タイトル:社員食堂と赤い石マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/10 00:04

●オープニング本文


 UPC本部内にある社員食堂で、岡本は、遅い昼食をとっていた。
 中途半端な時間のためか、利用者の数は少ない。白っぽい室内はがらんとしていたので、人の動きは、どちらかといえば目に付きやすかった。出入りについても同様で、その、長身で痩身の男の人が入口から食堂内に入って来た時にも、咄嗟に目を向けてしまっていた。
 頬くらいまでの長さの髪の間から覗く、端整な顔が、目立つ。彼は、億劫そうに首を振った。人を探している風だった。すぐに、味噌汁のお椀越しに目が合ったのが、分かった。彼は岡本を見つけると、小さくほほ笑み、手を挙げる。
「やあ」
 傍までやってくると隣の椅子を引き、座った。小脇に抱えていたバインダーをテーブルの上に、置く。間に挟まった資料のような紙がはみ出している。
 思わずそこに気付いてしまったのだけれど、見なかったことにした。紙がはみ出していますよ、であるとか、それは何ですかなどと口に出そうものなら、物凄く面倒臭い話になりそうな予感がした。
「探したよ、岡本君」
「大森さんに探されるなんて」
 見たことも聞いたこともない国の、言葉も通じない異性から、突然積極的なアプローチを受けてしまうかのような、不安と恐怖心を感じる。
「光栄でしょ」
「光栄過ぎて身に余るので、辞退したいくらいです」
 大森は未来科学研究所の研究員だった。岡本の目には、ただの変人にしか見えないが、同僚から聞いた話によると、変人は変人でも、研究者としては優秀な変人であるらしかった。
 次の箸の行き場所を、焼き鯖にすべきか、玉子焼きにすべきかを考え箸を彷徨わせる。玉子焼きにすべきだよ、と隣から投げかけられた大森の言葉にうっかり誘導され、玉子焼きを食べる。
「部屋に居なかったから、きっとここだと思って」
 岡本は普段、UPC本部内のフロアで仕事をしている。所属は、事務処理を専門に行う部署で、入力や出力、ファイリングや報告書の作成、送信などが主な仕事だった。
「そしたらホントに見つけちゃった。ねえ俺って凄いね、岡本君の生態を完璧に把握する日も、近いよ」
 この、優秀らしい変人に生態を把握されたら、一体どういうことになるのか、考えると、怖い。だいたい、変人に優秀という言葉がくっついてるなんて、同点で迎えた後半に味方陣地で反則を取られるサッカーの試合に近く、あの反則さえなければな、あのPKでの点がなければな、あの優秀って評価さえなければな、という具合だった。
「頼みたい事があるんだよ」
「わざわざ探し出してまで頼みごとするの、やめて欲しいです」
「え、何で」
 何でって言われても、と岡本は、口ごもる。
「やめて、欲しいからです」
 聞いてないです丸出しの顔でぼんやり岡本を眺めていた大森は、「それでね、頼みごとっていうのはね」と、話を続ける。バインダーを引き寄せ、中の資料を取り出した。
 触れずに居たのに、結局見せられるんですね、と残念な気分になりながら、その動作を見守る。
「山へ行って石を取って来て欲しいんだよ、能力者の人に」
「あ、石ならその辺で拾って頂いても」
 とか言ったら、大森がこっちを見た。暫く、二人して無言で見詰め合う。
「うん、岡本君」
「はい」
「能力者の人に拾って来て貰って欲しいんだよ、石を」
「はい聞きました」
「分かってると思うけど、その辺で拾える普通の石とかじゃないから」
「普通とか普通じゃないとか、その違いが分からない僕みたいなただの本部事務職員は、その話聞く価値ないと思うんです。だから、他当たって貰ってもいいですか」
「物は鉱石なんだよね。これ」
 大森は、資料の写真を指し示す。濁った血のような赤い色をした岩石が写っている。「これをさ、発掘してきて欲しいわけだよ。血が固まったみたいなどぎつい色してて、可愛いでしょ」
「いや、そんな通信販売の注文みたいに言われても」
「場所はね」
 と言って、また別の紙を取り出す。地図のようだった。
「この地域にあるこの山なんだけど。結構険しい山だね。その中腹辺りにある洞窟の中にあるんだよ。内部の地図は、こっちね」
 内部の地図を見ると、一見して、さほど広くはないようだ、と分かる。道も入り組んでいて複雑だ、というわけではなかった。分岐も二か所にあるだけだ。ただ、道がくねくねと折れ曲がっていて、見通しは悪そうだった。
「地図だけじゃ分かりにくいとは思うけど、地面は窪みが多くて、水とかも溜まってるし、滑りやすいみたいだから」
 そんなに詳しく調べてあるなら自分で探しに行けばいいのに、と思ったまさにその時、「自分で行けばいいのに、って思ったでしょ、今」とか指摘されて、顔を上げる。
「はー思いました、ばれましたか」
「行けるわけないじゃん。だって、キメラ居るんだよ。何か、クラゲみたいなやつ」
「大森さん」
「なに」
「こんなけ聞いといてあれですけど、僕では所属部署が違います」
 ここUPC本部には、世界各国から能力者に対し事件解決の依頼が集まってくる。それらを選別するには、専用の部署があって、岡本の元にやってくるのはそこを通過した書類だけだ。
「僕の仕事は審査部から来た依頼を出力して、ファイリングして、専用端末に入力して、また他の部署へ回すことですよ」
 とか言っても全然聞いていないらしい大森は、「キメラの資料、何処やったかな」とバインダーの中身を確認し、「忘れちゃったみたいだから、後で言うね」と、岡本を見る。
「でも、キメラのデータは少ないんだよね。ほぼ、目撃談みたいなものだし。詳細は分からないんだよね。弱点とか。何せキメラについては謎が多いから」
「大森さん」
「うん、何だろう」
「僕の話、聞いてないですよね」
「聞いてないね」
「じゃあ、もう一回だけ言っていいですか」
「いいよ」
「そういうのを申請するのは、専用の部署があるんですよ。わざわざ僕に言うなんて二度手間っていうか、僕の仕事が増えるだけっていうか」
「うんあのね、わざわざくどくど言って貰って何だけど、そんな事は知ってるんだよ、岡本君」
「はい」
「だからまあこれは、ちょっとした嫌がらせって言うか、ささやかな娯楽っていうか、趣味っていうか」
「大森さんって、歪んでますよね」
「違うよ、岡本君が大好きなんだよ。その鬱陶しそうな顔とか迷惑そうな顔が、凄いいいんだよね。好きなの」
 いや絶対、本当は人間になんて興味持ってないですよね、みたいな顔でそんな事を言われても、怖いだけだった。
「好きなの、って言われても、喜ばないですよ」
「可愛いね」
 大森は、トレイの上に乗ったお皿から、お漬物を摘むついでみたいに、どちらかといえばどうでも良さそうな口調で言った。
「じゃあもっと、嫌がって見せてよ」

