タイトル:やたら遺体と凶器捜す森マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/17 07:17

●オープニング本文







「ねえねえ岡本君。ねえ、岡本君ってば、ねえねえ」
 と、聞こえていた音楽の隙間から、大森の声が、言った。
 続けて、体が、電車の振動とは別に、何か、ぐらんぐらん、揺れる感触がした。
 岡本は、ハッと目を見開いた。
 それから、勢い良く隣を振りむいた。未来科学研究所の、優秀だけど変人で尚且つ無駄に美形の大森の顔が、すぐ傍にあった。
 ひ、とか思って、立ち上がった。
 というか、立ち上がろうとした。そしたら何か、大森がこっそりと抜いていたらしいイヤホンに引っ張られ、めちゃくちゃうまいこと耳にフィットして残ってしまったらしい方のイヤホンが引っ掛かって、いてててて、ってもう何か、そこまで痛くないけど、とりあえず座った。
「はい、ご苦労様です」
 何かもういろいろやってるけどとりあえず見とこーみたいに、見ていた大森が、座った途端、覇気のない声で言った。
「はー寝起きで御苦労しました。どうも」
 イヤホンを受け取り、もう一個も耳から取りながら、岡本は頭を下げた。
「何か凄い、寝てたから、何だかほっとけなくて。ごめんね」
「そうですね、そこは全然謝っていいですよね、だって寝てたら普通そっとしといてくれますよね」
「だって、無防備過ぎて何か、危ないんだもん岡本君、痴漢とかにあったらどうするの」
 とか言った大森の顔を、何かちょっと見つめた。
「すいませんこの人痴漢です、って次の駅あたりで突き出したりとかしても大丈夫ですか」
「うんそういうこと言うなら、とりあえず突き出される前に、本気で痴漢しておくけど、いいかな」
「じゃすいません今の、嘘ってことで忘れて下さい」
「でね、頼みたい事っていうのは、ほら、前々から俺、建築家の弟に頼んで、君との新居を探して貰ってたじゃない。どの物件も全部、殺人事件があった家とかってやつ」
「えーまたその話ですかー」
「そしたらさ、刑事の知り合いにさ、何か、お前、殺人事件のあった家ばっかり、調べてるんだって? とか何か聞かれて、死体掘り起こす為にキメラの駆除お願いされたってこと、あったじゃない」
「ありましたけどっていうか、その知り合いって、妹さん関係なんですか」
「え」
「妹さん刑事ですよね」
「あらなに岡本君、妹に、会ったの」
「会いましたよ、何かこないだ依頼の話に来てて、捜査協力して欲しいとか何か」
「ふうん」
 大森は、相変わらず感情の読めない無表情で、軽く頷くと、「どう」とかいきなり何か、聞いてきた。
「いやそんな漠然と言われても、何を答えたらいいか分からないですよ」
「美人でしょ」
「はい、美人でした」
「なに好みなの」
「いやそんな直球」
 って答えてる顔がもう、にやけてる時点で何かもう、負けた気がした。
「ま、無理だよ。あの人、ドSに見えるけど、ドМだから。岡本君とは合わないんじゃないかな、やっぱり。ドМ同士だしね」
「すっごいあっちに座ってるおばちゃんみたいな人が、こっちガン見してるんですけど、大丈夫ですか」
「大丈夫なんじゃない。ドМなのは俺じゃなくて、君だし」
「すいません何かちょっとあのー、えーっと、とりあえず一旦、帰っていいですか」
「電車って不便だよね。そうやって逃げられないし」
「はい本当そうですよね」
「それでさ。今度はその刑事にさ。もう一件、キメラが出るもんで手出しできない案件があるから、何ならもうこの際、遺体と凶器、捜して来て貰えないかな、とか、言われちゃって。お願いできないかな。遺体と凶器捜し」
