タイトル:幼馴染と動物保護マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/21 23:26

●オープニング本文




 佐々木がモンブランを買って来た。
 ざくざくとした触感の生地に、なめらかなマロンクリーム、とか良くある形なのだけれど、口に入れたらやたら美味しくて、もう何かスプーンが止まらない、とか何かやってたら、「今日だって言ってた見学の件なんだけどさ」とか、佐々木が、言った。言ったけど、岡本は、もうモンブランに夢中、で全然聞いてなかった。
 佐々木は、何か、はあモンブラン、やばすぎるモンブラン、みたいな様子の岡本を何かちょっと眺めて、暫く、待つことにする。紅茶を口に運び、そんなに美味しいのかな、可愛いな、とか何かじーっと見る。
 岡本とは幼馴染というか、付き合いが古いのだけれど、そういえば昔から、それとなく甘い物が好きな奴だったな、ということも、思い出す。
 暫くして、落ち着いたのか、岡本が「え?」とこっちを、見た。
「え、ってえ?」
「いや、こっち見てるから」
 それには答えずに、佐々木は自分の皿に乗ったモンブランを指さした。「何だったら、俺のも食べていいけど」
「え、いいの」
 とか言う顔は笑顔で、さてはもう貰ったつもりですね、みたいな感じだったので、「いややっぱり、食べる、ごめん」とか、何でかちょっと意地悪することにした。
「あ」
 凄い一気に普通の顔に戻った岡本が、むしろ乗りだし気味だった体を戻す。「そうなんだ」
「うん」
「いやそれうん、凄い、美味しいから。食べた方がいいね。凄い、美味しいから、本当」
 明らかにそれは食べたがってるんだよね、当てつけっていうか回りくどい訴えなんだよね、と、思ったけど、気付かないふりをする。「うん」とか頷いた。だいたい、美味しいということだけは、他の何が分からなくても、分かったよ、とも思った。
「それでさ、今日だって言ってた見学の件なんだけどさ」
「ああ、モンブ」
 とか余りの美味しさにうっかり、その名前が出てしまったらしい岡本は、一瞬え、何を口走りました? みたいに放心して、「ああいや、見学の件ね」と訂正した。
「スタジオ、見せてくれるんだったよね。貰ってた作曲の仕事を録音するからって」
「そうだったんだけど。その仕事がキャンセルになったから、今日の録音、無くなっちゃってさ」
「ああ、そうなんだ」
 果たしてこのご時世に、音楽家などと言う仕事が成り立つのかしら、とか、すっかりUPC本部の総務部の事務職員とかいう安定した仕事をしている岡本は思っているらしく、そもそも成り立っていない仕事が無くなったところで驚かないよ、みたいな表情をしていた。
「サーカス団から、サーカスで使用するってことで依頼されてた作曲だったんだけど」
「うん、え。誰も聞いてないよ」
「聞かれてないけど、悔しいからだよ」
 はいはい、みたいに首を振った岡本は、またモンブランを口に運びながら、「どうぞ」とか、言う。
「でも、何か、そのサーカス団が襲われたらしくて」
「あ、言うんだ」
「動物とか逃げ出して、大変らしい。サーカスも中止。俺の曲も、もう要らない」
「あ、ちょっと待って」
 手を翳し、岡本が口を挟む。「何か、そんな話聞いたような」と続けた。
「何処で聞いたんだったっけな。あ、そうだそうだ」とか勝手に思い付き、突然立ち上がり、部屋を出て行く。
 凄い大人しそうな外見をしているけれど、どちらかと言えば昔から、そのようにマイペースなところのある奴だったので、佐々木は慌てない。きっと休暇の間、自室として貸して上げている別荘の客室にでも戻ったんだろうな、何か取りに行ったんだろうな、とか思っていたら、案の定彼は、パソコンを持って戻って来た。
 キーボードやマウスを操作し、「ああ、やっぱりそうだ」とか、呟く。
「何が」
「動物達の保護とキメラ討伐の依頼」
 かちかち、とマウスを操作しながら、岡本が呟く。「サーカス団から逃げた動物達だね。どうやら、人がいない間に、テントがキメラに襲われたみたい。そんな依頼があった。野性化して、人に被害が出ても困るから、さっさと保護しちゃいましょう、キメラ討伐しちゃいましょう、って感じなのかな」
「岡本ってさ、総務部でお金の計算とかしてるって言わなかった」
「してるよ」
「依頼のことも、分かるんだ?」
「依頼の申請受付にはまた別の部署があるし、選別にもまた別の部署があるし、ULTとの連絡もまた別の場所がつけるけど、一応、僕の部署にも依頼は通過してくんだよ。僕は、審査部から来た依頼を出力して、ファイリングして、専用端末に入力したりして、また他の部署へ回す」
「どんだけ回るんだよ。細分化され過ぎなんじゃないの、仕事」
「そんだけ、仕事があるってことなんじゃないかなあ。毎日の仕事に困ったことは、ないよ」
 とか言って、何かちらっと見られたので、え、とか思う。
「いや、俺も毎日の仕事に困ったことはないけど」
「ああそうなんだ、ごめんね」
「ああそこで謝るんだ」
「場所は山のふもとの農場跡地か。サーカスのテントから、どれくらい離れたか分からないのが、辛いね」
 顔を顰めながら、またマウスを操作する。「保護は、ライオンが二匹、猿が二匹で、目印は、サーカス団の服だって。どうやって、捕まえるんだろ。餌とかで帯び寄せるのかな? それとも、能力者の人達なら、覚醒したら、すぐ捕まえられるのかな」
「でも、広いしね」
「そうだね」
「でも、無事保護されるといいね」
「そうだね、っていうか、新しい仕事、入ってくるといいね」
「そうだね」





