タイトル:幼馴染と行方不明と捜索マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/12 01:11

●オープニング本文




 今から、そっち、行くね。
 研修会の報告書を送信するためメールソフトを起動したら、仕事のメールと共にそんなメールが受信ボックスに入り込んでいた。
 差出人は、未来科学研究所の大森となっていて、旅先に来てまで、嫌な名前を見ちゃったな、と、岡本はすぐさまそれを破棄した。その後で、そっちに行くね、なんてメールを受け取ったのは初めてだということに思い至った。嫌な予感がした。
 だいたい大森は、UPC本部の、総務部の、ブース内の岡本のデスクにいつも、突然やって来ては、面倒臭い依頼の話とかをしていく。事前にわざわざ、告知をすることは、嫌がらせをする事が目的と思しき大森の根本的な考え方には、反しているような気がした。
 どうせ自分は、総務部には居ないのだし、もっと言えばラストホープにだって居ないのだから、来るなら勝手に来ればいいのだけれど、これが、もし、この旅先のことだったりしたら、と考え、ぞっとする。
 忘れることにした。
 友人の別荘に勤務する使用人が、食事の用意が整った、と教えに来てくれたので、昼食を取ることにする。
 このご時世、音楽家などという仕事が成立するのかどうかは、音楽には無頓着な岡本には分からなかったが、幼馴染でもあるその友人は、それなりに贅沢な生活をしていた。研修会の関係でそちらの方に行く用事がある、ということは、以前に何かのついでに話していた気もするのだけれど、実際にお邪魔するつもりは、殆どなかった。彼から「暇だから、遊びに来ればいいよ」と、そんな申し出を貰わなければ、きっと会わないまま帰っていたかもしれない。
 奥さんだったり、愛人だったりが同伴していたら、これまた訪ね辛かったのだけれど、幸い彼は独身であるし、別荘には使用人くらいしかいないということなので、その後の二日間の休日を、久々に会うその友人と共に過ごすことにした。
 お金もあり、家柄も良く、それなりに女性にもてる顔をしている彼が、未だ独り者だというのは、この世の不思議だなあ、とか、のんびり思うのだけれど、とにかく、長い付き合いで、岡本の好き嫌いですら把握している彼が選んでくれた、料理の数々に感動しながら、食事を終えた。
 電話がかかってきたのは、食事後に、二人でどうでも良い話をしながら、コーヒーを飲んでいる時だった。
 使用人の人に「岡本さん」と名指しされ、驚く。受話機を受け取り、「もしもし」と言うと、「未来科学研究所、大森研究室の者ですが」と、相手が名乗った。
 嫌な予感がした。
 あ、はー、と間延びした声を漏らす。「実は」と相手が言いだした途端に、嫌な予感は、もう予感でも何でもなくて、確信みたいな感じで頭の中に広がっていた。
「実は、至急大森さんに確認したい事があったんですけど、大森さん、そこに、いらっしゃらないんですかね」
「え」
「え、いや、えって」
「いや、え、何で大森さんがこんなところに居ると思うんですか。居るわけないですよ」
 おっかしいこと言いますねー、とか、嫌な確信をもうその笑いの勢いでどっか飛ばせないですかねみたいに苦笑するけど、でもきっとこんなか弱い笑いごときで飛ぶような確信ではなかった。
「それはおかしいですね」
「いやはい、おかしいですよ。そもそもこの電話がおかしいですよ」
「今朝早く、っていうか、朝方ですけど。何か用事でUPCの方に行ったかと思ったら、大森さん、帰ってくるなり出かけるとか言い出して。この電話番号と住所だけメモして出かけちゃったんですよ。だからてっきり、そこに居るんだと思ってました。岡本君と一緒に居るから、心配しなくていいよ、とか言ってましたし」
 本当は別に心配なんてしてないんですよ、むしろ、居なくなってくれたらくれたですっきりするんですよ、ただ迷惑な人ですが困ったことにそれなりに優秀でもあるから本当に居なくなられると困るんですよ、とでもいうような、葛藤と懊悩が、声の隙間から、伝わってくる。
「僕と一緒に居ると、言ってたんですか」
 これ以上面倒臭いという表情はないのではないか、というくらい、面倒臭い表情になりながら、岡本は呻く。だいたい、どうして、友人の家まで奴が知っているのだ、と、この研究員が答えを持っているなら、問いただしたかった。
「言ってましたね。そちらには、いないんですか?」
「居ないですね。来てないですし、見かけてもないです」
「まずいな」
「まずいですか」
「迷ったり、してないですかね」
「いや、知りませんけど」
 あー、と、困惑した声が、耳から入り込んでくる。暫くすると研究員は「分かりました、すいませんでした」と、電話を切った。
 そのすぐ後に別の電話があった。人様の家の電話で何をやってるんだ、と非難されたらどうしよう、と恐縮しながら出ると、「あ、岡本君?」と、まさにその迷惑過ぎる男、大森の声が聞こえ、余りの残念さに体の力が抜けそうになった。
「何やってるんですか、っていうか、どういうことですか」
「いや何か、岡本君が幼馴染の彼と、危ないことになってるかも知れないって、聞いて」
「いや、多分誰も言ってないですよね、そんな事は」
「俺が居るのに腹立つじゃない。それでね、邪魔にし行ってやろうと思ったんだけど、そしたら何か、森の中で車のタイヤパンクしちゃって。全然位置とかわかんなくなっちゃったんだけど」
「大森さん」
「何だろう、岡本君」
「僕のこと、意外と好きですか」
「そうね、意外と好きだよ」
「だったらそのままそこで餓死とかして頂けると」
「あー、そっちの好きじゃないんだよね」
「そっちって、どっちとかもうどうでもいいんで、電話、切っていいですか」
「それでね。方位磁石とかも使えないし、何か、キメラとかも居る臭いから、誰かに探しに来て貰」
 プツ、プープー、と突然そこで、電話が切れた。
 え、と思い、慌てて着信にあった番号にかけ直してみるも、電波の届かない場所にあるとか何か、そんなアナウンスが聞こえる。
 本格的に迷ったな。と、岡本は思う。
 友人の彼が、あの辺りは、強力な磁場が出てるから、とか何か、そんなことを言った。本当は意外と美味しいキノコとかも採れるんだけど、いろいろ面倒臭そうだから、誰も入らないし、本格的に迷ってたら、一人で切りぬけるのは、難しいかもしれないよ、と。
 別にいいか、と思った。
 むしろ、どうでもいい。
 ただ、研究所の人には連絡しておくことにした。後は彼らがどうにかするだろう、と思った。