●参加者一覧

エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
鳳 勇(gc4096
24歳・♂・GD
峰閠 薫(gc4591
23歳・♂・DG
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG

●リプレイ本文



 会議室に、六人の男女が姿を見せた。
 今回の依頼について話を聞きたいと申し出た能力者の人達だった。
「初めまして、ヘイル(gc4085)だ」
 黒い衣服に体を包んだ、従容とした雰囲気の青年が前に出る。続いて隣から、どちらかと言えば小柄な、柔らかい風貌の青年が手を差し出していた。
「エクリプス・アルフ(gc2636)です。こんにちは。大森さんが頼んだ鉱物の発掘に向かうことになりました」にこやかな笑顔を浮かべ、のんびりと喋る。
 あ、凄いいい人そう、とか岡本が油断しかけたら、わざわざ、とか何か、笑顔のままさりげなく口走られ、え、と戸惑う。「え、わざわざ」
「私達、大森様から詳しい情報が聞ければと思って来たんです」
 そこで長い金髪を二つに分けて結わえた、細身の女性が口を開いた。「私、緋本かざね(gc4670)です。彼女は、リズレット・ベイヤール(gc4816)です。宜しくお願いします」
 一生懸命背伸びしてるんです、みたいに彼女は、若さをその礼儀正しさで隠そうとするかのように、丁寧に喋る。
 かざねに名前を呼ばれた小柄な少女は、こくん、と頷き、「情報が少ないので、リゼは困ります。大森様も石が欲しいなら、もっと協力して下さると嬉しいです。どうせ何もしないんですから」と、か弱そうな外見で意外にばっさりと凄いことを言った。
「で、その石って結局なんなんです?」
 アルフが大森に、問うた。
「何って」
 とか呟いたきり大森は何かちょっとぼーっとした。「そうだね、石だよ」
「うん、それは分かってるんです」
「失礼、それは人を馬鹿にしてるんですか」
 そこでがっちりとした肩幅の男性が、ぬっと前に出て来た。いい加減な奴とか絶対に許せないのだ、我慢できないのだ、と、そんな気配がむんむんしている。話を聞いていて苛っとしたのかもしれない。
「君、誰」
「申し遅れました、峰閠 薫(gc4591)です」
「あ、そうなんだ」
 大森はといえば、そういう人をからかうのは嫌いじゃないです、みたいな生き生きとした目をしている。大森なんか相手にしなければいいのに、と岡本は祈りにも似た気分で思ったけれど、祈りも空しく「次からは、部署を通して依頼するべきです」と、彼がまた正論を口にした。
「うんあのー、出来る時があったら、そうするね」
「出来る時、ではなく、そうするべきです」
「うんだからあのー」
「とりあえず間違いの無いようにサンプルと地図を貸して貰いたい」
 延々遊び続けてしまいそうだ、みたいな無駄な時間をヘイルがばっさりと切った。
「サンプルは、ないんだよねー。ごめんね。いや何か」と言葉を切った大森は、結局「あのーサンプルはないんだよ」と続ける。
「もういいよ、一回目で分かるよ」
「写真しかないの。あと地図ならあるから、それは、貸すね」
「地図がある、ということはある程度の目星がついているんじゃないか。純度の高いもの奥にあるとか」
「そうじゃないかなあ、たぶん」
「どうでもいいが」
 と、ずっと黙っていた鳳 勇(gc4096)が岡本に話しかけた。「何であいつはあんなに偉そうなんだ」
「すいません」と、まるで俳優の奇行をわびるマネージャーの気分で岡本は謝った。
「岡本氏も大変だな。元の依頼主の気まぐれで振り回されるとは」
 すると、感動したように目を見開いた岡本は、はい、そうなんです、と、神様を見るような目で、勇を見上げた。



