タイトル:玉子料理と我儘な親マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/27 14:30

●オープニング本文







 昨日から、大森邸には、滅多にお目にかかることのない、未来科学研究所に所属する方の息子、双子の兄の方が宿泊している。
 母親もぞっとするほど美しいのだけれど、その息子はまた、母親に良く似て、端整な顔立ちをした、けれど人格的に問題のある人物だった。
 宮本は、どちらかといえばこの兄の方が苦手だったけれど、かと言って、今日だけは仕事やめてもいいですか、とか言えるはずもなく、黙々と、二人が飲む昼下がりの紅茶を淹れていた。
「どうしても食べたかったの、玉子料理が」
 豪華な装飾の施された椅子に腰掛けた母親が、足を組んだ格好で、雑誌か何かのページを繰りながら、言った。美しい髪の毛を肩の辺りまで伸ばし、七分丈のパンツをはいた彼女は、三十代の息子が二人居ます、あと娘も居ます、とかいう年齢には全然見えない。するとその、三十代の、でもやはり年齢不詳の息子さんが、「そうなんだ」と、こちらも何かの書籍のページを繰りながら、答えた。
「美味しい玉子を、見つけたのよね。ほら、親鳥の餌にまで気を使って、とかいうやつ」
「そうなんだ」
 とかいう息子さんの返答の後、暫く沈黙が流れ、ぱらり、と雑誌のページのめくれる音がした。
「アナタ、今、いい加減に聞いてるでしょう、私の話」
 暫くして、母親の方が、言う。
「そういうアナタも今、結構いい加減に喋ってるんじゃないの。雑誌読みながらとか、基本、喋る気がないよね」
「相変わらず人の話をちゃんと聞かない息子よね、アナタって」
「そうかしら」
 とか息子さんが答えたら、また暫く、沈黙が流れる。二人とも、話をする気があるのかないのか、何を考えているか分からない表情で、書籍のページを繰っている。話が終わったのかしら、ここで紅茶を出すタイミングかしら、とか何か、思ってたら、また母親の方が、「でもね、その玉子、どういうわけか、盗られちゃったらしくて」と、話を続けた。
 あ、こんな感じなのに続けるんですね、まだ続くんですね、と、宮本は危うく動きだしそうだった体制を立て直す。紅茶を出す素振り、とかは見られてないとは思うけれど、全然そんな事は考えてませんでしたよ、みたいな顔を取り繕った。
「運搬途中だったのかしらねえ。鳥みたいな大きなキメラが、ばさーって来たかと思ったら、玉子の入ったカゴを盗ってっちゃったらしいのよね」
「へえ」
「ちなみに、運搬中の人は、無事だったらしいわよ」
「ああそうなんだ」
「それでね、私もどうしても諦められないじゃない」
 とか、宮本の目には、本当は全然この話興味ないんですよ、むしろ、諦めるもくそも玉子料理が食べたがったなんて思ってなかったんですよ、みたいな表情にしか見えないのだけれど、とにかく、母親の方が言う。「だからもう一度注文とかしてくれないかしら、って、お手伝いさんにお願いしたのね」
「うん」
「そしたらあれは、凄く少数しか取れない玉子で、しかも予約がいっぱいだから、来月にならないと届かない、とか言われて。ねえ、宮本」
 と、そこで話が来た。「そうですね、そう聞きました」とすかさず答え、「紅茶をどうぞ」と、カップをテーブルに並べる。
「でも、私、今月中に食べたいのよね」
 間延びした少女のような口調で言い、母親の方がカップを手に取る。紅茶を一口、飲んだ。別に美味しい、とか言われるわけでもないのだけれど、けれど不味いと言われたわけでもないので、今日も無難に仕事がこなせて良かったなあ、とか何か、一人で仕事の達成感とか覚えてふと見たら、何でか息子さんがこっちをじーっとか見ていた。え、何、とか思ったのだけれど、え、何? とは言えないので、見なかったこととかにしてみた。
「ふうん」
「だからアナタ、ちょっと、頼んでくれないかしら」
「何を」
「キメラの討伐と、玉子の奪還をお願いしてくれないかしら」
「何処に」
「ULTによ」
 決まってるじゃない、と言いたげな口調で、母親が言う。
「無駄なんじゃないかしら」
 と、どちらかと言えば面倒臭そうな口調で息子さんが答えた。というか、彼の口調は常に面倒臭そうだったから、今のくだりで面倒臭そうになったのかどうかは、分からない。「玉子なんて、もう、無くなってるんじゃなかな」
「もしかしたら、残ってるかも知れないじゃない。ばさーって来て、爪にカゴごと引っかけて行ったんだから」
「見たの」
「見てはないけど、そう聞いたもの」
「ふうん」
 また、興味があるのか、馬鹿にしてるのかしてないのか、良く分からない口調でひっそりと、頷く。「じゃあ、言ってあげてもいいけど」
「あら、本当に?」
「玉子が帰ってくるかどうかは、保障しないし、味も保障しないけど、いいよね。どうなってるか分からないし」
「そうね、いいわよ。例え玉子の残骸でも見れたら、それはそれで、すっきりできる気がするもの。そう私意外とすっきり出来ないと嫌なタイプなのよね」
 とか何か言う、母親の自己分析のくだりは、それは知らないけど、とドライに流し、「あと」と、ちらっと一瞬視線だけを上げ、母親を見る。
「あと?」
「たまには帰って来てねとか、お見合いしない? とか言わないなら、頼まれてあげても、いいよ」
 そう言ってまた彼は、書籍に目を落としページを繰った。












