タイトル:モーテル掃除マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/21 05:50

●オープニング本文







 世界各国から集められた、リサイクル可能な資源が、というかそれはもう西原の目にはただのゴミにしか見えなかったのだけど、とにかく、そのような物が、そこには無造作に積み上げられていた。
 機械が稼働する、例えばモーターの音であるとか、何か重い物を叩いてるような地響きのような音であるとかが、奥にある小さな町工場みたいな建物から響いている。ついでにそこはかとなく、悪臭が漂ってもいた。
 営業部に所属していた時には、ドローム社の本社の敷地内の片隅に、こんな場所があるとは知らなかった。だいたいが、庶務に五課が存在し、そこが環境対策室とかいう片隅部署だということすら知らなかったから、ひっそりと仕事をする環境対策室のための、ひっそりとしたこの場所を知らなかったのも、無理はないかもしれない。
 けれどそこには、それなりに人員が用意され、きちんとした仕事や処理が日々行われているのだ、という事実を目の辺りにすると、やはり、何となく驚くような、気付いてなくて申し訳ないです、というような、不思議な感覚になる。
 とか何か考えながら、敷地内をうろつき、奥まった場所に目的の人物、宇部を見つけた。
 バインダーのような物に目を落とし、時折ゴミの山を見上げながら、何かを記入している。
 ドレッドヘアーに意外と美形の宇部は、どちらかと言えば結構な確立で臭く、どちらかと言えば常に酒が入っていそうな感じで、あんまり真面目な様子もなくて、この人はちゃんと仕事しているのかしら、どうなんですか、と、それが唯一の先輩でもあるものだから心細くも感じていたのだけれど、時折ふらーと居なくなる、とか思ったら、こんなところで、え、あれは仕事してるんですか? と、もう戸惑った。
 宇部が顔を上げる。西原に気付いたらしく、面倒臭そうにだらだらと歩いて来た。
「頼みたい仕事が、あるのね」
 唐突に、言われる。とりあえず、「はー」とか何か頷いた。
「また、ちょっと能力者の人達にお願いしなきゃいけない案件だから、ULTに連絡、して欲しいんだけど」
「はー」
「詳細は、俺のデスクにファイルがあるから、後で見ておいて」
 はーとか何か、生返事をしてから、「え」と戸惑う。
「なに」
「いやあれ、それって、わざわざ呼び付けて、言う程のことだったかなあ、って何か今ちょっと」
 今日の朝、出勤して間もなく、何となく嫌らしい感じのする、でも見た目の割に意外と全然無害な課長から「宇部君が呼んでたから」と言われ、わざわざ広い敷地内を端から端へと移動した苦労の割に、内容が五分程度とか、効率的にも心情的にも納得できない、ような気がした。
「でもだって俺、今日は一日中、こっちに居なきゃいけないし」
「あそうですか、御苦労さまです」
「うんありがとう」
 と、礼を言われたら、もう会話がそこで終わりそうな雰囲気だった。最悪終わっても仕方ないのだけれど、一応、「いやあの内線とかで良くないですかこれ。詳細がデスクにあるなら、尚更、電話で良かったですよね?」とか、言っておくことにした。
 そしたら何か、ドレッドヘアーの隙間から覗く形こそ美しいけれど、どよんと濁った瞳に、じーとか見つめられた。あどうしよう何これ見つめられてる、どうしよう、とか何か不安になりかけた頃、宇部が口を開いた。
「元、製造部の西原君」
「いえ、営業部です」
「営業部から、飛ばされて来た西原君」
「いえあの前にも言ったんですけど、僕ちょっと飛ぶとかは出来ないっていうか」
「何でもいいんだけど」
「はー」
「俺が今日一日ここで仕事をするって言うのに、西原君は一度も顔出さないで、デスクでぼーっとしてるとか、腹立つじゃない」
「腹立ちますか」
「腹立つね」
 とか、あんまりはっきり言われるので、「はー、じゃあ仕方ないですよね」と諦めることにする。
「頼みたいのは、取り壊しの決まったモーテル内のキメラ討伐、及び、清掃とリサイクル資源の回収、なんだけど」
「はい」
「ラスベガスからちょっと行ったところにあるモーテルなのね。野性化したキメラが、少しばかり生息してる。二階建で、現在の建物を取り壊した後は新しい建物を建てる予定があるらしい。資材とか全部持ってって良いっていうから、後から俺達も向かうけど、それまでにキメラの討伐と、ちょっとした掃除とかリサイクル出来そうな資源の回収とか、しておいてくれると、嬉しい。ほら、外に運び出しておいてくれるとか」
「はー、分かりました。とりあえずデスクの書類、見てみます」
「うん、頼んだよ」
 そう言って宇部はまたバインダーに挟んだ紙に何事かを記入するとかいう作業に、戻る。その背中に何となく、「まるでお掃除屋さんですよね」とか呟いたら、
「まーお金になるなら、何でもいいんだよね。会社としては」
 作業を続けたままの格好で、彼が答えた。