●参加者一覧

漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
賢木 幸介(gb5011
12歳・♂・EL
美空・桃2(gb9509
11歳・♀・ER
未名月 璃々(gb9751
16歳・♀・ER
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 せりな(gc5344
17歳・♀・AA

●リプレイ本文






「それにしても雪山でもないのに遭難する人っているのでありますねー」
 美空・桃2(gb9509)が、呆れているのか、感心しているのか、良く分からない言い方をした。「そのえーっと何でしたっけ、誰でしたっけ」
「岡本か」
 無線機の向こうから、答えが聞こえる。
「そんな名前でしたかね。超〜覚えにくいのであります」
「さっきから出てる名前だな、岡本だ」
 確かに先程から、無線機を通した会話の中で、岡本を探すには、だとか、そんな話が聞こえている。
 実のところ、岡本、と呼ばれている部分は、ことごとく大森だったりするのだけれど、誰も何も言わないし、余りに岡本感がマイルドに浸透しているので、あれ? 実は探されてるのは、岡本さんでした? とか、マルセル・ライスター(gb4909)は、生えている木に傷をつけながら、そわそわしつつ、でも、何も言わないでいる。
 とりえあず、そこ誰がいつ訂正するんだろー、とか何か様子を窺っていたら、ソウマ(gc0505)が無表情に無線機を掴み通話ボタンを押した。あ、いくの? いくのか、とかマルセルは俄然そわそわして、こっそり息を飲む。
「こちら、B班です。A班どうぞ」とか言ったら、雑音と共に、「ソウマか。A班の國盛(gc4513)だ」と返答が、ある。
「國盛さん。同じ小隊の仲間として言います」
 いけ、とマルセルは益々強く、拳を握りしめた。いけ、ソウマ。全ては君の肩にかかっているんだ、と。
「どうした、改まって」
「実は先程から気になっていたんですが」
「キメラの気配でも、するのか」
「いえあの岡本ではなく、大森です」
 よし、言った! とかマルセルはもう興奮したのだけれど、國盛は「ん? 何がだ」とか、意外過ぎる天然ぶりを発揮した。
「いえ、僕達が、探している人です」
 暫く、無線機が静かになった。遠く何処かで、虫だか鳥だかの鳴く声がした。何だか、悲しくなった。
「何だ、そうなのか」
「そうなんです」
「どんだけ興味ないんだ、國盛さん」
 緋本 せりな(gc5344)が凄い無表情に無線機を掴み、言う。
「紛らわしいのが、いけない。大森も岡本も、ほぼ、一緒だ。最悪、同一人物だ」
「いえ、同一人物では」
「こんな甚だしく特徴のない名前を俺に覚えろというのは、46歳の俺には、酷な話だよ。だいたい毎日毎日、珈琲店の経営で忙しいんだしだな」
「いえ、興味、ないんですよね?」
「だいたい俺はその、岡本という男がだな」
「いえ、大森です」
「うむ大森。その大森という男が行方不明かどうかということよりだな、美味しいキノコが取れるって言うことを聞いたから、ここに居るんだぞ。だから最悪岡本がだな」
「うんあの大森」
「大森がだな」
「もう一回言っていいかな國盛さん、どんだけ興味ないんだよ」



