タイトル:ランドリーと菫のグラスマスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/26 02:43

●オープニング本文







 あれ、何見てんですか、みたいに窓の外を眺めていた西田が、突然、ふふんみたいな、思い出し笑い的なものを、した。
 コインランドリー内にある水槽を覗きながら、金魚に餌とか与えてみてた江崎は、ゆっくり何か無言で振り返り、明らかに無自覚で笑ったと思しき、片手頬杖状態の西田を何か、ちょっと見た。
 暫くすると視線に気付いた西田が、「え、何よ」とか何か、言った。それから何かあるのか、と一応確認するように自分の周りを見回して、また、江崎を見た。
「あ、分かった。俺があんまり格好良いから、見惚れちゃ」
「何でもいいけど、凄い気持ち悪い思い出し笑いしてたからね」
「せめて最後まで聞いてくれるかな」
「早めに言ってあげた方がいいかなって思って」
 ぱんぱん、と両手を叩き合わせて、西田の斜め向かいにある横長のベンチに腰掛ける。「俺って親切で、ごめんね」
 それから、そこに置かれた茶封筒を、ぽんと西田の膝に載せた。
「またこれ、あれでしょ。どうせ。金持ちの息子からの依頼の、七色のグラス集めろとかいうやつでしょ」
 江崎はコインランドリーの管理人という、実態の良く分からない仕事の傍ら、仲介業のような事をやっていた。つまり、キメラの出る地域に眠るお宝や、一般人の立ち入りが困難な場所にある曰くつきの品などの回収を請け負い、ULTに勤務する西田に、能力者への仕事として斡旋させるという仕事だ。
 こんなご時世の中にあっても、好事家や収集家は存在するらしく、多少の出費をしても手に入れたい物がある、と江崎の元を訪れる人間は、少なくないらしい。
「そうね。集まったら何か起こるかも知れない、とかいうやつね」
「胡散臭い古文書に記された場所を探せ、とかいうやつだよね」
 とか何か言いながら茶封筒を開ける西田は、そこでまたふふんとか思い出し笑い的なものを、した。
「西田」
「え?」
「きしょいよ」
「いや、親切とか言うから思い出しちゃったじゃん」
「なにを」
「え、言ってもいいの」
「言わなくていいよ」
「いや、言わせてよ」
「じゃあとりあえず、依頼の話するね」
「いや、言わせてよ」
「古文書によると今回の場所はね。ほら、これ。見て見て、植物園跡地」
 封筒から航空写真を取り出し、西田の前にちらつかせる。
「んー」とか何かいい加減な相槌を打ちながら、全然気乗りしないで写真を見た。「植物園の、何処にあるんでしょうね」
「花畑とか、桜の木の下とかに埋まってんじゃない? わかんないけど」
「なんか、あれよね」
「どれよね?」
「一般人立ち入り禁止区域ってことは、人の手が入ってないって事じゃない。それでも木は葉をつけるし、花は咲くんだね」
「んー」
 西田の言葉に、江崎がしみじみ頷いて、何かその場がちょっとシーンとした。
「江崎」
「ん?」
「何か、きしょいよ」
「自分が言ったんだよね」
「とりあえず残ってるのは、元は花壇だった花畑と、桜の木と、温室臭い建物か。ねえねえ、温室臭い建物の中は、何か、ちょっとどういうことになってるのか、興味あるよね」
「うん、俺はないけど」
「ねえ。江崎って油断してるとわりとそうやってバシ、とシャッターを閉じるけどさ、すっごい切ない気分になるから、やめてくれないかな」
「まー今回もまた、大まかな場所しか分かってないから、後は探して貰うしかないんだけど。見つかるといいよね」
「なに中途半端に話とか変えてくれてんの。誤魔化されないよ」
「ホントに。見つかるといいよねー。菫のグラスも」
「しかも全然見つかって欲しそうに見えてないからね、明らかに他人事の顔してるしね」
「俺はこういう顔なの」
「出た。いや仕事なんだからさ。もうちょっとこう、やる気出したらどうなのよ」
「じゃあ、そんな感じで、今回は菫のグラスです。植物園跡地を探索して見つけてくること。宜しく頼むよ」