●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
鳳 つぐみ(gb4780
10歳・♀・GP
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG
エルト・エレン(gc6496
14歳・♂・DG
壱条 鳳華(gc6521
16歳・♀・DG

●リプレイ本文







 調べ終わった部屋の扉に、探査終了の×の印を刻んでいるところで、「オラァ!」とか何か物騒な声が聞こえたかと思うと、隣の部屋の薄っぺらい木の扉が、どがあんとか開いたかと思ったら壁にぶつかって跳ね返りましたばしいいん!、みたいな、凄い音がした。
 え、何、キメラ? とか何か思って、壱条 鳳華(gc6521)は、隣の部屋を咄嗟に振り返った。そしたら、さっさと隣の部屋の探査に取りかかっていた伊佐美 希明(ga0214)が、扉に足を掛けた格好で腕とか組んだ格好で、こっちを見ていた。
 絡まれそうな姉さん選手権があったら確実に上位に食い込んできそうな風貌の希明は、意外と優しい声を出した。「あ、悪い、驚いた?」
「うん、驚いた。かな」
「こうやって扉を蹴りあけてみたかったんだけど。ない? そういうの」
 そうだね、あるね、とか何か、答えようと思ったら、話振ったわりにもう人の返答とか全然聞いてない希明が、ハッと閉まった扉の方を見た。途端に、ズン、と、空気が微かに振動し、彼女の顔面の左側が、まるで鬼の様な、醜悪な形相に変貌する。覚醒状態に入ったのだ、と分かった。
 鳳華はすぐさま、AU−KVアスタロトの装輪をフル回転させる。臨戦態勢に入り、隣の部屋目掛け突進だ、とか思ったら、もう、希明の手にある白銀の拳銃「ジャッジメント」が、ドン、と銃弾を放っていた。
「生憎と私の射撃には、死角はねぇのよ」
 とか言ってる間にも華美な装飾の施された、漆黒の拳銃マモンをもう一方の手に構えている。
 鳳華もまた、天剣セレスタインを抜くと、通路が痛むのもお構いなしに、勢いを保ったまま、一気に部屋の中に掛け込んだ。
 黄緑の体に紫の斑点を持った、薄気味悪い外見の蛙みたいなキメラが、ベッドの上やテーブルの上でげえげえ、と鳴き声を上げている。部屋はキメラの放つ悪臭で酷い匂いがした。
「敵は煩いのに加えて悪臭まで放つキメラか。美しくないな」
 刀身にセレスタインの埋め込まれた、複雑な模様を持った美しい外観の剣を振りかぶると、ベッドの上で鳴き声を上げるキメラへ向かい振り下ろす。ぴょおん、と跳ねたキメラが長い舌を出した。鳳華に向け鞭のように飛ばしてくる。
「おいちゃんがフォローすっから、心配すんなぃ」
 すかさず背後から、希明の放った弾丸が飛んだ。「嬢ちゃん。しっかり、仕留めろよ?」
「私は美しくないものは嫌いだ! さっさと始末してしまおう!」
 セレスタインを空に向け掲げると、アスタロトの腕や頭に、バリバリ、とスパークが走った。「美しき姫騎士たる私に斬られることを光栄に思え! L’eclat des rose!」
 振り向きざま、キメラの胴を切り裂く。
 そこでダンダンダンダン、と立て続けに、銃声が響き、見ると、希明が両手に持った拳銃で、バスルームの浴槽とか、クローゼットとか、何か、撃っていた。
「いや、何か良く考えたらいちいち探すより、こうした方が早いかと思って」
 まだ何も言ってないけど、彼女はそんな言い訳めいた言葉を口にする。良く考えたわりに、行動が大雑把過ぎた。とか、例え思ってたとしても、可哀想なので黙っておくことにした。



