●リプレイ本文
●最終回「木星沖決戦!」
宇宙を染めるほどに居並ぶキメラの群隊を前にワープアウトする、七つの光、人類の希望と言えば聞こえは良いが、結局体良く利用された者達だ。
「元々自由のなかった私達が、人類のために?」
呟くのは、高瀬・由真(
ga8215)。
イーリス・クラウディア(
ga8302)が、応じた。
「護りたいという想い、それだけあれば戦う理由には十分だ」
戦いに臨む想いはそれぞれだ。
皆、それぞれに想いがある。当然だ。生きた人間なのだ。たとえ如何に強大な力を持っていようと、人間には、皆違う想いがあるのだ。それが生きている証だ。
続いて一際巨大なワープホールが輝く。
人類の建造した中でも最大級のサイズを誇る、超弩級生体戦艦ヱセリヲン――正式名称、まほろば。
数十キロを優に超える全長。だがその超巨体の甲板に、人影がある。
ただ一人、セーラー服を着たネコミミの少女が、生身のままで、腕を組んでの仁王立ち。コアユニット、熊谷真帆(
ga3826)である。なぜか宇宙ではためくスカートからは、ビキニ水着がちらりと覗いていた。
●突撃!
勢揃いし、キメラ群へ向って加速するユニヴァースナイツ。その先頭は、真っ赤な機体が切る。
「人の命は明日への希望!」
銀野 らせん(
ga6811)が愛機、グレンラセン。
全身これ武器と言わんばかりの、巨大なドリルが、この機体の全てを物語っている。
「道理を蹴飛ばし無理を通す、壁があるなら突き破る! それがあたしの螺旋道!」
機首手脚に伸びるドリルが、太陽の光に輝く。そのドリルが、突如閃光を放ち、巨大な一本へと伸びる。
「あたしを誰だと思ってるのよ!!」
キメラには知る由も無い。
仲間と思われた一群が向ってくる、だが、彼等は敵対している。キメラは思案もしなかった。ならば反撃する、反撃して、我々の事を伝えるのだと。宇宙空間に一筋走るユニヴァースナイツを前に全ての砲門を解放する。
だが、らせんに容赦など無い。
キメラをむざむざ地球へ向わせる訳にはいかないのだ。
「必殺‥‥テラ‥‥ドリル‥‥!」
敵の出鼻を挫くには、その巨大なドリルが敵の群れを引き裂くのみ!
「クラッシャァァァァァッ!!」
――我々の意志を知れ。
何かの声が響く。
――我々は仲間ではないか。
「人類を滅ぼそうとする限りはッ!」
らせんの咆哮が、響き渡る。
だがその咆哮さえも掻き消すような、ミサイル、弾幕が嵐を呼ぶ。
「いきましょうかイーリス。全てを護るために」
「無二の戦友である由真と共に、奴らを倒すっ!」
続く由真、イーリスのタッグが、あらん限りのミサイルを放ち、全力で後に続く。全力、全開の弾幕はキメラの迎撃さえも掻い潜り、次々と奴等を駆逐する。
「久しぶりのシャバの空気はうまいね‥‥いやいや、宇宙に空気が無いなどと不粋なことは言わないでくれたまえ」
「コォォォル! ディアブロォォォ・マァァァァックスヒィィィィトッ!!」
「さて、行きましょうか‥‥」
ドリルに弾幕が敵陣を打ち砕き、続く二機が敵の掃討を狙って突入する。
片や、The SUMMER(
ga8318)。KVこそ一般的なものであるが、一際眼を引くのはその得物。黒塗りの巨大な太刀が一筋のみ。もはや、達観の域である。「炎神装甲発動! バリバリに燃えてやるぜ!」
片や、火茄神・渉(
ga8569)。典型的なゆとり世代。ゆとり世代が社会問題化してより数百年。ゆとり世代は2XXX年の現在において尚健在‥‥だが今は、それこそが彼の武器。難しい事を考えるのが苦手なら、考えなければ良いのだ! ゲームと同じ事、ゲーム脳と呼ばれようと何のその!
