タイトル:ランドリーと金の斧は夏マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/23 15:48

●オープニング本文






「そしたら何かあそこのハンバーガー屋の前で乱闘騒ぎがあったとか言ってて」
 いつもの通り、コインランドリーの中には、西田と江崎以外、人の姿がなかった。
「大変だったらしいよ。俺が見たオッサンもさ、巻き添え食った人だったらしくて。びっくりだよね、オッサンおでこから血ィ流して倒れてんだもん」
 とか何か言って、ちら、と西田は江崎の方を窺う。
 けれどびっくりするくらい興味がない江崎は、雑誌に夢中で相槌すら打ってこない。別にそんな何か、盛り上がらないっちゃ盛り上がらない話っていうか、オッサンが血ィ流して倒れてたのを見た、ってだけの話なので、全然食いついてこなくても仕方ないか、とか、そんな気もしたけど、ちょっとやっぱり聞いて欲しいっていうか、むしろ聞いてよ、って気もしたので、「ねえ聞いてんの」とか言ったら、やっとそこで「んー」とか、明らか聞いてません、みたいな返事が帰って来た。
 けれどまあ、返事はしたのでよし、とか思って
「それでさ、野次馬も凄いけど、前の道んとこにもどんどん車とか集まってきちゃって。がんがん混んでんの。大通りだし、トラックの運転手とかもう、やばいくらい鬱陶しそうな顔になってて」とか、西田は続ける。
「それでさ、その一番のっけに止まったっぽい、あのー、車ね。特等席一人占めってやつ。その車の助手席にさ。めっちゃくちゃ可愛い子が乗ってたのね」
 それで最後に、一番どうでも良い情報、くらいの勢いで付け加えたら、それまでずっと雑誌に目を落としていた江崎が、「え、うそ」と、思いっきり反応して顔を上げた。
 とかいうその顔を、ちょっと軽蔑の眼差しで見つめた。
「あれ何その顔」
「いや何でそこだけリアクしたの今」
「え?」
「いや、え、じゃなくて」
「ん?」
「ん、でもなくて」
「だってさー」
 雑誌を閉じた江崎は、足を組み換え、コインランドリーの端っこに取り付けられたカウンターっぽいテーブルに、肘を預ける。「正直、ハンバーガー屋の乱闘とか、もうどうでもいいもん」
「どうでもいいならどうでもいいでいいけど、何でそこだけリアクすんのかって、もうそれが全然分かってないもん」
「じゃあまあ何か、ごめんね」
「リアクしないならリアクしないなりに、最後までリアクしないって根性見せたらどうなの」
「ねえ西田」
「なによ」
「話変えていい?」
 とか言った江崎の顔を、ちょっと何か、眺めた。それから「うん」とか顔を伏せた。「いいよ。俺も何か、最後までリアクしない根性とか、ちょっと何処に行くか良く分からない感じになってたから」
「じゃあはいこれ」
 毎度の如く江崎が、茶色い封筒を差し出してくる。
 江崎はコインランドリーの管理人という、実態の良く分からない仕事の傍ら、仲介業のような事をやっていた。つまり、キメラの出る地域に眠るお宝や、一般人の立ち入りが困難な場所にある曰くつきの品などの回収を請け負い、ULTに勤務する西田に、能力者への仕事として斡旋させるという仕事だ。
 こんなご時世の中にあっても、好事家や収集家は存在するらしく、多少の出費をしても手に入れたい物がある、と江崎の元を訪れる人間は、少なくないらしい。
「今度のモノは金の斧ですか」
「はい、殺傷能力一切ないお飾りの純金の斧です」
「ふうん。全長は七十センチ程度、だって」
「いや知ってる。その書面書いてるの、俺だしね」
「場所はねー。へえ。林の中の、民宿跡地だって。二階建の、風情のある建物だね。ねえ、見て見て、涼しそうだよね。あれよね。納涼にもなりそうね」
「いや、うん知ってるし、その書面書いてるの俺だし」
「斧見つけた後、遊んでもいいよね。近くに川流れてるって。わー涼しそう。見て見て。スイカとかこっちで支給してあげてもいいよね。バーベキューとか出来そう」
「いや西田」
「うん」
「しつこい」
 とか言った江崎の顔を、ちょっと何か、眺めた。それから「うん」とか顔を伏せた。「でもねえ見て。わりと深そうだから泳いだりとか、飛び込みとかもできそう。釣りもありだね。夜は星がきれいかも」
