タイトル:ランドリーと額縁マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/06 08:15

●オープニング本文






 わー、と風呂場の方から西田の、素っ頓狂な叫び声が聞こえてきた。
 とか思ったら、次の瞬間にはガチャ! と風呂場のドアが勢い良く開く音がして、バタバタ、と部屋の中を乱暴に弾む足音が響き、やがて横になってテレビ見てる江崎の前に、バッと全裸の西田が立ちふさがった。
「え、なに、風邪ひくよ」
「いや、違うじゃん」
 江崎は何か、西田をぼーっと見つめた。
「あ、えーっとじゃあ、ベッドメイクを」
「いや違うじゃん! これ見ろよ!」
 目の前にぐい、とプラスチック製のボトルが押し出される。指で指し示された場所があったので、そこの文字を読んだ。
「はー、シャンプー」
「でしょ! シャンプーでしょ!」
「うんシャンプーだけどそれが何か」
「なのに俺が今使おうとしたらリンスが出て来たんだよー!」
 わーと思いっきり濡れたままの西田が、その場にぐったりと倒れ込む。「リンスが出て来たんだよー」
「そうなんだ。それは残念だったね」
「いや残念だったね、じゃないよね」
「あじゃあ。良かったね」
「ちが、もう! 詰め替えたの、お前でしょ! ここお前の家なんだからさ、詰め替えてんのお前じゃないの」
「いやそうね、俺よね、きっと」
「なんでよ! なんでシャンプーの容器にリンス入れるのよ! なんでよ。ねえ、教えて。ねえ、何でよ。ねえ、どういうことなの。ねえ」
「いや知らんじゃん」
 ふらーと立ち上がった江崎は、そのまま風呂場の方へと歩いて行く。
 西田はその後ろを引っ付いて「ねえ何で、どういうことなの。ねえ、何でよ。何があったのよ」とか何かやたらしつこいけれど、やっぱり常に全く聞いてない江崎は、そのまま脱衣所のバスタオルを西田に投げつけると、更に何か、キャビネットの引き出しからワンピース型の寝間着を取り出し、同じく投げつけた。
 それを拾い上げ、目の前に持って来て、「何これ」と眉を顰める。
 何処からどう見ても思いっきり、女物だった。
「前に女の子が忘れてった」
「ねえ、どういうことなの。もうどういうことなの」
「それだったら、とりあえず今ざっくり着れるじゃない。暫くあれでしょ。ぐっだぐだ言うんでしょ、どうせ」
「ねえぐっだぐだって何。なんなの。シャンプーとリンス詰め替え間違えたのお前じゃないの」
「はいはい、分かった分かった」
「何それ本気で分かってるの。分かった分かったって」
「ねー西田は面倒臭いよねー。だからとりあえず、それ着れば」
「だからの意味が全然分かんない」
「俺もお前がそんな怒ってる意味、全然わかんないもん。見てて面白いけど」
 もー別に相手にしてませーんみたいに、江崎が、テーブルの上にあった書面を眺めだす。それは先程まで、打ち合わせしていた、今度の依頼の事が書かれた書面だった。
 江崎はコインランドリーの管理人という、実態の良く分からない仕事の傍ら、仲介業のような事をやっていた。つまり、キメラの出る地域に眠るお宝や、一般人の立ち入りが困難な場所にある曰くつきの品などの回収を請け負い、ULTに勤務する西田に、能力者への仕事として斡旋させるという仕事だ。
 こんなご時世の中にあっても、好事家や収集家は存在するらしく、多少の出費をしても手に入れたい物がある、と江崎の元を訪れる人間は、少なくないらしい。
 今度の品は、額縁だった。これにも何やら曰くがあるらしく、中に絵の類などは入ってないのだけれど、何も入っていないその黄金の縁の緑色の面に、じっと見ていると何らかの絵が浮かんでくるらしい。しかもそれがまた、あまり気持ちの良い絵ではないらしい。
 とかは今はどうでも良いので、西田は、その書面をひったくり、江崎に詰め寄る。
「それ今、どうでもいいでしょ。今、シャンプーの話でしょ」
「凄いね。シャンプーだけでこんなに引っ張れるの、世界中に西田くらいでしょ」
「江崎」
「うん」
「何で今そんなちょっと面白いこと言ったの」
「ねえ西田」
「うん」
「西田って時々、ちょっと可愛いよね」
「でもこれさ。本当に帽子工房跡地になんか、あるんだ。額縁」
 ちょうど目に入った書面の、場所の部分を指さしながら、西田は呟く。「額縁と全然関係なさそうだよね」
「うんでもあるらしいよ」
「らしいよって」
「何処かに飾られてたのか、物置にでも隠されてるのか。ここの職人が最後の持ち主で、この工房の何処かにある、というのは分かってるんだけど。その後、キメラも生息し始めたからね。何処に移動してるかは分からないな」
「工房は二階建か。一階部分が工房で二階部分が住居部分みたいだね」
「そうね。探す範囲はそんなには広くないね」
「で江崎さ」
「うん」
「今、シャンプーのくだりは完全に終わったと思ってるでしょ」
「うん、思ってるね。油断したね」
「終わってないよ。俺怒ってんだから。シャンプーと思ってたら、リンスなんて、こんな裏切り、中々許さないんだから」
 西田は、まだまだ、しつこい。







