた。
「この身が能力者で、鋼鉄のKVに包まれているのが幸運なのか。適正が無ければこの歳で戦場へ出る事も無かった不運なのか?」
 少年兵の上半身だけが、遺体袋へと収められる。
「あの少年兵と獄門の何が違うのか‥‥Scheisee!」
 クソッたれと一言呻いて、彼女は押し黙った。