タイトル:ランドリーと青いグラスマスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/20 08:22

●オープニング本文





 青いどんぶりの中のラーメンを一口すすって、西田は、隣に座る江崎の横顔を振り返った。
「ねえ」
「うん」
「粉スープ入れるだけのインスタントラーメンをさ、どうやったらこんなに不味く作れるのか、聞いていい?」
「うん、いいけど」
 とか何かのんびりと答えた江崎は、青いどんぶりの中の、ありえないくらい不味いスープを全然顔色変えずに普通に飲んで、くそ硬い麺をずるずる、と啜った。「あのー、そんな大したことしてないよ。それでも、いい?」
「ねー江崎」
「んなに」
 とか何か、こんなクソ不味いラーメンを作っておいて平然としているその顔が、何か凄い苛っとした。
「何じゃねえよ! そりゃインスタントラーメン作るのに、大したことしなくていいよ! インスタントなんだから手軽に作るもんなんだよ! だいたい、お湯入れて、スープ入れて、終わりじゃん! 何をやったらこんなに不味くなるんだよ!」
「いやそんな、怒らなくても」
「くそ不味いラーメン食ってたら何か腹が立って来たんだよ!」
 とか何か、いきなりかつマイルドにテンションの上がってしまった西田を、何かふうん、みたいな顔で見つめた江崎は、「あーじゃあ。何か分かんないけど、とりあえず、ごめんね」とか、思い切り思ってないけどとりあえず雰囲気で言うときます、みたいに謝ったのが何か、また、苛っとした。なので思わず、このやろーと顎を突き出し、チッとか、睨む。
「もー何それ、欲求不満?」
「こんなクソ不味いラーメン作った責任については、悪いと思ってないわけ?!」
「ねえ西田さ」
「なによ」
「面倒臭いよ」
「知ってるよ」
「だいたい、俺が飯食いにいこうつったのに、わざわざここで食おうつったの、西田じゃん」
「それは江崎が、あーインスタントラーメンとかあるよ、とか、言ったからだよね?」
「そりゃあるよ、あの扉の向こうで俺は生活してんだからさ」
「いつもこんな不味いラーメン作って食べてんの」
「ラーメンは非常食だから、いつもは食べてないの」
「でもさ、今日だってさこのコインランドリーはさ、客もいないし、どの洗濯機も乾燥機も稼働してないし、泳いでるの金魚だけだし、どーせ暇なんだから、ラーメンくらい食ってもいいよね」
「西田ってさ、わりとそういう意味不明な接続詞つかって、無理矢理話とか繋げてくるよね。で、それは何? 感想なの、訴えなの?」
「江崎ってさ」
「うん」
「面倒臭いよね」
「じゃあさ、面倒臭いついでに、依頼の話とかしとく?」
「出た」
「何が出た」
「いや、いい。ごめん、間違えた」
「何だよ、間違えたって」
「いいからいいから、次の依頼は何よ」
「引き続き、あの、金持ちの息子からの依頼です。七色のグラスを集めるというあれですよ。今度は、青いグラスね」
「出た!」
 よし、ここですよ! ここで言うべきですよ! と言わんばかりの勢いで、西田は言う。むしろちょっと食い気味で、いつの間にか顔まで乗りだしていた西田を、相変わらずあんまりテンション上がらない性質臭い江崎は、へーみたいな顔でじーっとか眺めて、ちょっと生ぬるく笑った。
「馬鹿にしたみたいに笑わないでくれるかな」
「馬鹿にしたみたい、じゃなくて、馬鹿にしたんだけどね」
「でもさ、その青いグラスのくだりはさ、絶対この青いどんぶりを見てさ、思い出したよね」
「だからもうそのでもが分からないんだって。ねえそれは何に対してのでもなの」
 恐らくは依頼の概要の書かれた書面の入った茶封筒を手に江崎が言ったけれど、面倒臭いので無視しておくことにして、「そっかー。次は青いグラスかー」とか封筒を奪い中身を検める。「緑と赤と白が集まってるんだよね、今」
「そうね、緑と赤と白だね。今のところ」
「あとは、青と黄色と紫と菫の四色だっけ」
「そうね、青と黄色と紫と菫の四色だね」
「集めたら何かが起こるかもしれないよ、ってまた凄い漠然とした話だけどさ。集まってくるとちょっと、意外とわくわくするよねこれ」
「うんまあ、俺はしないけど」
 思い切り、ばし、とシャッターを閉めた感じで話を切り上げておいて、江崎は、「今回はね、古文書の文章から推測するとだね」とか何か言いながら、茶封筒の中におさめられた地図を取り出し、「この辺りにある感じだね」と指で押さえ、それから航空写真を探しだし上に載せる。「拡大すると、刑務所跡地だね」
「ねえ」
「うん」
「いや何かこないだも言ったかもしれないけどさ。刑務所跡地にあるとか、おかしくない? 絶対おかしいって。その古文書おかしいって」
「でも、これまでだってあったでしょ、実際に」
「ねえこれってさー、金持ちの息子とかが隠してさ、実はどっかから見てるとかって事はないの」
「いやー」
 えーみたいにどちらかといえば無表情に小首を傾けた江崎は「さー?」と最終的に短く纏める。
「うわまた出た無責任」
「とりあえず写真で見た感じだと、そうね。二階建の建物が二つ残ってるね。稼働してた時の資料だと、残ってるのは病舎と普通の房舎みたい。建物内にあるのか、敷地内に埋まっているのか。その辺りはもう、相談しながら探して貰うしかないね」
「なるほどねー。今は一般人立ち入り禁止区域の場所に残った廃墟。しかも、刑務所の病舎かー。うわー、何か出そー」
 とかまたちょっとマイルドにテンションの上がってしまった西田を、何だろうこの奇妙な生き物、みたいな顔で見つめた江崎は、「ま、何にしてもまた、辺りにはキメラが出没するし、気をつけて探して貰わないとね」とか、フツーに話を戻した。
「あ、はい」
「そんな感じで今回は、青いグラスだよ。刑務所跡地の探索して見つけてくること。宜しく頼むよ」