●参加者一覧

山崎・恵太郎(gb1902
20歳・♂・HD
矢神小雪(gb3650
10歳・♀・HD
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN

●リプレイ本文







「こういう空洞って何だかドキドキするよねー」
 鈴木悠司(gc1251)が、ランタンの灯りを揺らしながら、言った。「こう、何処に繋がってるのかなって言うワクワク感とか!」
「あ〜分かります、分かります〜」
 その斜め後ろくらいを歩く緋本 かざね(gc4670)が、凄い不用意な顔で同意した。「こう」と、何かを考えるような素振りをし、悠司の言葉に乗っかるような事を言うのかな、とか思ってたら、「何処に繋がってるのかな、っていうワクワク感とかですよね〜」とか、考えたわりに同じ言葉を言うとかいう衝撃的な行動をしたので、戸惑った皆の視線がかざねを、見た。
 そんな中で凄い無自覚な彼女が残念過ぎて、何か分からないけどむしろこれはもうちょっと愛しい、とか何か、マルセル・ライスター(gb4909)は、思わずきゅん、みたいな甘酸っぱい気持ちになったので、「結構、登るんだね。かざね、大丈夫? 手を貸そうか?」とか、妙に優しい事を言った。
 かざねが警戒したような顔でマルセルを見る。「何を企んでるんですか」
 入口付近で、「神経リンク、接続シークエンス良好、ミヒャエル起動」とか何か言いながら、AU−KVミカエルを装着した彼は、今日もすっかり、くるんとした目の愛らしい童顔で、逆に感情が読めない。
「道が悪いからね。いつでも、俺の方に寄り掛かって来て良いよ」
 とか言われても、「さりげなく突き飛ばしておいて、かざね! 大丈夫? 僕の手に捕まって! とか、複雑な趣味がこっそり顔を出しそうで怖いので良いです」とは、言えない。言えないけど、そっと距離を取った。
「そうだね。これは確かに、道が悪い。二輪では登れないよね」
 AU−KVミカエルを装着した山崎・恵太郎(gb1902)が、口を挟む。「でもAU−KVを装着していれば、不意に現れた蝙蝠とかが出ても対応出来るな」
 とかクールに言った瞬間、窪みに溜まった水たまりを踏み込んだ彼は、そこに足を取られ、ちょっと躓きかけた。とか言うのを、エクリプス・アルフ(gc2636)は、がっつり隣でガン見していた。
 無かった事みたいに冷静に体制を立て直した山崎と、それをまたのんびりと見つめるアルフは、暫く、見詰め合う。
「うん、それでも足元には、注意が必要だけど」
 ええそうですね、躓きましたけど何か。
「そうですね」
 いえ、分かります、心配しなくても何も言いませんから。
「しかし玉子ねえ」
 ヤナギ・エリューナク(gb5107)は煙草の煙を吐き出し、冷笑を浮かべた。「玉子1つにこんな大騒ぎするってなァ、一体どんな玉子さまなんだろうねェ」
「美味しい玉子っていうくらいだから、普通のとやっぱり違うんじゃないかな」
 悠司が、くるんと向きを変え、ヤナギを振り返る。「とにもかくにも、食べたら、分かるよ!」それからぐ、と拳を握る。
 ヤナギはその何か元気いっぱい、食う気もりもり! みたいな顔を暫く眺め、「悠司」とその名を呼んだ。
「はい」
「うん」と何かちょっと間を開け、「いや、やっぱいいわ」と顔を背ける。
「えー、途中でやめないでよー」
「そういえば、キメラが生息していると思われる地点までもうすぐだけど」
 黒く長い髪を揺らしながら、春夏秋冬 立花(gc3009)が、明るい口調で提案する。「作戦とか考えたほうがいいですかね?」
「作戦ですかー」
 1メートル位の長さの柄を持ったフライパンを背負った矢神小雪(gb3650)が、可愛らしい口調で言って、小首を傾げる。「じゃあ」
「小雪さんはあれだ、口を開く前に10秒ほど考えてから発言してください」
 とんでもない発言を警戒し、立花は、先に釘をさす。
「えっとー、じゃあ、コンチキショウキメラのー」とか言ったところで、「よし却下」とか素早く遮ると、きょとん、とした顔で小雪が見つめてきた。
「まだ全部、言ってないけど」
「発言に、不穏な匂いがしました」
 とかいう立花の指摘を聞いているのか聞いていないのか、相手にしてるのか、相手してないのか、良く分からない顔で何かちょっと立花を見つめていた小雪は、最終的に「そろそろ山頂だね」とか言って、岩壁に身を寄せる。
 キメラは、とか何か呟きながら、そろっと岩壁の影から様子を窺った。「居るね、二匹。情報通りだよ」
「ま、依頼は依頼だ」
 ヤナギが軽い準備運動、みたいに手を回しながら、言う。「さくっとこなしますかね、っと」
 その言葉が合図だったかのように、一同は、二手に分かれ、走りだした。




