タイトル:ランドリーと緑のグラスマスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/01 07:13

●オープニング本文







 江崎が管理人を務めるこのコインランドリーに、何故か、頻繁に洗濯しに来るおばちゃんがいる。
 中年にさしかかった女性で、西田はいつも彼女を見る度に、どう見ても普通の主婦です、みたいなおばちゃんなのに、家に洗濯機はないのはどういうわけだろう、一体どういう事情でわざわざほぼ毎日、コインランドリーに日常の洗濯物を洗濯しにやってくるのだろう、と、全然要らぬ想像なのだけれど、思わず、想像してしまう。
 そして今日、そのそのおばちゃんが、江崎に、家庭菜園の苗を分けにやってきた。
 はーどうも、とか何か、特別嬉しそうでもなく、むしろ、若干面倒臭そうな顔で受け取っている江崎を見ながら、あのおばちゃんは、家庭菜園はするくせに、洗濯物はコインランドリーなのか、とか、かなり独断と偏見に満ちた事を思った。
 思いながら、黒いビニル製の鉢植えの中でふるふると揺れている緑色の苗を見ていたら、何か、そういえば、七色のグラスとかいう依頼があったな、と思い出した。
 江崎はコインランドリーの管理人という、実態の良く分からない仕事の傍ら、仲介業のような事をやっている。つまり、キメラの出る地域に眠るお宝や、一般人の立ち入りが困難な場所にある曰くつきの品などの回収を請け負い、ULTに勤務する西田に、能力者への仕事として斡旋させるという仕事だ。
 こんなご時世の中にあっても、好事家や収集家は存在するらしく、多少の出費をしても手に入れたい物がある、と江崎の元を訪れる人間は、少なくないらしい。
 そんな江崎が受けた依頼のことを思い出した西田は、おばちゃんが帰った後、若干、これどうしたらいいの、みたいな途方に暮れた顔をしている江崎に向かい、「ねー。そういえば、七色のグラスの中に、緑のグラスってあったよね」と、切り出してみた。
「あの友達の金持ちの息子からの依頼ね」
 苗を片手に丸椅子に腰掛け、江崎がのんびりと頷く。
「そうそう、あの金持ちの息子からの依頼」
「七色集めると何かあるかもしれない、七色のグラスね」
「そうそう。何かあるかも知れないの、何か、を知りたいからって、金持ちの息子が依頼してきた依頼」
「ねー、それっていうのはさ」
「うん」
「この苗見て、思い出したの」
 実際かなりそうで、むしろそれ以外になかったのだけれど、うん、とか、認めるのが何となく悔しかったので、「いやまあ」とか何か、いい加減に受け流して「それよりさ、緑のグラスさ」と、話を変えた。
「俺のこないだの、苺見て赤いグラス思い出した気持ち、分かったでしょ」
「いや、同じにしないでくれる」
「とりつかれてきたねー西田」
「とりつかれてきたねって、嫌な言い方しないでくれる」
「記念にこの苗をあげよう」
 とか何か、受け取るとも言ってないのだけれど、苗を西田の手の中にさっさと押しつけた江崎は、そのままふらーとか、コインランドリーの奥の扉の向こうに消えて行き、茶色い封筒を持って戻って来た。
「ごめん。これだけは、本当に、要らないんだけど」
「今回はねー。古文書の文章から地図からあたりをつけるとね、この辺りにある感じだね」
 江崎が封筒の中から高空写真を探しだし、西田に差し出す。その手に苗を押しつけようとして、失敗した。
 そんな西田をちょっと意地悪な笑みを浮かべながら見やった江崎は、「いやだ西田君、何持ってんの」とか何か、自分が押しつけたくせに、言った。
「いや、マジで要らないからね。俺、持って帰らないからね」
「写真で見た感じだと、小さな池と、小屋があるよ。小屋の中にあるのか、はたまた、池の中にあるのか。ま、何にしてもまた、辺りにはキメラが出没するし、気をつけて探して貰わないとね」
「その池って、どれくらいの深さなんだろ」
「さー?」
「池の中なんてさ、どうやって探すわけ」
「もぐって?」
「げー」
「っていうかさ、だいたいさ、何でそんな場所にグラスがあるんだよ。その古文書、大丈夫なの。間違ってないの。っていうか、解釈とか、間違ってないの?」
「探してみれば、分かるんじゃないかな」
「うわ出た、その何だろう、無責任な感じ。ねえ、分かってる? 俺がこれ、能力者の人らに説明するんだよ、えーみたいな顔されるんだよ、分かってるの」
「苗を片手にね」
「いや、苗を片手に、はないよ。むしろ、持って帰らないよ」
「またまたー」
「いや、冗談では、ないよ」
「そういうわけで、今回は、緑のグラスです。池と小屋を調べて見つけてくること。宜しく頼むよ」
「そういうわけでって」
 西田は、ポンと、手にあった苗を向かいにあった長椅子に置く。「さりげなく苗を押しつけようとしても駄目だからね。持って帰らないよ、俺」
 とか何か、そこだけはしつこく、訴えておくことにした。