そして、セラ・インフィールド(
ga1889)。優しげに呟く彼の機体は、高速に最大級の防御を兼ね備え、味方の援護へと回る。
ユニヴァースナイツは、全てを蹴散らして敵陣の中央へと向う。その勢い、力強さ、それは、後方に待機する人類艦隊にとっても、勝利を予感させた。少なくともこの時までは‥‥。
●覚醒!
由真、イーリスの二機が絡まるように宙を舞う。集中的な砲火に晒される二機、こここそが、キメラ軍団の陣地中枢。
「「合・体!」」
複雑な変形機構を経て、新たなKVが姿を現す。
コックピットは一つとなり、膨大な火器管制を始めるイーリス。由真が、格闘用の新たな操縦桿を握り締める。これぞ、真の信頼が為せる操縦だ。
「言っておくけど、私は相当の悪食だからね!」
攻撃はフルスロットル、容赦しない。
「高分子! レェェェザァァァァァッ!」
KVの全身から放たれた光が、並居るキメラを薙ぎ払った。
一方のThe SUMMERもまた、キメラの攻撃に晒され、或いは長時間の戦闘に、機体が大きなダメージを受けつつあった。
「どうした、これでは準備体操にもならんではないかね!」
それでも彼女自身は余裕綽々としている。
彼女自身はまだ戦える、そう、彼女の刀身にヒビが入った今でもだ。
「くくく‥‥そうか、お前達は私の全てを見せるに値する者なのだな!」
引き剥がすかのように、己の仮面を握りつぶす。
痛々しい火傷跡を晒す事に、躊躇は無い。コックピットに揺れる金髪。瞬間、黒太刀が光り輝き、弾け飛ぶ。巨大な、機体の何倍、何十倍もある巨大な刀が、新たな姿、真の姿を現す。
まだまだ、これからが本当の戦いだ!
「切り裂かれて塵となれッ!!」
ひと振るいが、何百というキメラを巻き込み、切り裂いた。
「超銀河グレンラセェェェン!」
数多のドリルで敵を切り裂き、グレンラセンは一直線、大型廃艦へと突っ込んでいく。数秒の沈黙、そして、廃艦のエンジンが回転する。死んでいた艦だ。エンジンは、グレンラセンそのもの!
艦艇外壁を突き破り、巨大なドリルが表れた。
●離反!
「人類の絶滅?」
一機だけ、たった一機だけ、KVが動きを見せぬ。
「‥‥上等じゃねぇか、こちとら無理矢理とっ捕まって、やりたくもねぇ訓練って名の虐待受けた挙句に、危険だからって地下の狭苦しい部屋に閉じ込められてたんだ‥‥手前ェらの都合だけで使い捨てられてたまるかってんだ!」
コックピットに、叫び声が響く。
風羽・シン(
ga8190)。今まで彼に叛乱の兆候が見えなかったのは、彼自身の超人的な精神の賜物か。だが、最早仮面を被っている必要は絶えた。
キメラと手を組んで、何が悪い。
――そうだ、我々は仲間だ。
彼の狂気を、キメラは肯定した。
ディアブロが動いた。キメラの群れへ向い、固体へと突っ込んでいく。だがしかし、それは攻撃の為では無い。
ブレインジャック――あくまで生態兵器であるキメラへ精神的な支配を仕掛け、その身体を乗っ取る。数を補うために発案されたこの機能が、今となっては人類の仇!
ぐるりと反転したキメラが、光球を連発する。狙われたのは、The SUMMER。
「何っ!?」
裏切ったか、と気付いても、もはや遅い。
直撃コースの奇襲が、彼女の機体へと襲い掛かり、そして‥‥直撃の寸前に、弾け飛んだ。気付き、眼をあげる。そこに、セラの背中があった。
最強の防御力を持つ彼の機体が、爆発的なスピードと共に滑り込んだのだ。
「やらせはしません!」
「チッ‥‥」
舌打つシン。
だが、セラは問わぬ。
何故とは、問わぬ。
The SUMMERもだ。
自分とて、一人や二人の為に、ついでに世界を救うだけだ。悪い気分でもないから、気が向いたからやる気になったのだ。
自分達をこんな風に扱った奴等が憎い――それは、解る。解るが、解るからこそ、同調もしない、戦って決着を付けるしかないのだ。もはやここまで来ている、一生に一度の戦いを命じられて木星くんだりまで来てしまっている。
妥協をする必要が、どこにあるのか!