●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
毒島 葵陸(gc6840
16歳・♂・DG
ティム=シルフィリア(gc6971
10歳・♀・GP

●リプレイ本文







 病舎に入る前から、既に相当ぐずっていた緋本 かざね(gc4670)は、内部に入ってもまだやっぱり、ぐずっていた。
 手始めに「だいたい、何でこんな場所にグラスがあるんですかって、話なんですよ」と、文句を垂れ、「しかも、きしょいキメラが出るとか、もう意味不明なんですよ。この意味不明さ加減は、絶対誰かの陰謀とかだと思うんですよ」とか何か、良く分からない理屈を展開し出した。
 とかいう諸々を、毒島 葵陸(gc6840)は、斜め後ろのポジションで観察する。
「まあ、何だ。普通の病院でも不気味だが、刑務所となるといっそう不気味なものだな」
 探査の眼とGooDLuckを発動しているらしい御巫 雫(ga8942)が、覚醒の影響で現れた、美しい黒耀の石翼を揺らしながら言うと、こちらも同じく探査の眼とGooDLuckを発動しているらしいティム=シルフィリア(gc6971)が、「前回は民家、今度は刑務所とは‥。全く、どうしてかような場所ばかりなのじゃ」とか何か、わりと面倒臭そうに言う。
「何でもいいですけど、とにかくとりあえず雰囲気が嫌って話しですよ〜。古くて広くて病舎だったところなんて、絶対やばいですよ。一人になったらとか考えたらもう、それだけで心臓が止まる勢いですよ」
 そんなかざねを何かぼんやり見つめた葵陸は、「じゃあ何でもいいですけど」と言って続ける。「刑務所ほどの広い土地、確保するのって大変なんですよ。ですから、その土地に曰くがあっても、お構い無しなんですよね。だからここ、刑務所になる以前は、墓場だったらしいですよ」
「何でもいいが、それは、何の嫌がらせなのだ、葵陸」
「何でもいいですけど雫さんはあれですよね、意外と怖いんですよね」
「な、何を言うか。怖くなどない本当だきゃああ!」
 とか思いっきり何か、可愛い悲鳴を上げた雫は隣のかざねにがば、と抱き付き、突然抱きつかれたかざねはかざねで、「あひゃああ!!」とか何か、若干酸欠ですか、くらいの勢いでアップアップして驚き、「し、雫様〜! 突然抱き付くのだけはやめて下さいよ〜」と最早もう涙目だった。
「何でもいいですけど、本当だきゃあって」
「な、何だ。べっ、別に怖いとか、そういうのは、ないぞ。あれだ、水滴が降ってきてな。それが背中に当たって、驚いたのだ! ほほほ本当だぞ!」
 とかいう頭のてっぺんの、左右に別れた独特の形のアホ毛は、思い切りぷるぷるしていた。
「何でもいいですけど。その石翼がちょ、ぶつかりますね、邪魔ですね」
「じゃあ何でもいいが、わしはグラスが薬瓶の代わりに使われてたり、花瓶として使われてたりするのではないかと思っておるんじゃ」
「あ、じゃあ、何でもいいですけど、ティムさんって覚醒すると、縮むんですね。長い髪が大変そうですよね」
「だいたいグラスなんて、その辺に落ちてる必要がありますよ」
「必要はないですよ、言葉おかしいことなってますよ。かざねさん、大丈夫ですか」
「とにかくわしは、この身長の低さを利用して、こういう場所をじゃな」とか何か、すっかりマイペースなティムは、その間にも普通に病舎の廊下に蹲り、何穴かは知らないけれど、恐らくは排水関係っぽいその穴の中に入って行こうとする。
「え、あのすいません。一応言っておきますけど、その穴に入っても花瓶とか薬瓶には繋がらない気がするんですよ」
「そうかの」
「え、天然ですか」




