タイトル:やたら階段の多い家マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/18 21:27

●オープニング本文






 起きてみたら、大森の顔がすぐ近くにあった。
 とかいうそれはもー何か、悪夢であるとか拷問であるとかいうことを通り越し、むしろ全く得体の知れない、奇怪な現象、というのに近かった。
 岡本はとりあえず一回、自分の顔を覗き込んでいる大森から目を逸らし、瞳を閉じ、それからまた、目を見開いた。するとやっぱりまだそこには、確実に無駄に美形の、未来科学研究所の優秀な変人、大森の顔があった。
 何かもう、がっかりした。
「大森さん」
「うん、何だろう岡本君」
「何の用ですか」
 体にかけていた毛布ごと、大森の方を押し戻し、ソファの上に腰掛ける。顔を覆って、ため息を吐き出した。昨日、あまりに仕事が立て込んでいたために、社内の端っこに丁度良い仮眠場所を見つけて止まり込んでいたのだけれど、どうやらそこを発見されたらしい。
 毎度の如く、UPCに多少なりとも関係のある総務部の事務職員である自分に、また何やら面倒臭い用を言いつけるつもりなのだなと思った。でもそのすぐ後に、どうせそれは聞けば済むんだ、少しの我慢だ、と自分に言い聞かせている自分に、ハッとする。恐らくは、あんまりにも毎度のことで慣れてしまったからなのだとは思うけれど、慣れてしまう、というのは、許容の第一歩だ、と思うと何かもーぞっとした。
 とかいう岡本の気持ちを、全く推し量ることはないらしい大森は、平然としてソファの隣に腰掛けてきた。それから、嫌味なくらい長い足を組み、乗っけた方をぶらぶらとさせながら、「もうちょっと寝ててくれても良かったけど」とか何か、言う。
「いえ、もういいです。用は何なんですか。忙しいんですよ、僕」
「実はね。引っ越ししようと思っててさ」
「はー」
 とりあえず一回大森の顔を見て、それから、また顔を伏せた。「そうですか。それは良かったです。お疲れ様でした」
「それでね。俺が決めちゃっても良いんだけど、何ていうか、やっぱり一緒に住むんだし、岡本君の意見も聞いておかないといけないかな、とか思って」
 基本的には、大森の話などは大抵下らなかったり意味が不明だったり要するに全く無駄な騒音でしかなかったので、「はいそうですよねー」とか何か言って、いい加減に聞き流したら、いやちょっとまって、と、自分の中の本能が危険を察知した。物凄く面倒臭いことを聞いたような気がした。
「あれ、何ですか」
「いやだから、やっぱり一緒に住むんだし、岡本君の意見も聞いておかないといけないかな、とか思って」
 とか何か言った大森の顔を、暫く、眺めた。眺めて、眺めたままぼーっとしてきて、頭が真っ白になって、なったところで、そういえば今日の夕食どうしようかなー、とか思った。そうしてすっかり、現実逃避に成功したところで、「ねえ、岡本君、聞いてる?」と、もー戻された。
「はー何ですか」
「俺と一緒に住むんでしょ、って言っ」
「いや住みませんよ」
「ごめん。聞こえない」
「住みません」
「うん、住みたいでしょ」
 とかもう毎度のことで何を言っても無駄だと思ったけれど、物凄い苛っとしたのでとりあえず何とか拒絶したいと思い口を開いたら、「死んでください」とか、気がつけばあんまりにもうっかりマイルドに本音が出ていた。
