タイトル:ランドリーと白いグラスマスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/26 11:26

●オープニング本文







 購入したばかりのグラスにはられたシールを、何か、結構熱中してはがしていた。
 というか、最初はかなり舐めてかかっていて、簡単に剥がれるでしょ、くらいの勢いではがしにかかったら、これが意外としぶとく、いや舐めないで貰いたいですよ、俺って意外としっかりしてますよ、みたいな、逆襲された気分で、気がつけばすっかり熱中していた。
 裏面のバーコードのシールは簡単に外れたのに、側面に貼り付けられたちょっとした告知のシールが、ちょっとした告知のくせに、一番しぶとかった。シールのコーティングされた表面がべり、と一気に剥がれてからの、裏に隠れていた白い奴との戦いは、本当に過酷を極めた。
 執拗過ぎるくらい執拗というか、あの表面で見せていた優しさは何だったのですか、というか、この執着心を何かの武器の開発だとか、地球の平和の為の何かの装置だとかに向ければ、凄い威力になるんじゃないかしら、と思わず本気で思ってしまいそうになるくらい、熱心にグラスに貼り付いている。ちょっとした、告知のくせに。
 とか何かやってたら、「何してるの」と、江崎の声が頭上から聞こえてきた。
「グラスのシールをはがしてんの」
 西田は、グラスから目を上げることなく、素っ気なく答えた。一時もグラスから目を放してなるものか、とそんな意気込みすら、あった。
「俺が聞きたいのはさ、何でわざわざここで剥がしてんのかってことなんだけど」
「いいじゃん、どうせ、客も居ないし、暇なんだし。ガラガラコインランドリー」
 グラスから目をあげることなく、西田はちょっと笑う。
「コインランドリーがガラガラとか言われても、ちっとも腹立たないけど。ごめんね」
 とか何か言いながら、江崎がもたれかかってくる。重い、と眉を顰めた。
 実際、江崎はコインランドリーの管理人という、実態の良く分からない仕事の傍ら、仲介業のような事をやっていた。つまり、キメラの出る地域に眠るお宝や、一般人の立ち入りが困難な場所にある曰くつきの品などの回収を請け負い、ULTに勤務する西田に、能力者への仕事として斡旋させるという仕事だ。
 こんなご時世の中にあっても、好事家や収集家は存在するらしく、多少の出費をしても手に入れたい物がある、と江崎の元を訪れる人間は、少なくないらしい。なので、いつもガラガラのコインランドリーの管理人は、趣味のような副業で、暇だろうと何だろうとちっとも困らないようだった。
「ねー、家でやったらいいじゃん」
「何かちょっと暇だったら買ってきたやつ開けてみたら、そこにシールがあって、そこにシールがあったから、外そうと思ったら、意外と外れなくて今夢中。あるでしょ、そういうの」
「ふうん」とか何か、興味があるのかないのか、良く分からない調子で江崎が頷く。
 どしん、と背中にまた重みがかかってきた。江崎がもたれてきたのかもしれない。鬱陶しいなあ、と眉根を寄せた。
「ねえねえグラスっていえばさ」
 耳元に江崎の声が聞こえる。また、鬱陶しいなあと眉を寄せた。むしろ、鬱陶しいなあと口にも出した。
「七色のグラスっていうのがあるの、知ってる?」
「知らないしー、興味もないしー」
「何かね。白と赤と緑と黄色と、青と紫と菫の七色のグラスがあってね。その七色を全部集めると、何かある。らしいよ」
「何か、って、何」
「あ、食いついてきた」
 とか何か、別に嬉しそうでもなさそうだけど言った江崎の横っ面を、何となく苛っときたので、ぐい、と押しやった。「そういうの、いいから。さっさと言えばいいよ」
「何かっていうのはね、何かっていうとね」
「うん」
「俺も知らない」
 ぼーっとそんなことを言う江崎の顔を、何か、思わず、見つめた。それからがくっときてため息を吐き出した。「あ、そ」
「集めてみれば分かるんじゃない」
「いや、集めないよ」
「でもね、興味を示した暇人が、俺の友達に居てさ。あの何だ、金持ちの息子ってやつ」