 その頃房舎では、辺りをわりと真剣に探索する鐘依 透(ga6282)が、「全部集めたらきっと巨大な竜が出てきて、何か一つだけ願いを叶えてくれると思うんだ。セシリアさんはどう思う?」とか何か、斜め後ろを歩くセシリア・D・篠畑(ga0475)を振り返っていた。
 の、だけれど、「‥ええ、分かります」とか無表情に頷いたセシリアは、次の瞬間同じ抑揚のない表情で、「‥あの、七色に輝くガラス製の伝説のピコハンが‥此処にあるやも知れない訳ですね。分ります」とか何か、予想外過ぎる言葉を発した。
 え、と、刑務所というよりむしろ青いグラスというより、古びた建物に興味津々で、眺めまわしていた立花 零次(gc6227)も、思わず、彼女を振り返った。しかも驚くべきことに、セシリアの隣のロジー・ビィ(ga1031)は、めちゃくちゃ深刻かつ真剣な面持ちで、「セシリア‥」と呟き、良く言いましたわ、それですわ、と言わんばかりに、こく、と頷く。「今回は青いグラス‥。グラスと言えば、ガラス。そう、あの、七色に光り輝く伝説のガラスのぴこハンが!」
「え?」
 それ、成立してますか、とか零次はちょっと思ったのだけれど、すぐにそこはどちらかと言えば無駄な自己主張はしていかないタイプなので、わりと簡単にそうですかピコハンですか、と、納得する。「刑務所というのは建物が独特ですね。グラス、あるとしたらやはり監視所辺りでしょうか」
「ただ、こういう場所だと、亡霊が守護者となって青いグラスを守ってると思うんです」
 そしたら今度は透が、めちゃくちゃ真面目な、むしろ切ないくらい誠実な表情でそんな事を言った。
「え?」
 目が合った透は、「だから、対抗する為に霊を封じ込める事が出来そうなカメラを、まずは探して、ですね」とか何か、しっかりもう目が真剣だった。
「いや‥亡霊の守護者は、何ていうかあのー、俺は聞いてないですね。ウジ虫みたいなキメラなら出るってことで」
「え」
 と、今度は若干目を見開いて呟いた透は、ぎゅっと眉根を寄せる。「亡霊守護者は‥いない?」
 そのまま暫く、言葉を失う。「‥そんな‥馬鹿な‥」
「いやでも何だろう、いるかもし」
 思わず、傷つけてごめんね、みたいに、擁護しかけたところで、透が冷静に「あ、それとセシリアさん。探すのはピコハンじゃないですよ」とかもう凄い今更だった。しかもその後、こっそり「グラスをゲットする為にまず除霊カメラを‥」とか、呟いているのを零次は聞き逃さない。
「あれ、わりと頑固なタイプなんですね」
「とにかく房舎ですし、檻の中まで隅々と探索しないといけませんわ!」
 颯爽と言ったロジーが、監房の中へと入りかけて、ふとセシリアを振り返る。「ちなにみ、檻は、閉まりませんわよね? ね?」
「ええ‥きっとロジーさんなら大丈夫です」
 うむ、とか何か力強く頷いて監房に入ったその瞬間、ガシャーンとか鉄格子が閉まる。
「ああーーーっ! やっぱり!」とか、薄々実は予感していたらしい言葉を漏らしたロジーは、すぐさま、「いえ、此処は落ち着いて檻を抉じ開ければ無問題ですわ。落ち着くのよ、ロジー」とか何か、ぶつぶつ自分に向かい呟いて、むしろわりとテンパっているように、見えた。
 とかいうのを、じーとか抑揚のない表情で見つめたセシリアは、「練成超強化を‥」と一瞬呟いたけれど、「いえ、‥ロジーさんなら大丈夫ですね」とかもうさらーっと歩いて行く。
「って! セシリア!! 今、あたしをシカトしましたわね?」
 ぷう、と頬を膨らませたロジーが、がしゃがしゃ、と鉄格子を両手で掴み、強請る。
「せ、セシリアさん、助けてあげた方が」
「‥いえ、ロジーさんならば、練成超強化せずとも、いともた易く檻をひん曲げ脱出する事でしょう。ええ、決して面倒臭いから放置する訳ではないです。信頼しているから。だからこそ、そう、だからこその放置」
 とかいうその間にも、一体何をやっていたのか、「あれ? ロジーさんが閉じ込められた!?」とか今更気付いた透が、「くっ‥亡霊の罠か! ここはやっぱりGooDLuckを発動して、襲われないように願掛けを!」とか拳を握った。




