タイトル:ランドリーと紫の怪盗マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/03 10:12

●オープニング本文





 テレビのリモコンを裏返し、入っている電池をごろごろさせてる西田の傍で江崎は、何かやたらチェストの引き出しの中をごそごそとやっていた。
「ねえ」
 リモコンの裏側の蓋を締め、テレビに向けてボタンを押しこんで、それでもやっぱり点灯しないことを確認すると西田は、また裏返し蓋を開く。
「何やってんの」
 電池をごろごろとさせながら、言った。
「いや、電池どっかにあったなあとか思って」
 ごそごそ、の手を止めて、江崎が振り返る。「それ、電池ないでしょ」
「ないね。確実にないねこれもう、最後の力まで振り絞っちゃったって感じだよね」
「でしょ。ほんで最後の力振り絞らせたの、たぶん俺だもん」
「あのさー」
「うん」
「いやうんじゃないよ。ねえ、江崎、うんじゃないでしょ、ねえ。最後の力を振り絞らせる前に、何で取り換えないの」
「いや別に使えたし」
「最低、っていうか俺が来た時に、無くなってる所が一番最低」
「タイミング悪いよねえ」
「何でもいいけど、薄っすら笑って言うのはやめてくれるかな。苛っとくるから」
「苛っとって言えば、また来たよ、例の苛っとくる七色怪盗の依頼」
 そう言って江崎は、その辺に落ちていた茶封筒を、ぽん、と西田の前に投げた。
「また来たかー」
 とか何か言いながら西田は、その中身を検める。
 江崎はコインランドリーの管理人という、実態の良く分からない仕事の傍ら、仲介業のような事をやっていた。つまり、キメラの出る地域に眠るお宝や、一般人の立ち入りが困難な場所にある曰くつきの品などの回収を請け負い、ULTに勤務する西田に、能力者への仕事として斡旋させるという仕事だ。
 こんなご時世の中にあっても、好事家や収集家は存在するらしく、多少の出費をしても手に入れたい物がある、と江崎の元を訪れる人間は、少なくないらしい。
「でもそういえば、何か、赤の怪盗を討伐した時にさ、七色グラスとの関係について、意味深な事を言ってたとか何か、能力者の人達が言ってたな」
「んー。それは俺も実はちょっと気になってたんだよね」
「あ、そう」
「だからちょっと調べてみたんだけどさ。そしたら何か、白の依頼主も、青の依頼主も、赤の依頼主も、同じ事言っててさ」
「同じ事って?」
「本来ならば、お宝はグラスと共にあるのが好ましい、という噂がどうやら広まってるっぽい」
「どういうこと?」
「前に七色のグラス集めたじゃない」
「うん」
「あれがもう、売りさばかれてて」
「え、もう?」
「そう。もう。それで、白の依頼主も、青の依頼主も、赤の依頼主も、全員がグラス、持ってたんだよね。それぞれの色をさ」
「え、マジで」
「うん。マジ。聞かれなかったから言ってなかったけど、くらいの感じで言われちゃったよ。びっくりだよね」
「で、今、お宝だけが、盗まれてるわけだ」
「そう、お宝だけが盗まれてるわけ。グラスだけあっても仕方ないから、お宝もさっさと取り戻してよね、くらいの感じなんじゃないかな」
「赤の怪盗が言ってたのは、確か、自分達がグラスを埋めに行ったってことだったよね」
「みたいだね」
「えー、どういうことなの」
「さあ? で、とりあえずそれを踏まえて、今回の依頼は、これまでとはちょっと違って、まだ盗まれてないけど、きっと盗まれるはずだからお宝を守ってほしい、という依頼なんだよね」