「ってことで、じゃあ今回は金の斧ね。宜しく」






●参加者一覧

Letia Bar(ga6313
25歳・♀・JG
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
キャメロ(gc3337
18歳・♀・ST
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文






 一階の客室を調べているところで、部屋の隅っこ辺りを何やらごそごそしていた村雨 紫狼(gc7632)が、また、声を上げた。
「ティロリロリィ! 何と、村雨は洋モノのエロ本を見つけた!」
 それで何か、手に持った雑誌らしきものを空に掲げ、「村雨は、洋モノのエロ本を使った。村雨の気合が10上がった!」とか何か、言いつつ、ページを繰り始めた。
 とかいう一連の流れを、あ、またですね、みたいな、わりと気まずい表情で眺め、マルセル・ライスター(gb4909)と緋本 かざね(gc4670)は、「いや、マルセルさん言って下さいよ〜」「いや何言って、かざねがいいなよ〜」とか何か、何かを押し付け合うようにして、肩を押し合っていた。
 とかいうのを、また少し離れた場所で見ていたキャメロ(gc3337)は、村雨とマルセルとかざねを見比べ、そろそろと近づきながら、「どうしたんですかー、村雨さんに何かあるんですかー」とか、わりと空気読まない大声で言った。
「しー。聞こえるだろ」
「え、何ですか。何かあるんですか」
 その間にも、「本当は9歳〜13歳ぐれーがストライクなんだけどな! でも我が儘は言わないぞ。だって、くー! このムッティープリン的な爆でボーンなお乳様も大好きなんだ! よしこれは重要な参考資料として回収しておこうじゃないか、な、俺!」とか何か言った村雨は、「よっしゃー探せー! エロアイテムー」と、また部屋の隅をごそごそし始める。
「あ、エロアイテム探してるのが、違うってことですか?」
「いや、うん。それは、まあ、最悪別にいいんだけど」
 とか何か話してる三人をよそに、「と、こ、これはああっ!!」と、また何か、村雨が何かを発見し、声を上げた。
「ティロリロリーン! 何と! 村雨は女児用ぱんつを見つけた! 村雨のやる気が、20上が」
「とか、夢中でテンション上がっちゃってるとこすいません、村雨さん」
 キャメロがとことこ、と村雨に近づき、肩を叩いた。
「え?」
「実は、マルセルさんが何か、話があるみたいなんでー。聞いて貰っていいですか?」
「ちょ、ちょーもうキャメロー。えー、何言っていや、えー」
「あ、何ですか」
「ほら、マルセルさん、ぐじぐじ言ってないで男なんだからいって下さいよ」
 とかかざねに押されて、小柄な童顔少年のマルセルは、もじもじ、と歩み出る。それからまず、「いやうんあの。何だろうなあ。これ言っていいのかなあ」とか何か、銀髪のおかっぱの髪の後ろを弄くり、かざねを振り返り、言え言え、みたいに手で示され、また向き直る。
「声に出てるよ」
「え」
「いやすごい気持ち全部喋ってるから、さっきから」
「あ、え、えー? 何だろーどういうこと?」
 って、村雨は、多分思い当たってるけど、知らない振りをするっていう、凄い白々しい感じを出した。
「あーんーそうかそうか。分からない、か。うんうん、そうだよね」
 って、マルセルも、大人ぶって笑顔を浮かべながら、回りくどく責める白々しい感じを出した。「だからこれ、んー。なんて言えばいいのかなあ。だから、何かやたらそう喋られるとこっちとしても気になるっていうか、あのー、煩い?」
「あ」
「いやいやいや、別にいいんだよ。喋ってもいいんだよ。俺達としてもほら、何だろう。何ていうのかな。ためになるっていうか、あ、今、村雨の気合いが10上がったんだな、とか、こう分かるしね。だけどもし、ほら、気付いてなかったら、あれかなーと思って。いや、あえてやってんだったら全然いいんだよ。もう気にしないし」
「ええ。そうですよ。無問題ですよ。村雨さんがロリコンだとか、ボーンなお乳が好きなんだなあ、とか分かって凄いためになりますし」
「あ、うんキャメロ、そこは触れないで、おこうか? ね?」
