タイトル:sweet二人の護衛マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/02 08:18

●オープニング本文






「実は、浚って欲しいの」
 久しぶりにあった友人美崎は、そんなことを言って岡本をぎょっと、させた。
 突然、電話をかけてきたと思ったら、会えないかな、と呼び出されたのが数時間前のことだった。内心では、以前、好意を寄せていた女性の呼び出しに、かなり、どきどきとしていた。退社時刻を待って、近所の喫茶店で落ち合う約束をする間も、そわそわとし、店内に入るその瞬間まで浮き足立っていた。
 けれど、テーブルに座る美崎の姿を見つけた途端、彼女のその浮かない表情に、何となく嫌な予感がした。
 けれどまさか、浚って欲しい、などと言われるとは思いもしなかった。
「それは何ていうか」
 岡本は珈琲を一口飲んで、カップを置く。「趣味か、何か?」
「真剣よ」
「そんな事を言われたのは、始めてだから、どうリアクションしていいか分からないんだけど」
 岡本は、カップを見つめる。まるでゆらゆらと揺れる水面が、自分の心情であるかのようだった。「それは、何ていうか、その」と、耳を若干赤らめ直球的な愛の告白なのか、であるとか、確かめようとするのだけれど、声が、出ない。
 するとそこでからん、と喫茶店のドアが開く音がした。すたすた、と人の近づいてくる足音がする。どか、と突然隣に腰掛けられ、えと思って顔を上げると、未来科学研究所の研究員で、優秀だけど変人の大森が座っていた。「やあ、岡本君、元気?」
 勿体ないくらい美形、というか、面倒臭いくらい美形というか、とにかくそのような顔を、こちらに向けている。
「お、大森さん」
「何だろう、岡本君」
「いや、何だろう、じゃなくてですね。僕は今彼女とその、重要な話を」
「浚って欲しいとか、何か?」
「何で今喫茶店に入って来たのに、話の内容が分かってるんですか、とか、聞いてもいいですか」
「え、知りたい? 簡単だよ、とうちょ」
「いえ、やっぱり聞きたくないです」
「つまり君は誘拐して欲しいわけだ。それは、何で? まず、俺が聞きたいのは、そこだよね」
 途中から、しかも呼ばれてもないのに堂々と話に入ってきた大森は、嫌味なくらい長い足とか組んで、そんな事を言う。それから近づいて来たウェイトレスさんに「あ、俺も珈琲」とか何か、しっかり、頼んだ。
 居座る気なのか、と岡本は愕然とする。
「あ、ちなみに俺は大森と言って、彼の何ていうか、かけがえのない存在だったりするから、心配しなくて、いいよ。岡本君の友達は俺の友達だし、話も、聞いてあげるから」
「そうですか」
「いや、違うから。納得しないで」
 とか何か言ってる岡本の話を意外と聞いてない美崎は、「実は、私、結婚するつもりだったんです」と、もう話し始める。
「え、結婚?」と絶望的に呟く岡本に対し、「ふうん、結婚ね」とか、すっかり嬉しそうな大森の顔が、鬱陶しい。
「お見合いをしたんですよね、というより、無理矢理、お見合いさせられてしまって」
「ふーん」
「いや大森さん、真面目に聞かないなら、帰って貰っていいですかね」
「でも、これが」
 と、美崎は、何処をどう間違ったのか、すっかり大森の存在を認めているようで、懐から出した手紙のような物を大森の元へ滑らせた。
「美崎さん、この人に見せるのはやめた方が」
「ふむふむ、なるほど。樋山君て人からの手紙ね。どういう関係?」
「生徒です」