「玉子、発見!」
 炎を纏っているかのような、複雑な模様の刻まれた炎剣ゼフォンを構えた悠司が、キメラの背後を確認し、声を上げる。「玉子が割れないように、注意だー!」
 喜んだように、覚醒の影響で現れた尻尾をふりふりする。
 キーキー、とキメラが鳴き声を上げ、こちらを威嚇する。
 山崎は、狭いスペースでも巧に装輪を操り前衛へ出ると、竜の爪を発動しスパークを発生させた手にゲイルナイフを構え、振りかぶる。それを避けたキメラが頭上高く飛び上がった。
 すかさず携帯したフォルトゥナ・マヨールーに持ち替え、照準を合わせる。発砲する直前に、ずどん、と斜め後ろから銃声がした。
 ヤナギの構えた小銃S−01から、消炎が上がっている。
「目を撃ち抜くのはやっぱ難しいかねぇ」
 妖艶に変化した眼差しの先で、放たれた銃弾がキメラの翼の辺りを掠め通りぬけて行く。キーとまた鳴き声を上げ、方向を変えたキメラは、こちらに向かい、急降下してきた。
 赤く光った目元を、ゴーグルで覆ったアルフが、赤いオーラを纏いながら、飛び出して行く。脚甲「インカローズ」を装着した蹴りで、キメラを牽制した。
 そこにまた、銃声がなる。山崎の放った銃弾が、キメラの尻尾を打ち抜ぬいた。一瞬不意を突かれたかのように、高度を落としたキメラの動きを悠司は見逃さない。すかさず、側面へと回り込むと、流し斬りを発動した。
 ゼフォンの刃が、キメラの翼を折る。
「よし、行くゼ、悠司‥っ!」
 直刀ガラティーンを構えたヤナギは、反対側の側面へと回り込むと、くるん、と身体を回転させた。遠心力を利用した一撃をその翼に叩き込む。
「これで‥終わりだ‥っ」
「俺も行くよ!」
 同じく円閃を発動した悠司は、ゼフォンの刃を鋭く突き出された爪の辺りに食い込ませた。
「とどめは任せて貰いましょうか」
 紅蓮衝撃を発動したアルフが、勢い良く飛び上がり、空中で一回転すると、その勢いのまま、足を突き出し、キメラの脳天にキックを放つ。