 って同意っていうかむしろ助けに近い感じを求める視線でかざねを見たら、俯いていた彼女が唐突に何故か、「ここは歌でも」と呟いたかと思うとハッとしたように顔を上げ、「歌っちゃいますかー!」って、もう誰も同意してないのに、「金の斧より金の髪〜それが私〜ツインテかざね〜♪」とか、よくわからない即興の歌を口ずさみ始めた。
 あーもうこれ変なスイッチ入っちゃったよー残念、くらいの目でそんなかざねを見つめるマルセルの横で、またこちらも変なスイッチ入っちゃったのか、キャメロがいきなり、「さあ〜♪」とか何か、歌い始めた。
 かざねに向かい手を差し出す。「折角バーベキューに誘われちゃってますから〜、ちゃちゃっと斧ゲットして〜、カラ傘裏返しちゃって〜、バーベキューを楽しみましょう〜♪」
「そうしましょう〜キャメロ様〜」
 って何か二人で手を取り合い、さっさと歩いて行った。
「あのー」
 台風が去った後、でちょっと愕然とする人みたいに、村雨が呻き、ゆっくりとマルセルを振り返る。
「いやうんあのー、何だろうじゃあ、俺達も行こうか」
「あ、うん。そうだね」






 一方その頃、一階を探索するLetia Bar(ga6313)は、欠伸をしていた。
 っていうか、明らか眠いんだろうな、みたいな欠伸をしていた。しかも更に自分で、「あぅ‥‥ねむっ」とか何か言って、目とかを擦った。
 とかいう25歳の普段はお姉さんぶってる恋人の、たまに子供みたいな可愛らしさを愛しそうに見つめ、國盛(gc4513)は小さく微笑む。
「まさか、楽しみにし過ぎて良く眠れなかったのか、レティア」
 寄りそうようにして、耳元に囁くと、ハッとしたように顔を上げたレティアが、口をちょっとぱくぱくとさせ、「そ、そんなまさか!」とか、明らかに動揺してますよね、みたいな、むしろ、若干小動物っぽい可愛らしさすら振り撒きながら、分かりやすくキョドった。
「そ、そんな、あれだよー。楽しみ過ぎて寝られなかったとか、そんな事あるわけないよ? や、やだなぁ」
 んーもうマスターったら何言っちゃってんだかーとか何か言いながら、「んー、斧ねぇ。一番良い部屋に飾ってないかな〜」とか何か、思いっきり不自然に話を変えようとした。
 とかいう、はいはい何それもー明らかいちゃついてるんですよね、みたいな二人の背後を、ヤナギ・エリューナク(gb5107)と鈴木悠司(gc1251)は、わりとだらだらと連れ立って歩いていたのだけれど、そこで不意に、「ねー、ヤナギさん」とか何か、悠司が言った。
「んー?」
「あれってさー」
 前方では今まさに、國盛がレティアの髪に触れ、もうやめてよーみたいに彼女が首を振って、とか、いちゃつき進行中の二人に視線を定めたまま、悠司は言う。
「探してるっていうより、いちゃついてるだけ、なんじゃないかな」
「んー。まー、成分的には、いちゃつきがより多い感じではあるよな」
「だよね、何か俺ってさー」
 そこで何故いきなり、「俺ってさー」になるのかが既に分からなかったので、「え」と悠司を見て、「うん」と、とりあえず、頷く。
「こう、わりと雰囲気で生きてるじゃない?」
「いやむしろ、雰囲気だけでしか生きてねえ気もするけど」
「だから何か、影響とか、受けやすいタイプだと思うんだよね」
「うん」
 あーそうすか、くらいの感じで一回頷いて、え、とまた悠司を見る。「え、何だから?」
「だからさ」
 と、悠司がゆっくりと振り返る。ヤナギを凝視した。
「分かるでしょ」って何か切羽詰まったように言うその目が潤んで、微妙にイヤラシイ気がするんですけど、これ何かどうしたら、とか、思った。
「いや分かんねえけど。つか、分かりたくねえっていうか、いやこれ。分かっちゃいけない気がするわ俺」
「だっていっちゃいちゃしたいんだもーん俺もー」
 とかいきなりクネーとか体を曲げて悠司が呻く。
「いや、可愛くないよ」
「いやだから俺は」
「いやいやいや、ちょ、ちょちょ、待って待って、これだけは言わせろって悠司」
「何だよ」
「可愛くないよ」
「だからさ! これはもう、もう負けたら負けだよ! 俺達も、見せつけてやろうよ!」
「いや負けてていいと思う。ここは、むしろ、負けよう」
「やだ俺絶対負けたくない。もう絶対勝つ。いちゃラヴ選手権だ! 2階は楽しいラブラブ班だろ! 俺達もらぶらぶしなきゃ! そうでしょ! ヤナギさん」