「金持ちの息子っていう表現がもうやなんだけど」
「何かね」
 と、一旦椅子を離れた江崎は、茶封筒を持って、帰ってくる。「これを頼りに探してくれないか、ってことなんだけど」
「ん? どういう意味?」
「金持ちの息子の家の蔵に、古文書が眠ってたらしい」
 封筒から何やら取り出し、西田に手渡してきた。見ればそれは、古文書とか何かいうやつのコピーらしかった。「で?」
「要約するとさっき言ったみたいに、七色のグラスがあって、それを集めた者は何か、みたいな内容で。ちょっとそこの部分だけ文字が掠れてて、読めないんだけどさ。つまり、そういう内容なわけ。だもんで、一回集めてみたい、と。で、グラスの場所なんだけど。大方の当たりはつけたからさ。見つけてきて欲しいんだよね。能力者の人にさ。まず、白いグラスから、探してみようかと思うんだけど」
「え、何、結局そういう話なの」
「うん、そういう話なの」
「仕事の話なの」
「うん、仕事の話なの」
 とか何か地図に目を落としたまま頷いて、江崎は続ける。「白いグラスはね。えっと、この辺りの地域の。ここの集落にあるみたいなんだけど」
「今は一般人立ち入り禁止区域になった場所だね。高空写真だと、残ってるのは民家、二つか。上手い具合に青い屋根と赤い屋根になってるね。どっちも二階建の民家か。このどちらかの中にあるのかな」
「まあそうなんじゃないかな。何にしても辺りにはキメラが出没するし、気をつけて探して貰わないとね」
「ふうん」
 地図を受け取りながら、西田は小首を傾げる。「七色のグラス、ねえ」
「今回は、白いグラス。赤い屋根と青い屋根の家を探索して見つけてくること。宜しく頼むよ」








●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
緋本 せりな(gc5344
17歳・♀・AA
毒島 咲空(gc6038
22歳・♀・FC
ティム=シルフィリア(gc6971
10歳・♀・GP

●リプレイ本文




 グラスを集めた暁には何か、漠然と凄いものが現れたりしたらどうしよう、とかたぶん別にどうもしないのだけれど、幡多野 克(ga0444)は、そんなことを漠然と考えた。でも漠然と凄いものって何だって言われたらやっぱり漠然としていて答えられないので、口に出さずにいたら、隣を歩いていたヤナギ・エリューナク(gb5107)が、「七色全部揃えると、何か出てきたりしてな」と、もう言った。
 言ったので、何か思わずその整った横顔を見やった。
「何だよ」
「いや、何か‥って、何かなって」
 とりあえず自分は答えられないくせに、むしろ、答えられないので、そこは聞いておくことにした。
 あとえの間くらいの感じで面倒臭そうに呻いたヤナギは、「河童とか、龍とかじゃねえの」とか何か、続ける。
 ちょっと何か、辺りがシーンとした。
「いや、河童って‥」
「それでさ、それでさ」
 とか何かやってたら、鈴木悠司(gc1251)が軽やかに、むしろちょっと食い気味なのに何故か軽やかに、割り込んでくる。「その出て来た河童とか龍とかがさ、願い事一個叶えてくれるとかだと良いよねっ! ねっ!」
「え、あ、うん」
 と、さりげなく流したところで、突然隣からぶつぶつと念仏のように「ういろう」とか聞こえてきて、え、と克は反対の隣を見る。毒島 咲空(gc6038)が、凄い無表情にういろうだな、ういろうだ。とか何かずっと言っていて、一体誰に何を訴えたいのか、むしろ口からういろうとか出ちゃってるの、分かってます? みたいな状態で、とりあえず、名前でも呼んで止めてあげた方がいいかなと思って、口を開いたら、「あのういろ」とか予想外の言葉が出て、愕然とする。え、俺今何言った? みたいに、無表情にちょっと停止した。
「それにしても、七色のグラスか。ふふ、集めると何が起こるか、楽しみじゃのう」
 最後尾を歩いていたティム=シルフィリア(gc6971)が、とりあえず何か言っとけみたいに、突然何かそんなことを言った。