●参加者一覧

高日 菘(ga8906
20歳・♀・EP
シュブニグラス(ga9903
28歳・♀・ER
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
毒島 葵陸(gc6840
16歳・♂・DG

●リプレイ本文







「ある程度の安全を確保してからでどうかしら?」
 という、シュブニグラス(ga9903)の提案で、じゃあまずは温室のキメラでしょってことで、8人は、温室を目指し、歩いていた。
「それにしてもこの植物園、人が手入れしないようになってどれくらいになるのかしら」
 ふと思いついたように辺りを見回し言ったシュブニグラスが、丁度後ろを歩いていた緋本 かざね(gc4670)を振り返る。わりとだらだらとやる気なく歩いていた彼女が、「まそうですねー」とか、確実に知ったかの雰囲気で、小首とか傾げたのだけれど、もうまず何でそこで小首を傾げちゃったのか、と毒島 葵陸(gc6840)は残念な事になりそうな予感がもう、した。
 それで最終的には、「何にしても植物園ですよねー」とか、強引かつ大雑把過ぎる纏め方をしたかざねは、むしろ纏まっていないにも関わらず、「所的には嫌いじゃない雰囲気なんですけど‥虫がいっぱいいそうで、ちょっと嫌ですねー。虫がでたら、守ってくださいね!」とか何かもう、すっかり自分の手元に話を持って行き、しかもシュブニグラスの言葉には全然答えてなかった。
 すっかり冷たい、むしろ元々若干冷たい感のする美しい切れ長の瞳をしたシュブニグラスは、とにかく、冷たい瞳でかざねを見つめ、「ふうん」とか、頷く。
「いえ、この人は残念なだけで、悪気はないで」
 とか何か、思わず、葵陸が助けに入った所で、「でもやー。うちは初めてやけどもう何個も出てきてるんやろー、このグラスてー」とか何か、高日 菘(ga8906)が、のんびり、と言った。
「今回見付かれば七つ目ですね」
 意外と事なかれ主義っていうか、まさしく事なかれ主義っていうか、安全地帯にしか顔出しませんしね俺、みたいな軽やかさで、それまで黙っていた立花 零次(gc6227)が相槌を打つ。
「集まったら何か起こるらしいやーん。ちょっと面白そーやんなー」
「それはそうですが‥まぁ、なるようにしかならないですよ」
「あと、どうでもいいですけど、仕事の依頼で菘さんに会うのは初めてですねぇ」
 エクリプス・アルフ(gc2636)が、本当にどうでも良いことを、とりあえず口に出したもんが勝ちだと思ってますが、何ですか、くらいの勢いで言った。
 とかすっかり本筋から話がそれかけたところで、「ふむ。七色のグラスな」とか何か、それまで腕とか組んでむっつり黙っていた、國盛(gc4513)が、絶対子供とか泣きだしちゃうんじゃないかな、みたいないっかつい顔を、ニヤ、と崩す。「面白い」
「面白いですかねぇ」
「七色のグラス。その話、浪漫を感じぬ訳でもない。男ならそう言う話に憧れることもあろう。その好事家とやらも良い趣味をしている‥きっと浪漫を持っているのだろう」
「あー、分かります分かります。ヒーローとかやっぱり、男の浪漫だと思うのですよ」
「全部揃うと何が起こるのだろうか。やはり‥龍、か。ふむ」
「龍だとちょっと違うヒーローになっちゃいますから、そこは龍的な怪人とかで。あ、そういえば俺の脚甲は龍をイメージしたデザインで、ですね」
「もう何かとりあえず、何一つ噛み合ってない、ってことしか分からない感じになってますけど、大丈夫ですか、そこの二人」
 葵陸が思わず口を挟むと、「今回は大勢で動いてますからね。この危うい雰囲気に巻き込まれないように気を付けなけては」とか何か、零次が思い切り言葉を噛んで、でもわりとそこは噛んでませんよ、みたいな平気な顔で無かったことに出来ないかな、とか思ってたら、すっかりもうばれた。
「ですよね、気を付けなけてはいけませんよね、気を付けなけてはね」
 葵陸が、ゆらーと青い瞳で零次を見つめる。
「何ていうか。妖しい瞳が、怖いですね」
「はい良く言われます」
「ま、とにもかくにも、あれだろ。グラスだろ。あのー」
 とか何か、徐に言いだした守剣 京助(gc0920)が、そこでわりと言葉を濁して、「えーっと」と偶然横に居た菘を見やる。
「そうそう、あのー今回はこの‥‥にら‥の、グラスを探せばええんやなー」
「そうそう‥にら‥のグラスをだな」
 思いっきりニラの所だけ、もごもごして誤魔化してる二人は、顔を見合わせ、ハハハとか、笑う。そこで葵陸が、思いっきり普通に「ええ。今回捜索するグラスは韮色のグラスですね」とか言うので、え、と立花は思わずその横顔を振り返った。
 それは、ボケなのですか、素なのですか、え、素なのですか、え、どっち、え。
「いやはい」
 相変わらず内心の読めない表情で葵陸が、言う。「韮色のグラスって言いましたけど、何か」
「あ、いえ‥じゃあ、すいません」
 何か勝てないっていうか、怖いっていうか、零次はもうすっかり、負けた。「最悪もう、韮でもっていうか、本当は韮でしたよね」
「韮ではないがな」
「韮ではないわね。菫よね」
 國盛とシュブニグラスが大人の威厳を醸し出し、言う。