 さすがにこれはまずい、と思ったけれど、あははは、とか大森が突然笑い出して「シンシアって何だよ岡本君。知らないよ、シンシアの行き先なんて」とか意味不明を通り越して、恐ろしい呪文のようにも聞こえる得体の知れない言葉を言い出したので、茫然とした。茫然として、恐怖した。
「し、シンシア、シンシア誰ですか」
「知らないよ。岡本君が言ったんじゃないか、シンシア何処行ったって」
「え、いや、言ってないですよ」
「とにかくさ。もー離れてるのが面倒臭いからさ、一緒に住んじゃえばいいじゃない」
「すいません、シンシアは言ってないですよ。大森さん、大丈夫ですか」
「だからそれでね、ほら、建築家の弟に頼んでね、変な曰くつきの家をね、四つばかし選んで貰ったわけだけれども」
「一個聞いていいですか」
「うん、いいよ。一個だけね」
「何で変な曰くつきの家を選ぶんですか」
「ほら、こういうのは、一緒に探してる間も楽しいじゃない」
「答えになってないですよね」
「答えるって言ってないよね」
「じゃあ僕忙しいんで、お疲れ様です」
「とりあえずね」
 と、腰を浮かせかけた岡本のカーディガンの裾を引っ張り、またソファに座らせておいて、どうやらその物件の資料らしき書面を、岡本の膝へ投げてくる。
「まず、どの物件も全部、殺人事件とかあった家ってことね」
 平然と言う横顔を、軽蔑の眼差しで、見た。
「あと、今現在はキメラが近所に生息してるってことね」
「分かってると思いますけど言います。分かりきったことを、言います。絶対無理です。住めないです」
「だからほら、こういうのは、一緒に探してる間が楽しいんであって」
「何か他の目的があるんですよね。今までの全部前振りで、その屋敷に行って実は何か探して来て、とか結局そういうあれなんですよね。それをまた申請するのが面倒臭いから僕にやらせようとしてるだけなんですよね。そうなんですよね」
「岡本君も変わった人だなあ。そうだったらそうだと、別に最初から言うよ、俺は。わざわざ余計な体力使って、こんな話しないじゃない。俺と君とが一緒に住む物件を探そう、ってそういう話だよこれは」
「僕の所に来てる自体がもう、余計な体力だと思うんですよ」
「一応、建築物としての価値はそれなりにあるからね。建築物保存研究会もお金出していいって事で、能力者の人達にキメラ退治をして貰いたいわけ。これが、一つ目の物件ね。名付けてやたら階段の多い家。とにかく階段が多いから、いろいろ気をつけてね。登って行ってみたけど壁、とか結構あるしね」
「絶対住みたくない、そんな家。最悪そこには住んでもいいけど、大森さんとだけは絶対住みたくない」
「まあ、一応その後、修復入れるから、多少、壊しちゃったり、傷つけちゃってもいいよ。ま、キメラが入ろうがまだ壊れてない家だからね、それなりには重厚で頑丈な作りの家なんでしょ。だからね、四つとも退治が済んだら、見に行こうね」
「嫌です」
 苛立ちと面倒臭さで、半ば泣きたくなりながら言う。
 大森はそんな岡本の顔を、顎くらいの長さの髪の間から、希少生物を観察する研究者のような、というか元より彼は研究者なのだけれど、とにかくそんな温度のない瞳でじーっと見つめる。「いいね。君はこの依頼を申請している間、ずっとそんな顔で、俺と暮らすことを嫌でも考えるんだろうね。本気なのか、嘘なのか、本気だったらどうするのか、なんてさ。これは素晴らしい気分だね。そうやってずっと考えててね、俺のこと」