●参加者一覧

要 雪路(ga6984
16歳・♀・DG
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
銀華(gb5318
26歳・♀・FC
エリノア・ライスター(gb8926
15歳・♀・DG
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
和泉 澪(gc2284
17歳・♀・PN
壱条 鳳華(gc6521
16歳・♀・DG
毒島 葵陸(gc6840
16歳・♂・DG

●リプレイ本文






 美味しそうな見た目を重視しまくったばかりに、味の方はおろそかだったりするらしい骨付き肉を、ヤナギ・エリューナク(gb5107)が、池の中に投げ込んでいた。
 ワニっぽいらしいキメラをおびき寄せる為の作戦だったのだけれど、あんなもんを買う人は一体何時、どのタイミングで使うつもりなのかしら、とか思っていた毒島 葵陸(gc6840)の疑問は、その瞬間に氷解した。あ、ここだわ、っていうか、凄い何かしっくりきた気がした。ただ、日常的にはワニを釣る、とかあんまりなさそうなのが、惜しい。
 そしたら近くに居た鈴木悠司(gc1251)が、「骨付き肉かー。ヤナギさん考えたなー」とか何か結構胡散臭いくらい真剣な顔で腕を組み、池の中を覗き込んでいたのだけれど、「だろ」とかヤナギが得意げに言ったのはもう聞いてなくて、次の瞬間には既に隣に居る和泉 澪(gc2284)に、「そういえばワニの尻尾って怖いよね、尻尾」とか何か、わりとテンション高めに言って、ちょっとぼーっとしてたところをいきなり突かれたからか澪が「えっ」とかかなり深刻な顔で悠司を見た。
「あ、ううん。何でもない、そんな大したこと言ってないから」
「そうですか、え?」
「つかよー」
 そこで深緑と黒のツートンカラーのAU−KVアスタロトを装着したエリノア・ライスター(gb8926)が、癇癪を起した子供みたいな声で言った。「何だよこれ、何やってんだよー」
「キメラをおびき出してるんですよ」
「この池の中にキメラが居んのか?」
「キメラがワニっぽいキメラなんですよ、あれ、大丈夫ですか?」
「実は緑と名がついた依頼だったから、つい受けちまっただけなんだよな!!」
「いやそこはそんなサムズアップしたら駄目なところですよ、ライスター先輩」
「エリっちは緑が好きやからなあ」
 ワニさん、ワニさん、とか何か、意味不明な歌っぽいものを口ずさみながら、辺りをうろうろする朱と赤のツートンカラーのAU−KVアスタロトから、要 雪路(ga6984)の声が言う。
「緑が好きとかで片づけないで下さいよ、要先輩」
「しかし、我らが戦隊も充実してきたものだ。紅一点ならぬ白一点も入ったことだし、この辺で更なる飛躍をだな」
 エリノアと葵陸のやり取りを眺めていた青みがかった銀色のAU−KVアスタロトを装着した壱条 鳳華(gc6521)が、腕を組みながら、うんうん、と頷く。それから、葵陸の紫と黒のツートンカラーのAU−KVアスタロトをじろじろ、と眺めた。
「だな。レッドに続いて、パープル参入だな!」
「アシュパープルですか」
 とか何か言った葵陸の周りを、雪路がくるくるうろうろまとわりついた。「えへへ。おにーちゃん、新しい魔装少女のひとー?」
「あのー‥魔装っていうかとりあえず、一応僕は、男ですね」
「いよいよアシュトルーパーも形になってきたじゃねぇか。次はもっとこう、明るい色も欲しいね。イエローとか。また、LH広告に募集出しておくか」
「で」
 と、短い声が聞こえたので、葵陸は、何となく顔をそちらの方に向けた。そこに何かゆらーとかいう風情で佇んでいる銀華(gb5318)と目が合う。
「これは何をしてるのかしら」
「え、いや、キメラをおびき出してるんですが。あれ、今さっきその話したばっかですよね」
「それで何で骨付き肉なの」
「いや、キメラがワニっぽいんですよ、ちなみに僕はこれ言うの二回目なんですけどね」
「そうだったっけ」
「いやそうですよ。大丈夫ですか」
 若干の嫌味にも全く動じない風情で、銀華は、長い髪を気だるげにすいた。「私、あのオペレーターの人が傍に置いてた苗が、何で苗よとかわりと気になって、話あんまり聞いてなかったのよね」
「そうですか。いや今も聞いてなかったんですよね」
「そうなのよ」
「そうですか」
 とか何か、微妙に気だるい雰囲気になったところで、おおお、とか何か池の方から歓声が上がった。骨付き肉に引き寄せられ、キメラが出現したらしい。キメラが出てきておおもないのだけれど、結構ざばあと出てきてどーんって感じで、確かに迫力のある画ではあった。でもそれより何より、「ふうん」とか何か言った銀華のリアクの薄さが、びっくりだった。




