タイトル:ランドリーと水墨画マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/27 19:48

●オープニング本文








 大量のサッカーユニフォームが、乾燥機の中で回っていた。
 少年は目の前で、静かに、文庫本の文字を追っている。その傍らに、今しがたまでそのユニフォームを入れていたと思しき鞄があった。うっかり近づくと、チャックは開いたままのあの仄暗い内部から、得体の知れない匂いがしそうで怖いな、とか何か漠然と考えながら、西田は壁にもたれる。
「なに、あーゆーのが、好みなの」
 ずずず、と丸椅子の滑る音がして、振り返ると、気だるげに煙草の煙を吐き出している江崎の姿がある。
「彼は、部員なのか、否か」
「ぼーっとした顔してると思ったら、そんなくそどうでもいいこと考えてたの」
「くそどうでもいいって言い方はないんじゃないの」
「部員なんじゃない」
 煙草の灰を引っ張って来た灰皿に落としながら、江崎が足を組む。「ユニフォーム洗ってるんだから」
「じゃあ、レギュラーなのか、否か」
「いやもういいよ」
 とか何か言ってたら、少年が文庫本から顔を上げた。すいません、全部聞こえてるんですけど、みたいな明らかに不審者を見る目で、西田達を見ている。若者特有の、鬱屈した攻撃性のような物が、滲んでいた。
「この人は、暇で可哀想な大人だから、怒らないであげてね」と、江崎が言った。
 隣で西田は、若いって、いいなあとか思いながら、とりあえず無邪気に見ていたら、ウザっていうか相手にする方がやばいぞ、と気付いたみたいに、少年がまた顔を文庫本へ落とす。
「ねえ、あの金魚、どんどん大きくなってる気がするんだけど、大丈夫」
 西田は、江崎の肩に背中を預け椅子の座面に足を乗せながら、コインランドリーの端っこの方に置かれた、金魚の泳ぐ水槽を指さした。
「そりゃあ俺が毎日せっせと餌を上げてるんだもの。少しくらいは大きくなって貰わないと達成感、ないじゃない」
「そういう問題?」
「何でもいいけどさ。若い子いいなあ、とか、危ない男みたいな目で見てる暇あったら、それの中身を、見て欲しいんだけど」
 椅子の前に、横長のベンチが設置されている。江崎はそこに置かれた茶色い封筒を指さした。
「いつ危ない目をしたよ」
「危ないっていうか、危ういよね。西田は危うい」
「はい中身見まーす」
 芝居ががった仕草で封筒を取り上げ、背伸びのついで、みたいに中身を取り出す。その際、体の何処かにぶつかった肘に、「痛ッ」とか何か江崎が声を上げたけれど、気にしない。
「水墨画ね。高いんですか、これは」
 とか今度の任務で回収してくる品物について読んでいた西田は、すぐに「駄目じゃん」と声を上げる。「染みつきって、明らかに駄目じゃん」
「しかもその染みが、どういうわけか人の顔に見えるんだよね」
「うわ、絶対やだ。気持ち悪い。何でこんなもん、欲しい人がいるわけ?」
 答えが帰ってくるとは思ってなかったけれど、案の定「さー?」と小首を傾げられ、何となく腹が立った。
「ねえ気にならないの、どうして欲しいのかとか、そういうことさ」
「うん」
「え、気にならないの、どうして欲しいのかとか」
 江崎はコインランドリーの管理人という、実態の良く分からない仕事の傍ら、仲介業のような事をやっていた。つまり、キメラの出る地域に眠るお宝や、一般人の立ち入りが困難な場所にある曰くつきの品などの回収を請け負い、ULTに勤務する西田に、能力者への仕事として斡旋させるという仕事だ。
 こんなご時世の中にあっても、好事家や収集家は存在するらしく、多少の出費をしても手に入れたい物がある、と江崎の元を訪れる人間は、少なくないらしい。
「いいじゃんもう欲しいつってんだからさ。お金だってちゃんと払ってくれるんだし。あんまり余計な事考えてたら、禿げるよ」
「これは、余計の範囲の事ではないと思う」
「場所とかはほら、ちゃんと書いてるんだし」
 体の向きを変え、西田を抱きこむような格好になった江崎の、どちらかといえば美しい指が、勝手に書類の束をめくって行く。地図を出した。
「これって以前は美しい田園地帯だったところだよね。この付近に立つ、古めかしいお屋敷の一階かもしくは二階の納戸、か。図面を見る分には結構広そうだけど」
「大人四人でも十分歩き回れる広さだよね、図面を見る限りでは。まあ、どれくらい中に物が残ってるかは、不明だけど」
「当然、キメラも出るんだよね」
「家の中はなさそうだけど、無人になってから随分経つし、どうかな。ただ、家の付近には、確実に出ると思う。そこへ行くまでの道中とか、庭とか」
「キメラが居るのに、わざわざ染み付きの水墨画を取ってこいとか」
 呟いて、唇を歪める。「世の中には、変な人がいるんだよ、知ってた?」
 と、丁度顔を上げた少年に、また、絡む。
 変な人って、貴方達のことじゃないんですか、とでも言いたげな、やはり不審者を見るような目で少年は西田達を見て、それからまた、文庫本に目を落とした。