●参加者一覧

マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
未名月 璃々(gb9751
16歳・♀・ER
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
フランツィスカ・L(gc3985
17歳・♀・GD
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
結城 桜乃(gc4675
15歳・♂・JG
黒羽 拓海(gc7335
20歳・♂・PN

●リプレイ本文





「また大森だか岡本だかは変な物件を持って来たモンだ」
 探査の眼を発動した國盛(gc4513)が、刻々と階段を上りながら言った。その背後では、緋本 かざね(gc4670)が唇を尖らせ、内心の憤慨をとにかく足に込めました! みたいに、どんどん、と階段を踏み込んでいる。
「まったく。よくこんなヘンテコな家を探したものですよ。さすがのセンスといいますか」
「とにかくキメラは上下左右何処から掛かって来るか分からん。こういう扉を開く時が、一番、危ないんだ。気をつけろよ」
 一直線に伸びた階段を登りきると、先頭の國盛が、扉を開く前に背後をちら、っと振り返った。それから、ばっと扉を開く。そこに現れたのは廊下だったけれど、すぐ目の前に、三つの階段がまた、伸びている。
 かざねが、んーあーーーとか何か、呻いた。何か軽く、回線おかしくなりかけてないですか、くらいの時背後から、「いいですよねぇ、一軒家」とか何か、一人だけ完全に空気読めない朗らかさで、フランツィスカ・L(gc3985)が言った。
「うち貧乏で借家、家族も多いので、憧れなんですよね。広い庭付きの家」
 え、とかざねは、むしろ異常なくらいの朗らかさを放つ彼女を振り返る。一軒家の前に、階段へのリアクはどうしたの、と戸惑った。けれど、フランツィスカは全く階段にはノーリアクションのまま、「子供は男の子と女の子、白い大きな犬、それと‥‥優しい旦那さま、そういうの」とか何か、斜め前を歩く、マルセル・ライスター(gb4909)をちらちらと、見る。
 本人はどちらかと言えば、こそこそと密やかに見ているつもりのようだったけれど、眼鏡の奥の緑色のくるんとした瞳からは確実に、得体の知れない粘り気のような物が滲んでいる。もうだから、ちらちらは、実はちらちらではなくて、むしろ、じろじろだった。じろじろで上から下へ、AU−KVを装着しない彼の半ズボンから覗く、ピッチピチの脚の辺りを特に凝視する。
 そんな明らかに危ない感じの視線に気づいたのか、マルセルが、何かふわっと背後を振り返った。フランツィスカのぐるぐる眼鏡越しの視線とぶつかった。
「え、あれこれ何だろう。」
「まあとりあえず何でもいいんですけどね。マルセル様今日はAU−KV脱いで来たんですね」
 かざねが言うと、「あ、うん」とか、すっかりコント終わりましたーみたいに彼は振り返る。「まあ、AU−KVは階段を昇るのには向かないんだよね。スキー靴を履いて、家の階段を昇るようなものだし」
 そうですよねーとか答えようとしたまさにその矢先、それよりコンマ3秒くらい早く、フランツィスカが輝く笑顔で、親指を立てた。「ナイス半ズボン!」
「うん。それにしてもこの家、まるでアスレチックだよね。色々不便かもしれないけど、でも飽きなそう」
 思いっきりそれを無視してマルセルが言うと、國盛があ、もういいすか、喋っていいすか、くらいの感じで三人を見渡し、腕を組む。「確かにこの階段数は異様だ。何だ、ここを建築したヤツはシュールレアリズムの塊か何かか? とにかく、手当り次第、階段を上ってみるしかないんだろうが‥‥」
 三つある階段を見上げ、どうする? と言わんばかりに一同を見渡す。
「とにかく、右端から上がってったらいいんですよー、こんなもん」
「いやかざね、こんなもんて」
 とか呆れる國盛の声も聞かず、かざねはどんどんと右端に伸びた階段を上って行く。
「危ないよ。かざね気をつけないと」
 マルセルがその後に続き、フランツィスカがその更に後に続き、やれやれ、と言わんばかりに國盛は最後尾につく。鋭い集中力と視線だけは緩めず、キメラの待ち伏せや罠にだけは神経を尖らせながらも、何となく「階段の先のドアを開けたら空中でした、なんてことは‥‥」とか考え、まさかな、とか苦笑する。そしたらそのまさに瞬間、前方を歩くかざねが「あれ、なんかこの家ちょっと楽しくなってきた! っと危なッ! な、なななな、なんですかこれー!」とか素っ頓狂な声を上げた。
 マルセルが背後から、その腕をしっかりと掴んでいる。「うん何でもいいけど、気をつけてね、かざね」
 素っ頓狂な声を上げるのは、わりと毎度の事なので、あんまり気にならなかったけれど、「だ、だだだ、だって、この先地面ねえすよ! 地面ねえすよ!」とか何か言われたら、え、まさか、と駆けよらずにはいられない。
「あれ何で二回言ったんですか」
 全然空気読めない素直さで、フランツィスカが生真面目に、言う。
「なるほど」
 國盛は、ドアの外に、芝生の伸びた荒れた庭が広がっているのを見て、腕を組んだ。「空中に続く階段か、面白い」