 かざねは前を歩く薫の姿を眺めていた。
 厳密には、彼の、覚醒時の変化で、地面につくかという程に長く伸びた髪の毛を、そよ風を浴び続けているかのようになびいていたそれを、眺めていた。
 凄いどうでもいいかも知れなかったけれど、この美しい赤い髪が、この若干ぬかるんだ地面の泥で汚れたらどうしよう、とか、かざねは何となくもうそこから目が離せない。
 とか、やってたら、ブーツの底が、濡れた石の上でずり、と滑った。う、と思わず呻き声を洩らし、咄嗟に斜め前を歩いていたアルフの服を掴んでいた。
「ご、ごめんなさい」
「気にしないで」
 アルフが覚醒の影響で赤く変色した瞳を細め、ほほ笑む。さほど広くもないこの洞窟内で、突然キメラに遭遇しては危険だと、彼は探索し始めて暫くすると、探査の眼を使い、辺りを警戒していた。
 それにしても、彼はどちらかと言えば小柄にも見えたのだけれど、こちらを掴んでくる腕の力はしっかりと力強く、やはり男性なのだな、と変なところで感心する。
「見つからないですね」
 そう言って、今度は苦笑とも皮肉とも取れる笑みを浮かべる。
 洞窟内で分岐にさしかかり、三人で別行動し始めてから30分くらいは歩いている。問題の鉱物らしきものはおろか、聞いていたキメラが現れるような気配もなかった。薫の着用するAU−KVが出す稼働音と、皆が腰につけたランタンの出すカチャカチャという音が、洞窟の壁に反射する。
「確かにあまり良い環境とは言いがたいですが、がんばって探しましょう」
「そうはいっても、手掛かりがないとやはり、この中を闇雲に探す、というのは存外に骨の折れる作業かもしれないですよ」
 時折、隆起した壁にAU−KVのヘッドライトを向け、照らし出しながら、薫が指摘する。その折り目正しい喋り方には、得体の知れない説得力があった。本当に一生このままここで彷徨っていなきゃいけなかったどうしよう、と、とかざねはうっかり誘導される。
「じゃあ」
 アルフが覚醒状態を、解いた。「ここでちょっと休憩でも取りませんか」