●参加者一覧

要 雪路(ga6984
16歳・♀・DG
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
エリノア・ライスター(gb8926
15歳・♀・DG
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
壱条 鳳華(gc6521
16歳・♀・DG
玄埜(gc6715
25歳・♂・PN

●リプレイ本文






「神経接続シークエンス良好、アシュトレイト起動!」
 のどかな田園風景の中に、エリノア・ライスター(gb8926)の勇ましい声が響いた。深緑と黒のツートンカラーのAU−KVアスタロトが、ギャイーンと装輪走行を開始する。
 かと思えば、「ほらほら、鬼さんこっちー。浪花のアバンチュール、アシュレッド! うちが相手や!」とか何か、要 雪路(ga6984)の声が続いて、朱と赤のツートンカラーのアスタロトが走りだし、最後に続いた、蒼と銀のツートンカラーのアスタロトからは、「魅惑のブルー! 壱条鳳華だ! 異論は認めない!」とか何か、壱条 鳳華(gc6521)の声が漏れる。
 毎日その辺りを旋回する鳥が、はー今日も良い天気ですね、長閑ですね、とか思って飛んでたら、いきなり騒がしいのでびっくりして、何かちょっと高度とか変えちゃいました、みたいに、ひょい、と浮き上がる。彼女らの目の前には、立派な角を生やしたキメラが出現していて、辺りはすっかり、戦場だった。
「キメラ‥鹿、なんだな」
 また少し離れた場所では、両目を鮮やかな瑠璃色に変化させた宵藍(gb4961)が、凛とした雰囲気を放ちながら呟いていたりする。
「はい、そうですあれは鹿ですね!」
 鈴木悠司(gc1251)は外見的にも、心情的にも、人懐こい犬、みたいな風情で、宵藍の言葉に頷いた。あんな風に、真面目に呟いたからには、きっとこのあと何か凄いことを言うに違いないぞ、と思ったのだけれど、意外にも「馬はいないのか」とか凄い普通に言ったので、え、と思わずその横顔を振り返る。
 その間にも宵藍は豪破斬撃を発動し、月詠を抜き走りだして行って、え、それは、ボケなのですか、感想なのですか、どっちなのですかっていうかどうしたらいいんですか、とか思い切り置いてけぼりな感じだったけど、今更聞けない気がしたので、もー何かとりあえず、突進してくるキメラの攻撃射線を見定め、ぎりぎりまで引き付けるよう、ぐっとか構えた。
 そのまた少し離れたところでは、今日もすっかりヒーロー姿のエクリプス・アルフ(gc2636)が、覚醒の状態で赤く目を光らせながら、直刀「鳳仙」を構えているところで、今しもその紅色の美しい刀でキメラを攻撃しますよ! と、そういう状態だった。
 そこへどういうわけか、突然、「遠く深く漆黒の」とか何かか細い声で歌う女性の声が聞こえてきて、それがまた、こんな晴天の長閑な風景の中に聞こえてくるのは何かの取り締まりの対象とかじゃないんですか、くらいに不釣り合いな不気味な声だったりしたので、アルフは思わず、え、と攻撃の手を止めた。
