●リプレイ本文
「森の中にひっそりと佇む、幻想的な美しさすら感じられる湖の前に、今、一人の勇者が降り立った」
静かな湖畔に、一人の青年の声が響く。
とか思ってたらいきなり彼は、ぴょーんとか、ちょっと飛び跳ねて、「とーぅ!」とか、唐突に叫んだ。
ら、わりと何かもう、ドキっとするくらい響いて、しかもその声にびっくりしたらしい森の鳥とかが、ばさばさ! って凄い「えーいやもうなにー」みたいに、迷惑そうに木々から飛んで行くとか、凄い大事になった感があったので、びびったジリオン・L・C(
gc1321)は、心持ち、声のトーンを落とした。
「俺様は、ジリオン、ラヴ、クラフトゥ! 未来の勇者だっ!」
そして、ちゃきーんとか、自分的勇者のポーズを、決める。
「ふうん。まあわりと気持ちの良い所ではありますねー」
って、緋本 かざね(
gc4670)が、ジリオンのくだりには完全に触れないっていうか、一切スルーの風情で湖に近づき、んーとか大きく背伸びをし、深呼吸をした。
「でもこの湖、聞いてた通りあまりにも美しすぎて、見てると何か、変な気分になってくるっていうか。何だろうこの気分」
そして早速じーとか何か、美しい水面に魅入ったかざねは、珍しく真剣な表情を浮かべる。
「‥‥私、何だか‥‥」
そしてゆっくりとしゃがみ込み、相変わらず真剣な表情で、言った。
「お菓子、食べたい」
「うんもう何でもいいだけどさ」
って、とりあえずそこまではわりと頑張って無関心を装っていたヤナギ・エリューナク(
gb5107)が、自由過ぎる二人に痺れを切らしたのか、腕を組んだ格好で言った。「とりあえず仕事しねえ? 仕事。なあ?」
ってつい今しがたまで隣に立っていた鈴木悠司(
gc1251)に話を振ろうと思ったら、何故かそこに、悠司がいない。「え、あれ」とか何かヤナギが辺りを見回してる間にも、「あ、はい、すいません」とか何か、すっかり今までのくだり終わりましたーみたいに手を払いながら立ち上がったかざねは、「そういえば今回は青いヤツでしたよね」とか何か、強化人間だという怪盗について、述べた。そして、「でも!」とか何か、試作型水陸両用槍「蛟」を取り出し、掲げる。
「これで水に入られたって、大丈夫ですからね。ちゃーんと用意してきてるんですから! 水中用の武器も持ってきたし、水着も下に着てきてるし!」
って騒いでるかざねを、何だろうこの人、みたいに、ちら、とか見やった天水・夜一郎(
gc7574)は、独り言に近い声でぼそぼそと呟く。「怪盗か」
「そうそう、青い怪盗なんですって。全く、盗みをするやつなのに派手って、おかしな話ですよ! まぁ、私は派手なほうが好きですけどね!」
ってまたそれを全然聞いてない天水は、「真っ当に金を稼がないとは許し難いな。盗品で荒稼ぎなどと‥‥奴らは金を冒涜している。正さねば」とか何か、わりと静かだけど、あれ何かちょっと怒ってんですか、なるほど正義ですね、とか思ったら、「だから俺が高級ターバンとやらを取り戻して、報酬を貰って、生活費に当てるんだ。報酬は‥‥多めだ」ってちっちゃく拳握った辺りで、何か違う予感がした。
「物は確か、ターバンか」
もう悠司捜すのいいわーみたいに、すっかり諦めたヤナギが口を挟む。
すると「金の織り込まれたターバンだ!」って、すかさずジリオンが、訂正した。それから、誰も聞いてないのに、「俺様の勇者街道には、金が似合うんだが」とか何か言いだして、「何だったら、青も‥‥よい」とか何か、凄い遠い目で、湖の方を振り返る。
「うわやべえ。貰う気だぞ。あいつ目がやべえ」
「っていうか、ヤナギさん」