「あのでっかいのがキメラやね。誰も入らへんのに何でこんなとこにおるんやろな?」
 温室に入るなり、とりあえず覚醒しときました、みたいな菘が、一瞬だけ、ぶわ、とその茶色い髪を広げ、なびかせる。狙った獲物は逃がさないと言われるほど、高い命中精度を誇る番天印を構え、後衛からキメラを狙った。その前を、聖剣ワルキューレを構えた守剣が突っ切って行く。覚醒の影響で交差する三本の大剣が背中に現れ、彼の心の高ぶりと共にぐるぐる、と回転を始めた。先手必勝を発動すると、キメラが動くより先に、伸びてきた唇弁を斬り落とす。「はっはー!」
「うぇー。花のキメラって聞いてたから綺麗な感じかなーって思ってたら、毒々しくてなんかちょっと気持ち悪いー」
 一方、そこから少し離れた場所で、キメラを前にしたかざねは、覚醒の影響で、若干薄緑に変化した髪をなびかせながら、襲いかかってくる唇弁の攻撃から、逃げ回っていた。「ひぃっ! こんなのに取り込まれるなんてまっぴらごめんですよっ! どんな悪いことになるか想像もつきませんっ!」
 疾風を発動し、回避力を上げる。白く美しい槍セリアティスを振り回しながら、絡んでくる葉っぱをびし、とはたき落とす。
 自身障壁を発動した零次は、その前へと駆け出して行き、耀石のような黒く美しい色合いの刀身を持った刀「黒耀」の刃で茎を狙う。削り摂るように葉を先に落としてしまうと、動きを封じた。
「まぁでも、植物型なんで、動きは良くなさそうですね。私もやりますよー。串刺しにしてやります!」
 ありがとう、良いところはじゃあ、すっかりまるっと貰っちゃいまーす! とばかりに、かざねがセリアティスをキメラの唇弁を突き刺した。
「よっと‥」
 その後ろから、飛び出した零次が、キメラの体を根っこの部分で、一刀両断。ずば、と切り裂く。
「援護するわね」
 むしろ仕方ないしやるわね、みたいな様子で、覚醒の影響により、褐色よりも濃い肌へ、銀髪よりも白い髪へと、全ての色を反転させたシュブニグラスが、超機械「扇嵐」を構えた。ひら、と返すと、練成弱体を発動する。「手早くすませましょう。今時肉食なんて流行らないわよ」
「はいはい、流行りませんよー」
 真紅のヒーローマフラーをなびかせたアルフが、覚醒の影響で赤く染まった瞳をゴーグルで覆いながら、飛び出してくる。瞬即撃を発動した。身体の瞬発力を極限まで高め、キメラの斜め後ろから、飛び上がると、自らの片足を突き出した。周り込ませるように位置を取ると、龍の足をイメージしたデザイン脚甲「望天吼」でキックを放った。
「花とは言ってもキメラともなれば潰してしまうしかありませんよね。はい、とどめ」
 更にそこから少し離れた場所では、瞬天速を発動した國盛が、キメラを翻弄するように動き回っていた。葉を絡み合わせるように動くと、隙を見てその根元にキックを叩き込み、無力化する。
「これ、消化液とか出て、服が溶けたりするんですかね。國盛さん、ちょっと食べられてみませんか?」
「葵陸。冗談にしては、笑えない」
「はい、冗談ではないですしね」
 長弓「百鬼夜行」を構えた葵陸は、竜の息を発動する。AU−KVの腕にスパークが生じると同時に、玄を引く手をす、と離した。青緑色の光を仄かに放つ弓が、キメラめがけて飛んで行く。
「でも、ま、こんな物食べたらお腹壊しますね。それよりも死の味をゆっくり味わってください」
「こんな物ってなんだ」
「ほな、こっちもちゃっちゃと終わらしてしまうで」
 声を上げた菘の番天印から、鋭い弾丸が飛び出して行く。その弾が着弾する頃、豪力発現を発動した守剣が、大剣を大振りに振り回しキメラの胴を切り上げていた。
「てめえの根っこ、どうなってんのか見させてもらうぜ! おっと倒してから引っこ抜け、とかは言わないでくれよな!」