●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
未名月 璃々(gb9751
16歳・♀・ER
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
毒島 咲空(gc6038
22歳・♀・FC
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA

●リプレイ本文




「今回は」
 エクリプス・アルフ(gc2636)が、のんびりとした声で言う。「バッファローキメラですか」
 それから、心なしか残念そうな表情で、緋本 かざね(gc4670)を振り返る。
「あれ何ですか、その顔」
「あれ俺どんな顔してますか」
「虫キメラじゃないなんて面白くないなあ、でもバッファローキメラでも何か起こらないかなあって、顔」
 とか言ったら、何か清々しい笑みを浮かべて、「そうですか」とアルフが顔を逸らせる。
「あれ否定しないんですね」
 とか言い合ってる横で、マルセル・ライスター(gb4909)が、快晴の空に向かい大きく伸びをした。「牧場、気持ち良いなあ」
 放牧された乳牛が「ンモ〜」みたいな朗らかな雰囲気で、ふわふわと微笑む。
「しかし、キメラが二頭くらいとは、情報が曖昧だね」
 毒島 咲空(gc6038)が、注射器のような形をした超機械シリンジを弄くりながら、言う。それから無表情に、小柄な男子マルセルを見た。注射器を構えた女性に実験体として品定めされているかのような恐怖にマルセルはちょっと、怖気づく。「え、何です、か」
「まぁ、それ以上居ることも視野に入れておいても、損はないと思うよ」
「え、何で今、俺のことちらっと見たんですか」
「っていうか、咲空さんって、毒島さんなんですよね」
 アルフが、そういえば、とでもいうように、口を開いた。毒島をじろじろと見ている。
「そうだけど、何か」
「いやあの珍しい名前だから恐らくは間違ってないと思うんですが、実は知り合いに」
 とか何かアルフが言おうとした矢先、咲空がす、っと、広々とした牧場へ視線を散らす。「現れた。禍々しいキメラの気配だ。早速だな」



 動物達を捕獲する為に用意した檻に寄り掛かってる未名月 璃々(gb9751)は、何を考えてるか良く分かんない顔で、薄っすら微笑みぼーっとかしていたので、立花 零次(gc6227)の目には、精工に作られた人形だとか、オブジェクトだとか、そういう物に、見えた。檻と一緒にどういうわけか人形までついて来てしまった、みたいな未名月のことをじろじろ見てたら、何か、ゆらーとかこちらを見られて、びく、とした。
「何ですかー」
「あ、いえ」と慌てて、双眼鏡を構える。
「キメラも危険だけど‥サーカスの猛獣も危険‥か‥」
 あったかマフラーをまるでマスクのように鼻から口元へと寄せた幡多野 克(ga0444)がぼそぼそ、と言った。「被害が出るといけない‥。早めに‥対処しなければ‥」
 とか凄い真面目な顔して言っていたけれど、実は内心でバッファローなんて食ったら美味しいんじゃないか、誰かが調理してくれるんじゃないか、みたいな所に心を躍らせているところもあったので、隣に立つ辰巳 空(ga4698)に、「そうですね。今回はそこそこ大きなキメラなので被害が広がらない内に討伐するのが傭兵としての仕事です」とか、凄い真面目な事を凄い硬い口調で言われたのが、何となく、気まずかった。なので、とりあえず双眼鏡を覗いておくことにした。
 空は入手した地図に目を落としながら、B班はこちらから捜索しているはずですから、とか何か、呟いている。
「ところで幡多野さん」
 立花はふと、思い立ったかのように双眼鏡を下ろした。「寒いんですか?」
「え‥何で」
「いやマフラー」
「ああこれ、マスクの代わり‥だけど。ほら、糞とか‥」
 と少し恥ずかしげに、あるいは物憂げに顔を伏せて、続ける。「臭いとかきついと、嫌だし‥」
 それから「ガスマスクとか‥欲しいかも」と更に顔を伏せてポソ、と呟く。
「幡多野さんがガスマスク」
 とかすっかり、うっかり想像したら、ちょっと面白かった。でも、笑ってはいけない気がした。
「今、想像したんだよね」
「ばれましたか」



