●リプレイ本文
●探索開始
―― AM9:00 犯行予告5時間前 ――
集まった能力者達は、UPC南中央軍の駐屯基地でブリーフィングを行っていた。
「軍曹、お願いがあるのです」
シーク・パロット(
ga6306)がまず切り出す。
「テロが行われたら、出来れば軍の人達にも避難誘導の協力をお願いしたいのです」
「了解した。こちらも上官より諸君らに協力するよう命令を受けているので、喜んで協力させて貰おう」
「それは話が早いですね。よろしければ無線で連絡を取り合う時には事前に咳払いをするなど、合図を決めておきませんか?」
優(
ga8480)の提案で、連絡時には合図の咳払いを行う事も決定し、軍から市内の地図と下水道関連の資料も入手出来た。
担当分けについても話し合ったが、明確にA班、B班と分ける事はなかった。
―― AM11:00 犯行予告3時間前 ――
市内に到着した能力者達は、貰った地図を元に分散して市中の探索を始めた。
(「自己顕示欲の強いヤツ程、目にも驚くものを見せたがるか‥‥」)
南雲 莞爾(
ga4272)は黒き炎という人物像に思いを馳せながら、下水道の探索を行う。
しかし、今の所不審人物や怪しげな物品などは発見出来ておらず、ただ時間だけが浪費されていく。
(「この依頼が終わればシャワーを浴びないとな‥‥」)
南雲は下水道の臭気に咽びながら、ここは探索候補から外しても良さそうな気になっていた。
一般人に紛れるにしても、汚水臭を付けて街を歩くという不自然さは通常考え難く、自らの体にマーキングする愚は冒さないであろうと予想されたからだ。
「(咳払い)こちら南雲。異常なし。表に出て路地裏探索に向かう」
神浦 麗歌(
gb0922)も南雲同様、下水道探索を行っていた。
右手にスコーピオン、左手に懐中電灯を持って念入りに探索するが、人が入れる大きさの場所と言うのは意外と少なく、比較的早い段階で探索が終了してしまった。
「地図に載ってない道とかに潜伏してたら見つかりっこないですね‥‥」
「(咳払い)神浦です。こちらも異常なしです」
クリス・フレイシア(
gb2547)も同様に下水道探索を行おうとしたが‥‥汚水臭に鼻をつまみ入る事を断念した。
「(咳払い)こちらクリス。下水道探索は二人に任せて、僕は路地裏の探索に向かうよ」
月村・心(
ga8293)は建物の屋上に陣取り、双眼鏡を使って上空から周囲を探索していた。
特に高所に人影がないか注意を払う。黒き炎も同じように高所から様子を窺っている可能性もあるからだ。
「(咳払い)月村だ。今の所不審者はいないようだ。引き続き探索を続行する」
優はパレード参加車両にキメラが紛れ込んでいないかを入念に調査していた。
もちろん一人では大変なので、しっかりと車両整備班にも応援を要請済みである。
「すいません、こちらの車両は完了です」
「了解しました。何かあればどんどん言って下さい」
彼女は整備班の間でアイドルとなっていたようだ‥‥。
シークは不審者の探索を行いつつ、有力な避難民の誘導先の選定を行い、八神零(
ga7992)と陸 和磨(
ga0510)も探索を悟られないよう抑えた感じで市内を見回っていた。
●テロリストVS傭兵1
―― PM13:59 犯行予告1分前 ――
探索の甲斐も無く不審者を捕らえる事は叶わなかったが、警備上の要所の割り出しや避難場所の確保といった基本的な部分を押さえる事には成功していた。
「あと1分‥‥」
店舗に設置された時計を見た神浦は、今一度自分の担当区域全体を見回した。
「絶対に死者を出さない‥‥」
そう言って気を引き締め、周囲の警戒を強めた。
―― PM14:00 犯行予告時刻 ――
テロリストには決して屈しないという精神を誇示するかのように、軍事パレードは予定通りに市内を通過して行く。
丁度先頭車両が街道の中央に差し掛かったころである‥‥
突如花屋をはじめとした店舗数店が爆発したのだ!