「しかし、ワニにしちゃー少し小振りだな。あれは確かに、漠然とワニっぽいキメラ、だな」
 とか何か、言ったエリノアが、思い立ったように、更に続けた。「ワニって尻尾がうめーんだよな‥腹が減ったら、捌いて喰っちまおうか」
「いや、ライスター先輩ワイルドが過ぎますよ」
 長弓「百鬼夜行」を構え、竜の瞳で自身の命中力を上昇させていた葵陸は、思わずそれを下ろしたしなめる。けど全然聞いてない先輩は、「疾風怒濤のドッペルトロンベ、アシュグリーン様だ! 引導という名のサインをくれてやるぜェ! ヒャッハー!!」とか何か、だー! とか装輪走行を開始する。
 どんだけ自由なんだ、とか思ってたら、こっちではレッドが、「うちそれより、飼いたいわー。爬虫類、可愛エー。なんや、普通ンよりちっこいし。ワニて、何気に肌ふにふにしてて、気持ちエエしなぁ。なあ、飼っていい?」とか何か、もう自由過ぎることを言った。
「いや、それは駄目だろ、レッド」
 竜の角を発動し、バチバチ、とスパークを走らせた鳳華が、わりと冷静に、訂正をした。この人らの自由さには慣れたよ、と言わんばかりの姿にちょっと感心する。
「さて。ワニというのは噛み砕く力は強力でも、口を開く力は実は強くないはずだ」
 左手に装備した五角盾スキュータムを翳すと、一気にキメラに向かい駆けて行った。どおん、と盾を叩きつけると、そのままキメラの体を押さえ付けるように踏みつける。「故にこうしてしまえば鞘に収まった剣も同じ!」高飛車に、宣言した。
 葵陸は竜の角を発動し、知覚を上昇させる。青緑色の光を仄かに放つ不可思議な弓から、シュパっと弓矢を放った。踏みつけられもがくキメラの尻尾を突き刺す。「とどめは、どうぞ。先輩に譲ります」
「やるじゃねえか、後輩。っしゃあ! 月まで吹っ飛びやがれ! シュツルムヴィントォ!!」
 竜の角と竜の瞳を発動したエリノアが超機械トルネードを構え、巨大な竜巻を発生させる。ぶおおと凄まじい音を立て近づいていく竜巻を避け、鳳華が飛び上がった矢先、それに飲まれたキメラが天高く舞い上がった。
「浪花の暴歌ロイド、アシュレッドや! ウチの歌をきけェー!! 突撃隣の晩チャーハーン!!」
 竜の角を発動した雪路が、とどめと言わんばかりに知覚攻撃を繰りだす。エレキギターの形状の超機械ST−505の玄を弾き、超音波衝撃をキメラにぶつける。奏でる音楽は何でもいいらしい。ただ、その響き渡る炒飯の調べは、何だか、微妙だった。