 そしたらそれに乗っかったリュイン・カミーユ(ga3871)が、「七つ集めると何かが起こるとは、随分漠然とした話だな。金持ちの息子とやらも暇人め。ま、金持ちとはそうしたものだろうが」とか何か、さりげなくかつマイルドに偏見に満ちた息子批判をして、するとそこに御巫 雫(ga8942)が、「しかしグラスなんて、似たようなものいくらでも作れそうだがな。その例の古文書とやらのグラスと同じものという保障、あるのか? これで全然違ってましたなんてことになっても、私は知らんぞ」とわりと真面目な事を言い、締め括る。
 けれど緋本 せりな(gc5344)は、そのわりと真面目かつ正しいことを言った雫の装備に、明らかに雑巾としか思えない、むしろあれは絶対異様な匂いを放っている牛乳拭いた雑巾ですよね、みたいな物があるのを、見逃さなかった。というか、さっきからずっとガン見していた。
「どうした」と、雫が振り返ると、腰にぶら下げたそれが、ぷうん、と異様な匂いを放つ。う、と思わず鼻を押さえた。
「ああ、これか」
 いや何でそんな泰然自若としてるんですか、っていうか、そこの泰然自若要らなくないですか? っていうくらい泰然自若とした雫が、雑巾に目を落としまた、せりなを見る。「銃と間違えてな」
「え、えっ?」
「なんだ」
「いや、え、え? 銃と雑巾間違えたの」
「うむ。どうも出かける時に慌ててしまっていたようでな。バッと掴んで出てきたら、雑巾だった。まぁ、よくあることだな。うん」




「さて、まずは周辺のゴミを片付けねばな」
 咲空が言うと、「カラス型なら羽音でもするか、自己主張して鳴いてくれればいいのにな」とか何か、リュインがそんなことを言った。いや、いくらなんでもそれは、とか克が言いそうになったまさにその瞬間、カーカーとか何か、明らかにカラスです私、みたいな鳴き声が聞こえてきて、何となーく上を見た。
 それで下に目を戻したら、腕とか組んだリュインが何か凄いどや顔だった。
「やっぱり‥キメラ出てきたね‥。ささっと片付けようか‥」
 何かとりあえず見なかったことにして、克はさっさと覚醒しておくことにした。同じく覚醒状態に入った咲空が、濃青色の美しい刀身をもつ片刃の大太刀「風鳥」を振り上げ、さっそく攻撃を開始する。空中のキメラへ向け、エアスマッシュを放った。
「空裂く蒼刃に散れ、桜華霽閃!」
 鞘についたフウチョウの尾羽飾りが、彼女の動きに合わせ、派手に舞う。衝撃波が二体のキメラに命中した。その落下地点を見極め、克は素早く移動し、直刀「月詠」を抜く。豪破斬撃を発動した。
「懐に飛び込んで来た時が好機‥!」
 翼を打たれて落ちてくるキメラを、赤く光る月詠で真っ二つに引き裂いた。同じく落下地点に迅雷で駆け寄った咲空は、風鳥を振りおろしキメラの頭部から腹部を一気に切り裂いていく。
「その紛い物の命、神の元に送り返してやるよ。着払いでな!」
「よーし俺も翼狙って落としていくねー」
 犬のような耳を頭の上に出し、尻尾を生やした悠司が、可愛い顔して意外とむんとか手加減なく真音獣斬とか発動して、キメラを攻撃した。瞬間、彼の体から布ように黒い衝撃波が放たれる。
「ここはガラティーンで料理してやるかねェ‥」
 空中を飛ぶキメラを直撃し落ちて来たところへ走り込んだヤナギが、眩しい光を放つ直刀、ガラティーンを振りかぶり、円閃を発動した。
「ほれほれ、休むな。もっとジャンジャンバリバリ働け!」
 仁王立ちの女王様よろしく、銀色の髪を黄金色に変化させたリュインが、同じように黄金色に変化した瞳で、ティムと悠司を捉え、練成強化を発動する。完全に他人事です、みたいな顔でヤナギが悠司を見て、笑った。「リュインは手加減ねえなあ。よしよし悠司、ティム、働け〜」
 とかいうのを聞いているのか聞いていないのか、「あれはカラスですか。はい、キメラです」とか何か、若干不思議ちゃん発言をしたティムが、桜の模様が鮮やかな長弓「桜姫」を構え、弓を引く。
「今回はデカいカラスか。カラスは光ものが好きだっていうし、こいつらもグラスを狙ってる‥とかはないか」