「生徒!」
「生徒?」
「実は私、以前、教師をしてて。彼はその時の、生徒です」
「か、え、生徒と、関係が?」
「当然、職場はやめさせられちゃいました。それで実家に戻って、お見合いをしたんです。落ち着いて考えたら、彼の未来を考えるべきだ、って。私なんかと一緒に居るより、とそう思いました。でも、彼からこんな手紙が届いて」
「結婚式の前日に、あの場所で待っています。もしも先生も僕のことを少しでも愛してくれているのなら、抜けだして来て下さい。だってさ、凄いね。何これ、ロミオ?」
「私、やっぱり。彼のことが、好きなんです。どんなに非難されようとも、この気持ちは、変わりません。だから行こう、と、そう思ったんです。でも」
「でも?」
「婚約者にその手紙を見られてしまって」
「そうなんだ」
「彼は、とてもメンツを重視する人ですから。私への愛というより、結婚が破談になっただなんて言えないからな、とそんな状態で。今も監視されています」
「監視?」
「だから岡本さんにも、公衆電話を使って連絡しました。でも、何とかこの日だけは。この約束の日だけは逃げ出したいんです」
「だって、岡本君」
「彼とはその、ちゃんと話してあるの? こういう手紙が来た事は分かるけど、その何ていうか。ほら、当日、行き違いがあったりとかしたら、あれだし」
「そんな回りくどい言い方しないでも、この手紙本当に信頼できるの、って言っちゃえばいいのに」
「大森さん、つねりますよ」
「うん、いいよ」
「彼とは、こう、取り決めを交わしました。もしも約束の時間である18時に、どちらかが現れなかったら、その時には諦めよう、って。それが、お互いの気持ちなんだと諦めよう、と。彼が現れなかったら、私は結婚をします。ただ、その前にもう一度だけ、チャンスが欲しいんです。だから、どうしても約束の18時に彼の元へ、辿りつきたい。ただ、問題がもう一つあって」
「まだ、あるの」
「彼との待ち合わせ場所に行くまでに、少し、危なそうな場所があるんです。キメラが出るような。ただ、そこが最短ルートだから」
「だってさ、岡本君」
「で、でも」
 そこで岡本は慌てて、手を振る。「一介の事務職員である平凡な男の僕に、監視を巻かせたり、キメラの出る場所を護衛したりする能力は」
「誰も岡本君にやれって、言ってないじゃない」
「え」
「つまり彼女は、UPC内にあるULT出張所に、岡本君が勤めていることも知っていて、寄って来たわけ。あざといよね」
「あざといよねって言い方はどうかと思うんですけど」
「ええ、あざといんです、私」
 苦笑するように言って、美崎が肩を竦める。「お願い出来ないですか。護衛を」
「で、でも僕は何ていうか、総務部の人間であって、依頼を受けたりとかは本当は」
「やってあげたらいいじゃない。ちょっと手間が増えるだけなんでしょ。やってあげたらいいよ」
 他人事だと思って、というか、だいたい何で微かに思いを抱いていた女性の恋愛の協力なんてしなきゃいけないのか、とか思った途端に、「あ、それとも、どうせ他の男の事好きな女に協力してもなー、とか、ちっちゃい事、考えてる?」
 とかまさに図星をさされ、慌てた。慌て過ぎて、すかさず「そんなことないですよ」と、否定してしまう。
 自分にがっかりした。
「要するに、当日、護衛を巻くのを手伝うのと、キメラを討伐しながら目的地まで送り届けること。と、いうことだよね」
 人の気も知らず、のんびりと言った大森が、いつの間にか運ばれて来ていた珈琲に口をつけた。