「しかしここの桜の木は見事なものだな‥。いかもやたらと紅い桜だ。紅い桜‥そういえば昔、紅い桜の下には死体が埋まっているとかいないとか聞いた覚えが‥。まぁいい。好きにやれ」
 とか何か、嫌がらせのように國盛は、とっとと、探したい場所があるとか何か言って、去って行った。
「いや、死体って‥」
「今の確実に、嫌がらせでしたね」
「しかしあまり、効果は」
 とか何か葵陸の言葉に答えて、零次は、ふと、その辺にぼーっと突っ立って桜を見上げているかざねを振り返る。ちょっと口とか開いてるその姿は、うっかりすると、何処のアホの子ですか、みたいな、危うい感じに見えた。
「あのーかざねさん。こんな事言っていいかどうか分からないんですが。口が、開いています」
 その声にハッとしたように視線を戻したかざねは、何か口を一瞬ぱくぱくさせて、言った。
「でもやっぱり桜の木の下が怪しそうですよねー? 捜してみましょーよ!」
「でも何か、下に死体があるとか無いとか今、國盛さんが言っていきましたけど」
「そんなありきたりな話に騙されちゃ駄目ですよ、ダディさーん」
「あ、じゃあ、かざねさんが掘って下さるんですよね」
 とか何か言って装備のバスタードソードを、笑顔で差し出す。「掘る道具をうっかり用意し忘れて来てしまったのでこれしかありませんが、さあ、遠慮せずに、どうぞ」
「どうしようこの笑顔。善意なのか悪意なのか全然分からない」
「いやあ、あっちの花畑の方、お花が咲き放題MAXやったわー」
 そこへ、花畑の探索に向かっていた菘が戻って来た。茶色い髪を揺らしながら、へらへらと微笑み、「なーなー後であっちに散歩行こーやー」とか何か、皆を誘った。
「あー! 良いですね、散歩〜」
 何の女子会ですか、みたいなノリでかざねがわいわいと答える。それで完全に菘しか見てない調子ではしゃいだ感じで走って行って、思い切り何か、いつから張られたままかは定かではないけれど、立ち入り禁止用みたいな錆びた鎖に躓いて、こけた。
「なるほど。やっぱりそうなりましたか」とか何か言ってる葵陸の横で、「植物の蔓で誰かトラぶってくれないかなあとか密かに思ってたんですけどねぇ。ここでしたかー」とか、ぼそ、とアルフが呟く。
「え?」
「ん? いえいえ面白いなとか、これっぽっちも思っていませんからね」
「顔が確実に笑ってますが、アルフさん」
 アハハ、とか何か言って、ふわーと葵陸を振り返ったアルフは、歳の甲と言うべきか、揺蕩う少年葵陸の妖しい瞳にも全く動じず、むしろ緑の瞳でへらーと見つめ返すと、「韮のグラスは何処にあるんでしょうねー。畑とか、見に行ってみます?」とか何か、言った。
「韮、はもう良いとして、どうして畑ですか」
「畑の中に埋まってたりしたら、面白いじゃないですか」
「面白いかもしれませんが、絶対埋まってませんよ」
「なーもーこれあれ何か、ここ掘れわんわんゆー犬おらんのかなあ?」
