●リプレイ本文
小さく、深呼吸らしきものをした鈴木庚一(
gc7077)が、「空気‥‥いいな」とか何か言って、隣の香月透子(
gc7078)を見やった。
「そうね」
と、俯いたままの彼女は言った。「確かに私、何処かに療養に連れてってくれないって、言ったわよね、庚一に」
「そうね、言ったね」
「森林浴とか、いいわねって言ったわよね、確かに」
「だからほら、森林浴だ。好きなだけ空気、吸っていいぞ。周りは木ばっかりだ」
「って何をそんなに落ち着いてるのよ!」
と、透子はそこで、噛みつかんばかりの勢いで庚一の肩を掴んだ。「確かに森だわよ! 森林浴だわよ!」
「そうだ。森で森林浴だ」
「だから! 遺体捜すって何よ! 遺体って何よ、っていうか、遺体って何」
「うん落ち着け透子。遺体は、遺体だ」
「しかも腐ってるって何よ! 腐ってるって! 腐ってるって!」
「だから落ち着け透子。腐ってるっていうのはつまり‥‥腐ってるってことだ」
とそこで、「まあまあ! 待て、落ち着け」と一際高飛車な声が、AU−KV「アスタロト」から響き、一同は一瞬え、とか、止まった。
「確かに遺体捜しとはな。あまり好ましい内容じゃない。それは分かる。痛々しいだけだ。そうだろう? そう、遺体だけにな」
とか言って、ふ、とか何か、自分でちょっと笑った壱条 鳳華(
gc6521)は、アスタロトのフェイスガードを開き、凄いどや顔で一同を見渡した。
そしたら何か、ちょうど地図と方位磁石を片手に、現在位置をマーキングしていた未名月 璃々(
gb9751)と目が合った。
「遺体だけに、痛々しい。どうだ、うん?」
って、そこへ明らか空気読めてない感じで、なおもその、全然面白くないギャグを推した。
ちょっと、その場が、凄い静かになった。
「はい」
暫くして未名月が、びっくりするくらい、軽く流した。また、地図に目を落としている。
って透子はとりあえず、「庚一の阿呆ーッ!」とか何か、八つ当たりしておくことにした。
「とにかく私、そんなの絶対いやよっ!! いやいやいやー!」
とか何か叫びながら、庚一の肩を揺さぶる。それに身を任せて、明らか任せ過ぎて、がっくんがっくん庚一の首が揺れる。
「まあ‥‥何だ‥‥」
とかがっくんがっくん揺れながらも、あり得ないくらい無表情に庚一が言う。「あーキメラもついでにいるけど。何か蛍みたいで、綺麗らしいぞ。良かったな、透子」
「良くないわよ! 何がいいのよ! 良くないわよ!」
「あーそー」
とか何か、いい加減代表、みたいな返事を返して、ふと視線を逸らすと、何故かそこに立っていた終夜・無月(
ga3084)と、目が合った。
合ったのだけれど、特にリアクションもなく、じーとかもう人形みたいじゃない、とか思った瞬間、彼はいきなり、覚醒した。みるみる内に、赤い瞳が月を想わせる金色へと変化し、銀髪の狼のような鋭くも気高いオーラを纏う。
とか、え、何でここでいきなり、とか思ってたら何か、「先に掃除しておきますね‥‥」と静かに呟いた彼が、瞬天速を発動し、走り出して行った。
とりあえず、「ほら」とか言って、透子を振り返っておくことにした。
「いやほらって何そのどや顔、やめてくれない。腹立つんだけど」
「いやまあ、何か、掃除してくれるらしいから」
ってもう、はーはいはい、みたいに、透子がこれ見よがしに溜息を吐いた。「もうほんと、私馬鹿。相当馬鹿よ。庚一の言葉にほいほい乗って」
「うんそれはまあ」
「なに、うん? え、なに、うんつったの今、ねえ、うんつったの今」
「いや、まあ何だ。あー、そうそう、ここで取れるキノコも美味しいらしいよ」