 一階の探索の筈が、あんまりにも階段を上り降りしているので、すっかり自分が何処に居るのか、黒羽 拓海(gc7335)は実のところ、分からなくなりかけていた。むしろもしかしたら五階くらいまで上っちゃってんじゃないかな、気付いたら五階に居ちゃったりするんじゃないかな、くらいのことは思っていたのだけれど、周りの雰囲気的に何となく、言い出せないでいる。
 それで黙々と昇っていたのだけれど、そしたらそこで先頭を歩く結城 桜乃(gc4675)が、「それにしても、階段の多い家ね」とか何か、呟いた。「これはかなり良い運動になるよ」
「確かに複雑な内部だ。危険は少ないらしいが、万が一が無いようにしないとな。内部の複雑さに加えて、キメラは小さい。突発的な遭遇戦になる可能性が高いんじゃないか」
 そしたらジジジ、とその腰元で無線機の雑音が聞こえた。「大丈夫ですよー」と、思いっきり覇気のない声が聞こえる。え、と拓海は後を振り返った。わりと遠くに、だらだらっていうかさらさらっていうか、ぺそぺそっていうか、うすーく尚且つゆるーく歩く小柄な女性の影が見える。未名月 璃々(gb9751)だった。多少声を張り上げれば届く距離に居るはずだったけれど、彼女は大声を出すのももう面倒臭いのか、いちいち無線機で話しかけてくる。
「そのために私がバイブレーションセンサーで敵位置なんかを確認してますしー。近づいて来たら場所は教えますのでどうぞ行って下さい」
「でもさー。住むとなると毎日こんな運動出来て、良いトレーニングに‥‥なんてならないよね! ただ面倒臭いだけだよね!」とかもうすっかり完全に自己完結して、拓海を振り返る。
「確かに、住み難そうな家だ」
 それから何となく、流れ的に拓海は、隣を歩くエクリプス・アルフ(gc2636)を見た。
 彼は何事かを考えていたのか、少し意表を突かれたかのような表情で、拓海を振り返った。理性的な美形、とも見える緑色の瞳が拓海を振り返る。彼は何処かのバイク乗りのように、頭のてっぺんにライダーゴーグルを装着していた。
「あれ、何ですか」
「いや、住みやすそうな家」
「ええ、いえ。分かりました。大丈夫です」
 手を翳し、拓海の言葉を遮る。けれど次に口を開いた彼は、「実はですね」と、こんな唐突に何を打ち明けることがあるのか、言った。
「実はですね?」
「そう、実はですね。僕の友人にかざねという人物がいましてね。彼女のこぷたぁっていうのがあるんですよ」
 とかいきなり言われたそれは何かもう、完全にバグア語? みたいな理解不能の物だったので、何かその顔を思わずちょっと見つめた。
「え?」
「いえね。それでね。俺は今、彼女のあのかざねこぷたぁに如何にツッコミを入れるか思案中なんですよね。んー。あれですかね、目の前に虫とか持ってくるともっと回るんでしょうかねえ」
「いや何ていうか」拓海はじっと彼を見たまま、言った。「知らん」
「あれ? ちょっと怒ってます?」
 どちらかと言えば戸惑っていたけれど、いつもわりとクールな無表情なので拓海の内心は、見え難い。
「とにかく家付近ではー、火気厳禁でー。壊してもいいですが、燃えると困るので」
 そしたら一切、火の話なんかしていないのに、未名月がまた無線機でそんなことを言った。
「そうですねえ。オフロードバイクだったら遊べるんですかねぇ」
「いや、アルフ、オフロードバイクの話も一切出てないが」
 更に更に、それまで割と先頭で頑張って階段を上っていた結城が、いきなり、ぐだ、とその場に座り込んだので、驚いた。
「なんだ、どうした」
「うんあの」
 面倒臭そうに髪の毛をかき混ぜた彼は、拓海を見上げ言う。「疲れた」
「え」
「いや何かもう疲れちゃった。だって階段ばっかだしさ」
 この異常気象ばりの気分の移り気は、14歳とかいう若者特有だろうか、と、自分もまだ20歳のくせに、拓海は戸惑う。「おまえ、あれだろ。確か、学校でサッカーとかやってるんじゃなかったのかよ」とか何か言いながら、その傍らに近づこうとしたら、その真横に立った辺りで、ズボ、と床が抜けた。「うおっ!?」
「体力だけは、無いんだよ‥‥。少し、休む。あ、心配しなくて良いよ。後で追いかけるから‥‥」
 いやもう誰も全く誰のことも見てないっていうか、完全に全員自分の事でいっぱいいっぱいになってませんか、みたいな状態の中で、ハッと拓海が顔を上げると、アルフが何か緩やかに微笑みながら、こっちを見ていた。
「‥‥なんだ」
「あ、いえいえ。決して、うわオモロとか思ったりしてないですからね」
 笑顔で言われても、明らか嘘にしか思えなかった。