●参加者一覧

ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
未名月 璃々(gb9751
16歳・♀・ER
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 せりな(gc5344
17歳・♀・AA
毒島 咲空(gc6038
22歳・♀・FC
黒雛(gc6456
19歳・♂・PN

●リプレイ本文







 屋敷の門をくぐったところで、美崎は、どん、と人にぶつかり、跳ね返った。顔を上げると、銀色の髪をした整った顔立ちの青年が立っていて、今ちょっとその辺りに買い物に出て来たついでなんだけどね、とでもいうような、軽やかな雰囲気があった。
「やあ」と軽く手を上げられ、誰ですか、と戸惑う。
「今ちょっと急いでるんで」とか何か、言おうとしたら、それよりほんの少し早く「急いでるんでしょ、こっち。乗って」と言われ、「え」と今度は声に出した。「こっち? 乗って?」とか何か驚いてたら、もう手を引かれている。
「え、あの」
「いいからいいから、説明とか、そういうの、面倒臭いからネ」
「あれどういうことで」
 とか何かごちゃごちゃ言ってる美崎を、ラウル・カミーユ(ga7242)は完全に無視して、面倒臭いからもういいよね、驚かせとけば、いいよね、くらいの鷹揚っぷりで、屋敷の前を離れて行く。高い塀に囲まれた屋敷の角を曲がり、離れた場所に停車してあった、自らのジーザリオまで走りきると、投げるようにして手を離した。
「監視の人、追いかけてきてるねー、とっとととりあえず、この場、離れちゃおうか」
 しなやかな身のこなしで、ささ、と運転席に滑り込んでいく。
「え、あの」
「貴様はこっちだ」
 声が聞こえ、腕を引かれた。と思ったらもう、後部座席に押し込まれている。隣には、薄っすらと微笑んでいるのに、何故かその微笑みが暖かさではなく、冷たさを連想させるような、長い黒髪の緑色の瞳をした少女が座っていて、「美崎さんですねー、どうもー」とか会釈をされる。
 そんな後部座席の未名月 璃々(gb9751)の言葉に続くように、助手席の御巫 雫(ga8942)が、澄み切った透き通った声を発した。
「護衛に来た能力者だ」
 シートベルトを締める次いでのように、言う。そのすぐ後には、車が急発進した。体が座席に押しつけられる。
「車が発見されたな。今、ミラーに踵を返す追手がうつっていたぞ」
「どうするつもりなのかなー」くすくす、とラウルが窓の辺りに肘をつき、口元を押さえ、笑う。「カーチェイスとかしてくれちゃうのかなー?」
「道案内は私に任せろ」
 何時の間にか膝の上に地図を開いた雫が言った。「最短ルートをぶっちぎるぞ」


「行ったみたいだな」
 走りだした車を、毒島 咲空(gc6038)は、咥え煙草で見送る。「二人か。監視は五人だったな。確か」
 ばらばら、と踵を返して行く監視達の後ろ姿を見やり、煙を吐き出した。
「さっきの二人は、乗り物を使ってさっきの車を追いかけるつもりなんだろ」
 ジーザリオの窓に寄りかかった緋本 せりな(gc5344)が呟く。
「あの二人も、直に車に乗り換えるだろうな」
 ポツン、と黒雛(gc6456)が言った。
「私達はあれを眠らせてから、出発するか」
「そうだな。こっちも仕事だしね。ま、ちょっと眠るだけだ」
 とか何か呟いてから、ちょっとぼーっとしたせりなは、同じ表情のまま、「いや、眠らせるだけだ」と言い直す。
「眠いのか」
「昨日、遅かったんだ、実は」
「そうか」
 とか自分で聞いた割にあんまり興味無かったです、みたいに、咲空は、「それにしても生徒と先生の逃避行か。生徒という事は、年下だな。さぞ、可愛いのだろうな」とか何か言って、黒雛を見る。何で俺見られてるんですか、みたいな無表情で咲空を見つめ返した黒雛は暫くして、「いや、俺に言われても」と答えた。
「特に、半ズボンが似合う可愛い男子だと、いい」
 あんまりにも泰然自若として言われるので、もしかして自分は何処かで間違えてそのような質問をしてしまっていたのではないか、とすら、思った。「悪いが、聞いてない」
「少女も実は、少し好きだし」
「いやだから聞い、え?」
「そういえば」
 せりなが面倒臭そうに欠伸を漏らしながら、呟く。「残りの一人はどうなったのかな」


