タイトル:ランドリーと銀の靴マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/26 12:55

●オープニング本文





「ちょちょちょ、え、何してんの」
 それまで肘を突きながらぼんやりとしていた江崎が、突然ハッとしたように体を起こした。
「え、何が」
 西田は、呆気に取られて、きょとんとした。
「いや、何がって、ちがちが、ちょ、待ってって」
 むしろ若干ちょっと笑いながら、江崎が身を乗り出してくる。手を掴もうとしてくるので、鬱陶しくて体を引いた。
「いやもう、何よ」
「何よって、ちが、ちょ、分かった分かった。待って。ねえ」
「いやもう、何でちょっと笑ってんの」
「いやそれ、そんな下げんの」
「え、何が」
「いや、それでしょ」
 と、江崎は西田の手元を指さす。「リップクリームでしょ。今見ててびっくりだよ、どんなけ長いんだよ、っていうか、どんなけ下げんだよ」
「いや何を言ってるの」
「だから、使い終わったやつを戻してんのか知らないけどさ。ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる」
「いや、そんな下げてないし」
「ねえ何それ、そんな下げないと駄目なのねえ」
「ちがもう、これ、終わりかけなんだってだから笑うなよ、ウザいから」
「いや、もうさ。最悪、終わりかけでも、そんな最後まで下げることないよね」
「下げることないよねって、別に下げてもいいよね。そこ俺の自由だよね!」
「西田って、あれよね、そういうとこ意外と細かいのね」
「いやそれはこっちの台詞でしょ。細かいの江崎でしょ。一体何を気にしてるの」
「んー西田が、使い終わったリップクリームを、延々下げてるっていう、光景?」
「ねえ、仕事の、話、しようよ」
「えー、リップの話でいいじゃん」
「いやもう、リップの話は、いいよ」
「あ、そ」
 途端にまた覇気なくだら、とか肘を突いた格好に戻った江崎は、はい、とか何か、毎度の如く、茶色い封筒を差し出してくる。
 江崎はコインランドリーの管理人という、実態の良く分からない仕事の傍ら、仲介業のような事をやっていた。つまり、キメラの出る地域に眠るお宝や、一般人の立ち入りが困難な場所にある曰くつきの品などの回収を請け負い、ULTに勤務する西田に、能力者への仕事として斡旋させるという仕事だ。
 こんなご時世の中にあっても、好事家や収集家は存在するらしく、多少の出費をしても手に入れたい物がある、と江崎の元を訪れる人間は、少なくないらしい。
「今回は銀の靴だってー。何これ、ちょっと、ロマンチックじゃない」
「ロマンチックでは、ないよ。だいたい、履き辛いしね」
「いや、履きはしないんじゃないかしら」
「まあそうね」
「しかも、履けないよね。20センチの靴とか、誰が履くのよ」
「んー、子供?」
「いやもう答えなくてもいいよ、それは」
「場所はねー。はいこれ、山奥の洋館です。二階建で、部屋数は十三くらい」
「ありがちだけど、やっぱり、あるんだね、こういうとこに」
「そうね」
「隠し部屋、とか、地下室、とかにあったりするのかな」
「いや普通に物置とかにあるんじゃないの」
「いや、物置ってことはないでしょ。飾ってあるでしょ、そこは」
「リップクリーム、ありえないぐらい下げてくる西田には、何も言われたくない」
「いや、関係ないよね」
「ってことで、今回は銀の靴を見つけさせてきて下さい。宜しく頼むよ」







●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
緋本 せりな(gc5344
17歳・♀・AA
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
アリーチェ・ガスコ(gc7453
17歳・♀・DG

●リプレイ本文







「どうも部屋数が合ってねえ気がすんだよな」