 一方、反対側の分岐を行った、ヘイル、リズレット、勇の三人も、やはり未だ鉱石を見つけることが出来ずに居た。
「登山に洞窟探索ね」
 ヘイルは呟くように言う。AU−KVを装着しているため、声がヘルメットに当たり、跳ね返るような感覚があった。ぬかるんだ地面を、偏平足な足の裏でずっしりと踏み込む。胸についたヘッドライトが、洞窟内をほのかに照らし出していた。「まるで何処ぞの探検隊みたいだな」
「全くだ」
 腰から取り外したランタンの明かりを壁に向け、目を凝らしながら、勇が肩を竦める。「こんなやり方で本当に見つかるのか謎だ」
「見つからないとリゼ、困ります」
 弱々しく呟いたリズレットが、自らの髪を触った。洞窟に入ったすぐ後くらいに覚醒した彼女の銀色の髪の毛は、一部の髪だけが紅色に変色している。柔らかそうな銀色の髪も美しかったが、銀色に生える紅は、ハッとするほど鮮やかで美しかった。
「だって、こんな場所で頑張ってるんですから」
 そう健気な様子で呟き、おぼつかない足取りで、一歩一歩、歩く。
「何なら我がおぶってやろうか」
 からかうようではなく、真剣に心配している風で勇が申し出た。鉱物の発掘用に持って来たというアイスアックスを肩に抱え上げ、「あんたの重さも、このアイスアックスと変わらないんじゃないか」
「りぜ、そんなに軽くないですよ」
 困ったように唇を尖らせる。「小さいですけど」
 するとそこで、あ、とリズレットが声を挙げた。どうした、と振り返ると、彼女は酷く集中した表情で「し」と手を翳す。
「少し、静かにして頂けませんか」
 キメラの出現を警戒してか、探索が始まってからずっと探査の眼を使い、辺りに注意を払っていた彼女は、何かを見つけたのかも知れない。しかし、すぐに「いえ、大丈夫でした」と顔を挙げた。
「少し、神経が過敏になってるのかも知れないです、ごめんなさい」
 ヘイルは辺りを見回す。リズレットの心細そうな横顔が気になった。空間的にも余裕があったので、「ここで少し休憩でも取ろうか」と、AU−KVの装着を解いた。プシューと空気の漏れ出るような音が鳴り、立て続けに部品が連動し合って形を変えて行く。バイク形態になったAU−KVから降りると、ヘルメットを取り、首を振った。
 長時間圧迫されていた為、空気が気持ち良い。
「確かに、ずっと神経を尖らせ続けるわけにはいかないしな」
 勇がどっかりとその場に腰を下ろす。
「これ、飲んでいいよ」
 ヘイルは道具の入った袋から、乳酸菌飲料を取りだすと、石の上にちょこんと腰かけたリズレットに手渡した。「温めればもっと気分が落ち着くんだろうけど、まあ、気休めだ」
「まあ」
 リズレットが朗らかにほほ笑み、それを受け取った。「ありがとうございます。でも、ヘイルさんは?」
「俺はいいよ」
「おいあんた」
 勇が、スポーツドリンクをヘイルに向け投げた。「だったらこれ、飲めよ。余分にある」
 おっと、と受け取り、「そうか」とほほ笑む。スポーツドリンクを眺めた。
「じゃあ、折角だし頂くよ。ありがとう」
「こういう時こそ水分補給は、大事だからな」



「水分補給は大事ですよね」
 かざねは持ってきた水筒の中身を蓋に開けると、薫に手渡す。
「頂いてしまって、すいません」
「いいですいいです、こういう時は、助け合いですよ」
 彼らもまた、探索に疲れ、休憩を取っていた。
 アルフが持って来たというレッドカレーを振舞って貰い、一息ついたところだった。
 うっかりすると、洞窟の中だということを忘れそうになるくらい朗らかな雰囲気が流れている。薫から返された蓋を閉めているところで、ぴぴ、と無線機に連絡が入った。
「はいはい、どうしました」
 アルフが出ると、「出たよ」と、ヘイルの声が言った。
 彼が余りに緊張感がない話し方をするので、一体何が出たのか、と一同は顔を見合わせた。
「キメラだ。敵発見。戦闘開始だ」
 鋭い声が、飛ぶ。
 一瞬、頭が真っ白になった。
「助けに行かないと」
 やはり、洞窟の中だったのだ、と思い出す気分で、かざねは颯爽と立ちあがる。覚醒状態に入った。全身に淡い光を纏い、髪の毛を結んでいた紐が解け、ふわりと舞い上がった。薫も素早く覚醒状態に入り、AU−KVを装着する。アルフも同じく覚醒状態に入ったが、駆け出そうとするかざねの手を掴んだ。
「そうも行かないみたいですよ」
 顔を向けられた方角を見る。
 仄暗い中にふわふわと浮かんだ白い物体が見えた。
「キメラ。やはり現れましたかっ! 私が斬りこみます! 援護、お願いします!」
 言うが早いかかざねは動いた。キメラに近づいて行くと、エアースマッシュを放つ。武器から飛び出た衝撃波がキメラに向かい飛んで行った。間近から放たれた衝撃波を避けきれず、キメラの頭部にヒットする。ぐにゃり、と頭部が歪む。
「悪いけど、こちらもキメラが出たようなので、応戦する。検討を祈ります」
 無線機に向けそう言うと、アルフは拳銃を構えた。自身障壁を使う。体の強度が増した。
 斜め前では薫が同じく戦闘態勢を整えていた。スパークマシンを構えた状態で、竜の角を使用した。AU−KVの腕と頭部がスパークする。
「さて、どのくらい効きますかね」
 かざねの衝撃波を受けても、キメラに戦意を喪失した様子は見えなかった。相手を攻撃しようと触手を縦横無尽に伸ばしてくる。疾風を使用した。かざねの脚部が淡く光る。あらゆる方向から伸びてくる触手を素早く交わしていたが、避け切れなかった一本が、スパッツの上から刺胞を突き刺して来た。
「きゃ」
 パン、と弾けるような音が洞窟内に響く。見ると、アルフの美しい銀色の拳銃から消炎が立ち昇っていた。撃ち抜かれたキメラの触手がぱたり、と落ちる。かざねの脚に走っていた痛みもすぐに、消えた。
「助かりました!」
「皆様、離れて下さい」
 薫の鋭い声が飛ぶ。構えた二本の棒の間で、バチバチと黄金色の電磁波が発生したかと思うと、キメラに向けその渦が飛んで行った。寸でのところで軌道がずれ、キメラの頭部を掠りはしたものの、上部の壁に激突する。すさまじい音を立て、壁が崩れ落ちてくる。それを察知したらしいキメラが移動した。
 アルフが前に出る。
「かざねさん、パスですよ」
 盾を全面に押し出し、移動してくるキメラにぶつけるようにして、かざりの前に押し出した。
「ナイスパス、頂きました〜!」
 かざねの構える日本刀「蛍火」が淡く光ったかと思うと、「刹那!」キメラの頭部を切りつけた。