「ぜ、前衛は、お、お任せください!」
 とか何か、鳳 つぐみ(gb4780)は言ったのだけれど、何処からどう見ても、めちゃくちゃビビってるし、物音の度にびく、とか体揺らしてるし、大丈夫じゃないよね、任せちゃいけないよね、とフローラ・シュトリエ(gb6204)は何か、思った。
「ああ、蛙。ど、どうしよう‥こ、怖い、かも‥。で、でも頑張らなきゃ」
 口元に手を当てながら、目を合わせることもなく、ぽつぽつ、と喋る少女を見ていると、いや絶対無理だよ、帰った方がいいよ、とフローラは、心配になる。
 とか何か思ってたら、意外とチャレンジャーなつぐみは、もう伏せてベッドの下を覗き込んだりしている。と思ったら、椅子を運んで来て、登って、クローゼットの上の隙間を覗き込んだり、した。
 あれ、怖がってるの、怖がってないの、どっち、とか思いかけた頃、「居てほしくないような」とか何か言いながら、クローゼットを開いたつぐみが、突然、きゃあ、とか何かか細い悲鳴を上げて、ちょこんと尻餅をついた。
 フローラはすぐさまフォローに動く。覚醒し、銀色の紋様が浮かび上がった手でエネルギーガンを構えると、電波増幅を発動した。
「煩いわ臭うわって別の意味でも酷いキメラねー。早めに倒してしまいたいわ」
 その間にも、あわわ、とか何か、そのグロテスクなキメラの風貌に、後退りしていたつぐみは、ぐっと歯を食いしばると、立ち上がり、覚醒状態に入った。
 顎元くらいまでだった黒い髪が、突然、ぶわ、と舞い上がるように伸び、広がる。
 さっきまでのおどおどぶりが嘘のように、か弱い足でしっかりと地面を踏み込むと、金色に変化した瞳でキメラを見つめる。
「潰し、ます‥!」
 小さい背中が、あれ? CGですか? とかちょっと確認したくなるくらい、しっかりとして見え、なるほどね、意外とやるのね、とフローラは心配するのを、やめた。彼女は彼女でやれることをやる。私は私で、やれることをやる。
「手早く片付けてしまいましょう」
 引き金に指を掛け、力を放つ。エネルギー弾が、銃口から飛び出した。
「フローラお姉さん、つぐみ、行きます!」
 たたたた、と小走りにキメラへ突進したつぐみは、疾風脚を発動し、タッと飛び上がると、そこでくるんと一回転した。
 その回し蹴りを避け、キメラが跳ねる。すかさずフローラは、また、エネルギー弾を放った。急所突きを発動したつぐみが、エネルギー弾の軌道へと押し込むように、キメラの腹の部分を目掛け、キックを放つ。



「それにしても随分な外観だねェ」
 咥えた煙草から、ゆらゆらと細い煙をくゆらせながら、ヤナギ・エリューナク(gb5107)が言う。英国人の血が混じっているらしい彼の肌は白く、鬱陶しげに細められた赤い瞳も相まって、何となく、吸血鬼のように見える。リズレット・ベイヤール(gc4816)は、控えめな視線を、まるで小動物が敵の様子を窺うように、ちらちら、と彼へと向けた。
「ま、引き受けたからにはさくっとヤっちまいますか」
 がりがり、と扉に印を刻み、煙に眉を潜めながらリズレットを振り返る。「こんなもんでいいよな」
「はい」
 リズレットはドレスについた胸元のフリルの辺りを握りしめながら、か弱く、頷く。「これで‥同じ場所を調べる事は無い筈ですね‥」
「リズレットの案なんだろ、これ。旨い事考えたよね、時間のロスも防げるし」
「皆さんのお役に立ったなら‥良かったです」
 本来は銀色一色の、けれど今は覚醒の影響で所々に紅い色を混じらせたリズレットが、その長い髪を揺らしながら、恥ずかしげに、微笑む。「GooDLuckと探査の眼も発動していますから‥変なことには‥ならないと思うのです」
 とか、言っていたまさにその矢先、床から飛び出していた建材に躓き、前へとつんのめる。
「きゃ」
「‥おっ、と」と、ヤナギが咄嗟に腕を出す。抱えて、すぐさま、起こした。「大丈夫か? お嬢さん」とか飄々と言う顔面が、近い。
「り、リゼにはお姉様が、は、離して」顔を真っ赤にして抗議をしたけれど、とかいうのは全然聞いてません、みたいにヤナギが、ふと視線を明後日の方へ向け、「ワー、奇抜な配色だなァ、おい」と、驚いてるのか驚いてないのか、何か良く分からない調子で、呟いた。
「え?」
 とか何か、戸惑ってる間にも、ヤナギが覚醒している。近くを見つめているのか、遠くを見つめているのか、焦点の定まっていないようにも見える瞳が、妖艶に、見えた。眩い光を放つ直刀ガラティーンを構えると、一気に間合いを詰め、密着する。そこからくるん、と回転すると、振りかぶった剣を叩き込んだ。
 一方リズレットも、照れくささにいつまでも浸っているわけにはいかない、と、自らを叱咤し、銀色の銃身の拳銃「スピエガンド」を構える。
 ヤナギを射線上に入れないように陣取り、引き金を引く。「バックアップ‥致します」