 調べた部屋を出た所で、屋敷の図面を広げたヤナギ・エリューナク(gb5107)は、首元を撫でながら、小首を傾げた。廊下を振り返り、図面の部屋数を数え、顎の辺りを指で撫でる。「これ、もしかしたら、隠し部屋とかあるかもしんねえな」
 その推測を仲間の誰かに伝えるべく、腰元の無線機を手に取ったら、喋り出すより早く、ぴーとか何か、雑音が聞こえた。そして、「えー。聞こえますかー、どうぞー」とか、何か、鈴木悠司(gc1251)の声が聞こえて来た。
「こちらヤナギ。聞こえてるって、どうぞ」
「ねえねえ、聞いて聞いて! 俺、凄いよ! どうぞ」
「いや、それなら俺の方が凄いと思うけど。どうぞ」
「俺さ、俺さ、調べ終わった部屋に印を付けるのにさ、救急セット内の湿布に、多目的ツール内のボールペンで『済』とか書いて、扉に貼って行こう、とか思いついたのね。どうよ。ねえ。これナイスアイデアだと思わない? ねぇねぇどう? どう? どう? どうぞ」
「ウザい。どうぞ」
「あとさ、聞いて聞いて」
「聞かない」
「あ、忘れてた。どうぞ」
「いやもうさっさと喋れよ、鬱陶しぃ奴だな」
「俺、気付いたんだけどさ、この屋敷さ」
 と、来たので、もしかしてコイツ、隠し部屋に気付いたのか、とヤナギは唇を釣り上げる。普段はぱっぱらぱーが服着て歩いてんじゃねえか、みたいな所のある奴だったけれど、意外と、鋭いところがあるのは、知っていた。
「この屋敷の中さ」
「うん」
「暗いよ!」
 とか、鋭い奴だなんて一瞬でも思った俺の気持ちを返して、と思った。
「ねえねえヤナギさん。無線で無言とか、やめない?」
「だからもうさ、いちいちさっきから下らないことで無線してこないでくれる?」
「あーひっどー。だって一人じゃ寂しいじゃない!」
「知るかよ。俺は今から、すっごい有益な情報をさ、この無線機を使って皆に伝えようとしてたんだよ。それをさ、お前のくっだらない話で妨害しないで欲しいのね」
「じゃあいいよ。聞いてあげるから、言ってみなよ。なに?」
「いやもう何でそんな上からなんだよ」




「なるほど。隠し部屋か」
 緋本 せりな(gc5344)は無線機から聞こえて来たヤナギの報告に、軽く頷き、腕を組んだ。「実は私も、それは考えていたんだよね。こういう洋館ってやっぱり地下室とかありそうだよ。無いと見せかけて地下にひっそりあったりするかもしれないし」
「ええ、実は僕もそれは考えていました」
 調べ終わった部屋の扉に、自らの持ち物の変装セットから、口紅を取り出し、扉に印をつけていたソウマ(gc0505)が、振り返りざまに、不敵な笑みを浮かべ、頷いた。
「各部屋の探索が終わって何も出なかったら、やはり、そこを調べてみる必要がありそうですね」
 慣れた仕草で、口紅をくるくると元に戻し、キャップを閉じている。
 とか、その手元を、アリーチェ・ガスコ(gc7453)は、ちらちらとAU−KVアスタロトのフェイスガードの下から、見ていた。とか本人全然気付いてないけど、ソウマからしたら無表情なアスタロトが何か思いっきりがっつりこっち見てるんですけど、くらいの凄い気になる感じだったので、何ですか、みたいに見つめ返したら、ふと顔を上げた彼女と目が合った。
 フェイスガードがパカ、と開き、落ち着いた雰囲気の褐色の肌の少女が顔を出す。
「なるほど、そういう趣味をお持ちなんですね」
 彼女は、先程探索した食糧庫らしき場所から持ち出したパスタを片手に、さりげなくそんな事を言った。
 一瞬、何を言われたか分からなかった。むしろ、あれ、包装紙に包まれたパスタ片手に何言ってるんですか、この人、とか思った。「え?」
「いえ、女装がご趣味なのかと」
「あ、そうなんだ」
 気付いたら、せりなも、こっちを見ている。
「いえ、これは変装セットの」
「ですから、女装ですよね」
「いえ、変装です、あれ、何だろうこの空気」
「あとそれ、どうでもいいけど、食べられるの」
 もうそのくだりいいよね、と言わんばかりに、せりながガスコの手にあるパスタを指さした。