「きゃー!」
「何だ何だ!?」
楽しいはずの休日が、たちまち阿鼻叫喚の世界へと一変した瞬間であった。
「落ち着いて、近くの兵隊さんの指示に従って欲しいのです!」
シークをはじめとした能力者達は、すぐさま避難誘導に入った。
「フン、所詮テロリストめ‥‥」
どれ程崇高な思想や信念があっても、過激な事しか行えない彼らに失望の色は隠す事は出来ない。
「(咳払い)軍曹、手筈通り避難民誘導はお願いする」
「(咳払い)了解だ、既に指示は出している。キメラの方は任せる」
軍に避難誘導の確認を済ませた月村は地上に降りており、避難誘導と逆進する怪しい人物がいないかをチェックする。
パレードの車両の中で、Knight Vogelを3機搭載した大型トレーラーは、テロが発生すれば市内より至急撤退せよ! という命令を受けていた。例え1機たりともキメラによって破壊される事は絶対に容認出来ない為である。
緊急事態を察知したトレーラーは撤退行動を取ろうとした。
ボトリ‥‥
その時何かが車内に飛び込んで来た。
事態を把握したパレードの車両が次々と停車していく中で、大型トレーラーだけが停車せずに前方の戦車へと、ノーブレーキで突っ込んで行く。
「誰か止めてくれー!」
追突のショックでKV固定ワイヤーが外れ、3機のKnight Vogelは次々とドミノ倒しのように建物へ頭から突っ込んでいく。
トレーラーを運転していた兵士が慌てて降車すると、その後からゴムのような体をした手榴弾型キメラが降りて来た。
どうやらキメラがブレーキに挟まった為ブレーキが踏めなかったようである。
「キ、キメラだ!」
キメラを発見した兵士達は持っていた拳銃を発砲した。
しかし体長20cmと言えどもフォースフィールドで守られている。
至近距離からの発砲による跳弾が、味方兵士の足に当たって負傷する事態となった。
「(咳払い)うっ‥‥こちらシーエラ3、現在キメラと交戦中。至急応援を乞う」
「(咳払い)シーエラ3、待ってろ! 今行く」
銃声から自分が一番近いと判断した南雲が瞬天足で駆けつけてくる。
南雲は状況を素早く判断して、月詠による斬撃で対応する。
月詠の一閃だけでゴムパインはすぐに動かなくなった。
「! 弱すぎる‥‥陽動か?」
「(咳払い)こちら南雲、キメラを1体倒した。しかし陽動の可能性があるので各員は注意されたし」
●テロリストVS傭兵2
―― 避難誘導地域 ――
「きゃー!」
ようやく命からがら逃げ込んで来た安全地帯で、突然女性が悲鳴をあげた。
「どうした?」
彼氏と見受けられる男が彼女に話しかける。
「ネズミよ! ネズミがそこにいたのよ」
指差す方向を見ると確かにネズミが3匹も徘徊している。
「なんだ、ネズミぐらいで人騒がだな」
彼氏はネズミに近づいてシッシッっと手の平で追い払う仕草をした‥‥
パン!
何かが弾けるような音がした。
男がゆっくりと倒れていき、赤い液体が地面に広がっていく。
「きゃーーー!」
「どうしました!?」
入り口付近の兵士が騒ぎに気が付き、やって来ようとした瞬間!
パン!、パン!パン!パン!