●参加者一覧

マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
銀華(gb5318
26歳・♀・FC
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
キャメロ(gc3337
18歳・♀・ST
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
ミシェル・オーリオ(gc6415
25歳・♀・HG
ガリナ・ウリザ(gc7067
22歳・♀・SF

●リプレイ本文







 マイルドにうさぎの着ぐるみ全開のマルセル・ライスター(gb4909)の背中を、ガリナ・ウリザ(gc7067)が、冷たい目で、見ている。そしてその隣の、何をどう間違ったか、アリスなコスチューム姿の緋本 かざね(gc4670)のことも、更にはその後ろで、指さし君2号を構えながら、「お茶会♪ お茶会♪ 楽しいな〜♪ 踊るポットに〜♪ 踊るカップ〜♪ みんな纏めて♪」とか何か、もう纏めての後に口にした言葉は、公衆の面前ではちょっと口に出来ないくらいの歌を歌う、ねこみみふーど姿の見た目は可愛らしい小柄な女性、キャメロ(gc3337)のことも、やっぱり、冷たい目で、見ている。
 でも、冷たく見えるのは、その青色の瞳がやたら切れ長だからで、実のところ、軽蔑というより、何か、漠然と、ちょっとどうしていいか分からないんだけどどうすれば、という気分だった。というか、え、わたくし達は額縁を探しに来たんですよね? キメラを討伐するんですよね? と、このやりたい放題な彼らを見ながら、誰かに確認したい気分でも、あった。
 でも、わりと人見知りだし、そもそも確認してまともな答えが帰ってきそうな空気でもなかったので、何か、とりあえず黙って後をついていく。ただ、動くティポットとか、カップっていったら、もっと他にあるのではないか、という予感はした。
 そしたらまさに、それが聞こえたかのように、「うん。かざねがどうしてもアリス着るっていうからさ」とか何か、うさぎ、というか、マルセルが振り返るので、びっくりする。「俺だって本当は、ポットとティーカップっていったら、他のやつ思い出すよ」
 そしてじーっとかざねを見た。じーっと見られたかざねは、何かじーっとマルセルを見つめ返し、徐にハッと体を揺らした。「そうだ、違うわ」とか何か小声で、呟いたかと思うと、がばっと顔を上げ、「いやでも、あれですよね! 私このコスチューム似合うと思うんですよね! だからあれですよ、あのー、あれ、お嬢様って呼んでもいいんですよ!」とか何か、全然誤魔化せてないけど誤魔化したい気持ちだけは伝わってくる必死さで言った。しかも必死過ぎて若干マイルドに自慢になっていたりもした。
 とかいう必死さを、あー何か虫がバンバンガラスにぶつかってらっしゃいますねーくらいの感じでぼんやり見つめたマルセルは、最終的に「うんまあ何でもいいけどね」と、その話を流した。
「頑張ったのに流すなんて!」
「それにしてもこの兎、かざねのを拝借したから、微かに、かざねの匂いがするね」
 そしてくるん、とした人形のように形の良いくるんとした瞳を、うっとりとしたように細め、すーっと息を吸い込むと、その柔かそうな頬を、ふわ、と綻ばせる。「ふふふ」
「あの、マルセルさん。何でもいいですけど、マイルドにそういう変態な発言するの、やめて貰えませんか」
「えへ☆」
「可愛くないですしね」
「あと」と、急に真面目な顔つきになったマルセルが、「この一連のくだり、冗談ですしね」
 と、一体誰に向けた弁解なのか、と言えば、ウリザに向けた弁解だったようで、二人の目が、一世にウリザに向く。
 とか言われたところでもう何が何処から冗談なのか、全然分からない。しかも、キャメロに至っては、全然まだまだ歌の真っ最中で、「額縁が見つかるまでは〜♪ 帰れない〜♪ 帰りたい〜♪ 額縁が見つかれば〜♪ 大人しく〜♪ 帰るのに〜♪」とかもう、強迫めいたことまで口にしている。
 とりあえず何か言わなきゃいけない雰囲気だったので、「いえ。なるほど。依頼というのは、こういう、あれなのですね」
 とか何か言ったら、その場がちょっとしーんとした。なのでウリザはちょっとだけ焦って、「つまりは、よくわかりませんが、額縁さえ探せば、後は何でもいいのですね」と、わりとフォローになってないようなことを、更に付け加えた。
「まあ、うんあのー」
 と、マルセルが益々歌の真っ最中なキャメロを見やり、「うん」ともう一回頷いた。「わりとそうかも」