「食べれますよ。乾麺は、保存がしっかりされているのなら、逆に年月を経た方が美味しくなります」
「でもさ。保存がしっかりされてたかどうかは、分からないよね」
 せりなが冷静に言うと、ちょっとその場がシーンとした。
「それであの、僕のは女装じゃなくて、変装」
 ソウマがぽつり、と切り出す。
「ソウマさん、わりとそここだわるんだね」





「なるほど。確かに、銀の靴はこちらの部屋にもなさそうだ。隠し部屋を探してみる価値は、あるかも知れないな」
 覚醒状態でGooDLuckを発動した御巫 雫(ga8942)は、無線機に向かいそう返事を返すと、背後を振り返り、「と、いうことで、キメラと共に隠し部屋を探すみたいだな」と、言った。
「いやそれはいいんですが」
 立花 零次(gc6227)は、そこでやっとその傍らに置かれた、明らかにもう重そうな、むしろ重そうとした言いようのないような武器のことを切り出すことにした。
「実は、ずっと気になっていたんですが」
「うむ」
「それ、何ですか」
「これは。あれだ。バトル、ピコハンだ」
 もう開き直り過ぎて、若干、逆切れしちゃいましたくらいの顔で、雫が言う。
「え?」
「いや、だから、バトル、ピコハンだ。今日は貴様らに面白い物を見せてやろうと思ってな。朝、武器庫からこのバトルピコハンをだな」
「っていうか、100tハンマーですよね?」
 と、真っ向から図星を突っ込むと、ちょっとその場がシンとした。
 やがて、雫が「しかしこのバトルピコハンだが、なかなかこれが、愉快な外見の割には」
 とか、ハハハハとか笑いながら振り返ったそこにあるのは、そんな勢いでは到底誤魔化しきれない、明らか重そうな鉄の塊めいた、むしろもう「100t」とマーキングされた、どこからどう見ても100tハンマーだった。雫はそのまま、切ない顔でそれを見つめる。
 やがて、酷く清々しいんだか、切ないんだか、複雑な笑顔を浮かべ振り返った。
「零次。分かってるから、みなまで言うな。私も、もう、何かが末期だと思っている」
「雫さん‥‥何か、すいません、本当のことを言っちゃって」
 って顔を上げたら、雫が何か凄い顔になっていて、え、欠伸? 人が謝ってるのに欠伸? とか思ったら、「ぷしっ」とか、可愛いくしゃみが、漏れた。
「いやあ。すかさず鼻提灯をプゥと膨らませているあたりが、さすがですね。風邪ですか」
「いや、風邪ではない。多分アレルギーだと思う。きぐるみを着た小さいおっさんアレルギーがあるんだ、私」
「え?」
 とかやってる背後から、突然、澄んだ湖のように落ち着いた、中性的な声が聞こえた。
「これは、何ですかね」
 銀髪を揺らした終夜・無月(ga3084)が、覚醒状態でそこに立っている。その手に、ジタバタと暴れるクマのぬいぐるみを掴んでいた。豪力発現の影響なのか、彼の一見華奢にも見える腕の筋肉は、少し、盛り上がっている。
 そうしてキメラの動きを封じながら彼は、覚醒の影響で金色に変化した瞳で、何だこの珍妙な生き物は、と言わんばかりにじろじろと、クマを眺めていた。
「何だか必死で可愛いキメラですね」
 全く心にもない事を言いました、丸出しの顔で零次が言う。それから、着物の袖から無線機を取り出し、「こちら、零次。キメラが出ました、どうぞ」とか何か、言った。
 その後で、何かそういう雰囲気なんで覚醒しときますね、くらいの勢いで覚醒状態に入る。
「うむ、っぷしっ。あれだな。へくちゅ。あんなに必死に攻撃しようと手を振り回してるのに、終夜の腕の長さのせいでっぷし、全く当たってないっぷし」
「いやもう、帰った方がいいんじゃないですか」
「いや」
 と、ハンマーを構えた雫は、「大丈夫だっぷし」とかくしゃみの勢いでハンマーを床に打ちつけ、いやいや、危ないから、と止めに入るより前に後ろに振りかぶり、今度は後ろに重心を取られて、あわわわと、よろよろしながら、後ろから迫っていたキメラにぶつかり、その直前に零次は、超機械「扇嵐」をさらっと構え、キメラに向かい練成弱体を発動する。