 赤いオーラに包まれた両腕で、クルメタルP−56を構えるティムが、その銃口から勢い良く弾丸を放ち続けていた。「前みたいにキメラがグラスを飲みこんでなければ良いが、とにかくじゃんじゃか打つぞ。近づかれたら、たまらんしのう」
「緑色の汁には気をつけないと。死骸から出る緑色の汁に触ると火傷みたいになっちゃうんですよね」
 かざねが、白く美しい槍セリアティスを手に、疾風を発動し、走り回っている。汁には汁には言うてるわりに、むしろ、全然攻撃してないし、虫が怖いだけなんじゃないか、というように見えた。そしたらまさに、「ぎゃ〜! きたー! 虫っ! 虫っ! でっかい虫〜! 来ないでっ! 気持ち悪い〜! うぇ〜ん!!」とか何か、ばったばた、と足をばたつかせ、弾丸もキメラも器用に避けたので、やっぱり、虫が怖いだけのようだった。
「いやもう槍要らないんじゃないですか、むしろ、危険っていうか、邪魔‥」
「酷い! ほ、ほら、こういうきしょいのは男の人の仕事ですよ! 私の方に来ないように何とかしてくださいよっ!」
 はーとか、わりと覇気なく頷いた葵陸は、竜の瞳と竜の角を付与したAU−KVアスタロトで、長弓「百鬼夜行」の透き通った弦を引く。「まあ、近付かれなければ、大したものでもありませんね。何といいますか、なんでこんな中途半端になったんでしょうかね?」
「全くだ」
 小銃バロックから弾丸を放ち続ける雫も手を止めることなく、同意する。「ふん。少々私もイラッとしていたところだ、容赦はせんぞ。ウジ虫どもめ」
 ぞわぞわと這ってくるキメラを、ティムと並んで抑圧していた雫は、バロックの弾丸が切れたところで、超機械シャドウオーブを構えた。黒色の水晶球めいたその超機械から、黒色のエネルギー弾が放出する。
「だいたい、38cmって何なんだ! それなら、漠然と40cmだと説明しろ! 西田!」




「今回のキメラはまた小さいですわね」
「しかも余り見目の良くないキメラですね‥透さんや零次さんの方が男前ですし、ロジーさんの方が美人です」
「すいません、セシリアさん、そこを比べられても何でだろう、素直に喜べないんですが」
 その間にも覚醒状態に入ったロジーが、二刀小太刀「花鳥風月」を構えると、ソニックブームを発動した。バシーッと、衝撃波が飛び出し、キメラを牽制する。
「近づかれる前に倒してしまうのが得策かな」
 同じく覚醒した透は、その更に背後から、狙撃眼を発動し、SMG「スコール」を構える。ぐん、と四肢を包む青い光が輝きを増したかと思うと、凄まじい勢いで、銃口から雨霰の如き弾丸を放った。
 ぞわぞわ、とキメラが後退し、潰れていく間にも、セシリアの超機械ブラックホールから飛び出した黒色のエネルギー弾が、追い打ちをかける。前、上、右、左、と的確に赤く変化した瞳でキメラを見定め、打ち込んでいく。
 そんな味方の動きをしっかりと見定める零次は、すかさず武器をエネルギーガンに持ち替えたロジーに向かい、超機械「扇嵐」を翳し、援護射撃を発動した。そのまま、さらり、と回転し、扇嵐の攻撃を繰りだす。
 竜巻と、膨らむ黒い球。雨霰の如き弾丸とエネルギーガンから放出される凄まじいエネルギーの前にキメラはどんどんとその数を減らして行く。




