●リプレイ本文
「竜宮城か〜メルヘンだね〜、でも放っておいたら危険な兵器っていうのがまたシュールだよね」
揺らめく炎のような穂先の、紅蓮色の槍「火尖槍」を肩にかけたホープ(
gc5231)が、機関室に目を向けながら、言った。防具から露わになった首筋に浮かぶ、稲妻のような模様の辺りを、摘むようにして撫でている。
緋本 せりな(
gc5344)は、覚醒の影響で紅く変化した瞳を細め、華奢な指先でそっと顎を撫でた。
「確かに。こんなのが竜宮城なんてね。夢も何もあったものじゃない。さしずめ乗り物がカメ役といったところかな」
「何にせよ」
どちらかといえば普段は、素朴さやはにかみを押し込めた繊細な横顔ばかりを見せている幡多野 克(
ga0444)が、今、その切れ長の眼にはっきりとした闘志を宿し、直刀「月詠」を抜く。「手早く仕事を済ませよう」
「さぁて、別働隊も頑張ってくれてるんだからね」
額に金色の文様を浮かび上がらせたLetia Bar(
ga6313)が、合図を送るように、言った。「ちゃちゃっと終わらせて皆で一緒に帰るよ!」
「さて、行きますか」
エクリプス・アルフ(
gc2636)が、覚醒の影響で赤く光った目を隠すかのように、素早く、ライダーゴーグルを装着した。
背後でクラヴィ・グレイディ(
gc4488)がどちらかといえば華奢な体躯で、ガトリングガンをがしっと構える。足元の動きに合わせて、地面にたゆたう青い粒子がざわざわ、と揺れた。「援護するであります」
「頼みました」
二体居るキメラの内の一体に向かい、ヴォジャノーイを構えたアルフが駆け出して行く。隣で立花 零次(
gc6227)もまた、平行するように走りだしていた。つばの部分がベルみたいにも見える白銀の刀身ホーリーベルを構え、自身障壁を発動する。堅く強度を増した体で、キメラとの距離を詰めた。
「喰えない蟹に用は無い」
十字架のような形状をした超機械、ハングドマンを突き出した毒島 咲空(
gc6038)が、紫色に変化した瞳を不愉快そうに、細める。「‥壊す」
ギュイインと強力な電磁波をキメラの傍らに発生させた。それを逃れたキメラの前に、アルフが立ちふさがる。振りかぶるように下ろされた爪を剣で受けると、鳩尾の辺りを押すように、拳を突き出した。
キメラは背後へとよろけるように押し出されて行く。そこへ、だだだだ、とクラヴィの放った無数の弾丸が、勢い良く着弾した。チッ、と忌々しげに表情を歪めたキメラが、カニの爪のように変化した右手を、拳銃でも構えるかのように、突き出す。死角から飛び出した立花が、どん、とマーシナリーシールドをその体にぶつけた。
「その隙は、見逃さない!」
振りかぶった刃が、キメラの右腕、肘の辺りにぐっと食い込む。
あれさえなければ、と言わんばかりに、アルフが紅蓮衝撃を発動させ、赤いオーラに包まれた体で、キメラの脚元に入り込んだ。振りかぶったヴォジャノーイが、流れる水のような青い軌道を描く。腿の辺りへ一気に、打ち込む。
「今だね」
疾風を発動させた咲空が一気にキメラへと間合いを詰めた。抜刀・瞬を使用し素早くシリンジを抜き取ると、延髄目掛け、突き立てた。
「フ‥。脳漿をブチまけろ!」
一方、克もまた、Letiaの言葉に弾かれるように走りだしていた。
銀色に変化した髪を揺らし、カニのようになったキメラの左腕を避け、間合いを測る。その動きに気を取られたキメラの傍らを、だっとホープが駆け抜けて行った。背後に回り込むと、火尖槍の穂先をその腕目掛け、勢い良く、突き出す。
キメラがくい、と体を捻った。そのまま宙返りするようにホープと克から距離を取り直す。壁を背に拳銃を構えるように、カニの爪のようになった左手を突き出した。