「さ〜て、全力全壊で調理しちゃうよ〜!!」
 一方、二体の内のもう一体に向かう小雪は、黒のコートにスーツを着用した格好で、戦闘用調理器具フライパン・アサルトを振りかぶっていた。
 搭載された過熱機能により、白熱化されたフライパンを振り回す。
「俺、あまり射撃の成績良くなかったから、一生竜の息なんて使うこと無いと思ってたけど‥。でも、苦手は克服しないとね」
 神々しい女性が描かれたメトロニウム合金製の盾を構えたマルセルが、奇声にも似た甲高い鳴き声を放つキメラを睨みつけ、呟く。小雪の攻撃を避け、ぐうんと上昇したキメラは、急降下する機会を狙っている。
 そこに、小銃S−01を構えた立花が、制圧射撃を発動した。「牽制するよ!」続けざま、八発の銃声が、響く。高度を変え、それらを避けるキメラの動きを見やり、それから、背後のかざねを振り返った。
「かざねちゃん!」
 今だ、とか何か、言おうと思ったら、びっくりするほど大きな、それはもう、自身の身長より大きいのではないか、というような、炎剣「ガーネット」を構えたかざねの姿があり、何となく、え、それ大丈夫なんですか、貴方に操れるんですか、と、思わず失礼な心配をした。
 すると何をどう勘違いしたのか、「あ、言いたいことはわかりますよ。コレですよね。大丈夫! 別に炎とか出すわけじゃないですから、あっつくないです!」とか何か、かざねが言った。確かに鍔の中央には磨き上げられたガーネットが収まっていたし、そこから溢れる光はまるで炎のように刀身を輝かせてもいたけれど、絶対そんな心配はしない、と思った。むしろ、「やかましい」
「え」
「あ、ごめん、うっかり本音が」
「立花様〜」
 とか何か言ってる間にも、キメラが、隙だらけですけどいいんですよね、みたいに急降下してくる。かざねは、チラ、と視線を動かすとすかさず、迅雷を発動した。全身が仄かな光を放つ。瞬間移動したかのような素早さで距離を詰めると、ガーネットを大きく振りかぶった。ぶうん、と光を放つ刃が風を切る。
「その隙、見逃しません! ぶった切ってやるんです! 真っ二つ〜!」
 その一撃は素早いキメラの動きに避けられる。「ふふん、逃がしませんよ!」
 意外と悪い顔をしたかざねが、にやり、と笑う。縦に振りかぶった剣を素早く横に持ち帰ると、バットを振るように一直線に叩き込んだ。こりゃいかん! とでも言いたげに、キメラが軌道を変え、空高く飛び上がる。「子癪ですね。でもまあ、こういう派手な武器もたまには悪くないかな」
「確かに結構、動きが早い‥っ。けど、直線的に滑空してくるなら」
 木目調のアンティーク風味な小銃WM−79を構えたマルセルが、ぐっと、両手に力を込める。腕に、ビリビリ、とスパークが生じる。「‥そこを狙う」
 勢い良く飛び出した弾丸が、キメラの翼を撃ち抜いた。
「よし!」
 その隙にも玉子の元へ駆けよっていた立花が、「だらぁ! そこの鳥! この玉子の命が欲しかったら動くんじゃねー! その場でガタガタ震えることだけ許してやる!」とか何か、凄まじい大声で言ってて、かざねはもう、見た目はそんなお育ちの良さそうな美人令嬢なのに、いいんですか、そんな事でいいんですか、と、おろおろする。
「ほんじゃあまあ、こんがりにするけど良いよね! 答えは聞かないけどさ」
 翼を撃ち抜かれ、ふわふわと落ちてきたキメラ目掛け、小雪が、白熱化したフライパンを打ち込んだ。「竜の咆哮!」
 機鎧排除を発動していた体から力が漲る。ドウッと、キメラの体が弾け飛んだ。


「つがい、だったのかな」
 息絶えたキメラの死骸を見下ろしながら呟いたマルセルは、もしかしたら彼らは、依頼の玉子を彼らは自分達の子供だと思っていたのかもしれないな、と考え、切なくなった。キメラは子孫を残せないけれど、僅かに残った生き物の本能が、そうさせているとしたら、それは、少し、悲しい。
「次に生まれてくるときは、どうか幸せに」
 そっと目を閉じ、両手を合わせる。
「もし、二匹が恋人だとしたら、また廻り合えます様に‥。おやすみなさい」




