タイトル:ランドリーと青の怪盗マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/19 19:58

●オープニング本文






 コインランドリーの床にモップ掛けする江崎を、ぼんやり眺めていた西田は、不意に、言った。
「あれ、何その腕、どうしたの」
 半袖Tシャツの袖口からちらちらと覗く、赤黒い傷口を指さす。
「えーあー」
 とか何か、動きを止めた江崎は、自分の腕をちらっと見やり、それからモップの柄に顎を預けた。
「何かさー。こないだ、原チャで走ってる時にさ」
「え、事故ったの」
「いや何か、青い日傘さした、すっごい美人が、歩いてて。ほんでわーすげえ美人ーとか思って、何か見てて走ってたら、前方不注意で思いっきり停車してる車とぶつかりそうになって、避けたら、こけちゃったよね」
 とか言った江崎の顔を、暫く何か、眺めた。
「最低」
「知ってる」
「もう何か最悪、美人に見惚れてもいいけど、最後こけてるあたりが、最低」
「あ、そういえばさ、青といえばさ。来てるよ、例の七色の怪盗。白の次は、青です」
 とか何か言って、一瞬、ランドリーの奥の扉の向こうに消えた江崎は、茶色い封筒を持って戻って来て、それを差し出してきた。
「はいどうぞ」
 江崎はコインランドリーの管理人という、実態の良く分からない仕事の傍ら、仲介業のような事をやっていた。つまり、キメラの出る地域に眠るお宝や、一般人の立ち入りが困難な場所にある曰くつきの品などの回収を請け負い、ULTに勤務する西田に、能力者への仕事として斡旋させるという仕事だ。
 こんなご時世の中にあっても、好事家や収集家は存在するらしく、多少の出費をしても手に入れたい物がある、と江崎の元を訪れる人間は、少なくないらしい。
「ねえもう何それ、無理矢理じゃない? っていうか、最悪無理矢理、青の怪盗に繋げようとして、こけたんじゃないのっていうか、嘘なんじゃないの、そこのくだり」
「ねえ西田」
「なに」
「うん何ていうか、俺のことが好きで、俺のイメージが壊れるのが嫌だって気持ちは分かるんだけど、さっきのはごめん、本当のことだから」
「いや何だろうそのマイルドな勘違い。すっごい苛っとする」
「うんでね。また今回も、盗まれたものを取り戻して来て欲しいっていう、依頼なんだけど」
「七色の怪盗とか呼ばれてる、怪盗集団のことでしょ。バグア派の人間が、バグアと手を組んで、その怪盗集団を使って、いろんなお宝を盗んではお金に換えて、いろいろと荒稼ぎをしてるらしいって話の、うっさんくさい」
「しかも若干こう何か、頭おかしいんじゃないかっていう匂いがする人達ね」
「今回取り戻してくるのは? えーっと」
 西田は、差し出された茶封筒から依頼の概要が書かれた書面を取り出し、検める。「青いターバン。いや、何でターバン」
「何かね。金とかが織り込まれた、相当高いターバンらしいよ」
「ふうん。で、場所は。えー、森の中にひっそりとある湖だって。何、河童? 河童なの、この人達」
「いや河童は川でしょうよ」
「いや何で今そこそんな若干切れて訂正したのよ」
「しかもこの湖ね、噂だと何かこう、湖に映った自分の姿を眺めていると、今抱えてる悩みとかを、自然に吐露しまったりするらしいよ」
「ああ、自然パワーね」
「そうそう自然パワー。怖いよね、自然って」
「この怪盗も、そんな場所アジトにするなんて、自分を見つめ直したくなった何かがあったのかな」
「いや単に青いからだけなんじゃない?」
「いやいやいやいや、前も言ったけど、青だから水って、それちょっと安直でしょ。だいたい、もっと青いもん他にあるでしょうよ」
「青い日傘とかね」
「そうそう、青い日傘とか。ってそれはいや俺賛同しないから」
「何でよ。めっちゃ青かったよ。もう、真っ青だったよ。ああ、これぞ青ですね、っていう、青い日傘だったよ」