「うんいや食べないわよ、そんな得体の知れないキノコ」
透子が、呆れながら言った瞬間だった。
突然、彼女の立つすぐ近くの木の上から、何かがバサーって落ちて来て、「ひーで、出たー!」って絶叫、とか思ったら、普通に覚醒状態のトゥリム(
gc6022)だった。
「うんあのーここのキノコ、何か、駄目らしいよ」
って登場派手だったわりに凄いローテンションに言って、小柄な彼女は、覚醒状態のまま、とことこと去って行く。
「え。なに、どういうこと」
「んーいやまあだから、キノコ駄目だってことだろ。いやあ残念だったな、透子」
「うん食べるって一言も言ってないからね、私」
その頃、一足先に森の奥地へと進んでいた終夜は、何だか良く分からないけれど、見た目はあれ? ホタル? みたいなキメラと遭遇していた。
あと何か、その周りの木の根元に、にょきにょき何か、生えていた。
あ、これですね、これが何か、あのやばいキノコってやつですね、みたいに、彼はそれをすっごい無表情に眺め、それからまた、ふわふわと飛び回るキメラを見た。
鋭い瞳にじーとか見つめられたキメラは、殺気を感じたのかちょっと何かざわざわとしだし、お尻のところをぴか、ぴかと明滅させた。けれど、終夜は明鏡止水を手に、とりあえずまだ、じーとか冷たい観察とか続けていて、そしたら、キメラの尻の明滅が、ぴか、ぴか、から、次第に何か焦ったようにぴかぴかぴかぴかぴかぴかぴかぴか、って最終的にビーム、とか出して来た。
瞬間、終夜は、虚闇黒衣を発動する。彼の身体の周囲が、暗いヴェールに包まれたようになったかと思うと、ビーム攻撃のエネルギーが呆気なくそこへ吸収されていった。
「その命」
剣を握りしめた終夜が、暗いヴェールの中から、一歩、踏み出してくる。「諦めて下さい‥‥」
微笑を浮かべたまま走り出すと、明鏡止水を振りかぶり、そのままばさーって一刀両断しておいて、体制立て直して振り向きざまに生えてるキノコをさっと掴んで、試しに高速で投げ込み食わせてやろうと思って投げたら、ちょうどそこへ「お、キノコがあるじゃないか。美味しそうな匂いもするし、見た目も悪くないな。これは本当は食べられるのではないか」とか何か、暢気に言ってる鳳華が現れ、しかもどういうわけか、上手い具合に終夜の投げたキノコが、彼女の口元へ命中した。
ほんで何か、飛んできたからにはえ、うんじゃ食べるね、くらいの勢いで、鳳華も何か、食っていた。
わりと表情の薄い終夜も思わず何か動きを止め、あーどうしよう、何か食‥‥食っちゃいましたよね、みたいにちょっと、見る。
そこへ遅れて到着したトゥリムも、とりあえずライオットシールドとか構えながら、あ、何か食ってる? みたいに、見た。更にその後に、ダウジング用の振り子にもなるペンデュラムを手に、あーキメラやっぱり出ちゃってますー? みたいな面倒臭そうな表情で現れた未名月も、やっぱり、見た。見たけどすぐ、あ、そうですかーくらいの感じで、ペンデュラムに視線を落とした。
それで何か、わりと皆が見てるなか、「うむ、これは何だ、わりと美味しいじゃないか」とかしっかり咀嚼して、しっかり飲み込んだ鳳華は、次第に、とろんとした目つきになり、相変わらずふわふわとキメラが飛び交う中、突然。
「おおおおお」
とか、叫んだ。
あ、まずいなこれまずいわとか薄っすら全員が思いだしたその時、「わー、何この綺麗な色の光は。ふわふわ飛び交って、あ、もしかしてホタル? 風流ねえー」とか何かのんびり言ってる透子の声が近付いて来て、その瞬間、鳳華の混乱が爆発した。
「お城だー!!」
「えーー!」
「あとごめん透子、それ、キメラだ」