 何かが起こりそうな予感がしていた。
 そしたら案の定、え、とか振り向きざま、神がかり的なタイミングの良さでスマッシュを発動した雫が、振りかぶったハンマーでキメラをペッシャーン、した。ベチャ、と何か、赤い物が、飛んだ。
 零次は、見なかったことにした。
 そんな中、終夜は、存分にキメラのもがきを眺めた後で、その女性的にも見える美しい顔に酷薄な笑みを浮かべ、「逃げられると思わない事ですね」と、囁いた。
 白銀に輝く、拳銃ジャッジメントを懐からさっと取り出し、十字の模様が刻まれているグリップをしっかりと、握る。「死になさい」
 笑顔のまま、ドーンとその頭部を打ち抜いた。
「可愛子振っても問答無用で即抹殺」
「いやあ、あっぱれですね。じゃあ俺も」
 零次は自らも黒耀を構え、何時の間にかどんどんと湧き出てきたキメラへ突進して行こうとする。「可愛いなんて油断するはずないですよ? だいたい、山奥の洋館でぬいぐるみが動き回ってる時点で気味が悪いですって」
「それにしても最近やたらと実は小さいオッサンでしたみたいなキメラが多い気がするなぁ。これも高齢化社会の弊害というやつなのかって零次さん! ちょっと待ったあ! 切っちゃ駄目ー!」
 そこへ、無線連絡を受けた、せりなが、炎剣ガーネットを構えやって来た。
「え?」
「あのぬいぐるみは姉さんの為に持って帰ろうと思うんだ。だから、切っては駄目だ」
「でも、いっぱい居ますよ。俺もまあ、後で一個せりなさんに渡そうと思ってましたし」
「いや。有難いが零次さん。私にはわかるんだ。あれがいいんだ。姉さんには絶対あれがいいんだ。なるべく傷つけないようにして、後で綿を詰めて、損傷個所は私が縫えば問題ない。うん。いや、オッサンの消臭は必要か。よし、方針も決まったところでさっさと終わらせるよ! ぬいぐるみは使ってあげるから安心して逝きなよ!」
 叫ぶと当時に両断剣を発動する。ガーネットに赤い光が纏い、その刃を返した彼女は叩きつけるようにキメラを殴った。
 更にその背後から、ソウマが駆けつけてくる。
 スパティフィラムを構えたソウマは、そのリュート型の超機械の弦を巧みに指に絡め、「実に運が良いですね、僕の歌を聴けるだなんて」と、天使のように微笑んだ。その後で、ぐ、と表情を引き締め、酷く冷たい瞳でキメラを捉える。「すぐに何も考えられなくなりますよ」
 軽やかな音が、超機械から流れ出す。その音に合わせ、ソウマは「ほしくずの唄」を発動した。
 みるみるうちに、キメラ達の動きが、乱れ始める。酔っぱらったように、歩行がふわふわし出したかと思うと、どういうわけか両手を広げ、振り振りと腰を揺らしだした。どうやら、踊っているらしい。
 そこへ。ギュイーンと、装輪走行の音が廊下に響いた。
 かと思うと、イエローに塗装されたアスタロトが、廊下を走り込んでくる。
「いえ、いくら可愛い動きをしても、ぬいぐるみが動いたら、ただのホラーです。人形は人形らしく、沈黙しているほうが可愛いかと」
 ガスコだった。
「轟けッ!! カッツォッ・トゥナーレッ!!」
 彼女は装輪走行で加速しながら、地面スレスレまで一旦上半身を屈めたかと思うと、キメラの腹の辺りに狙いを定め、ホーリーナックルを装備した右手で、ひねりを加えつつ、突き上げるようにパンチを繰り出した。ブオーッとキメラが、竜の咆哮の勢いで吹っ飛んで行く。「黙って、往生しぃや」
「なんだなんだ。もう随分やっちまってるじゃねえか」
 そこへ駆けつけたヤナギと悠司は、顔を見合わせ小さく肩を竦める。
「さ、ヒーローは遅れてやってくる、だよね! いくよー!」
 悠司が真音獣斬を発動する。布のような黒い衝撃波がキメラに向かい襲いかかって行く。その隙間を縫うようにして、瞬天速を発動したヤナギが、ガラティーンを手に走り込んでいく。
 目前に迫ったキメラを前に、剣を一振りした。眩い光を放つ刃がその首元を、ざしゅ、と切り裂く。パカ、と中身が現れ。え、中身?