 とかもう相手にしてませーんみたいに、「避暑地、民宿、とくりゃこれ、美人の女将じゃねえのかよー。何で美人女将いねえんだよ」とか何か、すっかり話を変えたヤナギは、面倒臭そうにその赤髪を撫でながらチッとか舌打ちする。
「ほんで代わりに金の斧かよ。しかし純金製ね‥‥このままガメて売れば‥‥な、どうよ、悠司」
「ってヤナギさんさマイルドに話変えようとしてくれちゃってるけどさ、良い大人は、ガメっちゃ駄目だし、いちゃラヴ選手権は続行されますし」
「何だよお前、誰だよ。だいたい良い大人は、いちゃいちゃ選手権なんて言わね」
 とか何か言ってたら、「え、なになに、それー。いちゃラヴ選手権ー? そんなん、あるのー?」とか何か、前を歩いてたレティアが、くすくす笑いながら振り返った。
「おっとー。反応しちゃったよどうするー」
「おもしろそー。ねえ? マスター」
「いちゃラヴ選手権‥‥な」
 とか何か、そこで若干照れたように苦笑し、「けれどまあ。もしそんな選手権があったら」とか何か笑いをひっこめ、泣く子はもっと泣きそうな鋭い双眸をギロッとやって、「俺達が必ず、勝つがな」と、腕を組む。
「ワーどうしよー決め顔なのに言ってる事全然格好良くなーい」
「しかもやる気だよやっばい柔軟」
「そうそう‥‥マスターは、怖そうに見えるけど、優しいんだよ、ね? 柔軟で暖かい思考の持ち主なんだから。あと、知的だし、いろいろ知ってるし」
 そう言って、レティアはちら、と國盛を見やり、ふふふと笑う。
「おーっとー! やべー! あっついねー、お二人さーん」
 って何がツボったのか、めちゃくちゃ爆笑しながら囃すヤナギの腕を、悠司は、ムキになってぐい、とか引っ張った。「ちょなに、なに笑ってんの! 笑ってる場合じゃないでしょ、先制ポイント取られてんじゃん! ほら、ヤナギさん俺の良いとこ言ってやってよほら!」
「いや、ない」
「うん、何か‥‥真顔で言うのだけはやめてくれるかな」






 とかいうその間にも、一階を探索するかざねは、全く誰の為にもならない、むしろ若干あれ? 邪魔? くらいの鼻歌を歌い続けていた。
 でもそれをわりと頑張って無視して、「まー冗談抜きで、唐傘モンスターが一階二階のどっちにどう出るか‥‥さすがにコレは分からないんで、ちょい注意必要だよね」とか何か村雨が言ったかと思うと、「そうだね。回る傘のキメラかあ」とかマルセルが答えた。のだけれど、「いやごめん。やっぱ駄目だ全然集中出来ない」って村雨が先に挫折した。
 でもマルセルは何かを考え込んでるようで、「回る傘のキメラ。回る傘、ね。回る傘ね」とか何か呟いて、ハッとしたように顔を上げた。
「回るかさね、回る、かざね! そうだ、かざね! キメラが出たら、回るんだ!」
「お〜。かざねこぷた〜の出番ですね」
「そうだ。あのクソ無意味な、一発ギャグとして成立してるかもギリギリの、あの技でキメラに対抗する! 意味は特に無いけど」
 そしたら上機嫌にまた、「回る〜回れば〜、回る〜かざねは〜かざねこぷた〜♪」とか歌いだしたかざねが、そのまま「こぷた〜なめられたら〜♪」とそこまでは実に、にこやかに続けたかと思うと、急に表情を変え、じとーっと茶色い瞳で、マルセルを見た。「ばっしばし〜」
 ドスの効いた声で、言う。
「あ、どうしよう何か凄い、殺意を感じる」
「とにかくまだ、斧もキメラも発見出来てないんですから、そろそろ本気で探した方がいいですよ」
「たまにまともなこと言うんだよね、キャメロ」
「とりあえず、もう何か、物置とかから鉄の斧でも持って帰ればいいんじゃないですかね」
「いや、鉄の斧は駄目だろ」
 すかさず、村雨が言うと、「ん?」とか、キャメロが何でかちょっと可愛い顔作って、振り返った。
「いや、ん? じゃなくてさ、何ちょっと可愛い顔してんの」
「川で鉄の斧落としたら、金の斧に変わったりしないですかね」
「うん、金には変わらないと思うぜ!」
「あ、はい」
「いや、はいって」
「だいたい傘のくせに、私のかざねこぷた〜に勝てると思ってるところが気に食わないですよ〜。絶対負けるか〜!」
 とか、そこで、マルセルの言葉に分かりやすく挑発されたのか、無駄なやる気を漲らせらせたかざねが、「かざねこぷたー!」とか何か、無駄に回転の練習を始めた。