「要はオンナを1人拉致って一定の場所で取引すれば良いのだろう?」
 気絶させた監視の一人を、荒縄を使い縛り上げているところで、高級煙草を咥えた國盛(gc4513)が、ニヒルに微笑みながら、言った。絶斗(ga9337)はそれは何か違うんじゃないかな、とは思っていたけれど、忙しそうでもあるし、だいたいわざわざ指摘するほどの事でもないような気がしたので、黙っていることにした。とか何か放置してたら、國盛はもうどんどん勝手に進んで「何だか今回はハードボイルドな匂いだな‥」とか何か、満足げに呟いている。「拉致って取引って、ところが良いよな」と、また、言った。
 拉致りはしないし、もっと言えば取引だってしなかったのだけれど、それはそれでもう何か、良い気がした。
「そろそろ、終わりそうか」
 結構自分は、全然何もやってないくせに、意外と偉そうに言って、絶斗は、ふと、荒縄を見やる。
 何かもう、亀甲縛りになっていた。っていうか、亀甲縛りだった。監視は亀甲縛りをされていた。
 え、と思った。
 思って、その顔を見た。
「この場合の縛りのセオリーとしては、やはりこうだよな」
 真顔で言われて、もう、何も言えなくなった。「ああ」と間延びした声で言って、「ああ、そうだな」とか何か、とりあえず、頷いておくことにした。
「よし、バイクで先頭を追いかけるとするか、次はキメラだ」
 まさか、キメラまで亀甲縛りにしたりしないよな、大丈夫だよな、と思わず確認したくなって、そんな確認をしたくなった自分に愕然とした。



 街中を走って随分経ってから、やがて、地図をじっと睨みつけていた雫がハッとしたように目を見開き、顔を上げた。
 ラウルを見る。
「あれ、なに」
「いや、その、何だ」
「うん」
「南北を間違えていた、すまん」
 一瞬、車内がシーンとした。
「落ち着いていたつもりだったが‥すまん」
 ハプニングのない人生なんて、面白くないですよ、とでも言いたげに、くすくす、と鷹揚にラウルが笑う。「それで、どうしちゃうの?」
「うぬ。そうだな。こちらに行くのだから、あの角を、右に折れよう」
「監視、まだ、しつこくついてきてますねー」
 後ろを向いた未名月が、馬鹿ですねーとでも言いたげに、言う。
「おっと」
 そこで右折した車が、突然、キュッと急ブレーキを踏んだ。車内が、ぐんと前へつんのめる。運転席から、喜んでるのか驚いてるのか良く分からない、ラウルの声がした。
「エー! なになにここで、工事中とか〜!」
 やってくれちゃうねーとか何か言いながら、ギアをすぐにバックを入れて後ろを向くも、そこに追手の車を見つけひょい、と眉を上げる。
「しかも、前からも、来てるな」
「面倒臭いなあ」
 ぼりぼり、と頭をかきまわしたラウルが、ギアをパーキングに入れると、サイドブレーキを引いた。「シメちゃうしかないよね」
 軽い身のこなしで運転席から降りて行く。雫も続いた。未名月は護衛の為みたいな顔して、後部座席に残り、実のところ面倒臭かっただけなのだけれど、とりあえず窓から顔だけ出し、状況を見守る。
 最悪面倒臭いことになりそうだったら、もー、帰っちゃおうかな、くらいのことは考えていた。

