タイトル:やたらレリーフの多い家マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/26 06:33

●オープニング本文








 書面にさっと目を走らせたかと思うと大森は、もうすぐにパソコンのキーボードを打ちこんでいた。
 みるみるうちに、翻訳された言葉が、文章が、画面に表示されていく。
 書面に書かれてあったのは、岡本には全く読めない文字だった。そもそも一体、何処の文字かも分からない。え、何語ですかっていうか何か、得体の知れない古代の文字とか何かそういうやつにも、思えた。
 昨日、とりあえずそれを翻訳しといてね、とかいう面倒臭い仕事が、ULTを巡り巡った結果、総務部の何故か語学が堪能でも何でもない岡本の所に回って来た。それで、あ、なるほど、嫌がらせですよね。ただでさえ、わりと忙しいのに、こんな事まで押しつけてくるなんて、調べて翻訳して提出しろ、ってそんな簡単に言ってくるなんて、絶対、嫌がらせなんですよね、くらいの感じで頭を抱えていた。
 そしたら今日、たまたまそこに、絶対またただの暇つぶしとか息抜きとかしに来たに違いない未来科学研究所の大森が、姿を現した。期待をしたわけではなかったけれど、溺れた所に垂らされた藁、くらいの感じで、試しにこれが読めるのかということを聞いてみた。
「ちょっと、どいて」と、大森は岡本を立たせておいて椅子に腰掛けると、パソコンを勝手に操作し、文章を作成し始めた。
 驚くほど、すらすらと、つっかえることなくなめらかに、文字が入力されていく。
 岡本は、そのわりと何を考えてるか分からない平然とした美形の横顔を、何かちょっと、ちら、と盗み見た。
「あのー。ちなみに大森さん」
「うん」
「それ、読めてるんですか」
「読めなきゃ、翻訳できないよね」
「ですよね」
 思わず一瞬、尊敬とかいうありえない感情が沸き起こりそうになり、その余りにも恐ろしい自らの感情に、何かさーとか血の気が引いた。頭が真っ白になる。優秀だけど、変人、とは大森を表現する時に、大抵の人物が口にする言葉ではあるのだけど、しかも岡本は、大森が書いたらしい論文を、え、論文なんか書けるんですかこの人、くらいの感じで一度ちらっと見ても居るのだけれど、どうしても、変人、の所ばかりが目に付きやすい身の上としては、優秀である、ということは忘れがちだった。
 むしろ、なかったことになっていた。
 そんなわけで、メールの文章の作成にもいちいち頭を悩ませる岡本としては、他の事についてはまだ知らないけれど、少なくとも短くもないこの書面の意味を即座に理解し、作成する能力は、感心に値してもいいんじゃないかな、いや、感心はしても、尊敬はしませんけどね、いや、感心も尊敬もくそも、だいたい誰も頼んでませんしね、なんてそれはちょっと最低だろ、自分、とか何か、もういろいろ、内心忙しい。
 とか何かやってる間に、すっかり翻訳を終えていたらしい大森は、マウスをスクロールし、文面を読み直しているようだった。
「あのー」
「うん」
 画面から気だるそうに目を逸らし、大森が振り返る。顎元までの長さの髪に覆われた、切れ長の美しい瞳が、岡本を見る。「なに」
「いえ。その何か、ありがとうございました。助かりました」