「さ〜て、打ち上げのBBQの準備をしちゃうよ〜!!」
 腕まくりした小雪が、持ち物を広げる。「えっと、理器具一式【秋月】に、調味料【子狐スペシャル】でしょ、あとは【子狐屋】専用食材ボックス。あれ? 煎餅と、稲荷寿司はー?」
 とか、可愛らしい顔で辺りを見回す小雪に対し、すかさず「ねえよ!」とか何か、立花が言っている。
「でもさ、分けて貰えて良かったよね!」
 ジッポライターで、着火剤を燃やし、火を起こす手伝いをしているヤナギの回りをくるくる、と回りながら、悠司が歌うように、言う。
「つか悠司! またお前ェは食い意地見せやがって、お前も手伝えよ」
「あ、俺は食べるの専門。あーあ。ビールとか、あったら良かったのにー、ビール、ビール!」
 とか何か言った顔を、ふーんそういうこと言うんだー、みたいに見つめたヤナギは、「ねー、そっちにある一緒に分けて貰った普通の玉子五個くらいと、そこのジョッキ取ってくれる」とか、野菜や肉を串に刺す作業をしているアルフに言った。
 悠司が「え」と顔を曇らせる。「な、何するの」
 そわそわする犬、みたいにおろおろする彼を無視して、ジョッキの中に全部の玉子を割ってしまうと、ちょいちょい、と手招きをした。怖いけどでも、近づいてしまう犬、みたいに恐る恐る近づいて来た彼の首根っこを素早く掴むと、「うりうり、これでも飲めッ!」と、ジョッキを押しつけた。
「ぎゃー。ごめんなさいー!」
 わー、とか何か、彼が必死に両手をばたつかせる。けれど、そこでふと、手慣れた仕草で野菜を切っているマルセルの手元を見て動きを止めた。
「む‥タマネギ‥発見」
「俺は野菜を焼く係を担当しようかな」
 お皿に移されていく野菜を眺めた山崎が、トングを手に、うん、と頷いた。「みんなが肉ばっかり焼いたら肉食パーティになってしまう。野菜も食べないと栄養が偏るからね。そんなバランスの悪い食事は許さない」
 暫く、パチパチ、とトングを開いたり閉じたりしていたけれど、輪切りにされた玉ねぎを掴み、コンロの網の上に置いた。
「あれは」
 と悠司は呟き、ヤナギを見て、にっこりとした。「ヤナギさんにあげるね!」
 それから慌てたように、「あ、もちろん、嫌いだからじゃないよ。ほら、山崎さんも言ってたじゃないか、肉ばっかり食うと、栄養が偏るって」とか何か、言い訳丸出しのことを言う。
「好き嫌いは」
「え」
「許さねえぞ、悠司〜!」
「あばば、ちょ、待って、生またごとかブッ」
「玉子〜玉子〜おっいしっい玉子〜、私も食べたい、おっいしっい玉子〜」
 その頃、珍妙な歌を歌いながら、ボウルに入った水を運ぶかざねは、あんまりにも歌に夢中になり過ぎて、全然前とか見てなくて、地面に落ちていた石とかに躓いて、気付いた時には、ばしゃあ、と前方に立つ立花に、水をぶっかけてしまっていた。
「あ」
「かざね、ちゃん‥」
 水の滴る艶やかな髪の隙間から睨まれ、思わず、へらへら、とする。「あ、あの、大丈夫ですか、お外でずぶ濡れで服が素肌にぺったり張り付いて透けている立花様」
「状況説明で無かったことにしようとしてんじゃねえ! だいたい、ちゃんと前を見て歩かないから、こういう事に」
「ごめんなさい」
「ハッ、ってか今まで一緒にいた小雪さんは、どこに」
 きょろきょろ、と辺りを見回す立花の向かいで、かざねが申し訳なさそうにあのー、とか背後を指さす。「小雪様なら後ろで‥」
「まさかっ!」
「立花様をじっとり舐るように見つつ写真撮ってます」
「うおぉぉぉぉぉ! 油断も隙もねぇぇぇ!」
 ああ、そんなに美しい髪を振り乱して、水も滴る美人が台無しですー、とか何か残念そうに呟いたかざねは、「でも、楽しいから、見てよっと」とか、そもそも水を滴らせたのは自分のくせに、すっかり、エアーだった。
「いやあ、騒がしくて、楽しくなりそうですね〜」
 着々と串に肉や野菜を突き刺しながら、アルフがのんびりと、言う。
「そうだね」
 野菜を着々と焼く山崎が、答えた。