「出た、必殺、無駄の二乗だ! いけ、かざね〜!」
「よーし! かざねこぷた〜!」
 ってまた、調子こいて回転した瞬間、老朽化した床が、ベキッ! って凄い音を立てた。
 むしろ、民宿内全体に、バキーッ! って、凄い音を響かせ、床が抜けた。それで、ズボッ! って、え、かざねが消えた! とか、あわわわとかなってる三人の目の前で、思いっきりかざねが、床下に、落ちた。





 その少し前、二階の四人は、まだ悠司発信のいちゃラヴ選手権っていた。っていうか、いちゃラヴ選手権という名ではあってもただの子供同士の言い合いですよね、みたいな、くっだらなーい事になりつつあった。
「ちょっと待って」
 そこでふと、ふと悠司が何かに気付いたように、言った。「俺、すご今気付いたんだけど」
「え、うん」
「これちょっと、凄い無駄なエネルギー消費してない?」
 一瞬場の空気が、え、ってなった。
「えーマジかよお前、自分発信のくせにー?」
「いやだからそれは、うん、素直にごめん。何かほら、何ていうか夏だからさ」
 ってそんな、夏だからって理由、全然成立しないよね、とかヤナギが思った傍からそれまでむっつりと腕を組んで黙っていた國盛が、「そうか夏なら、仕方ないな」って、おーそんな簡単に納得しちゃうのー? って驚いた。
「私も、本当は途中から何だろうこれって実はちょっと思ってたんだけど。まあ、マスターがそう言うなら、納得、かな」
「いや、何でだよ」
 ってレティアの言葉にすかさずヤナギが言った瞬間だった。
 バキーッ! とか凄い音が、突然屋敷内に響いた。と同時に、ヤナギのすぐ傍に居たレティアが、ひゃあ! って、凄い悲鳴を上げて、音よりむしろ悲鳴に、ぎょっとした。とか、思ったら、彼女が、ガバ、とか抱きついて来た。
「な、何の音何の音!」
 とか、悠司が騒いでる中、音が止まってハッとしたらしいレティアが、「あ、ご。ごめん。びっくりしちゃって、つい」とか、ちょっとはにかみながら笑った。
 いやー何それちょっとはにかむとか可愛いじゃん? とか思いながら「別にいいゼ」とか笑った。のは良いのだけれど、え、何か凄い頬に視線が、とか思ってふと顔を上げると、覚醒状態に入った國盛が、超機械シャドウオーブとか構えてて、え、殺られる?! とか焦った。
 しかもそのまま彼は、瞬天速とか発動して、だーっとか突進してくる。「ちょ、え。ちょっと待」
 そしたら彼はそのまま、ビューンってヤナギを通り過ぎて行き、廊下を曲がった辺りで攻撃をしているような音が鳴った。
「待ち伏せを発見したぞ」
 振り返った彼が叫ぶ。「キメラだ!」
「だって、良かったね」
 覚醒状態に入った悠司が、その影響で現れた犬耳と尻尾を揺らし、言う。それから、「俺、正直マジ普通にヤナギさん。殺られちゃうんだなこれって思ったもん」とか何か言って、ぷ、とか噴き出すと、走り出して行く。
「笑ってんじゃねえお前!」
 ヤナギもすぐに覚醒状態に入ると、ガラティーン片手にその後を追う。
「大丈夫だ。俺が本気で怒ったら、そんな簡単には、殺さない」
 シャドウオーブから放たれる黒色のエネルギー弾で応戦しながら、國盛がニヤと、笑う。
「ワー、笑えないなあ、その冗談」
「って思いっきり笑ってるけどな、悠司」
「とにかく、いちゃラブ選手権の勝負は、お預けだな」
「いや預けねえよ、おい」
 とかその間にも、また新たにどんどん出現してきた唐傘っぽいキメラは、バサッとか傘布を開いて、攻撃態勢を整えている。
 そのバサッに、追いついてきたレティアは、ビクッってなりつつも紫色の銃身の拳銃バラキエルを構え、「こ‥‥コンナロー! 私の夏を邪魔する輩は、全部まとめて蜂の巣だぞっ」とか何か、窮鼠猫を噛む! みたいに、強弾撃を発動した。
 でも、窮鼠猫を噛む的に発動されたわりには、めちゃくちゃ強かった。むしろ、強かった。そんなわけで、回転する間もなく、勢い良く飛び出した銃弾でばんばん撃たれて行くキメラを尻目に、その間を縫って、「おー傘布の目が明らかに怪しいな」とか何か、ヤナギが、別のキメラへと距離を詰める。
 そこへ、悠司の放った真音獣斬の、布のような黒い衝撃波が飛び込んで来て、キメラの動きを撹乱した。
「よし、ヤナギさん、今だよっ!」