「何ならって、もう軽過ぎますよね警察も何か」
「じゃあ、そう岡本君がびっくりするくらい警察を馬鹿にしてた、って妹に伝えて、カンッカンに怒らせとくね。あの人、警察馬鹿にされると、死ぬほど怒るから」
「じゃあもう最悪それでもいいですけど、そうして誰にどんなメリットがあるのかだけ、教えて貰えませんかね」
「でね、また今回も、犯人は捕まえたんだけど、遺体と凶器はまだ発見出来てないってパターンでね」
「はー」
「供述は取れてるらしいのよ。殺したのは、自分の奥さんで、浮気が原因らしいとか何とか。どろどろしてて、嫌よね」
 ってどろどろとはもう完全に無縁そうな涼しい顔で大森は言って、続ける。「それでまた、じゃあその遺体と凶器を掘り起こしに行こう、と思ったらさ、その犯人が捕まるまでに、わりと日が過ぎてて、供述取るまでにもまた日数かかって、何時の間にかその場所にキメラが住みついちゃったみたいで」
「何でもいいですけど、あっちに座ってるおばちゃんが、動機浮気の辺りから、俄然興味津々で食いついてきちゃってますけど大丈夫ですか」
「場所はね。ここの森なんだけど」
「はーもう、何ていうか、家でもないんですね」
「めっちゃでかくて、幹の模様が、あれ? これ人の顔ですか? みたいに見える木の傍に埋めたらしい。その木の近くには、何か、井戸っぽいものがあるんだって。薄気味悪いね。井戸から何か出てきたりしたら、嫌だよね。蛇とかね」
「って言いながら何かこっちじーっと見るの、何か嫌なんでやめて貰えますか」
「でもこの森なー。わりと、危険なんだよねー」
「危険って、何がですか」
「この地帯に生えてるキノコなんだけどね」
「はー」
「それを食べると、何かこう、大量にアルコールを摂取したような状態になるっていうか、変な幻覚を見るっていうか、そういう症状になっちゃうっていう、怖いキノコなのよね」
「いや、食べないですよね。そんな仕事中にキノコとか」
「ならいいんだけど。何かこう、わりと見た目は凄い美味しそうだし、匂いとかも凄い美味しそうなんで、食べちゃう人とかいないかな、と思って」
「いやいないですって、その情報、要らないですよ」
「あ、そ。じゃあ、まあ、要らないってことで、岡本君の独断で省いておいてくれてもいいけど」
「そうします」
「あと、死体や凶器に触れる時は、こちらから手袋を支給するから、それをはめて貰って。あと遺体を乗せる担架とか、凶器をいれる袋とかも渡すんで、それに収めて貰って、合流地点まで運んで貰うという感じで。ちなみに凶器は出刃包丁ね。で、遺体は、わりと腐ってると思うから、匂いとかに負けないように。結構、刺されてるらしいから、ちょっと中身とか飛び出してるかもだけど、頑張ってね」
「頑張ってね、ってそんなライトに言われても困るんですけど、頑張るの僕じゃないんで、まあ、いいです」
「そうね。能力者の人達に頑張って貰わないと。じゃ、そういうことで、よろしくね」







●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
未名月 璃々(gb9751
16歳・♀・ER
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
壱条 鳳華(gc6521
16歳・♀・DG
鈴木庚一(gc7077
28歳・♂・SN
香月透子(gc7078
27歳・♀・DF

●リプレイ本文






 小さく、深呼吸らしきものをした鈴木庚一(gc7077)が、「空気‥‥いいな」とか何か言って、隣の香月透子(gc7078)を見やった。