●復讐!
「奥義! いくぜ!」
マックスヒートの拳が、燃え上がる。宇宙空間であろうと、それすらも無視する、彼自身の気力が、その拳を輝かせた。
「極・滅・業・炎!!」
振り回される炎が数多のキメラを燃やし尽くし、シンの本体へと迫り行く。
「やるじゃないか‥‥だがな!」
キメラは無限とも思えるほどに大量だ。それにまだ、キメラには母艦がいる。この母艦を取り込めば、まだ、最後の一戦を交えてみせる。シンのキメラが母艦へと突き刺さる。
ジャックした。
母艦といえど、基本は同じだ甘い!
シンにとっては、人類の殲滅こそが、その目的――まて。シンは動きを止めた。自分の目的は、復讐ではなかったのか、殲滅は、キメラにとっての目的。
(復讐‥‥殲滅‥‥)
頭の中を、思考が駆巡る。
まずい、と気付いた時には、既に遅かった。
声にならない雄叫びを、彼はコックピットに響かせた。接触時間が、長すぎたのだ。どちらがキメラで、どちらがシンであったのかが、自分に解らなくなっていく。
彼の錯乱は、彼に統率、融合されたキメラの最期でもあった。
やたらめったらに攻撃を仕掛け、自分と他者の見境すらも付かない。油断。隙が生じた。
その異変に、セラが気付いた。
体当たりで切り裂いたキメラを突き抜けて、母艦を見る。
「母艦です、まほろばより冥王星の方角!」
一瞬だけ確認できた母艦。だがその周囲へ、キメラの群隊が集結していく。
母艦を討たせまいとの自動的な反応か、それとも別の意図があるのか、それは解らない。だが、このままでは直接攻撃する事が出来ない。
「クッ!」
「諦めるな、突破口を開く!」
「全方位敵だらけ‥‥倒し放題だな」
ユニヴァースナイツから、突貫する、由真とイーリスの、二人。
一心同体、守りたいものの為、覚悟は既に済んでいる。
加速するKVの後方、まほろばが砲門を開く。甲板の直上、真帆が手を下す。
「紅蓮衝撃砲!!」
射線上の小惑星までも吹き飛ばし、数多の光線がキメラを炎に飲む。露払い、露払いだけでも十分だ、キメラの群れに生じた隙を見て、由真が叫ぶ。
「レェェェッグ!」
「ドォリルゥゥゥ!」
合いの手で応じたイーリスの声が響いた。
「「キィィィィィィィィィック!!」」
一閃!
もはや、機体が保たない。一筋の閃光はキメラの群れを引き裂きながらも、瓦解していく。SESドライブが、二機分同時に、オーバーロードを開始する。
「‥‥どうせ私には帰りを待つ人などいない。人類を護るという誇りと共に、ここで死なせてくれ」
「お互いに家族や恋人がいなくて幸いだったわね‥‥イーリス、最後まで一緒だから、一人じゃないわよ‥‥」
「友と一緒に逝けるなら、それも悪くない‥‥か」
●殲滅!
巨大な閃光が、キメラ群の中央に光った。
「‥‥リミッター、カット」
セラは、静かに告げる。
仲間の死は無駄にしない。光の羽がKVから広がる。母艦までは一直線、二人が穿った道筋がそこに残っているのだ、何を迷うものか!
今度は、真帆の戦艦が道を作る番だ。
この巨体であれば、敵の攻撃になど、幾らでも耐えてみせる。
「艦首ヴィア展開ッ!」
ワープではない、通常航行での加速。
その後ろを、セラや渉が続く。艦艇特攻と言って、差し支え無いだろう。一直線、二人が過ぎた道を、まほろばを押し立て、ユニヴァースナイツが突進む。まほろばそのものを狙う集中砲火。
だがその全てを、セラの光の翼が弾き、自らの機体を盾に防ぎきる。
もはや、誰がこれを止められる!