 岡本は、そこはやっぱりきちんと頭を下げておくことにした。
「困ってる岡本君を、俺が放っておけるわけないじゃないか。お安い御用だよ。君が困ってるならさ、見返りなんて求めないで、いつだって助けてあげるよ。だって、岡本君だもの」
「お、大森さん‥‥」
「なんて、俺が言うと思う」
「あですよね」
 とか何か、とりあえずゆるーく笑って目線を逸らした。「まさか、そんなわけないですよね」
「まあ、そんなわけないよね。俺、かなり、疲れたしね」
「いや、疲れてるようには見えないですけどね」
「とりあえずさ。この翻訳やってあげたんだからさ、一緒に住んでよね」
「うんあのー大森さん、それは見返りが大きすぎる気がするんです」
「でね、これね。三件目の資料を持って来たのね。また、キメラの駆除をお願いしたいんだけどさ」
「建築家の弟さんに頼んだ、変な曰くつきの家ですか」
「そうね、建築家の弟さんに頼んだ、変な曰くつきの家だよね」
「どの物件も全部、殺人事件があった家とかってやつですか」
「そうね、どの物件も殺人事件があった家とかいうやつですよね」
「あのー」
「うん」
「これ言うのもう三回目だと思うんですけど」
「うん」
「絶対無理です。住めないです」
「うん前にも言ったけど一応、建築物としての価値はそれなりにあるからね。建築物保存研究会もお金出していいって事で、能力者の人達にキメラ退治をして貰いたいわけ。それで三件目ね。名付けて、やたらレリーフの多い家。とにかく壁にねレリーフがね、それはもう悉くレリーフがね、扉にもレリーフがね、天井にもレリーフがね」
「はい」
 ぱん、と手を叩いて大森の言葉を遮る。「分かりましたー。でもこれ、いろんなレリーフがあるんですね。あー、気持ち悪い悪魔みたいなのもありますね。いきなりこんなん見たら、びびりますよね。完全に住みたくないですよね」
「うんきっと楽しいよね」
 うんいやあれ、住みたくないって言ったのに何言ってんだこの人、みたいに、ちょっとちら、と彼を見たけれど、放っておけばいいか、とか思って目を逸らした。
「建物はまた三階建てですよね。外見は、石造りの、何か、これ箱みたいな家ですね」
「そうね箱みたいよね。可愛いでしょ。キューブみたいな家。あと、一件目と同じで、討伐後に修復入れるから、多少、壊しちゃったり、傷つけちゃってもいいよ。ま、キメラが入ろうがまだ壊れてない家だからね、それなりには重厚で頑丈な作りの家だと思うよ今回も」
「そうですかー」
「じゃあ。一緒に住んでくれるんだよね、岡本君」
「はいあのーごめんなさい。それだけは、ごめんなさい」
「俺の才能が全部、君の物になるのに」
 机に頬杖をつき、いやもう全然そんな棒読みで言われても、薄気味悪いだけなんですよ、みたいな口調で、大森が言う。「その代わりに、君の全部をくれって言ってるだけじゃない」
「大森さん」
「うん、何だろう岡本君」
「何か、凄い上からで偉そうだったので、苛っとしました」
「ああそうじゃあ何か、ごめんね」
「あと何でもいいんですけど、僕、これまでにいろいろ大森さんの申請とか、面倒臭い手続きとか、部署も違うのにやってあげてた気がするんですよ」
「そうだったかしら」
「だから、今回のはおあいこってことで一つ、あのー、宜しくお願いしたいんです」