「エルトさん」
 ソウマ(gc0505)は、凄いクールっていうか、むしろ冷たくも見える美貌をぴくりとも動かさず、「先程から思ってたんですが」とか何か、言った。
 少し後ろをついてくるエルト・エレン(gc6496)を、振り返る。
「じっとこちらを見つめてらっしゃいますが、僕の顔に、何かついてますか」
 そしたら何か、意外と相手は無反応で、ちょっとその場がシーンとした。無言の間が流れる。
 あれこれどうしたら、とか何か思いかけた頃、彼が、見ているこちらが驚いてしまうくらい、突然、びくっと、体を揺らした。顔はAU−KVの頭部なのでその表情は全然分からないのだけれど、明らかにあわくっているようだった。とかいうのを比較的冷静に見て、でも内心では、意外と、あれこれ大丈夫なのかな、とか何か、思いながら、でも見ていた。
 そしたら、胸元で組んだ手とか、いそいそと動かしていた彼が、その手を解く。覚醒の影響なのか、リンドヴルムから放たれていた、青白い微光をすくい取るように指先に乗せると、「LHに来て初めての依頼なので緊張していました。とりあえず、足を引っ張らないようにしたい、です」とか何か、空に書いた。
 実は意外と同じ歳なのだけれど、全く真逆の雰囲気を纏う少年二人は、そこで何かちょっと見詰め合う。
「この手の依頼って報酬が良いですよね」
 顔を逸らせたソウマは、肩を竦めるようにして、呟く。あ、僕の話無視ですか、みたいな、ちょっとおろおろしたエルトは、結局、はい、とか何か、空に書いた。
「僕も。これでも、内心では意外な掘り出し物が見つけれないか、ワクワクしているところは、あるんです」
 突然何を言い出すのかしら、とか思ったけど、エルトは黙って、頷く。
 そしたら、ちら、と、ソウマの猫のような瞳がエルトを見て、また顔を背けた。「つまり、そんなに、緊張して堅くなることはない、ということです。楽しむことも、まあ、ありということですね」
 それから何となく、何言ってんだか自分みたいな、居心地の悪そうな表情をする。エルトは、そっとリンドヴルムのフェイスガードを開いた。
 彼の瞳を見つめながら、しっかりと、頷く。
「じゃあ、開きますよ」
 小さな微笑を口元に浮かべ、扉のノブに手を掛けた。「良いですか」
 背後でエルトが頷いたような気配を確認してから、扉を開いた。キメラがその部屋の中には存在しているらしいことを、鳴き声ですぐさま、理解する。キメラの習性は事前に頭に叩き込んでいる。奴らは敵を察知すると、鳴き声を放つ。
「魔猫を瞳に映す事は出来ない。決して誰にもね」
 瞬天速を発動した。敵は一体だ。
 中心に虹色に煌くトパーズの付けられた、篭手型の超機械ミスティックTに覆われた片手を掲げ、キメラの視線すら交わしながら、間合いを詰めた。飛び出してくるキメラの舌を、直感で避け、不敵に微笑する。「無駄ですよ」
 エルトはそんな、戦う同年代の仲間の姿に押し出されるようにして、戦闘に加勢する。リンドヴルムのフェイスガードを下げ、装輪でキメラとの距離を詰めると、竜の鱗を発動した。覚醒の影響で現れていた青白い微光とはまた種類の違う淡い光が、AU−KVの回りを覆う。キメラの注意を引くように、前へと飛び出した。
 ソウマが、まるで影から影へ移動する魔猫のように移動する。エルトの動きに気を取られているキメラの背後から、腕を突き出し、がば、とその頭部を掴んだ。ぎぎぎぎ、と強力な電磁波がそこに発生する。
「チェックメイト」
 丸焦げ状態でぷしゅーと煙を放つキメラを空に掲げ、「焼き蛙の調理完成、ですね」
 ソウマは肩を竦める。