「うわー!」
「あなた!」
「ママー」
再び始まる阿鼻叫喚の世界‥‥
その頃軍曹は、上官に定時連絡の最中であった。
「はっ、お任せ下さい。中尉どのは引き続き高官達の警護をお願いします」
隊長は高官達の避難誘導と警護を行っていた為、軍曹が現場の指揮を執っている。
「報告します!」
「どうした!?」
「はっ! ネズミ型キメラが避難場所に出現して攻撃を受けております」
「なんだと!」
「現在交戦中ですが、既に民間人6名とアルファ5が負傷し、現在軍病院に搬送中です」
状況を重く見た軍曹はすぐさま能力者を向かわせる事にした。
「(咳払い)こちらアルファ2、困った事態になった。キメラが第2避難所に現れた。至急応援を乞う!」
「(咳払い)そこなら俺が近いようだね。行って来るよ」
そう言って陸が現場に向かって走り出す。
「困ったのです‥‥後手に回っているのです」
シークは黒き炎に先手を取られ続ける事に少し苛立ちを憶えた。
しばらく考え込んだ後、何かを閃き無線機を取り出す。
「(咳払い)みんな避難場所に向かうのです」
「(咳払い)なぜだ?」
八神が聞き返す。
「避難場所にキメラが現れたと言う事は、黒き炎は既に避難民に紛れ込んで潜伏している可能性が高いのです」
「‥‥了解した。すぐにそちらに向かう」
いつの間にか咳払いを忘れていたが、事態は急を要していたので誰も突っ込まなかった。
●テロリストVS傭兵3
現在市街地は、レスキュー隊によって人々の救済活動が行われていた。
しかし人々の多くは避難を終えていたので、この判断は概ね正しいと言えた。テロ活動に於いて、人の少ない街を破壊してもあまり意味が無いからである。
「(咳払い)軍曹、可能な限り部隊をそちらに回して避難地域を包囲してほしい」
月村の提案でブラボーからエコーまでの分隊が集められ包囲網が強化された。
とは言え民間人に銃口を向ける訳もいかず、単に歩哨が増えただけといった様相ではあるが‥‥。
一足先に現場に先行した陸は、足を撃たれて体を引きずりなら逃げる市民の間に割って入った。
氷雨を構えて覚醒状態となったが、間合いが遠くて倒し難い相手である。
「至近距離まで近づかないと」
先制攻撃はキメラに譲った。弾丸を吐くようなので発射間隔を掴みたかったからだ。
パン!パン!パン!
3体の攻撃を素早く避ける。
どうやら威力と支える体の大きさのバランスが悪い為、命中率は悪いようである。
幼児が銃を撃っている姿を想像すると、そのバランスの悪さをご理解頂けると思う。
「よし」
陸は瞬即撃で一気に間合いを詰めて氷雨で一閃した。
1体を一撃で倒した陸は次のキメラを探した‥‥しかし残りの2匹の姿が見えない。
どうやら移動したようである‥‥。
「(咳払い)こちら陸です。ネズミキメラを1体倒したけど、残りのキメラは逃走したようです」
「(咳払い)了解した! 俺達が到着するまで探索の方をお願いする」
「了解です」
交信を終えた直後自動小銃の発射音が聞こえた!
陸は直ちに瞬天足で音のある方向に向かう。
一方合流地点に近づいていた残りの能力者達も、その音に気が付いていた。
「寄るなー、化け物め!」
「くそ! 全然効いてないのか!?」
戦車砲でさえ殆ど効かないフォースフィールドの壁の前では、兵士達の銃撃はおもちゃに等しかった。
到着した陸が見た物‥‥それはスライムであった。
スライムも雑魚であるが、物理攻撃の威力は半減される上に、天井や壁でも行動が可能な為厄介な相手でもある。
第二ラウンドも悪くないかと思った矢先に、無線機から応援到着の報が届いた。
「(咳払い)キメラを前方に確認した。ネズミ退治の前に素早く倒してしまおう」
●テロリストVS傭兵4
集結した能力者全員でスライムを相手にする形となったが、思った以上に戦闘が長引いていた。
「硬いな」
南雲は月詠で斬りつけた後で苦々しく呟く。
「こうしてる間にやつが逃亡する可能性もあるが」
黒き炎の動向を気にしつつ、八神は豪波斬撃を加えた流し斬りで斬りつける!