 工房に入るなりんーとか何か唸ったミシェル・オーリオ(gc6415)が、そのまま、物置の方へと突進し、中をごそごそと漁り始めた。
 暫くすると、「ねえ!」と、大きな声が飛んできたので、偶然傍にいた立花 零次(gc6227)が「はー何ですか」とか答えると、「ここって、どうせ廃屋よね? なら、調べたものから外に放り投げちゃっていいわよね?」とか、わりとさらっと、彼女は凄いことを言った。
 なので零次は、「いや、それは、ねえ?」駄目ですよね? みたいな同意を求める気分で、テーブルを挟み、向かい側に立っていたエクリプス・アルフ(gc2636)を見やった。
 でも、それはすぐに間違いだった、と気付いた。
 彼は、工房に入るなり、顎を摘み、ふむ、とか何かずっと考え込んでいて、その姿はわりと知的でまともそうな美形、にも見えたけれど、それは、思いっきり顔だけのことで、全体として見ると、首にはヒーローマフラーがあったし、頭の上には、ライダーゴーグルがあったし、そんなヒーローに憧れた子供、みたいな、怪しげな格好で何を考えるというのか、絶対まともな事なんて考えてない予感がした。
 そしたら案の定、「虫ではなくて」であるとか、「いや、やはり目の前に甘いものを置いておいておくべきか。いや、やっぱりその中に虫を」とか何か、意味不明な言葉ばかりが飛び出して来たので、ここはもう、関わらない方が得策だ、と思ってすぐ傍にいた銀華(gb5318)を見やると、彼女は、相変わらずの一歩間違うと魔女、あるいは綺麗だけど不気味な人形、くらいの覇気のなさで、「帽子工房と動きまわるティーセットって、なんかメルヘンチックね」とか最早、全然関係ないことを、言った。
「あ、はい」
 もう、まともに会話出来る人は、誰一人居ないのではないか、という恐ろしい予感がした。
 しかもその間にも、誰も良いとは言ってないけれど、誰も駄目だとも言ってなかったので、ミシェルがどんどん物置の中の物を投げていて、やたら危ない。それで位置を移動しようとしたその瞬間、「やあ立花さん。少し聞きたいんですがね」とかいきなり、アルフに声をかけられ、え、と動きを止める。
「実は俺は今回はですね、どうやったらかざねこぷたあが止まるのか、その条件を考えているんですが、何か妙案はないですかね」
「え?」
 だいたい、前回を知らない。そもそも、依頼に全然関係ない。
 それより何より移動だ、とまた思った瞬間、今度は銀華が、「でも、中にはおじさんが入ってるんでしょ。ねえ、それってもしかして、よく噂を聞く「小さいおじさんの妖精」ってことなのかしら」とか何か話しかけてきて、また動きを止めた。
「いや、さあ? 俺に聞かれても」
 だからちょっと移動させてくださ、とか思ったまさにその時、思いっきりガーンと、物置からぶっ飛んできた何かが、零次の頭を直撃した。
 いたーっ! て、そこまで痛くないけど、何か不意を突かれた衝撃で、思いっきりバーンと来て、どーんと倒れた。
「ああ、首が細いからね」
 銀華が凄い冷静に、でもわりとそこは関係ないですよね? みたいなことを言った。
 それで顔を上げると、うすーく笑ったアルフと、目が合った。
「いえ、決して面白そうとか思ってませんからね?」
「いや、嘘ですよね」
 とか何かやってたら、ミシェルの「わー!」という大声がまた、聞こえて来た。「何か、変なん出てきたー!」
 今度は何だよ! とか若干苛っとしてそっちを見たら、カチャカチャ、と陶器がぶつかり合うような音と共に、キメラがわったわったしているのを発見した。