「だって俺、見てないもん」
「前回同様、物は、強化人間が持ってるか何処かに隠してるかは、調べられてない。で、強化人間が出かけてる時を見計らってこっそり物だけ取り戻してくるっていうのもさ、ありっちゃ、ありだけど、でもどうせなら、倒しておいた方が、いいんじゃないの、みたいな感じで」
「周りの景色とかもきれいだし、こう何か、自分を見つめるいい機会になったり、するといいよね」
「うんただ、依頼はそれとはぜんっぜん関係ない、強化人間倒して、ターバン持って帰ってくるっていう内容だけどね。ってことで、今回は、青の怪盗を倒して、青いターバンを探し出してくること。宜しく頼むよ」








●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
銀華(gb5318
26歳・♀・FC
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
天水・夜一郎(gc7574
14歳・♂・GP

●リプレイ本文






「森の中にひっそりと佇む、幻想的な美しさすら感じられる湖の前に、今、一人の勇者が降り立った」
 静かな湖畔に、一人の青年の声が響く。
 とか思ってたらいきなり彼は、ぴょーんとか、ちょっと飛び跳ねて、「とーぅ!」とか、唐突に叫んだ。
 ら、わりと何かもう、ドキっとするくらい響いて、しかもその声にびっくりしたらしい森の鳥とかが、ばさばさ! って凄い「えーいやもうなにー」みたいに、迷惑そうに木々から飛んで行くとか、凄い大事になった感があったので、びびったジリオン・L・C(gc1321)は、心持ち、声のトーンを落とした。
「俺様は、ジリオン、ラヴ、クラフトゥ! 未来の勇者だっ!」
 そして、ちゃきーんとか、自分的勇者のポーズを、決める。
「ふうん。まあわりと気持ちの良い所ではありますねー」
 って、緋本 かざね(gc4670)が、ジリオンのくだりには完全に触れないっていうか、一切スルーの風情で湖に近づき、んーとか大きく背伸びをし、深呼吸をした。
「でもこの湖、聞いてた通りあまりにも美しすぎて、見てると何か、変な気分になってくるっていうか。何だろうこの気分」
 そして早速じーとか何か、美しい水面に魅入ったかざねは、珍しく真剣な表情を浮かべる。
「‥‥私、何だか‥‥」
 そしてゆっくりとしゃがみ込み、相変わらず真剣な表情で、言った。
「お菓子、食べたい」
「うんもう何でもいいだけどさ」
 って、とりあえずそこまではわりと頑張って無関心を装っていたヤナギ・エリューナク(gb5107)が、自由過ぎる二人に痺れを切らしたのか、腕を組んだ格好で言った。「とりあえず仕事しねえ? 仕事。なあ?」
 ってつい今しがたまで隣に立っていた鈴木悠司(gc1251)に話を振ろうと思ったら、何故かそこに、悠司がいない。「え、あれ」とか何かヤナギが辺りを見回してる間にも、「あ、はい、すいません」とか何か、すっかり今までのくだり終わりましたーみたいに手を払いながら立ち上がったかざねは、「そういえば今回は青いヤツでしたよね」とか何か、強化人間だという怪盗について、述べた。そして、「でも!」とか何か、試作型水陸両用槍「蛟」を取り出し、掲げる。
「これで水に入られたって、大丈夫ですからね。ちゃーんと用意してきてるんですから! 水中用の武器も持ってきたし、水着も下に着てきてるし!」
 って騒いでるかざねを、何だろうこの人、みたいに、ちら、とか見やった天水・夜一郎(gc7574)は、独り言に近い声でぼそぼそと呟く。「怪盗か」
「そうそう、青い怪盗なんですって。全く、盗みをするやつなのに派手って、おかしな話ですよ! まぁ、私は派手なほうが好きですけどね!」