●参加者一覧

マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
和泉 澪(gc2284
17歳・♀・PN
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
毒島 咲空(gc6038
22歳・♀・FC
黒羽 拓海(gc7335
20歳・♂・PN

●リプレイ本文






「ふんふーん。今回はレリーフ!」
 壁のレリーフをぺしぺし、と触りながら、緋本 かざね(gc4670)が言った。「でも、いっぱいあるのはいいんですけど、統一感がまったくないというか、こんだけそこかしらにあると私なら生活してるだけで気疲れしちゃいそうですよー」
 とかいうのはわりと聞いてなさそうな毒島 咲空(gc6038)は、その手元にあるレリーフをぼんやり見やり、「ああ、それはパイモンだ」とか何か、徐に、言った。
「え、ぱ、パイ?」
「パイモン。ソロモン72柱序列9番目の悪魔のことだ。ひとこぶ駱駝に乗ってる」
 そんな博識な解説を付け加えておいて、彼女は、かざねのすぐ脇に立っていたマルセル・ライスター(gb4909)に、ゆらーと視線を移した。「女顔した男の悪魔だね」
「え? ぱ、パイ?」
 まだまだ全然ついていけてないかざねの脇で、マルセルが無表情に咲空を振り返る。抑揚を失くした彼の顔は、精巧な人形のようでもあった。温度のない瞳で彼を見つめる咲空の瞳を、光の加減によっては薄っすらと微笑んでいるとも見えるような、挑発的で扇情的な表情で見つめ返している。
「え、あの、パイ?」
 暫く何かそんな感じで見詰め合っていた二人だったが、ふと、マルセルが壁の一つに目を向け、「あ」と声を上げた。すっかり表情は、元気な少年マルセル、に変化している。
「え?」
「ねえねえこのレリーフ、かざねに似てる!」
「え、どれですかどれですかー」
「とても美人で、聡明そうな」
「うんうん」
「ワンコのレリーフ」
「え」
「これも気になるな」
 咲空が、顎を摘みながら、また壁の一角にあるレリーフを指さした。それは、波打った髪を持つ、老人の顔のように、見えた。二つの目と口と思しき辺りに、ぽっかりと黒い空洞が開いている。
「ふむ。なるほど、そうか。これはきっと。ああ、ちょっと、マルセル君。ここに、手を入れてみてくれないか?」
 口の部分を指さして、言う。そしたら、くんくん、とまさに犬が興味を抱くように近づいて来たかざねが、「うわー、気持ち悪いですねー。じゃあ、この穴気になるんで、マルセルさん、どうぞ」と、マルセルを促す。
「いや気になるならかざねが調べたら」
「男だからですよ」
「男だからだな。むしろここで行かないなら、君が本当に男であるのかどうか、私はこの場で君のその短パンを脱がして検査を」
「あじゃあやります」
 びっくりするくらい変わり身早いですが何か、くらいの調子でマルセルが颯爽とAU−KVミカエルを装着した右手を、穴の中に差し込む。「あれ、何だろう。奥に何かレバーみたいなものが」
 とか言ったそのすぐ後には何かもう、彼の体が翻っていた。「あわわわわ」と声を荒げた彼が、咄嗟に傍にいたかざねを掴み、あーれーとか何か間の抜けた声と共に、姿を消した。レリーフは二人を巻きこんで裏返り、何事もなかったかのように静止した。
 とかいう一連の動きを、咲空は、とりあえずはーそうですかーくらいの冷静さで何か、見つめた。「うん。やっぱりね」
「うわ、暗っ」
「あれ? な、なんでマルセルさんがこっちに? ちょ、暗い、暗いですよー! 怖いですよー! むしろ、こんな暗闇にマルセルさんと二人なんて怖」
「あ。待って待ってかざね、俺、AUKVのライトあるんだ‥‥よし」
「ぎゃああ。な、何、何この壁の文字! ちちちち、血文字なんじゃ。思いっきり助けてって書いてありますよー! 咲空さーん! 壁一面に、たすけてたすけてたすけてたすけてって何か赤い文字が」
「あれ、な、何か。ライトの調子が‥‥おかしいな」
「な、ななな。何で点滅してんですか! ちゃんと照らして下さ、ぎゃあ、消えたー!」
「まあ何ていうか」
 咲空は白衣のポケットに両手を突っ込んだままで、中の二人へ向け、そっと呟く。「とりあえず、頑張れ」