動作も鈍く、ほぼタコ殴り状態と言える一方的な展開ではあるのだが、とにかく死なないキメラに焦りを感じていたのは確かだ。
「軍曹には蟻一匹逃がさないように要請してあるから、ここは信用して全力でこいつを何とかしよう」
月村の流し斬りが綺麗に決まった。
「バグアに組する人は誰であろうと私は許す事が出来ません! 先を急ぎます、早く倒れなさい」
家族をバグアに殺害された優は、バグアに味方する黒き炎に対して憤慨していた。
特に今回は大勢の家族連れが被害にあっており、怒りは頂点に達していたのだ。
キメラは鈍い動作で触手を伸ばすが、間合いを取っている能力者達には届かない。
「絡み取られなければ問題ないさ」
クリスはライフルを構え、キメラに影撃ちを御見舞いする。
ヒュン!という風切り音を響かせて、神浦の放った強弾撃もキメラの体に命中した!
「これでは埒が明きませんね」
「ここは僕と優の2人で大丈夫だ」
「残りは黒き炎の探索を頼む」
「分かった。後を頼んだ」
避難場所へと走り出す能力者達を行かせまいとキメラが移動を始める。
「‥‥ここから先を通すつもりはない」
八神が眼前に立ちふさがり、豪波斬撃を加えた二段撃で弾き飛ばした‥‥
黒き炎探索の為、月村、南雲、神浦、陸、シーク、クリスの6人が軍と共同で避難民の調査を行った。
パレードでは人が多くて無理と思われた調査も、この区域の避難場所のみに限定すればなんとか可能であった。
とは言え内容的には職務質問であり、氏名、年齢、職業、身分証の確認などを行い、怪しい素振りが無いか確認する程度のものである。
質問が終了した者は次に身体検査も行った。キメラをまだ所持している可能性がある為だ。
「さあ、次はキミの番だよ」
神浦は一人の少女を担当した。
ルーテシアという名の18歳の少女は、神浦と並ぶと多少背が高めではあるが、情熱的なブラジル人女性には珍しい清楚な感じの娘であった。
手には薔薇の花束を持っており、時折少し首を傾げて明るく微笑む仕草は、向日葵を思わせる陽気さを秘めていた。
「はい、お疲れ様でした。ご協力感謝します」
一通りの質問が終わり、その後女性兵士による身体検査を終えた彼女は避難民達の中に消えていった。
暫くして、スライムキメラを倒し終えた八神と優の二人が合流し、優は女性兵士に混じって避難民女性の身体検査に回る。
数時間後にようやく一通りの調査を終えたが、結果として黒き炎は捕まらなかった。
それと逃げた2匹のネズミキメラも、その後現れる事が無かった。恐らく逃亡時の護衛として回収されたのであろう。
●黒き炎の正体‥‥
UPC南中央軍は、黒き炎の逃亡を許し、大勢の負傷者を出したものの、キメラ撲滅と死者が一人も出ていなかった事を考慮して、能力者達にミッションの成功を告げた。
ネズミキメラに撃たれた男性も一命を取りとめており、爆発した花屋の主人達も表に出てパレードを見ていたので、負傷はしたが運良く命に別状は無かったのだ。
数日後、差出人不明の手紙がUPC南中央軍の駐屯基地に届いた。
内容は以下である。
傭兵の諸君、さすがに今度は俺様も身の危険を感じてキメラを全部放出しておいた。
身に付けておくと確実にマークされそうだったからな。
俺様は予告状を出す前から市内のホテルにいたぜ。
下水まで探してご苦労なこった。
俺様を止められるものなら、やってみるんだな。
内容は以上であったが、奇妙な事に‥‥薔薇の花びらが1枚手紙に添えられていたのだ‥‥