「きっと盗まれるはず?」
「何かさ。白が盗まれ、青も盗まれ、赤も盗まれた、となると、今度は絶対自分だろう、とびびった好事家の息子が居てさ」
「息子なんだ」
「そう、本人じゃない。ここがちょっと面倒臭いところでさ。息子は、強化人間とか怖いから、出来ればもう、お宝とか家から無くなって欲しいくらいらしいんだけど、ただ父親は、むしろ守るフリして盗むんじゃないか、そういう強化人間がくるぞ、とかいう口車に息子は騙されてるんじゃないか、詐欺なんじゃないか、と、疑ってるらしいよ」
「あーめんどくさ」
「だから、今回の依頼の品、これはアメジストのペンダントなんだけども、これの在り処が、分かってない」
「え、駄目じゃん。守りようないじゃん」
「だから、今回は、アメジストのペンダントを探し出して保管しておく、というのが一つ。あとは、やってくる怪盗の討伐だね」
「本当に来るのかなあ。怪盗」
「あるいは、客として入り込んで、盗みを働いて出て行く、という可能性もあるね。実は、この旅館の周辺で、二人組の男が目撃されてるんだ」
「え、もしかして、やたら紫の?」
「いや、それが今回はそうでもなくて。一応ぎりぎり、ただの二人組の男、にも見える。けど、喋るとちょっと、出ちゃうのよ」
「何が」
「カマっ気が」
「えー」
「若干カマっ気のある、紫色の髪をした男と、やっぱり若干カマっ毛のある、紫のネクタイをした男らしい」
「何だろう気持ち悪い」
「で、これはもう、紫の怪盗臭いんじゃないか、ということで、益々奴らがやってくる可能性は高いと思う」
「周辺ってことは、下調べでもしてるのかな。七色の強盗、じゃなくて、七色の怪盗って呼ばれてるからには、怪盗っぽいんだ、やっぱり?」
「あんなけアホみたいだったのにね、一応、ちゃんとこっそり盗んでるみたいね。あるいはもしかしたら、俺達がこれまで討伐してたのは、下っ端の見張りみたいな奴だったのかも知れないけど」
「あー、かも」
「と、仮定するなら、今回は実行部隊だから、前よりは若干、アホじゃないかもね。で、旅館なんだけど。霧雨亭、と呼ばれてるこの建物は、旅館と言っても、経営は殆ど道楽みたいなものらしい。随分高級らしいし、口コミの客とかばかりで、今現在、お客の姿はない。その他の従業員は避難済みだし、敷地は広いし、戦闘になっても、一応は、問題はない。出来るだけ建物とか物には損害を与えないようにはして欲しいけどね。見取り図は、これ」
 そう言って江崎は、書類の中の図面のような物を広げる。
「客室は、四つあって、それぞれが独立した離れみたいな作りになってる。庭園を囲むように作られてて、石で出来た歩道で繋がってる。庭園にもその歩道は伸びていて、十字を描くように作られてるらしい。庭園の真ん中に、池が作られてるんだよね。その上で十字が交差するみたいだよ」
「ふうん」
「ここで、怪盗より先にアメジストを探し出して貰うことになるね」
「でもさ、怪盗が盗み出すのを確認してから、倒して奪う、という手も、ありっちゃありじゃない?」
「ありだね。その場合は、相手が盗みを働きやすいよう、こちらも最初は素性を隠さないといけない。旅館の従業員に扮するとかね。あと、どっから相手の動向を見守ったりすることも必要になってくるね」
「なるほど。どっちにしろ、面倒臭い点はあるわけだ」
「どっちにするかは、能力者の人達で決めて貰って構わないよ。じゃあ今回はそういうことで。宜しく頼むよ」