 一方その頃、二階では、打って変わった慎ましさと穏やかさで廊下を歩く、國盛(gc4513)と黒羽 拓海(gc7335)の姿があった。
「なるほどレリーフか‥‥芸術的な家だな」
 しきりに壁一面に浮き出たレリーフを眺めながら、探査の眼を発動する國盛が、言う。
 その台詞には、あれ何処の美術館の館内ですか、っていうか、何の美術観賞会ですか、みたいな雰囲気があったけれど、思いっきり隣を歩くがっちりと筋肉質な体躯の男からは、そんな繊細さを理解できそうな気配がなかった。
 とか拓海が考えた瞬間、ぎろ、と國盛がこっちを振り返った。え、何、ごめん、とか何か、思わず反射的に謝りそうになったのだけれど、腕を組んだ彼は、壁にあるレリーフと拓海を見比べ、「ふむ。これはこっちの角度から見ると良いな‥‥なぁ、拓海?」とか何か、どっしりと落ち着いた穏やかな口調で言っただけだった。
 けれど、そうは言われても、拓海には余り、美術の価値だとか何だとかは、分からなかった。
 むしろどちらかといえば薄気味悪さしか感じられず、「怪しい内装だ。夢見が悪そうだ」とか言ったけれど、國盛はもう聞いてない。
 またレリーフを振り返り、滔々と続けた。「それにしても凝った意匠が多いな。本当に美術館モノだ。時折、子供が彫ったようなモノも在るが‥‥それもまたシュールレアリズムと言うヤツと言えなくもない、か」
 それからまたふむ、と顎を摘む。
「しかし四角い家‥‥家の形すら芸術品と言った所、か。こんな場所で殺人事件が有ったとか、本当にミステリ小説にでも出てきそうだな。‥‥実に面白い」
 むしろ段々何か、頭の切れるマフィアのボス、みたいに見えてきた。
「おまえ」
 拓海は無表情に、國盛を見上げる。
「ああ、何だ」
「意外と」
「ああ」
「こういうの、分かるんだな」
 無言で國盛が拓海を見つめる。暫くして、言った。
「これでも、芸術品や美術品の類は好きなんだ」
「そうか」
 拓海はそっと目を逸らす。
 それでもうこのくだり終わりよね、とばかりに歩き出したら、暫くして、國盛が、わりとポツンと、言った。
「今、似合わないと思ったんじゃないか」
 ちょっと無言の間があった。
 二人の足音だけが、何か、廊下に響いた。
「被害妄想だ」
 ポツン、と拓海が答えた。
「そうか」
 不器用な男二人の、探索は続く。




「どういうわけか、二階は、偉く静かですね」
 バイブレーションセンサーを発動したソウマ(gc0505)が、床や壁から伝わってくる振動を察知してか、言った。「まだキメラに遭遇してないのでしょうかね」
「あー」
 エクリプス・アルフ(gc2636)が、明らかに俺無害ですよ、みたいにふわふわと微笑みながら、「というかあの二人じゃ、話弾まなさそうですもんねぇ」とか、わりと失礼なことをさらっと、言う。
「でも、あのお二人なら大丈夫そうですよね、いろんな意味で」
 和泉 澪(gc2284)が、ふんわりとした朗らかさを滲ませ、微笑む。けれどすぐに若干、心配げに表情を曇らせた。「でも、1階のお三方は大丈夫でしょうか」
「和泉さん」
「はい、何ですか、アルフさん」
「心配ですか」
「そうですね、きっと何か、またとんでもないことになってそうな気がするんです」
 柔かそうな頬を撫でながら呟いた。
「和泉さん」
「はい、何ですかアルフさん」
「素晴らしい推理ですね」
 び、とサムズアップした。「そしてその、素晴らしい推理力を生かして、一緒に、バイクのレリーフがないか探しましょう!」
 そしてどさくさに紛れて、わりと全然関係ないことを、言った。
 きょとん、と、黒目がちな瞳でアルフを見つめた澪は、暫くして言った。「え?」
「しかし確かに素晴らしいレリーフですね」
 ソウマが、評論家よろしく、顎を摘みながら壁を見やる。「実は建築物保存研究会からも報酬が出ると聞いたので、家の価値や、これらのレリーフの価値について、事前に少しばかり調査したんですよ」
「なるほどなるほど」
 アルフはライダーグローブに包まれた両手を組み合わせると、ぐ、と力をこめるようにした。「で、どうでしたか。この中にバイクのレリーフはありそうでしたか」
「え、バイク、ですか」
「ええそうです、バイクです。いえむしろ、バイクです」
 何故そんなにバイクを押されるのかもう全然分からないソウマは、はーとか何か生返事を返し、おずおずと視線を逸らす。そしたら何か、足元がちょっと不注意になってて、おっと、と前へと躓いた。体を支える為に、すぐ傍の何かに手を伸ばした。
 そんで何か、思いっきり掴んでいた。
 何を。
 女性の裸体のレリーフの、浮き出した胸を。
 ちょうどそこにそんな物があるっていうこれは、狂運故のあれなのか、ソウマは思いっきり表情にこそ出さないけれど、内心で赤面した。それで何かハッとして振り返ると、がっつりアルフが、こっちを、見ていた。
「いえいえ、大丈夫ですよ、ソウマさん。決して見ないふりしたり、しないですよ?」
「いや、そこはしてあげた方が」
 澪が、申し訳なさそうに、言う。





