タイトル:撮影所の掃除マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/31 12:50

●オープニング本文






 いやはや参った参った、とか何か、へらへら笑う課長が、ハンカチで手を拭きながら、デスクに戻って来た。
 ウワー笑っているよ、とか何か、凄い引いた目でちら、と、一度は見たのだけれど、例えば全然可愛くない捨て犬とかを見つけて、何か期待とかされて寄ってこられたら嫌だな、懐かれたら嫌だな、とかいうのに似た気分で、西原はすぐさま、目を逸らした。
 いかにも今、僕は仕事で忙しいので、みたいにパソコン画面をじっと見つめてみたのだけれど、「いやあ、昨日、大量の干し芋を食べちゃってね。やっぱり、芋って、お腹にくるんだね。ねえ、西原君」
 とか、全然聞いてないのに、すっかり捕まった。
 四角い顔の眼鏡の奥の、細い目が、ちらちらとこっちを見ている。
「あー」
 愛想笑いを浮かべながら、「そうですねー」とか何か、とりあえず流した。
「西原君は、家に大量の干し芋があったとしても、絶対に、食べちゃ駄目だよ」
「そうですねー」
 いや食べないですよ、っていうかお腹壊すまで食べたりしないですよ、と目がもうどんなに押さえても軽蔑する。
 とかいうその間にも宇部は、黙々と雑誌を読んでいたりして、全然この多少うざい感じの、でもきっと悪い人ではない感じの課長に一切構われない感じが、羨ましすぎた。
 ドレッドヘアで、美形の宇部は、常にあんまり覇気とかなくて、仕事も真面目にやってる感じでもなくて、しかもちょっと臭いのだけれど、この小心そうな課長よりよっぽど威圧があったので、そもそも自分がこの、ドローム本社の、片隅の「庶務五課、環境対策室」に営業部から移動させられてくるまで、この狭い部屋の中で、課長と宇部がどうやって過ごしていたのか、と、うっかりそんな事を考え出したら、無視とかされて所在なさげに笑っている課長、とかがすぐに思いついて、何だか、泣きたいくらい不憫になってきた。
「課長」
 と、宇部が読んでる雑誌から目を上げることもなく、言った。
「うん、なになに、宇部君」
「西原君が突然、泣きだしそうになってます」
「えー、なに、どうしたの西原君」
「いえ、何でもないんです」
「あ、そういえば」
 宇部が、雑誌をバタン、と閉じてデスクの上に放り投げた。「撮影所の掃除の件って、どうなってるんだっけ、西原君」
「どうなってるって」
 振り返った宇部の、どろん、と濁った、けれど美しい二重の形の瞳の目力にすっかり気圧されながら、西原は、呟く。「何ですか」
「いや、昨日、言ったじゃない。撮影所の掃除をお願い出来ないかって、連絡があったって。美術セットとか機材とか大量に残ってるみたいで、使えるものは何でも持って帰ってくれていいよ、って言われたから、ULTに能力者の人達の派遣お願いしといてね、って。俺達も後から行くけどさ、何せほら、キメラが出るからさ、まずは討伐をお願いして、時間があったらスタジオ内の機材を外に運び出しておいて貰うとかして貰ってさ。スタジオは、6つあるからね。何時頃まで撮影に使ってたのかは知らないけど、まだ映画のセットのまま残ってるところも、あるかも知れない」
 とかだらだらっと喋った宇部のことを何かちょっと眺めて、課長を見て、それからまた、宇部を見た。
「はい。聞きましたね」
「二回もがっつり言わせといて、そんなリアクションするんだ」
「いやっていうか何で今それ思い出したんですか」
「何でって、何」
「いやだって干し芋とか課長のくだりと全然関係な」
「いや、干し芋とは関係ないよ、全然関係ないよ。課長の話とは全然関係ないよ、なに、何か問題あるの、仕事場で仕事の話して何が悪いの」
「まさかそんなに怒られるなんて」
 そしたら何か課長が、僕には全然かんけーないけどみたいな、エアーな口調で、「いやいややっぱり若い子同士だと活気があっていいよね。なに、仕事の事で喧嘩?」とか、その暢気な感じがすっかりもう、うざかった。
「課長」
「うん、なに宇部君」
「西原君が、この野郎、笑うな、みたいな目で課長のこと見てます」
「おっとう怖いなあ」
 とかまだまだめげずに笑い続けてる課長が、あ、と何かに気付いたように、声を上げた。「ねえねえ、おっとう、なっとうは、似てるよね」
「似てたら何なんですか」
 でももう全然聞いてない課長は、傍らに置いてある鞄から、何かを取り出し、テーブルの上に広げ、一体何を出したのか、と思えば、干し芋だった。油断し切った表情でそれはもう流れるようになめらかな仕草で、口に運びかけて、ハッとした。「あ、間違えた。危ない危ない」
「いや何と間違えたんですか」
「やだもう、こんなところにあるから、間違えて食べちゃうところだったよー。あはは、もうこれ、呪われるんじゃないかしら、干し芋の呪い」とか何か良く分からない事を言いながら、ばしばし、と西原の肩を叩いてくる。「なんてね、ははは」
「いや痛、ちょ、痛いです。やめてください」
「で、西原君。撮影所の件は、どうなってるか、言ってくれるかな」
「その前にこの二人でどうやって仕事をやって来てらっしゃったのか、それを聞いていいですか」