 鍔の中央に溢れ出る炎のような光を放つ、磨き上げられたガーネットの収まる、大剣ガーネットを構えたせりなが、空を見上げ呟く。それから、隣に佇む雫を見やった。「私もやれることをやろう」とか何か、凄い偉そうに言った彼女の動向が、一体何をどうするのかと凄い、気になった。それで思わず何かじーっと見てたら、彼女は懐に吊るした雑巾を手に取り、しゅぱ、とか、投げた。
 いや、やっぱりそうなるんだとか何か凄い感心して見てたら、結構勢い良く飛び出していった雑巾が、意外とふわふわキメラに近づいて行き、その頭上で止まった。かと思うと、びちゃりとなにかを飛ばしながら顔面に貼り付いた。
「わー」
 とか何か、気付いたら思い切り顔とか引き攣ってるせりなの隣で、雫がふふん、と不敵な笑みを浮かべ腕を組む。「あの牛乳の攻撃を受けたらひとたまりもなかろう」
「じゃあ、私も」
 せりなは、今度は私の攻撃を見よとばかりに、勢い良く走り出す。大剣を振りかぶり飛び上がると、天地撃を発動した。低空を飛行していたキメラを八つ当たりでぶちのめします、みたいに剣の刃を叩きつける。「少々キツイが覚悟しろっ! これで、終わりだ!」




「捜索の前に、汝らに言っておくことがある」
 青い屋根の家の内部の捜索を始めてすぐ、厨房の隣にある応接間で、すっかり捜索隊の隊長の威厳を滲ませたリュインが、凄い真剣な顔で言った。
「いいか空き巣の極意はな、引き出しは下から開ける、だ」
 何か、ちょっと辺りがシーンとした。
 ん、あれ、我は凄い良いこと言ったのに何だこの空気、みたいな、偉そうにしてるけどちょっとどうしたらいいか分からなくなってる感じのリュインが、意外と、可愛かった。
「まあ、何ていうか」言い訳する子供、みたいにつんとしたまま、呟く。「作業効率が違うからな」
「あ、ですよね、分かります分かります〜」
「何だろう、悠司。汝にだけは、同意されても全然しっくりこないんだ」
「つかさ、何でもいいけどさ。何か凄い生活臭してねぇ?」
 ヤナギが、青い屋根の家の内部を見回しながら、言う。「食べかけの食事に脱いだ衣類‥人だけが空っぽになったカンジ? ‥ちょっと不気味じゃねェ?」
「だいたい、古文書に書いてある割りに場所が近代的過ぎるぞ」
 とか何か言ったリュインが、早速応接間を出て行ったかと思うと廊下を進んで行き、隣の厨房へと入って行く。
「あれなんじゃないの。予言だ! そう、予言。予言してたんだよ、きっと古文書は! ねえ、ヤナギさん」
「いや知らない」
 とか言われても全然めげない悠司は、やっぱりグラスだし、キッチンが怪しいかな、とか、いや飾り物系だったらこのまま応接間に残るべきなんじゃないか、とか、ちょっといろいろ考えたわりに、結局どうでも良くなった悠司は、何か漠然とおもしろそーなのでリュインについて行くことにした。
 ティムとヤナギも、とりたて目的もないのか、だらだら、とついてくる。
「しかし、これで普通に食器棚に並んでたりしたら盲点だな」
 言ったリュインが、全然食器棚ではなくてとりあえず冷蔵庫を開けた。ヤナギが、厨房のシンクの辺りをごそごそと探りながら、同意する。
「確かに、その辺りにポンと置いてある可能性も否定出来ねーな。こんだけごちゃっとしてるとさ、良く見て探さねーと」
 するとそこで、それまでふらーほわーみたいに、何かとりあえず覚醒状態で探査の眼とGooDLuckは発動してますけど、あんまりやる気とかないかもしれないです、みたいな雰囲気で後ろを歩いていたティムが、突然、「あんな所にスイッチがあります!」とか声を上げるので、ちょっとびくっとした。
「よし、押してみよう」
 颯爽と名乗り出たのはリュインで、言うが早いかこのスイッチは我の為にある! と言わんばかりに、もー押している。
 ポチ、とその瞬間、全員が身がまえた。すると、ちらちら、と厨房内が明るくなった。
 ただの、部屋の灯りの電源だったようだった。
 ちょっと何かシーンとして、残念な空気が、部屋の中に広がった。
「ただの灯りだと!」
 遅れてリュインが憤った。かと思うと、いきなりヤナギが、びひゃひゃとか何か、飄々とした美形バンドマンは、絶対にやってはいけない吹き出し方をして笑いだした。えええ、と悠司は思わずその横顔を振り返る。「え、や、ヤナギさん、ど、どうし!」