「今、思ったんだが。多分、俺は、実のところ、洗脳されたんだ」
 覚醒状態で、探査の眼を使用しながら無線機に向かい言った國盛が、ずっと念仏のようにぶつぶつと「岡本岡本岡本」とか呟いている、未名月 璃々(gb9751)を指さした。激しい臭いが衣服から立ち昇っている。確か、最初に、煙草のヤニを溶かした水を振りかけた一般の蛇避けですねーとか、何か、微笑んでいるのに人形みたいな能面が言っていた。
「傍でずっと岡本、とか呟いてる奴が居る」
「念仏のように、岡本さんと呟いておけば反応しますかねーとか、思いまして」
「な?」
「いや、な、の意味が分かりませんけれども」
 無線の向こうの声が言う。「とにかく、今回は、キノコ狩りではないですから」
 とか聞こえたので、え、と漸 王零(ga2930)は國盛の持つ無線機の方を見た。実のところ、え、そうなの、キノコ狩りじゃないの、とか、絶対口には出さないけれど、相当、驚いていた。
 じゃあ我は一体どうしてこんな場所に居るんだ、そうか。キメラの討伐だな。ならキメラ相手に魔剣の試し斬りを。
「人探しですから、お願いしますよ」
 え? 人探し?
「アッ、あの、鈴木さんが、イケメン浮浪者に襲われている!」
 そこで突然、無線機からマルセルの声が聞こえ、一同は、え、とか一瞬固まる。唐突だったことにも驚いたけれど、内容を理解するのにも、時間がかかった。
「え、鈴木?」とか、誰かがやっと、呟く。
「あ、間違えた! 岡本さんがイケメン浮浪者に」
「いや、もういいよ。グダグダ過ぎるよ。全体的にグダグダ過ぎるよ」
 それまで一番、この一件に興味ないです、みたいな顔でキメラの奇襲に注意を払っていた賢木 幸介(gb5011)がぼそ、と呟く。
「俺なりには、頑張ったんです、せりなさん」
「マルセルさん、落ち込むな」
「悪いが」とか、漸は賢木に、そろそろと近づき、言う。「汝は、人探しだということを、分かっていたのか」
「まあ」若者特有の、照れ臭さを押しこんだような、面倒臭そうな口調で、頷く。「大森って奴、探してんだろ」
「大森とは、誰だ」
「そこからかよ」