●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN

●リプレイ本文






 壁に掛けられている掛け軸を引っぺがすと、壁に何か、小さい両開きのドアが取り付けてあるのを発見した。
 発見したけれど、思いっきり何かを封印してるんですよね? みたいに、ドアの割れ目の所には、お札的なものが貼られてあるのが、見えた。
 アメジストを探して客室を漁り回っていた鐘依 透(ga6282)は、ぼんやりとした表情でそれを眺め、そういえば昔、子供の頃に一週間くらい住んでいた格安アパートにも、物陰に何やらそういう「お札的な、何か」が、やたらびっしり貼られていたなあとか思い出し、思い出したからといって、別に、何でもなかった。
 よし、ここは大胆に行こう。
 お札に構わず、両開きのドアをべり、と開く。
「‥‥‥‥」
 現れたのは、ちょっとやばめなシーンを描いたと思しき、春画だった。額縁に入り、色白の男女が絡み合って、いや、男女? 男、男?
 八秒くらい見詰め合って、透は顔を伏せた。眼が泳ぎ、耳が若干赤くなっている。
 これは。何も見なかったことにしよう。
 そっと、けれどしっかりとドアを閉じた。
 さて、とまた辺りを眺め回す。万人用に整理整頓された客室は、生活観が無いだけにまだ、捜索し易くはあった。探すところが殆ど限られているからだ。ではあと、探していないところは。とか何か考えながら振り返ると、そこには。
 壺。
 透は、とりあえず中を覗き込んで見た。
 それから、手を突っ込んでみた。
「あー!」
 痛いっ! 何か! 何かに噛まれた!
 とか、慌てて手を引っこ抜いたら、全然噛まれてなくて、手が何かに当たっただけのようだった。
 じんわり赤くなりながら、そっと中の物を取り出す。小箱だった。もしかして、アメジスト? 期待が高まる。
 高まった分だけ、開いた瞬間、何かぷしゅーとなった。
「ハズレ〜」とでかでかと書かれた紙が目に入る。人のやる気を思いっきり削ぐようなふざけた字だった。
 下の方に何かが小さく書かれてある。
 アメジストの在り処のヒント。水のそば。
「水のそば‥‥? 大浴場かな?」




 大浴場を捜索していた幡多野 克(ga0444)は、「うん‥‥分かった」と、マスク越しに透に向かいもごもごと答えると、無線機をまたエプロンのポケット仕舞い込み、俄然気合いを入れ直して捜索を再開した。
 水の中に隠す可能性は低いのでは。という気がしていたので、とりあえず脱衣所から取りかかり、籠入れを一つ一つ、開いている。
 とか、思いっきり無遠慮にがさがさしているけれど、そこは実のところ女湯で、女湯で、もう女湯だった。けれど、今や、とどめのほっかむりで、完全掃除のおばさんと化している克には、女湯も男湯もない。
 パカ。
 そしたら開いた空間の籠の中に、小さなビーズをあしらった、可愛らしい白のパンツを見つけた。
 もちろん、女性物の。
 克はめっちゃ無表情にそれを見た。使用済みなのか、未使用なのか、気になる人は気になるところも、全く気にせず、扉を閉める。そんな事で臆する克ではなかった。
 完全な無だ。悟りを開きそうな程の無心さだ。女湯がどうした。ただ、女の子が入る風呂というだけだ。
 パカ。
 また、籠の中に何かを見つけた。また、パンツだった。
 いやもうどんなけパンツを忘れるんだ、と若干呆れて、扉を閉め掛けた瞬間、え、と動作を止め、二度見した。
 え。あれ? ブリーフ?
 無表情な克の眉が、ぴくり、と動く。
 前の部分に割れ目のあるそれは、紛う方なく男物のブリーフだった。
 何か、どきっとした。
 そして、どきっとした自分にどきっとしていた。
 でもそれは、油断していただけに、え、こんな所からブリーフ!? というどきっと、だったはずなのだけれど、何か、どういうわけか、どきっとした自分が凄いやばい気がしていた。
 誰にも、みられてないよね。って、別に見られてもいいのだけれど、後ろを振り返る。洗面台の鏡の中の自分と目が合った。
 掃除のおばさん。いや、男物のブリーフを見てどきっとした掃除の‥‥。
 うわーどうしよう‥‥。
 これは何か、目を逸らしたら負けの気がした。すたすたと、鏡に近づいて行く。むしろ、鏡の裏手を調べるために近づいたんですよ、と言わんばかりに、そこを調べ始めた。
「あ」
 小箱を見つける。中を開く。やっぱりそこにも、ハズレの文字と。
 アメジストの在り処のヒント。従業員が手入れするところ。
「手入れ? 母屋、かな?」