「おう、一点狙いで行くゼ!」
 眩い光を放つガラティーンが、黒い衝撃波の中でやけに映え。
 振りかぶった彼は、円閃を発動した。





「じゃあこれ、何か床下に埋められてたってことで」
 その頃、金の斧を発見した一階班は、二階班に無線連絡をしようとしていた。
「しかもそれを、かざねの重みで発見したってことで」
 事前に報告の纏めを行いながら、マルセルが無線機を掴む。その手を、かざねが、掴んだ。
「重みでは、ないと思うんです」
「え、そうかな」
「はいあの、重みじゃなくてですね、回転のあれで、ですね」
「そーうん。じゃあ、回転のあれで」
「いや、あれってどれだよ」
 村雨がすかさず突っ込んだその時、「あ、キメラですぅ〜」って、キャメロが、道端を行く有名人を見かけました〜くらいの緊張感のない声を上げた。
「よし、かざね! かざねこぷたーだ!」
 覚醒状態に入ったマルセルが叫ぶ。
「ふんっ、なーにが傘キメラですかっ、傘なんてものはですね、雨の日にだけ使えればいいんですよ! 私のこの傘のほうがよっぽどいい感じなんですからねー!」
 こちらも覚醒状態に入ったかざねが、両手に青い水のようなオーラを纏った不思議な、
「え、傘っ」
 その手の武器を見て、思わず村雨が言う。
「そうです! 傘です! 対抗です! さー行くぞー! かざねこぷたー・アンブレラバージョーン!」
 って傘を両手に回転を始めた。「いつもより多めに回っておりまーす!」
 そのまま、ザザザザーッとか、キメラへ突進し攻撃を繰り出す。
 その間にも、キャメロは、傘布をバサッとか開いた瞬間のキメラの手元っていうか、足? の部分をすかさず指さし君2号で掴み、電磁波で攻撃していた。そうしてすっかり瀕死の状態にしておいて、何食わぬ顔で手元を握ると、そのままとことことスペースのある場所まで歩いて行って、いきなり片足を上げ、フルスイングの構えで振りかぶった。
 ベキベキッとか、脆い骨組みが崩壊するようなわりと悲惨な音が傘キメラから漏れる。
「布の部分に目が付いてるってことは〜♪ おちょこ傘になると〜♪ 天地逆転〜♪」
「うん天地逆転の前に」
 すっかり覚醒状態で、その影響で犬歯とか伸びて狼の様な鋭さとか醸し出して、戦う準備万端なのに、何か凄い出足を挫かれた感じで村雨は、何か、蒼青刀の柄の部分を弄りながら、言った。「絶対死んでるしね」
「じゃあ、かざねこぷたーも堪能したことだし、とどめといくよ」
 宣言したマルセルが、猛火の赤龍を発動する。竜の紋章が赤く輝き、その華奢にも見える体躯に、力が漲ってくる。
 双剣パイモンを手に、残ったキメラへ突進して行った。






 木々の間から差し込む陽の光が、川の水面に反射し、キラキラと輝いていた。
「んー! 気持ちいいねえ!」
 時折流れてくる冷涼な風に、微かにその茶色い髪をなびかせ、背伸びしたレティアが言う。
「よし、じゃあ、女子は着替えてくるから、マスター用意、よろしくね!」
 荷物を片手に、借りたコンロを組み立てている國盛に手を振っておいて、かざねちゃん行こうー! とか、その手を引く。
「私ー、水着、忘れちゃったんで、レンタル水着なんですよねー」
「えーそうなのー!」とか何か、言い合いながら、二人は木陰に消えて行く。
「じゃあ俺は、山菜でも摘んでくるかな。山菜には多少心得がある」
 コンロの組み立てが終わった國盛は、そう言って別の方向へと歩いて行き、その間にも、「水やばーい! 冷たーい!」とか何か、ビールやら烏龍茶やらを川に沈めて冷やす作業をしていた悠司は、もう何かその時点でテンション上がっちゃってるんですけど! みたいに騒ぎ、村雨と共に、火起こしに挑戦しているヤナギに、「つかさお前さ、とりあえず遊んでないで、火ィ起こすの手伝えって」とか、めっちゃ鬱陶しそうな目で見られた。
「ちょーえー、なになに。え。着火剤はー?」とか何か言いながら、悠司は川から上がり、コンロ前へと歩み寄る。
 新聞紙を内輪のようにして扇ぎながら、ヤナギが肩をすくめた。
「いや何か、入って無かったみてえ」
「えー。やっばいじゃんそれ、もうこれなっかなか、火とか起こらないよー」
「だから頑張ってるんじゃん」
「ねー、新聞紙くんない?」
「ほい」