 マルセルのAU−KV「ミカエル」の装輪が、辺りに土をまき散らしながら、猛烈な勢いで回転する。
「パワー勝負なら、負けないッ!」
 先程までの朗らかさとは打って変わり、戦う雄の本能を覗かせる少年は、不抜の黒龍を発動する。胸元に浮かぶ竜の紋章が、緑に変化し輝きだした。馬鹿正直に、とでも言うべきか、真正面からバッファローキメラへ突進して行くと、腰を落とし向かってくる敵をガッチリと受け止めた。
 ぐいいいいいん、と回転する装輪が唸りを上げる。その後方から、アルフが小銃「S−01」を構えて走りだした。側面に回ると、陽の光を浴びて銀色に輝く銃口から、弾丸を放つ。ズサ! と勢い良く、キメラの後脚に着弾したかと思うと、ガクンとキメラがバランスを崩した。
 その隙をかざねは見逃さない。
「自分の体にフンをつけてるなんて! 汚いキメラです!」
 明らかに軽蔑の色をその瞳に浮かべて、白く輝く美しい槍をくるくると器用に回すと、だ、と勢い良く駆け出した。「糞なんか着ける前に殺してやるんです!」
 とか思ってたら、アインス、ツヴァイ、ドライとか数を読み上げるかのように、「マルセル、意外と、力持ちー!」と叫んだマルセルが、どーんとキメラの巨体を投げた。
 びょおんと飛んだ巨体にかざねはキキーっとブレーキをかけ、着地点を見極める。べちゃ、と落ちた場所が、ぬかるみだったことに、若干青ざめた。
「え、あれ、ただのぬかるみですよね? 糞とか、じゃないですよね」
「ごちゃごちゃ言ってる暇なんかないよ、さっさと殺してしまいなさい」
 咲空がシリンジを構えた格好で、疾風を発動する。バランスが取れずふらつきながらも、まだ突進して来ようとするキメラの側面へと回り込むと、ムクムクの毛に覆われた脳へシリンジを突き立てた。強力な電磁波が発生する。キメラの口から苦悩の咆哮が漏れた。
「よし、あれは大丈夫だ糞じゃないんだ、違う違う違う」
 ぶうんと槍を振り回しながら、かざねが突進していく。「いっくら堅そうな体をしていても、この一撃には無駄なことです! 真燕貫突!」
 翼の紋章が槍を構える彼女の周囲を舞った。ずさ、と一突きしたかと思うと、素早く抜き去り柄で足払いし、またずさ鋭い突きを繰りだした。
「あれ、一撃じゃないですよね」アルフが、のんびりと言う。
「あれが、かざねの不潔を憎む怒りなんだね」
 マルセルが両手を合わせながら呟いた。「おやすみ」