「さあ、おっさん、おっさんでておいでー♪ 私よりちっさいおっさんー♪」
 ついさっきまでの恐怖のことは、もうすっかり忘れてしまったのか、かざねが、確実にクオリティの低い鼻歌を歌いながらスキップしている。そして徐に立ち止まり、大声を張り上げた。「ちきしょー! どこだー! 私に馬鹿にされろーっ! って出てきたー!」
 素っ頓狂な声を上げた彼女の目の前には、本当に現れた四角い石の塊が、ごそごそ、と蠢いている。
 すぐさま覚醒状態に入った。いつもはぎゅっと結ばれている金色の髪が、薄い緑に変化し、ぱらり、と解ける。
 真っ白く美しい槍、セリアティスを構えると、迅雷を発動した。
 と。
「よし、かざね! 今こそ、かざねコプターの真骨頂を見せる時だ!」
 ミカエルの装輪走行で飛び出して来たマルセルが、迅雷で走り出そうとしたかざねの手を素早く掴み、ぐるんぐるん、と回しだした。
「ぎゃーっ、また投げられー‥‥」
 凄まじい勢いで回転するかざねが、その最中に、ハッとしたように声を上げる。「こ、これは! かざねとセリアティスで200万パワー! 迅雷にかざねこぷたーの回転を加えて200×2の400万パワー! そしてそこに、マルセルさんの投げが加わってー!」
「それいけー!」
「400×3の、おっさんの殻を貫ける1200万パワーだーっ!」
 ばびゅーーんとかざねが、槍先を突き出し、飛び出して行く。現れ出たキメラの一体を、中身ごとバシイッと突き破った。
「フッ。墓石を背負って出てくるとは、用意がいいな」
 髪と瞳を紫へと変化させた咲空が、鞘に美しいフウチョウの尾羽の飾りをなびかせた、濃青色の美しい刀身を持つ大太刀「風鳥」を構え、ゆらり、と歩みでる。そこへ、装輪走行のマルセルが、突進して行った。
「毒島先生!」
 彼の声に、さら、と咲空が振り返る。「こっちだ! さあ!」
 と、差し出された手に、手を差し出すと、「がったーい」とか何か言って、またマルセルが今度は咲空の体をぐるぐると回しだす。
「よーし、こっちも、いっちゃえー!」
「餞別だ。私の剣の冴え、しかと冥土に携えていくがいい!」
 勢いよく回転しながら二連撃を発動した咲空の風鳥が、バシッバシッと、まるで鞭打つようにしなり、キメラの体を崩した。