「絶景絶景」
 豪力発現を発動したソウマは、その隆起した筋肉で以て素早く木の上へと登って行くと、枝に足を乗せた格好で、双眼鏡を構えた。「さてさて肝心の大森さんは」
「ソウマ気をつけてね」
 マルセルが下からおどおどと頭上を見上げている。「とりあえず俺の上には落ちてこないで」
「大丈夫ですよ。伊達に猫に関する称号は持っていませんから」
「持ってませんから、落ちてこないよね? ね?」
 もしかしたら破天荒過ぎる人が身内に居るせいなのか、異様に心配しながら、おどおどとマルセルが、言う。それにしても心配し過ぎだよ、どんだけだよ、とか、せりなは思った。
「周辺の地図は、出来るだけ手に入れていたでありますからねー。上手い具合に、挟撃出来ていると良いのであります」
 A班はこっちから、B班こっちから、とか、探索前に指示を出していた、桃2が言う。
 未名月が、地形図と周辺気圧、気圧計等で大まかな場所特定を特定してくれたので、桃2はそのデータを元に、二つの班が進み合うことで探査範囲を狭められるように、配置をしていた。「挟み撃ち、であります」
「いや、美空さん。大森さんは撃っちゃ駄目だよ」
「ん?」
 とか、木の上のソウマが、呟いた。まるで、辺りの気配を敏感に察知する猫のように、ささと双眼鏡を揺らしたかと思うと「何か嫌な気配がしますね」と、更に呟く。
「キメラか?」
 せりなは、オーラブルーとイアリスを腰元から抜き出し、構える。
「俺」
 マルセルが辺りを見回しながら、呟く。「映画でこういうの観たことある。ホラ、密林の、やつ」
 とか何か言いながら、もそもそとバイク形状だったAU−KVミカエルにまたがると、装着を完了させた。
「今回はヘビだったか。あまり好きなタイプじゃないなぁ」
「キメラさんが出たら丸焦げにしてやるのです」
 エネルギーガンをどしんと肩にひっさげた桃2が覚醒状態に入った。額の部分に、アンテナ状の発光体が現れる。「そしてご登場のようでありますよ」
 桃2が、前方の方を指さした。ぞろぞろ、とぞろぞろ、と地面を何かが這うような、音が聞こえる。三匹のキメラの姿があった。
「ヘビは意外と美味しいと聞いたけど、どうなのかな? 小骨さえ何とかできれば食べられそうだけど。どれ、私の剣で捌いてみようか」
 せりなは二つの剣を交差させ、覚醒状態に、入る。金色のオーラが全身を覆い、瞳が赤く変色した。
 ざしゅ、とソウマが、木の上から飛び降り着地してくる。「雑魚にかまっている時間は無いんですよ」不機嫌そうに眼を細め、冷徹な眼差しで、蛇のようなキメラを睨みつけると、超機械「グロウ」を一振りした。「邪魔をされるのは好きではないんです」
 強力な電磁波がその場に発生する。更にその後方から、桃2の放った知覚攻撃が炸裂した。「容赦なくぶっ放すです。近隣住民のためにもきっちり駆除しておくのであります」電磁波にねじれ、衝撃に爆発したキメラの体が、辺りに、飛び散る。
「ヘビなんてものは真ん中からぶった切ってしまえばいいんだよ」
 二本の剣を交互に繰り出し、せりなは残った一匹に斬りかかった。しかし、する、と攻撃を避けられ、「っと、中々すばしっこい」反対にぐああ、と口を大きく開き、牙をむき出しにしたキメラに襲われそうになる。
「おっと、危ない!」
 双剣パイモンを構えたマルセルがそこへすかさず、竜の咆哮を放った。「ドラッヘ・ヴァルカァン!!」
 全体にスパークを走らせたミカエルの剣が、キメラを斬る。衝撃がキメラの体を吹き飛ばし、砕く。
「ありがとう。マルセルさんは、意外と、頼りになるね」
「君に何かあったら、君のお姉さんに酷い目に遭わされるからね。でも、意外と、は余計なんじゃあ」
「おっと。まだ、残っていたね」
 すっかりもう聞いてないせりなは、両手に持っている武器で素早い二段撃を繰りだした。「面倒臭いキメラだね。だが! 私に死角はないよっ。この素早い連撃を防ぐ術はない。逝け!」
「次の命では、幸せに生きてね。‥‥お休み」
 マルセルが、両手を合わせ呟いた。



「車のタイヤの跡は、どうやらこっちの方みたいだな」
 とかいいながら、國盛はもうすっかり、車の轍を見るふりでキノコを探していた。
「三番、と」
 漸は、木に進行方向を矢印で示した目印を刻んでいる。
「ところで」
 國盛はロープを手に後方をだらだらと歩いている未名月を見る。「お前がここに居ては、アリアドネとテーセウスにはならないんじゃないか」
「いやそう思ったんですが」
 黒髪を触りながら、彼女が微笑む。というか、ずっと薄っすらと微笑んでいて、何を考えているのかは、余り、分からない。
「独りで居るところをキメラに襲われても嫌だな、と思いまして」
 いやいやいや、とか何か、とりあえず何か言ってやろう、とか思ったのだけれど、そこで、ざらざら、と地面が何かを這うような音が聞こえ、國盛は表情を引き締めた。
 同じく漸も、ハッとしたように顔を上げている。
「来たようだな」
「ああ」
 二人は素早く覚醒状態に、入る。
 漸の左目の周囲に、模様のようなものが浮かび上がった。黒髪が銀色に変化し、逆立つ。黒銀の粒子が体からばっと放出された。
「任せろ。魔剣の切れ味を試すにはちょうどいい」
「もれなく、私の盾、募集中ですー」
 ささ、と國盛の背後の木陰に隠れると、未名月はすぱ、と覚醒する。瞳が金色に変色したかと思うと、目の周囲に赤い刺青が浮かぶ。白骨のようにも見えるオーラが、まるで守るかのように、その体を覆った。「練成強化」迫ってくるキメラ三体に向かい、こっそり超機械グロウを一振りする。「そんでもって、練成弱体ですね」
 漸の魔剣「ティルフィング」が、淡い光を帯びた。柄の先から剣先にまで施された煌びやかな金色の装飾が、淡い、光を帯びる。しかしその西洋剣には何処か、禍々しい雰囲気もあった。
「心配はいらない。後で料理に使ってやる」
 すかさず、振りかぶった魔剣をキメラの胴体へ打ちこんだ。続けざま、横に動かし、内臓をえぐり出すようにして、ずささささと、切り裂いて行く。
「気持ち良さそうだな、それ」
 篭手型の超機械ミスティックTを装着した、賢木が拳を突き出しながら、呟く。中心に虹色に煌くトパーズの取りつけられた篭手から、強力な電磁波が発生した。ぐにゃあと裂けそうに歪むキメラに、また、漸の魔剣が炸裂する。
「後始末は、任せろ」
 走りだした國盛は、靴に取り付けた爪で残ったキメラを蹴りあげた。すかさず専用グローブに埋め込んだ超機械シャドウオーブを発動させ、攻撃を放つ。無様に開いた口に、黒色のエネルギー弾が飛び込んだ。ぶちゃ、と破裂するかのように、キメラが、散る。
「ふう、終わりましたね」
 見れば何時の間にか戻って来ていた未名月が、やはり何を考えているか分からない顔で、ぼーっと微笑んでいた。「ほんと、疲れましたねー」
「いや、何もやってねえだろ」
 すかさず、賢木が、呟く。