ってそこでいきなり、すぐ隣から悠司の声が聞こえ、ヤナギはぎょっとした。
「うわ、何だよお前いきなり!」
湖に落ちそうになるところを寸での所で踏みとどまり、ぎろ、と真横を睨みつけたら、丁度チッとか舌打ちしてるところに遭遇する。けれど、彼は、すぐさま、「ん? 何」とか何か、何事もなかったかのように、すっかり笑顔を浮かべた。
「うんいや、お前今、舌打ちしたのばればれだからさ」
「あ。あそう?」
「って言ってんのが信じられないくらいには、ばれてるぜ」
「いやまー何かさ。不意をついて、前の仕返しとかしてやろうと思ったんだけど。やっぱりそこで踏みとどまるのが、ヤナギポテンシャルなんだよね」
「つかお前、何処行ってたわけ」
「いや何か、あっちに人影があったから」
って、悠司が森の方を指さすので、「強化人間でも現れたか」とか何か言って近づいて行ったら、何かが物凄いぐつぐつ煮られている鍋の前に座ったUNKNOWN(
ga4276)が、兎皮の黒帽子を弄りながら優雅に立ちあがった。
「遅かったな」
「わーこんな所で得体の知れないことをしてるのに、何だろうこの凄い優雅さ」
「これは今」
咥えた煙草を手にとり、ふうと煙を吐き出してから、彼は得体の知れない余裕と冷静さを漂わせながら、いう。「手持ちのターバンを青く染めているところだ」
「え」
「青いターバンが必要なのだろう」
「えーおっとー。作る気だよどうするー」
「C16H8N2Na2O8S2」
とかいきなりUNKNOWNが、何事かをそっと呟いた。
あ、呪文ですね、呪文なんですね、呪いとかかけたんですね、と、悠司は思った。
「C16H8N2Na2O8S2。インジゴカルミンの数値記号だ。色的にはジーンズを考えて貰えると判りやすい。綺麗に染まるはずだよ」
「わーどうしよう、冷静に考えたら凄いおかしいのに、何でか知的な雰囲気しか感じられない! 俺、ヤバいよ、洗脳されてるよ! ヤナギさん!」
って悠司が見たら、ヤナギはもう全然こっちの話聞いてなくて、一体何をしているのかと言えば、森の方をじーっと見つめている。
やがて、「いやだからそれは、白が油断してたからでしょ。あいつらアホなんだって、俺らはそんな、ないない。ここ発見されるとか、絶対ないってそんな」とか何か、若い男の物っぽい声が近付いて来た。それは、どっからどう見ても完全に青い、二人組の怪盗の姿だった。
「だから、俺らは全然平気。白とかと一緒にしないでほしいよねーって、どわーー!! 何だお前らー!」
って思いっきりもう、多分白い怪盗の悪口とか言ってたわりに、油断しきった表情で現れたアホ丸出しの青い怪盗は、そこにぞろぞろとたむろする能力者達一同の姿を見て、あり得ないくらいキョドり、素っ頓狂な声を上げた。
「いやもう何だろう。この人らのっけからアホ過ぎて、可哀想になってきたよ、俺」
「おいお前ら。アホの相手してる暇ねえんだよ。さっさとターバン出せ、オラ」
「何ー! そうか! 分かったぞ! 貴様ら能力者だな!」
「いやもうそうだよ! 何だよ! いちいち苛々すんだよお前ら!」
そこへ、ぞろぞろ、とかざね、ジリオン、天水の三人が、あ、出ました? くらいの勢いで寄ってくる。それをおろおろと見比べた二人の怪盗は、「くそー! ターバンは渡さないぞー! 見ていろー!」
とか何か叫んで、ばしゃーんと湖の中に身を投げた。
「ハハハ! これでどうだ! 貴様らに俺達の動きが見えるかなー!」
「な。何だと‥‥そ、そんな馬鹿な‥‥」
愕然としたように、天水が呟く。「あ、あいつら‥‥み、見えすぎるくらい、見えているぞ‥‥!」
「物凄い青いですからねー。まああたしは、派手な方が好きですけどね!」