「させないよ」
そこへ、拳銃フォルトゥナ・マヨールーを構えたLetiaの放った弾丸が、飛び込む。忌々しげにまた飛び上がるキメラの着地点を見定め、ホープは、ステュムの爪を装備した右足の蹴りを繰りだした。
着地に失敗しバランスを崩したキメラが、ぐと呻きながら、床に手を突く。
「一番厄介なのはやはりその腕だっ。早々に落とさせてもらうよっ!」
せりなが、オーラブルーを手に走り出す。両断剣を発動し、目にも止まらない速度でその側面に回り込んだかと思うと、水晶のように透き通った青色の刀身が、キメラの左腕を切り裂いた。
「それさえ使えなければ」
豪破斬撃を発動した克の月詠が、一瞬の間、赤く輝いた。ハッとその攻撃に気付いたキメラは、同時に拳銃の銃口が、自分を狙っていることに、気付く。
「決めさせて貰うよ」
Letiaのフォルトゥナ・マヨールーから勢い良く弾丸が飛び出した。
「決着をつけさせてもらう」
キメラの首目掛け、克が月詠を勢い良く振りかぶる。
●
「ねえねえ、蟹って美味しいらしいじゃん」
落ちたカニの爪をじーっと見つめながら、ホープが呟いた。
「こいつらの手ってどうだったのかな?」
そこに、あ、みたいな、いち早く反応したのは克で、え、それ、言って良かったの、みたいな顔で、何かちょっとこっそり、ホープを見た。基本無表情なのだけど、内心では意外とそわそわしてて、でも結局、「食えんだろ」とか、ばし、と咲空に答えられてしまい、何も言わず、顔を戻した。
「さあ、今のうちに撮影を済ませてしまいしょう」
立花が、緊張した面持ちで、言う。「久々に、真面目っぽい仕事ですから」
「え、久々って?」
真面目ではない仕事って、何、貴方今までどんな仕事してきたの、と言わんばかりのLetiaの目が、立花に、向く。
「しかし、海の底の移動要塞でありますかー」
クラヴィが、壁の方を見やりながら、言う。まるでその向こうにある海を夢想しているかのようだった。「敵の基地とはいえ、海の底っていう立地はなんだかわくわくするでありますなぁ。仕事というのが多少残念ではありますが、この後も油断せずにきっちりしっかり済ませるでありますよ!」
「そうそう、とにかく今は仕事だ、仕事」
その隣を、カメラを手にした咲空が颯爽と通り過ぎて行く。ずかずかと機関室内に侵入した。かと思ったらもう、ぱしゃぱしゃとシャッターを切っている。
「いや咲空さん、撮影は扉を閉めてからの方が」とか立花は言ったが、彼女はもう全然聞いてない。バコン、とかパネルを外して撮影し出した。
「それにしても、せりなさんって似てますよね」
扉の入り口辺りで探査の眼を発動し、周辺の警戒を始めたアルフが、咲空に続こうとしていたせりなを、見やった。「妹さんに。いやあれ、お姉さんに? ん? あれ、せりなさんがお姉さんでしたっけ」とかちょっと、からかう。そしたら意外と真面目に「いや」とか唇を歪めたせりなが、「私の下に妹はいない。いるのは姉さんだけだ。その何ていうか、あの人は私よりその、可愛いらしいところがあって、ちょっと危うい感じがするかもしれないんだけど、何ていうかそこが妹としては放っておけないっていうか」とか、どんどんもう姉自慢っていうか、姉大好きな感じが、無自覚にだろうけど出てくるので、アルフはとりあえず、「知ってましたよ」と、優しく止めてあげることにした。
「でもこれ、カメラ? 面白そうだから引き受けたけど、使い方、わかんないや」
途方に暮れた顔で撮影機を眺めるホープの傍に、Letiaが寄り添う。
「簡単だよ〜」