「そうね」
 と、俯いたままの彼女は言った。「確かに私、何処かに療養に連れてってくれないって、言ったわよね、庚一に」
「そうね、言ったね」
「森林浴とか、いいわねって言ったわよね、確かに」
「だからほら、森林浴だ。好きなだけ空気、吸っていいぞ。周りは木ばっかりだ」
「って何をそんなに落ち着いてるのよ!」
 と、透子はそこで、噛みつかんばかりの勢いで庚一の肩を掴んだ。「確かに森だわよ! 森林浴だわよ!」
「そうだ。森で森林浴だ」
「だから! 遺体捜すって何よ! 遺体って何よ、っていうか、遺体って何」
「うん落ち着け透子。遺体は、遺体だ」
「しかも腐ってるって何よ! 腐ってるって! 腐ってるって!」
「だから落ち着け透子。腐ってるっていうのはつまり‥‥腐ってるってことだ」
 とそこで、「まあまあ! 待て、落ち着け」と一際高飛車な声が、AU−KV「アスタロト」から響き、一同は一瞬え、とか、止まった。
「確かに遺体捜しとはな。あまり好ましい内容じゃない。それは分かる。痛々しいだけだ。そうだろう? そう、遺体だけにな」
 とか言って、ふ、とか何か、自分でちょっと笑った壱条 鳳華(gc6521)は、アスタロトのフェイスガードを開き、凄いどや顔で一同を見渡した。
 そしたら何か、ちょうど地図と方位磁石を片手に、現在位置をマーキングしていた未名月 璃々(gb9751)と目が合った。
「遺体だけに、痛々しい。どうだ、うん?」
 って、そこへ明らか空気読めてない感じで、なおもその、全然面白くないギャグを推した。
 ちょっと、その場が、凄い静かになった。
「はい」
 暫くして未名月が、びっくりするくらい、軽く流した。また、地図に目を落としている。
 って透子はとりあえず、「庚一の阿呆ーッ!」とか何か、八つ当たりしておくことにした。
「とにかく私、そんなの絶対いやよっ!! いやいやいやー!」
 とか何か叫びながら、庚一の肩を揺さぶる。それに身を任せて、明らか任せ過ぎて、がっくんがっくん庚一の首が揺れる。
「まあ‥‥何だ‥‥」
 とかがっくんがっくん揺れながらも、あり得ないくらい無表情に庚一が言う。「あーキメラもついでにいるけど。何か蛍みたいで、綺麗らしいぞ。良かったな、透子」
「良くないわよ! 何がいいのよ! 良くないわよ!」
「あーそー」
 とか何か、いい加減代表、みたいな返事を返して、ふと視線を逸らすと、何故かそこに立っていた終夜・無月(ga3084)と、目が合った。
 合ったのだけれど、特にリアクションもなく、じーとかもう人形みたいじゃない、とか思った瞬間、彼はいきなり、覚醒した。みるみる内に、赤い瞳が月を想わせる金色へと変化し、銀髪の狼のような鋭くも気高いオーラを纏う。
 とか、え、何でここでいきなり、とか思ってたら何か、「先に掃除しておきますね‥‥」と静かに呟いた彼が、瞬天速を発動し、走り出して行った。
 とりあえず、「ほら」とか言って、透子を振り返っておくことにした。
「いやほらって何そのどや顔、やめてくれない。腹立つんだけど」
「いやまあ、何か、掃除してくれるらしいから」
 ってもう、はーはいはい、みたいに、透子がこれ見よがしに溜息を吐いた。「もうほんと、私馬鹿。相当馬鹿よ。庚一の言葉にほいほい乗って」
「うんそれはまあ」
「なに、うん? え、なに、うんつったの今、ねえ、うんつったの今」
「いや、まあ何だ。あー、そうそう、ここで取れるキノコも美味しいらしいよ」
「うんいや食べないわよ、そんな得体の知れないキノコ」
 透子が、呆れながら言った瞬間だった。