「いやもう何だろう。水だから水色って安直過ぎるし、だいたい水ってもう透明じゃん。余計に目立つじゃん。なに馬鹿? ねえ馬鹿? あいつら、馬鹿なの?」
「逆にがんがん目立ってるのに、残念過ぎるよね。どうしよう俺もう何か、本格的に泣けて来た」
それからふと、自分の持ってきた荷物を振り返り「何より」とか何か、悠司は呟く。「サーフパンツ履いてさ、エアタンクと水中剣とか、準備万端で来た自分に泣ける」
「ふはは! そんなもの、この俺様の勇者フィールドがあれば、敵ではない!」
そしたらそこで、すっかり覚醒状態に入ったジリオンが飛び出し、「おぉぉ‥‥!! 勇者パワー全開!! 勇者! フィーーールド!」
とか何か、大層な名前のわりに、結構普通に、バイブレーションセンサーを発動した。「さあ! これでどうだ! 貴様の動きなど、俺様の勇者フィールドの前には、丸見えだー!」
「いやいやいやいや! そんなドヤ顔してるけど、それなくても丸見えだから! それ要らねえって。おい。おい、ジリオン、大丈夫か」
「どうしよう。何か若干同じ匂いが」
とかやってたら、湖を見つめるジリオンの様子がいきなり何かおかしくなった。
ふらふらと水面に引き寄せられて行ったかと思うと、湖畔を覗き込み、きりっ、とか、どやっとか何か、ポーズを決め始める。
「‥‥美し‥‥いや、勇ましい勇者フェイス」
「えちょ、え」
「そうだ。俺様に足りないのは、ライバル! そして、ヒロイン! ああ、運命の女神よ、俺様の勇者街道の前にいつ現れるのだ‥‥俺様はこんなにも‥‥」
「おっとー! ジリオン様が、自然パワーの虜になってしまったー! よおおおし! ここは、私の出番ですね!」
とか何か、やたら張り切って前へ飛び出たかざねが、「こんな日のために泳げるように頑張ったんですからね! 見ててくださいよー! 私の華麗な水中戦をっ! 5mくらいはよゆーです!」
ってやめときゃいいのにドボーンとか飛び込んで、「うわー! 足つかないー! 怖いよー!」って、すっかり金槌っぷりを披露する。
「ハッ! 俺様としたことが!」
そこで我に返ったジリオンが、「よし、今助けるぞ、かざね!」とか何か叫び、縄! 縄! とか辺りを見回した。
「これを、使いたまえ」
相変わらず、あり得ないくらい落ち着いたままのUNKNOWNが、やっぱりいつでも優雅に、細荒縄を差し出した。「荒縄データより研究開発した荒縄だ。合成繊維を織込み、肌触りが一段と良くなった。持ち運びや取扱もし易い」
「そうか! よし、有難い! さあかざね、掴め!」
「わっぷわっぷわっぷ」
「よし、行くぞおおお! 勇者、タッコォォォ! 明日に向かって瞬天速ー!」
「いやもう何だよこれ、どうすんだよ、強化人間全く関係ねえよ」
「あ! ヤナギさん! アレ見て!」
そして、悠司が指をさした方向を見ると、陸地近くの湖表面に、ぷか、とすっごい無表情な顔だけ出して佇む終夜・無月(
ga3084)の姿があった。
「なにー! もしかしてずっとあそこに居たのかー! やるなー!」
とか何かジリオンが騒いでいるのを余所に、浮いていた終夜の顔が、水面に消えた。と思ったら、試作型水陸両用アサルトライフルが発射されるドーンとかいう音が地鳴りのように、響いた。
そして、終夜の身体が、みるみる間に強化人間へと近づいて行く。
「しっかし、あの強化人間の馬鹿さ加減さ。偽のターバンとかで釣でもすりゃ、引っ掛かってくるンじゃねェの?」
「使うか」
UNKNOWNが静かに、何時の間にか染め終わっていたらしい青いターバンを差し出してくる。
それを暫く無言で見つめ、「いや何か、やめとくわ」とか何か、ヤナギはそっと目を逸らす。