ってそんな状況でもびっくりするくらい落ち着いた庚一が、冷静に透子のメルヘンを訂正した。
「えー! キメラー!」
って慌ててクラウ・ソラスを構えようとしつつも何か上手くいかない透子の元へ、「お城だー! お城が見えるぞ! 私が住むにふさわしいようなエレガントなお城だ! はははは! なんだか楽しくなってきたぞ!」とか何か、鳳華が突進して行く。
「えー! 何この状況! どうしよう、全然分からなーい!」
「だからやっぱり、人の話を聞くのは大事なんだよね。情報収集とか」
とりあえずトゥリムが、ボディガードを発動し、透子の前に出た。そこですかさず未名月が、鳳華に向け、呪歌を発動する。
「とりあえず〜♪ 呪い呪い〜♪ 鳳華さんは〜♪ 呪い呪い〜♪ 押さえておきますんで〜♪ 呪い呪い〜♪ 戦闘は面倒くさいので皆さんに任せますー」
って歌詞の間に何か器用に解説を挟む。
「それでは引き続き」
終夜が、また、キメラに向け走り出す。
トゥリムも無言で、「サプレッサー 」を装着した「クルメタルP−56」を構えると、ぴかぴか光るキメラの尻目掛け、立て続けに弾丸を放った。
「あれでもなんだ、なんかふらふらするっていうか、近づいてるはずなのに遠ざかるというか、おかしいな。ははははは」
ってまだ混乱中の鳳華が、痺れながら笑っている。
「よーしこうなったら。とりあえず当たれば儲けモノ。大剣、振り回し倒してやるんだから!」
クラウ・ソラスをぎっりぎり構えた透子が、包帯の目立つ腕で、ぶんぶん、とそれをやたらめったら振り回し始める。
「透子‥‥お前は取り合えず大人しくしてろって‥‥」
面倒臭そうに言った庚一が、さてやりますか、みたいに白銀の洋弓「アルファル」を構え、影撃ちを発動した。ふわふわと掴みどころのない動きを繰り返すキメラの、一瞬の死角を的確に狙い、撃ち落として行く。
「もう庚一! そこ、邪魔だから!」
とか何か透子が言うのも聞き流し、じりじりとその前へ歩み出しながら、庚一は、キメラへの距離を詰めて行く。
「一応、連れて来たの俺だし‥‥この際前衛後衛云々は無しだな、お前庇うのメインだろ」
そしてまた、矢を放った。
「ホタルか!」
と、我に返った鳳華は、やっぱりまだまだ元気だった。
一応それなりに、戦闘面倒臭かったわーくらいのノリでは疲れている一同を尻目に、「蛍は綺麗だなんだというが、よく見ると見た目は黒い最悪な虫と大して変わらないぞ。私のほうが数倍綺麗で気高く強いことを教えてやろう! だいたいビーム攻撃とは生意気だっ。さあ、出てこい! ホタルめ!」
とか何か、あれ? もしかしてまだ、混乱してますか? くらいの勢いで騒いでいる。
それを、凄い静かに眺める終夜が、「先程は。何だか、申し訳なかったですね」とか何か、憐れみを込めた目で、言った。
でもそんな憐れみには全然気づかない鳳華は、「まあ、何だ。気にしなくていいぞ。あれは、何というか。事故だ。それに意外と、美味かった」サムズアップ、とか、すっかり何か上から目線だった。
「まあでもだいたい、食わないもんね、普通。飛んできたキノコとか」
GooDLuckを発動するトゥリムが、やたら木の上の方を凝視しながら、言う。
「口が開いてますよー」
って、ペンデュラムにじーっと神経を集中しているようにしか見えない未名月が、すかさず、トゥリムに指摘する。
「しかし、井戸、中々見つかりませんね‥‥」
こちらも探査の眼を発動し、辺りを見回す終夜が言った。
「キメラが出たということは、この辺りにある可能性が高そうなんですがねー。死体の臭いにつられてやってくる、ということもあるかも知れませんし」