 フルフェイスのヘルメットに覆われた顔を、向ける。袴姿の少女が立っていて、あれ、座敷わらしとか何かですか、とまず、思った。思ったけど、すぐに、真田 音夢(ga8265)が、歌を歌っているだけだ、と気付く。その間にも歌はまだまだ続いていて、その折血染めは魔女の檻だとか、蛇だとか縛るとか呪いとか不穏な言葉がいっぱい聞こえてきて、見れば彼女のその呪歌の効果か、キメラが動きを止めている。そりゃあそんな歌を歌われたら、そうなりますよね、むしろそうならないとおかしいですよね、とすら思うくらい、歌ってる彼女の人形のように無表情と相まって、怖い歌のように、思えた。
 とかアルフが動きを止めている隙に、めちゃくちゃ無口かつ無表情な、元始末屋、玄埜(gc6715)が、短剣「蛇剋」を構え、さりげなくキメラへと近づいて行った。と思ったら動きを止めたキメラの頚椎を、急所突きを発動し、一気にかききった。割に傷は浅く、実のところそれは、より大きな苦痛とか恐怖とか与えてから始末した方がいいよね、という彼なりの、キメラにとっては傍迷惑な流儀の為だったのだけれど、とにかくその攻撃はただの始まりで、じゃあ今度は、凹状に湾曲した黒い刀身とかで、ゆっくりごりごりと削ってみることにしますね、みたいに、マヒしたキメラを黙々と解体し始めていく。
 生きながら解体されていくキメラの恐怖はいかほどか、とか、あえてそこは見ないふりで、アルフは「あ、ちょうど良かったです、じゃあ俺はあっちの方やりますね」みたいに、照準を変え走りだした。攻撃を察知し、角を突き出し突進してくるキメラの攻撃をジャンプで避けると、鳳仙を振り上げ、胴に切りかかる。そこへささ、とすかさず走り込んできた音夢が、大鎌「紫苑」で首に切り込んだ。
「真剣白刃取り‥は無理っ!」
 とか何か他のキメラの相手をしていた宵藍が、いやむしろ、何であえてそこに挑戦しようと思ったんですか、みたいなちょっとした可愛さを振り撒きつつも、ころん、と地面に転がり、前脚の攻撃を回避した。続けて急所突きを発動する。月詠の刃が胴を突き刺した頃、同じくタイミングを見計らっていた悠司は、流し斬りを発動すると、すいっとキメラの側面へと回り込み、炎剣ゼフォンでキメラの首元へと切り込んだ。
「さあ、我らアスタロト戦隊の力、見せてくれようぞ」
「おうよ、ブルー!」とか何か、鳳華の言葉に頷いたエリノアが、「逆巻くドッペルトロンベ、アシュグ‥うわっ、テメッ、名乗り上げてる時に攻撃してくんじゃねぇ! 空気読めゴルァ!」とか慌ただしくキレたかと思うと、竜の角を発動した。
「ほらほら、脇が甘いで!」
 竜の翼で瞬間的な速度を増した雪路のアスタロトが、キメラの脇を通り抜け、エレキギターみたいな超機械の弦をギャイーン、と、やるのかと見せかけて、「フェイントや!」とか何か、普通にセンサーを反応させるとかいう無意味な行動をする。
「あの角は‥いいな、優美で素晴らしい。バグアもたまには良い趣向をするものだ」
 雪路の超音波にどうやら脚をやられてしまったらしいキメラへ駆け寄った鳳華は、竜の角を発動し、天剣「セレスタイン」を振るう。「戦隊たる私達の華麗なる連携、今こそ見せてやろう! La chaine de la rose!」
「っしゃあ、とどめだ!」
 エリノアが真正面から、超機械トルネードを構え、強大な竜巻をぶっ放す。「テメ、そのデケェ頭剥製にして、暖炉の上にでも飾ってやんよ! 月まで派手に吹っ飛びやがれっ! ひっさぁつ、シュツルムゥゥヴィントォォオ!!」
「私は忘れない‥。その命が、ここにあった事を」
 音夢がそっと両手を合わせた。
「死ねば同じ骸。死を穢しては、いけません‥お休みなさい」