 まず、後部では、ラウルが、同じく車から降りてきた監視の対応を行っていた。たんたんたん、と軽いステップを踏むかのように近づいて行き、「やあ、お兄サン、そんなに急いでドコ行くのカナ?」
 とか何か微笑みながら、近所の人に会ったので挨拶してます好青年、みたいな顔で相手の行く手を阻んだ。お前に用はない、どけ、とか何か、ありきたりな台詞を監視が吐いたので、「まあまあ、そう焦らずに」と笑顔を浮かべたまま、ジーンズの後ろポケットから拳銃を取り出し、構えた。
 その動作があんまりにもマイルドだったので、銃口を向けられた監視も一瞬呆気に取られたような表情を浮かべた。「え」と夢を見ているような表情で呟き、それから慌てて、自分の腰元からリボルバーを抜こうとする。
 それより、ほんの少し早く、バン! と、音が破裂した。ひい、相手が腰を抜かす。「なーんてネ。僕の声だよ、びっくりした?」
 楽しげに肩を竦めて、次の瞬間にはもう、腰を抜かせた監視の傍に、ラウルは歩み寄っている。
 トン、と、相手の首元を軽く、叩くようにした。ガムテープを取り出すと、「梱包、梱包〜」と、相手をぐるぐる巻いて行く。
「はい、一丁あがりー」

 また、こちらの車を発見した前方の車は、すぐさま踵を返して車に乗り込み、今しもバックしようとしているとこだった。
 が、そこでどういうわけか、ウーとサイレンの音がしたかと思うと、何をどう間違ったか、緊急車両が、その細い路地に入り込んできた。
 どんな間違いだ! と、思わず内心で指摘せずにはいられない。思い切り背後から緊急車両にせつかれるとか、しかも、恐らく緊急車両の方も間違いなので相当慌てていて、物凄いぐだぐだな雰囲気になっていた。
「雫! 早く乗って乗って、今のうちにとっとと出発しちゃうよー!」
 背後からラウルの声が飛ぶ。雫はハッとして、だっと駆けだした。




 走ってくる監視の姿が、見えていた。
「ここは古典的にだな」
 物陰に隠れた咲空は、「よし、黒雛! 離れろ! これを持て!」とか何か突然勢い良く言ったかと思うと、いつの間にか取り出していたロープを彼に向かって、投げた。が、黒雛はびっくりするくらい乗ってないっていうか、全然ノーリアクションで受け取り手を見失ってぽと、と地面に落ちたロープの端を見つめる。
 可哀想だったので、「仕方ないなあ」とせりなは、拾ってあげることにした。「これ、こっち側持てばいいのかい」
 よっこらしょ、と拾い上げ、走ってくる監視の道筋に隠れるようにして、ロープをピンと張る。「これでこかすつもりなんだな。なるほど、古典的」
 とか何か言ってる間に、監視が駆けて来た。ぐ、と手に力を込める。どん、と腕に衝撃が走った。「意外と、引っ掛かるもんなんだな」
 ものの見事にロープに引っ掛かっている監視を見下ろして、せりなは呟く。そしたら、何を思ったか、すかさずロープの反対側の端を持っていた咲空が「やー」とか何か言って走りだし、監視を縛るのかと思いきや勢い余って何か、黒雛ごとロープをぐるぐる巻きにする。
「ふう」
「ふう、じゃないんだ」
 凄い冷静に、黒雛が、言った。「分かっていると思うが、俺は関係ない」
「おや、何をしてるんだ、きみは」
「どちらかといえばむしろ、何もしていない」
「ふ。すまんな」