えっとね、シャッターはここね、とホープからカメラを受け取ると、一つ一つ指さしながら、説明していく。「で、ズームとかはこう。やってみて? あ、そうそう」
「なるほど分かった! ありがとう」
そしてLetiaに向け、シャッターを切った。「何だか面白い、こういうの」
●
「ふむ」
咲空が腰に手を当てた格好で、機関部を眺めた。「撮影はこんな感じか」
「私の撮影の腕前は、中々の物だよ。何せ姉さんを撮るので慣れて」
とか言い出したせりなの顔を、咲空が無表情に振り返った。何だか良く分からないけれど何かちょっと見詰め合った後、徐に咲空が「カメラか」とか、手元のカメラに目を落とす。
「そういえば昔、妹に古いカメラを譲った事がある。もう捨ててしまっているかもしれないが」
「妹が、居るのか」
「そうだ」
「そうか」
とか全然盛り上がってなさそうな話をしているそこに、立花が「あ」と割って入る。「そういえば咲空さん、貴方の妹さんは」とかすかさず切り出してみるも、「実は、私には姉さんが居て」とか、せりなが言いだしたので、え、盛り上がってなかったのにその話引っ張るんですか、続けるんですか、とか傍目には二人の気持ちが全然、分からない。また、咲空が「そうか」とか、言う。「そうなんだ」とせりなが答えた。
「重要機関全景も撮影したでありますしー」
クラヴィがぴち、と足先を揃え、飛行機の点検整備士よろしく、ぴっと指先を向けながら、撮影箇所をチェックした。「コンソールの画面辺りも撮影したでありますしー」
「でもこれ‥誰かくるかもとか‥ちょっと緊張した‥よね」
「したした、すごおい、した」
いや絶対楽しんでただけですよね、みたいな表情でホープがカメラを振り回す。精密機械なのに、とかちょっと心配になった。
「でもさ、これ。何なんだろう? さっきから、気になってたんだけど」
ホープが機関部の一角にある、ボタンを指さす。明らかな太字で「電源」とか書かれてあった。「電源落とすな、機能停止注意!」とも、書かれてある。
「ふむ、明らかに罠臭い。大体、人類に分かる言葉で書いてあるのが、怪しい」
「機能停止出来るんじゃーんとか思って、人類が押すとでも思った、のかな」
「とか人類が深読みすると思って‥実は本当に、電源だったり‥して」
「どっちだよー」
ホープは咲空と克の顔を見比べながら、おろおろとする。それから最終的に、面倒臭くなったのか、ええい、とか叫んでポチ、と押した。するとその途端、ピーオンピーオンとか、ああこれは明らかに非常事態ですね、と分かるような、けたたましいサイレンの音が鳴りだした。機械の一部が赤い明滅を繰り返しても居る。
あわわわ、と焦るホープをよそに、「よーし」と、M−121ガトリング砲を構えたせりなが前に進みだして来た。
「こんなの、壊してしまえば早いよ! 最後の仕上げだ、派手に行かせてもらおう!」
そう言うと躊躇いもなく引き金を引いた。四十発もの弾丸が、嵐のように高速に打ちだされて行く。おりゃーとか、言ってないけど今にも言いそうな凄い楽しそうな顔で、銃弾を機械へと浴びせかけた。
「自分も行っちゃうでありますよー!」
ガトリングガンを構えたクラヴィが、だーっとこちらも勢い良く弾を放つ。
「ふっ、ここまでハチの巣にしてやれば修繕も何もない。完全なる破壊の完了だ。やはりこれくらいしないとね」
満足げにせりなが腰に手を当て、拳銃を肩に引っかけた。
そこへ、「どうしたんですか」
「どうしたの」
と、どちらかと言えば普段は、何処となく超然として掴みどころのないアルフとLetiaの二人が、珍しく慌てた顔をして扉を開き、中を覗き込んでくる。中の惨劇を見て、唖然とした。
先に立ち直ったLetiaが、「え、なに、もう潰れちゃったの〜」そのお店チェックしてたのにーと言わんばかりの口調で、言う。