「って中身、おっさんーッ!?」
 声を上げた彼が、すかさず円閃を発動する。「ふぅ。危ねェ、危ねェ。ファンシーだと思って油断してたゼ」
「中身はやっぱり今回もおっさんなんだね‥‥」
 呟いた悠司が、ごそごそと無線機を取り出し、ぴ、とか通話ボタンを押しこんだ。「何かもうがっかりです、どうぞ」
「いや無線はもういいって。つかさ、思ったんだけど。こいつら一体何処からこんなぞろぞろ現れ出て来たんだ?」
「あれ? ちょっと待って。何だか、音が聞こえるよ」
 そこで不意に悠司が、覚醒の影響で現れた犬耳をぴくぴく、と動かし、声を上げた。
「音だぁ?」
「確かに聞こえる。あっちだ!」
 悠司が走り出し、それを追いかけるようにして駆けて行ったヤナギが、ほどなく「お、隠し階段、見ーっけ」と、軽やかな声を上げた。





「要するに、雫がハンマー持って暴れたお陰で、この地下に置かれた物がごっさごっさ揺れてだな。それでこのラジカセの電源が入っちまった、とそういうことか」
「ふん。まあ、そういうことだな」
 腕を組んだ雫がヤナギの言葉に、頷き、「ハンマーも役に立ったということだ」とか何か、零次を振り返った。
 何で若干どや顔なのか、もう全然分からなかった。
「でも銀の靴って、甲冑の置物とか、マネキンが履いてたりすると面白いですよね」
 その隣で、ガスコが、ガシーンとかアスタロトの装着を解いていた。
「あれ。何で脱いだの」
 せりながちょっと戸惑ったように言う。
「いえ、やはり少し窮屈なもので。身体に合わせて、大きくは作ってもらっているのですが、どうにも胸がキツくて」
 とか、胸元を押さえた格好でガスコが、振り返った。暫く、何か、二人は無言で見詰め合った。
「いや、羨ましく、ないしね」
「しかしごった返した部屋だなおい」
 ヤナギが銀の靴を探しながらごそごそと物をひっくり返している。「お、悠司見てみ! これ銀の‥‥なんだ。銀の草履か。ち、惜しいな」
「いやいや、え。銀の草履? え、純銀? 高いんじゃないの。それ、高いんじゃないの」
「しかし、山奥にある物をどうやって調べたのやら」
 ソウマが呆れたように肩を竦める。「それだけの情熱があるのなら、報酬にももうちょっとその情熱を見せて貰いたいものですけどね」
 皮肉っぽく漏らしたところで、隣の終夜がふとトントン、と肩を叩いてくるので、え、と見たら、視線の先に素っ裸のマネキンが立っていた。
「素っ裸でポーズ取ってるマネキンって、何だか、切ないですよね。ん? あれ? あの足元」
 ふわ、と終夜が微笑を浮かべ頷く。
「見つけた」
 小さく、呟いた。