「さて。そうこうしてる間に四角い何かの登場か」
 超機械「シャドウオーブ」の組み込まれた専用のグローブを翳した國盛が、さ、とその腕をキメラに向かい突き出した。「‥‥ま、適当にあしらうか」
 その脇を、覚醒の影響で、瞳を真紅に染めた拓海が、黒百合を模した影が纏わりつく左腕に傭兵刀を構え駆け出して行く。
 ぶおおん、と國盛の手から黒色のエネルギー弾が射出されキメラへ向け飛び出して行く。バチバチ! とキメラに命中したその隙を見逃さず、拓海が、円閃を発動し、斬りかかった。
「チッ! 硬い!」
 食い込んだ刃が、がり、と嫌な音を立てる。その隙にも、どおおん、とキメラが体当たりしようと動いてくるので、チッと呻き、背後へ退いた。
 また、國盛の放ったエネルギー弾が飛んでくる。
 バチィッと命中したそこを狙い、拓海は今度は刹那を発動した。
 武器を持っている手が淡い光を帯びる。「とどめだ!」
 割れたそこへと刀を打ちこみ、中身ごと真っ二つに叩き割った。
 足元に崩れ、動かなくなったキメラを見つめていると、ポンと肩を叩かれたので振り返った。
「ま、こんなもんだな」
 國盛が洒脱に肩を竦める。
「しかし」
 拓海は自らの傭兵刀を見下ろした。少しだけ眉を潜めた。「刃が少し欠けてしまった‥‥修行が足りんな」




 その頃三階では、先程の事故のくだりには絶対に触れてくれるな、と言わんばかりのクールさで、ソウマが「‥‥近くにキメラの気配がありますね」とか何か、言っていた。
 そしてニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる。「‥‥魔猫の知覚から逃れないんですよ、誰もね」
「ホントだ! 来ました!」
 澪が声を上げ、すぐさま覚醒状態に入る。瞳が暗い藍色になり、その輪郭がまるで空気に溶け込もうかとするように薄くなった。
 その前へ颯爽と歩み出たのはアルフで、覚醒の影響で赤く光る瞳を、装着したゴーグルで覆いながら、真紅のヒーローマフラーをなびかせ走り出して行く。
「壁役は任せて下さいよ」
 青い軌跡を描くヴォジャノーイを振り回し、キメラへと近づくと、投げつけられてくる釘のような物を、剣でバシバシと鮮やかに叩き落とした。
「そして魔猫の姿は、誰もその瞳に捉える事も出来ない」
 ソウマは、隠密潜行を発動し、瞬時にその気配を消して物陰に隠れた。直径10cm程の黄金い輝く玉のついた、杖型の超機械「ヘスペリデス」を構えると、壁を足がかりに、三角形を描くように、さっ、さっ、さっ、と移動を重ねる。
「あの中だけ斬るのは難しいですね」
 愛刀「隼煌沁紅」を手にした澪は、迅雷を発動し、キメラへの距離を詰める。そして刹那を発動した。「鳴隼一刀流・隼烈斬!」
 ガチンッ! と、石の塊へ刃を押し込む。「この刃に切れない物はないのです!」
 石の塊ごと、一刀両断! と思ったら、何かそのまま勢いで思いっきり床のレリーフも一緒に一刀両断していた。
 ばっかり、と床に穴があく。
 思わず「あ」と、声を漏らしていた。「どうしよう‥‥斬れないものないっていうか、斬りすぎちゃった‥‥」
 とか言ってる間にも、ソウマが、おたおたと撹乱されまくりのキメラの背後で、ヘスペリデスを振りかざしている。キメラの周辺に強力な電磁波が発生し、空間を歪めたかと思うと、バアアン、と石の塊が弾け飛んだ。
 そんな石の雨が降り注ぐ中を、紅蓮衝撃を発動したアルフが、駆け抜けた。
「さあ、そろそろ、終わりにしましょう」
 脚甲「望天吼」を装着した足を振り上げると、そのまま、かかとをバチン! とぶつけた。
「いつの世も、悪は滅びるのです」とか何か言って、ふわ、とか何か微笑んだ。「よ☆」