とかやってたら、その背後から、「な、何だ、貴様ら、どうした」とか、全然知らない、でも明らかに軍のオジサンぽい人が慌てた様子でやって来た。
あ、と一同は一瞬、動揺する。咲空が素早くカメラの置かれた場所の前に立ち塞がった。
「やぁやぁ」
Letiaがさりげなく軍人を押し戻す。
「こうバグアの施設内だと人類側のと勝手が違うからねー。そっちも大変じゃない? ま、お互いこうして話せて何よりだっ」
その間も克は、実のところ今回見咎められたら、絶対言おうと思っていた「実はバグアの技術研究を希望してて」とかいう言い訳を言い出すタイミングを見計らっていて、今か、と思ったその瞬間に、クラヴィが「罠や自爆装置の類が無いか調査中であります!」とか笑顔満開で言ったので、あ、その次だ、今だ、とか思ったらもーオジサンが「何だそうか」と早速納得してしまった。
何か悔しかったので、「実は‥バグアの技術研究を希望してて」とかぼそ、と呟いてみた。
「でも幡多野さん。STじゃないですよね」
立花にすっかり、聞かれた。
うん、とか恥ずかしげに顔を伏せる。
みたいな一連の流れは基本見ないで、落ちた部品とかで、水中バイクの可能性について勝手に考え出したりして、いやもう何で能力者用のオフロードバイクがラインナップにないんですかーとか考えていたアルフは、そこに一枚の写真がひらーと落ちて来たことに気付き、拾い上げる。
はーそーですかー写真でしたかーみたいに目を上げ、それから、え、ともう一回、見た。つまり、二度見した。
麻袋から目だけ出した少女が、写り込んでいた。え、麻袋?
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「いや、私の妹は恥かしがりやでね。そうしていないと、駄目なんだ。小さい頃は、本当に笑顔の可愛い女の子でね。絵心があった。私が言うのもなんだが、天才だった」
瓦礫の山から回収したと思しきデータチップらしき何かを手の中で弄くりながら、咲空が、言う。いやだから、え、そうなんですよね、貴方、あの人のお姉さんなんですよね、俺、妹さん、知ってるんですよね、とか猛烈に言いたいアルフの横から、それは何だい、とせりなが言う。
「機関部から回収してきた。一応な、写真以上のデータ回収になるやも知れんしな」
「ポケットにでも、入れて帰るつもりかい? 発見されたら」
「大丈夫大丈夫。これくらいの物なら」
コンソール付近から、同じくチップや基盤らしきものを回収したLetiaが、服の首元から自分の手を中に突っ込む。「ほら、ブラに隠れちゃうし。発見されても痴漢! とか騒いじゃえばやり過ごせそうだしね」
こっそり記憶媒体の回収を行っていた立花は、あ、みたいな、その瞬間を目撃した自分恥ずい、みたいに耳の辺りを若干赤らめ顔を背ける。
「でも、写真‥とか‥回収とか‥、何故極秘なんだろう。どんな意味があるのか‥そのうち分かる時も‥あるのかな」
鉄屑を集める克が、言う。
「分かるでありますかねー?」
素材の破片や壁に使われている特殊な材質を、やたらめったらポケットに突っ込むクラヴィが小首を傾げる。
「胡散臭いドロームのことだからな。どうなるかは、分からんな。ま、金を貰って仕事をする傭兵に、それを知る必要も無いがね」
「確かに、持ち帰った物が使えるか分からないけど」Letiaがこめかみを押さえた。「それでもこれが人類の未来に役立つ事を祈ってるよ」
「それにしても」
ホープはうーんと伸びをした。
「エキゾチックな見た目のわりに中身は意外と普通だったよね」
それから笑って一同を振り返った。「竜宮城」