その間にも、終夜がゆらゆら、と敵を翻弄するような動きで、強化人間を苛立たせていた。
「くそー! 俺達より、泳ぎが上手いぞあいつー! 逃がすかー!」
「アホ二人組、必死だね」
見守る悠司の隣で、ガチャン、とヤナギがギュイターをリロードした。
「湖に向けてギュイターの乱射とかしてやるか。ほら出てきてみろよ、強化人間サンよぉ」
「近づいてきてるな。私も手伝おう」
エネルギーキャノンを両手で構えたUNKNOWNが、まだまだ優雅にヤナギの隣に並ぶ。「そういえば、こういう漁法があったな」
そして、陸までもう間近、というところで、終夜が豪力発現を発動し、豪快な蹴りを強化人間へとぶつけた。
どおおん、と盛大な水飛沫が上がったかと思うと、ベチャーンとか、強化人間の身体が陸地に振って来る。
そこへ、天水が、瞬天速を発動し一気に駆け寄った。「‥‥覚悟」と、素早くその喉元に尖槍コーカサスの先を突き付ける。
ギュイターを構えたヤナギもすぐさま駆け寄り、「悪ィケド、捕まえたゼ? もう逃がしゃしねェ」と、ニヤリと酷薄な笑みを浮かべたかと思うと、その脚を、ドンと撃ち抜いた。
「さあ、ターバンの在り処を吐いて貰うゼ? もちろん素直に吐かねえなら、それなりの痛ェ思いはして貰うかもしれねェケドな」
「ああ。湖の女神さま。ヤナギさんがもっと俺に優しくなります様に」
湖に向かい両手を合わせ、悠司が呟く。
「なに、祈り‥‥」
目ざとくその様子を発見した天水が、そうか、みたいにふと湖を見やった。
それから、ぼそぼそ、と言う。
「傭兵として装備を充実させようとすると金が飛んでいく。だが装備をケチると仕事からの生還率が低くなる。どうするべきか‥‥教えてくれ、女神。この湖にコーカサスを落とせば、その湖の女神とやらの手によってレベル20くらいにパワーアップした金のコーカサスになって戻ってきたり‥‥」
「あ、えっとあのー。わりと本気にしちゃったところごめん、天水さん。祈りとか女神は、全然無い‥‥かなあ」
とか言った悠司の顔と湖を抑揚のない表情で見比べた天水は、「これが」とか何か呟いて、俯いた。
「俺としたことが‥‥そうかこれが‥‥自然パワーか。侮れん」
「あれ、もしかしてちょっと天然?」
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「それにしてもさー。強化人間だから自爆には注意とか思ってたけど。あの人達、ふつーにターバンの在り処吐いて、殺されちゃったね」
悠司が、残念な物を見るかのような目で、かざねの手の中にあるターバンを見つめた。「相変わらずグラスとの関係も何か、曖昧だったし‥‥」
「いやもうアホなんだろ、アホ」
ってヤナギは、もうその言葉で全てが片付くと思っているようだった。
「でもこれ、ふわふわして、凄い肌触りなめらかですよー」
すべすべ、とかちょっとやってみちゃいましたーみたいに頬ずりするかざねを羨ましそうにジリオンが見つめる。
「俺様の勇者街道には、金が、似合うんだが。やっぱり‥‥青も、よい」
「やべえ。やっぱりあいつ目がやべえ、狙ってる」
とか何か、皆が喋る中、天水は、一人、これで報酬多目か‥‥とか何か、心中でこっそり思った。そして少しだけ空を見つめると、今月の生活費を頭の中で計算する。
「もっと、稼がないとな」
その頃、湖畔の周りを優雅に歩くUNKNOWNは、一人そこにポツンと佇む終夜の姿を見つけ、「どうしたんだ」と、近づいていた。
「俺は」
終夜は、水面に映る、今の自分の姿を見つめていた。
「あの日望んだ様に強く成れているだろうか‥‥」
そして、そんなことを、呟いた。