「ちっと前まではここら一帯も競合地域だったわけだし、ここに新しい建物が建つなんて、少し感慨深ェもんがあるね」
 とか何か言った希明が、フローラの指示の元、リサイクル資源と廃棄する物に分けられたゴミの山を見上げた。
 それからごそごそ、と足元のゴミを漁る。「お、アナログレコードじゃねぇの。アンプも、状態は悪くない。懐かしいな。ウチの親父が、好きだったっけ」
「しかしこれはまた大量ねぇ。整理するだけでも大変そう」
 フローラが、豪力発現を発動し、部屋から大型の荷物を運び出してくるソウマを見やり、言う。それにしてもあんな小さな体で、大きな家具なんかをひょいひょい運ばれると、違和感があった。
「おっと。感傷に浸るのは、おいちゃんのキャラじゃねぇな。さぁ、さっさと片付けちまおうぜ」


 一方室内では、つぐみ、リズレット、鳳華の三人が、室内の簡単な掃除に勤しんでいた。
「戦闘で、ちょっと、散らかっちゃいましたね。業者さんが来た時に‥歩きやすいように‥、片づけるのです。うんしょ、うんしょ」
 可愛らしい掛け声を上げながら、モップで床を磨いて行く。
「取り壊す建物の掃除というのもアレな気はするが。まぁ、綺麗な方が私は好きだからな」
 バトルモップを片手に、鳳華が、肩を竦める。
「そういえばさっき。ソウマさんが、黒焦げになったキメラを食べますか、と聞いてきてたな」
「か、蛙? あの、蛙? た、食べるの」
「フランスにはカエルを食べる文化がある。生きて動いているときは嫌悪さえ覚えるが、こと食となれば別だ。新鮮なものは高級食材でもあるからね。蛙はまず白ワインで下ごしらえして、小麦粉でカラッと揚げるのが一番だ。そして最後にブルゴーニュ風のソースをかける。これがもう、最高に美味しいんだ」
「でも、蛙なのに」
 と、そこで部屋の中の、まだ使用出来そうな小物や食器類を物色していたリズレットが、パタパタ、とドレスのスカート部分を叩きながら、現れた。
「‥衣服の汚れが気になるのです‥」
 とか何か呟いたかと思うと、めっちゃ熱心にスカートとか叩き出して、でも取れなくて意地になったのか、「扇嵐」を取り出し、ふわふわ扇ぎ初めて、熱中して、ぶわ、とか起こったそれはもう、軽く竜巻だった。
「ちょ、リズレット!」
「あぅ‥あ‥加減を間違えてしまったのです‥ごめんなさい‥」


 更にモーテルの屋上では、エレンが、追いかけて来た野良猫と一緒に、遊んでいた。
 楽しそうに瞳を細め、ゴミの中から拾った玩具で、猫とじゃれる。
 と。
「こらてめー、サボりかよ」
 とか何か、野太い声が聞こえ、エレンはびく、と体を揺らした。恐る恐る振り返ると、めっちゃ美形の、怖いそうなお兄さんが立っていて、エレンは不安に瞳を曇らせた。
 胸に抱えたノートをぎゅっと抱きしめる。
「なんてな」
 咥え煙草のお兄さん、ヤナギは煙を吐き出しながら、鉄柵に身を寄り掛からせた。「俺も、サボり」
 とか言った彼は、「あーやっぱ、仕事の後の一服は美味ェわな」と顔を外へと向ける。
 冷たい風が吹いた。
 青白い、空が、見えた。