「それにしても、人の顔に見える染み付きの水墨画、かぁ」
 納戸の中を探る手を止めて、悠司が、ふと、呟いた。それから、ハッ! と顔を上げ、「その人の顔がさ、いかにもこう、ワタァシ、ガイジンサンデ〜ス、みたいな顔だと面白いですよね!」とか何か、言った。いやこれ面白いよ、俺、面白いよ! みたいに意外としつこく、「誰かに似てたら面白そー。ね、面白そうですよね?」とか、宵藍を振り返る。
「え、あ、うん」
 とか明らかに全然思ってません、みたいに宵藍がいい加減な返事を返した。
 それでもどういうわけか全然めげない悠司は「でも自分に似てたらヤだね。うん。絶対ヤダ。ね? やですよねー?」とかまた明るく話しかけて、「人の顔に見える染みつきが欲しいなんて、俺には悪趣味としか思えんな。水墨画本来の価値が高かったとしても、染みで台無しだろうし‥理解出来ない」とかばっさり、切られる。
 それでちょっとしゅん、となるのかと思いきや意外とエアーに「ですよねー」とかすっかり長い物にどんどん巻かれますよー! みたいに返事して、「それにしても水墨画、結構いっぱいありますね。こういうの、何だか宵藍さん詳しいんじゃないですか? これって良い絵? 高そう?」と、どんどん臨機応変に対応していく。
「うん、何ていうか、とりあえず、さっさと回収して帰りたいよね」
「はは、ですよねー」
 とかもう、全然噛み合ってなさすぎる会話が、傍目に見てたら面白いなあ、とか何か思いながら、アルフは「あの棚の上の箱とか、怪しそうですけどねー」と、宵藍を見た。それから無言で視線を逸らした。
「何それ」
 すかさず、宵藍が指摘する。「え何それ」
「あ、意外と背が低いから、難しいんじゃないかなあ、とか思ってませんよ」
「いやいややや」
 何言ってくれちゃってんですか、失笑しますよ、みたいに宵藍が首を振る。「そっちだってそんな変わらないよね?」
「あはは」
 え、何でコイツ笑ってんだよ、みたいな不審者を見る目でアルフを見た宵藍は、結局それでも「いいよ、やるよ。俺も気になってたからさ」とか何かクールに言ったけど、実のところ背が低いとか言われてムキになってるの丸出しみたいに、腕を捲ると、ちょっと脚とかプルプルさせながら、でも脚立は使いません! という意地を滲ませ、爪先立ちで、棚の上の箱を取りにかかる。
「あと少しで届‥くっ!?」
 指先が箱に触れた。その瞬間、どさどさどさどさ! と見事に、埃にまみれたいろんなもんが落ちて来た。顔面に直撃を食らい、いた、と思わず顔を押さえる。格好つけようにももう付けられない! みたいな状態で、くそ、とか顔を上げる。
 アルフが優しい目で微笑んでいた。
「何だよ、笑いたきゃ笑えよ」
「いいんですよ」
 凄い優しい声が、言った。「ええ、ええ、誰にでもある失敗ですよ、本当ですよ」
「くそ、余計、腹立たしいわ!」とか何か、思わずムキになりかけたところで、同じアイドルグループの悠司が、同僚のスキャンダルを庇う! みたいに「宵藍さん、押さえて、押さえて」とか、わんわんわん、とすり寄ってくる。「どうどうどう、押さえて押さえて」
「い、いや分かってるんだ。俺は基本、クールなタイプなんだ、大丈夫だ」
「あはは、面白いですね」
「このや、面白いとか言うッ‥」
「宵藍さん、宵藍さん!」


 その頃、音夢は、バイブレーションセンサーを発動して見つけた鼠を追いかけ、気がつけば、屋根裏部屋に出ていた。
「怖がらないで‥。もう、心配はいりません‥ほら、お食べ」
 やっと見つけた鼠君にパン屑を与え、何やったらもー、水墨画とかどうでもいいんですよ、くらいの気分になりかけていたのだけれど、そこで、窓の外から、「フハハハハ! この風、この肌触りこそ娑婆の空気よ」とか何か、騒がしい声が聞こえてきたので、とりあえず、窓の外を覗いた。
 屋敷の屋上で、ロングマフラーを風になびかせた玄埜が、仁王立ちをして空とか眺めているところだった。目が合った。けど、はーそうですか、くらいのノーリアクションで顔をひっこめる。すると、「ふむ、空とはこんなモノだったか」とか何か、思わせぶりに玄埜が言った。明らかに何か、話題に困って無理矢理話出したけど不器用過ぎる男、みたいだった。みたいだったけど、音夢には全然、伝わってなかった。すっかり無視して、鼠と戯れる。するとまた、「始末屋という前身だけに昼間に堂々と空を拝む事が憚られるのでな。折角の機会なので風景を楽しみつつ警戒するぞ」とか何か、玄埜が言った。
 全然興味なかったけど、とりあえず煩かったので、「そうですか」と、音夢はか細く呟く。
「そうだ!」とすかさず食いついてきた玄埜が、「それで」と窓から顔を出し、続ける。「貴様は、その、何をしてるんだ」
「探してます、水墨画を」
 当たり前ですよね、みたいな無表情で音夢が答える。
「ここでか?」
「ここで、です」
「いや、ここにはないと思う」
 だいたい、納戸言うてるのにここ納戸全然関係ない屋根裏ですよね、とも思った。
「でも、意外なところに、あるかも、しれませんし」
「しつこいようだけど、ここにはないと思うぞ」