「あと、手掛かりは人面に見える木、だったか。しかし‥‥あーこう、木ばっかり見てるとどれも人面に見えてくるのが不思議だよな」
「んー」
とか何か、庚一の言葉に頷いた透子は、「でも、顔に見える木って、それはそれで何だか怖いわよね」ってマイルドに言ったあと、一人でハッとしたようにびくつき、「こ、怖くなんかないんだから!」
って必死にまた否定した透子の顔を、じーとかすっごい温度のない瞳で見つめた庚一は、「ああ、そう」とか何か、やがて、そっと視線を逸らせた。
「ねえ人がさ、こう必死に喋ってるのにさ、何なのその覇気のないリアクション」
「いや、別に」
って素っ気ないのはいつもだけど、あ、そ、みたいにその顔を眺めた透子は、突然ころ、と声色を変えた。
「あらー、あそこに生えているキノコ美味しそーう。後で摘んで今日のお礼に庚一に料理して食べさせてあげようかな。きっと喜ぶわよね! 腐乱死体は兎も角、連れてきてくれたのは庚一なりの優しさだし」
「何だろう透子、あれは駄目だわ。俺、あんなんにはなりたくないわ」
「あんなんってどういうことだ」
鳳華がすかさず言ったその瞬間、「あ」と、未名月が声を上げたので、そちらを振り返った。ペンデュラムがぐいーとか何か、前方につられるようにして動いている。
「人間の脳が、動かすらしいですね。無意識に」
未名月の解説に、おーとか何か声が上がった。
「あ、ねぇ! あそこに見える木。マジで顔に見えるんだけど」
早速早足で近づいて行った終夜が、「井戸もありますよ」と、手を上げる。
「じゃ、じゃあ。やっぱりあの木」
「なるほど」とことこ、と寄って行ったトゥリムが、ふむと顎を摘んだ。「ここに薄っすらと最近掘り起こされた形跡もあるね」
「じゃ、じゃあ、ほ、掘ってみてよ」
と、透子が庚一の背後に隠れながら、こそこそ、言う。
「男手は、俺とあんたか」
面倒臭そうに庚一が、終夜を見やる。「キメラは倒しても、正直この辺りは警察がやるべきだよな。本当は」
って同意を求めるつもりで言ったけれど、終夜はもうさっさとスコップを手に黙々と掘り始めている。
「取り合えず面倒くさいが、掘って運ばにゃ始まらんか」
じゃあやりますか、と掘り始めたら、さっそく、何か、腕っぽいもんが出て来た。
「で、出たーッ! 腐乱死体とかやっぱヤダー! もう帰るーっ!」
「んー死体はよく作りましたがぁー、鮮度の低い死体と合うのは解剖以来ですね」
パシャパシャ、と現場写真を撮りながら、未名月が言う。
「それは、あと適当に包んで担架に載せて下さいねー」
「死体、平気なのか、璃々」
鳳華が、やはり少し、顔を顰めながら、言う。
「まー元々、暗殺が稼業でしたので、遺体は構いませんが。ただ運ぶとか、重労働嫌なんですよね、疲れますしー、他の皆さんにお任せしますー」
「でもこれはやっぱり、少し生々しいな。多少時間がたってる分アレな感じだし。せめてどうか安らかに眠れることを、願うよ」
とかやってたら、何時の間にか、井戸の中へ入っていたらしいトゥリムが、「愛が憎しみに‥‥こんなのバグアには絶対見せたくないね」とか何か言いながら、戻って来た。はいいけど、何か袋のような物を手袋をした手に持っていて、そろーっと地面に生えているキノコを一個、そこに入れようとしている。
「待て、何をしている」
「えいや、凶器を発見したから」
「いやそれはいいが、何故、キノコを入れようとしてるんだ」
「うんやっぱり、キノコも凶器だと思って」
って思いっきり、鳳華の顔を見る。
「いいですね」
レンズ交換式カメラを手に、未名月が、笑みを浮かべ振り返る。「むしろ私もキノコの方に興味あるんで、持ち帰って成分の分析しますよ」
そして、言った。