「でもこんな場所だったら猿のキメラが住み着いているのも、何か分かる気がするよね」
 幅の広い大階段を上る最中にマルセルが言った。そして、ふと、かざねを何か、見た。
「あれ何ですかその視線」
「え? いや別にかざねを猿みたいだなんて、思ってないよ。でもあれだよね、ちゃんと前見て歩いた方がいいよ」
「え?」
 とか何か言ったまさにその矢先、マルセルがバッと覚醒状態に入った。え、と思ってる時にはどういうわけか、男子にしては小柄な彼に持ちあげられていて、え、意外と力があるの、ってそんな場合じゃ全然なくてなんじゃこりゃーと思ってる間に、投げ飛ばされた。
「よし、かざね! 今だ! かざねストラーッシュ!!」
「ぎゃー。パトラッシュー!」
 意味不明な言葉を呟きながら、飛んでったかざねが、そこに現れたキメラの前に着地する。相手もキーッと威嚇の声を出し、すかさずその辺にあった石ころ的な物を投げてきた。ぶわ、と彼女が覚醒する。「ちょっ、あぶなっ! まぁ、私には当たらないですけどね! ツインテの軌跡が見所です!」
 すぐさま、回転舞を発動した。白く美しい槍セリアティスを軸に、曲芸師のような身のこなしで、空を舞う。「さてと。そろそろお返しの時間ですねっ! 負けませんよーっ!」
 とか何か言って、自分の足元に落ちた小石的な物を投げ返した。むしろ、気がつけばムキになって投げ返していた。
「かざね‥」
 声がしたので思わずハッとして振り返ると國盛とマルセルが、すっかり残念な子を見る目でこっちを見ていた。
「はっ! こ、これはもちろん作戦の一つででしてね、ムキになったり熱くなったりしてたわけではないのですよ! ほら、なんだか残ってるお猿さんもなんだか残念な子を見るような目でこちらを見て、戦意喪失って感じですよ! って誰が残念だーコノヤローっ!」
「あ、あのその、ごめんなさい!!」
 覚醒の影響で、瞳から薄っすらと翡翠色の輝きを放ちながら、フランツィスカが、スマッシュを発動した。謝ってるわりに、思いっきりキメラを撲殺している。しかもべちゃ、とか何か、ぐるぐる眼鏡に返り血が飛ぶとか、完全にホラーだった。
 その間にも、國盛が脇を通り抜け、キメラへ接近していく。脚甲インカローズを装着した足でキメラを蹴りあげると、すかさず、超機械シャドウオーブを構えた。水晶にも似た球体を掲げ、さっと、空いた方の手を掲げる。
 黒色のエネルギー弾が射出され、固まった二匹のキメラを飲みこんでいく。
「ま、ボチボチ真面目にやろうか」
 機鎧排除の状態で、猛火の赤龍を発動したマルセルは、だ、とキメラへの距離を詰める。「くらえー! ドラドラドラドラ、ドラッヘ・ヴァルカーン!」
 その間も相変わらず釘バット振り回し中のフランツィスカは、「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな」とか何か言いながら、シールドスラムを発動する。盾をぶつけたかと思うと、またドゴ、とか、バキ、とか、滅茶苦茶に振っているとしか思えない釘バットで、確実にキメラを撲殺し、挙句、いや本当は見えてるんですよね、みたいに、飛んで来た物を、釘バットでカコーンと打ち返した。「あわわわ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさ」
「ふむ。中々きれいなフォームだな」
 國盛が放物線を描くそれを見やりながら、呟く。「ま。ここに住み着いたのが運の尽きだ‥‥大人しく猿山に帰れ‥‥」





 ピカー! ドカーン! と、辺りに強烈な閃光と音が響いた。
 その閃光の中から、いち早く飛び出したのはゴーグル姿のアルフで、その体は紅蓮衝撃を発動している影響からか、燃えるような赤いオーラに包まれている。片手に構えたヴォジャノーイをすかさずキメラに振りかぶった。「いやあ数が多いですねぇ」
 閃光手榴弾を投下し、キメラの動きを封じた張本人の結城も、遅れて小型超機械αを片手に飛び出して行く。ターゲットの位置を正確に捉えようと、じっと白く変化した瞳でキメラの影を見定めた。右眼にじわ、と青白い紋章が現れる。
 その間にも、こそこそ、と階段の真下辺りに陣取り、明らかに攻撃を受けないようにしていると思しき未名月が、「ついでに、呪歌でも歌っておくので皆さんー、頑張って下さいねー」とか何か言って、ぺら、と何か雑誌のような物を開いた。背表紙にバトルブック、とある。
 傭兵刀を片手に飛び出す途中の拓海と、ふと目が合うと、彼女は、「猿は集団行動、雄が雌に守られている形が多いですねー。キメラに適応されるかは知りませんがー。ということで中心にいたり、お尻を向けている、ええ、マウンティングですね。そういった猿を中心的にー狙うといいと思いますよ」
 とか何か、あれ何ここどっかの大学の研究室ですか? みたいに悠長に、けれど明らか覇気なく、講釈を述べた。だったら自分でやればいいのに、と思ったのだけれど、すぐさまそれを読み取ったのか、覚醒の影響で金色に変化した瞳を気だるげに細め、「あー私はー、非戦闘要員なのでー、遠慮しますー」とか何か、言った。
 とにもかくにも中心で尻を向けてるキメラを狙えばいいんだな、と拓海は狙いを定め、叫ぶ。「そこだ!」
 すかさず円閃を発動した。キメラに接近した体が、ぐわ、と回転する。遠心力が刀に宿る。「これで決める!」渾身の一撃を叩き込んだ。
 その傍らをだっと、アルフが走り抜けて行く。龍の足をイメージしたデザインの脚甲「望天吼」で、サッカーボールを蹴るかの如くキメラを蹴り飛ばした。
「はい、とどめ☆」