●参加者一覧

宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
エリノア・ライスター(gb8926
15歳・♀・DG
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
結城 桜乃(gc4675
15歳・♂・JG
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG
毒島 咲空(gc6038
22歳・♀・FC
壱条 鳳華(gc6521
16歳・♀・DG

●リプレイ本文








「ここで」
 ソウマ(gc0505)が、スタジオ内を見回しながら、言った。「多くの映画が生まれたんですね」
「どんな映画撮ってたんだろうな」
 丸めた紙を手の中で弄くる宵藍(gb4961)がキメラを警戒しながら、言う。とかいうのを、殆ど聞いてないソウマは、柱を見て、あれ、と声を出す。「これって」と有名な俳優の名前を口走り、「彼の、サインでは」とか何か、言った。
「サイン?」
 宵藍が柱に顔を近づけ、ふうん、と頷く。「確かに俺も雑誌か何かで見た覚えがあるような。映画に、興味があるんだ?」
「一応、演劇部所属の身ですから、演技に対しては興味がありますよ」
「俺も。演技部門のアイドルだからさ、演技に対しては興味がある。あ、じゃあ、この彼の出演してる作品で、あの映画見たことある? あれ、えーっと」
 とか何か、二人してクールな顔で楽しがってるのか楽しがってないのか良く分からない、みたいに話し込んでいたら、「誰だ、そいつは」とか何か、毒島 咲空(gc6038)が言った。
 ソウマが、有名な映画の名前を口にし、「そこに主演していた俳優なのですが」と説明をすると、彼女は、凄い無表情にこちらを見て、固まった。そのままうんともすんとも言わなくなったので、ん、あれ? これ、大丈夫かしら、と、漠然とした危険すら感じ始めた頃、「あ」とか、短い声が漏れた。「ああ、あの、奇抜なメイクをした男か」
「はい、そうですそうです」
 思わず前のめりになりかけながら頷く。とかやってたら、ガシャン、と音がして、三人は振り返った。
 鞘に収まったままの刀を片手に、AU−KVバハムートを装着した月城 紗夜(gb6417)が言った。「軽く、突いただけなのだが」
 それから、足元に崩れおちた何かの機材を見つめる。「触った途端にどういうわけか機材が壊れたのだ」
「キメラを探すためとは言え、月城は機材に近づかない方がいいな」
 宵藍が、額を押さえ、漏らす。
「それにしても、擬態能力のあるキメラとは」
 顎に手を当てたソウマが、ポツリ、と呟いた。「どのぐらいの完成度で擬態できるのか少し、楽しみですね」
「こういう背景セットなんて、溶け込むのにもってこいっぽいけどな」
 言い終わるが早いか、放置されたままの美術セットに向け、紙玉を投げる。敵を探す為の行動だったのだけれど、紙玉はただポスン、と地面に落ちただけだった。
「しかし。50cmのキメラの擬態など、間抜けなだけだと思うんだがな」
 とか何か言った咲空が、どういうわけか沢山の緑色の丸い物が詰め込まれている、人が入れそうな大きな水槽のようなプラスチックの容器の傍を通り過ぎる。その瞬間、「ならば、こっちはどうだ」と、宵藍がその中目掛け、紙玉を放った。
 そんなに上手く隠れられるわけ、みたいな、若干キメラを侮った発言をしようとしたまさにその瞬間、水槽に落ちた紙玉に反応し、ぶわ、と薄い赤色の光が溢れ出た。
 思わず、え、そうなの、居たの、うそ全然隠れてるじゃん、むしろ凄い隠れてたじゃん、とか驚いたように、咲空が振り返る。
「キメラ、発見だ」
 宵藍が、ペイント弾を装着した美しい銀色小銃、S−01を、すかさず、構える。「再擬態で見失わぬよう、素敵なメイクをしてやるよ!」
「どんなに上手に隠れても」
 月城が、すぐさま、刀を鞘から抜き去る。「フォースフィールドは隠せまい」