「メルヘン気取りな奴にはメルヘンチックな武器で対抗っ!」
 かざねが、機械剣フェアリーテールを両手に構え声を張り上げた。「おっさんなんかに負けないメルヘンツインテール!」
「さぁアリス嬢、お手を拝借」
 機鎧排除を発動しながら、兎の着ぐるみ姿でもそもそとかざねの手を取ったマルセルが、社交ダンスの要領で、その体をくるんと半回転させた。そしてそのまま、旨い具合にぎゅっと体を抱き込むような格好になる。「ふふ。次はきぐるみ無しで、君をもっと肌で感じながら、踊りたいな」
「いやもうこれ踊りじゃないじゃないですかぁ」
 耳元に囁かれ、ふるふる、とかざねが首をふる。
「あなたたち」
 すっかり覚醒し、銀髪姿になったウリザが、ものすごーい冷たい声で、言った。「戦いなさい」
 そして超機械「マーシナリー」を構え、辺りに強力な電磁波を発生させる。「援護は、します」
 その間にも、「お茶会♪ お茶会♪ 楽しいな〜♪」とか何か歌い続けていた、キャメロが、すかさず指さし君2号で、ティーポットのキメラの、取っ手たる部分を掴み、ジジジジ、とか動かなくなるまで電磁波を流している。その目がわりと爛々としているていうか、その間だけは、あの奇妙な歌が止み、めちゃくちゃ無言で、目だけを爛々とさせている。
「さあ、アリス」
 またくるん、と彼女を回転させたマルセルは、彼らの周りをがちゃがちゃと踊りながらも噴射してくる、得体の知れないキメラの液体を、華麗なステップで交わし、竜の爪を発動した。ダンスのステップのついでと言わんばかりに、パイモンを鮮やかに操り、敵を薙ぎ払う。「さあアリス、いけー!」
「アリス行きますよー!」
 迅雷を発動したかざねが、すっ飛んで行く。構えた二本の剣で、勢い良くキメラをずばずばと切り裂いて行った。
 とかいうその間にも、やっぱりキャメロは、指さし君2号で今度はカップのキメラの、取っ手たる部分を掴み。
「額縁が見つかれば〜♪ 大人しく〜♪ 帰るの」ジジジジジ。




「何か変なのが踊って‥‥というか五月蝿いですね」
 超機械「扇嵐」をばさ、と翻した零次が、がっちゃがちゃ言ってるキメラに向かい、援護射撃を発動した。特殊な竜巻を発生させる。竜巻に舞い、キメラ達がちゃがちゃと一か所に集められた。そこですかさず、アルフを振り返り、声を上げた「さあ、出番ですよ」
「おやおや、今回も中々変なのが出てきましたねぇ☆」
 すっかりゴーグルを装着したアルフが、紅蓮衝撃を発動した。炎のような赤いオーラに包まれた体で、傍にあった壁を蹴ると、くるん、と宙返りし、集められたキメラ達のただなかへ、ギャシャーン、と、着地した。そこで、何やら、身振り手振りを交え、「これぞ」とか何か声を上げるその脚甲「望天吼」を装着した足が、「ライダー」ベキバキベキべちょ、と、「サマーソルト、キック!」いろんなものを踏み潰して行く。
 一方銀華は、相変わらず全くやる気の感じられない覇気のなさで、けれど三メートルはあろうかというハルバードを巧みに操ると、自分の周りをがちゃがちゃと蠢くキメラに、煩いわね、と言わんばかりの視線を向け、刹那を発動した。彼女の手が淡い光を帯び、その後で続けて発動した円閃の回転が、ずばばばばばば、と勢い良くキメラを薙ぎ払っていく。
 ひゅーと、ミシェルは、口笛を吹いた。
「おっと、気持ちいいじゃなーい。そいじゃあ、アタシも!」
 強弾撃を発動すると、マーシナリーガンの引き金を立て続けに勢い良く、引いた。「いえーい、ふふふ」