「なるほど」
 タクティカル・サポーターを起動させ、依頼人から聞きだしたアメジストの情報を眺めながら、辰巳 空(ga4698)は克の報告を聞いた。
「ヒントだの何だとの、ふざけていますが。今までの情報を総括すると、少しずつ場所が搾られていることは確かです。水のそばで、従業員が手入れする場所。確かに母屋も、庭園の池を取り囲むように建っていますから、傍と言えば傍なのかもしれませんが‥‥断定にはまだ、情報が足りないですね」
 では私も、効率的にいきましょう。
 空は覚醒状態に入ると、GooDLuckと探査の眼を発動する。
 あるべきものがあるべき所にきちんとあるか、不自然さや違和感はないか、例えば患者の画像からその病巣を見つける医師のような冷静さで、母屋の中を合理的に調べていく。
 報告に聞いていた小箱は、すぐに、見つかった。
 中には、アメジスト。ではなく、ハズレと書かれた紙が一枚。
 筆で書かれたそれは、妙なおかしみを醸し出していたけれど、空はくすりとも、しない。
 アメジストの在り処のヒント。緑のそば。
「何でもいいですが、依頼人の父親は、アメジストを見つけて欲しいのか欲しくないのか、どっちなんですかね、これは」
 空はメモを眺めながら顎を摘み、小さく、呟いた。