 ってまたそれを全然聞いてない天水は、「真っ当に金を稼がないとは許し難いな。盗品で荒稼ぎなどと‥‥奴らは金を冒涜している。正さねば」とか何か、わりと静かだけど、あれ何かちょっと怒ってんですか、なるほど正義ですね、とか思ったら、「だから俺が高級ターバンとやらを取り戻して、報酬を貰って、生活費に当てるんだ。報酬は‥‥多めだ」ってちっちゃく拳握った辺りで、何か違う予感がした。
「物は確か、ターバンか」
 もう悠司捜すのいいわーみたいに、すっかり諦めたヤナギが口を挟む。
 すると「金の織り込まれたターバンだ!」って、すかさずジリオンが、訂正した。それから、誰も聞いてないのに、「俺様の勇者街道には、金が似合うんだが」とか何か言いだして、「何だったら、青も‥‥よい」とか何か、凄い遠い目で、湖の方を振り返る。
「うわやべえ。貰う気だぞ。あいつ目がやべえ」
「っていうか、ヤナギさん」
 ってそこでいきなり、すぐ隣から悠司の声が聞こえ、ヤナギはぎょっとした。
「うわ、何だよお前いきなり!」
 湖に落ちそうになるところを寸での所で踏みとどまり、ぎろ、と真横を睨みつけたら、丁度チッとか舌打ちしてるところに遭遇する。けれど、彼は、すぐさま、「ん? 何」とか何か、何事もなかったかのように、すっかり笑顔を浮かべた。
「うんいや、お前今、舌打ちしたのばればれだからさ」
「あ。あそう?」
「って言ってんのが信じられないくらいには、ばれてるぜ」
「いやまー何かさ。不意をついて、前の仕返しとかしてやろうと思ったんだけど。やっぱりそこで踏みとどまるのが、ヤナギポテンシャルなんだよね」
「つかお前、何処行ってたわけ」
「いや何か、あっちに人影があったから」
 って、悠司が森の方を指さすので、「強化人間でも現れたか」とか何か言って近づいて行ったら、何かが物凄いぐつぐつ煮られている鍋の前に座ったUNKNOWN(ga4276)が、兎皮の黒帽子を弄りながら優雅に立ちあがった。
「遅かったな」
「わーこんな所で得体の知れないことをしてるのに、何だろうこの凄い優雅さ」
「これは今」
 咥えた煙草を手にとり、ふうと煙を吐き出してから、彼は得体の知れない余裕と冷静さを漂わせながら、いう。「手持ちのターバンを青く染めているところだ」
「え」
「青いターバンが必要なのだろう」
「えーおっとー。作る気だよどうするー」
「C16H8N2Na2O8S2」
 とかいきなりUNKNOWNが、何事かをそっと呟いた。
 あ、呪文ですね、呪文なんですね、呪いとかかけたんですね、と、悠司は思った。
「C16H8N2Na2O8S2。インジゴカルミンの数値記号だ。色的にはジーンズを考えて貰えると判りやすい。綺麗に染まるはずだよ」
「わーどうしよう、冷静に考えたら凄いおかしいのに、何でか知的な雰囲気しか感じられない! 俺、ヤバいよ、洗脳されてるよ! ヤナギさん!」
 って悠司が見たら、ヤナギはもう全然こっちの話聞いてなくて、一体何をしているのかと言えば、森の方をじーっと見つめている。
 やがて、「いやだからそれは、白が油断してたからでしょ。あいつらアホなんだって、俺らはそんな、ないない。ここ発見されるとか、絶対ないってそんな」とか何か、若い男の物っぽい声が近付いて来た。それは、どっからどう見ても完全に青い、二人組の怪盗の姿だった。
「だから、俺らは全然平気。白とかと一緒にしないでほしいよねーって、どわーー!! 何だお前らー!」
 って思いっきりもう、多分白い怪盗の悪口とか言ってたわりに、油断しきった表情で現れたアホ丸出しの青い怪盗は、そこにぞろぞろとたむろする能力者達一同の姿を見て、あり得ないくらいキョドり、素っ頓狂な声を上げた。
「いやもう何だろう。この人らのっけからアホ過ぎて、可哀想になってきたよ、俺」
「おいお前ら。アホの相手してる暇ねえんだよ。さっさとターバン出せ、オラ」
「何ー! そうか! 分かったぞ! 貴様ら能力者だな!」
「いやもうそうだよ! 何だよ! いちいち苛々すんだよお前ら!」