 とかやってるその少し離れた場所では、覚醒状態のヤナギが今まさに、太陽の剣ガラティーンで今まさに円閃と二連撃のコンボを決めているところだった。
「うらァっ! これでどうだ‥ッ」
 キメラの尻尾の攻撃に注意を放ちながら、瞬天速を発動して接近し、何処か妖艶な雰囲気を纏った体を、優雅に回転させる。遠心力を力に変え、叩きつけるように剣の刃をぶつけた。かと思うとまた華麗な動きで回転し体制を立て直すと渾身の一撃を続けざま、打ち込む。柔かそうな赤色の髪が風に舞い、まるで舞踊芸術のような美しさがあった。
「ひゅう、ヤナギさんしびれるなあ」
 とか相変わらず思ってんのか思ってないのか良く分からないにこにこ発言をした悠司は、炎剣ゼフォンで急所突きを発動する。虫の息だったキメラの腹に剣の刃を突き刺すと、だら、と開いた口を狙って、小銃の弾丸を打ち込んだ。「とどめは、しっかりね」
「悠司って、意外と、怖いよな」
「えへへ、照れるなあ」
「うん、褒めてねえよ」


 澪は、ぶうん、と尻尾を振り回すキメラから距離を取るように後方へゆらり、と飛んだ。覚醒の影響で薄くなった気配を捉えきれず、キメラの尻尾が地面を打つ。彼女は体制を立て直し、隼煌沁紅と銘打った愛刀「天照」を抜いた。
 その間にも、三メートルはあろうかという巨大な斧槍ハルバードを華奢な腕で振りかぶる銀華が、迅雷を発動し、キメラへと接近していく。円閃を発動したかと思うと、遠心力のままにハルバードを振り回し、続けざま刹那を発動した。彼女の腕が淡く光りを帯びる。ガツン、と斧の刃がキメラの尻尾を切断した。そのまま、帰り血はごめんだわとばかりに、ぴくりとも表情を変えず、後方へ退避する。
「あとは、任せたわね」
 さらーと澪を振り返り、何処か焦点があっていないようにも見える切れ長の整った瞳で澪を見つめる。
「はい」
 頷いた澪は、隼煌沁紅を構え、迅雷を発動した。束ねた黒髪が、風に流れるようになびき、彼女自身が風の中へと溶け込んでいく。
「鳴隼一刀流!」そのまま、刃を突き刺すようにキメラへと突進した。「隼迅撃!」
 磨き上げられた隼煌沁紅の刃が、キメラを突き刺し、そして、切り裂いていく。




「せやからさー、小屋の中にはなかってんからさー。まぁ、そうウマい話には、なってへんってことでさー」
 池の傍にある小屋で見つけた、変な音のパフパフ出る人形を鳴らしつつ、雪路が言った。そして、悠司を見た。
「あ、どうしよう、何か見られてる。何これ」
「ま。こーゆーんて、男の仕事やんなぁ。頑張ってな、男の子♪」
 とか言われた悠司は、更に隣のヤナギを見た。
「いや俺のことは見ないで」
「だって」
「ほんでさっきから、そのパフパフ鳴らしてんの凄い苛々するからやめてくんねえかな!」
「おっと」
「つかもーおめーら、うだうだうっせえんだよ」
 とか何か、そこでエリノアが頭を掻きむしり、叫んだ。「目の前に池があんだからとりあえず入りゃあいいじゃあねえか。グラス見つかるまで帰れないんだろぉが」
 そんでそんな尤もなことを言ったかと思うと、尻ごみする皆を尻目に男らしく服を脱ぎ、すっかりスクール水着姿になった。
「うわ、すごい男前」
「やべえ。スクール水着持参だなんて、やべえよ、気合いが違ぇよ」
「どうしよう。あの胸元のらいすたあって平仮名で書かれてるの、何か凄い可愛いんだけど」
「よっしゃ、それでこそエリっちやー!」
 勢い良く言った雪路が、また、パフパフと人形の腹を押しこみ音を鳴らす。
「寒さなんて気合だ気合! ま、泳ぐのは得意だし私に任せておきな! ‥って、誰が抵抗が少ない体型だゴルァ!!」
「えーーー! 誰も言ってないよー!」
 とかいう悠司の戸惑いはもう完全に聞いてないエリノアは、屈伸とか何か颯爽と準備運動をしたかと思うと、「あったけぇもん、用意しとけよ。じゃちっくら、いってくらぁ!」とか何か、どぼん、と躊躇いなく池の中に飛び込んで行った。
「行っちゃったねー」
 茫然とした面持ちの悠司がヤナギを振り返り、言った。けれどすぐに、にこにこ、と笑顔を浮かべる。
「いやぁ、池に入れなくて残念だったね」
「はー?」
「だって残念ですよー。俺かなりやる気だったもん。本当、残念。あはは」
 とか凄いその嬉しそうな笑顔が何か軽く苛っと来た。なのでヤナギは「あ、そ」とか言って、腕を組んだ格好のまま、悠司のケツを軽く蹴って押し出してみることにした。
「うわひゃ!」とか何か、凄い意味不明な叫び声を上げた悠司は、そのままどぼん、と池に、落ちる。
「ひ、ひどいよー! ヤナギさーん!」
「いやぁ、悠司クン。水も滴るイイオトコってヤツだねェ」
「酷い、酷い、横暴、横暴!」
「あはは。お兄ちゃんらおもろすぎるんやけど、ほんま」
「笑うな!」
 むん、と口をひんがめた悠司は、「もーヤナギさんさー。引き上げてよー」と手を差し出し、唇を尖らせる。
 それでヤナギは、「仕方ねえなあ」と意外と素直に手を差し出したけれど、雪路的にはあれは完全に罠に違いない、という気がしていたので、手を掴んだほんの瞬間悠司がにやり、と悪い顔になり、そのままヤナギを池の中に引きずり落としたのはまあ、当然といえば当然の結果に思えた。
「ちょ、おまッ! 冷たッッ!」
「ふふふ、ヤナギさん、水も滴るイイオトコだね!」
「うっせえ、黙れ!」
 と、片手で水を引き寄せたヤナギが、それを悠司へとぶつける。「これでも食らってろ!」
「お兄ちゃんら楽しそうやなあ。気分は夏かいな」
「仕方ないし、俺達もグラス探そうか、ヤナギさん」
「だな」
「これでなかったら泣くよ。俺。グラス出てこーい!」
 とか何か言った瞬間、ざばああ、とエリノアが水面から顔を出して、悠司は、びくっとした。
 しかも、口に結構巨大な魚を咥えていて、え。と思った。
「おう、これ、食おうぜ!」
「ワイルドが過ぎるよ、エリノアさん」