 その真下に当たる二階の納戸で水墨画を捜索していた鳳華は、「人の顔に見える染みとか付いてるんだって? いや、憑いてるのか?」とか何か呟いて、若干得意げにふんと唇をつりあげていた。「なんてな」
 そしたらその場が凄いシンとした。
「い、壱条はん‥」
「お、こっちには衣装があらぁ。へぇ、このドレスなんか、兄貴に似合いそうだな」
「雪路、同情した目で私を見るな! エリノア、無視するな、無視!」
「動きのドジに気をつけてるかと思ったら、そこで外しますか。いやさすが、ドジっ子ブルーですね」
「やめろ」
「それにしてもこのドレスほんと兄貴に似合いそうだな。いや、兄貴に一番似合うのは、半ズボンだが。こういうのも、着せてみてぇなぁ‥。ぜってぇ、嫌がるだろうけど」
 そこで一瞬言葉を止めたエリノアは、突然瞳をしっとりと濡らし「嫌がる兄貴。悪くない。むしろ、イイ」とか何か、言う。
「え、エリノア、今、若干その兄貴と被った表情をしているよ」
「ああ?」
 双子の呪いなのか何なのか、突然またいつもの表情に戻った彼女が、乱暴な口調で呻き顔を向ける。それから「私? 私はそうゆうの、似合わねぇよ。不良だし」 とか何か、全然的外れなことを言った。言ったけど、内容的には正解な気がした。
「うんそうだよね」
「そやな、不良やしね」
「納得するな」
「それにしても見つからんなー。もー何か帰る?」
 とか何か言った雪路が、「あ、何この仮面おもろー、変な顔ー!」と棚に落ちてた仮面を手に取り顔につけた。「どうどう、面白い顔やろー」とか何か愛嬌をふりまき、それで次に外そうとした時には、何故か外れず、途端に慌てた。「は、外れへん! な、なんで?!」
「あんだよー、おめー冗談キチーぞマジで」
「嘘ちゃうねんって、ほんま外れへんねんって」
「あー! んもうメンドクセーなー!」
 そこで限界点に達していた作業の退屈さに対する気持ちが爆発したのか、エリノアが「こんなもん殴りゃあ、取れる!」とか何か、拳を構え出して、「いやいや待て、待てエリノア!」と鳳華は慌てる。
「殴りゃあ早ぇんだよ、むしろ、殴らせろー!」
「待て、落ち着けエリノア」
 とか何か揉み合ってたら、二人のどちらかの足が、傍にあった大きく頑丈な造りの箱を蹴った。バタン、と大きな音を立て、箱が転がる。中から、だば、といろんなものが飛び出して、その中に、今回の依頼の水墨画らしき物を見つけた。
 鳳華が慌てて拾い上げる。
「おお、これじゃないか。お‥本当に染み付き」
「っしゃあ! 水墨画も見つかったことだし、あとは雪路の仮面を取るだけだ。大丈夫だ、私に任せろ!」
「いやいや、明らかに殴ろうとしてますやん、思い切り拳握ってますやん、壱条はーん、助けてー!」
「知覚特化で、しかもフォルムが女性型。中々あつまらねーと思ってたこのアシュトルーパーズ。やっと入ったレッドだ。不細工な仮面を付けたままにはしておけねぇ! 大丈夫、私が助けてやるから、覚悟しろ!」
「覚悟ておかしいですやん! 覚悟て! わー、いででで、ちょ、アカンアカンって、何かアカンて、めくれる! めくれる!」
「これが、水墨画ねえ。私なら、水墨画よりあのキメラの角が欲しいけどな」
 鳳華が、マイペースに呟いた。