 その頃、ヤナギ・エリューナク(gb5107)は、同じ母屋は母屋でも、倉庫内に重点を置き調べていた。
 アメジストといえばわりと好きな石で、けれど綺麗で好きな石だからといって、見つければ懐にないない出来るわけではなかった。
 やる気半減だよなあとか思いながら、一階部分をさらーと調べ上げ、そしたら何か階段を見つけて、えーってまた、やる気が半減した。
 こんなに苦労して探すからには、やっぱり何か、懐にないない‥‥。
 と、これはもう悪魔の囁きというやつで、見た目もわりと吸血鬼に近い美形のヤナギは、天使の囁きを聞くより、こちらの方が抵抗はない。
「こう言うデッカイ旅館なら、高そーなモノいっぱい置いてありそーだし」
 思わず呟いて、ニヤ、と唇を歪める。俄然二階を探す気が沸いてきた。とんとん、と階段を登りきる。その矢先、無線が鳴った。
「ヤナギさん。今、何か、悪いこと考えてたでしょ」
 と、無線の向こうから何か、鈴木悠司(gc1251)の声が聞こえる。
 暫く無線機を無言で見つめ、はー良く気がつきましたね、とヤナギは思った。
 犬コロのようなライトな友人は、時々、まさしく犬が如く鋭い嗅覚でこちらの気持ちを見抜いてくる。
「っていうか」
 でも何かちょっと腹立たしいので、無視することにした。「お前の方こそどうなわけ。骨とかボールとかで遊んでんじゃねえか」
 がさごそ、と二階の探索を続けながら、言った。
「図星だ。ほら、ヤナギさんが無視する時は大抵図星だからね、これ」
 得意げな悠司の声が、どうやら一緒に怪盗がやってきた場合の警戒に当たっている緋本 かざね(gc4670)に、説明をしているらしかった。
 とかは、わりと興味無い感じなのか、そうなんですねーってさくっと流したかざねは、それより、紫の怪盗ですよ! と、悠司の肩をポンポン、と叩いてるようだった。
 あ、そうだった。と友人はハッとしたように呟き、「紫の怪盗だ。紫の怪盗が現れた! でも、ここは冷静にね! 冷静に、びぃ・くーるでお願いしますよ!」と、わりとだばばだした感じで、言った。
「うんお前がまず、落ち着けよ」
「カマッ気の紫が、紫のアメジスト狙ってんですって。同じ紫色なら、さつま芋の方が、ずっと価値があるのに!」
「いやうんかざね、それはどうだろう」
「あ。でも、ふと思ったんですけどぉ」
 もう全然聞いてないかざねは、どんどんマイペースに話を変える。「あれですか。今回の怪盗がそうみたいに、もしヤナギさんにカマっ気とかあったら、悠司さんは喜ぶんですか?」
「ん?」
「‥‥え?」
 と、そこで友人の声が驚いたように跳ねあがり、止まった。
 シーン。となった。何か、通信がパタっと止んで静かだった。不気味なくらいに。
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
 ヤナギは無線機を引っ掴み、思わず指摘する。「何で黙ってんだよお前、むしろそこだけは絶対黙って欲しくないわ」
「でも、だって俺」
「いやもうそれいいから」
「もう、ヤナギさんたら‥‥分かってるくせに」
 コノヤローまだやるか。
 ヤナギは、見つけた野球ボールを、ぼんやりと覇気なく見つめ言った。「あーそう」
 ぽい、と投げる。「じゃあ、俺の愛はちと痛みを伴うけど、お前が俺のことを好きだというなら容赦しないから、めちゃくちゃにされても我慢しろよ」
「ごめんなさい」
「許しません」
「かざねのせいダヨー。俺知らないダヨー。きみ、ほら、ヤナギさんの身に余る愛を受け止めてあげて。多分、すっごい痛くて、もう多少血が流れるくらいは覚悟しといた方がいいとは思うんだけど。頑張ってね」
「あ、それは経験者は語るってやつですかー」
「‥‥‥‥」
「ああそう、かざね、痛いのとか、好きなんだ?」
 怖いくらい爽やかな声で、ヤナギが言った。
 やばい。とかざねは思った。
「うん。そうだあれだ! 今回も見せますかざねこぷたー!」
「あ、すっごい不自然かつ強引に話変えたこの子」
「でさ。さっきから話題になってる小箱って、これじゃねえ?」
 やがてヤナギも、その小箱を見つける。中にはやっぱりアメジスト。ではなく、ハズレと書かれた紙が一枚。
 そして、アメジストの在り処のヒント。今度は、土の中、とある。
「と、いうことはこれ、庭園?」





「今、怪盗が部屋を出たよ」
 双眼鏡を使用し、怪盗の監視を続ける悠司が、無線機で全員に連絡を入れる。「これから、大浴場に向かうみたい。アメジストを探してる間に一網打尽だ」
「了解。こちらはその間に、庭園にあると思しきアメジストを探し、先に奪還しておくべきでしょう。配置を完了させたら、私が怪盗の気を引いておきます」
 空の声が、まずそれに答える。
「では僕も、反対側から応援に向かいますね」
 透の声も、応答する。
 そんな中、怪盗の凝視を続ける悠司の背後で、ふわふわとしていた見張りをしていたかざねは、こそこそ、と近づいてくる掃除のおばさんの姿に気づき、えええ! と、声には出さず仰天した。
 一般人は皆、避難してるんじゃなかったの。
 と、思ったら、克だった。
「す、克様、その、格好は‥‥」
「これは‥‥もしもの時‥‥ちょっとでも誤魔化せればいいかなと、思っ、て」と言ってる内に段々、克の声が小さくなっていく。最終的には「気にしない、気にしない‥‥」と、強引に片づけられた。
「ほんじゃあ俺は、庭園の木の下を掘り返してくるとすっかな。アメジスト見つけて、合流するわ」
 ヤナギの声が言った。