 突然、彼女の立つすぐ近くの木の上から、何かがバサーって落ちて来て、「ひーで、出たー!」って絶叫、とか思ったら、普通に覚醒状態のトゥリム(gc6022)だった。
「うんあのーここのキノコ、何か、駄目らしいよ」
 って登場派手だったわりに凄いローテンションに言って、小柄な彼女は、覚醒状態のまま、とことこと去って行く。
「え。なに、どういうこと」
「んーいやまあだから、キノコ駄目だってことだろ。いやあ残念だったな、透子」
「うん食べるって一言も言ってないからね、私」





 その頃、一足先に森の奥地へと進んでいた終夜は、何だか良く分からないけれど、見た目はあれ? ホタル? みたいなキメラと遭遇していた。
 あと何か、その周りの木の根元に、にょきにょき何か、生えていた。
 あ、これですね、これが何か、あのやばいキノコってやつですね、みたいに、彼はそれをすっごい無表情に眺め、それからまた、ふわふわと飛び回るキメラを見た。
 鋭い瞳にじーとか見つめられたキメラは、殺気を感じたのかちょっと何かざわざわとしだし、お尻のところをぴか、ぴかと明滅させた。けれど、終夜は明鏡止水を手に、とりあえずまだ、じーとか冷たい観察とか続けていて、そしたら、キメラの尻の明滅が、ぴか、ぴか、から、次第に何か焦ったようにぴかぴかぴかぴかぴかぴかぴかぴか、って最終的にビーム、とか出して来た。
 瞬間、終夜は、虚闇黒衣を発動する。彼の身体の周囲が、暗いヴェールに包まれたようになったかと思うと、ビーム攻撃のエネルギーが呆気なくそこへ吸収されていった。
「その命」
 剣を握りしめた終夜が、暗いヴェールの中から、一歩、踏み出してくる。「諦めて下さい‥‥」
 微笑を浮かべたまま走り出すと、明鏡止水を振りかぶり、そのままばさーって一刀両断しておいて、体制立て直して振り向きざまに生えてるキノコをさっと掴んで、試しに高速で投げ込み食わせてやろうと思って投げたら、ちょうどそこへ「お、キノコがあるじゃないか。美味しそうな匂いもするし、見た目も悪くないな。これは本当は食べられるのではないか」とか何か、暢気に言ってる鳳華が現れ、しかもどういうわけか、上手い具合に終夜の投げたキノコが、彼女の口元へ命中した。
 ほんで何か、飛んできたからにはえ、うんじゃ食べるね、くらいの勢いで、鳳華も何か、食っていた。
 わりと表情の薄い終夜も思わず何か動きを止め、あーどうしよう、何か食‥‥食っちゃいましたよね、みたいにちょっと、見る。
 そこへ遅れて到着したトゥリムも、とりあえずライオットシールドとか構えながら、あ、何か食ってる? みたいに、見た。更にその後に、ダウジング用の振り子にもなるペンデュラムを手に、あーキメラやっぱり出ちゃってますー? みたいな面倒臭そうな表情で現れた未名月も、やっぱり、見た。見たけどすぐ、あ、そうですかーくらいの感じで、ペンデュラムに視線を落とした。
 それで何か、わりと皆が見てるなか、「うむ、これは何だ、わりと美味しいじゃないか」とかしっかり咀嚼して、しっかり飲み込んだ鳳華は、次第に、とろんとした目つきになり、相変わらずふわふわとキメラが飛び交う中、突然。
「おおおおお」
 とか、叫んだ。
 あ、まずいなこれまずいわとか薄っすら全員が思いだしたその時、「わー、何この綺麗な色の光は。ふわふわ飛び交って、あ、もしかしてホタル? 風流ねえー」とか何かのんびり言ってる透子の声が近付いて来て、その瞬間、鳳華の混乱が爆発した。
「お城だー!!」
「えーー!」
「あとごめん透子、それ、キメラだ」
 ってそんな状況でもびっくりするくらい落ち着いた庚一が、冷静に透子のメルヘンを訂正した。