 桜の上を見上げて、木の枝とかに引っ掛かってないかなあ、くらいの調子でどうやらグラスを一応は探しているらしい菘な言う。「もー、なさそうやしさー。あれやん、とりあえず、一回、あのー寝る?」
「えっ」
「寝ませんよ、大丈夫ですか」
「だってほら桜の下でお昼寝て気持ち良さそうやーん?」
 とか何かやってたら、「よし、掘るのか!」と、威勢の良い、もう何か最近とんと聞かなくなったくらい威勢の良い声が、遠くの方から聞こえて来た。見れば、温室の方を探していたらしい守剣が、合金軍手とか装備した両手をばっしばし叩き合わせながら、駆けよってくるところで、「凄い。体育会系ー‥」と、思わず葵陸は、珍しい動物でも発見したかのような面持ちで、言う。
「よし。掘るんだな! ここ、掘るんだろ! よし、掘るぜ!」
 とかもうすっかり何も聞いてない守剣は、また合金軍手を装備した両手をばっしばし叩いて、「ここだな」と、桜の下をがっつがつ掘りだす。
「木を隠すなら森の中、菫のグラスを探すなら植物園。あれ、こう考えると見つかる気がするな。な。するよな!」
「あはい」
 全然思ってないけど何か、部活の先輩に咄嗟に振り向かれて言われたので頷きました、くらいの調子で頷いて、葵陸は全然手伝うでもなくとりあえず、何か、様子を見守る。
「しかし、やはり、花が集る所は虫も当たり前のように集ってきますね。珍しい昆虫が沢山生息していて、楽しいですよね」
 そして何か、隣に立っていたアルフを、見た。「ところで、さっきから何か、かざねさんの肩に蠢いているものが服の中に落ちそうなんですよね。凄い気になりますよね」
「あー、本当ですね。ぎりぎりですねぇ」
「それにしても守剣さん、凄い勢いで掘ってますね。後で埋めるの大変そうですよね」
 そこへ零次がのんびりと会話に参加してきた。
 確実に体育会系ではない男三人は、だらーと突っ立って話を続ける。
「大変そうですね。でもまあ、きっと彼がまた、埋めて下さるでしょう」
「ですね。菘さん、すっかり寝てますしね」
「おでんやの営業が大変なんじゃないですか」
「そうですね」
 わりと盛り上がることもなく、さらーと何か時間だけが過ぎて行く。




 一方その頃、シュブニグラスと國盛の二人は、かつて植物園を管理していた人が価値を知らずに使っていたのではないかと予想し、人の居た場所などを捜索し、さっくりと言えばさっくりと、問題のグラスを発見していた。
 それが予想していた通り、キラキラとした装飾の施された透き通るような美しい菫色のグラスだったことに満足し、シュブニグラスは、うっとりと瞳を細める。
「あの古文書、興味深いわ。他にも何か、美しい物の在り処が記載されているとか‥欲しいわね」
「個人的にはこのグラス、俺の珈琲喫茶で使いたいのだが‥どうだろう。ダメかな」
「喫茶店?」
 國盛の言葉に、彼女が何事、と言わんばかりに、つ、と、手入れの行き届いた眉を寄せた。「美しいものはね。美しい場所に、美しく飾られるべきよ」
 そしてそっと、細い指でグラスの装飾を、撫でた。