 パンクした車両を何とかかんとか森から離し、舗装された道路へと移動させた一同は、修理業者を呼んだ。大森にはその対応の為に残って貰うとして、一同は、採ってきたキノコをそそくさと持ち帰り、國盛の営む珈琲店に居た。
「時期が時期だし、それほど期待はしてなかったんだけど」
 可愛らしいエプロンをつけたマルセルが、オーブンを覗き込みながら、言う。え、女子? いや、男子だ。しっかりしろ、俺。とか、カウンターにぼーっと肘とかついてるように見えて、賢木は意外と忙しい。
「美味しそうな物をいろいろと見つけられましたからね」
 ソウマが満足げに微笑む。
「ソウマのキョウ運が炸裂だったね」
「火山地帯だったんですかね。鉄の多い岩石、木の灰を栄養にした美味しい茸」
 未名月が、美味しい物の話をしているのではなく、研究している人みたいな顔で、言う。
「ところでそれは、何を作ってるんだい」
 カウンターに座るせりなが、聞く。
「ゼンメルクネーデルと、きのこのホワイトソース添えと、香ばしいホイル焼きを作ります」
「ゼンメルクネーデルって、何?」
「パンで作ったお団子」
「ふうん」
 どちらかと言えばいつも、気弱そうな印象の強いマルセルだったが、料理に関しては非凡なようで、てきぱきと鮮やかに作業を進めている。
「折角なら、大森に食べさせれば良かった」
 漸が、ぼそ、と呟く。え、毒見的な? キノコの毒見的な? みたいな全員が漸を見た。
「いやまあ、森を彷徨ってたなら、疲れてるだろうし、腹も減っていただろうからな、と」
「その言い方だと確実に、毒見みたいに聞こえたであります」
 かいがいしく、スプーンやフォークを並べていた桃2が、すかさず、指摘する。
「でも、野性化してなくて良かったですね」
 とか全然喜ばしいことを話している表情ではなく、むしろ皮肉めいた口調で、未名月が言う。
「え、野性化?」
「大森さんです。精神摩耗で、野生化とかしてたら嫌じゃないですか」
「前回は毒、今回は遭難、ま、どれも自業自得ですね」
「でも、ちゃんとしてるのかなあ、大森さん」
 口元に指を当て、マルセルが呟く。とかその顔がまた、うっかり女子みたいに可愛くて、いや、違う男子だ、しっかりしろ、俺、と賢木はまた、忙しい。
「研究所の人が至急確認したいことがあるそうですよ、とは言っておいたけど」
「この辺だと電話通じないみたいですし、その友人宅で電話を借りてはどうでしょうとか、マルセルが言ったら、行こうと思ってますけど何か、みたいな顔してたし、あれはきっと行くんじゃないかな」
 せりなが言うと、ソウマが頷く。
「ですね。行く気満々だったから、行くんじゃないですかね」
「何はともあれせっかくの一仕事後だ」
 珈琲サイフォンを眺めながら、エプロン姿の國盛が、言う。「ま、皆ゆっくりしていってくれ。俺も料理には少し覚えがあるからな。美味しいキノコご飯でも作るつもりだ」