ヴィアが、キメラ母艦に深々と突き刺ささる。
『目覚めよ、君は間違っている、我らは仲間だ』
途端に、声が響いた。
『君が討つべき相手はあれだ』
振り返る、真帆。
木星の影から顔を出すのは、地球。神々しいまでの、地球の出。
キメラ母艦は言う。あの地球を、我々にこんな仕打ちをした地球を滅ぼすほどの兵器が、その艦腹に備え付けられているのだ、と。
「――はっ!?」
意識が、現実世界に引き戻される。
ぐっと腕を古い、キメラ母艦からの後退。
「これでトドメだぁぁぁ! 極炎獣牙突ッ!!」
渉の怒号に乗せて、マックスヒートの全身が炎に包まれる。母艦の、急所を狙う。どこか、それを、セラが知らせた。オーラを纏い、ウィングバインダーから輝く羽を羽ばたかせ、渉の眼前に現れる。
言葉を交わさなくとも解る。
掴まれという事だ!
二機が、キメラ母艦へ迫る。
光に埋まる視界。シンが、寸前に何を思ったか、それは解らない。それは彼だけの感情だ、自由の無い身体でも、ただ一つ自由を得られた、感情だ。
紅と蒼に染まる二機が、キメラ母艦の核――コアを、残された、シンのディアブロを、一撃の下に貫く。
そして全てを貫いて、突破した渉と、セラ。ただ一直線に、初めて自転車に乗った時、嬉しさのあまりに、思い切りペダルを踏んだ時のように、広々とした宇宙(そら)を見つめながら。
キメラ母艦は胴体を捻る。
そしてぴたりと動きを止めた。
直後、周辺のキメラ全て、そして母艦が、連鎖的に爆炎を吹き上げ、塵と化していく。
キメラ――殲滅!
●明日!
残されたユニヴァースナイツの前に、人類艦隊がワープアウトしてくる。
大人しく帰還せよ、と呼びかける声が、今は虚しい。
「‥‥」
真帆は甲板で一人、思案した。
キメラは地球こそ敵と言った。
だが、キメラは既に無く、そしてそう、もっと冴えた方法がある。今、自分の号令一つで地球を吹き飛ばす事も出来るのだ。
だが――
「私達は、自由を要求します」
セラが、告げる。
「この切っ先が諸君らに向くかもしれん、と言っているのだ」
The SUMMERが、満身創痍をものともせず、剣を構えた。
「軟禁も構わないけど、好きにできる方が楽しい、のかなぁ」
「私も賛成。今から戻るのもね」
渉にらせんの言葉が、続いた。
『そんな要求は断じて認められない!』
相変わらず、艦隊はぎゃいぎゃいと理不尽な言葉を並べている。
だが、だからといって、仲間達が死力を尽くして守った地球を、今更破壊できるだろうか。
「仕方ないですね。僕が時間を稼ぎま‥‥」
セラの前に、真帆が艦艇を割り込ませる。
さんざん庇ってもらったセラを、最後まで盾にするのは、後味が悪い。
私も、超銀河の方は棄てても良い、とらせんが補足する。本体さえ無事なら、どうとでもなる。
皆、コックピットで頷く。
「喧嘩両成敗これ最強!」
真帆は、人類艦隊目掛けて叫ぶ。
らせんの超銀河部分が廃棄され、加速する。ブラフに慌てて右往左往の人類艦隊、そして、まほろばのワープ。
ユニヴァースナイツは機体ごといずこかへと消えて、今はどこかへ旅立ったか、それとも社会でこっそり暮らしているのか――木星沖決戦に知られる事実は、これが全てである。
それでも、ひとつだけ確かな事がある。
一度鎖を断った彼等が、再び鎖に繋がれる事は無いという事だ。
彼等は、なぜならば――
完