 村雨の手に、ヤナギが折り曲げた新聞紙を渡す。とかいうのを見ながら、じゃあ俺もーみたいに、悠司はその辺にあった新聞紙を掴んだ。それで、コンロの前に行き、ちょっと風を送ってみることにした。
 ぶわあッと、灰が辺りに舞い散る。
「うわ、ちょ、いやまだ扇ぐなって」
「あ、ごめん」
「いやお前、手伝ってるの? 邪魔してるの? どっち」
「手伝ってるよー。見て分かんない?」
「見て分かんないから言っている」
 とか何かやってたら、そこへふら、とキャメロが現れた。そして、その手には。
「げ、何それ」
 三人の視線が思わず、釘付けになる。
 絶対食べられそうになさそうな、っていうかむしろ、腹の辺りが、ぶくぶくと気持ち悪く腫れた、いや絶対水疱瘡か何かにかかってますよね? みたいな、魚のような何かを持っていた。
「え、ん? それ、ん? さか、な? 魚かなあ?」
 って勇気を出して村雨は聞いてみた。
「はい」
 と元気よく、キャメロは頷く。「参加させて貰って、食材を提供できないのも申し訳無いので川の何かを捕まえてこようと考えました」
「いやうん。考える、うん、考えるのは悪くないと思うんだ。でも、それは」
 三人は思わず顔を見合わせる。「どうかなあ〜」
 とかもう全然聞いてないキャメロは、「指さし君2号を、川に突き刺し、通りかかったコイツに電磁波を当て、捕まえました!」とか、すっかり得意げに報告し、「皆楽しみ〜♪ 川の幸〜♪」とか歌まで歌い出し、最終的には、丁度そこへ、材料を切り終わり、どっさりの野菜と共に登場したマルセルを振り返った。
「さあマルセルさん、召し上がれ♪」
「え、なにいきなり」
「この魚です。私、頑張って捕まえました! 是非、食べて下さい」
「いや何で俺限定なの。いやいや、そんなキラキラした目で見られても、俺、食べないよ。えいや食べないよ」





 ジュジュウと、野菜や肉の焼ける香ばしい音と、美味しそうな匂い、そしてもうもうと上がる煙が、辺りに立ちこめていた。
「カンパーイ!」
 一際大きな声で言った悠司とヤナギが、発泡酒の缶をぶつけ合う。
「クーっ! いやぁ、この暑さの中で飲むビールは最高だゼ。うん、最高!」
「仕事の後の1杯は美味しすぎるー!」
 その間にも、せっせと肉を裏返す村雨が、
「この肉達は、俺達が、頑張って、いやもう本当に頑張って、超頑張って、めちゃ苦労して、火を起こした結果の賜物だ! さあ、皆、心して食べてくれ!」とか何か、わりと押しつけがましく言った。
「いや、食べにくいわそれもう」
「御苦労様だったね」
 烏龍茶片手に石の上に座ったマルセルが、ふんわり微笑み、言う。「でもこういうのってやっぱり、普段はやらないから、楽しいんだよね」
「今日はマルセルさんの料理蘊蓄が出ないんですね〜」
 すっかり着替えを終えたかざねが、ああ、肉まだですか、まだ焼けないんですか、と言わんばかりに箸をこちょこちょ動かしながら、言う。「美味しい肉の焼き方、とかさ、今日もやってくれたらいいのに」
「えー! おいしい焼きそばとか、食べたいなあ、私もー!」
 赤のリボンがついた、ホルターネックのタンキニに、軽くパーカーを羽織った姿で、皆に受け皿とか配っていたレティアが言う。
「今日はね、任せるよ」
 肩を竦め、また彼はふんわり、微笑む。
 けれど、その舌の根も乾かない内に、奉行魂が疼くのか、やっぱりすっかり、最初の肉が焼き終わる頃には、「だからね、焼き過ぎないように、火力はこうやって炭の量を調節して、強火中火弱火に分けて、移動させながら焼いていくといいよ」とか何か、乗りだしてしまっているマルセルだった。
「よーし。マルセル特製、美味しい焼きそば作っちゃおうかなあ」
「待ってましたー!」
「まず、油だね。鉄板にはこの霧吹き。これを使えば無駄なく油を敷くことが出来るんだ」
 って油を拭き掛けさあ、まず肉を、と思ったその矢先、「ほい!」とかポーンと何か、鉄板の上に投げ込まれた。
「私の捕って来た魚、焼いて下さ〜い」
「いやもう、捨てろよ! これもう!」
 とかやってたら、そこへ、やっと山菜取りを終えたらしい國盛が戻って来た。「盛り上がってるな」
「マスター!」
 自分は禁酒中なので、烏龍茶と缶ビールを片手に、レティアが駆けよる。
「何処行ってたの」
「ああ、山菜を取りにな」