 AU−KVアスタロトを装着したエリノア・ライスター(gb8926)が、自分の深緑と黒のツートンとは色違いの、AU−KVアスタロトを装着した壱条 鳳華(gc6521)を振り返り、言った。
「そっかイチジョーも、アスタロトか。へへっ。暴風のエリノアだ。学校はズルけている。ま、よろしくな!」
 フェイスガードを開いた鳳華が、ふ、と小さく唇をつりあげる。「アスタロト同士、良い連携が期待できそうだ。よろしく頼むぞ」
「それにしても撮影スタジオか。なんか、ごちゃごちゃしてやがんな」
 腰に手を当てた格好で、スタジオを見回し、エリノアが呻く。「ま、私にゃ全然縁のねー場所だけどな」
 でもそのすぐ後で、あ、とか何か思い出したような声を出し、「そいや前に、アイドルオーディションみてーな依頼を受けたっけ。まーバカ騒ぎできりゃよかったし、採用通知そのまま捨てたけど」とか何か言うので、そうなのか、と鳳華は思わずその顔を見やった。
 驚いたのには、彼女がアイドルというそこで、いや良く見ると顔は可愛いか、まあ、私には負けるがな、うん、悪くはない。ただ、その、ガサツさは、とか、凄い失礼な事を考えたのだけれど、「へっ。不良にゃアイドルはつとまんねーよ」とか、無邪気に微笑まれると、もう言ってはいけない気がした。
「あ」と、顔を背け「うん」と、緩く微笑み、それから、「この中に擬態能力のキメラ、とはな。厄介だ」と、話を変える。
 探査の眼を発動しキメラを警戒するリズレット・ベイヤール(gc4816)を振り返った。「リズレット、すまないがよろしく頼むぞ」
「はい‥」
 寄りそうようにして壁を眺めていたリズレットが、名前を呼ばれ、ハッとしたように顔を上げた。こくん、と頷けば、紅いメッシュ入りの、艶やかな銀髪、さわり、と揺れる。「確か‥周囲に溶け込むように擬態する能力を保持しているとか‥特に、不自然な繋ぎ目や凹凸が無いか目を凝らしましょうか‥」
「そうだね」
 こちらもセット内の壁に目を走らせていた結城 桜乃(gc4675)が、「ぼ」とか何か言って、一瞬、固まった。あれ何ですか、みたいな皆の視線が一斉に向く。「ぼ?」
「いや、うん、俺もその辺りには注意が必要だと、思う」そしてまた、セットの壁を見る作業に戻る。
「何だよ、おい。ぼって何だよ、何処にも出てきてねえじゃねえかよ、なあ、鳳華」
 とか何か、そういうの納得できないんで、そこはっきりしてくんねえかな! みたいな、意外と細かい所に引っ掛かってるエリノアは放っておくことにして、鳳華は、ふむ、と何らかの機材らしきものを手に取り、これは、何だろうな、とか何か見ながら歩いていたら、ガツッと、何かに毛躓き、バランスを崩しかけたので咄嗟に手を出したら、掴んだのは何かの布で、体を支えるどころかもうズルっとか落ちて来た。
 ガチャアン、とアスタロトごと、引っ繰り返る。
「おい、鳳華!」
「鳳華様!」
「おいおいあんた、大丈夫かよ!」
 とか三人に思い切り騒がれ、むしろその慌てっぷりが、恥ずかしかった。「何がだ」とか、冷静な顔で立ち上がり、無かったことにしよう、と思ったその矢先、顔を上げたら、リズレットが拳銃スピエガンドを構えていて、もう焦った。「ちょ、ちょっと待て、転んだだけだ、私が悪かった、待て、落ち着け」
「後ろに‥キメラが」
「え?!」
「ペイント弾を撃ち込み、先手を‥取ります」
 言い終わるが早いか、彼女が引き金を、引く。レン、と奇妙な銃声が、響いた。