「そういえばこの部屋で、不審な死を遂げた囚人がいたそうですよ。何でも呪い殺されたとか。‥ああ。逆さに吊るされた生首が丁度、かざねさんの立っている所に出るそうです。ところで、グラス、見つかりました?」
 うぐぐ、と涙目になりながら、かざねは平然とした様子の葵陸を振り返った。「もう何でそういうこと言うんですか!」
「あれ、何ですか」
「なんですかじゃないですよ! 私が怖がりなの知っててやってますよね、絶対!」
 とかいうかざねの顔を何か、ぼーっと見た葵陸は、「あ、そういえばいつも妹がお世話になっていますね。あ、これ、つまらないものですけど」とか何か、携帯品の温泉まんじゅうをいきなり、差し出す。
「た。食べ物で騙されたりしませんからね! だいたい、これにも何か仕掛けが」
「妹が、ご迷惑、かけてませんか? 妹は少し‥いえ大分変わった子なもので、これからも友達でいてあげてくださいね」
「貴様ら、真面目に探さんか。ほら、ティムを見てみろ。あんなに真面目に」
 とか何か、二人を窘めた雫は、どういうわけか足場が緩くなってた床を踏んで底を抜き、ずばーとか体が半分くらい下に落ちて、あ、落ちる! とか思ったら、意外とでかい胸でぽよんとつっかえて止まった。
「し、雫様‥」
「あーいや、かざねだったら下に落ちていたとか、決して、これっぽっちも、思っていないが‥。そんな目で、見てないで、手を貸してくれないかな」
「くそー、馬鹿にしないで下さーい、わーん」
「お、おいかざね待て、せめて助けてから」
 とかいうのを全く聞いてないかざねは、廊下をだーっと走って行き、その間にも、真面目にその辺りを探索していたティムが、「お、こんなところにボタンが、あるのを発見したわしは、押してしまうのじゃよ、ポチ」とか何か言って、全くどういうボタンか分からないそれを押しこんだ瞬間、ドカッパカッとか壁の一部が突然開いてそこに、ガコ、とかぶつかったかざねが、とどめに上から落ちて来た箱をそのどちらかといえば平らな胸で、ドス、と受け止め、「むきゅー」と伸びていた。
「なるほど、コントですね」
「しかもあの箱、グラスっぽいのう」
「そして何でもいいが、誰か手を貸してくれないかな」




 その頃房舎では、ロジーが折角見つけたガラス製ピコハンを、あんまりはしゃぎ過ぎてうっかり叩き、破壊する、という事件が発生していた。
「これは‥」
 落ち込むロジーの隣にそっと立ったセシリアが毅然として、言った。「これはきっと‥偽物です」
「偽物?」
「伝説のピコハンが、こんなことで壊れるわけは‥ないのです」
「セシリア」
 銀髪を揺らしながら、彼女を見上げたロジーは、もう一度粉々になったガラス製ピコハンを見つめ、こく、と頷く。「そうですわね。ええ、そうですわ。こんな事であの、七色に光り輝く伝説のガラスのぴこハンが壊れるわけないですわ。あたしとしたことが‥偽物を掴まされてしまうだなんて!」
「間違いは誰にでもあることです‥また、探しましょう‥」
「ええ。待っていて下さい‥いつか。必ず‥! って、透! カップ麺って一体何処からーッ?!」
 脇でこっそり激辛ラーメンとか書かれたカップ麺をすすっていた透が、え、と振り向く。「あ、ここに来る前にコンビニで」
「‥美味しいですか?」
「美味しいです」
「それなら良かったです」
 うんうん、とセシリアが満足げに頷く。
「すいません、気が済みましたか」
 恐縮です、みたいに口を挟んだ零次は、無線機を掲げて見せて、「グラス、発見されたそうです」と、一応報告しておくことにした。
「あら、そうですの」
「‥そうですか」
「すいません何か、全然興味ない話しちゃって」
「七色のグラスか」
 透が、ラーメンを咀嚼しながら、小さく呟いた。「平和な世界‥その為には、何を叶えるべきだろう」
「とにもかくにもあと三つ‥。まともなオチが付くように今から祈りたいものです」
 零次は思わず、しみじみ、呟く。