「ごめ、何か俺わりとこれツボ‥ひゃひゃひゃ」
「えええ、ヤナギさんのツボがわかんない、どしようリュインさ」とか見たら全然リュインはもう憤っていて、ボタンをもう凝視している。「こんなに明らかに押し込みボタンのくせに、灯り‥押しこみボタンのくせに灯り‥」
「やばい、いや灯りって! びひゃひゃ」
「あ、ねえねえ。じゃあさ、じゃあさ、意外と屋根の上とかにあったりしないかのグラス」
「いやねえよ! てかそれどころじゃ‥ちょ、ヤナギさん! リュインさん!」




 その頃、赤い屋根の家では、GooDLuckを発動した覚醒状態の克とせりなが、廊下を歩きながら、会話をかわしていた。
「古文書にグラス‥何だか違和感を感じる‥けど‥。本当にグラス‥出てくるのかな‥?」
「出てきてもさ、下手すると何個かは壊れてそうな勢いもある気がするよ。だって古文書っていうからにはグラスも相当古そうだしね」
「だいたいワイングラスは、ワインを飲む道具だろうに。‥あー。ワイン、無いかな」
 白衣のポケットに両手を突っ込んだ咲空が、明らかにだるげな動きで後ろをついていく。
「うん咲空さん、探すのはワインではなくて、グラスだよ」
「いやいや考えてみろ。ワイングラスなんだから、普通ワインと一緒にあるだろ。酒を探すというのは、あながち間違った行動ではない‥筈」
「うん、真面目に言っても凄い駄目な大人だからねそれはね」
「しかし、廃屋というのも、中々趣のあるものだな。人工物が朽ちて、ゆっくりと自然に回帰していく。‥悪くない」
 とか何か、こちらも同じくGooDLuckを発動した覚醒状態の雫が真面目に言った。かと思ったら、天井とか壁とかばっか見てたのか、思い切りバキッとか、朽ちた板を踏み、そしたらどういうわけか、その板の端に乗っかっていたらしい小石が跳ねた。とこの一連の動きで既に驚きなのだけれど、それだけでは止まらず、石が天井にぶら下がった電球に直撃しパリっと割れ、その音に驚いたのか鼠が突然天井から振って来て雫の頭に着地し、それを認めるや否や彼女はぎゃああ、と凄い乙女な声で叫んだ。意外と鼠が駄目なのか! っていうか、これは一体なに? と、もう唖然とするしかない三人を置いて、凄いテンパって廊下をダッシュしていく彼女は、何故か落ちているバナナの皮で滑り、突き当りにある部屋の中に突進していき、追いかけた三人の目の前で、箪笥の角に足をぶつけ、その上に乗っかっていた大量の箱を落とし、ガゴン、と脳天に直撃させ、失神していた。
 何かもー、どうしていいか分からなかったので、とりあえず克は「えー」とか言っておくことにした。
「これも、GooDLuckのなせる技、なのか」
「やるな」
 せりなが言うと、わりとどうでも良さそうに咲空が答える。
「しかもこれ。依頼のグラスだよね。白い‥グラス」
「だな」
 ごろん、と絨毯の上に落ちたグラスを咲空が持ち上げる。「良くもまあ割れずに。上手い具合に落としたもんだ」
「でも、これ他のグラスと‥何が違うのかな?」
 克は手を伸ばしグラスの側面を、爪でそっと弾いた。ちん、と軽やかな音がする。確かに美しい音ではあったし、装飾の施された外見も美しくはあったけれど、同じ物を作ろうと思えば、いくらでも作れる気もした。
「しかし、何か秘密はあるんだろうけどな」
 またそれを奪った咲空が、光に翳し、片目をつぶる。「もしかしたら集める事で、宝の在り処がわかる的なものかもな。お。何だこれは」
 その声に、克とせりなは目を寄せる。
 良く見るとグラスの底の所に、鍵穴のように精工に掘られた凹凸があった。
「他のグラスと組み合わせてみると何か、とか、そういうのなのかな」
「どうかな‥」
「ま、何にしてもこれで1つ目か。集まった時には何が起きるかも興味はあるけど、私は7種類揃った所を見てみたいって方が大きいかな。揃えたらそれだけで、結構満足感はありそうだしね。こういうのは」
「あれじゃないか、集めると貰えるよ的な、応募キャンペーンじゃないか?」
「でも‥悪戯にしては‥手が込みすぎ‥かも‥。集まるとどうなるか‥ちょっと興味あるな」
 克は、その白いグラスを眺め、呟いた。