「そうなんだー。御苦労さま。はい」
「ああ、ありがとう」
「じゃあ、一先ず、乾杯しよーよ、マスター」
 ああ、と頷いた國盛が、缶のプルタブを引く。コツン、とぶつけ合った。
「ねえねえ、泳がないの?」
 ちら、と川を見下ろし言う。ごっそりと窪んだ、深そうな水面が見えた。
 そうだなぁとか何か、彼が、のんびり言った。途端に、レティアは、悪戯っぽい笑みを浮かべ、「なーんて、返事待つ前に、押しちゃえドーン!」とか、その肩を押し出す。
「おわッ?!」
 バッシャーン! とか、派手な水しぶきが上がり、おわー! とか、皆から歓声が、上がった。
 のは良いのだけれど、それから数分後。
「マスター上がってこないですねー」
「ど、どうしよう、かざねちゃん」
「いやあれ、筋肉とかついてるからなあ。やばいんじゃねえか」
「うん。俺もそう思うよ、ヤナギさん」
「筋肉は沈むからねー、ね、キャメロ」
「なるほど、水難事故発生ですね!」
「いや、キャメロ、そんなライトに言うのはちょっと」
「ど、どうしよう‥‥まさかマスター溺れて」
 って、レティアが口元に手を当てた瞬間だった。
 ばさああ! とか、水面からいきなり、魚を手にした國盛が、上がって来た。
「ええええ! さ、魚獲って来たー!」
 とか驚くかざねの隣で、「ワイルド」とか、惚れ直しました! みたいにレティアが、両の頬に手を当てた。
「うんいや、レティアさん。ポッとするとこ、違う気がする」
「でも、これじゃ本物のクマさんみたいだねぇ。クマスター♪」
 安堵した勢いも手伝ってか、アハハとかテンション高めにはしゃぎながら、レティアが笑う。
「全く」
 釣られて國盛も苦笑した。「心臓に悪いぞ」







 そして、夜。
 満面の星が、藍色の空に輝いていた。
 その下で、悠司がギターのチューニングをしている。その向かいでヤナギも、ベースのペグを弄くっていた。
「うし」
 何本目かになる発泡酒で、少しだけ口を潤すと、ヤナギは「行くぜ、悠司。即席のライヴだ」と、弦をピックで弾き始めた。
 はいはい、みたいに肩を竦めた悠司が、その音に乗り、リズミカルに弦をつま弾く。小さな音が重なり、少しずつ絡み合い、二人の体が揺れる。「いいね、よし、行くぜ!」
 首を振ってカウントを取り、ジャーン! と、コードをかき鳴らした。
 二人の音が、夜空に彩りを添える中、マルセルとかざねの二人は、夜空をぼんやりと見上げていた。
「今回は、金の斧を見つけて来いって依頼だったけどさ」
 マルセルが、その大きな瞳に星の瞬きを映しこみながら、不意に、言う。「例えばね。自分が使い慣れた、大事な鉄の斧と、金の斧があったらさ。俺は、迷わず、その大事な鉄の斧を選ぶよ」
「ふーん」
 かざねは、三角に立てた膝の上にトレードマークのツインテールを乗せながら、彼を振り返る。
「だからもし。もしだけど、清楚可憐器量良しのツインテと、グラマーでツンデレのツインテを提示されてもさ。俺は今のかざねを選ぶよ。お馬鹿で貧乳で我侭なかざねが、俺は好きなんだ」
 そう言って、じっと、見つめてくる。
「マルセルさん」
「うん」
「いや、嬉しくないですよ」
「え」
「むしろ、若干、苛っとしますよ」
「あ、流れ星」
「いや、お馬鹿で貧乳で我が儘ってどういう事ですか。ちょっと詳しく聞かせて貰えますか」
「かざねの頭が良くなりますように。かざねの胸が大きくなりますように。かざねが我慢を覚えますように」
「ツインテかざね馬鹿にしたら〜」
 そこで突然歌いだしたかざねは、そこで一旦鼻歌を切り、ぎろ、とマルセルを睨む。「ばっしばし〜」
「あれ、なんだろう。凄い何か、殺意を感じる」
 そして國盛とレティアの二人もまた、少し離れた場所で持ってきた線香花火にそっと火を灯していた。
「花火の先が落ちないようにするのって、難しいんだよね」
 パチパチと小さく弾ける花火を見つめながら、レティアが囁くように、言う。
 線香花火の儚さと悠久の星の瞬き。
 二人の瞳に映り込む光に、暫し見惚れて。
「‥‥綺麗だ」
 國盛が、思わず囁くと、ふふ、とレティアが照れたように小さく笑う。
 虫の声と、風の音。
 音楽と花火を楽しむ村雨とキャメロの二人が立てる歓声が混じり合い、キラキラと光る藍色の空へ、溶けていった。