「逃がしませんよ」
 大浴場から出て来た紫の怪盗に向かい、覚醒状態の辰巳が立ちはだかった。
 すぐさま、怪盗は、懐から銃を抜き、辰巳に向け、撃ってくる。それを逃れた隙にもう一体が、「んまあ! 何なのこれ!」とか何か、カマ言葉丸出しでわめきながら、反対後方に逃げようとした。
 が。そこに立ちはだかるは、迅雷で距離を詰めてくる透。
 更には、「何も持ち出させないよ」と、克が庭園の方角から走り込み、三方の退路を断った。
 怪盗が、銃弾をまた、放つ。
 それをエンジェルシールドで受け止め辰巳が飛び込んだ。
 距離を詰められないようにと後退した怪盗へ、すかさず克が押し迫る。咄嗟に放たれた銃弾が、彼の頬を掠めた。
「流れのままに‥‥斬る!」
 微かに血を流しながらも、臆することなく彼は剣劇を発動した。目にも留まらない連続攻撃がその愛刀、月詠から、飛び出す。幾重にも攻撃を叩き込む残像が、怪盗を切り刻み、滅多打ちにし、ついにはその息の根を、確実に、止める。
「逃げ場はない」
 更に透が、決して逃すまいともう一体を追いつめる。
「アメジスト、見つけたぜ!」
 そこへ瞬天速を発動したヤナギ、瞬速縮地を発動した悠司が飛び出してきた。
「預かりますね」
 辰巳が駆けより、その手の中の小箱を受け取る。
 その間にも流し切りを発動した悠司の炎剣ゼフォンが、怪盗の腕を掠めている。彼は、すかさず放たれる反撃の銃弾から飛びのき。
「おし、今だ! 行け! かざねこぷたー!!」
 ヤナギが、どーんとかざねの背中を押した。
「はーい! 呼ばれて出て来てじゃじゃじゃじゃーん」
 回転舞を発動したかざねが、一瞬だけ空中に浮かぶかのように固定された大鎌シュトレンを軸に、くるくると回転しながら、敵の銃弾を避ける。「ふふん! 飛び道具なんて、私には当たらないんですよー! かざねねこぷたー緊急回避ー! かーらーのー、せっきーん」
 そしてその距離を詰め、大鎌を振るった。
「オカマだけに! 鎌で斬るー! 私に比べて不細工だけにー! ブサッとー!」
 その鋭い刃が腕を切り裂く。その隙にヤナギが円閃を発動し、純白の爪エーデルワイスを怪盗の脚に食い込ませた。
「きゃああ!」
 とかいう薄気味悪いだみ声の悲鳴を聞き流し、続けてヤナギは連剣舞を発動する。
 怪盗を攻撃するガラティーンの軌跡が、まるで一本の輝く線のように交差する。
「たまには俺も本気出すゼ、ってことで、さいなら」
 そして、止めを、刺した。




「アメジストの保護も完了ですね」
 空が、小箱を開き中身を確認しながら、言った。
「それにしてもグラスと宝石がセットとはねェ。どんな因果関係にあるんだか」
 ヤナギが倒れた怪盗を見下ろしながら、言う。
「何でもいいけど、この人達、キチンとお金払って、お客さんとして来てたんだよね。何かこう、ちょっと寂しいものを感じる気がする」
 悠司が、全然関係のない感想を口にした。
「でも確かにどういう意図があるのか‥‥気になる所だけど‥‥全てが繋がる時、謎が解かれる! なんてね‥‥」
 と、克が言えば、「怪盗の人たちの趣味なんですかねえ? アレ探すの大変だったのにー」とか何かたらたらとかざねが文句を垂れ始めた。
 とか言ってる傍で、透は、そのポケットから落ちたと思しき紙を拾い上げていた。
「これは‥‥グラスが集められていた屋敷の住所?」
 所々が血で見えなくなっているけれど、暫く眺めているとそれは、グラスを盗む計画書だ、と分かった。
「グラスを埋めに行っていたバグアが、今度はグラスを盗む計画書を持っているなんて。どういうことなんだろう、これは」
 小首を傾げ、呟いた。