 あんまりにも寒いので、池の探索は、とりあえず一回温まってからにしよう、という悠司の申し出で、一同は、澪や銀華、鳳華や葵陸の用意してくれていた暖かい飲み物や軽食を摂ることにした。
 澪が実に甲斐甲斐しく、皆に食事を振舞っている。その様子が、とても女性らしく、丸みのある柔らかさで溢れている気がして、鳳華は、感心した。有体に言えば、家庭的、ということなのかも知れないけれど、彼女はそれ以上に、凛とした雰囲気も持っている。
「皆さん御疲れ様です。ビーフシチュー作りましたので、どうぞ食べてくださいっ」
「おお、ビーフシチュー!」
 鳳華は、青い唇でがたがた震えながらも「根性だ、根性だ」とか何か言ってるエリノアに、暖かい紅茶を差し出してあげることにした。
「やっぱりかなり寒そうに見えるんだけど‥これでも飲んで少し身体を温めた方がいいよ」
 とか何かやってるその背後では、エリノアの釣りあげた魚を調理する銀華と葵陸の姿があった。
「ねえ」
 やる気なさげな華奢な指で意外と器用に包丁を操る銀華がぽつり、と言う。
「はい」
「ちなみに聞くけど、私達、何でグラスなんて探してるの?」
「いや、七色のグラスをですね‥いやちょっとULTに戻ってきて貰っていいですかね」
「ああ思い出したわ」
「いやホントですか」
「残念よねえ。これ、確か七色の内の三つ目とか何か言ってたじゃない。最初から参加したかったわよね」
「いや、嘘ですよね」
「七色のグラスっていうと、虹色かしら‥並べたら綺麗そうよね、素敵だわ」
「いや思ってないですよね?」
「でも、何処にあるのかしら、グラス」
「グラスということですから、流石に裸で置いてあるなんてことはないと思いますよ。ワレモノですし。何かしらの箱か何かに保管されているかもしれませんね」とか何か、葵陸が言ったその矢先、あら、と銀華が声を漏らすので、手元を見たら捌いた魚の腹の中に、まさしく探し物の緑のグラスがあって、驚く。
「腹の中から‥グラス。そんな馬鹿な」
 と、エリノアを思わず振り返る。
「それにしても。探すグラスよりさっきのワニの革の方が価値がありそうな気がするのは私だけか?」
 隣の鳳華が、ぼそっと呟くのが、聞こえた。