 そこへ、ぞろぞろ、とかざね、ジリオン、天水の三人が、あ、出ました? くらいの勢いで寄ってくる。それをおろおろと見比べた二人の怪盗は、「くそー! ターバンは渡さないぞー! 見ていろー!」
 とか何か叫んで、ばしゃーんと湖の中に身を投げた。
「ハハハ! これでどうだ! 貴様らに俺達の動きが見えるかなー!」
「な。何だと‥‥そ、そんな馬鹿な‥‥」
 愕然としたように、天水が呟く。「あ、あいつら‥‥み、見えすぎるくらい、見えているぞ‥‥!」
「物凄い青いですからねー。まああたしは、派手な方が好きですけどね!」
「いやもう何だろう。水だから水色って安直過ぎるし、だいたい水ってもう透明じゃん。余計に目立つじゃん。なに馬鹿? ねえ馬鹿? あいつら、馬鹿なの?」
「逆にがんがん目立ってるのに、残念過ぎるよね。どうしよう俺もう何か、本格的に泣けて来た」
 それからふと、自分の持ってきた荷物を振り返り「何より」とか何か、悠司は呟く。「サーフパンツ履いてさ、エアタンクと水中剣とか、準備万端で来た自分に泣ける」
「ふはは! そんなもの、この俺様の勇者フィールドがあれば、敵ではない!」
 そしたらそこで、すっかり覚醒状態に入ったジリオンが飛び出し、「おぉぉ‥‥!! 勇者パワー全開!! 勇者! フィーーールド!」
 とか何か、大層な名前のわりに、結構普通に、バイブレーションセンサーを発動した。「さあ! これでどうだ! 貴様の動きなど、俺様の勇者フィールドの前には、丸見えだー!」
「いやいやいやいや! そんなドヤ顔してるけど、それなくても丸見えだから! それ要らねえって。おい。おい、ジリオン、大丈夫か」
「どうしよう。何か若干同じ匂いが」
 とかやってたら、湖を見つめるジリオンの様子がいきなり何かおかしくなった。
 ふらふらと水面に引き寄せられて行ったかと思うと、湖畔を覗き込み、きりっ、とか、どやっとか何か、ポーズを決め始める。
「‥‥美し‥‥いや、勇ましい勇者フェイス」
「えちょ、え」
「そうだ。俺様に足りないのは、ライバル! そして、ヒロイン! ああ、運命の女神よ、俺様の勇者街道の前にいつ現れるのだ‥‥俺様はこんなにも‥‥」
「おっとー! ジリオン様が、自然パワーの虜になってしまったー! よおおおし! ここは、私の出番ですね!」
 とか何か、やたら張り切って前へ飛び出たかざねが、「こんな日のために泳げるように頑張ったんですからね! 見ててくださいよー! 私の華麗な水中戦をっ! 5mくらいはよゆーです!」
 ってやめときゃいいのにドボーンとか飛び込んで、「うわー! 足つかないー! 怖いよー!」って、すっかり金槌っぷりを披露する。
「ハッ! 俺様としたことが!」
 そこで我に返ったジリオンが、「よし、今助けるぞ、かざね!」とか何か叫び、縄! 縄! とか辺りを見回した。
「これを、使いたまえ」
 相変わらず、あり得ないくらい落ち着いたままのUNKNOWNが、やっぱりいつでも優雅に、細荒縄を差し出した。「荒縄データより研究開発した荒縄だ。合成繊維を織込み、肌触りが一段と良くなった。持ち運びや取扱もし易い」
「そうか! よし、有難い! さあかざね、掴め!」
「わっぷわっぷわっぷ」
「よし、行くぞおおお! 勇者、タッコォォォ! 明日に向かって瞬天速ー!」
「いやもう何だよこれ、どうすんだよ、強化人間全く関係ねえよ」
「あ! ヤナギさん! アレ見て!」
 そして、悠司が指をさした方向を見ると、陸地近くの湖表面に、ぷか、とすっごい無表情な顔だけ出して佇む終夜・無月(ga3084)の姿があった。
「なにー! もしかしてずっとあそこに居たのかー! やるなー!」
 とか何かジリオンが騒いでいるのを余所に、浮いていた終夜の顔が、水面に消えた。と思ったら、試作型水陸両用アサルトライフルが発射されるドーンとかいう音が地鳴りのように、響いた。
 そして、終夜の身体が、みるみる間に強化人間へと近づいて行く。