 一方、他の仲間達を追い越して、バイクで先行する國盛は、探査の眼を使用し、見つけたキメラと、既に戦闘を行っているところだった。
 真紅に塗られた拳銃グレビレアの銃身から、威力の高い弾丸を放ちながら、どろどろ、ぷるぷるしたキメラを蹴散らして行く。
 同じくバイクで先行していた絶斗もまた、キメラの対応に当たっていた。瞬天速を発動し、翻弄するようにキメラの間を動いては、背中に背負ったウィングカッターから、鋭く薄い刃を発射させる。
「中々、数が多いな」
 そこへ、土を巻き上げながら、ジーザリオが突進してきた。
 ザシュっ! と勢い良く停車したかと思うと、運転席から、炎剣ガーネットを構えたせりなが走り出してくる。
「ふん、ルートの妨げになるキメラが居るって聞いてたけど、大したことなさそうじゃないか。さっさと退散願おうか!」
「よし、行くぞ!」
 後部座席から降りてきた覚醒状態の黒雛もまた、黒いオーラを纏った右手に直刀「壱式」を握り、走り込んでくる。目の前に立ちはだかるキメラへ、すかさず刹那を発動させると、目にも止まらない一撃で、もう既に潰れてるのかも知れない体を、やっぱり、叩き潰した。
「ふん。ヌルヌルしたものと戯れる趣味は無いんでね」
 片刃の斧ダイオプサイドを肩に乗せた咲空が、面倒臭そうに煙草を地面にこすりつけ、消した。「いや、半ズボンの美少年がヌルヌルになるのは、悪くないが」
 そのすぐ後にはもう、迅雷を発動している。まるで瞬間移動するかのように、キメラの間を移動し、振り向きざまにエアスマッシュを放った。バシャア! とでろでろのキメラを吹っ飛ばす。「脳漿をぶちまけ‥いや、どっちが、頭なんだ?」
 そこで突然背後から、凄まじい数の弾丸が飛び込んできた。
「ちょっと、援護〜」
 ジーザリオの運転席の窓から、体を出したラウルが、制圧射撃を発動させ、小銃シエルクラインを構えていた。「はいはい、どいてどいて〜!」
 助手席からは雫が、覚醒状態のまま身を乗り出すようにして、ハンドルを操作している。
「皆ー! 大丈夫ー?」
「まぁ、見た目通りってとこだ。先を急げ」
 せりなが、答える。
「そういうことだ。どんな依頼だろうが、私はキメラさえ倒せればそれでいい。年下の彼氏とよろしくやれよ」
 斧を振り回すついでに、咲空が答える。
「ではお言葉に甘えて〜」
 覚醒状態だった未名月が、子守唄を発動する。
「気休めですが、眠らせました〜、後は頑張って下さい〜」
 戦場を通り抜けて行くジーザリオから、覇気のない声が聞こえた。「あ、ちなみに。ただ眠っているだけなので、周りの者が起こすと簡単に起きますから気をつけて下さいね〜」



「そろそろ、目的地につくけど」
 ラウルは後部座席を振り返り、肩を竦める。
「すみませんでした。いろいろと、ありがとうございました」
 美崎が頭を下げると、助手席の雫が、むすっとしているようにも見える無表情で、言った。
「まあ。このご時世だ。少しでも自分の信じたものを貫けばよい。しかし、節義というのは、大事だとも私は思うぞ。人の中で生きる以上は、その恩恵の代償に責任を負わなければならない。教師という立場なら、尚の事、相手が成長するまで待つべきだった。辞めさせられたというが、その時点で、教師の資格を失っていたのだろうな。だからだ。教師だ生徒だと、もう気にするな。行って来い」
 そこで組んでいた手を解き、柔らかく微笑むとルームミラー越しに美崎を見た。「後に残して来たものは、こちらでなんとかしよう」
「ふふ。それにしても、教師と生徒の恋愛か。燃えるネ。僕の彼女も少し年上だから、そゆシチュエーションは応援したくなるヨ」
 無責任な外野の暢気さを湛えたラウルが言った。「ま、これからが大変だろーケド、頑張れ」
「まあ最悪、美崎さんが立会人と先方にお金掴ませて、頭下げればいいんじゃないですかね。自業自得ですし、お二人で困難を乗り越えると言う事で、美談ですねー」
「凄い、ロマンのかけらもない」
「経験者の私が言うのもどうかと思いますがー、愛だけじゃ生きていけませんって」
「ま、そうだな」
 雫が頷いた。「しかしどうせなら、結婚式に乗り込んで、奪いに来るくらいの演出は欲しかったがな」
「言ってること、矛盾してるよ。奪いに来るって‥凄い乙女」
 また可笑しげに、ラウルが、笑った。