 体に糞を擦りつけたキメラが、威嚇するかのようにぐううと唸り声を上げる。
 覚醒状態の未名月はささ、と立花の後ろに隠れた。え、とか戸惑ってる顔に向かい、「練成強化はかけますのでー、頑張って下さいねー」
 ゆらゆら、と手を振った。覚醒の影響で現れた、まるで白骨のようにも見えるオーラが、同じように手を振ったように、見えた。
「え、え」
「ほらキメラ、来ますよ」とか言われたら「あ、はい!」とか、すっかり乗せられ、覚醒してしまう立花だった。一瞬風に巻き上げられたように髪が逆立ったかと思うと、漆黒の粒子が、まるで、流れる長い黒髪のように、頭部を覆う。
 単純ですねー、便利ですねーとか思ってるのか思ってないのか良く分からない顔で未名月は、超機械「グロウ」を一振りする。
 立花の構えるクルメタルP−38が淡い光を帯びた。
「戻ったら装備の手入れが大変そうですけど」
 空が覚醒状態に入りながら、呟く。陽の光に当たった瞳が、僅かに紅く、変異する。「下水道に比べれば遥かにマシなので我慢します」
 すぐさま、瞬速縮地を発動した。凄まじいスピードでキメラへ向かい突っ込んでいく。
 同じく走りだしたのは、こちらも覚醒状態に入った克だ。銀色の髪をなびかせながら、金色の瞳でキメラを睨みつける。突進してくるキメラの真正面から、不意を奪うように、流し斬りを繰りだした。ゆらり、と突進を交わし、目にも止まらない速度で相手の側面に回り込む。
「こうも大きいと体自体が凶器か。しかし!」
 直刀「月詠」を振りかぶると、しっかりとした足取りで地面を踏み締める脚目掛け、渾身の一撃を繰りだした。衝撃にぐっと力を込める。腕の筋肉が盛り上がり、筋が浮かび上がる。全体重をかけた。
 ばんばん、と立て続けに銃声が響く。立花の放った銃弾が、キメラの胴へ食い込む。気を殺がれ、不意に力の抜けたキメラの脚を、克の月詠がずさ、と切り裂く。
「真音獣斬!」
 空が叫ぶと、静かな炎のように薄く紅い美しい刀身をした直刀「朱鳳」から、布のような黒い衝撃波が飛び出し、キメラの胴を吹き飛ばした。




「それにしても、サーカスでは欠かせない象や馬は保護対象に入ってませんが。どうしたのでしょうかね」
「逃げてないからなんじゃないか」
 空の疑問に、純米大吟醸「月見兎」とか、ちびちび飲んでる咲空が、答えた。
「何でお酒飲んでるんですか」
「私はキメラが倒せれば、それで良いんだ。あっちは任せるよ。だいたい、歩き疲れた」
「それは、無責任というやつでは」
 とか言う二人の視界の先に、サーカス団の動物達が居た。先程発見し、これから捕獲しようか、というところだった。
「ライオンだーわーい」
 ミカエルを脱いだマルセルが、普段のおどおどぶりからは想像できないくらい積極的に、ライオンへ向かい駆けよって行く。臆することなく手を差し出すと、ぐるる、とか言ってたライオンが、何故かもうマタタビにやられちゃった、恍惚状態、みたいな感じでその手をぺろぺろやりだした。
「うんよしよし、良い子良い子」
 喉や耳の後ろを優しく撫でていたかと思うと、傍に置いていた猫槍「エノコロ」を構えた。先っぽについたふさふさをライオンの眼前にぶらぶらさせる。
 俺もう、アンタにメロメロやーみたいに、ライオンがもうじったばったする。っていうか、マルセルに乗りかかり、じったばったする。
「あーあれもー猛獣使いになれますよー、多分」
 その光景を見ていた未名月が、全然感心してないっていうか、何も感じてないですよね? みたいな表情で言う。
「ですね、あれもう完全にライオンのハートがっちりキャッチですよね」
 いいな、凄いいいな、俺も猫大好きなのにな、みたいな、凄い物欲しそうな顔して、立花が呟く。そこで未名月がゆらーと自分の鼻を摘んだ。
「あれ、臭くないですかー」
「はー」
 とか立花は自分の体を見やる。どっかに大きく糞らしきものがついている、という感じでもなかったのだけれど、何か、微妙に体が臭い。っぽい。
「これ、何処から臭ってるでしょうね。何処だと思います?」
 とか、近寄ろうとしたら、そそそ、と更に距離を開けた未名月が、「私に近づいたら、頭から塩酸かけますよー」とか、冗談なのだろうが果てしなくやりそうな顔で、言った。っていうかきっと、やるんだろうと思った。
「君達の自由を奪うのは心苦しいけど‥。サーカス、見に行くからね、やだ、あはは、擽ったいよ」
「ねえねえアルフ様。あれって、遊んでるんですか、襲われてるんですか」
「遊んでるんじゃないですかねー、笑ってますし」
「じゃあ‥やるね」
 もう一匹のライオンの捕獲を前にした克が、傍に立つかざねとアルフに向かい、徐に外した眼鏡を渡した。「これ、持ってて」
「え、眼鏡外して大丈夫なんですか」
 かざねが言うと、克がナイーブな青年、みたいな顔を伏せた。「伊達眼鏡‥だから」
「え、伊達眼鏡なんすか」
「え、伊達眼鏡なんですか」
 まさかそんな食いつかれると思ってなかったですよ、みたいな、益々物憂げな顔で克は呟く。
「嘘。豪力発現して、ライオンと‥格闘してる時、眼鏡飛んだら‥恥ずかしい‥から」