「しっかし、あの強化人間の馬鹿さ加減さ。偽のターバンとかで釣でもすりゃ、引っ掛かってくるンじゃねェの?」
「使うか」
 UNKNOWNが静かに、何時の間にか染め終わっていたらしい青いターバンを差し出してくる。
 それを暫く無言で見つめ、「いや何か、やめとくわ」とか何か、ヤナギはそっと目を逸らす。
 その間にも、終夜がゆらゆら、と敵を翻弄するような動きで、強化人間を苛立たせていた。
「くそー! 俺達より、泳ぎが上手いぞあいつー! 逃がすかー!」
「アホ二人組、必死だね」
 見守る悠司の隣で、ガチャン、とヤナギがギュイターをリロードした。
「湖に向けてギュイターの乱射とかしてやるか。ほら出てきてみろよ、強化人間サンよぉ」
「近づいてきてるな。私も手伝おう」
 エネルギーキャノンを両手で構えたUNKNOWNが、まだまだ優雅にヤナギの隣に並ぶ。「そういえば、こういう漁法があったな」
 そして、陸までもう間近、というところで、終夜が豪力発現を発動し、豪快な蹴りを強化人間へとぶつけた。
 どおおん、と盛大な水飛沫が上がったかと思うと、ベチャーンとか、強化人間の身体が陸地に振って来る。
 そこへ、天水が、瞬天速を発動し一気に駆け寄った。「‥‥覚悟」と、素早くその喉元に尖槍コーカサスの先を突き付ける。
 ギュイターを構えたヤナギもすぐさま駆け寄り、「悪ィケド、捕まえたゼ? もう逃がしゃしねェ」と、ニヤリと酷薄な笑みを浮かべたかと思うと、その脚を、ドンと撃ち抜いた。
「さあ、ターバンの在り処を吐いて貰うゼ? もちろん素直に吐かねえなら、それなりの痛ェ思いはして貰うかもしれねェケドな」
「ああ。湖の女神さま。ヤナギさんがもっと俺に優しくなります様に」
 湖に向かい両手を合わせ、悠司が呟く。
「なに、祈り‥‥」
 目ざとくその様子を発見した天水が、そうか、みたいにふと湖を見やった。
 それから、ぼそぼそ、と言う。
「傭兵として装備を充実させようとすると金が飛んでいく。だが装備をケチると仕事からの生還率が低くなる。どうするべきか‥‥教えてくれ、女神。この湖にコーカサスを落とせば、その湖の女神とやらの手によってレベル20くらいにパワーアップした金のコーカサスになって戻ってきたり‥‥」
「あ、えっとあのー。わりと本気にしちゃったところごめん、天水さん。祈りとか女神は、全然無い‥‥かなあ」
 とか言った悠司の顔と湖を抑揚のない表情で見比べた天水は、「これが」とか何か呟いて、俯いた。
「俺としたことが‥‥そうかこれが‥‥自然パワーか。侮れん」
「あれ、もしかしてちょっと天然?」





「それにしてもさー。強化人間だから自爆には注意とか思ってたけど。あの人達、ふつーにターバンの在り処吐いて、殺されちゃったね」
 悠司が、残念な物を見るかのような目で、かざねの手の中にあるターバンを見つめた。「相変わらずグラスとの関係も何か、曖昧だったし‥‥」
「いやもうアホなんだろ、アホ」
 ってヤナギは、もうその言葉で全てが片付くと思っているようだった。
「でもこれ、ふわふわして、凄い肌触りなめらかですよー」
 すべすべ、とかちょっとやってみちゃいましたーみたいに頬ずりするかざねを羨ましそうにジリオンが見つめる。
「俺様の勇者街道には、金が、似合うんだが。やっぱり‥‥青も、よい」
「やべえ。やっぱりあいつ目がやべえ、狙ってる」
 とか何か、皆が喋る中、天水は、一人、これで報酬多目か‥‥とか何か、心中でこっそり思った。そして少しだけ空を見つめると、今月の生活費を頭の中で計算する。
「もっと、稼がないとな」
 その頃、湖畔の周りを優雅に歩くUNKNOWNは、一人そこにポツンと佇む終夜の姿を見つけ、「どうしたんだ」と、近づいていた。
「俺は」
 終夜は、水面に映る、今の自分の姿を見つめていた。
「あの日望んだ様に強く成れているだろうか‥‥」
 そして、そんなことを、呟いた。