「えー! キメラー!」
 って慌ててクラウ・ソラスを構えようとしつつも何か上手くいかない透子の元へ、「お城だー! お城が見えるぞ! 私が住むにふさわしいようなエレガントなお城だ! はははは! なんだか楽しくなってきたぞ!」とか何か、鳳華が突進して行く。
「えー! 何この状況! どうしよう、全然分からなーい!」
「だからやっぱり、人の話を聞くのは大事なんだよね。情報収集とか」
 とりあえずトゥリムが、ボディガードを発動し、透子の前に出た。そこですかさず未名月が、鳳華に向け、呪歌を発動する。
「とりあえず〜♪ 呪い呪い〜♪ 鳳華さんは〜♪ 呪い呪い〜♪ 押さえておきますんで〜♪ 呪い呪い〜♪ 戦闘は面倒くさいので皆さんに任せますー」
 って歌詞の間に何か器用に解説を挟む。
「それでは引き続き」
 終夜が、また、キメラに向け走り出す。
 トゥリムも無言で、「サプレッサー 」を装着した「クルメタルP−56」を構えると、ぴかぴか光るキメラの尻目掛け、立て続けに弾丸を放った。
「あれでもなんだ、なんかふらふらするっていうか、近づいてるはずなのに遠ざかるというか、おかしいな。ははははは」
 ってまだ混乱中の鳳華が、痺れながら笑っている。
「よーしこうなったら。とりあえず当たれば儲けモノ。大剣、振り回し倒してやるんだから!」
 クラウ・ソラスをぎっりぎり構えた透子が、包帯の目立つ腕で、ぶんぶん、とそれをやたらめったら振り回し始める。
「透子‥‥お前は取り合えず大人しくしてろって‥‥」
 面倒臭そうに言った庚一が、さてやりますか、みたいに白銀の洋弓「アルファル」を構え、影撃ちを発動した。ふわふわと掴みどころのない動きを繰り返すキメラの、一瞬の死角を的確に狙い、撃ち落として行く。
「もう庚一! そこ、邪魔だから!」
 とか何か透子が言うのも聞き流し、じりじりとその前へ歩み出しながら、庚一は、キメラへの距離を詰めて行く。
「一応、連れて来たの俺だし‥‥この際前衛後衛云々は無しだな、お前庇うのメインだろ」
 そしてまた、矢を放った。




「ホタルか!」
 と、我に返った鳳華は、やっぱりまだまだ元気だった。
 一応それなりに、戦闘面倒臭かったわーくらいのノリでは疲れている一同を尻目に、「蛍は綺麗だなんだというが、よく見ると見た目は黒い最悪な虫と大して変わらないぞ。私のほうが数倍綺麗で気高く強いことを教えてやろう! だいたいビーム攻撃とは生意気だっ。さあ、出てこい! ホタルめ!」
 とか何か、あれ? もしかしてまだ、混乱してますか? くらいの勢いで騒いでいる。
 それを、凄い静かに眺める終夜が、「先程は。何だか、申し訳なかったですね」とか何か、憐れみを込めた目で、言った。
 でもそんな憐れみには全然気づかない鳳華は、「まあ、何だ。気にしなくていいぞ。あれは、何というか。事故だ。それに意外と、美味かった」サムズアップ、とか、すっかり何か上から目線だった。
「まあでもだいたい、食わないもんね、普通。飛んできたキノコとか」
 GooDLuckを発動するトゥリムが、やたら木の上の方を凝視しながら、言う。
「口が開いてますよー」
 って、ペンデュラムにじーっと神経を集中しているようにしか見えない未名月が、すかさず、トゥリムに指摘する。
「しかし、井戸、中々見つかりませんね‥‥」
 こちらも探査の眼を発動し、辺りを見回す終夜が言った。
「キメラが出たということは、この辺りにある可能性が高そうなんですがねー。死体の臭いにつられてやってくる、ということもあるかも知れませんし」
「あと、手掛かりは人面に見える木、だったか。しかし‥‥あーこう、木ばっかり見てるとどれも人面に見えてくるのが不思議だよな」