「そっちにも、居ましたか!」
 小銃S−01を構えたソウマが、ペイント弾を撃ち込む。「魔猫の知覚からは逃れることはできません。何人たりともね」
 不敵に微笑み、銃を仕舞うと、すかさず超機械ミスティックTに覆われた右手を掲げる。
「まずは、邪魔なカマを潰す」
 覚醒の影響で、両の瞳を鮮やかな瑠璃色に変化させた宵藍は、凛とした雰囲気を発しながら、月詠を抜いた。豪破斬撃を発動する。真っ直ぐに伸びた月詠の刃が、一瞬淡く赤色に輝く。
 一方、月城は、キメラの手から繰り出されるカマの攻撃を、直刀「蛍火」の淡い光を帯びた刃で受けていた。
「エミタ不調の上に、重体でムカついているんだ」
 押し出すように力を込め、ぎりぎり、と奥歯を噛む。「黙って斬られろ‥ッ」
 そこへ、ソウマの放った電磁波が飛び込んでくる。飛び上がり、攻撃を避けたキメラめがけ、疾風を発動した咲空が、緑色の透き通った刃を持つ斧ダイオプサイドをバットを構えるように振りかぶり、飛び込んできた。
「仕置きの時間だ」
 フルスイングの攻撃を繰り出し、切るというよりは、叩き潰すような勢いで、斧を振る。バキバキッ、とキメラがショートしたように、痙攣した。「おいおい、もう少し楽しませろ」
 その隙に体制を立て直した月城が、竜の爪を発動する。
「カマの次は、その柔かそうな腹部かな」
 先程の攻撃で両の腕を切り落としていた宵藍は、続いて急所突きを発動し舞うように体を回転させ、突きを繰り出していた。衣服の青が、ひらひら、と舞う。
 ずし、と月詠の刃が、深く、食い込む。「これで、終わりだね」
「僕もかくれんぼは得意なんですよ」
 隠密潜行で敵の視界から一瞬消えたソウマは、死角より、超機械による攻撃を繰り出した。その背後からにじり寄っていたキメラの姿を、直感で察知し、ハッと体をまた、移動させる。「無駄です。月城さん、そっちにキメラが飛びましたよ!」
 月城が、スパークを走らせた両の手で蛍火を振りかぶる。「一撃で、仕留める」
「こっちも一撃だ」
 また、ダイオプサイドを振りかぶった咲空が、新たなキメラを相手に、刹那を発動する。力を集中すると、その手が淡く光を帯びた。「神の元に送り返してやる」
 そして、ぶうん、と風を切るように斧を振る。「着払いでな」