 一方、月見兎を飲む咲空は、ちょろちょろ、と寄ってきた猿と何か、じーとか見詰め合っていた。
「何だ。欲しいのか。ほれ」
 と盃を差し出してみた。ぺろ、と舐めた猿が、こくこくと飲み出した。
「ほう? イケる口か。猿にしては見所がある」とか何か言ってたら、次第に挙動がおかしくなり始めた猿が、やがてぱた、とその場に倒れた。
 ま、そうなるとは思ってたんですよ、とばかりに咲空は、それを無言で抱き寄せ、懐に抱き抱える。
「こうしていると、妹の小さい頃を思い出す。今頃どこでなにをしているのか。間違っても、傭兵になってなければよいが」
 とかいう台詞の聞こえたアルフは、あ、みたいな感じで傍によって行き、「そうそう咲空さん、さっき言ってた話なんですが、実は俺の知り合いに」とか言ったところで、また、邪魔が入った。
 かざねの跳ねるような声が聞こえる。「あ、こっちにもお猿さんですよ!」
 どうやら、かざねのつける香水の匂いに寄って来たらしい猿と彼女が見詰め合っていた。とか思ったら、突然猿がキーとか唸り声を上げ、爪を出した。ハッと顔を引いたかざねの動作がもう少し遅かったら、引っ掻かれていたかもしれない。
「あ、猿は目を見ると威嚇されていると勘違いして、襲いかかってきますよー」
 未名月の、凄いどうでも良さそうな声が言った。
「さ、先に言って下さいよー」



「バッファローはほとんどが赤身だけど、コブの部分には脂が蓄えられている。ここは脂のサシが入って柔らかく、一番美味い部位なんだ」
 旨そうな肉の匂いが、辺りに漂っていた。料理が得意だというマルセルが、即席の鉄板でバッファローキメラの肉を焼いている。
 香辛料に使えそうなハーブや何かは、その辺にある物を摘んで来ただけだったけれど、やたら美味しそうで、克はもう気付いたら鉄板をガン見している。
「見た目は真っ黒だけど、芳醇な香りと濃厚な旨味がたっぷりのバッファローステーキ。ほら、召し上がれ」
「あの臭い糞塗れのキメラが」
 葉っぱのお皿を受け取りながら、かざねが感嘆の眼でマルセルを見る。「マルセル様、凄すぎます」
「えへへ」
「キメラでまともな物を食べるのは初めてな気がします」
「虫、食べさせられてましたもんねぇ」
 意地悪なのか、ただの思い出話なのか、判断のつかないにこにこ顔でアルフが言う。「お、俺もちょっと頂こうかな」
「アルフ様。一言が余計なんですよ〜」
「そういえばこの前はナメク」とか立花が口走りそうになった瞬間、牙があればむきだしにしてやるのに! くらいの表情でかざねが顔を寄せて来た。
「ダディ! それ以上言ったら」
「糞の匂いで威嚇するのは、バッファローの習性だな。原生種に近いキメラはその習性を受け継ぐから、こいつは草食だろう。しかし草食であっても、フォースフィールドの存在が地味に生態系を破壊する。とは言えこいつらも好きでキメラに生まれたわけではない。せめて美味しく食べ、糧にし、生命の輪に戻してやろう」
「ですねー」
 咲空の言葉に頷いた未名月が、「世の中にはキメラを食べたいなんて言う方もいますけど、正直、賛同いたしかねます」と言った空にも「ですねー」と同意していた。結局どれもどうでも良いのかも知れない。
「サーカスの動物は‥少しは自由を満喫しただろうか」
 克が早速もぐもぐ口を動かしながら、言った。
「檻の中は窮屈かもだけど‥こんな時代だから‥みんなを楽しませて欲しいな」