「んー」
 とか何か、庚一の言葉に頷いた透子は、「でも、顔に見える木って、それはそれで何だか怖いわよね」ってマイルドに言ったあと、一人でハッとしたようにびくつき、「こ、怖くなんかないんだから!」
 って必死にまた否定した透子の顔を、じーとかすっごい温度のない瞳で見つめた庚一は、「ああ、そう」とか何か、やがて、そっと視線を逸らせた。
「ねえ人がさ、こう必死に喋ってるのにさ、何なのその覇気のないリアクション」
「いや、別に」
 って素っ気ないのはいつもだけど、あ、そ、みたいにその顔を眺めた透子は、突然ころ、と声色を変えた。
「あらー、あそこに生えているキノコ美味しそーう。後で摘んで今日のお礼に庚一に料理して食べさせてあげようかな。きっと喜ぶわよね! 腐乱死体は兎も角、連れてきてくれたのは庚一なりの優しさだし」
「何だろう透子、あれは駄目だわ。俺、あんなんにはなりたくないわ」
「あんなんってどういうことだ」
 鳳華がすかさず言ったその瞬間、「あ」と、未名月が声を上げたので、そちらを振り返った。ペンデュラムがぐいーとか何か、前方につられるようにして動いている。
「人間の脳が、動かすらしいですね。無意識に」
 未名月の解説に、おーとか何か声が上がった。
「あ、ねぇ! あそこに見える木。マジで顔に見えるんだけど」
 早速早足で近づいて行った終夜が、「井戸もありますよ」と、手を上げる。
「じゃ、じゃあ。やっぱりあの木」
「なるほど」とことこ、と寄って行ったトゥリムが、ふむと顎を摘んだ。「ここに薄っすらと最近掘り起こされた形跡もあるね」
「じゃ、じゃあ、ほ、掘ってみてよ」
 と、透子が庚一の背後に隠れながら、こそこそ、言う。
「男手は、俺とあんたか」
 面倒臭そうに庚一が、終夜を見やる。「キメラは倒しても、正直この辺りは警察がやるべきだよな。本当は」
 って同意を求めるつもりで言ったけれど、終夜はもうさっさとスコップを手に黙々と掘り始めている。
「取り合えず面倒くさいが、掘って運ばにゃ始まらんか」
 じゃあやりますか、と掘り始めたら、さっそく、何か、腕っぽいもんが出て来た。
「で、出たーッ! 腐乱死体とかやっぱヤダー! もう帰るーっ!」
「んー死体はよく作りましたがぁー、鮮度の低い死体と合うのは解剖以来ですね」
 パシャパシャ、と現場写真を撮りながら、未名月が言う。
「それは、あと適当に包んで担架に載せて下さいねー」
「死体、平気なのか、璃々」
 鳳華が、やはり少し、顔を顰めながら、言う。
「まー元々、暗殺が稼業でしたので、遺体は構いませんが。ただ運ぶとか、重労働嫌なんですよね、疲れますしー、他の皆さんにお任せしますー」
「でもこれはやっぱり、少し生々しいな。多少時間がたってる分アレな感じだし。せめてどうか安らかに眠れることを、願うよ」
 とかやってたら、何時の間にか、井戸の中へ入っていたらしいトゥリムが、「愛が憎しみに‥‥こんなのバグアには絶対見せたくないね」とか何か言いながら、戻って来た。はいいけど、何か袋のような物を手袋をした手に持っていて、そろーっと地面に生えているキノコを一個、そこに入れようとしている。
「待て、何をしている」
「えいや、凶器を発見したから」
「いやそれはいいが、何故、キノコを入れようとしてるんだ」
「うんやっぱり、キノコも凶器だと思って」
 って思いっきり、鳳華の顔を見る。
「いいですね」
 レンズ交換式カメラを手に、未名月が、笑みを浮かべ振り返る。「むしろ私もキノコの方に興味あるんで、持ち帰って成分の分析しますよ」
 そして、言った。