「こっちのキメラも、マーキングだ!」
 小型の自動小銃スコーピオンを構えた結城が、すかさず、ペイント弾を発砲する。
「いくぜいくぜいくぜぇーーー!!」
 エリノアは、アスタロトの装輪走行を開始すると、現れた数匹のキメラをスタジオ中央へ追い込むように、ズシャーッと、スタジオ内を凄まじい勢いで走りまわって行く。中央に押し出されたものの、攻撃を警戒し、ばらばらとはぐれた中の一匹のキメラに対し、リズレットが、バトルピコハンを振りかぶった。「えい‥」と、可愛らしい声を出し振り下ろすと、「ピコッ!」とか凄い可愛らしい音が鳴って、え、そんなので攻撃出来てるの、大丈夫なの、みたいな様子だったのだけれど、意外ときちんとダメージを与えられているらしく、キメラの体がべちゃ、と潰れた。
「何でそんな、騒がしい武器にしたんだ」
 複雑な模様を持った美しい外観の天剣セレスタインを構えた鳳華が、思わず、というように、声を漏らす。
「えっと‥ピコピコ音がすれば‥他のキメラも気づく‥かしら‥と、思って‥」
 リズレットは、恥ずかしげに顔を伏せる。「なんでこの武器を選んでしまったのでしょうか‥うーん‥。でも、‥癖になりますよね‥この音‥」
 とか何か、一人ですっかりはまってるリズレットの傍に、飛び上がったキメラが迫っていた。
「危ない!」
 弾薬をスコーピオンに装填した結城が、銃弾を放つ。ハッとしたようにリズレットが顔を上げ、バトルピコハンを振りかぶった。
「リズレットさん、今です!」
「はい‥」
 ピコっとまた、緊迫感のない音が、響く。
「っしゃあ、こっちも行くぜー! 神経接続シークエンス良好! アシュトレト、竜の角、起動ッ!」
 バチバチ、と頭部で発生したスパークが、超機械「トルネード」を持つ腕へと、走る。「フザけろ、こんのカマ野郎っ! イチジョー! フォーメーションDだ!!」
「え? D? Dって、何だ」
 むしろ、あれ? さっき会ったとこじゃなかったでしたっけ、みたいな鳳華をよそに、エリノアはもう、やる気満開で、「逆巻け暴風、豪殺激中シュツルムヴィントーーーッ!!」とかトルネードの竜巻を発生させている。
 どこに私の入る余地があるんだ、とかそこにこだわっていても仕方がないので、「カマキリキメラ‥か。虫は美しくない。私は嫌いだ」と、さっさと自分の攻撃を始めることにする。竜の角を発動した。
 その隙にも、留まることなくどんどんと続いては竜の瞳を発動したエリノアが、二発目のシュツルムヴィントをぶっ放す。
「あわわ。そっちに放ったら、機材が!」
 とか言った結城の言葉もむなしく、エリノアの放った竜巻がうっかりキメラごとスタジオ内をお掃除していく。
「これが、ホントのお掃除‥ですね‥なんて」
 じとーっとリズレットの責めるような視線が、エリノアを見つめる。
 あ、どうしよう、みたいに何か暫くちょっと、停止したエリノアは、「うん!」とか何か、勢い良く頷いた。「そう、あれだ! 掃除もできて、一石二鳥じゃ、ねーか! よし、全く問題ねー! つっ‥次行ってみよーか、次!」
 それで無かったことにしよう、と思っても、リズレットと結城はまだ、見ている。エリノアは何かちょっと地面を見つめて、それから、ぺん、と地面を蹴る真似をした。「だ、だって、あんなところにキメラが居たから‥よ」
「そうだ、今回の任務は何よりもキメラ殲滅が優先される。悪いが、私は手加減しないぞ!」
 装輪走行で走りぬけた鳳華が、残った一匹に向け、セレスタインを振りかぶった。「姫騎士たる私に斬られることを感謝して逝け。La danse de la rose!」
 薔薇の舞い、と声を張り上げた彼女の刃が、機材ごと、キメラの体を叩き割る。




「あー。チマッとした仕事は性にあわねぇ」
 アスタロトで機材を運ぶエリノアが、文句を漏らした。「邪魔そーなのを適当に持っていくから、あっちで勝手に分けて貰おうぜ」
 その横で、びろん、と何か布のような物を拾い上げたソウマが、「これは! あの映画の着ぐるみでは!」とか何か嬉々とした表情で、宵藍を見る。
「お、本当だ」
 スモークマシーンを両手で抱え運ぶ宵藍が、ぴょん、と眉を上げた。「良く見つけたな」
「4tトラック用意しろよ、ドロームめ」
 機材の分別を行っていた月城が、恨めしげに、呟く。


「ふむ。中々高価そうな機材もまだ残っているじゃないか。もったいない」
 その頃別のスタジオでは、鳳華と咲空が、機材の回収にいそしんでいた。
「美術セットなんかも結構残ってるし‥映画とか取れるんじゃない? 私主演で」
 とか何か、鳳華は隣に立つ咲空に言ったのだけれど、全然相手にしてない彼女は、全く別のところに反応する。
「美術セットか。妹を思い出すな。しかし、結局実家には連絡が付かなかった。わが妹は今頃どこで、何をしているのか。人様にキメラを喰わせる様な真似をしていなければよいが」
 え、その妹ってもしかして、と鳳華が言おうとしたその矢先、少し離れた場所に居た結城が、腕を組みながら、「うーん」と唸る声が聞こえ、口を噤んだ。
「どうしたんですか」と、隣のリズレットが話しかけている。
「いやこれ、学校に持っていったら、ダメなのかなって思って。頼まれてたんだ、機材の調達」
「メモ等を張り付けてみては、どうでしょう」
「届けてくれるかな?」
「やってみましょう」
 えーっと、と、紙とペンを用意した結城は、自らの中学校の名前を記入し、「演劇部へ提供、お願いします!」と、続けた。
「これでよし」
 立ち上がり、リズレットを振り返る。
「届くと‥良いですね」
 優しい笑みが、返って来た。