 前衛に立つヘイルは、急所突きを出すタイミングを計っていた。
 彷徨うかのように伸びてくるキメラからの触手を、美しい百合の花があしらわれた銀色の槍をで受け、もう一方の赤紫色の槍で、敵を薙ぎ払う。
「リズレット、援護を頼む!」
「はい」
 と頷いたリズレットが、拳銃を構える。「触手を狙います!」
 その隣を勇が走り抜けた。壁際を器用に移動し、キメラの前に立つ。黒色の刀身を持った夜刀神を構えると、すかさずキメラが、うようよとした薄気味の悪い触手を伸ばして来た。
 ヘイルへの攻撃も怠っていないから、器用なことだ、と感心してしまう。まるで、浮気性の男があっちの女にもこっちの女にも手を出すように、節操がなかった。
 勇はメトロニウムで出来た、合金製の盾を構える。盾の中央部に描かれた十字架が、まるで威嚇するかのようにキメラを見つめた。弾き落とすようにして、伸びてくる触手を薙ぎ払う。
「以外にしつこいな、この触手は」
 どちらかといえば面倒な事務作業でもこなすかのように、触手と応戦しながら、ヘイルが呟いた。
 全くだ、と返事を返す勇の前にもまた新たな触手が迫っていた。体制を整えるのが間に合わず、腕を取られる。刺胞が服越しに突き刺さった。う、と思ったのもつかの間、リズレットの拳銃が、触手を撃ち抜く。 ぺぴん、と奇妙な音が拳銃から飛び出た。
「鳳様気をつけて!」
「助かった!」とリズレットに向け声を上げ、キメラの懐目掛けて地面を蹴り込む。しかしキメラも、ふわふわと予測のつかない動きをし、中々簡単には懐に入らせてくれない。
「そろそろ決めてしまわないか」
 ヘイルが軽い微笑を浮かべながら、勇のほうをちらっと見やる。頷きを返したのが合図だった。
 角度に若干難があったが、構えた夜刀神を右下から左上に掛けて振り上げた。「触手さえ気をつければなんてことはない。朽ち果てろ!」
 予想よりも刃先が浅く入り、触手を切り落とす事は出来たが、本体はまだしぶとくもふわふわと浮かんでいる。
「二槍の真髄を見せてやるよ」
 ヘイルは槍を構え直すと、「甘いな、お前の急所は貰った」頭部に深く突き刺した。



 通路を塞ぐようにして浮かんでいたキメラが姿を消すと、その後ろに、幻想的な風景が顔を出した。
 皆の持つ光源で、反射するようにきらきらと光る。殺風景な洞窟内にあってそれは、鳥肌が立ちそうなくらい、美しかった。
 無線機から、アルフの声が聞こえた。
「こちら目的物を発見。まさにこれは赤い石ですね」
「ああこっちにも、あったよ」と、ヘイルは答える。
「でしたらこの幻想的な風景、見えていますか」
「ああ、見えている」
 ヘイルは頷く。背後の二人を振り返り、「さて発掘だ。鳳、任せた」と、ほほ笑んだ。