「額縁ー! どこだーっ」
 腰に手を当てた格好で、かざねが、きょろきょろ、と辺りを見回す。それは最早、探しているっていうか、探しているふり、だった。
「なーんかもう、あれだね。額縁、何処にあるんだろうね」
 マルセルは言ったけれど、その手は着々と工房の作業台の上にある埃を被ったミシンやら何やらを片づけていて、絶対額縁を探す気はなさそうだった。っていうか、「それでね。紅茶とポットとね。これ、チョコ、持ってきたんだ。お茶にしようよ」とか、探す気ないの確実、みたいな事を言っておいて、自らの荷物をごそごそ、と探り始める。
「それは名案です! 私も、ここにちょうどポットを」
 とか何か、キャメロが、おずおず、とティポットを差し出した。けれどそれは、先程キメラとして出て来たティポットのように、見えた。むしろ、明らかに、見えた。なのでかざねは思わず、「いやそれは、キメラの入ってたやつじゃあ」とか、おずおず、と言う。
「ん、何ですか?」
 ねこみみフードの可憐なキャメロが、きょとん、とした表情で、小首を傾げる。
「いや、ん、じゃなくて。え、あれ意外と、怖い人ですか」
 とか何か言ってたら、それまでんー何だかねえ、とか何か言いながら、辺りを見回していたミシェルが、よし! と突然、声を上げた。「よし、風呂だ、風呂。行くよ、風呂!」
 そして、多分、丁度傍に居たとか恐らくそんな理由で、え? とか戸惑ってるウリザの腕を引き、引っ張って行く。
 とかいう中でもわりと銀華はマイペースに工房内に捨て置かれた帽子を眺めていた。むしろ、帽子を見るついでに、額縁探してるっていうか、額縁探してないですけど何か、くらいの勢いで、帽子を手に取り、眺める。「あら、この帽子、可愛いわね」
「ですね。似合うんじゃないですか」
 もう貴方の本音が全然見えないです! くらいの軽さで同意した零次が、着物の袖に腕を通しながら、ふうん、みたいに帽子に目を走らせる。「着物だとあんまり帽子を被る機会がないんですよねぇ」
「これとか、似合うんじゃないですか」
 何時の間に現れたのか、ふら、と隣に立っていたアルフがハンチング帽を渡してくる。
「いやこれ‥‥似合いますかねぇ」とか何か言って被った瞬間。
「よ! 完二さん!」
「いや、誰ですか」
「いや何かわかんないですけどね。漠然と昔っぽい名前です」
「っしゃー、やっぱりなぁ! 見つけた見つけた。額縁、見つけた。見つけたよー!」
 そこで何でかぱんぱん、と勢い良く腰の辺りを叩きながら、ミシェルが現れた。くいくい、と背後を親指で指し示している。「ふふふやっぱりね。黄金に緑の面よ。いい趣味してるじゃない。アタシが欲しいって話よ。今日は絶対発泡酒が美味いわよー」
 その背後から、「こんなもの、どう見たら絵が浮かび上がって」とか何か、額縁を覗き込みつつ、ぶつぶつと生真面目に小首を傾げながら現れたウリザが、突然、「うわわわわ!」と声を上げ、額縁をバッと投げだし、尻餅をついた。
 一同の視線がそこに集中する。
「何ですか」
 とりあえず何か、目の合ったアルフに向かい、ウリザは、冷たく言った。
「いえいえー。決して取り乱してるのが面白い、とか思ってませんからね?」
「それより、何を見たのか、とか、聞かないですか普通」
「あ、すいません。彼は普通ではないので」
 零次が、さりげなく失礼なフォローをした。
「ささ、額縁も見つかった事だし、さあ、皆。席について」
 着ぐるみ姿のマルセルが、ふわ、と微笑み、一同を見回した。「お茶会の時間に遅れちゃうよ?」